TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった   作:タメガイ連盟員

6 / 14
第六話

 二人からの視線を浴びて、鎧もどきは狼狽えている様子だったが、煮えたぎる鍋から缶詰を取り出して蓋を開ける。そしてそれに箸を添えて夕紀と愛奈の前に置く。夕紀には牛肉の大和煮、愛奈には鯖の味噌煮だ。

 

「食べろ、ってことっすかね」

 

「そのために鍋に入れたんだろうし、それに食べないのもなんだか……」

 

 夕紀は缶詰を持ち上げて、消費期限の表示を探す。確か八桁の数字で書かれていて、年月日の順だったはずだ。

 

「げっ、俺が生まれる前じゃん……」

 

 果たして食べられるのだろうか。ペガサスは悪くなった物を食べてもP細胞がどうにかしてしまうから体への悪影響はない。しかし、これほど長期間放置された缶詰の中身は、果たしてまともな味を維持できているのだろうか。

 

 ええいままよ、とばかりに夕紀はいったん缶詰をテーブルにおいて、両手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 愛奈もそれに続いていただきます、と呟き箸をつける。

 

 味は意外とまともだった。少し味が濃いと思ったが、本来ならおかずとして食べるものだからで、これ単品で食べればそう思うのも仕方ないだろう。

 

 アルテミス女学園の食糧事情はかなり良好だ。天然物の鶏肉や鶏卵、野菜も居住区よりも安く手に入るし、合成食の質も比べものにならない。

 

 食事の質と言うものは、人の精神にかなり影響を与える。アルテミス女学園のペガサスたちが戦い続けられる動機の一つにおいしい食事があることは間違いないだろう。

 

 夕紀自身、食事の豪華さには現実かどうか疑ったほどだ。北陸聖女学園では必要とされる栄養補給ができればいいと言う程度のもので、アルテミス女学園のそれと比べるのもはばかれるようなものだった。あの頃だったら、これでもご馳走だっただろうな、と思う。

 

 一方の愛奈は。

 

 どうしたわけか、涙を流しながら食べている。

 

 そんなにおいしかったのだろうか。彼女が食べているのは鯖缶。流石に飼育に必要なコストの問題からか、天然物の魚までは手に入らない。人類が壁に引きこもる以前に製造されたであろう鯖缶なら天然物が使われているかもしれない。

 

 それにしたって泣くほどか? と夕紀は訝しむが、他人の事情に突っ込む気はないので牛缶をかき込んでしまう。

 

 夕紀は愛奈たち高等部三年生が同級生を卒業させるために毒入りの菓子を食べさせたことは知っているが、それが原因で愛奈が小食になっていき、近頃では生存に必要な行為、と言う程度まで価値を下げてしまっていることは知らない。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 箸を置いて両手を合わせる。鎧もどきは既に次の缶詰と缶ジュースを鍋に入れていた。

 

「いや、俺はいいからラブ先輩にあげてくれ」

 

 そう言うと鎧もどきがかすかに頷く。

 

「先輩、俺、先に戻ります」

 

 口の中にまだ鯖が入っているためか、愛奈は頷いてみせるだけだ。

 

 当然愛奈も気づいているだろうが、彼女はアルテミス女学園から見れば、抑制限界値ギリギリで行方不明、と言う状態だ。となれば、愛奈が死亡したと判断する者がいてもおかしくはない。ここで問題になるのは月世の存在だ。月世は愛奈が死亡するか、活性化率が95%を超えたら彼女につけられている装置から毒が流し込まれるようになっている。

 

 となればすぐに戻って愛奈はまだ無事であることを伝える必要がある。つまり呑気に缶詰を食べている場合ではない。

 

「とりあえず、えっと、鎧くんとの交渉は任せます。こいつ、こっちが言っていることは理解できるみたいなんで、俺たちの話もわかってると思います」

 

 愛奈からの返事も聞かずに夕紀は民家から飛び出そうとするが、まだ雨が降っているので傘を持っていく。

 

 気の早い誰かが行動していなければいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルテミス女学園に帰り着いた夕紀は正面扉ではなく、高等部近く通用口から中に入る。それからまっすぐ月世が眠っている病室へ急ぐ。

 

 病室付近には誰もいない。しかし、中に誰かいる気配がする。遅かったか? と思っていると自動ドアが開かれる。

 

「愛奈先輩っ!」

 

 そこには見覚えのないペガサスがこちらを振り返っていた。白い髪に白と赤の制服、中等部と高等部では学生服の色が違っていて、白と赤は中等部だ。

 

「……あ」

 

 明らかに落胆した表情になる中等部生。

 

 夕紀はそれを無視して月世の活性化率を確認する。94%。とりあえずはいいか。

 

 となると問題は。

 

「あー……なんで中等部がここに? 中等部寮って門限なかったか」

 

「あの、今日は、その、ここに泊まろうかと思ってて」

 

「いやまあ、門限破っても別にペナルティがあるわけじゃないけどなぁ。てか、なんでここに泊まるんだ?」

 

 正直、夕紀は面倒なことになった、と思っている。

 

 さきほど愛奈と活性化率が下がったことは高等部だけの秘密にしようと話したばかりだ。ここにいたのが高等部の誰かなら誤魔化しようがあるのだが、それが中等部の見知らぬ生徒となれば話は別だ。

 

 高等部生なら愛奈は無事だと伝えれば、引き下がってくれるはずだ。そうならなくても、最悪、愛奈が戻ってくるまで夕紀が時間稼ぎをすればいい。

 

 しかし、中等部生の場合は愛奈の生存を伝えることすらまずい。彼女が生きていると知れば、この中等部生はそれを広めるだろう。だが愛奈の活性化率がギリギリなのは中等部にも知られているはずだ。となれば愛奈がこれ以降生存しているのは不自然になってしまい、彼女の活性化率が下がっていることがバレてしまうかもしれない。死んでいている、と伝えてると今度は月世を生かしている理由がなくなる。

 

「月世先輩に付き添うと……」

 

「ん、あれ、初対面だっけ?」

 

「えっと、さっき、会ってます」

 

「さっき? あ、ああ! 『勉強会』とか言うグループの」

 

「はい、それです」

 

「そっかそっか。あれ、俺のことは知ってる?」

 

「山里先輩、ですよね」

 

「そそ。んじゃ、改めて自己紹介。山里夕紀、よろしく」

 

「一年生の上代兎歌(かみしろとか)です。兎が歌うって書いて、兎歌です」

 

「ほうほう、じゃあうさぎちゃんな」

 

「え?」

 

 どうしようかな、と思う。

 

 いっそ口封じしてしまうか。

 

 うん、いいかもしれない。愛奈が戻ってこないことにいてもたってもいられなくなって、学園外に出たところをプレデターに襲われて死亡。十分あり得る流れだ。死体は街林に置いておけばプレデターが処分してしまうから手間もかからない。そうやって死んだことにして高等部に囲ってしまうのも一つの手だが、入学して二ヶ月程度から高等部暮らしと言うのもなんだか可哀想だし。

 

「あのっ、愛奈先輩はどうなりましたか? 無事なんですか?」

 

「ああ、無事だ」

 

「! よかった……」

 

 すっかり安堵した様子の兎歌に微笑みかける。

 

「そういうわけだ。今はちょっと雨が降ってきてるから休んでるけど、すぐ帰ってくる。今日のところは帰りな、送っていくから」

 

 やるなら高等部の施設のどこかだ。ここなら監視もなければ、他の高等部生の目がないところもある。送る振りをしてそこまで連れて行こう。

 

 兎歌の肩に手を置いて、歩きだそうとすると、自動ドアが開く。そこには深い土色に数束の黄色が混じったセミロングの髪をした高等部ペガサスの姿があった。

 

「どうも、土峰先輩」

 

「山里……? なんでここに」

 

 高等部二年、土峰真嘉(つちみねまか)

 

 彼女がここに来た理由は明かだ。 

 

 また面倒なことになった、と夕紀は内心で舌打ちした。




夕紀はスイッチが入っていると暴力性がかなり高まるので、あのまま放置してた場合、テーブルをひっくり返して識別番号01の頭をかち割ってしました。
上級生の言うことは聞くので愛奈がいなかったら危なかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。