TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった   作:タメガイ連盟員

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第七話

 面倒な人が来た。

 

 高等部二年の土峰真嘉は二年生のリーダー的存在だ。また、ペガサスとしても天才と呼ばれている。この代の二年生は高等部に進学した六人がそのまま二年に進級したことから『偉業』と言う冠がつけられている。『最低』の一年とは随分と違う。もっとも、そのうちの一人は既に卒業してしまっているが。

 

 夕紀にとって彼女はいまいち反りが合わなさそう、と言う印象がある。対人関係の経験が小学生で止まっている夕紀の人物眼が確かなはずもないが、その程度の感覚はある。なんと言うべきか、快活そうに見えて足下が粘ついているように思えたのだ。

 

 面倒なのは兎歌のこともだ。この中等部生と一緒にいるところを見られたとなると口封じをするのは難しい。やったとしても自分が怪しまれるのは避けられない。

 

「そっちの中等部生は?」

 

「は、はい! 上代兎歌と言います……その、土峰 真嘉先輩ですよね?」

 

「有名人っすね、先輩」

 

「茶化すな。それで?」

 

「別れ際に愛奈先輩に月世先輩のことを頼むって言われたので様子を見ていたんです」

 

 あの先輩、何を考えてそんなこと言ったんだ? まさか月世を看取らせようなんて思って、ないだろうな。

 

「……そうか。山里は?」

 

「俺はつっきー先輩の様子を見に。数値は変わってないっすよ」

 

「お前が?」

 

「俺もつっきー先輩には色々お世話になってるんで。たまには顔を見に来てもいいでしょ」

 

 真嘉の視線には疑心がたっぷり含まれているように思える。

 

 まあ、そりゃそうだよな、と夕紀は思う。あの秘密主義の北陸聖女学園からの転入生、その上誰ともろくに交流せずに単独行動ばかりしているんだから。

 

「じゃあ、もう用は済んでるだろ。そっちの中等部生も帰りな」

 

「ああ、そのつもりなんですけど……土峰先輩はなぜここに? 俺みたいに顔を見に来たんすか?」

 

 真嘉の目的はわかっている。愛奈が帰ってこない、愛奈の活性化率も把握しているだろうから、既に自害したかゴルゴンになったと考えているのだろう。だから月世を卒業させようとしている。そんなところだろう。

 

 しかし、愛奈は生きている。よって月世を卒業させる必要はない。ないのだが。

 

 言っても信じないよなぁ。

 

 何しろそれを目撃していた夕紀があれは夢か幻か、などと言う気分であるし。だが現実だ。

 

 夕紀と兎歌がこの部屋から離れれば、真嘉は月世を卒業させてしまう。

 

 愛奈は月世を救いたいと言っていた。それはつまり、月世の活性化率を下げると言うことだ。となれば彼女はあの鎧もどきとこの病室に来るはずだ。

 

 となれば、夕紀がすることはここで愛奈が来るまで真嘉の行動を阻止し続けるしかない。

 

 面倒くせえ。

 

 と本気で思う。最悪、ALSを持っているのは夕紀だけだから、強硬手段も選択肢に入る。殺すならともかく、制圧となると自信がない。戦闘時の真嘉の姿は、夕紀も何度も見ているから、経験の浅い自分ではかなり厳しいと判断できる。

 

 真嘉は何も言わずに夕紀から視線を逸らし、月世に向ける。

 

「ラブ、じゃなくて愛奈先輩なら無事っすよ」

 

「……本当か? ならなんで帰ってこない」

 

 ほら疑ってる。

 

「はい。雨が降ってるんで、民家にお邪魔して雨宿りしてるっす」

 

 ますます疑いを深めている様子の真嘉。困ったことに事実なのだが、かえって嘘くさくなってしまっている。

 

「お前、何を隠している」

 

 隠しているのは事実だが、話しても信じないだろうから言わないだけでもある。

 

 困った。本当に困る。夕紀は口が上手いわけではないから、このまま時間稼ぎをするのは難しい。

 

「あの、何の話をしてるんですか……?」

 

 夕紀が肩に手を乗せたままの兎歌は状況を飲み込めていないらしい。

 

「ああ、愛奈先輩が死んでるかゴルゴンになってるなら月世先輩を殺さないといけないって話だ」

 

 面倒くさくなっていた夕紀はオブラートにも何も包まずにそのまま話す夕紀。それに兎歌が絶句している。真嘉は再び視線を夕紀に、いやはっきりと睨み付けている。

 

「もし月世先輩がゴルゴンになったらとてつもない脅威になる。だから今のうちに毒を飲ませてしまおう。そんなところっすよね、土峰先輩」

 

 夕紀は両手を兎歌から離してだらりと下げる。脱力した姿勢は、『アコニツム』を即座に手に取るためだ。完全な戦闘準備姿勢である。

 

「でも、それは無用っす。愛奈先輩が生きてるんだから、月世先輩を殺すわけにはいかないでしょ? だから今日のところは回れ右して――」

 

「……オレはお前を信用できない。何が目的だ、何のために愛奈先輩が生きてるなんて嘘をつくんだ!? ここで何を企んでる!!」

 

 やっぱり面倒くさい人だ。まあ、他の二先生ならそもそも来ないだろうが。そして困ったことに夕紀自身はともかくその背景には大人たちの意図が含まれている。確かに、ここで月世がゴルゴンになればかなりの被害が出るだろうから、兵器派にとっては願ったり叶ったりだ。

 

 ラブ先輩は何をしているのか。あの鎧もどきが鈍重で移動に時間がかかっているのか?

 

 ……もうぶん殴って黙らせようかな。奇襲ならいけるだろう。

 

 夕紀がそう短絡したとき、けたたましい電子音が室内に響き渡る。活性化率の表示が95%になっている。

 

「げっ」

 

「……オレらが何もしなくてもよくなったな」

 

 真嘉は安堵したように悔恨をにじませながら呟く。

 

「くそっ」

 

 月世につけられている装置、人工呼吸器や毒を流し込むためのものを夕紀は倒そうとする。

 

「なにやってるんだ!? やっぱりお前!」

 

 しかしそれは真嘉に後ろから羽交い締めにされたことで阻止される。

 

「ああもう! 急げ先輩!! 時間がないぞ!!」

 

 叫んでどうなるわけでもないが、叫ばずにはいられない。抑制限界値を超えてから100%になるまで数分もかからない。そして毒の投入速度は早くもなければ遅くもないが、それよりは確実に早い。

 

「は、な、せ!」

 

「離すわけがないだろうが!」

 

 ペガサス同士だから力は拮抗、いや真嘉の方が上回っている。そう簡単には振りほどけるわけもない。

 

「そんな……だめ……」

 

 場の混乱に取り残されている兎歌は、毒が流れるのを呆然と見ている。が、その管が突如して砕けた。よほどの威力だったのか、その衝撃で人工呼吸器が転倒する。

 

「え?」

 

「矢だと!? まさか」

 

「……ッ、このっ!?」

 

 それによって生じた隙をついて真嘉から逃れる夕紀。即座にアコニツムを両手に取っている。外壁側についている高窓のガラスが粉々に砕けている。そこから何者かが狙撃で管を撃ち抜いたのだ。

 

 そして当然、そんな神業じみたことができるのは一人しかいない。

 

 外壁側の高窓から狙撃したと言うことは愛奈は高等部の建物を通らずに直接この病室に向かってきたらしい。確かにその方が早く着く。となれば。

 

「――おおッ!」

 

 夕紀がアコニツムで外壁を切り裂く。と同時に外側からの衝撃で切り裂かれた壁材が室内に飛ぶ。

 

「あだっ!?」

 

 当然目の前にいた夕紀はそれに直撃されてよろめく。なんか倒れないようにふんばり、崩れた壁の向こうに赤い光点を見つけ、思わずにやりとする。

 

「遅えぞ!」

 

「人型のプレデター……愛奈先輩!?」

 

 そこにいた鎧もどきをゴルゴンになってしまった愛奈と勘違いしたのか、兎歌が悲鳴に似た声を上げる。

 

「もう超えちまってる、急げ!」

 

 そしてその背後から生身の愛奈が現れる。

 

「え、ええ!?」

 

「……! お願い!」

 

 愛奈の声に応えるように、鎧もどきが触手を月世に伸ばし、蛇の口のように開いた先端部分を噛みつかせる。

 

「なにしてんだ!? やめ――」

 

「すみませんけど、じっとしていてもらいましょうか、先輩」

 

 それを阻止しようとした真嘉の首に夕紀がアコニツムの刃を押し当てる。

 

「イカレてるのか、お前……!」

 

「正気だぜ」

 

 愛奈と夕紀以外のペガサスから見たら、二人の行動は確かに異常だ。愛奈はプレデターを連れてきて、親友を襲わせ、夕紀はそれを守ろうとしている。しかし、その行動の真意を真嘉と兎歌はまもなく知ることになる。

 

「どうだ、先輩!?」

 

「うん……! 下がってる……」

 

 感極まったように応える愛奈。

 

「下がってるって……」

 

「真嘉先輩、あれ」

 

 ここで夕紀が真嘉から刃を離すが、臨戦態勢は解いていない。しかし、もうそんな夕紀の姿は真嘉と兎歌の視界には入っていない。その視線は活性化率の表示に釘付けになっていた。

 

 そこにさきほど壁を壊したときの音を聞きつけたらしいペガサスが四人、部屋になだれ込んでくる。いずれも高等部二年生だ。

 

 しかし、室内の異様な光景に思わず足が止まってしまう。

 

「活性化率が……下がってる……」

 

 真嘉の呆然とした呟きに、彼女の視線の先にあるものを二年生達が凝視する。

 

 室内のペガサスらが繰り返しているように、表示されている活性化率が下がっている。故障か動作不良を疑うところだが。

 

「故障とかじゃないっすよ。ね、ラブ先輩」

 

「そう、これは私の身に起きた現実――奇跡よ」

 

 鎧もどきの触手が月世から離れていく。そして、月世の目がゆっくりと開かれる。

 

「……ここは、天国?」

 

 起きて早々冗談を言うとは、こんなときでも絶好調だな、この人。などと夕紀は思った。




原作者様に紹介していただきました。わーい(+5)
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