TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦うことになった 作:タメガイ連盟員
変更理由はマルベリーの花言葉が夕紀のキャラにそぐわないからです。
マルベリーの花言葉は「ともに死のう」「彼女のすべてが好き」
アコニツム(トリカブト)の花言葉は「人嫌い」「騎士道」「復讐」「栄光」
「おはようございます、愛奈」
「……! おはよう! ……おはよう月世っ!」
ベッドから起き上がった月世を愛奈が涙ながらに抱きしめる。
二ヶ月以上昏睡状態に置かれていたにも関わらず、すぐに起き上がれるようになったのはP細胞による快復力強化の恩恵と言える。そのP細胞によって生死の狭間にあったのだから、何が良いのか悪いのか。
しかし、夕紀はこれにちょっとした違和感を覚える。愛奈は意識が戻ってからしばらく体がうまく動かないと訴えていた。どういうことだろうか。月世の活性化率の表示は、愛奈のそれより数値が大きい。一度に大きく下げることによる反動でもあるのだろうか。
「どうやらここは天国ではないみたいですね」
そう言いながら戸惑いを見せながらも鎧もどきに微笑む月世。このある意味混沌とした状況を察するあたり、彼女の聡明さがわかる。
まずなにより彼女の黒く長い髪が目に入る。ペガサスは、P細胞を注入されることで様々な身体的変化が起こるが、その一つが色素狂いだ。これは髪や瞳の色が変化するもので、例えば夕紀は赤と白の縞模様の髪色、愛奈は茶髪、兎歌は白髪に赤い瞳になっている。こうした変化が起きていない月世は非常に珍しい。
ペガサスとしても十回もの大規模侵攻を切り抜けてきた実力者であり、『伝説』の片割れに相応しい存在と言える。
「それで、ちゃんと話してくれますか?」
「うん。全部きちんと話すよ。ね、夕紀」
「あ、俺も説明しないとダメっすか」
「彼と最初に接触したの、実質的にはあなたなんだから」
「うっす」
「それはオレたちも聞いていいんだろうな?」
真嘉の問いに愛奈は即座に肯定する。すると真嘉たち二年生は話を聞きやすくするためかベッドの周りにソファや椅子を集め始める。
「でもあの中等部生はどうします? さっき、高等部だけの秘密にしようって話ましたけど」
「もう巻き込んじゃってるし、彼女にも話を聞いて貰いたいから」
「まあ、先輩がそう言うなら」
ついさっきまで兎歌を口封じしようとしていたことは当然口にしない。しかし、愛奈は兎歌をどうするつもりなのだろうか。
とりあえず、アコニツムは腰に着けている金属製のベルトに装着して椅子運びを手伝うことにする。
「あんた、その格好、なに?」
二年生の
で、夕紀は今は民家から拝借したTシャツとハーフパンツと言う姿だ。これにALISを装備しているのだから珍妙な格好だ。アルテミス女学園では寮以外で私服でいることははしたない、と言う認識があるため余計にそう感じられる。ついでにTシャツには「I LOVE TOKYO」とプリントされている。
「雨で濡れたから借りてきたんすよ。あ、あとで回収しに行かないと」
「あっそ」
夕紀は自分の分の椅子だけベッドの外壁側に置く。その後ろでは夕紀と鎧もどきが空けた穴をシーツを使って隠している。
「準備できたぞ」
「生徒会長には?」
「解決した、とだけ」
え、いつの間に、と思ったがそういえば二年生はさっき一人いなかったから、その一人が報告に行っていたのだろう。
愛奈と月世はベッドに、二年生と兎歌はそれに向き合うように置かれたソファ、椅子に。そして夕紀はベッドの後ろの椅子に座る。鎧もどきは壁際に座っている。みな、じっと愛奈に視線を向けて沈黙している。
「さて、どこから話そうか」
「あ、ちょっと先にいいっすか? うさぎちゃんは知らない人いると思うんで、自己紹介させといた方が良いと思うんすけど」
「そうだね。兎歌?」
「はいっ! えっと、中等部一年の上代兎歌です! よろしくお願いします!」
「ありがとう、兎歌。それじゃ――」
まず愛奈は『ルピナス』の活性化率の表示を見せる。48%。さっきの狙撃で魔眼を使ったためか1%上昇しているが、それでも高等部ではまずあり得ない数値だ。これは中等部二年後半の平均程度だから、二年生だから故障を疑う声が上がるのはむしろ当然と言えた。
そこから、愛奈と夕紀が、これから話すことは到底信じられないと思うが、それでも全て本当のことだ、と前置きした上でそれぞれあのとき何が起きたのかを語り始める。
二人がお互いの情報を整理していないためか、ここはこうだったのか? と確認しあう場面はあったものの、その話を全員が口を挟むことなく聞いていた。
「なんというか……本当に夢のような話です」
「まー、俺もまだ夢なんじゃないかと疑ってますけどね」
「でも、現実よ」
夕紀は最初に鎧もどきを目撃したときのように自分の頬をつねる。
「漫画でこんな展開やったらご都合主義とか言われますよ」
「それこそが事実は小説よりも奇なり、と言うものです」
「はぁー……つっきー先輩博識っすね」
「つっきー?」
「ああ、いや、なんでもないっす、月世先輩……で、どうっすか二年の先輩方」
自分が先輩らをあだ名で呼んでいることを隠すように真嘉に話を振る。そのためだけではないが、真嘉以外の四人の視線は彼女に注がれている。
「言っていることに嘘はねえと思う。だが、はいそうですかと受け入れられるものでもねえ。そいつは『プレデター』だ」
「そうね」
「今の話以外のことは何もわかってないんだろ? 信じすぎるととんでもないしっぺ返しをくらうかもしれないぜ?」
「まあ、真嘉先輩の言うことももっともだと思うっすね。だって、こいつ活性化率を下げられるなら上げることもできるかもしれないじゃないすか」
なっ、鎧もどきに同意を求める夕紀。しばし間を空けて頷く鎧もどき。
「……この方には人間並の知性が宿っている可能性が高い。なら愛奈を騙して取り入り、学園内に入り込んでから私達をゴルゴンしようと目論んでいるかもしれない、と?」
この可能性に愛奈が気づいていなかったのは、そもそも鎧もどきの「活性化率を下げる」と言う能力を一部のプレデターが持つ固有性質である、と考えていたためである。固有性質には様々な能力があるが、その個体には基本的に一種類しか宿らない。夕紀はペガサスとして戦うようになってから日が浅いため、固有性質について正確に理解していなかったことからそうした発想に至ったのだ。
「マジっすか?」
「お前が言い出したんだろ」
呆れたように真嘉が呟くがその表情は険しい。活性化率を下げられることはわかった。しかしそれが敵であるプレデターがもたらしたもの、と言う点に彼女の懊悩があったのだが、そこにさらなる危険性が提示されたことで、それがさらに深くなっている。
「確かに、彼がどんな理由で私たちを助けてくれたのかはわからない。裏に悪意を潜めているのかも知れない。あのまま卒業してしまうより、過酷な現実が待っているのかもしれない。それでも、彼が救ってくれたことだけは確かだから」
愛奈が視線を鎧もどきに向け、そして部屋にペガサス達を見回す。
「私は信じたい」
覚悟と共にそう告げる。
真嘉、いや二年生達はしばらくそんな愛奈を見つめていたが、自分達だけで話がしたいと背を向ける。
「行くぞ、お前ら」
真嘉の言葉に従って、二年生が部屋を出て行く。
「あー、俺なんかまずいこと言っちゃいました?」
「ちょっとね」
苦笑しながら応える愛奈。
「もしもそうなったなら、私が斬ります」
「月世……」
月世も鎧もどきに恩を感じていないわけではない。しかし、彼女にとっての優先事項に愛奈の存在が最上位にある。その愛奈を裏切るような真似をするならば。
「そうならないことを願います」
にこりと寒気がする笑顔を鎧もどきに向ける。彼が言語を理解している、と言うことは既に聞いているからほとんど脅しだ。
「なぁなぁ、月世先輩って綺麗だけど怖いな?」
「は、はい……」
夕紀が兎歌に耳打ちするが、月世とはこれが初対面の彼女には少々刺激が強かったのか、うわずった声で返事をするのが精一杯のようだった。
夕紀のペガサスとしての実力は、高等部一年の平均よりやや上ぐらい。
経験不足ではあるものの、戦闘に対して積極的であるため戦闘慣れが早かったため。