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アトラス彗星がどうのとネットで出てたので関連して。
「おはよう、夏目。なぁなぁ、今夜の
そう登校早々に声をかけてきたのは西村だ。すぐ近くには北本の姿もあり、「よっ、おはよう」と片手で挨拶してきた。
「おはよう、西村、北本。今夜の…あぁ、皆既月食と天王星食か」
数日前から新聞やらテレビで取り沙汰されている天体ショーだ。
「そう!なんせ500年ぶりだぜ?すっげーよな!奇跡のコラボだよな!!」
「正確には442年だな。コラボって…まぁでもたしかにすごいタイミングに出会えたもんだよなぁ…」
そうはしゃぐ西村にツッコミつつ、北本は机に片肘をつきながら同意する。
「うちは母さんと妹が見たがってるから、俺も一緒に見る予定かな」
「俺もそんな感じかな。あーあ、可愛い女の子と一緒に見れたらロマンチックでいいんだけどなぁー」
そう西村は机に突っ伏して嘆くと、“相変わらずだな”と俺と北本は二人して苦笑いを浮かべる。
「俺も塔子さんたちと自宅で見るよ。滋さんがなんか張り切って準備してるから」
「そうなのか。明日が土曜日とかなら皆でどこかに見に行こうとか言えるのに、流石に平日だから無理だな」
お喋りしながら天体観測も楽しそうだと言い合い、いつか皆で行こうと約束した。
前々日の日曜日、自宅では滋さんが物置から天体望遠鏡を出していた。
「昔、流星群だったか何だったかが来ると話題になった時に、我が家でも是非観測しようと買ったのだよ。それから何回かは使ったんだが、ここ暫くはすっかり忘れていて仕舞いっぱなしだったなぁ」
滋さんはそう笑いながら、懐かしそうに目を細めて望遠鏡を見つめていた。
「フン、星だの月だのを見るだけの話なくせに、ずいぶん大騒ぎな事だな」
部屋に戻ると欠伸を噛み殺しながらつまらなそうに言うニャンコ先生は座布団に座り込む。
「そんなこと言うなよ、先生。あぁいうモノにロマンを感じる人は沢山いるんだ」
「ロマン〜?ロマンで腹が膨れるか、バカバカしい!それよか七辻屋の饅頭のほうがよほど魅力的だ!今すぐ買ってこーい!」
ニャンコ先生はそんなことをガバっと起きあがり、そして立ち上がって全身を使い要求してきた。
その姿にひとつ溜息をつきつつ、手元にあった羽が付いた猫じゃらしをひょいと動かす。目の前をヒラヒラとはためくそれを“にゃんこ”である先生は無視することはできず数回目でぴょんと飛びついた。
「それより、皆既月食は妖にとっても特別なことなのか?」
「あ?あー…確かに妖力に影響がないとは言わんがそれは雑魚どもに関してだ。私のような高貴なあやかしにとってはまったくもって関係ないな」
フフンと鼻を鳴らし偉そうな態度を取っているが、元の優美な佇まいをしている大妖怪の姿ならともかく、それからかけ離れた招き猫姿の今ではあまり説得力はないように見える。ハイハイと流しながら小さく先生に笑いかけた。
そして天体ショー当日、帰宅すると木枯らしが吹きつける窓辺でそわそわしている先生がいた。
「ただいま先生。どうしたんだ?」
「おう夏目。今夜中級たちと呑む約束をしたのだ。日が暮れる頃迎えが来るらしいから待ち遠しくてな」
いつの間に約束したのだろうか。いつも思うが用心棒が酔っ払いすぎではと呆れつつ、マフラーを巻いてやっているとコツコツと窓を叩いたのはヒノエだった。迎え入れるためにガラリと窓を開けると冷たい風が吹き込んできた。
「ヒノエが来たってことはニャンコ先生を宴会へ連れて行くための迎えはヒノエなのか?」
「まぁね。でも日暮れには時間があるし、どうやらちょいと到着したのが早すぎたようだねぇ。ま、夏目の顔も見れたし良いのだけど」
そうヒノエはずいっと近づくと妖艶に微笑みながら頬を撫でてきた。
「今日宴会をやるってことは、やっぱり皆既月食と惑星食が関係してるのか?」
そう聞くと一瞬目を瞬くと笑い出した。
「アハハハ、まったくもって関係ないよ。確かに星の動き等をじっくり見てればある程度は月食とかはわかるけれどね。“月食だから”とかいうそんな特別な理由がなくても気が向けば呑みたくなるものさねぇ。まぁ気にはなるから紅い月を眺めはするだろうけど。夏目も一緒に行くかい?歓迎するよ?」
「折角のお誘いだけど遠慮するよ。俺はここの人たちとゆっくり眺める予定だからさ」
「放っておけ、ヒノエ。寒いなか、こんなひょろひょろのモヤシを連れてって体調を崩されても面倒だからな。それにまだ酒も飲めんからつまらん。ほら、さっさと行って紅い月での月見酒を楽しむぞ。ツマミはちゃんと用意してあるんだろうな!」
そう言うとニャンコ先生はすくっと立ち上がり軽快に窓から飛び出していき、ヒノエもヒラヒラとこちらへ手を振りながら追いかけるように颯爽と去っていった。
「貴志くーん!ご飯よ~!」
出ていったふたりを見送っていると、1階から塔子さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「もうすっかり寒いから今夜はお鍋にしたわ」
下へ降りていくと食卓には既に鍋がセットしてあり、ご飯と取皿を乗せたお盆を塔子さんが運んできたところだった。
配膳を手伝っていると望遠鏡の最終チェックを済ませた滋さんが戻ってきた。
「ふぅ、やはり外は冷えるね…お、今日は寄せ鍋か。身体を温めておくにはいいチョイスだね。さっそく頂こうか」
鍋の中では鶏肉や白菜がいい感じに煮えており美味しそうだ。
「あら、そういえばネコちゃんは?鶏肉なら食べられるかと思ったのだけれど」
「あぁ、先生ならさっき外へ遊びに行っちゃいましたよ」
いつもご飯をねだりに来るニャンコ先生を探してか塔子さんはテーブルの下あたりをキョロキョロしていたものの、俺の返答で納得したのか食卓に着いた。
「ふふっ、案外ニャンゴローも友人の猫たちと今夜の皆既月食やらを見るのかもしれんな」
「ハハハ…。」
先程の先生たちと交わした会話を思い出し思わず一瞬遠い目になってしまったが、塔子さんたちには気づかれなかったようだ。
出汁がしっかり利いた鍋を美味しく食べて身体を温まった所でいよいよ天体観測の開始だ。
庭へ出ると当然ながらあっという間に冷たい空気に包まれて思わず身体をブルっと震わせて肩をすぼめる。
滋さんが準備してくれていた天体望遠鏡を覗いてみると月だけでなく空に浮かぶ星々もしっかりと見える。
食事をしたあとだったためか月もだいぶ欠けており、あと数分で完全なる皆既月食が始まりそうなタイミングだった。
「あらあら、もうすぐ皆既月食だったのね。ちょうど良いタイミングだったわ」
「貴志はそのまま望遠鏡で見てるといい。塔子と私は交代で双眼鏡使ったり直に見たりするから」
その言葉に思わず遠慮しようと振り返るものの、既に双眼鏡で見上げる塔子さんとその隣で指を差し楽しそうにしている滋さんを見て、何も言わず望遠鏡を再び覗き込む。
いよいよ皆既月食が始まる。普段の月とは違う赤胴色の月。
(ニャンコ先生は中級たちと見ているのだろうか。この不思議な色合いをする月を。…いや先生は花より団子だからな、ツマミと酒に気を取られてて見てないなたぶん…。)
内心そんなことを考え苦笑いしていると、滋さんがすぐ隣にきて話しかけてきた。
「貴志、最近学校はどうだい?楽しいか?」
「えぇ、皆によくしてもらっていますし、楽しんでます」
それは良かったと安堵した滋さんはまた暫く空を眺める。
「今回の天体ショーは442年ぶりで、次はまた322年だそうだ」
滋さんがぽつりとつぶやく。改めて聞くと途轍もない年数だ。
「我々が生きているうちはもう二度と起こらないこの奇跡を君と体験出来て心から嬉しく思うよ。」
塔子さんと共に優しく笑いながら伝えられたその言葉に胸がじーんとして涙が零れそうになる。
涙に気付かれないように星空を見上げ、過去と未来の光景に想いを馳せる。
ニャンコ先生はさほど興味は無さそうだったが少なくとも酒宴をひらく理由にはなるらしい。それでも構わないから、
そしてこの僕を、塔子さん滋さんを、
そう願わずにはいられなかった。
いつの間にか塔子さんが淹れてきてくれたココアを飲みながら。
「俺も…俺も奇跡を共有出来て嬉しく想います」