現代ごちゃまぜファンタジー掲示板 作:よくメガネを無くす海月のーれん
外伝 RTA校長先生の日常
RTA校長先生……一人の生徒と数多の転生者掲示板民に揶揄される自業自得な悲しき運命背負いエルフである。
銀髪碧眼、身長151cm、体重は不明、身体のラインがスッキリしている……もとい人体で大根おろしができそうなほどにすらっとしている体型だ。あばらはギリギリ浮いていない。鶏ガラみてぇな細さをしている。
その名の通り、RTAに命を賭けており、人生のその全てをRTAが占めているといっていいほど。校長になってからはRTAの頻度は落ちたものの、その魂に根付いた故郷は変わることなく、たまの休日はRTAに捧げている。
好きなものは塩おにぎり。食事に全くの価値を見いだせず、ゼリー飲料で済ませることが多い終わってる人間なのだが、たまの休日、嬉しそうに塩おにぎりを作っては頬張っている。ご褒美であるらしい。ご褒美が塩おにぎり……コスパのいい人間である。
嫌いなものは秋刀魚。味が嫌いというより骨が鬱陶しく感じており、骨を取った秋刀魚は割と喜んで食べる。手間のかかる食事が嫌いなタイプ。
趣味のRTAはいろいろなジャンルをやる悪食タイプだが、特にやりこんでいるのは死にゲーと言われるマゾジャンルである。悲しいことにこのRTA中毒者は普通のRPG等のRTAでは満足できない程ヒリつきを求めており、一発即死、死ねば即記録はおじゃん、難易度激高ゲームでのRTAを求めるようになってしまった。
そのため、そこそこ狭い界隈であるそのテのRTAでは名を馳せるほどであり、プライベートでRTA大会に出場するほどの人間だ。
もちろん動画投稿サイトに偉大なる先駆者リスペクトの
左側に大きくゲーム画面を配置
画面下部にキャラクターとセリフ表示、ボイスはもちろん御馴染みの機械声
画面右に解説やネタを仕込む
という知る者が見れば「い つ も の」「兄貴リスペクト」と言いそうな形式で投稿をしている。
動画投稿者としての愛称は「ガ博打ネキ」。博打ともいえるRTAルートを開拓して走るものの、狙ってるとすらいえるほどベストタイミングでガバるために与えられた忌み名もとい称号である。
だがRTA技術としては目を見張るものがあり、ガ博打ネキのルートを参考に走る安定チャートはRTA初心者に愛されるものとなっている。基本ガ博打ネキがガバるところをカバーすれば安定するからだ。また、初見ゲームのRTAにも力を入れており、最初の犠牲者として相応しい役目を果たしているため、別名ファーストペンギン、ホラー映画で最初に死ぬ人と呼ばれている。
しかし悲しいことにこのエルフ。年には勝てなかった。御年ウン百歳のエルフさんは日に日に自身の老いをRTAを通じて感じていたのである。
霞んでいく視界は眼鏡を掛けて対応していたが徐々に落ちていく。
長時間画面を見続ければ目はしばしばになり、3,4時間もすれば目の周りがなんだか重く感じられるようになった。
目押しや操作入力が徐々に、しかし確実に遅くなっている。昔の動画を見れば出来ていたことができなくなっている。
思考の停滞も激しく、動画投稿してはコメントに付く「い つ も の」や「伝 統 芸 能」、「実家のような安心感」と言われることに恐怖する。
同じネタを何度も擦り続けて持ちネタになっているものの、変わり映えのしない動画への厳しいコメントや、他動画のえげつない編集に恐れ慄き、真似しようとして、どうすればそういうネタが思いつくのかという発想の地点で負けていることを悟る。
一昔前のネタを擦り続けてうん十年、通じる者も少なくなってきた。界隈に新しい人間が入って自分をどんどん追い抜いていくことに恐怖するし、逆に人が減って過疎っていくRTAを見てついに私達だけしかやってない……!と愕然とする。
世界記録を争っているのも、知り合いである相手が離れてしまっては本格的に一人でそのジャンルのRTAをすることになるかもしれないからだ。
たった一人、ひたすら記録を超えるために試行錯誤することの孤独感、心細さは計り知れない。なまじ、難しいジャンルのRTAであるため、参入障壁がとても高いのだ。
死にゲーで死なないようにすることが前提条件などというのはやはり難しいことなのだ……そうRTA走者の少なさを見て自覚する。
RTAが好きだ。ゲームを早くクリアすることが好きなのだ。そう言っても、早いからなんだ、ゲームをちゃんと楽しめているのか。そんなことを言われてしまえば口を噤んでしまう。なぜなら、ゲームの穴を付いて、ゲームの裏をかくようなことをしているから、ちゃんと楽しめているかなんて自信を持って言えるものではない。
でもRTAが好きなのだ。時間を計って、どれだけ時間を短縮できるのかを競い合い、改善点を見つけ、試しに走ってみて、走る途中で改善点を見つけ、それを直して、ミスを減らし、精神を集中させ、自身が出来うる限りの最効率をたたき出す。
これはもう生まれ持っての性分だ。こうして生まれたのだから仕方がない。
これはもう、この血の然らしむるところだ。一族からしてそうなのだから仕方がない。
RTA校長先生……本名:レル・セルト・アスフォライン。アスフォライン家……強盗貴族の名で揶揄される一族の末娘はそう嘯く。爵位を奪い取り、最短で成りあがった生き急ぎ貴族と謳われた先祖の末子はそう語るのだった。
とまぁ脱線したRTAが好きな理由はひとまずこれくらいにして……
再度言うが、このエルフ、寄る年波には勝てなかった。
自覚がRTAというのはなんともアレなものであるが、まぁ自覚できたのならこの際なんだっていい。自覚が出来たのならやる事はただ一つ。
アンチエイジングだ。
まずはジョギングを始めた。鈍っていた身体を動かし始めた。これ幸いと運動系のRTAを始めた。死にかけた。
次に頭を若返らせるように脳トレのゲームを買った。まだまだ若いだろうと高をくくっていた。試しにちょっとやってみた。テストで出た脳年齢に絶望した。
最近の流行に付いて行こうとした。ニュースを見て色々なネットを漁り、最新のアニメを見てネタを仕入れた。コメントで「無理すんなババア」と書かれた。キレた。
色々な努力も虚しく、徐々に徐々に肩に年齢の重みが物理的にのしかかってくる。もう肩より上に手を上げることさえままならない。四十肩……上げようとすれば痛みで涙が出てくることに悲しみを感じて、そちらでも涙が出てきてしまう。
エルフは寿命が長い。とても羨ましがられるものだ。しかし、通常の人よりも年を感じる時間が長いということでもある。
軟骨をすり減らす感覚が5年、10年感じ、階段で躓いてよろけて手を突くことが20年以上さえ続く。
からあげやとんかつ、海老フライさえ1本食べるのに胃もたれで億劫になってしまう。それを感じ始めたのは70年前だっただろうか……80年前だっただろうか。味噌汁を具材と汁を一緒に飲んで咽込み、知り合いから「ちょっととろみつければ?」と揶揄われることも一度や二度ではない。
そういう種族なのだ。悲しい種族なのだ。
エルフが若返りや不死に傾倒するのは致し方ないものである。寝たきり状態が10年以上続くような終わるまでの苦しみが長過ぎる種族は、どうしても死を忌避したがるものだ。……まぁRTAができないと嘆くエルフはコイツしかいないだろうが。
そんなわけで老いに恐怖する校長先生は、どうしようもない運命に恐怖しているところ、救世主に出会った。救いを齎す救世主だ。
どうしようもなく面倒事を起こしてくれた問題児ではあるものの、全てを許すくらいに校長先生は歓喜した。土下座だってした。多分言われたら足だって舐めただろう。速さに傾倒したが故に全てを捨てる覚悟を持って、実際に家のしがらみをぶん投げた経歴を持つこの女が、これしきのことでへこたれるわけがないからだ。
RTA校長先生……レル・セルト・アスフォラインはこの世界の技術体系では到底、到達し得ない若返り(副次効果)を果たしたのである。
────
ゲーミングチェアに体育座り、コントローラーを握り締めて、目の前の液晶に意識の大半を集中させ、横の液晶に表示されているコメントを片目で読む銀髪碧眼少女……それが我らがRTA校長先生である。
あぁ、見よその美しさ。髪はキューティクルが復活し、艶やかにしっとりとした仕上がりである。手を梳かせれば突っかかり一つなく、持ち上げてみればその肌触りは絹のように柔らかく滑らかだ。
あぁ、見よその綺麗さ。しっかりと開かれた目の中、宝石と見紛うほどの青い、蒼い瞳がある。鼻はすらりと高く、唇はぷるっと水分を含んだハリのあるものだ。肌はきめ細かでシミ一つすらない。白磁器のような滑らかさはきっと触れるものの、指を踊らすだろう。
あぁ、見よその絶世の姿を。少女の全盛期そのままで、時計の針が回り忘れてしまったような一瞬の美しさを保ち続けている。儚く、一瞬だからこそ許される美しさが固定されている姿は、見る者に矛盾の美しさをイメージさせる。氷の中で燃える炎は美しい。すべてが水に流され、災害に見舞われた土地でただ一つ、大きな樹木だけが残っていたら人はそこに神秘性を見出すだろう。
あり得ないものがあり得る、その矛盾さからくる神秘性を携えた少女は、嬉々としてRTAをしていた。その姿すら、まるで天女が無垢なる笑みを浮かべているように映るのだから、容姿というのは侮れない。
そんな少女は口を開いて……
「Foo~!グリッチ成功~!安定チャートは甘え、はっきりわかんだね!」
[あ、ふーん(察し)]
[テンションたけぇな。いいことでもあったんか?]
[ガバが少ない、訴訟]
[もっとガバ見せろ]
[ガ博打ネキ~結婚してくれ~]
口を開いて……
「(結婚はし)ないです。私はRTAと結婚するんで……RTAが配偶者です。あと私はガバら、ないです」
[概念と結婚するのか……]
[草]
[魔法で擬人化するんか?]
[災害指定魔法やめろ]
[RTAの具象化は最悪だろ]
[俺達グリッチで爆速になるかもしれない]
[走者だけじゃなく視聴者も爆速になるのか……(困惑)]
[てかなんか前よりキレすごいな]
口を……
「ここの~手すりからのショートカットを~~決める~!殺すぞ~!(衝動的殺意)こ↑こ↓のショートカットが出来たのは熱いです。天才かぁ~?(自慢)これ一応試走というかこのあと、本走なんですけど……私これ以上実力発揮したらモンスターになっちゃうよ……。あ、わかっちゃいます?わかっちゃいます?いや~うちの視聴者は鋭いな~。偉いな~。憧れちゃうナ~。実はね。この度ピッチピチになりもうした。勝ち確対アリです」
[その時は俺が殺してやるよ]
[こやじるしこやじるしって言ってる+114514点]
[ガ博打ネキ飲み込まれたダメ]
[ガ博打ネキは強いよ]
[モンスター語録は今の子通じないだろ]
[急にどうしたガ博打ネキの癖に……]
[まぁ魔法で隠蔽してるとはいえ美人だからね]
[ガ博打ネキ高度隠蔽魔法使えるのズルイ。俺達には美人であることしか認識できないもんな]
[美人なのは事実なのに、顔のパーツに言及しようとすると抜け落ちたように思い出せない隠蔽魔法嫌い]
[人によっちゃ不快だよなぁ……]
[ピッチピチ(死語)]
[なに?アンチエイジングでもした?]
…………
「まぁわたしは?天ッ才ッ、ですから?高度隠蔽魔法とかをちょちょいのちょ……やっっべ」
[あ、ガバった]
[伝 統 芸 能]
[やっぱこれだね]
[い つ も の]
[これがほしかったんだよ!]
[あ ほ く さ]
「ええええ??????って反応してる場合じゃない!馬鹿野郎お前私は勝つぞお前!(天下無双)オリチャー発動!ここで引かずに突っ込みます!!!おらっ!私が上ぇ!お前が下だァ!」
[ガバに勝てるわけないだろ!]
[あ、馬鹿お前……!]
[こーれは死にましたね……]
[ガバったにしては強気すぎる]
[流行らせコラ!]
「あー!あー!?あー……!アー⤴インド人を右に!なんだこのガバ展開!?僕のデータにないぞ!……おひぇっ!おひっ!圧倒的セェェェフ!!!あ、ちょっと致命傷ッ!ッッッ!しゃあっ!勝ち確!」
[立て直したぁ?!]
[ガ博打ネキじゃない!ガ博打ネキをどこにやった!?]
[オリチャー発動してんだからデータにねぇのは当たり前だろ]
[データキャラに圧倒的に向いてない]
[クッソ情けない鳴き声恥ずかしくないの?]
[語録はルールで禁止スよね]
[RTA走者はルール無用だろ]
[やっぱし怖いっすねRTA走者は]
[何が怖い?言ってみろ]
[パワハラ鬼上司やめろ]
[ちょっといってんじゃねぇか!]
「はい私の勝ちぃー!なんで負けたか明日まで考えといてください。そうすれば何か見えてくるものがあるはずです(煽り)」
[あそこから立て直したのはすげぇけど……]
[語録でしゃべるな]
[煽りが早すぎる]
[イキって運動系RTAやって足腰爆散したババアがイキるな]
「はぁ~?!!?(激怒)私若いんですけど!?JK……?ってやつなんですけど!!どうせあのRTA動画で私の喘ぎを聞いて興奮してたんでしょ!?エ〇同人みたいに!エ〇同人みたいに!どうせ私に『興味ないね……』って顔しつつ、興奮してんだろ!」
[うるせぇ!(鼓膜破壊)]
[(自分に対する自信が)デカすぎる……]
[修正が必要だ……!]
[お前に興奮したら俺達終わりだよ]
[語録を封印してからいってもらっていいすか?]
「語録はいいだろうがッ!RTAから語録取ったら何が残るっていうんだ!?偉大なる先駆者に敬意はないのか!敬意は!教えはどうなってんだ!教えは!」
[教えは浜で捨てました……!]
[おは侍]
[冥人やぞ]
[くろうんちゅ]
「くろうんちゅやめろ!」
[更年期?]
[お母さんイライラしたらこれ飲んでって言ったでしょ]
[辛いかもしれないけど薬飲めばよくなるから]
「ぶっ殺すぞ!!!」
…………元気に視聴者とプロレスする姿に、とんでもない程イメージを下げに下げたこの女、プライベートではほぼ語録でしか喋らないという非常に終わった人間は、たとえ若返ったとしても変わらなかった。
「はーっ!!!キレるわ!もーキレるわ!」
[キレてんじゃねぇか]
[キレるは俺達の世界には存在しない……キレた!なら使ってもいい……!]
[おは兄貴]
[矛盾してるんだよなぁ……]
「ピィー!(瞬間湯沸かし器)もういい!今日はこの辺で終わりまーす!」
キレ散らかしてゲームを落とし、ひとしきり視聴者とレスバを繰り広げた悲しき貴族の末裔、その生まれにあるまじき声を出してキレる姿はきっと先祖も草葉の陰で泣いているだろう。
[お湯沸いたな。時間か]
[い つ も の]
[お湯沸くと配信やめるの好き]
[今日はちょっとお湯沸くの遅かったな]
[やーい♡雑魚雑魚、ざーこ♡レスバクソザコ♡ガバチャート♡]
[せっかくピチピチになったのに雑魚過ぎ♡視聴者に煽られる気分はどうだ~い♡(若旦那)]
「うるせー!!!!あ!?おま……!っっっっっこ、ころ!!!こここっ!こころっ!」
[心?]
[急に道徳説いてきた……]
[語録使いに道徳説かれてもなぁ……]
[ミーの勝ちデース!(若旦那)]
「ふぐっ!(激怒)うぐぅっ!(葛藤)うっっ!!(感謝)うあぇっっ!(再び葛藤)うぐおがっ!(湧き上がる怒り)うぁぁっ!(三度葛藤)うーぅっ!(思考)う―……(長考)」
[ところで動画まだ?(若旦那)]
「タダ⤵チ⤴ニトリカ→カ→リマァス⤴!!」
若返りの代償に、一視聴者の命令に逆らえなくなってしまった悲しきエルフ。苦悶の表情を浮かべ、髪を振り乱しながら逃げるように配信を切った女は一息ついて、一抹の嘆きをあげるのだった。
「スーッ……編集したくねぇ―!!!!!!!!!」
レル・セルト・アスフォライン。悲しき動画投稿者の叫びだった。
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