現代ごちゃまぜファンタジー掲示板 作:よくメガネを無くす海月のーれん
ドドドドドドド
「疑問に思うことがある。それは、人はこれからも生きていけるだろうかということだ」
黒髪の少年は問うた。左手を右肩に当て、右手を左脇腹に置き、足を交差にして斜めから見下ろすように少年は再度、問うた。
「人間は当たり前のように明日が来ると思っている。しかし、明日の朝、急に隕石が落ちてきて人類が滅亡することだって起こり得るはずだ。私は常々疑問に感じていた。何故、その可能性を考えないのかと……」
ドドドドドドド
異様な空気があたりを飲み込む。暗く、狭い洞窟の中、淡い光に二つの人影が浮かび上がる。
「ギャギ?」
黒髪の少年と相対するは緑色の人間だった。頭の頂から足の爪先まで緑に染められた体色。乱雑に生えた歯からは涎がだらだらと垂れている。握り締められた手には、人を一発で肉塊にするような棍棒が握られていた。先端は赤く染まっている。おそらく、一度や二度で染まるようなものではない。なんども、何度も叩きつけたことで染みついたであろう赤は、その生き物を象徴させるものだった。残虐、死骸を弄ぶ乱暴者……人は彼をゴブリンと呼ぶ。
「ある人は言った。それは空が落ちてくるのを心配するようなことだと。私はさらに疑問を深めた。空が落ちてこない確証はあるのだろうかと。」
ドドドドドドド
人語を返さぬ人擬きは確かに疑問の声を上げた。それが男の問いに対する疑問なのか。それとも目の前の男は急に何を言っているんだという疑問なのか。それは定かではない。しかし、動きを止めた。止めてしまった。
それが生死を分けた!
「はるか昔、自らが滅ぶとさえ思っていなかった生物達は隕石により滅んだ。前例がある。ならば、私達にだって起こり得るものと考えるのが普通ではないのか?」
「私には到底信じることができなかった。明日私達が死ぬことはないという妄信的な考えを」
「私は、明日……いや今日死ぬ覚悟で此処にいる」
「敬意があったのだ。あり得ないことだと考え、しかし実際それによって死んでしまった生物達に」
「明日があるのだと妄信せずに現実を見据えるということは、あり得ないと考える事象で死んでしまった生物に敬意を持つことになる。私はそう信じている。」
「だからこそ、私にこれが発現したのだろう」
「ギャギャ」
ドドドドドドド
緑の人擬きは興奮していた。目の前の相手が如何に挑発しようとこれから訪れる運命は変わらないからと。お前の肉を裂き、骨を折り、臓腑を切り刻んで食んでやろうと。その残虐で甘美な運命から逃れられることはできないと。人擬きは信じていたのだ。
少年は言った。確固たる意志で言葉にした。
「私は動かないうちにお前を20と4つの肉片に切り刻むだろう」
「ギャギッ!?」
少年は動かない。しかし、その言葉に嘘偽りはないという凄みがあった。彼我の差は数メートル……少し走り出してしまえば容易に打ちのめせる距離であった。なのになぜ、これほどまでの自信を持っている。なぜ、この少年は自信満々に語っているのだと。
嘘だ。ただの威嚇だ。人擬きは笑った。弱い犬程よく吠える……そういうことだと、自らの考えでそう捉えてしまった。その思考が、運命を分けた!
「エンデンジャード・スピーシーズッッッ!!!かつて滅んだ生物がお前に恐怖を刻むだろうっ!」
ブゥンッ
人擬きの瞳に信じられない光景が映った!
少年の背後、誰もいなかったはずの虚空がブレるっ!獣のアギトが現れたのだっ!細長く生えそろった牙から薄く、冷気さえ伴ったような息が漏れた!それは確かに何もいなかったはずの背中から浮かび上がり、その鋭い牙と細く小さい目が確かにこちらを見つめていたっ!
ガチンッ!
アギトが閉じられる音がする!それはまるで自らの死刑執行を予告させるような!ギロチンが落ちる音のように聞こえた!
人擬きは恐怖したっ!それは圧倒的な捕食者の目をしていたからだっ!蛙が蛇と出会い身体を硬直させるようにっ!草食動物が数瞬!目の前に現れた肉食動物を前にして固まってしまうように!一瞬、たった一瞬でも、捕食者としての視線は被捕食者の動きを完全に止めることができてしまう!それは恐怖の記憶っ!先祖代々受け継がれてしまった恐れの記憶からくるものだったっ!
グルル…………
唸るような吐息があたりを駆け巡る。その声に人擬きは正気を取り戻した!
逃げなくてはいけない!一刻も早くここから逃げなくてはいけない!そうしなければ食われてしまう!その確信が人擬きにはあった。魂に刻まれた教えは瞬時に身体を動かそうとした。
だが……
「言ったはずだ。私が動かぬうちにお前を20と4つの肉片に切り刻むと。そしてそれはもう終わっている……」
遅かった。
身体がズレる感覚が駆け巡る。意識していないのに頭を下げる感覚があった。自分は何もしていない。そのはずなのにどんどん首が落ちていく。おかしい。その疑問が氷解する前に、自身の目に到底あり得ぬ光景が映る。
自分の身体だ。
自分の身体が目の前にある。自分の身体が徐々に徐々に、上へと上がっていく。いや違う。これは……
己の頭が落ちているのだと。
己の背後、銀閃が煌めく。
ドドシャリィッッッ
落ちていく身体は細かな肉片と変わっていく。崩れていく肉片の先、己を粉微塵にした相手を見た。
頭部はまるで竜の如く、顎から生えそろった牙はいとも簡単に首をへし折り、かみ砕くだろう。
身体は前傾姿勢で、前足には鋭く長い爪が煌めいている。おそらくはアレに切り刻まれた。血が滴る。爪をこすり合わせた。血はぽとりと地面へ垂れた。
背中から細長い尾にかけて小さな突起が整列しており、その突起は微かに帯電していた。バチリ、空気に音を鳴らす。
後ろ足、しっかりと食い込ませた鉤爪が前に三つ、後ろに一つ、不動とさえ感じるように地面を掴んでいる。
ゆらりゆらり揺れる尻尾の先、下手人は顔だけを横に、振り向いた。そこには冷徹な捕食者の目があった。
薄れていく意識の最中、人擬きは密かに安堵した。あぁここで終わるならもう二度とあんな目を見なくて済むのだと。あんな視線に囚われることはないと。
神に祈らない人擬きは神とも知れないナニカに感謝した。私を恐怖から解放してくれてありがとうと。被食者の恐怖から解き放ってくれてありがとうと。
ドグシャァッ!
地面へと熟れた果実のように落ちた頭は、数瞬して自らが花であったのを思い出したように4つの花弁を花開いた。見るも恐ろしい人擬きの花が咲いた……
─────
「カットー」
男の声が掛かる。すぅーっと虚空から人が浮かび上がった。それは角が生えた男だった。身長は2m弱、全身をマントで包んだ角が生える男が雑に伸びた髪をこれまた乱雑に耳にかけたかと思うと、後頭部をガシガシと掻いた。
「これいる?」
ケモナー魔王様渾身の愚痴だった。
「ねぇ!?どうだった?!めちゃくちゃかっこよくなかった?!」
「確かにかっこよかったけどさぁ……これいるぅ?」
「いーじゃん!メッチャかっこよかったぜ!イイセリフだった!ワタシは痺れたよ!心底痺れたよ!」
黒髪の少年は興奮してキャッキャとはしゃぐ。うんざりとした声を上げたケモナー魔王様を打ち消すように、つばの広いとんがり帽子を被った少女は少年の背中をビシバシ叩いて冷めない興奮をあらわにした。
黒髪の少年……友人キャラA、とんがり帽子を被った少女……魔女っ娘ガトリンガーは互いに興奮冷めやらぬ様子ではしゃぐ。
「やっぱこれだよな!結構悩んだんだよセリフ……!杞憂って言葉の由来から持ってきてさ!どうして自分たちが明日死ぬことはないと信じられるのかって言う事で、この能力が際立つと思うんだよ!」
「それな!やっぱ絶滅危惧種の英語から引っ張ってきたのは賢いわ!絶滅危惧種ってか絶滅してるけどな!」
「それな!」
『あのさ―……うちの子スタンドにしないでくれる?ってかうちの子絶滅もしてないし。あと使うならスケアリーモ〇スターズじゃん。』
「えぇー、恐竜召喚するのと、恐竜にするのとじゃ全然違うでしょ」
「そうだそうだー。てかあなたの子、恐竜っぽいけど恐竜じゃないじゃん」
『えぇー……』
虚空からまだ大学生成りたてのような男の声がした。軽い口調でぶー垂れる男……クソ迷宮魔物使いは、しかし言っていることは理解していた。うちの子は恐竜に近いだけであって普通に魔物であるし、先の登場だってケモナー魔王様の透明化魔法を応用したものだったからだ。別に傷つけたものを恐竜にしたりするわけでもないし、自らを恐竜に変えるわけでもなく、最初から見た目が恐竜に近い魔物だ。
体内に発電器官を持ち、背中の突起から放出することで高速移動を可能とする魔物。鋭利な爪で相手を切り刻み、血を啜る肉食性のモンスター……名を紫電の追跡者……命名「おにぎり」。飼い主であるクソ迷宮魔物使いが作るおにぎりが好きすぎて、自分が活躍した時には必ずおにぎりを揺すってくる可愛いモンスターだ。ちなみに本来は肉食性でかつ切り刻んだ相手の血と肉しか食べないという超偏食である。
『てかうちの子、エンデンジャード・スピーシーズじゃなくておにぎりって名前があるんだけど……。勝手な名前つけないでほしいんだけど……』
「スタンド名おにぎりは終わってるだろ~」
「おにぎりはなー……」
『うるへー!!!ウチの子はおにぎり大好きっ子なんだよぉー!!!』
「はいはいおわり!おわりだおわり!ジョ〇ョごっこ楽しんだでしょ!さっさと合流するよ!」
ケモナー魔王様が手を叩いて声を上げるがなおもぶーたれる少年少女が駄々をこねた。ちなみにいうと此処は迷宮第16層……現在合流を優先しているためにいくらか逆走しているものの、本来の攻略階層は400階層である。都合、384層の差がそこにあった。
「やだやだー!俺もっとジョ〇ョごっこしたいよぉ~!!!」
「まだやる~!ワタシもっと効果音ごっこしたいよぉ~!!」
「ドドドドとかドグシャァッとか言ってたけどアレそんな楽しいの?」
「楽しい」
真顔でそういう魔女っ娘ガトリンガーに溜息を吐く。どうして転生者というのはこう……アレな人間ばっかなんだろう。しかし、迎えに来た手前置いて行くのも忍びない。だからこそこの茶番に付き合うのだが……クソ迷宮魔物使いと一緒になって肺にたまった息を吐き出したくなった。
「はぁ……相棒、桃源郷までは遠いな」
『そうだな相棒……苦難の道が過ぎるよ』
性癖の共鳴で繋がり合った心の友に改めて今回の第一目標を話した。話さないとやってられない。
「相棒、確か第一目標は合流だったよな。そっちはどうだ?」
『もう何人か合流してるよ。今400層に居るのはおま銀、宇宙ヒッキー、異能バーバリアンお嬢。俺は250層でサイバーロッカーとNTRの人、アマゾネス忍者と合流した。とりあえず上層向かってる。てかなんで魔女っ娘ガトリンガーがそっち居るんだよ』
「くじ引きで負けたからだとさ」
『くじ引きで300層戻ってきたってマジ?』
「ガトリング斉射飛行だとさ」
『イカレてやがる……』
「ホントそれな」
再度ため息が出た。個性が強すぎて闇鍋と化しているこの状況をどうにかしたいがもうどうにもできないところまで来てしまったからだ。とりあえずこちらが難航しそうなことをまだまともな宇宙ヒッキーに連絡をつなげて報告しようとする。数分と待たずに連絡はつなげた。つなげたが……
「あーもしもし、そっちどう?」
『は、はい!もしもし!き、聞こえています!あ、ちょおま銀うざっ、うざい!やめ、やめろ!抱きつくな!抱きしめるな!囁くな!うざっうざい!』
『イナ、イナダマ。結婚しよう。結婚してくれ。他の有象無象なら全て黙らせるから。頼む。俺にはお前しか……』
『ASMR!!!いい声でASMRするなっ!転生前喪女のASMR好きにそんなことしたら好きになっちゃうだろ!』
『だからするんだろ?』
『オヒョワーッ!!!』
何やらとんでもないことが起きていた。
『もしもしぃ―!わたくしですわー!!!異能バーバリアンお嬢ですわ~!!!ちょっと宇宙ヒッキーさんがおま銀に粘着されてるのでわたくしが対応しますわー!!!』
「あ、バーバリアンお嬢?そっち大丈夫?」
『宇宙ヒッキーさんがおま銀に壁ドン囁きASMRされてること以外特に問題ないですわ。あ、あと、700層あたりに居た村人さんが今、600層に居るって連絡来て恐怖してますわ。この短期間で100層近く攻略してましてよ。戻る道で難易度は易化してるといっても、超スピードですわよ……』
『頼む……どうか受けてくれ……お前が居ないと……俺は……俺は……!』
『やめ、やめっ!私まだ製造年数9年!9年だから!ロリコンですよ!?』
『ロリコンでもいい!ロリコンでもいいんだ……!』
『あ、ちょっ……!』
『あぁ!?離れなさいですわー!!!!!アスポートッ!わたくしの意に従い遠ざけよっ!』
『オゴロヒュッ』
「あー……うん。わかったー。また後で掛け直すわ―……」
大変複雑な人間関係を見てしまったが……
『アレだな。人間関係こえぇ』
「それな」
どうにも転生者というのは濃い運命にあるらしい。心配になったので相棒の方にも声を掛けた。
「そっちはどう?大丈夫?」
『あー……見た方がはえぇな。映像出すわ』
そうして転生者掲示板のライブ機能で映し出されたものは……
『忍法……変わり身レールガンの術……!』
『いやぁ~腕とか足なくても案外いけるもんですよね~』
『最高にロックしてんなァ!』
『これロックなんですかね?』
『知らね』
『ロックだろうがッ!』
『ロックらしいですよ』
『両手両足失ってから始まるロックはちょっとやりたくねぇなぁ……』
『案外楽ですよ。たまに腕が邪魔に感じる時あって、それがなくなったんですから』
『あァ!それな!クソわかるわ!たまに腕邪魔だなァーって時とか腕ハズして別パーツ付けたりな!』
『まぁ私付けるパーツないんですけど』
『インプラントはいいぜ~!超電熱振動アームなんかどうよ!?』
『RTA勇者さんの人力バイブレーションソードみたいな?』
『あんな感じだな!』
『いいですねぇ~』
『この場でアタシがマイノリティなことあるんだな……オーイ!魔物使い~!!お前って腕ハズせる~!?』
『ハズせるわけねぇだろ~!!!!』
『それな~!!!』
『ハズせないとか不便だなァ……』
『不便ですねぇ……まぁ私ハズされた側なんですけど』
『取り替える腕がねぇーってか!』
『たぶん燃やされたか鳥にでも食われたんじゃないですかね』
『両手両足だけ鳥葬火葬ってなかなかにロックじゃねぇ―かよなァ!』
『ロックなんですかねぇ……』
『魔物使い~!!タスケテ~!!!会話についていけない~!!!』
『付いて行こうとするな馬鹿!付いて行ったらダメな世界だ!』
「あー……うん。わかったわ」
遠くの方に見えるゴツくて近未来的装備をつけた初〇ミクのパチモンみたいなのと、両手両足がない所謂達磨と呼ばれる状態で空中に浮いて会話する男と、その近く、190以上でめちゃくちゃゴツイ身体のくせに忍びの格好をして肩にレールガンを担いだ女……サイバーロッカー、NTRの人、アマゾネス忍者が、倒した魔物の前で駄弁っていた。
「大変だな」
『ホントそれな』
相棒の心底から漏れ出た言葉を聞いてふっと安心する。まともな人間は俺だけじゃなかった。まだここに苦労を共有してくれる人がいる。そう思うといくらか心が軽くなるのだ。バーバリアンお嬢だって、言葉遣いや行動は脳筋だが、普通に公爵令嬢でありちゃんとした理性や何なら政略さえこなすことができる。いついかなる場所、時でもナンバーワンでいなくちゃいけないという強力なエゴから繰り出される脳筋とは思えない程強力な言葉のナイフとその強靭な理性は、俺達にツッコミ役を任せることができるというとてつもない安心感を与えてくれたのだ。
ふと、こちらの馬鹿共を見やる。
「やだやだ~やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ」
「まだやる~まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ」
駄々をこねながら、スタンドのオラオララッシュみたいなことをして遊び始めた少年少女にしびれを切らして鉄槌を食らわす。
「オラァッ!」
「おごぉ!?」
「うぐるへぇっ!!」
ごべしゃあと地面に崩れ落ちる少年少女にしゃがみこんで最後の言葉をつぶやいた。
「これ以上駄々こねたら……桃源郷には行けないと思えよ」
「……ッ!はい!サーイエッサー!」
「ふぐぅっ……!サーイエッサー!」
「よろしい……」
ようやく聞き分け良くなった少年少女の背後、護衛として付けられ、ジョ〇ョのスタンドごっこに付き合わされたおにぎりがこちらを心配そうに見つめ、か細く鳴いた。
「ぎゅぅ~……」
まるで迷子になった子供が親を探すような声に、心の底からの言葉が出た。
「わかる」
思わず天井を見上げるも、変わり映えのしない石くれの天井しか見えない。此処はダンジョン。世界と世界をつなぐダンジョン。一部のものしか入れず、強力な魔物や罠が跋扈するこのダンジョンを攻略するはアクの強すぎる転生者達。
果たして、俺は胃が無事なうちに桃源郷に付くことができるのだろうか。
唐突だが、俺の秘書を務めてくれる猫の獣人……カオマニー種の高貴なデカパイモフモフクールお姉さん……スリュティラさんの顔が何故か浮かんで無性に会いたくなった。この身体は分身体で、会おうと思えばいつでも会うことができる。それなのに……
俺には説明もできなかった。単なる先入観かもしれないしそうではないかもしれない。それでも、この胸に抱いた気持ちにどうにも焦がれてしまって……そっと、溜息を、言葉と一緒に零した。
「はぁ……帰りてぇ……」
裏話的地の文回(非掲示板回)について
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増やしてほしい(二、三話以上)
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