アビドス七不思議についての事件から数か月が経った。
依然私と先生は歴史改編のため日々勤しんでいた。
結果はまあ...芳しくない。
元々大々的な事件はそこまで起きておらず、主に小さな出来事を出来るだけ変えてアビドスの状況をよりよくし、昔の私とユメ先輩が喧嘩しないようにしていた。
だが先ほども言った通り、結果は芳しくない。
歴史の修正力はどんな些細な改変も許さなかった。
これくらいは行けるんじゃないかと思っても全て最終的には概ね同じ結果にされる。
最近はそれの繰り返しの日々だった。
時間もいたずらに過ぎていく。
このままではまずいと思う...
私達には帰るべき場所がある。
そのためには昔の私とユメ先輩が喧嘩する前日、アビドス七不思議にもある時空を超える穴を再び越えなければならない。
その日まで約1か月前まで迫っていた。
今でさえどのくらいの時間が向こうで経ったかのかわからないのにもしそれを過ぎれば1年はここにいなければならない。
そんなこと、先生に付き合わせるわけには...
そんな考え事をしていると起床の時間を告げるアラームが鳴った。
私はいつものようにアラームの前には起きて朝食の準備をしていた。
今日は土曜日だがそれは変わらない。
そのアラームによって先生が目覚める。
"おはよう...ホシノ...悪いね今朝も朝食作らせて"
ホシノ「いいんだよ、結構楽しいからさ
普段はあんまりこだわりとかなかったけど、こういうのもいいよね」
私は先生に笑顔を向けて答える。
なんだかその笑顔は自分でもぎこちないなと思った。
ホシノ「お待たせー」
完成した朝食を持って私は食卓に座る。
我ながら上手くできたと思う。
数か月前までは下手だったが...誰かのために作ろうとするとこうも変わるのか。
2人で手を合わせて朝食を食べる。
先生はまだ若干寝ぼけてるのか静かに食べている。
それでも時折小さな声で美味しい呟く。
私はそれだけで嬉しくて頬がほころんだ。
今度はぎこちなさはなかった。
"さて、ホシノ...今日はどうするか"
朝食も食べ終わったあと、いつものミーティングをする。
ホシノ「...流石にそろそろネタが尽きたかな...まずいよね...時間ないのに
先生、なにかない...?」
私は縋るような目で先生を見ている。
"......よし、じゃあ今日はオフにしよう"
そんなことを先生は言い出す。
オフの日、それは歴史改編は考えずにただ楽しくその日を過ごそうという試みだ。
アビドス七不思議の時をきっかけに先生が時折提案する。
それは私の様子を見て提案しているので半ば強制だ。
正直、タイムリミットまでもう日はないのに遊んでて良いのかと思う半面、いまはアイデアすらも浮かばない。
今無理矢理何かやっても失敗して、1日を無駄にするのは私にもわかる。
それなら有意義に使うのも手だ。
焦る心を制して私は休むことにした。
ホシノ「また思い詰めてたか...いや、これに関してはタイムリミットもあるから自覚はあるな...
ありがとう、先生...じゃあ改めて先生...今日はなにしようか」
"ホシノが好きなことでいいよ"
ホシノ「またー...?
それ言われる身にもなってよね...先生はどんな事提案しても大抵は楽しそうにするからいいけど、考える方も大変なんだよ?」
私は先生の返答に苦言を呈しながら考える。
その中で1つの考えが浮かんだ。
よくない。
これを提案することは別に悪くはないが...考え方はよくない。
そんな考えを押し殺し、私は先生に案を出す。
ホシノ「じゃあ先生、私とデートしてよ
こっちの世界にもすでに水族館はあるからさ...そこでデートしようよ」
"で、デート!?"
デートと言う単語に先生は顔を赤くして噴き出していた。
ホシノ「私の好きなことでいいんでしょ?
ほら、行こうよ」
"し、仕方ないなー..."
私には上手く感情を読み取れない顔をして先生は了承してくれた。
朝食も終え、寝間着から着替える。
本来、デートなんでおしゃれする状況なのだが、デート服などここにはない。
そのため、お互いスーツと制服という代わり映えのない恰好で外に出た。
ホシノ「ごめんね先生...本来はもっと可愛い恰好したかったんだけどさ」
"ホシノはどんな格好でも可愛いよ"
そんな歯の浮きそうなセリフを先生は言いながら私の手を取る。
ホシノ「ちょっ...先生!?」
"デートなんだし、これくらいはね"
顔を赤くして抗議する私を無視して先生は私を連れて水族館に行く。
水族館に向かう途中、先生の行動を見ていたらいわゆる男の人としての理想に近いものだった。
道路は必ず車道側を歩くし、細かな個所にもすぐに気付く。
そんな様子に関心するばかりだった。
対して私はデートなのもあり、がっちがちになっていた。
...大丈夫かな、これ
ホシノ「よし、到着!」
"2年しか差はないとはいえ、やっぱりあまり変わらないね"
ホシノ「けど中は多分違うよ
ほら早く行こ、私もう待ちきれないよ!」
水族館を前にして私のテンションはかなり上がっていた。
今度は逆に私が先生の手を引いて先へと促す。
先生は少し困った顔をしながらも嬉しそうにしながら私に引かれて付いていく。
水族館を入ってすぐの道、演出の為照明は少なく周りは暗い。
ホシノ「危ないから少し寄ろうか」
なんてもっともなことを言いつつ私は先生との距離を縮める。
先生の手を握るのではなく、腕を抱きしめていた。
敢えて胸を当ててみる。
先生の反応はない。
自分の体が貧相なことは分かっていたがそれはそれでむかつくので軽く蹴った。
"いたっ...!?"
ホシノ「ごめんごめん、躓いちゃった」
私は先生に笑いながら謝る。
今度の笑顔は少し怖かったと思う。
私達はそのまま通路を進む。
通路の先では元の世界でもよく見た巨大な水槽が広がっていた。
ホシノ「2年だけだし、あんまりおおきくは変わってないね」
"そうだね"
その水槽の前で私と先生は立ち止まって眺めている。
ほとんどは変わらない顔ぶれだが、まだ幼かったり、元気そうな泳ぎ姿だったりとやっぱり異なる。
ホシノ「おっ...先生見てこの子...見覚えない?」
"...うーん...ごめん、わからないや"
ホシノ「じゃあ、このヒレ見てよ」
"...このヒレは見覚えある...ってことはこの魚2年であんな大きくなるの!?"
ホシノ「みたいだね、私もびっくりしたよ」
なんて会話を私は先生とする。
距離も近い。
今の私達はどう見えているのだろうか...カップルに見えているのだろうか?
ホシノ「...やっぱ時間も違うから新鮮で面白いね
先生、もっと奥行こうよ!」
"わかった"
私は手を取って先を促す。
心臓は緊張で常に張り裂けそうだった。
けれど幸せなのも事実だった。
ユメ「あれ...ソラノちゃんと先生?」
進んだ先でユメ先輩がいた。
否、ユメ先輩だけではなく昔の私もいた。
"やあ、ユメ、それとホシノ"
先生はいつもの調子であいさつをする。
たいして私はその場で表情すらも固まっていた。
ユメ「...ソラノちゃんが女の顔してる!」
ホシノ「なっ!?」
ユメ先輩のとんでもない発言と共に昔の私が動き出し、軽く乱闘騒ぎになった。
騒動がひと段落したころ、私達4人は水族館にあるカフェに入った。
4人がそれぞれ飲み物を頼み、席に座る。
昔の私は不機嫌そうだった。
ホシノ(過去)「...それで、2人は何をしていたんですか?」
ホシノ「えっと...」
"デートだよ"
ホシノ(過去)「はあ!?」
先生...それは事実だけど...ちょっとは気づいて...
女心がわからないの...?
昔の私を盗み見ると再度飛び掛かりそうな勢いで私を睨んでいる。
だがまあ...言ってしまったものはしょうがない。
ホシノ(過去)「...本当なんですか...ソラノ先輩」
ホシノ「本当だよ」
隠さず言うことにした。
昔の私は隠しているがショックを受けた顔をしていた。
先生はそれに気づいてなかった。
殴りたくなった。
ユメ先輩も同じ気持ちなのかちょっと笑顔が怖かった。
"しかし...まさか偶然出会うなんてね..."
ユメ「はい、たまたま水族館のチケットをもらったんです
それで、ホシノちゃんがお魚好きなんで誘って来たんです
2人はデートだそうですが...どうして水族館に?」
"ソラノも魚が好きでね"
ユメ「へえ、ホシノちゃんとそんなところも似てるんだ」
なんて言うので少しヒヤッとした。
その時、館内アナウンスが鳴った。
内容はクジラショーを知らせるものだった。
ホシノ「先生!」
"うん、行こうか"
ホシノ「どうせだし、2人とも一緒に行こうか」
私はユメ先輩と昔の私に声を掛ける。
2人とも私の提案に乗り、4人でクジラショーに向かった。
ホシノ「うへぇ...すっごい人...」
クジラショーには大量の人が集まっていた。
そのため、結局...ユメ先輩と昔の私とは別々になった。
ユメ先輩は頑張れとエールを送ってくれた。
やはり昔の私は睨んでいた。
ユメ先輩と昔の私とは少し離れた場所で先生と一緒に座り、クジラショーの開始を待つ。
しばらくしてクジラショーは始まり、私も先生もその大迫力のショーを楽しんでいた。
ホシノ「やっぱクジラいいね、先生」
"私もソラノみたいにクジラにハマりそうだよ..."
なんて笑顔で言い合う。
クジラショーはあっという間に終わってしまった。
ホシノ「終わっちゃったね...」
"けど、すごい迫力だったね"
お互い感想を言いながら会場を後にする。
その時、ユメ先輩から連絡が来た。
『ホシノちゃんは私の方でなんとかするから2人で楽しんできて』
そんな内容だった。
普段は頼りなかったりするのだが...なぜ色恋だけは敏感なのか...
もう少しその敏感さを日常でも活かしてほしいなと思いながらも私はお礼のメッセージを送る。
"ソラノ、次はどう...うわっ...!?"
私は先生の手を取って少し駆け足で歩きだす。
ホシノ「今度は2人で色々回ろう?」
"でも、ホシノとユメは..."
ホシノ「先生、今日はデートなんだよ?」
"...ごめん、そうだったね...じゃあ、2人には悪いけどそうしようか...ホシノ"
先生は少し申し訳なさそうな顔をして歩くペースを速めた。
私はそのまま手を引いて水族館を歩き出す。
前とは違う水族館デート。
水族館自体もそうだが、私の気持ちも違う。
大好きな先生との...幸せな時間だった。
"ふぅ...もう回り切ったかな"
水族館を端から端まで見尽くした私達は海が見えるテラスに来ていた。
時刻は夕方、景色は眩しくも奇麗な夕焼けだった。
ホシノ「そうだねー...もう知らないところはないくらい見尽くしたね」
夕焼けを見て私の気持ちも落ち着いてくる。
同時に今朝の事も思い出す。
今でもやめろと言う声は聞こえてくる。
なにも学んでいないのか...散々言われてるのにそれでもお前はその選択をするのか。
そう問いかけてくる。
ああそうだ。
ユメ先輩の事は救いたい。
後輩たち以外のことなら何を差し出してでも救いたい。
だが、それと同じくらい...私は先生の事が好きだった。
好きになった。
きっと悲しい思いをさせる...かもしれない。
酷いとは思いつつもそうだといいなと思った。
それでも、私はユメ先輩と同じく、先生の事も守りたい。
だからもし、タイムリミットが来たら私は...
"ホシノ、タイムリミットが来たらどうするつもりだい?"
心臓が止まりかけた。
どうして...?
なんで...急に...
ホシノ「...まだ決めてないかな...残るか帰るか」
"私だけ帰そうとしてるでしょ...ホシノ"
ホシノ「や、やだな...そんなことあるわけないじゃん...おじさんだってみんなに言われて...」
誤魔化しながら答え、先生の顔を見る。
その真剣な顔はもう誤魔化せないとわかった。
ホシノ「...すごいね、先生
私...そんなわかりやすく態度にでたりした?」
"そういうわけじゃないよ...ただ、そう思っただけ..."
ただの勘で当てられたのか...なんだそりゃと思ったが...まあいいや。
私の答えに先生は悲しそうな顔をしていた。
"ホシノ...どうして?
私、何度ももう1人にさせないって言ったよね
なのになんで...
確かにいつもより足は引っ張ってるけど...そんなに私は頼りないかな"
ホシノ「それは違うよ先生!」
思わず声を張り上げる。
ホシノ「頼りなくないよ
そりゃ、いつもより戦闘面で先生を守るために動きは増えたのは事実だけど別にそんなこと苦じゃない
何度私が先生に救われたか...」
"なら...どうして...?"
ホシノ「大切だからだよ、先生」
大切だから守る。
大切だから危険を遠ざける。
なにもそうしたいのは不思議じゃないはずだ。
だから私は...
"大切なのは私もだよ...ホシノを1人でなんて...先生がどうこう以前に私個人が嫌だよ!"
先生が私の手を握る。
その思いに、その手の温もりに絆されそうになる。
ホシノ「だめだよ...私なんかよりも先生は大事なことがあるはずだよ」
"違う...ホシノ、私はホシノのことが...!"
ホシノ(過去)「やーっと見つけた!」
昔の私の声が響き渡る。
その声にハッとして先生は手を放し、私は後ろを見る。
昔の私が走ってこっちに近寄ってきて、その後ろをユメ先輩が申し訳なさそうにしていた。
ホシノ(過去)「まったく...2人で抜け駆けなんてずるいです...なにかありました?」
昔の私が私と先生を囲む重い空気を察した。
ホシノ「ううん、大丈夫だよ
おじさんたちはそろそろ帰ろうとしててね」
ホシノ(過去)「そ、そうですか...わかりました
私達も一通り周ったのでもう帰りましょうか...」
過去の私は空気を読んでそういう。
先生も異論はなさそうだったので4人で水族館の入り口に向かう。
重苦しい空気のまま、水族館の入り口について私達は解散した。
とりあえず明日は2人に謝っておこう。
そう思いながら私と先生は無言で隠れ家に戻る。
それからも私達は喋らない。
隠れ家に戻っても、身支度が終わっても、食事を始めても...食べ終わっても喋らない。
重い空気のまま、時間が過ぎていく。
その中で先程のやり取り思い出す。
あの時...先生は何を言おうとしていたんだろうか...
それを考えていると、先生が口を開いた。
"...さっきの話の続きをしようか"
先生がその重い口を開いた。
ホシノ「わかった..けど先に食器だけ片そうか」
私は了承し、食器を片付けようとして立ち上がる。
その瞬間、力が抜けるのを感じた。
"...ホシノ?"
食器が手から零れ落ちて地面で割れる。
同時に体から力が抜けその場に崩れ落ち、原因不明の苦しさが私を襲った。
ホシノ「はぁ...はぁ...なに、これ...苦しい...力が...抜ける...」
力の入らない手で自分の胸を掴み、その苦しみを耐える。
"ホシノ...ホシノ!?
どうしたんだ急に!?"
先生が駆け寄って私を支える。
ホシノ「わかん...ない...なにこれ...」
原因は分からない。
そんな苦しみにひたすら耐えていると徐々に苦しさは薄れていく。
だが以前、力は抜けたままだ。
ホシノ「大丈夫...少し落ち着いたから」
"ほ、本当に...?"
そうは言うが説得力はないだろう。
脂汗を流しながら、今も恐らく辛そうな顔をしている。
何かの病気か?
でもこんな急に?
そんなことを考えていると先生に電話が来た。
"ユメからだ...どうしたんだろうこんな時間に
もしもし、どうしたのユメ?"
ユメ「よかった..繋がった
助けてください...先生、ソラノちゃん...!
ホシノちゃんが...ホシノちゃんが...!」