ホシノ「はぁ...はぁ...」
"ホシノ、ビナーから砲撃が来るよ!
...2...1...今!"
ホシノ「...ふぅ...了解!」
先生の合図に合わせてビナーの攻撃を防ぐ。
その間にもビナーの眷属が私に襲い掛かるが距離を取って躱している。
昔の私は完全に見失った。
だが、今は追うこともできない。
ビナーとその眷属の相手をするだけで手がいっぱいだった。
満身創痍の身で頑張っていると思う。
けれどその場から離脱も出来ずに徐々に追い込まれていくのがわかる。
このままでは私も先生もユメ先輩も殺される。
ならどうするか...
砂漠の時みたいに私が殿を務めて逃がすか?
いや...そんなのは自殺行為だ。
私の体力を考えても...いくら得意の町中の乱戦とはいえ無謀すぎる。
ホシノ「だめだ先生...無理矢理にでも引こう...この調子で頃合いを見て撤退じゃ削られて終わっちゃうよ」
"そうしたいけど...行ける?"
ホシノ「行かなきゃ死んじゃうよ」
"それもそうだ...
よし、隙を見て突破しよう...ホシノはひたすら前を進んで道を開くんだ"
ホシノ「了解」
"よし、そろそろ行くよ...今だ!"
先生の合図と共に私は走り出す。
道を塞ぐビナーの眷属達を無理矢理押しのけて前に進む。
眷属達からの攻撃は無視した。
もう痛みも感じないので実質ダメージは0だった。
"ホシノ、そろそろ包囲網抜けるよ!"
そのおかげか、包囲網は薄くなり、道が見え始めてきた。
私達はなんとか逃げ切れそうだと思った。
それが慢心...いや、気が抜けてしまった原因なのだろう。
少なからずそれが原因で私は心に余裕が生まれてしまった。
ホシノ「あっ...」
その結果...包囲網を抜けた直後に私は間抜けな声を上げ、小さな段差に躓いて転んでしまった。
後ろにいたはずの先生は私を追いこす。
"ホシノ...!?"
先生はすぐに異変に気付いて踵返して私の元に駆け寄ろうとする。
ホシノ「.......行って!」
私の叫び声に先生の足が止まる。
ホシノ「行って...先生...
おじさん...もうダメなんだ...自分の体を騙して鞭打って動いてきたけどさ...今のでもう完全に限界来ちゃった...
もう、動けそうにないんだ...だから先生...私がいると足手まといになるからユメ先輩を連れて逃げて?」
私は泣きながらそう言う。
こうなっては死は免れない...それから来る恐怖か...それとも先生に対する未練からか...涙の理由はいまいちわからない。
だけども先生は...
"何度言えばわかるんだ...もうホシノは1人にしないって"
私を見捨てない。
私のことも担いで歩き出す。
流石に生徒2人は重いのか...歩く速度は非常にゆっくりだった。
ホシノ「だめだよ先生...これじゃすぐに追いつかれちゃうよ!」
"......"
ホシノ「先生!」
"生徒を見捨てる先生がどこにいるのさ..."
ホシノ「でも先生...!」
"それにね、ホシノ...私はホシノがいなかったら生きていけないんだ...
私はホシノの事がね...好きなんだ...だから絶対に置いて行かない"
唐突な告白に私は顔を赤くして固まる。
だが、すぐに正気に戻る。
ホシノ「...そんなの...私もだよ先生!
だけど...だからこそここで私を置いて逃げて!」
"いいや置いていかない...こっちに来てから私とホシノ...2人でなんとかしてきたんだ...今回だってきっと2人でいれば..."
だが、先生の想いを踏みにじるが如く、眷属は追いついてくる。
そして先生目掛けて銃を放ち、その弾丸は足を撃ち抜く。
逃がさないように、されどまだ殺さないように...無機質なくせに悪意を感じる一撃だった。
"ぐっ...ぐぅ...!?"
私達と違って頑丈な体も防ぐ手段を持たない先生はそれだけで足を止める。
必死に私とユメ先輩を落とさないようにその場に踏みとどまっているが...
"ぐあ...!?"
ビナーの眷属はそんな先生を蹴り飛ばして吹き飛ばす。
動けない私とユメ先輩はその場に落ちて先生と離れてしまう。
そして眷属達は先生を取り囲む。
"くそっ..."
先生は毒づいて眷属達を見ている。
その目はまだ諦めてはいないが、眷属達は銃口を向けている。
それはだめだ。
ホシノ「先生...!」
体を持ち上げる...ゆっくりだ動かないと思っていた体は悲鳴を上げながらも動いてくれた。
ホシノ「ぐあ...!?」
けれど眷属の1体が私の背中を踏みつけて行動を許さない...まるでビナーたちが...歴史の修正力が報いだと言っているような気がした。
ホシノ「だめ...やめて...私ならどうなってもいいから先生は...先生だけは止めて!」
叫んでも私の声は届くことはない。
街をこだまするだけでなにも変わらない。
先生を殺すために眷属は動き続ける。
ホシノ「お願い...やめて...私はどうなってもいいから...」
幾たびの懇願も聞き入れられることはなく、私は泣きながらも懇願する。
ホシノ「...お願い...今後なにが私を待ってても...今、命を差し出したっていい...だから先生を助けて
......誰か...助けて」
"ホシノ"
絶望的な状況の中、先生は私に微笑みながら声を掛ける。
その目は光が消えていない。
"大丈夫、きっとなんとかなるから"
先生の額に銃口が突き付けられる。
ホシノ「だめ...だめ先生!
お願い逃げて...誰でもいい...なんでもいいから先生を助けて!」
引き金に指が掛かる。
発砲音が辺りに鳴り響く。
眷属達の姿のせいで先生が見えない。
ホシノ「先生...先生ー!」
「ん...間一髪...本当にギリギリだけど間に合ってよかった」
聞き覚えのある声が聞こえたと思うと先生に銃口を向けていた眷属がその場に倒れた。
先生も不思議そうにしていたがどうやら生きているようだった。
「お待たせ、ホシノ先輩...助けに来たよ」
全員が声がした方向を見る。
そこにはシロコちゃんが...後輩達が立っていた。
ホシノ「みんな...なんで...
もう1人のシロコちゃんまでどうして...」
シロコ*テラー「ん、詳しい話はあと...とにかく一度撤退してからだね
ノノミ、セリカ...先生たちを運んで
私とよわシロコが足止めをして、アヤネは全体のサポートをお願い」
シロコ「...ん...ここでそっちがよわシロコなのを証明する」
後輩達は迅速に動き出し、シロコちゃんたちが眷属達を倒していく。
ノノミ「ホシノ先輩、大丈夫ですか!?」
ホシノ「私は...先生とユメ先輩は...?」
ノノミ「何を言ってるんですか、今一番怪我が酷いのはホシノ先輩なんですよ!?」
ノノミちゃんに怒られながら私は背負われる。
ノノミ「あっちはセリカちゃんに任せて私達は撤退しますよ」
ノノミちゃんに背負われながら私達は撤退を始めるが...私は緊張の糸が切れたのか意識がそこで途切れた。
目が覚めると私はアビドス高校の保健室にいた。
ダメージが残っているのか、体を動かすたびに痛みが走り、力も入らない...
昔の私もまだ反転したままなのだろう。
"...ホシノ...目覚めたの?"
隣を向くと先生が座っていた。
目覚めた私を見て安堵していた。
"怪我が酷いからもう少し目覚めるのに時間かかると思ったけど..."
ホシノ「...うん...なんとかね
状況...どうなってるの?」
"とりあえず...ユメはまた目覚めてないね"
ホシノ「ユメ先輩は寝坊と...私は起きたのに...」
"いや、ホシノが起きるの早すぎるんだって..."
先生は苦笑しながらそう言う。
私も釣られて笑顔になると同時に...ある発言を思い出す。
ホシノ「あ、あのさ先生...さっきのあれ...ほんと?」
"あれって?"
あの時の告白...嘘をついてるとは思わないけれど流石に確認したかった...だが今はその時ではない
ホシノ「...なんでもない...後ででいいや」
先生はみんなを集め始めた。
"それじゃあ、ユメが起きないうちに話をしようか"
先生が仕切りながら話し合いが始まる。
アビドス七不思議の1つを使って過去のアビドスに来たこと、ユメ先輩を助けるために過去を変えようとしていること...などなど
ホシノ「ところでみんなはどうしてここに...?
元の世界はどうなってるの?」
アヤネ「元の世界で変化は特にありません
ホシノ先輩と先生はここで数か月過ごしているとの事ですが...こちらでは1、2時間程しか時間は経ってないですね
どうやって来たかは...私達ももう1人のシロコ先輩に連れてこられただけなので...」
シロコ*テラー「私はプラ...秘密の情報筋から軽く説明とSOSを受けて...」
秘密の情報筋がなにかわからなかったが先生は納得した顔をして愛おしそうに先生がいつも使っているタブレットを見ていたけど...あれ、使えるようになったんだ...
アヤネ「ところでホシノ先輩」
アヤネちゃんから声を掛けられるが...恐怖で体が震えた。
アヤネ「また...ですか?」
ホシノ「待って待って、今回は先生もいるんだからセーフじゃない!?
あの穴だっていつまであるかわかんないんだし!」
ノノミ「それでも連絡くらいはできたと思いますよ」
ホシノ「うぐっ...それは確かに....」
いたたまれない気持ちにもなるが...みんなの顔を見る。
どこか安堵していたり、心配そうな顔をしていた。
セリカ「...心配したんだから」
シロコ「ん...確かに1人で行動しなくなって成長したけどまだ足りない...」
ノノミ「...死にかけてるホシノ先輩見て心臓が止まるかと思いました」
シロコ*テラー「...ホシノ先輩、もう...私を置いて行かないで」
みんなの気持ちが痛いほど伝わる。
それと同時に自分が幸せ者だと再確認させられる。
...せっかく来てくれたんだ...なら、最後まで頼ってしまおう。
ホシノ「ありがとう、みんな
この先、私だけじゃ正直勝てなかったからさ...みんな、手を貸して?」
私の声に全員が同意の意を示してくれた。
いける...これならビナーも...昔の私も、ユメ先輩も救えるはずだ。
ホシノ「それじゃ、戦況を確認しようか」
先程の説明に重なる部分もあったが現在の状況を確認する。
私の不調、カイザーとの戦闘、昔の私の反転及び戦闘、ビナー。
それらを聞き終える頃には全員変な顔をしていた。
ホシノ「...こんな感じだけど...みんなどうしたの?」
シロコ「...ホシノ先輩...不調...なんだよね?」
シロコちゃんが当たり前なことを聞いてくる。
ホシノ「うん...今も苦しいし、力も入らないよ?」
アヤネ「...知ってはいましたが」
セリカ「...やっぱバケモンね...ホシノ先輩...そんな状況でカイザー潰すわ反転したホシノ先輩と戦うわって」
ノノミ「ホシノ先輩らしくはありますけどね」
ホシノ「なんかみんなひどくない?」
なんだか罵倒された気がするが後ろから呻き声が聞こえた。
ユメ「あれ...ここは...」
ホシノ「...ユメせ...ユメさん...!」
ユメ先輩が目を覚ました。
私は駆け寄って、ユメ先輩は周りを見渡していた。
ユメ「なんかいっぱい人が増えてる...」
ホシノ「安心してください、みんな私の後輩...頼れる味方ですから」
ユメ「そっか...これがソラノちゃんが言っていた後輩...」
嬉しそうな目でユメ先輩は後輩達を見ていた。
"おはよう、ユメ...早速で悪いけど、状況はよくない...これから作戦会議だ"
ユメ先輩が軽く身支度を終えて全員椅子に座って会議を始める。
ユメ先輩には後輩たちの情報は一部伏せて、現在の状況を確認する。
"じゃあ作戦会議だ
今回の大きなポイントは2つ、ビナーの撃退とホシノの救出だ"
アヤネ「現在、ホシノさん、ビナーは共にアビドスの町を徘徊中です
シロコ先輩のドローンが確認してくれています」
ホシノ「徘徊...ホシノちゃんはともかくビナーも...?」
アヤネ「はい、破壊活動も特にせず...眷属と共に徘徊しています...その様子は何かを探しているかのようでしたが...」
何かを探している...きっと私と先生だ...
恐らく歴史の修正力の影響を受けて私と先生を殺そうとしているんだ。
"最終目標であるホシノの救出の前にビナーをなんとかしよう
ホシノはほっといても今は大丈夫そうだし...
それにこのメンバーならビナーを撃破...または撤退に追い込めるはずだ"
シロコ「先生、作戦は...?」
"今回、ビナーは今までと違って眷属を従えている...
これはセリカとノノミ、2人で分担しながら対処して欲しい...ビナー本体はソラノ、シロコ、クロコが攻めて、アヤネとユメは私の傍にいて私の護衛とみんなのサポートを...みんな、ビナーはこれでいいね?"
2人のシロコちゃんはユメ先輩が混乱するのでシロコちゃんとその双子の姉のクロコちゃんということにしてある。
命名は私だった。
ソラノといい、クロコといい、安直すぎて全員に笑われていた。
先生の作戦に異議を唱える者はおらず、全員が同意した。
ユメ先輩は会議中は終始無言だった。
作戦会議を終えて私達は1時間の休憩を先生から言い渡された。
私はともかく、後輩達も私が寝ている間に頑張ってくれていたらしい。
そのため、全員が出来る限り万全の状態で挑む状況だ。
私は、なんとなく生徒会室に足を向けた。
ホシノ「あれ...ユメさん?」
ユメ「...ソラノちゃん」
生徒会室にはユメ先輩がいた。
どことなく寂しげな顔をしていた。
ユメ「ごめんね...まさかこんなことになるとは...」
ホシノ「気にしないでください、そんなの誰だって予想できないですし」
ユメ先輩は恐らく昔の私が反転してしまったことを悔いているのだろう。
しかも自分がトリガーとなったことで。
それに関しては否定はできない。
昔の私はユメ先輩が死んだと思って反転したのは事実だ。
ユメ「...それにソラノちゃんの後輩すごいね...みんな強くて...私、足手まといになるかも」
ホシノ「...ユメさん?」
ユメ「...ねえ、私待ってた方がいいかな...その方がみんなの為になるかな?」
だんだん言いたいことがわかってきた。
今のアビドスは私が1年の頃より格段に強い。
そんな中に自分が混ざっていいのか悩んでいるのだろう。
ホシノ「...全部丸投げにしてしまおうってことですか?」
ユメ「ちがっ...私はそんなこと!?」
ホシノ「...ホシノちゃんのこと、助けたくないんですか?」
ユメ「助けたいよ!」
無論、ユメ先輩が丸投げにしようとを思っていないことは分かっている...むしろ動きたいはずだ。
だが、置いてけぼりにされたり足手まといに感じているが故の弱きなのだろう。
ホシノ「でしたら...手伝ってくださいよ
ビナーは純粋な戦闘力が必須なので確かにそこでは足手まといになります、ですが、ホシノちゃんはそうじゃないです...ユメさんの存在が必須なんです
助けたいならくよくよしてないで手伝ってください」
私の言葉にユメ先輩はハッとした顔をする。
ユメ「...ごめんね、弱気になってたかも」
ホシノ「いくら私の後輩と説明しても知らない人たちが話をどんどん進めていったら疎外感感じますよ...すみません、私の配慮不足でした」
ユメ「子供じゃないんだから...そこまで気にしないで大丈夫だよ」
ホシノ「現にさっきそれで落ち込んでたじゃないですか」
ユメ「うっ...」
ホシノ「ほら、そろそろ時間ですから行きましょう」
ユメ「そうだね...
...こんな日が来るなんて」
先に歩き出した私の背中にそんな言葉が投げかけられた気がしたが私にはよくわからなかったので何も言わないでおいた。
先生と後輩たちに合流した後、私達は町中に出た。
ビナー討伐を目指して歩みを進める。
今回は正面から挑むため、ビナーとその眷属達と正面から向かい合っていた。
セリカ「ねえ、ソラノ先輩本当に大丈夫なの!?」
心配そうな声でセリカちゃんが声を掛けて来てくれた。
ホシノ「うへっ...おじさんもう平気だけど?」
セリカ「でもまだ不調な上に怪我だって酷いのに...」
セリカちゃんの言いたいこともわかる。
私もよくこれで動けるなとは思っている
シロコ「ん、きっと大丈夫だよ...だって多分、今でも私よりソラノ先輩の方が強いはず」
シロコ*テラー「ん、よわシロコだから仕方ない...私なら今ならソラノ先輩に勝てると思う」
ホシノ「それは聞き捨てならないなー...クロコちゃん相手でもまだ負ける気はないよ?」
セリカ「ちょっ...何競い合ってるのよ!?」
アヤネ「でもセリカちゃん...多分大丈夫だと思うよ?」
ノノミ「はい、ソラノ先輩の目を見ればわかりますね
あの目のソラノ先輩ならきっと...なんとかしてくれますよ
それに先生も付いてますからね」
なんだか恥ずかしいことを後ろで言われている気がする。
"仲がいいのは結構だけど、そろそろ時間だよ
みんな、準備はいい?"
先生の声に全員気を引き締める。
ホシノ「いつでも行けるよ」
シロコ「ん、大丈夫」
シロコ*テラー「ばっちりだよ」
ノノミ「準備完了です!」
セリカ「オッケーよ!」
ユメ「うん、行ける!」
そして全員が力強く返事を返して駈け出した。
"目標、ビナーの討伐、及び撤退!
ソラノ、シロコ、クロコは作戦通りビナーの対処を最優先に!
眷属達はできる限り無視して進んで、セリカとノノミは眷属達を3人に出来る限り近づけさせないで!"
各々返事をして、私達3人はスピードを上げる。
隣を走る2人を見て感心する。
本調子じゃないとはいえ私についてくるなんて...成長したんだなと
感傷に浸ってる場合ではないのですぐに考えを切り替えて前を見る。
ビナーはそこにいて、無機質なはずなのに殺意が籠った目で私を見ている。
3度目の正直だ...今度こそ、超えて見せる。
未来のためにも、ユメ先輩のためにも...私は絶対に...!