目が覚めると例のごとく私は先生に抱きしめられていた。
以前はドキドキしてよく寝れないと言っていた先生は流石に慣れたのか、穏やかな顔で寝ていた。
先に起きて見つめられるのもあれだが、慣れてしまうのもちょっと癪だった。
時計を見れば目覚ましの時間の30分前に起きていた。
先生の温もりに寂しさを覚えつつも寝具から出て、私は朝食の準備をする。
とは言っても簡単な目玉焼きとソーセージを焼いたものだ。
......まあ、簡単なものと言っても目玉焼きは崩れているのでなんとも言えないが
"あれ、ホシノ...?"
朝食の匂いに釣られてか、先生が目を覚ます。
ホシノ「おはよう、先生
朝食作ったから食べようよ...まあ、失敗したんだけど...」
テーブルに崩れた目玉焼きと少し焦げたトーストとソーセージを並べて2人で向かい合って座る。
"いただきます..."
ホシノ「いただきます」
2人で手を合わせて静かに朝食を食べ始める。
まだ眠いのか先生は瞼が微妙に開いていない。
"...焦げはあるけど、美味しいね"
ホシノ「そんな大きな失敗する料理じゃないからね
でもありがとう」
先生の感想に私は頬を緩ませる。
ホシノ「先生、口の周りについてるよ?」
"んー..."
私の指摘にぽわぽわとした間の抜けた返事を先生は返す。
意外なことに朝は弱いのかもしれない。
...早起きは三文の徳とはよく言ったものだ。
朝食も終え、先生もしっかり目を覚ましたころ...丁度支度も終えてアビドスに向かう時間になった。
朝の弱い先生をサポートするのは意外と楽しかったが下着姿になった時は焦った。
先生にも何度も謝られた。
......もう少し見てもよかったかな。
なんて思いながらも歩いていると先生の携帯端末にメッセージが届いた。
どうやらユメ先輩が寝坊した様子で一緒に来る昔の私共々遅れるらしい。
きっと今日から始まる授業が楽しみで寝れなかったのだろう。
だとしたらユメ先輩らしい...
そう思って頬を緩ませているとニコニコと先生が私を見ていた。
恥ずかしいのを誤魔化すために軽く小突いたが当たり所がよ過ぎて先生は悶絶していた。
ホシノ「誰もいない教室って寂しいね」
アビドスについて昨日掃除した教室の席に座り、私は呟く。
教室には私と先生だけで、ガラリとして私の言った通り、寂しさが溢れてた。
"もう少ししたらユメと昔のホシノも来るよ"
励ますようにか、先生はそんな風に返す。
ホシノ「それでも、先生1人と生徒3人で4人だけの教室で寂しいことには変わりないけどね」
"そんなことないと思うけどね..."
お互い、苦笑しながら見つめあう。
ホシノ「...ねえ先生、それと同時に生徒と先生が教室に2人っきりってなんだかいけない雰囲気しない?」
"いきなり何を言い出すの!?"
私の唐突な発言に先生は困惑した声を挙げる。
2人っきりの教室で生徒と先生は禁断の関係になる......そんな話をどこかで聞いたことがある。
まあ、少女漫画とかではよくあるパターンなのだろう。
私は読まないから詳しくは知らないが。
ホシノ「でも、こういうシチュエーションはよくあるでしょう?
大抵は夕暮れ時だけどさ」
"だけど、私とホシノは..."
ホシノ「冗談だよ、先生
ちょっとからかっただけ」
"はえ...?"
先生は素っ頓狂な声を挙げる。
そう、冗談だ。
なんとなくそのシチュエーションを思い出したのと、朝の下着の件で仕返しとして先生を困らせるための発言である。
先生は見事に引っかかってくれた。
"なるほど、そういうことか"
ホシノ「うへへ、ごめんね
でもこれで朝の分とチャラでいいよ」
"はあ...わかった...確かに私にも責任はあるからね
でもホシノ"
ホシノ「なあに?」
"あまり私をからかわないように、今の本気にしたらどうするんだい?"
ホシノ「えっ」
鋭いカウンターだった。
思考停止されるくらいには奇麗に決まった。
ホシノ「先生、今のどういう...」
"......少し外に出る
授業の準備と気持ちを落ち着けてくるよ"
ホシノ「あっ...ちょっと...!」
そう言うと先生は私の制止を振り切って教室を後にした。
1人になった教室で私は窓の外を見る。
いい天気だった。
雲一つない快晴。
ぼーっと眺めてればいくらでも時間を費やせそうだった。
「ホシノちゃん?」
ホシノ「あっ先生、戻ってきた?」
私を呼ぶ声に教室の入口を見る。
そこにいたのはユメ先輩だった。
...まずいと思った。
心臓が止まりかけた。
今、私のことをホシノと呼んでいたはずだ...しかもそれに普通に反応してしまった。
ユメ「ごめんね、先生じゃなくて...
あと...勘違いしちゃってごめんね...ソラノちゃんとホシノちゃん...似てるから...」
ホシノ「い、いいんですよ...それくらい
それより、そのホシノちゃんはどうしたんですか?」
ユメ「いまトイレに行って...私だけ先に教室に来たの...
でも...今ホシノちゃんって呼んだらソラノちゃんが反応して...」
ホシノ「ほ、ほら...私とホシノちゃんって似てるじゃないですか...それで...」
ユメ「そ、そっか...うんそうだね...」
お互いあたふたしながらなんとか誤魔化せた気がする...
ホシノ(過去)「2人とも、教室の入り口でなにやってるんですか」
ユメ「ホシノちゃん!?」
いつの間にか昔の私と先生がやってきた。
私とユメ先輩は慌てながらも席につく。
ホシノ(過去)「それで、今更何をやるんですか
そもそも私以外3年なので合わないと思うんですが」
"勉強をすること自体、大事な権利だからね
やるだけでもいいんだ
その上でなにか学べるといいよ
とりあえず今日は高校1年の数学からやろうか"
そう言うと先生は黒板に文字を書き始めた。
私達はその字を見ながら先生の話を聞く。
意外と言うか...そもそも本職なので意外も何もないと思うが...先生の授業はとてもわかりやすかった。
驚くほどすらすらと頭の中に吸収されていく感じがした。
"じゃあこの問題を解いてもらおうか
誰か、前に出て解いてみて"
ユメ「はい!」
先生がそう言うとユメ先輩は元気よく手を挙げて前に出る。
自信満々に答えを書いているが...
ユメ「できました」
"...うん、惜しいね"
ユメ「えっ」
ものの見事に計算ミスをしていた。
ホシノ「ユメさん、これはですね」
私は近くに寄って間違いを指摘する。
元々大本は理解できていたのか、すぐに間違いを理解できた。
ユメ「なるほどー...ソラノちゃん頭いいね!」
ホシノ(過去)「......つ、次は私が解きます!」
私に対抗心を燃やしているのがよく分かった。
そんな感じで驚くほどに時間はあっという間に過ぎた。
授業なんて退屈だったはずだ。
それなのに...先生やユメ先輩がいるだけでこんなに楽しいのか...
...未来に戻ったら先生に頼んでみんなで授業を受けようと思った。
ユメ「今日はつっかれたー!
お腹もすいたね、ホシノちゃん」
授業も終わって夕暮れ時、ユメ先輩はそんなことを言った。
"じゃあ、ラーメンでも食べに行こうか
私が全員の奢るよ"
ホシノ「ちょっと先生...大丈夫なの?」
"...カードがあるからね"
私が心配そうに声を掛けると先生はそう言った。
...冷や汗かいてないだろうか
そのまま私達は柴関ラーメンに向かった。
大将は驚くほど変わってなかった。
その姿に驚きつつもみんな思い思いに注文をする。
私と昔の私は普通の醤油ラーメン、ただし大盛だった。
若いっていいなあ...
先生は味噌ラーメン、こっちも変わりはない。
問題はユメ先輩だった。
どうせならと全部乗せラーメンという超大盛みたいなものを頼んでいた。
先生は値段を見て、ユメ先輩は運ばれてきたラーメンを見て絶句していた。
ユメ「食べ過ぎて気持ち悪い...」
ホシノ(過去)「調子乗ってあんなの頼むからでしょ...」
ユメ「でも食べきったよ...」
ホシノ(過去)「当たり前ですよ、それは!」
ラーメンを食べ終えてユメ先輩は昔の私に叱られていた。
当然である。
ホシノ(過去)「...じゃあこのバカな先輩を連れて帰りますので今日はこれで」
ユメ「バカ!?」
コントのようなやり取りをして2人は帰っていった。
ホシノ「......お金大丈夫そう?」
"来月の私が頑張るよ..."
先生の声は消え入りそうだった。
そのまま私と先生は隠れ家に帰った。
シャワーも浴び終えて寝る準備をして、慣れた動作で先生と同じ寝具で横になる。
"ホシノ、今日はどうだった?"
先生がそんなことを聞いてくる。
ホシノ「急にどうしたの?」
"いや...今日のホシノ、すごく楽しそうだったからさ...
過去に来てから一番って言っていいほど笑っていたよ"
ホシノ「えっ...そうだった...?」
先生の発言に自分の今日の行動を振り返る。
確かに先生の言う通り、すごく今日は楽しかった。
なんでもない1日なのだが...すでに諦めていたユメ先輩との青春...それがどうしようもなく楽しくて...
このあとの事がどうしても悲しかった。
だから私は...
ホシノ「......うん、すごく楽しかったよ...今日のは
でも...これもなくなっちゃうんだよね...」
"......"
ホシノ「先生、私...すごいわがまま言うかも」
"言ってみて"
ホシノ「私、未来を変えたい」
穏やかな顔だったが先生の顔は険しくなった。
"それはどういう意味か解ってる?"
ホシノ「...うん」
"そもそも、この前の事件で歴史の修正力があることがわかった
まず、この時点で大変だよ"
ホシノ「わかってる」
"未来を変えるとなると、後輩たちはどうするの?
アビドスに来るかわからないよね
もう会えないかもしれないよ"
ホシノ「言ったよね、すごいわがまま言うって」
"......うん?"
ホシノ「未来は変える、後輩達は諦めない
これが私の方針だよ」
"すごいこと言いだすね...びっくりしたよ..."
ホシノ「言ったじゃん、わがままだって...でも、諦めないよ...
先生の事もどっかで解放できればいいんだけど...」
"じゃあ最後だよ...ホシノ"
ホシノ「うん...?」
"創作の話なんだけど...たとえ未来を変えて戻っても...私達の未来は変わらない...並行世界を作るだけになるかもしれないよ"
ホシノ「.......それでも私は、未来を変えたい
例え私自身には影響がなくても...1人でもユメ先輩を救えるなら...!」
真剣な顔の先生は考えこんだ後に口を開いた。
"今回のことは...どれだけの影響を世界に及ぼすのか分からない
だからホシノ...1人ではやらせない
一緒にやろう"
ホシノ「でも、先生...」
"あの穴に飛び込み時にも1人でやらせないって言ったでしょ
こんな危ないこと1人でさせないよ
...生徒のやりたい事は出来るだけやらせたいからね
何かあれば、責任は私が追うよ"
ホシノ「....わかった、先生ありがとう」
私は嬉しさで先生に抱きついた。
すぐに2人とも恥ずかしさに襲われて距離を離した。
ホシノ「...そろそろ寝ようか、先生」
"そうだね..."
ぎこちないやり取りで私と先生は再度寝具に横になる。
未来を変える。
見えない妨害もあるなか、難易度は相当なものだろう。
それでも私はユメ先輩を救いたい...
わがままな願いと覚悟を胸に、私は眠りについた。