思いついた学マス短編集   作:ハト

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ことね好き


名前で呼んで欲しいんです。

「なんでことねって呼んでくれないんですか?」

ある日の昼過ぎ、少し早めにレッスンを切り上げ二人の活動拠点である教室で休憩を取っている時、ソファで横になっていた藤田さんが突然起き上がったと思ったらそんな疑問を投げてきた。

「どうゆうことでしょうか?」

あまりに突然なことだったので面食らってしまい、パソコンを操作する手が止まり動揺しておもわず逆に疑問を返してしまう。

「いやプロデューサーとあたしもうそれなりに長い付き合いじゃないですかぁ」

こちらに振り返った藤田さんが横髪をくるくると巻きながら少しもどかしそうに言う。

「だからこう……ちょっと距離感を縮めたいなぁと思って」

「距離感ですか」

確かに彼女のことをプロデュースしてもう一年は経っている。あまり意識したことは無かったが確かにずっと藤田さん呼びだった。しかし距離感で言ったら。

「距離間で言ったら俺達もうだいぶ近くないですか?」

それを言ったら藤田さんは「確かにそうですけどぉ~」なんてなんか不服そうに顔を歪める。

この一年間、藤田さんをプロデュースをして二人で出かけたり、食事も一緒に食べたり水着を着ていたとは言え二人きりで温泉にも入ったのだから今更な気がしてくる。

「でもだからこそなんか藤田さんってちょっと他人行儀じゃないですか?」

「確かにそうかもしれないですね」

彼女の言うことも一理ある。なら早速呼んでみようということで。

「ことねさん」

「はい……」

試しに呼んでみたのだが藤田さんの不服そうな表情は変わらない。

「なにかダメでしたか?」

藤田さんからの視線に耐えられず思わず聞いてしまう。

「いやなんか……言わされてる感が強くて」

「言わされてる感ですか?」

彼女の言葉に余計にいたたまれなさが増して来る。

「もっとこう自然な感じでお願いします!」

「自然な感じですか」

彼女に言われもっと自然な感じを意識すべく一度息を吐き心を落ち着かさせる。

「ことねさん」

「はい」

今度はうまくいったのか藤田さんは返事したあと腕を組み目を瞑りなにか考え込んでいる。そんな沈黙の時間がなぜか自分を緊張させた。少し経って藤田さんが口を開いたと思ったら、

「まだなんかこう違和感が」

と結局ダメ出しされてしまった。

「なにがいけなかったですかね」

と改善案を聞いてみれば、

「あたしのことをもっと大事に思ってる感じで言ってみてください」

なんて余計わからなくなるようなアドバイスが返ってくる。俺の中では藤田さんは大分大事な存在なのだがそれでも足りないらしい。

「ことねさん」

「もう一回!」

「ことねさん」

「もう一回!」

そんなこんなで始まった藤田さんの名前呼びトレーニングは結構白熱してしまい、いつの間にか窓の外からはオレンジ色の光が差し込んできていた。

「ことねさん」

「うーん……」

もう何度目かもわからないが自分でも結構納得がいく仕上がりになったと思う。藤田さんは相変わらず腕を組み、何度も咀嚼するように頷くと、

「結構よくなりました!」

とようやく彼女から合格を貰った。にしても結構疲れた。アイドルに必要とはいえ演劇の練習はよくプロデュースしていたがまさか彼女からしてもらうとは。流石に遅くなってしまったので今日の所はお開きとして帰る準備をする。

「結構長いことやっちゃいましたね」

「まさかこんなことになるとは思いませんでした」

残った仕事は明日やろう流石に疲れた。まだ自分が慣れないというのもあって下の名前呼びは一旦保留で終わった。

教室を出て藤田さんを寮に送る。

「ではまた明日ですね、ことね」

「え」

「あ」

さっきのことで思わず出てしまった名前呼びそれも呼び捨てで呼んでしまい、思わず謝ろうとした所。

「今のが一番よかったです……」

そう言って顔を赤くした藤田さんは見られたくないのか顔をうつむいたまま寮に帰ってしまった。

残された自分はただその背中を見つめるだけであった。

 

後日そのことを謝ったら、「これからは名前呼びじゃなきゃ反応しませーん!」となぜかことねさんに怒られてしまった。

 




ことね好き
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