我らプロデューサー候補生   作:フユガスキ

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プロデューサー(倉):倉本千奈のプロデューサー。ゲームは下手

倉本千奈:ボードゲームなら大抵嗜んでいますわ!


倉本千奈とおゲーム

「これは、なんと……」

 

 某動画投稿サイトで星南お姉さまの動画を漁っていると、目を惹くサムネイルの動画を見つけた。

 興味本位で再生してみると、それは熱狂的なまでの観客の声援が飛び交う中、逆境をひっくり返す某格ゲーの大会の様子だった。

 飛び交う闘争、熱に戦ぐ群衆、目まぐるしい心理戦に心を打たれ、次から次へと動画を漁りに漁り、そして、倉本千奈はその熱狂の渦に呑み込まれていくのだった……。

 

 

ドドドド……(倉本千奈絶賛妄想中)

 

キインキイン!(ガードした音)

 

「攻撃して来たら守りますわ!」

 

ハッ!ハッ!ドリャ!(攻撃した音)

 

「隙を見て攻撃しますわ!」

 

ピコンッピコン!!(HPが少ない音)

 

「絶体絶命でも、あの方のように諦めませんわ〜!」

 

 キーボードの類似品を叩き、画面内の戦士を手足の如く動かす洗練された技の応酬に大盛りあがりするファンたち……。手に汗握る勝負に、わたくしも観客も分け隔てなく一喜一憂する一体感……。この舞台でわたくしを魅せれる高揚感……。

 

 これはとてもいいですわ!

 

ドドドド……(妄想了)

 

「というわけで、ゲームをご教授頂きたいのです」

 

 倉本千奈に、いい考えが思い浮かびましたわ!と呼び出されて来てみれば、突拍子のない考えを聞かせられた。

 休養日に新たな発見でもしたのだろう。深窓のご令嬢には全てが目新しく見えるはずだ。アイドルを忘れて休養を満喫できているようで感心である。

 

「もちろん、先生の言いつけは守りますわ。……って、流さないでくださいまし!」

 

 無論、流す気はない。

 しかし、アイドルが関心を持ったものは積極的に応援したいところだが、お嬢様というキャラ付けと競合してしまう趣味には同意しかねる。

 所謂ギャップ萌え、なんてものを狙ってもいいのだが、倉本家のレベルともなると世間知らずのクラシックなお嬢様のほうが都合が良い。

 

「しかし……やはり、あの歓声の雨に打たれてみたいものです……」

 

 倉本千奈がしゅんと残念そうな顔をすると、お付きのメイドさんが頻りに目配せをしてきた。どうにかせよ、と仰せらしい。

 倉本千奈が目指すアイドルイメージから掛け離れるが、倉本家にこれ(主に無茶振リクエスト)以上歯向かうのも心象がよくなさそうなので、仕方なく承知した。

 究極的には問題ない。

 

「良いでしょう。その心意気に付き合います」

 

「本当ですか、先生ぇ!では、早速用意致しましょう。何からすればよろしいのですか?」

 

 担当アイドルは目を輝かせて質問してきた。

 プロデューサーとしては、ある程度人気で取っ付きやすく、キャラ売りをしていて、アイドル業に応用できる素晴らしいゲームを所望したいところである。仕事に繋げるとなれば広告塔を請けられるものを選抜するのだが、それは倉本千奈の本意ではなかろう。

 倉本千奈の意図するところは年齢相応のゲームであると予想される。ならば、倉本千奈の親しい友人に聞くのが手っ取り早い。

 

「倉本さん、ご学友に聞いてみてはいかがですか。きっと面白いものが見つかりますよ」

 

「分かりましたわ、先生」

 

 

 

――――――

 

 

 

「花海さん、篠澤さん。ゲームは嗜んでいらっしゃいますか?」

 

「ゲーム?」

 

 先生より与えられた助言に従い、まずは親しい友人に尋ねると花海さんは小首を傾げた。

 ゲームと言っても、テレビゲームやスマホゲームのようなコンピューターを使用するゲームについて再度聞いてみると、良くやっていたと期待できる返答をされた。

 

「私は……やったこと、ない」

 

「わたくしもですわ」

 

「えええ!」

 

 花海さんは驚愕して奇声を上げた。そんなに驚くほどのことだろうか?

 

「生まれて、一度も?」

 

「うん」

 

「はい。ですので、何か始めてみようかと思いまして」

 

「そっかぁ……」

 

「花海さんはどんなゲームをなさっているのですか?」

 

「私も気になる」

 

 花海さんに質問を投げかけると、困ったようにして唸ってしまった。

 

「んーー。今はやってないんだよねぇ」

 

「昔は遊んでいらしたのですか?」

 

「そう、お姉ちゃんと一緒にやってたんだ。でも……たぶんもう売ってないから新しくはできないかな」

 

「まぁ、なんと」

 

 ゲームはボードゲームのように残り続けないようだ。倉本の名を使えば蒐集家から買い取ることもできるだろうが、そのような貴重なものをぞんざいに扱うのは憚られるため、あくまでも一般的な方法でゲームを手に入れたい。

 

「しかし、そうなるとどうしましょう」

 

 案出しが行き詰まった。

 3人寄ればというが、わたくし共では足らぬらしい。

 うんうんと頭を悩ませていると、唯一の頼りである花海さんの代わりに篠澤さんが口を開いた。

 

「そういえば、千奈はなぜゲームをしたい、の?」

 

「良くぞ聞いてくださいましたわ!何を隠そうわたくし、とんでもない映像を見てしまったのです」

 

 そう啖呵を切ってスマホの画面を見せる。見せる映像は先日に見たものと同じものである。

 あの感動、あの熱量はこの短い映像で十分に伝わるだろう。きっと虜になってしまうに違いない。

 そんな期待半分オススメ半分で見せた映像に、篠澤さんは目を輝かせたが、花海さんからは期待していた反応を得られなかった。困惑した表情を浮かべている。

 

「……千奈ちゃん、格ゲーするの?」

 

「いえ、このゲームに拘るつもりはありませんわ。もちろん、出来るならやってみたいですけど、わたくしのゲームの知識ではあまりに無謀でしょう。なので、まずは最近の簡単なゲームを触ってみたいのです」

 

「最近のゲーム……あっ、そういうことなら会長がゲーム配信をするって言ってたよ」

 

「そういえばそうですわ!」

 

 すっかり失念していた。

 今日のお昼、つまり今、星南お姉さまがゲーム配信をすると仰っていた。

 星南お姉さまがゲームをするということは、即ちそのゲームは一番星(プリマステラ)が選んだゲームとなる。そのゲームをわたくしも遊べば、星南お姉さまに近づきながら新天地も開拓できる、まさに一石二鳥のゲームになる。

 早速、星南お姉さまの配信をつけると、スマホから星南お姉さまの愛しい声が奏でられた。

 

『イージー、ノーマル、ハード……?取り敢えずハードで良いわね』

 

『くっ、ぅく……はぁ。ちょっと待って、もう一度やるわ』

 

『はいはいはい、えっ?ちょっと止まっ、ゲームオーバー!?今完全に押してたわ!』

 

『…………。ノーマルに下げてもいいかしら』

 

『え、ハードの上なんてあるの?……そんなに変わらなっ、ウソでしょ!!?』

 

 憧れの星南お姉さまは、リズミカルに降ってくるノーツに悪戦苦闘を強いられていた。最終的には無言で挑戦してもクリアできないため、難易度を最低まで下げている。

 コメントでは『こんなのが会長だなんて呆れたわ。基本的なパターンを覚えることから始めるのよ!』『出来ないなら辞めれば?』『会長、かわいいですよー。アンチコメントは無視してくださーい』『残当』『リーリヤ、残当ってなに?』『コメントでは本名を控えて下さい』『バカめ。練習してから配信をすべきだ』などと応援のコメントで溢れかえっている。流石星南お姉さまだ。

 

「すごい。目が追いつけない」

 

「音ゲーは全然できないなー」

 

 ゲームをしてらしたことのある花海さんでさえ難しいと言わしめる音ゲー。奥が深いですわ!

 見ている限り、ゲーム性は単純明快。振り続けるノーツをタイミング良くタップし、ミスをなるべく重ねないように一曲の間叩き続けるというもの。要領は楽器と同様だろう。

 

「決めましたわ!わたくし、このゲームを始めますわ!」

 

「千奈ちゃんがやるなら、あたしもやろ〜」

 

「私もやりたい、けど、有識者に聞かないと右も左も分からない、と思う」

 

「確かにですわ」

 

 星南お姉さまも初めは苦戦する代物。わたくし共ならば生まれたての子鹿のような覚束ない手捌きになること必至。

 ならば誰かに教えを請うのが吉だろう。

 しかし、花海さんが分からないとなると身近に頼れる者は思いつかない。

 

「きっとお姉ちゃんなら知ってるし、お姉ちゃんに教わりに行こ」

 

 花海さんのお姉さまにあたる咲季お姉さまというと、毎日光る何かを調合して花海さんに飲ませている博識な方である。教わるとなれば絶好の人選だろう。

 一応、面識もないことはないため、嬉しい提案である。

 

「急に行って咲季お姉さまにご迷惑でなければ、是非とも教わりたいですわ」

 

「うん。じゃあ行こう!」

 

「今ですわ!?」

 

 驚きも束の間、制する暇もなく花海さんの有無を言わせない剛力に連れられ、篠澤さんと一緒に引き摺られるようにして一組へと入室した。

 

 一組は昼休みとあって閑散としている。皆、食事かレッスンをしているのだろう。

 殆どの生徒が学食を利用する中、咲季お姉さまは教室に残りぽつんと座って食事している。食べているものは……なんとも言えない簡素なものである。むしろ、大変手のかかる食事と形容してもいいかもしれない。たぶんエヴァにも出ていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「! 佑芽じゃない。どうしたの?」

 

「お姉ちゃんにこれを教えてもらおうと思って」

 

 花海さんはそう言って、先ほどダウンロードしたアプリを示した。

 

「あら、さっき会長がやってたゲームじゃない。いいわよ」

 

 咲季お姉さまは快諾して、あなたたちも?とわたくし共に問いかけたので、お願い致しますと頭を下げた。

 

 

――――――

 

 

 ミーティングの時間になっても一向に部屋に戻らない倉本千奈を探しに教室に訪れると、不審者のように教室を覗くプロデューサー科の同期がいた。

 

「やぁ」

 

「ゲェッ」

 

 潰れたカエルのような音を上げて彼はこちらを振り返った。彼の顔は心底嫌なものを見たような表情を全面に出している。

 

「倉さんよォ、早いとこお守りを交代してくれねぇか」

 

「お守りって……倉本さんは立派なアイドルですよ」

 

 彼は篠澤広をプロデュースしているため、同じ理由でここにいるのだろう。となると、倉本千奈がレッスンを忘れたのは、篠澤広と花海佑芽と遊んでいたからなのだろうと予想できる。

 彼に倣って教室を覗き込むと、親の敵のようにスマホ画面を睨みつける四人の少女がいた。

 

「……なるほど」

 

「なにが、なるほどだ」

 

 倉本千奈は、先日語っていた心意気を早速実行に移したようだ。ゲームによって一人友人を増やすとは、流石の愛嬌といえる。仲睦まじい光景と自身の人を見る目に思わず口が緩む。

 

 ゲームに夢中になってしまっては、時間を忘れるのも致し方ないだろう。しばらくは微笑ましいこの状況を見守ることにした。

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