我らプロデューサー候補生   作:フユガスキ

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プロデューサー(海):花海佑芽のプロデューサー。筋肉。

花海佑芽:最高の肉体。


花海佑芽と直感

 堅牢な筋肉に身を包み、清潔な服装を身に纏い、紳士の立ちふるまいを身に覚えさせ、プロデュースに全身全霊を注ぐ。それこそがプロデューサーの心構えである。

 アイドルが日々レッスンに励んでいるのだから、プロデューサーも同等以上の研鑽を積むのは当然のことだろう。

 

 時計は3時を周り、そろそろアイドルたちが授業を終える時間となる。担当アイドルもきっとすぐに事務所に来るだろう。

 間食として摘めるように机に置いてある菓子を一つ口に放り込む。

 仕事といえども、日頃のルーティンは欠かさない。

 

 なぜならば、仕事であっても遊びであっても、普段通りが最上。常日頃から最大のパフォーマンスを出せる者が紳士なのだ。

 

「プロデューサーさーーーーん!!!」

 

 スポーツカーのようなスピードで廊下を競歩して来た花海佑芽は事務所に入り、すぐさま蜂のような俊敏さで腰に目掛けてタックルをぶちかました。

 これを受けるのはマズイと判断し、腰を捻って花海佑芽の勢いを使い投げ飛ばす。

 

 だが、そこは鬼才花海佑芽。投げ飛ばされると同時に自ら飛び上がり猫のようなしなやかさで着地した。

 そして空気は硬直し、緊張の糸が張り詰める……――。

 

「流石ですねプロデューサーさん。今日は取れたと思いました」

 

 花海佑芽は残念そうに肩を下ろして嘆き、緊張を解いてソファにへたり込んだ。不意打ちならば兎も角、真っ向勝負となれば分があるのはどちらか、火を見るよりも明らかである。

 

 しかし、むしろ、花海佑芽の投げに対する反応速度が褒められるべきだろう。

 プロデューサーは皆、ある一定の護身術を学んでいるため、一日の長がある。そのような相手に喰らいついているのだから、素晴らしい才能と肉体である。

 その花海佑芽を花海咲季は常に早熟という性質だけで勝っているのだから、花海咲季の才能も伺い知れる。

 

 ところで、いくら早熟といっても出し抜いていれば、花海咲季にも勝てるのではなかろうか。

 

「無理ですね。お姉ちゃんは握手するだけで相手を転ばせられるんです。試合になれば必ず私が負けます」

 

 最も決着が分かりやすい格闘は花海咲季も対策済みらしい。抜け目がない。

 おそらく花海咲季ともなると、合気道だけでなく空手や柔道、剣道にも精通しているのだろう。手札が合気道だけと考えていると痛い目に遭うことが予想されるので、戦闘面で花海咲季に勝つのは諦めることにする。

 

「プロデューサーさん。私は勝てるところだけ勝つつもりはないです。負けるところは見ないふり、なんて出来ません。……今は全部負けてますけど」

 

 えへへ、と吐いた大言壮語を持ち前の愛嬌で誤魔化した。

 花海佑芽は気持ちが先行してしまいがちなので実力に見合ってない発言を良くするが、その性分は勝つという確固たる想いがある証左である。

 その気概と経験豊富な肉体があれば、トップアイドルも夢ではなかろう。

 

「プ、プロデューサーさん、言い方がなんか、えっちです。えっちですよ!」

 

 何をえっちだと思ったのか、あまりにも理解不能だが以後気をつけよう。なぜなら紳士だから。

 

 ただ、紳士だからといって、今の花海佑芽が花海咲季に勝てないという発言を見過ごすことはできない。数値で評価できるステータスは全て花海咲季を上回っているのだから、勝てるはずである。

 その絶対の法則をねじ曲げているのは、花海咲季が花海咲季たる所以なのか、彼女のプロデューサーの力量なのか……兎に角、花海咲季にこれ以上負けるのは、許される道理ではなかろう。

 花海佑芽は最高なのだから。

 

「プロデューサーさん……!あたし、頑張ります!頑張って、お姉ちゃんに勝ちます!」

 

 花海佑芽は頼もしい言葉とともにガッツポーズを見せた。紳士たるプロデューサーが頼もしい姿を見せなければ無作法というもの。更に精進しよう。

 

 意気込んだ花海佑芽は机の下から保存容器に入ったSSDを取り出し、計量カップに注ぎ入れて、途中少し容器の口を伝って零れながらも、適量を量って飲んだ。

 怪しげな光を発する飲料を飲み切った花海佑芽は、零してしまった光る液体に気づき、拭くためのちり紙を探している様子なので、紳士の嗜みとして常備しているハンカチーフを"左手"で渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 花海佑芽は零してしまった液体を拭き取った。

 拭き取ったハンカチーフはその部分のみ光り輝き、無地の生地に装飾を施した。

 何かを気遣った花海佑芽は使用済みの光るハンカチーフをポケットにしまい、後で洗って返しますねと"妄言"を吐いた。

 その一連の動作は正しく"幻想"である。

 

「!」

 

 花海佑芽はポケットに入れた手の違和感に漸く気がついたようだ。

 そう、件のハンカチーフは拭き取った時点で花海佑芽の手から奪われ、既にスーツの左の胸ポケットに、まるで未使用の形でしまっているのである。故に、花海佑芽の手にはハンカチーフは影も形もない。

 

「プロデューサーさん……今のどうやったんですか!」

 

 花海佑芽は純粋な目をして訊いてきた。

 どうやった、って……縮地で近づいて幻覚を見せる右腕(ドミネートライト)で不可視の速攻により分捕り、傀儡の左腕(サブリミナルデーモン)で時を飛ばしただけだが?

 紳士であれば、相手に気を遣わせないのは当然の嗜みだろう。

 

「すごい。何一つ言ってる意味が分かりません」

 

 ふむ……紳士の技は花海佑芽には理解不能のようだ。人事を尽くして天命を待つ紳士にしか会得できない技であるため、さもあらん。

 

「もう一回見せてください」

 

 花海佑芽は図々しくも紳士の技の実演を求めてきた。

 この技は紳士的でなければならないため、デモンストレーションはできない。さらに、花海佑芽は紳士ではないため、体得は不可能だろう。

 貪欲なのは利点だが、断らざるを得ない。

 

「むぅー。じゃあ、ハンカチを盗れば見せてくれますか?」

 

 無論、その場合は取り返さなければならないため、技を使うこともあろう。

 先日のプロデューサー科の集まりで、広――篠澤広のプロデューサーに花海佑芽のパラメータを盗み見られた際に、幻覚を見せる右腕(ドミネートライト)で彼に最もプロデュースしたくないアイドルを無限にプロデュースさせる幻覚を見せたことは記憶に新しい。

 彼はもう少し真面目になるべきだろう。

 また、倉本千奈がゲームに嵌ったと嘯く倉――倉本千奈のプロデューサーには傀儡の左腕(サブリミナルデーモン)で深い眠りについて貰った。

 彼の意志力にどれほど効果があるか分からないが、少しでも疲れは取れただろうか。

 

 閑話休題。

 兎も角、同じプロデューサー科には紳士の信条に基づき紳士的行動を取る場合、本気を出さねば手痛い反撃を喰らうため、紳士の技を使うことは厭わない。

 だが、現状の花海佑芽には紳士を脅かす危険性はないため、紳士の技を使うことはないだろう。紳士は女性に手を挙げないのである。

 

 そう伝えると、花海佑芽は姿勢を低く保ち、臨戦態勢を取った。

 忠告は無意味らしい。

 ならば、こちらも本気を出さねば無作法というもの……。

 ククク……類稀なる才能を秘めた肉体……久々に血が沸き肉が躍る……!

 

「いきます!」

 

 

 

 そうして、心臓部を狙う花海佑芽を凌いで1時間が経った後、花海佑芽は3時間にもわたるレッスンに励んだ。流石の体力である。

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