怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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こんにちは。完全に趣味の作品です。


どうか、お付き合い下さい。






城ヶ崎レンノスケのこれまで。そして出会い。

 

 

 

 

 

────城ヶ崎レンノスケの人生は苦悩の連発だった。

 

 

 

 

 

気が付けばこの世界で生を授け、3歳の時だろうか、自分が物心が付く頃には息が詰まる程のゴミ屋敷に住んでいて、傍には誰も居ない事に気付いた。

自分の名前は何故か頭の中で分かっていた。不思議な感覚だった。

……このままでは何も食べれず死んでしまう。レンノスケは子供ながらにソレを直感的に感じ取った。

 

 

 

3歳で食べ物を確保なんか出来る訳もなく、野良犬の真似をして其処らのゴミ箱を漁る。

出てくるモノは人間が食べて良いモノではなかった。

だけど腹を満たせれば、何でも良かった。

 

何回も腹を壊した。

嘔吐し、排泄を繰り返しては腹を空かせ、ゴミ箱のモノを食べる。

 

たくさん泣いた。泣いて泣いて、目元が腫れて、涙が枯れる程泣いた。

なんで自分はこんな目に遭わなきゃいけないんだと、たくさん弱音を吐いた。

 

盗みを働いた。

お腹が空いて、我慢が出来なくて、それがイケない事だと、やってはダメな事だと理解しながらも、目についたお店で食物を盗んだ。

 

簡単に捕まって、死んでしまいそうになる程の暴力を受けた。

顔は腫れ、腕は折られ……それでも食べ物は護った。死に物狂いで護った。

 

空腹は何より嫌だった。苦しくて苦しくて、堪らなかった。

 

殴られて、蹴られて、撃たれて、その時でも食べるのはやめなかった。

鳩尾を殴られて、吐しゃ物を撒き散らして、それがもったいないと感じて、小さい手でかき集めて啜って飲み込み、腹を満たした。

そんな光景を、暴力を振るっていた存在は蔑み、軽蔑の視線を向ける。もう、そんな視線は何も気にならなかった。

 

自分の吐しゃ物を食べるのは心底気持ちが悪かった。何回も、何回も吐いた。

でも、ゴミ箱の中身よりもマシだった。まだ新鮮な食べ物から出来たモノだったから、我慢して食べた。

 

こんな生活でも、良い事はあった。

 

雑草と虫だ。

 

自分にとって、雑草と虫はご馳走だった。

特に芋虫は格別だった。初めて、ちゃんとしたモノを食べた感覚だった。

 

 

盗みは何時までも慣れなかった。

失敗する回数を重ねる度、自分の身体に痣が出来る。

殴られるたびにごめんなさい、ごめんなさいって謝った。許してくれた事は一度もなかった。

酷い時なんかゴミ箱に捨てられた事もあった。悪臭に悶え、耐える事なんか出来ずその場で吐いた。

これは苦い思い出だ。もう経験したくない。

 

ある日、帰ると自分の部屋が燃えていた。

もう誰も住み着かなさそうな場所、ブラックマーケットの端の方に位置する場所なのに、なんでと思った。

答えはスケバンとヘルメット団による抗争により、建物が爆発し炎上。自分の家が無くなってしまった。

 

 

そこからは路上で寝ていた。コンクリートの上はとても寝づらくって、固くて辛かった。

 

 

冬場は一番大変だった。

新聞紙で包まってその上に捨てられた段ボールを被った。

夜は一度も睡眠が出来なかった。寒くて、寝てしまったら凍え死んでしまいそうで、とても怖かった。

 

こんな生活を送っても、死なない自分の身体が悍ましかった。

でも嬉しかった。生きてたら、きっと良い事があると信じていたから。

 

 

 

 

 

 

─────10年が経った。

 

 

 

 

 

こんな生活を送っても身長は伸びた。

13歳で既に170は超えていた。顔も知らない親の影響なのか、自分でも吃驚だった。

 

 

知識は捨てられた雑誌で補った。

漢字は読めなくとも、ひらがなはもう読めた。字も頑張れば書けるようになった。

 

 

年を重ねて、身体が丈夫になった気がする。

未だに銃は持ってなくても、不良集団にいきなり撃たれても痛みは感じなくなった。

何度も撃たれても、血は出てるのに、痛くなくなっていた。

 

 

不良集団に暴力を振るわれて、俺は何の抵抗もしなかった。

抵抗すれば、返ってくるのはそれ以上の暴力だから。

痛みを感じなくとも身体にはダメージが入るのは、ある日無理をした時に指一本も動かす事が出来ないのを知ったからだ。

 

 

不良集団から見れば、自分は抵抗をしない丁度いいサンドバックだったのかもしれない。

浴びせられる罵詈雑言の嵐、全身に襲い掛かる多種多様な暴力。

 

 

 

 

暴力を受けている最中、不意に感じた─────理不尽だ。

 

頼る宛てもなく、こんな何もない理不尽な世界でも、死にたくなくて生きてきた。

盗みだってもうやめた。完全に成功なんてした事なかったが、する度に謝って、許しを乞うた。

 

お金が欲しくて、でも働かなきゃお金は発生しないと知って、色んな営業会社に働かせて欲しいと願っても門前払いを受ける。

分かってはいた……こんな身窄らしい子供に、働いてほしい場所なんて存在しない事なんて。

 

 

………辛い。悔しい。

 

 

この歳になって、初めて感じた感情だった。

今自分に暴力を振るっている人達はこんな場所に居ながらも、自分よりも遥かに裕福そうに見えた。

普通の学生服を着てる、3人の女の子。痩せてもないし特に衣食住に困っていなさそうに見えた。

なんで、こんな事をするんだ……なんで、自分はこんなに弱いんだ……。

 

沸々と湧き上がってくる、様々な想いが混濁した怒りのボルテージ。

我慢の、限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────気付けば、3人が地面に倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。倒れている3人は顔を腫らせて鼻血を出していた。

何が起きたか理解するのには、自分の両手が赤色に染まっていた事に気付いた時だ。

 

これは、自分がやったんだ、と。

震えが止まらなかった。自分が怖くて、恐ろしく感じた。

 

 

「おい」

 

 

その時だった、突然声を掛けられた。

 

 

「お前、これ一人でやったのか?……ひでぇな、死にかけじゃねえか」

 

 

何時から其処に居たのか、声をかけて来たのは華奢な体躯をしたロボットの男だった。

人と話した事なんか一度もないから、自分は一つ頷く事しか出来なかった。

 

 

「銃も使わずに、素手でか?」

 

 

頷く。

 

 

「へぇ……にしても、見れば見る程汚えガキだな……だが使えるかもな。おい!お前、名は?」

「……城ヶ崎、レンノスケ……」

「レンノスケか。お前、見るからに貧乏臭えが、金がなかったりするのか?」

「……金なんて、持ったこと、ない」

 

その男は自分の回答に喜色の表情を浮かべ、そして告げる。

 

「────レンノスケ、金が欲しくないか?」

「……え?」

 

明らかな動揺を見せる。

仕方がなかった。だって、それは余りにも衝撃的な提案だったから。

無論、金は欲しい。だから聞いた。

 

「……俺は、何をすれば?」

「くくっ、意外と話が早いな。簡単だ……俺の依頼を受けろ」

「いらい?」

 

 

その男が言うには、自分は依頼を受けて達成すれば良いらしい。

その報酬は二人で山分け、との事だった。

 

 

 

 

─────レンノスケは二つ返事で了承した。

 

 

 

 

働ける、お金がもらえる、今よりも良い生活が出来る。

その願いが、希望が、レンノスケを動かした。

 

 

これを断る道理はなかった。

 

 

……だが、どの依頼も全て厳しいモノだった。

 

 

ある武闘派組織のボスを潰せ、あの建物を占領している不良集団を全員捕えろ、あの企業の極秘書類を盗めなど……何回も死にかけた。

サポートもない、手持ちはあの日倒した不良から盗んだハンドガンのみ。どの依頼も厳しかった。

失敗も沢山重ねた。その度に怒られて、暴力を振るわれた。痛みも感じないから、特に何も思う事が出来なかった。

 

 

だけど、依頼を成功する度お金は本当に貰えた。それが、何よりも嬉しかった。

 

でも山分けはされなかった。貰えるのは本当に小銭程度のお金だった。

 

 

酷い時はタダ働きだった。頑張っても報酬がもらえない辛さを、初めて知る事が出来た。

 

それでも、嬉しかった。お金は全てを解決した。

 

貧乏なのは変わらないけど、前なんか比じゃない程裕福になった。

お金は色んな使い道をした。ほとんどは溜めたけど。

 

お金の凄さに感動した。銃弾が少しだけ買えた。

地道に溜めたお金で安い服も買えた。その辺で拾った服じゃもう厳しかったから。

 

食べ物を買った。

もう空腹を感じないで済んで嬉しかった。

 

 

直ぐにお金が無くなった。

これを無駄使いというらしい、今度から気を付けようと決心した。

 

 

住む場所はとても決めれなかった。

色んな組織に狙われて、アジトは転々と移すしかなかった。

 

 

 

 

少ないけど、やっと生きていけるお金を頂ける仕事だから、頑張ろうと思った。

 

 

 

 

 

 

─────そして3年が経った。

 

 

 

 

 

……俺は強くなった。依頼をこなしていく内に、身体も頑丈に成った。

戦って、勝って、戦って、負けて、逃げて、そしてまた戦って、勝って。

それの繰り返しで、きっと強くなれたんだと思う。

何回も死にかけた。怖かったけど、その怖さが俺を強くしてくれた。

 

16歳になって、身長は多分190は超えたと思う。

正確に測れないから、ほぼ勘だけど。

 

食料に困らなくなった。

残念な話だった。だけど、偶にはお店に行って買い物をした。

お店で買ったやつで一番美味しかったのはきゅうりだった。安くてあんなに良いモノが売ってるんだと知って驚いた。

今でも雑草と芋虫は美味しいと感じる。最近はヤモリが俺の中でトップだ。

 

ブラックマーケットを歩けば俺に視線が集まり、コソコソと話し声が聞こえた。

よく聞き取れなかったが、俺の方を見て“怪物”と言っていた。怪物の意味は、分からなかったけど、きっと悪い意味なんだと思った。

 

誰かに襲われることは今じゃ無くなった。

何年か前にたくさん命を狙われて大変だった時期があった。

何とか潜り抜けて今を生きているから、きっと俺は幸せ者なんだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙な集団を見かけた。蒼をメインとした制服を着る5人の生徒。

その生徒達は一人の【大人の女性】を護る様にブラックマーケットを進んでいた。

 

 

 

 

その中でも気になったのはピンク髪の少女と大人だ。

あのピンク髪は、あの中でも格段に強い。一目見て、そう確信した。

 

 

特段、気になる事でもなかったからその場を後にしようと思ったが、何やら騒がしい声が聞こえた。

 

 

目を向ければ一人の高貴そうな少女が二人の不良に追いかけられていた。

 

俺は、昔の事もあって、ああいう輩が苦手だった。今はそうではないが、弱い者いじめみたいで嫌だった。

 

 

「助けて下さい~~~!!」

 

 

 

金髪の高貴そうな少女の叫びが聞こえ、俺はどうしたものか────その少女の前に立ちその不良から助けた。

 

 

 

 

────利益もクソもないのに、なんでこんな事をしたのか、自分でも理解できなかった。

 

 

 

 

俺の姿を確認した不良二人は蛇に睨まれた蛙の様に震えて、腰を抜かして動かなくなった。

よく見たら、何ヶ月か前に半殺しにした不良グループに似た特徴的なマスクをした子達だった。何人か逃がしたが、その残党だろうか。

 

 

“許してくれ”

“殴るのだけは、勘弁してほしい”

 

 

二人は泣き喚きながら必死に懇願する。まるで俺が悪者みたいになった。

後ろの少女は大丈夫か、後ろを振り返ると、不良たちと同様に涙目になって震えていた。

 

 

何故か、ショックだった。でもそう感じたのは一瞬で、これは当然の結果だと受け入れた。

俺が人助け何て、笑い話にもならん。

 

 

その直後、先程見かけた集団が近くまで来ていた。

 

全員が、俺に敵意の視線を送る。恐らくだが、俺がこの金髪の少女にカツアゲをしていると勘違いしているのだろう。

あのピンク髪、加えて……恐らく全員が戦闘に関して洗練されている人達だ。面倒ごとは避けたい。

 

 

 

 

────思いっ切り逃げた。まず先に依頼もあったから、あの少女はあの集団に任せた。

 

 

 

 

 

 

…………なんで、人助けなんかしようと思ったのか、それは……依頼が終わった後でも、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、突然黒い亀裂の入った変な大人に話しかけられた。

とても丁寧な話し方だったけど、言っている事が難しすぎて良く分からなかった。

なんか俺の神秘が凄くて組織に入るか何とかって言われた……気がする。

 

 

 

 

 

依頼の最中で邪魔だったから一旦半殺しにしてそのまま放置した。

 

 

 

依頼が終わって、現場に見に行ったら居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、数日が経ったある日……。

 

 

 

 

 

 

男が死んだ。色々な組織に恨みを買いすぎて殺されたと聞いた。

 

 

3年コンビとしてこの稼業をしてきたが、やはり少し悲しかった。初めて俺みたいな奴に話しかけてくれて、仕事を与えお金を少しくれる唯一の存在だった。

 

 

会うのは報酬を頂く時だけ、それ以外では決して合わない正にビジネスパートナー。

 

だけど、今思えば、彼にとって俺は非常に手軽な駒だったんだ。

扱いも会った時から段々と雑になっていった。

年を重ねるごとに頂くお金も減っていったし、自分の生活が厳しくなっていた時だった。だから、悲しいのは……少しだけだった。

 

 

“聞いた”という事は、その当事者から直接聞いたんだ。

 

 

男を殺した後に俺の元に直接軍隊を連れて殺害しに来たんだ。

なんで俺の居場所が分かったのかは、彼らが嘲る様な笑みで教えてくれた。

 

男が俺を売った、それで居場所を突き止めたらしい。

 

なら男はなんで殺されたんだろうか、見逃せばいいのに。

学のない俺には、よく分からなかった。

 

どこの企業かは分からなかった。俺は憶えが良くないから、依頼で襲った組織は何日かで忘れてしまう。

 

もう使われていないマンションの一部屋で寛いでいる時に唐突に攻撃されたもんだから、ちょっと吃驚した。

 

こんな世界に身を置いているから、寝る時も多少警戒はしてはいたが、まさか昼間に襲撃されるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

部屋に何人かロボの兵士が入って来た。この歳になってから、襲撃は一向に受けなくなったから、この感じは中々に久しぶりだった。

俺は部屋に入って来た連中を全員始末した後、外に出た。

案の定囲まれていた。四方八方、正に逃げ場はなかった。

俺は戦った、生きる為に戦った。

 

 

 

戦いは、俺の勝利で終わった。

 

 

 

軍隊は2000を優に超えていたかもしれない。長い戦いだった。俺も無傷ではなかった。

崩壊したマンションの下敷きになった時は流石に死んだかと思ったが、意外と何とかなった。

気付けば夕方だった。どこか眠れる場所に行って、今後について考えなきゃいけないと思い、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■そして、現在……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日が経った。

依頼を受ける事が出来ず、資金源が底を尽きてしまった。

良くも悪くも、俺はあの男に依存していたみたいだった。

 

 

 

俺は、依頼以外の生き方を知らなかった。

 

 

 

一週間は経っただろうか。

俺の身体は悲鳴を上げていた。碌に飯を食べれていない。

この無駄にデカい図体に、雑草や虫だけでは最早全く足りなくなっていた。

一発賭けて歯磨き粉を直で食べた。二度とやらないと誓った。

水分も十分に摂れていない。ここ最近は雨が降らない、だから土交じりの泥水を手当たり次第探して啜っているが、正直味は最悪だし気分が悪い。

 

店で働こうも俺を見かけた瞬間に即座に店側が臨時休業。

ここ最近はずっとこれだ。店だけでなく、俺が歩く度に不良や其処らのロボ達は姿を颯爽と消す。

 

もう限界だった。

痛みは感じないから耐えられる。知らない内に誰かが死ぬのも誰とも話せないのも、辛いけど耐えられる。

 

でも、飢えだけは耐えられなかった。腹ペコなのは、泣きたくなるほど嫌だった。

 

不意に、外の世界が気になった。

境界線は見た事はあった。その先に行った事はなかった。

 

ブラックマーケット以外の場所を俺は知らない。

今までの依頼は全てブラックマーケット内のみの仕事だった。

理由は分からない。どうやら男は俺に外の世界に行かせたくなかったみたいだ。

 

……ずっと薄暗い場所に身を置いていた俺だけど、外の世界に全く興味が無い訳ではなかった。

いや、寧ろずっと興味があった。美味しいものが一杯あると聞いた。俺の知らない事が日々起きていると聞いた。

此処よりもずっと幸せが満ちていると聞いた。

 

でも、思う。俺みたいな奴が、そんな光に満ちた世界に行っても、良いのだろうか。

 

人間は、自分でも理解出来ない不可解な存在には排除を望む生き物だ。

 

これは、16年もの間此処に居続け経験し、その末に得た俺の考えだ。

きっと俺は、外の世界に行っても迫害されるだろう。こんな場所に居るのもそうだが、やはり俺は客観的に見ても恐ろしい。

 

 

今まで、こんな世界でも希望があるんじゃないかって、だから死にたくなくて、強くなって生きてきた。

でも、もう良いんじゃないか?こんな世界に身を置いても、苦しいだけなんじゃないか?

考え出せば出す程、ネガティブな思考に脳が支配される。いつもの様に何とかなるといったポジティブな思考を、この時は考える事が出来なかった。

 

 

せめて、最後は美味しい食べ物を食べたい。

たらふく食べてみたい。虫や雑草じゃなくて、ちゃんと料理されたものが食べてみたい。

 

 

 

 

行ってみたい、外の世界に。

 

 

 

 

そこからは早かった。

お金は200円ほどの小銭のみ、それを懐に仕舞って、余り使わない拳銃を手に持ち境界線まで駆けた。

 

がむしゃらに走って数秒で着いた。

ここに来て、酷く緊張した。

今から行くんだ、外に。

そう思えば思う程、少し怖くなった。人間は初めての事になるとここまで緊張する存在なのかと、なんだか妙な気分になった。

境界線を越えた。心臓がドクドクな鳴って少し苦しかった。

 

 

 

“グゥゥゥゥ~~……”

 

 

 

不意にお腹が鳴った。それは早く外の飯を食わせてくれと腹が急かしてる様だった。

前に進んだ。暫く進むと、俺を見た人たちが急に騒がしくなり、四角い電子系のナニかを使って誰かと話していた。今思ったけどあれ皆持っているが、何なんだ?

 

 

 

 

 

 

かなり歩いた。

 

 

 

 

 

とりあえず、無駄なエネルギーを消費しない様に歩行で進む事にした。

 

そして気付いた、此処は別世界だ。歩けば歩くほど、全てが新しかった。

 

皆、綺麗な服を着ている。俺は依頼時に始末したロボから追剝したスーツを着ているが、かなり年季が入っているからもうボロボロだ。

皆、とても美味しそうな食べ物を食べている。赤い果実が乗った白色の……泡か?それを眩しい程の笑みで頬張って食べていて幸せそうだ。

 

近付いて、それは何なのか、何処で売っているのか聞こうとしたが、俺の姿を見るなり唐突に謝って来た。

仕方がないと思った。こんな見た目だ、覚悟はしていた。それに、自分たちが食している食べ物を俺に奪われると思ったのだろう。

 

食べ物を奪われる辛さと悔しさは知っている。俺は何もせず、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そこの人!止まってください!」

 

 

 

 

 

 

 

数十分歩いてた時に声を掛けられた。綺麗な声で、耳に透る声だった。

振り向くと、一人の少女が此方に銃を向けていた。

 

 

お互いの目が合った。

 

 

 

 

 

 

“ドクンッ……”

 

 

 

 

 

突然、体が熱くなった。心臓は境界線を越えた時よりも高々と鼓動を早くさせる。

身体全体が硬直し、その少女から目を離せない。

 

 

「怪しい方ですね!この先はシャーレです!先生に何かしでかしては困ります!キヴォトスの安全の為、こ、これ以上先には、絶対に行かせませんよ!」

 

 

その少女は全身を震わせて、俺に銃を向けながら告げる。

腰は引け、明らかに怯えている様子だった。

 

 

俺は何も出来ずに居た。その少女から目を離せなかった。

目を開き、仁王立ちで俺に見つめられた少女は全身を段々と震わせていた。

俺を怖がっているのは明白だ。周りを見れば彼女一人で、先程は人の集まりがあったのに、忽然と姿を消していた。

 

 

彼女は一人だ。だがこれ以上先には行かせんと、たった一人で俺に挑もうとしていた。

 

 

彼女は勇敢だ。俺と彼女では力の差は明確なのに、逃げず、怖いながらも俺に挑もうとする。

 

 

そんな彼女の懸命な姿に、俺は─────。

 

 

「……可愛い」

「……へぇ!?」

 

 

可愛いと感じた。苦節16年、初めて異性に感じた感情だった。

唐突な発言に、彼女は心底吃驚した様な表情を作る。

 

 

「な、何を言って!?…は!ま、まさか、本官を狼狽させて、この場を切り抜ける作戦ですね!?そっ、そうはいきませんよ!」

「違う、本心だ。貴女は、とても可愛い」

「はへぇ!??」

 

 

俺の発言に、彼女は顔を赤くさせる。風邪か?

 

 

「な、何なんですか貴方は!?私たち初対面なのに、きゅっ、急に可笑しな事を言わないで下さい!」

「……俺は、貴女に可笑しな事を言っているのか?」

「そっ、そうですよ!言っていますよ!せめてカッコいいと……って違いますよ!!もう!反省して下さい!」

「す、すまない……俺の気持ちを、伝えたくて……不快にさせた。反省する…」

 

 

そう怒る彼女も、俺は可愛いと感じた。

だが、彼女にはうまく伝わらなかったようだ。むぅ。

初めてだ。こんなに人と話したのは、こんなに人と関わって楽しいと感じたのは初めての事だった。

 

 

 

もっと、この人と話したい。何て名前なのか、彼女の事が知りたくなった。

 

 

 

そう思った、次の瞬間。

 

 

 

“グゥゥゥゥ~~~………”

 

 

 

「うぅ‥‥」

「……え?」

 

 

俺が腹を抑えながら片膝を着く。もう何日も食事を摂れていない俺の身体は、もう既に限界を超えていた。

 

 

「ど、どうなされたんですか!?」

 

 

彼女は銃をホルスターに仕舞い、俺に近付いてくる。距離が近づく度に、俺の心臓の鼓動は早くなる。

跪く俺に、彼女の美しい顔が下を向く俺を覗き込むような形でお互いの視線が交差した。全身が沸騰したんじゃないかと思う程に熱くなった。

さっきはあんなに震えていたのに、今は俺に対する怯えが見えず、どこか心配な視線を俺に向ける。

 

 

俺は接近してきた彼女に酷く緊張しながらも、彼女に俺の今の状態を告げた。

 

 

「えっと、その……もう、一週間も、食事が出来ていなくて、限界で……」

「い、一週間もですか!?そんな……よく見たら、お顔も赤くなって……あ!そうだ!」

 

 

彼女は何かを思い出したかのように、自身のバックを漁って一つの紙袋を取り出した。

 

 

そして、一つの丸い形をして、真ん中が空洞のモノを手に取り、俺に差し出した。

 

 

「これをどうぞ!これしか持っていませんが、少しの間小腹は満たされるかと!」

「……まってくれ、これを、俺が……食べても、良いのか?」

「はい!本当は良くないのですが……今回は内緒、という事で!」

 

 

初めてだった。俺に、食料を提供してくれた人は。

初めて、こんなに、嬉しい気持ちになった。

 

俺は迷う事無く、彼女からそのお菓子?を頂き、そして─────口に運んだ。

 

 

 

 

 

「どうですか?一週間ぶりのドーナツは中々………えっ」

 

「───グ、うぅぅ……」ポロ、ポロ……

 

 

 

 

 

気付けば泣いていた。咀嚼する度に、ポロポロと涙が溢れて、止まらなかった。

 

 

 

 

 

「ええ!?ど、どうしたんですか!?お、美味しくありませんでしたか?」

「ちが……おれっ、く、ウゥゥゥ…………」ポロポロ……

「え、えっとぉ……こ、こっちに来て下さい!ここだと、目立ってしまいますから─────」

 

 

 

彼女に手を握られ立ち上がり、そそくさと近くのベンチに一緒に座った。

唐突に泣き出した俺に困惑を禁じ得ない筈なのに、彼女はずっと、俺の傍に居てくれた。

 

 

 

初めて食べたドーナツの味は美味しかった。今まで食べた食べ物の中で、ダントツに美味しかった。

一瞬で食べ終わってしまった。本当に、本当に美味しかった。

 

一個だけなのに、不思議とお腹が満たされた感覚だ。奇妙な感覚なのに、嬉しかった。

 

 

なんで俺は涙を流しているのか、一瞬自分でも理解できなかった。

 

 

だがそれは、延々とすすり泣き続ける俺の背中を、優しくさすってくれている彼女の優しさに満ちた顔を見て、理解した。

 

 

きっと俺は、人の温もりを求めていたんだ。

無償の優しさを頂く為に、俺は生きて来たんだ。

 

今だけは、そう思いたかった。

 

 

でもこれは、彼女にとって迷惑だろう。そう思い、俺は涙を堪えながら告げた。

 

 

「すま、ない……お、おれっ、貴女に………迷惑をっ、かけ、て………」

「……いいえ、迷惑なんかじゃありません」

 

みっともなく泣き続ける俺に、彼女は優しく微笑む。

 

 

「もう大丈夫です。本官は此処に居ますから……貴方が落ち着くまで、ずっと此処に居ますから」

 

 

そう告げられた瞬間、視界が霞むほど、俺は泣いた。

今まで溜めに溜めていた涙の量は絶大で、止まる事を知らなかった。

彼女の優しさに触れ、背中をさする手に温もりを感じて、涙が出る量は加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

■暫く経ち………。

 

 

 

 

 

「……落ち着きましたか?」

「ずびっ……っ……うん、大分……落ち着いた」

 

 

数分は泣いていた気がする。

あんなに泣いたのは初めての事だったから、心底驚いた。

 

その間、彼女にはずっと背中をさすってくれた。

それが申し訳ないと感じると共に、心から嬉しかった。

 

 

「本当に、ありがとう……貴女のお陰で、とてもすっきりした……すまない、迷惑を、かけてしまって……」

「謝らないで下さい!市民の方のお話を聞くのも、我々のお仕事ですから!……最初のアレは、びっくりしましたが……」

 

 

そう発語する彼女は元気があって、俺には輝かしく見えた。

 

 

だが急に一変して、彼女の顔は沈んだ表情をしながら立ち上がり、俺に頭を下げた。

 

 

「な、何を……?」

「……先程は、いきなり銃を向けてしまい、大変申し訳御座いませんでした……心身共に疲弊していた貴方に、本官はとんでもない事をしてしまって……」

「い、いや!そんなッ、謝らないでくれ!あれは、当然だ……俺は、見るからに怪しいから、仕方がないと思う…」

「で、ですが……」

 

 

それでもと言葉を重ねようとする彼女に、俺はもう謝ってほしくないから、言い放つ。

 

 

「お、おれだって、貴女に迷惑をかけてしまった……だ、だから、その……これで御相子…は、どうだろうか?」

 

 

我ながら可笑しな事を言ったとは思う。

彼女には自分の変なところは見せたくはないのに、そう思うと、顔が赤くなった。

 

 

「お、御相子ですか……?」

「お、御相子だ……」

「……ふっ、ふふふ!何だか貴方が言うと、ギャップがあって可愛いですね」

 

 

笑う彼女の姿は、とても魅力的で、心臓がドキドキと鼓動が早くなった。ギャップ……というのは、よく分からなかった。

でも、俺ではなく可愛いのは彼女だからと、俺はもう一度彼女に可愛いと伝えた。

 

 

「俺は可愛くはない。可愛いのは貴女だ」

「はへぇ!?も、もう!良いですか?い、異性に無暗にそんな、か、可愛いなんて、言ってはいけません!!」

「す、すまない……だが、貴方も俺に可愛いと言っていたが、それは良いのか……?」

「あ、そうでした……で、でも!駄目なものは駄目です!セクハラにあたってしまいますよ!」

「そうなのか……すまない……」

「そっ、そんなに落ち込まなくっても……」

 

 

 

怒られたけど、悪い気はしなかった。寧ろ、楽しい。

 

 

 

俺はある事が気になってしょうがなく、彼女に問う。

 

 

 

「そ、その……貴女の名前を、教えてほしい……」

「あ!そうでした!自己紹介がまだでしたね────私はヴァルキューレ警察学校、生活安全局所属の“中務キリノ”と申します!」

 

 

彼女は【中務キリノ】という名前みたいだ。素敵だ。

 

 

「中務……キリノさんか。素敵な名前だ」

「あ、ありがとう、御座います……そんな事、初めて言われました……」

「あ……す、すまない……嫌だったか…?」

「い!いえいえ!嫌なんかじゃないんです!寧ろ嬉しいというか、その、全く嫌ではないので、そんなに分かり易く落ち込まないで下さい……」

 

 

良かった。嬉しいみたいだ。

彼女と話すのは、楽しいな。

 

 

「それでは、貴方のお名前をお伺いしても良いでしょうか?」

 

 

しまった。キリノさんだけに名乗らせては失礼だ。俺も名乗らなきゃ。

 

 

「ああ、そうだった。えっと……俺は────」

 

 

 

 

 

 

「────キリノッ!」

 

 

 

 

 

 

突如、俺の言葉を遮るように怒声に近い声がキリノさんを呼んだ。

 

 

 

 

そこで気付いた。俺たちは囲まれている事に。

 

 

正面に目を向ければ、キリノさんと似た服装の生徒達が此方を見ていた。

 

 

その集団の先頭に、特徴的な犬耳を持ち合わせた、中々な圧を発する人がいた。恐らくだが、この組織のボスだ。

俺に言われたくないだろうが、顔が怖い。

その隣には小柄な少女が一人居た。戦闘能力は低そうに見えるが……。

 

 

 

「カ、カンナ公安局長!?それにフブキも!お、お疲れ様です!」

 

 

キリノさんはベンチから立ち上がり、その公安局長とやらにビシッと背筋を立たせた。

 

 

「今それは良い!キリノ!とりあえず無事なんだな!?」

「は、はい?本官はいたって無傷で御座います!」

「キリノー!生きてるー!?」

「い、生きてますよ!?な、何なんですか本当に!?」

 

 

キリノさんと彼女らはやはり仲間の様だったが、イマイチ話が嚙み合ってない様だ。

俺は、(何故か知らないが)キリノさんが皆から心配されているのを見て、ある確信を得た。

 

 

「あの青髪の子とボス犬、他の皆からとても心配されている、大事にされているんだな、キリノさんは」

「そ、そんな事は、ないかと……って!ボ、ボス犬!?こら!駄目ですよ!カンナ局長にそんな事を言っちゃいけません!!」

「す、すまない……反省する……」

「分かれば良いんです!」

 

 

また怒られしまった。だが、悪い気は全くしなかった。

 

 

「……えっと、彼女は中々な圧だが、凄い人なのか?」

「ふふ!それはもう!私の尊敬する上司で、ヴァルキューレの顔、ですから!」

 

 

どうやら、あの圧の凄いカンナって人はキリノさんが尊敬している人みたいだ。凄い人なのか、あの人は。

 

 

俺とキリノさんの会話の様子を見ていたカンナって奴とその他は何故かざわつき始めた。

 

 

 

「────む?」

 

 

 

周囲に意識を向けると、いつの間にか囲まれていた事に気付いた。キリノさんと居て浮かれたか。

12時、3時、6時、9時……正に四方八方から囲まれたみたいだ。

 

なんでだ?俺は気になってキリノさんに聞いた。

 

「キリノさん」

「はい?なんでしょうか?」

「索敵したが、どうやら四方八方で囲まれているみたいだ。そして何故か皆、殺気立って俺を見ている、なんでか分かるか?」

「え!?す、凄い囲まれてる!?そ、それに、凄い目つきで貴方を見てますが……も、もしかして、貴方実は犯罪者~~……だったり、します?」

「────いや、そういう訳じゃない」

 

 

キリノさんの問いに答えたのは、俺の前に接近していたカンナって人だ。

コイツが言うには、そういう訳ではないらしい。訳が分からん。

 

 

「“城ヶ崎レンノスケ”だな?大人しく署まで来てもらおうか」

「────え?」

 

 

カンナって奴が俺の名前を口に出した。何で知っているんだ?

それよりも、俺の名前を聞いたキリノさんの顔が、段々と怯えた物になっていく。

 

 

もしかして、俺の名前は、怖いタイプの名前なのか?

 

 

「おい」

「ッ!なんだ……?」

 

 

俺はカンナって奴に直接聞いてみる事にした。

 

 

「あんた、もしかして……俺の名前が怖いのか?」

「────?????」

 

 

俺の発言にカンナって奴はアホ面になった。

どうやら違うみたいだ。

 

 

すると、横に居たキリノさんが俺に問うてきた。

 

 

「……貴方は、あの城ヶ崎レンノスケ……なんですか?」

「ああ、そうだ」

 

 

俺もベンチから立ち上がりながら、答える。

身長差的に俺が下を向いてキリノさんが俺を見上げる形になる。可愛い。

 

 

 

 

────キリノさんは涙目になりながら全身を震えさせ、だが瞬時にキリっとした目つきに変え、自分のホルスターに手を伸ばし銃を抜き、俺に愛銃を突きつける。

 

 

 

 

「城ヶ崎レンノスケ!あ、貴方には、拘束命令が下されています!────────署まで来て頂きます……ッ!」

 

「ああ、分かった。キリノさんに従う」

 

 

 

断る理由もなかった俺は、キリノさんの提案を呑んだ。

 

 

 

俺の即答に滅茶苦茶に驚く顔もとっても可愛いと感じた。言っちゃいけないのが、もどかしい。

 

 

キリノさんに手錠を掛けて貰った。嬉しいが過ぎる。

 

 

数十分後、よく見かけるタイプのデカい車が来たから、キリノさんとカンナって奴と一緒に乗った。

 

中には3人ほど先客がいた。凄い敵意の視線を向けられて早々に気分が悪いが、キリノさんに迷惑をかける訳にはいかないから我慢した。

 

 

 

車に乗るのは初めてだから、ちょっと緊張してきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■キリノside

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、こんにちは。中務キリノです。

こうして語りかけているのは、自己暗示の為です。はい。

 

 

 

私は今、護送車に乗っています────超厳戒態勢で。

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「凄い、車なんか初めて乗ったぞ……すっげぇ……お、揺れた」

「……妙な動きはするな、次は撃つぞ」

 

 

 

 

車に興奮しているレンノスケさんをカンナ局長が牽制します。

この護送室の空間は、正直本官には荷が重いです。

 

 

只今私達が乗っている車は、トラック型の護送車です。

 

 

 

因みに────先程超厳戒態勢と仰いましたが、それはこの護送車に乗っている面子を教えれば納得出来ると思います。

 

一人ずつ紹介していきます────まず。

 

 

・ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナさん。

・トリニティ正義実現委員会委員長、剣先ツルギさん。

・ミレニアムサイエンススクールC&C部長、美甘ネルさん。

・ヴァルキューレ警察学校公安局、尾刃カンナ局長。

 

 

 

そして、本官であります。私だけ場違い感が凄いです。

 

 

 

………まず、どうしてこれだけの面子が揃う程の事態に陥っているのかを、詳しく説明していきたいと思います。

 

 

 

まず最初に、今回の一番の原因である人物から紹介していきます。

本官の隣に座り初めての運転にテンションが上がっている方────城ヶ崎レンノスケさんです。

 

 

……この人を知らない治安維持組織は、まず存在しません。連邦生徒会が彼は【七囚人】を超える危険度を誇る。そう伝わる様に全国に発信しました。

 

 

何故、彼がそんな風に扱われているのか……今から少しだけ、彼に纏わる逸話を挙げていきます。

 

 

 

 

 

“カイザーPMC全体の戦力の半分以上を壊滅状態にさせる”

 

“スケバンとヘルメット団が手を組み、総数500を超える人数を相手に1時間で制圧”

 

“戦いを挑んだ相手全てに【死ぬか生きるかの怪我】を負わせ、その中には未だ病院生活の者も居る”

 

“何発、何百発をその身体に撃ち込んでも顔色一つ変えぬ強靭な肉体の持ち主”

 

 

その人間離れした滅茶苦茶な戦歴から与えられた異名は────怪物。

 

 

……正直、全てが嘘みたいな話ですが、実際の戦地と化した現場に滅茶苦茶に破壊された建物、大怪我を負い入院した不良たちの証言や、あの心底怯えた様子を、本官は見てきました。

こんな存在がキヴォトスに居たらと思うと、心から震えあがります。

 

 

 

まぁ、そんな存在が今、本官の隣に居るのですが………。

 

 

 

「あうぅ………」

「ん?どうした、キリノさん。体調が悪いのか?」

「あ、え、ええと、その────」

 

 

 

レンノスケさんが本官の呻いた声を聴いて、心配そうに問いかけてきました。

何故か本気で心配そうな視線を送ってくるので、もう本官にはどうしたら良いのか分からない状態です。

 

 

 

“ゴリッ”

 

 

 

本官が言葉に詰まっていると、“美甘ネル”さんが片方のサブマシンガンをレンノスケさんのこめかみに銃口を押し付けました。

 

 

────重かった空気がさらに増した瞬間でした。

 

 

ヒナさんとツルギさん、そしてカンナ局長も銃の安全装置を解除し、いつでも動ける準備をしました。

レンノスケさんはネルさんの行為に全く臆する様子はなく、流し目で美甘ネルさんを睨みつけ言いました。

 

 

「……何か用か?」

「余り頭が良くねえみたいだな?この馬鹿が。このマル暴の言った事が聞こえなかったか?次勝手に動いたら……問答無用で撃つ」

「そうか、やってみろ」

 

 

刹那、けたたましい量の銃声が護送室の中で鳴り響きました。本当に撃ちました。

隣に居た私も巻き込まれるかと思ったのですが、なんの衝撃も来なくて困惑していると……レンノスケさんが全弾こめかみで受け止めていました。

 

 

「なんだ……もう終いか?」

 

 

補足すると、ネルさんの銃弾は本当にサブマシンガンなのか疑う程の威力を発揮します。普通の人が数弾でも喰らえば意識は昏倒し、行動不能に陥るレベルです。

 

【約束された勝利の象徴】……その名に恥じぬ実力を、彼女は持ち合わせています。

 

そんなミレニアムが誇る最強のエージェントのゼロ距離射撃を……彼は涼しい顔立ちで受け止めたのです。

 

 

 

「まさか……冗談だろ」

「これは……」

「…………」

「ひええぇ………」

 

 

カンナ局長、ツルギさん、ヒナさん、本官の順でそれぞれリアクションを見せます。

これには全員が驚きを隠せませんでした。

 

ネルさんの射撃は銃弾を放っただけで風圧が襲ってくる程強力です。普通の銃撃と比べれば威力は桁違いの筈です。

 

それなのに……彼は意識を飛ばすどころか、傷すら負っていませんでした。

 

 

彼の挑発とも取れる態度に、ネルさんは怒髪天を貫きます。

 

 

「て、てめぇ……ッ!あんましあたしを舐めてんじゃ────」

「レ、レンノスケさん!」

「どうした?」

 

 

このままだと、本当にとんでもない事になってしまいそうでしたので、本官は勇気を持ってレンノスケさんに呼びかけました。

レンノスケさんは間髪入れずに私の呼び声に応えてくれました。有難い事です、本官は注意しました。

 

 

「こ、ここで騒ぎを起こしては、駄目です!今はこの御方達の言う事を聞いてほしくて……も、もう少しで目的地に着きますから、ね?」

「ああ、分かった。その……騒がしくして、すまない……」

 

 

私がレンノスケさんに収めるよう伝えると、彼は律儀に対応します。

彼の本官にしか見せない態度に、全員が驚愕の表情を浮かべます。

 

 

「おい、どうなってる……なんでコイツはお前の言う事だけは従ってんだ」

「うえ!?え、えっとぉ……そ、そう言われましても、本官には、何も……」

「……それも、ヴァルキューレの尋問室で判明する。今は無暗に彼を刺激する必要はない」

「まぁ、怪物が其処まで大人しくしていればの話、だがな」

「(……こいつ、もしかして────)」

 

 

正直、本官もなんで私にだけ彼は他の方々と態度が違うのかはよく分かっていません。

心当たりはあるにはあるのです。恐らく、腹ペコの時にドーナツをくれた恩義……とかなのでしょうか?

 

 

皆さんが彼が私に対する扱いを不思議に思っている中、カンナ局長は何か考える様な顔付になりました。

 

 

 

 

 

 

………話が大分逸れてしまいましたが、次はレンノスケさんと、何故これ程の面子が集まったのかを交えながら説明しますね。

 

 

 

まず、各学園の最高戦力が集った理由です。

 

 

 

これはカンナ局長と【先生】の計らいなんです。

 

 

 

 

城ヶ崎レンノスケの捕縛となると、まずヴァルキューレだけでは無理とカンナ局長は判断。

そこで先生に相談して、【シャーレ】として各学園の治安維持組織をここD.U,まで派遣。

 

 

結果的に、ものの数分でゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの最高戦力が来て下さいました。

 

 

ゲヘナもトリニティもミレニアムも、それ以外の学園も、彼は【超危険人物】として轟いています。

 

素性も明かされず、各学園の情報網にも引っかからず、極めつけはその滅茶苦茶な逸話に出鱈目な強さ……警戒するなという方が無理な話ですね。

 

 

 

……先生が言うには、どうやら先生は彼とは一度遭遇した事があるとの事。

 

 

 

それも一瞬だったから、先生として、学歴も素性も明かされていない生徒の事は気になる様だ。何だか、先生らしいと思いました。

 

 

 

 

 

 

────暫くすると、車の速度が遅くなり、完全に止まりました。

 

 

 

 

 

どうやら、ヴァルキューレ警察学校に着いたようです。

 

 

 

 

 

「────局長、到着致しました」

「ああ、ご苦労………皆さん、城ヶ崎の警戒をお願いします」

 

 

カンナ局長がそう告げると、三人方はレンノスケさんに近付いて言葉を投げました。

 

 

「……立て」

「…………」

「……ねぇ、時間が惜しい、早く立って」

「…………」

「てめぇ…ッ、シカトしてんじゃねえぞッ!!」

 

 

3人の纏う雰囲気が変わり、空気がピリつきます。

レンノスケさんはツルギさんとヒナさんの命令に何故か聞く耳を持とうとしません。

顔を見ても無表情で、意識はあるみたいです……お願いですから、これ以上彼女たちを刺激しないでほしいのですが…‥‥。

 

 

「レ、レンノスケさん!つ、着きましたので、一緒に降りましょう……?」

「ああ、分かった。ありがとうキリノさん」

 

 

そして私……本官の言う事は聞くみたいです。もう何が何だか……。

 

 

「………ケヒッ」

「────」

「は、はは……は」ピキピキ

 

 

レンノスケさんの態度に、皆さんが憤りを露にしています。この圧に本官は圧し潰されそうです。

 

 

 

 

 

そうして、本官たちはヴァルキューレ警察学校校舎内にある取調室まで歩いて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

 

 

 

中務キリノによる取り調べ!

 

 

 

 

 







この作品は女先生で行こうかなと思います。書いてみたかったんです。次回には出る予定です。



次回に色々と話を進めたいです。


執筆、鬼、楽しい。



誤字脱字、コメント評価お待ちしています。








アンケートです。どうか、御投票を宜しくお願い致します。

  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
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