怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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次回は「怪物と狂犬」と書きましたが、先にアイラの人物像をお浚いします。

騙すような形で書いてしまい、申し訳御座いません。





■今作のオリジナル先生を大雑把に紹介!



☆シャーレの先生のプロフィール。



性別:女
身長:170㎝

特徴:紺色のロングへア―を靡かせる長身の女性。非常に整った顔立ちをしており、スタイルも抜群のモデル体型。最初こそクールなイメージを持たれるが、しかし実際は表情豊かで何処か子供っぽい一面を見せる。因みに胸はデカい。お尻もデカい。

年齢:25歳




では、本編です。




天丈アイラと云う名の少女の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■D.U.のヴァルキューレ本校に一番近い病院………。

 

 

 

 

 

「………はい、処置は終わりました。お疲れ様です城ヶ崎さん」

「ああ、助かった」

 

 

 

病院の一室にて、レンノスケは医者に治療を施されていた。

 

額、背中、それぞれ傷付いた箇所に包帯を巻いて貰い、現在は椅子に座って老犬の獣人医者(ドクター)に現状の状態説明を受けている。

 

 

 

「いやはや、信じられない身体の持ち主ですな。これだけの大怪我で意識があるだけでなく、自分から行動が可能とは……しかも、筋肉で身体を固めて出血を止める何て、ヘイローの効果と云えばそれで終わりですが……人体の構造的に超再生よりも奇怪な体質だ………はぁ~」

「そうか?……お、おいジジィ、余り触るな……くすぐったいだろ」

「あ、すみません」

 

 

 

医者は不思議な生き物を見るかのようにレンノスケを見つめ、触る。

 

この獣人医者はレンノスケがどの様な人物であるかは知っている。

 

怪物と恐れられて居ようとも怪我人は治すのが医療従事者であると、この獣人医者は志している。

 

 

 

「あ、すまないジジィ。キリノさんは大丈夫か?」

「キリノ?ああ、彼女でしたら先進的な医療機器で診察され、どこにも異常は見受けられないと診断されましたよ。今はホームにて貴方をお待ちになっているそうです」

「ッ!そうか、良かった。一番の朗報だ………なぁ、今の俺の状態を伝えたいから、彼女を此処に連れて来てほしい。出来るか?」

「ええ、構いませんよ。君」

「かしこまりました」

 

 

 

傍に居た助手らしき兎の獣人がキリノを呼ぶため廊下に出ていく。

 

それを見つめるレンノスケを見て、医者が一言。

 

 

 

「こうして聞くのは野暮かも知れませんが………もしかして中務さんは、貴方とは恋仲の関係で?」

「っ!……やはり、そう見えるか?」

「え、ええ……客観的に見たら、かなりそう見えましたね。あれ程までの焦りや重い情を向けられていたのを見聞すれば、そう思いますが……(もしかして新聞で書かれていた『城ヶ崎レンノスケが”恩義”を受けたヴァルキューレ生って……』)」

「ふっ、そう見られているのは嬉しいな……だが、この事は色々と秘密なんだ。余り人には知られちゃいけないから、黙ってて貰えると嬉しい」

「あ、はい。それは勿論です」

 

 

 

レンノスケは上機嫌にキリノとの関係性を黙秘するよう伝える。

 

医者は少々困惑を露にするも、レンノスケの表情を見て、ふっと微笑む。

 

瞬間、レンノスケが突拍子もなくある事を問い立たす。

 

 

 

「────ジジィには居るか?好きな人」

「え?わ、私ですか?」

 

 

 

それは、医者の恋仲関係だ。

何故急にこの事を告げたのだろうか……医者は少しレンノスケが変な人に見えて来た。

 

 

 

「な、なぜ、唐突にそのような……?」

「こういう話は昔から憧れでな、俺は友達が少ないし、まず男の知人が(黒服を除いて)居ないんだ。で、ジジィ、あんただ。あんた……俺とキリノさんの少しの会話を一目見ただけで恋仲の関係だと見抜いただろ?」

「は、はぁ……まぁ、あの流れを見たら、誰でもそう思うかと思いますが……」

「なんにせよ、あんたは良い人だ。俺の事を怖がらず、しかも対等に話してくれる。俺はあんたの事が好きになった」

「は……ははは、中々、思い切ってことを言い為さる御方だ」

「?……ま、キリノさんが来るまで、少し話したいのもあるが、あんたの話も聞いてみたいからな」

 

 

 

中々、純粋な御方なのだと医者は思った。

 

3年前から最悪の怪物と畏怖され続けて来た子供が、いざこうして対面してみれば、中々どうして無垢で可愛い子供だろうか。

 

 

「……んで、居るのか?あんたには、好きな人」

「あぁそれは、まぁ…居ますね」

「お、そうなのか。見た所、あんたは結構歳がいってる様に見えるが、もしかして夫婦なのか?」

「ははは、中々、歳の話は痛いですな……えぇ、もう40年は経ちますな………永く、時を共に過ごしました」

「え!?そんなにか!?」

 

 

 

レンノスケは老犬の医者の言葉に、耳を疑う。

 

それは、レンノスケにとって凄まじい数字の時間を生きていた。

 

 

 

「40年……ジジィお前、凄いな………流石だ」

「ふはは、いえいえ……ゆっくり生きて来ただけですよ」

「おぉ……その、やっぱ楽しいのか?そんなに、沢山の時間を共にするのは」

「そうですなぁ……えぇ、楽しい────だけでは足りぬ程、余りにも色んな感情が在りました」

「………辛い事もか?」

「………はい。でも、それ以上に『幸せ』でした。彼女と居られて、共に過ごす日々は………どんなに辛い日があっても、最後には幸福が来るほどに」

「はぁ~~~……凄い話だ」

「────……おっと!はは、申し訳御座いません少し喋り過ぎましたね……この歳になると、どうも昔話をしたくって……歳は取りたくないですな」

「いんや、大丈夫だ。寧ろ……為になる話だった。良いな、あんたと奥さんの関係、俺は素敵だと思う」

「はは……そういって頂けると、有難いですな。ありがとう御座います」

 

 

 

”コンコンコン!”

 

 

 

医者とレンノスケが恋バナに花を咲かせていると、少し強めのドアのノック音が響き渡る。

 

 

 

「お、来ましたね………どうぞ」

「失礼します!!!」

「ふぉ!?」

「ぬぅ!?」

 

 

 

勢いよく、ドタバタとキリノが入場する。

焦燥を滲ませ、目元は腫れ、目は未だ涙目だ。

 

キリノはレンノスケの傍に足早で向かい、そのまま問う。

 

 

 

「レンノスケさん!!レンノスケさん!大丈夫ですか!?背中は!?おでこや脚は!?何処か体に異常は!?」

「あ、ああいや、何処も問題ない……俺はもう大丈夫だ。えっと、キリノさんも元気そうだな?」

「私はどこも悪くありません!貴方が、護ってくれたから………ほ、本当に、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな、キリノさん」

 

 

 

レンノスケが座るベットに近付いて酷く心配するキリノに、レンノスケは確りと強く大丈夫だと伝える。

 

入場して即座にレンノスケを一瞥したキリノはレンノスケの包帯で巻かれた身体と額を見て、背中がヒュッと凍える様な感覚に陥ったが、レンノスケのマッスルポーズ(モスト マスキュラ―)を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 

「あぁ……よかったぁ………本当に、よかった……」

「中務さんですね。検査の程、お疲れ様でした」

「え?……あ、はい!ありがとう御座いました………え、えっと、それで、彼は……」

「城ヶ崎レンノスケ様でしたらご安心ください、彼はこの通り、命に別状は見受けられません」

「そ、そうですか………あ!す、すみません!騒がしくしてしまって……」

「ははは、いえいえ、お気に為さらないで下さい。ここ一帯に入院されている患者様は居ませんので」

 

 

 

そう言う老犬の医者を前に、キリノは深々と頭を下げ、感謝の言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……キリノさん、少し良いか?」

「っ!は、はい!どうしましたか?」

「すまない、3つ程聞きたい事がある」

「み、3つ……ですか?」

「ああ」

 

 

 

少しの間を開けて、レンノスケがキリノに向けて問う。

 

 

 

「分からなかったらそれで良い程の疑問なんだが……まず1つ────俺が襲撃を受けて、()()()()()()()()()()()……と云う情報は、もしかしてもうキヴォトス全土に知れ渡ってたりするか?」

「え、えっとぉ………恐らくですがソレは無いかと思われます。あの近辺は人が極端に少なかったでしたし、レンノスケさんに関する情報の漏洩はヴァルキューレでは徹底的に防いでいますから」

「む、そうか。すまない良い事を聞いた」

「……あ!でも、もしかしたら【ゲヘナ】や【トリニティ】、特に【ミレニアム】の上層部は既に掴んでいるかもしれません。皆さんはカンナ局長と共同してレンノスケさんの情報交換をしている……みたいなので、もしかしたらの話ですが……」

「なるほど……美甘や空崎、剣先にはワンチャンか……」

「も、もしかして、何か不都合が?」

「ああいや、不都合とかじゃないんだが……いや、不都合かもな。その……余り俺が怪我したとか、そういう『弱っている隙』を知られたくないなと云う俺の勝手な都合なんだ」

「あ、あーー……そういう事でしたか」

 

 

 

キリノは納得の意をレンノスケに向けて行う。

 

確かに、レンノスケが今現在弱っていると云う情報は中々面倒な状況を作りかねない所業だ。

只でさえ人一倍敵が多い存在だ、恨みを買っている数は多い。

 

そんな人間の弱みなど、狙われているに決まっている。

 

 

 

「まぁ、美甘たちだけに知れ渡っている可能性があるのなら、それはそれで良い」

「ですね。あ、先生には絶対に言わなければいけませんね」

「そうだな、服も台無しにしてしまった……謝らなければいけないな………さて、2つ目なんだが────あの子……『天丈アイラ』ってガキに関する事だ」

「っ…………」

 

 

 

キリノは息を呑む。

それは、己の目の前に居るレンノスケを裂傷や大火傷に負わせた張本人の名だから。

 

其の動揺は………恐怖心から来るモノだった。

 

 

 

「ガキ………アイラ、あいつは今どうなっている?カンナ局長には拘束のみ、取り調べは俺がすると伝えたが……やはり、難しいか?」

「………いえ、彼女は現在ヴァルキューレの牢屋にて拘束中です。貴方がお伝えしたように、カンナ局長はレンノスケさんの言葉を守っております」

「なに?それは本当か?」

「はい。先程、カンナ局著から連絡があったので、間違いない筈です」

 

 

 

その言葉を聞いて、レンノスケはあからさまに喜色の顔付になる

 

 

 

「そうか……よし」

「あ……あの、レンノスケさん」

「うん?なんだ?」

「────どうして、あの子の取り調べを自分から名乗り出たのですか?」

 

 

 

ふと、キリノは気になっていた事を告げる。

 

攻撃を受けた時からレンノスケは只々、アイラの事を気にかけていた。

 

キリノの疑問は真っ当だ。自分を殺そうとした人間を、どうして気遣う?

そんな色んな思いが浮かび上がる中、レンノスケはキリノの方を向いて、発語する。

 

 

 

「似てる」

「………え?」

「俺と、どこか似てるんだ、あいつが」

 

 

 

”似ている”

 

レンノスケは一つ、たった一つだけそう発語した。

 

 

 

「……アイラ、あいつは俺に『なんで殺さなきゃいけないのか分からない』……と、言っていた」

「そ……それは……」

「その言葉に、嘘はなかった。あいつから殺気が一つも感じられなかった」

 

 

 

レンノスケは続ける。

 

 

 

「変だよな?アイラは俺を殺そうとしていて、しかし、どうして、殺気を一つも出さないで、しかもこの俺に挑める?それに、変なのはそれだけじゃない。あいつは『自分ゴト』爆発しようとしていた。身体に爆弾を巻いてな」

「────…え」

「……もしかしたらアイラは────死にたかったんじゃないか……そう思ってしまって仕方ないんだ」

 

 

 

キリノは、最早マトモな思考は出来ないでいた。

頭が真っ白に成る。正解が導き出せない。

 

 

 

「推測でしかない俺の考えだが、あいつの声質は明らかに弱っていた。何もかも諦めたかのような、そんな『どうしようもなさ』を秘めていた」

「レンノスケさん………」

「────知りたいんだ。あいつを………アイラを」

 

 

 

最後に、そう発語し終える。

 

その瞳や声質には、確かな強さがあった。

 

 

 

”ギシッ”

 

 

 

「っ!?レ、レンノスケさん!?どうして立って?!」

「もう、大丈夫だ。もたもたしてる暇はないからな」

「そ、そんな……」

 

 

 

キリノがあたふたと慌て、レンノスケが淡々と座るベットから立ち上がり、包帯で巻かれた上裸のまま歩こうとする。

 

 

 

「おいあんた、包帯を巻いてくれて、ありがとう。本当に助かった」

「え、えぇ……もしや、もう動くので?」

「ああ、そうだ。世話になった」

「だ……だめ!!」

 

 

 

医者に一礼し、そのままドアに手を掛けようとした瞬間………キリノが割って入り、レンノスケの行く手を阻む。

 

 

 

「だ、だめですよ!!レンノスケさん、いいですか?本来貴方は動けるような身体じゃないんです!どうして動こうとか、そんな事を考えているのですか!?」

「キリノさん……だが」

「貴方がどれだけ大丈夫だと言っても、他人から見た貴方はとんでもない大怪我を負っている人なんですよ!?取調べは少し先まで伸ばせます!そんな、焦らなくっても良いんです。だから……今は、今だけは……無理しないで…ください」

「………」

 

 

 

声を張って静止の意を伝える。

 

感情的に成って泣きたくなのを堪える。必死に、唇を噛んで。

 

 

 

「……本当に、優しいな。キリノさんは」

「そ……そんな事言っても、退きませんからね……っ!」

「困ったな……どうすれば退いてくれる?」

「レ……レンノスケさんが、完治するまで……です」

「な、長いな……むぅ」

 

 

 

レンノスケは困ったように、首を掻く。

キリノの目を見れば、意志は固い様に見える。

 

怖いのだろう、顔の表情を見れば分かる。

 

 

 

「キリノさん、何も、俺は戦いに行く訳じゃない。ただ俺は、アイラと少し話したいだけなんだ」

「そ、それは、そうですが!!貴方は今、酷い大怪我の状態で…ッ!」

「俺の目を見てくれ。嘘を言っている様に見えるか?」

「いや……そ、それ、は………で、でも………でも!」

「────約束する。無理はもうしないって、キリノさんに誓う」

「………う、うぅぅ~~~っ」

「頼む」

「────わ……分かり、ました」

「ふっ、ちょろかわ」

 

 

 

”ピクッ”

 

 

 

「………レンノスケさ~~~ん!?」

「あ、やべ」

「……元気で良いですねぁ」

 

 

 

若き二人に当てられた医者の老犬は、一人端でそう呟いた。

 

レンノスケは医者の笑みに気付き、即座に視線を医者の方に向いて発語する。

 

 

 

「おいジジィ、2度目になるが、もう一度……ありがとう」

「ああ、いえいえ……これも、我々の仕事ですから」

「さうか、凄いな……俺たちはもう行く。お金は……」

「大丈夫です。カンナ局長が既に手配して下さいました」

「む、そうなのか。有難い………じゃあな」

「くれぐれも、ご無理はなさらないで下さいね。命に別条がないだけで、貴方は確りと怪我人ですから……本来なら有無を言わさず即入院なのですが………そうも言っていられない状況みたいだ。今回は特別です」

「ああ、肝に銘じる」

「えっと、お医者さん、今回は本当に……ありがとう御座いました!」

「ふふ、いいえ、事が終えたらまた病院にお越し下さるようお願い致します。包帯の替えや薬など、処方しなければいけない物が沢山ありますので」

「ああ、また来るよ」

 

 

 

少しの会話の後、レンノスケとキリノは病室を後にする。

 

キリノは終始渋っていたが……。

 

 

 

「若さ、か。いやはや……昔を思い出す」

 

 

 

一人、病室で事を思い出しながら、そう呟く医者の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お、来たな~~……って、え?」

「む?」

「あれ?コノカ副局長?」

 

 

 

病院を急ぎ足で後にして、出口のドアを開けた瞬間……キリノにとって見知った顔がドア付近に立って居た。

 

その人物はヴァルキューレ【公安局のNO.2】であり〈副局長〉を務められている人物………『コノカ』が其処には居た。

 

コノカのバックには一際目立つ護送車があった。恐らく、あの車で向かうのだろう。

 

 

 

「コノカ副局長!お疲れ様です!もしかして、コノカ副局長がお迎えに来て下さったのですか?」

「おっす、お疲れー。ま、そうなるなー、姉後は各自治区に今回の事件の説明に当たってるのもあって、いま手が空いているあたしに白羽の矢が立った訳────……いや、いやいや、そうじゃないそうじゃない」

「? ど、どうされました?」

 

 

 

コノカが微妙に頬を赤く染め、視線がレンノスケの方に向く。

 

何やら、様子が可笑しい様に見える。それはキリノやレンノスケも感じていた事だった。

 

 

 

「どうしたって………あー、城ヶ崎レンノスケ?あんた……上着は?服はどうしたんだ?」

「上着?んなもんねぇよ」

「え………はぁぁ!?」

 

 

 

キリノは、言われて気付いた………レンノスケは今、上着を着ていない。

 

一応、包帯を巻いてはいるが、それでもレンノスケの巨体ではどうしても肌は露出する。

 

乳首や鎖骨はギリ隠れてはいるが……腹部、その綺麗に割れている腹筋は、丸見えである。

キリノは色々あって、レンノスケの服事情を完全に頭から離れていた。

 

 

 

「いや、違うな。服なら今着てるだろ、包帯を」

「いやそれ服じゃねーよ!?」

「あぁん?おい、よく見ろ……乳首は隠れている。つまり、コレは服だ」

「なにっ………ん?確かにそうかも……」

「違いますね!?全然服じゃないですよ!?レンノスケさん今ちょっとヤバい格好ですよ!?コノカ副局長!!?」

「はっ……そうだそうだ、あぶない……思わず肯定する所だった……」

「ぬ?そうなのか?キリノさん。因みにどんくらいヤバい?」

「え?えっと……露出狂が最高ランクって感じで例えると、それの二段階下のランク?とでも言えば良いでしょうか……?」

「なるほど、じゃあ、セーフだな」

「う、うぅん…?」

「いや、中々グレーじゃねぇか?………あ」

 

 

 

コノカは、初めて喋るレンノスケを前に、少々ペースが呑まれそうになる。

 

そしてふと、コノカの脳裏に過る数日前の記憶。

 

あの日、レンノスケが初めてD.U.近郊に現れて、色々あった日から、コノカはカンナから良く聞かされていた事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽とある日の公安局……。

 

 

 

 

 

 

『城ヶ崎……奴は、最高峰の戦闘力を持ち合わせ、同時に……最悪の思考回路をしている』

『……それって、城ヶ崎がブラックマーケットに居た時と変わらない凶悪さ、だったという事っすか?ま、あんなエグ過ぎる圧を出す奴がマトモな訳がないのは知ってましたが』

『いや、まぁ……そういう解釈もあり、なのか……』

「ん~?なんすかなんすか?さっきから姉御、妙に様子が変じゃないっすか?……取調べから連邦生徒会緊急会議までの間に、一体何があったんっすかー?」

 

 

 

茶化す様に、しかしその問いかけには確かな理解を求めていた。

 

コノカの問いに、カンナは『どう言えばいいか……』と、少々困ったような顔を作りながら、告げる。

 

 

 

『────副局長、お前は……これまで3年に渡ってキヴォトス全土を震撼させ続け、〈裏社会最悪の怪物〉と謳われていた男が、蓋を開ければ〈純粋最悪ナチュラル変態サイコ〉だった場合……お前はどうする?』

『────は?』

 

 

 

カンナの唐突過ぎる回答に、コノカは困惑しか出来ない。

 

一体、何を言っているんだ……?

 

コノカは心の中でそう呟く。しかし、当の本人を見れば、その表情におふざけの感じは見えない。まず、カンナはそういう茶化しはしないタイプだ。

 

つまり、カンナの言っている意味不明なワードの連続は、カンナが見た『城ヶ崎レンノスケの人物像』に為るという事。

 

……いやまず、お前はどうする?と言われても……。

 

 

 

『く……詳しく、聞きたいんすけど~……?』

『うっ……あぁ、いや……すまん、忘れろ』

『えー!!?ちょッ、そんな超絶に気になる事言っておいて、そりゃぁねぇっすよ!………あ!ちょっと待つっす!一体何があったのか聞かせて下さいよ姉御ーー!………────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……あー、なるほどなぁ~………」

 

 

 

コノカは先の記憶を思い出し、カンナに伝えられた事の意味を理解する。

 

 

 

「確かに、コイツは中々にイカれだな」

「さっきから、何なんだお前は。どこのどいつだ?」

「レ、レンノスケさん!この方は公安局の副局長、コノカさんですよ!?」

「なに?副局長……?って事は、カンナ局長の一個下か?」

「え、まぁ、そうなるっすね~………んで、どうしてそんな恰好なんだ?あんた」

「手榴弾の爆炎で全部焼けた。先生がくれたスーツ、凄く着やすかったんだが………申し訳ないな」

「あーなるほど……ま、ズボンが焼け焦げなかっただけまだマシか……」

 

 

 

会話の途中で服の所在を問うと、帰って来たのは妥当な回答。

 

手榴弾の爆炎で焼け焦げる、有り得ない話ではないが……シャーレ専用のスーツともなれば防火性は落ちるか。

 

 

 

「そんな事はどうでもいい。確か……コノカ副局長と云ったな?」

「おう、あたしが公安局副局長のコノカだ。よろしくな」

「あぁ、よろしく頼む。俺は城ヶ崎レンノスケと云う。これから先、俺はあんたの下に付く者だ」

「……もう知ってる、なんて無粋な事はなしだ!ま、取り合えず後ろの護送車乗ってくれ。キリノもな」

「は、はいっ!」

「分かった」

 

 

 

コノカはこの少しの交流でレンノスケの実態を大体掴めた。

 

確かに、カンナの悩みの種だと、そう実感もつかめた。

 

 

 

 

 

 

▼護送車内にて………。

 

 

 

 

 

「────……という事があった。それで、俺はこの有様だ」

「俄かには信じがたいなー。あんた程の人間が只の爆弾の爆発でそこまで傷を負うか?掠り傷は有り得ても、そんなエグイ怪我にまで繋がる程の爆弾なんて聞いた事がねぇ」

「ですが、現に今レンノスケさんは酷い大怪我を負っています。本官も今でも驚きを隠せないでいますが………」

「その事で、アイラと話したいんだ。あいつは何者で、どうしてこんな代物を持っているのか、どうして自分ゴト巻き込む算段だったのか、色々とな」

 

 

 

現在、コノカはレンノスケにこれまでの経緯を聞いていた。

その内容に、コノカは信じられないような態度を見せるが、カンナから聞いた言葉とキリノが体験した内容をキメ細やかに説明され、その事が本当だと信じるしかなかった。

 

 

 

「あの爆弾を遠ざけて正解だった。俺は若干喰らってしまったが、あのままじゃ、俺どころかキリノさんにアイラまで死んでいた。それほどの威力だった」

「ヘイロー持ちの人間を意図も簡単に死の淵に追いやる爆弾~?それを持つ痩せ細った小さい子供?……おいおい、これぁ大事(おおごと)だぞ?厄ネタもいいところだ……あんたよぉ、ブラックマーケットに居た時はそんなブツとか見聞した事とかないのか?」

「生憎、そんなのは聞いた事も見た事も無い。散々爆発物を喰らってきた俺が言うんだ、信憑性は高いぞ」

「ふーむ……ブラックマーケットでも流通していなかったとなると、そこ以外の何処かの組織が独自の技術で作ったとしか、現状は考えられないな」

「その組織がレンノスケさんを狙ったとなると……やはり、賞金が目当てでしょうか?」

「それしか考えられないよなー……なんせ、あんたには”7億”の金が積まれてんだからよ」

「まぁ、今までも、俺の首が欲しくて仕方ない連中がそこかしこに居た。まさか、今になってまで襲撃を受けるとは思わなかったが………だが、だからといって、あんな実戦経験も少ないガキに組織が俺の殺害を任せるとは到底思えん」

「あんたの強さ、その危険性を考えれば考える程、どうしてあの子供一人に任したんだろうな?」

「うーむ……貴方はキヴォトスで最恐と呼び声が高い御方ですからね。だからこそ、どうしてあんな幼い子供に………謎、ですね」

 

 

 

事態は思っていたよりも深刻だった。レンノスケを狙った目的は、現状考えれる事は彼に懸かっている”賞金首”だろう。価格は破格の7億、一生遊んで暮らせる金額だ。それが、あんな場所を堂々と居れば襲われはする。

 

しかし、襲撃などブラックマーケットに居た時から散々受けて来たのがレンノスケだ。そして、それを全て返り討ちにし、時には殺しもする容赦の無さを見せつけて来たのもレンノスケだ。

 

それを知らない裏社会の組織はない。だから16歳になってから、彼を狙う者はカイザーを除けば極端に少なくなった。

 

 

……第一として、まだ10才に満たない子供がヘイロー持ちの人間を葬れる兵器を所持し、それを使用した事が大問題なのだ。

 

様々な考えを考慮しても、未だに謎を深まる。

 

 

 

「……これは、直ぐにでもアイラって子の取り調べをしなきゃいけねーな」

「それは俺も思う。まだ正式にヴァルキューレじゃない俺に場を設けてくれたカンナ局長には、感謝しなければいけないな」

「そうだな。これも、姉御があんたの【ヴァルキューレ”新組織設立”】に一役買ったお陰かもなー」

「……なに?なんだ?それ」

「あん?なんだ、キリノ言ってなかったのか?」

「あ、あの……本官も知らないのですが、その【新組織設立】とは一体?」

 

 

 

コノカが一瞬顔をこわばらせ「姉御、言ってなかったのか……」と、そう呟く。

 

コノカからしても、どうやら予想外だったらしい。だが、コノカもカンナがまだレンノスケとキリノに言えないような事情があるのを予想する。混乱か、将又……現実性のない取り組みか、これに関してはカンナに一任するしかないからコノカはこれ以上は考えるのをやめ、一応自分が知っている情報を二人に伝える。

 

 

 

「────ヴァルキューレ新組織設立………【生活安全局】、【交通局・情報通信局】に【海上警備】や【警備局】、そして……【公安局】と云った、各組織がヴァルキューレに在るのは知っているな?」

「あぁ、キリノさんからヴァルキューレの事はよく聞いている。そうだ、俺は一体どこに所属するんだ?もう出てるのか?案は」

「……あんたは何処の組織にも入らない可能性が出て来た」

「ぬぅ!?」

「えっ!?そ、それは、一体どういう事でしょうか……?」

「単純に扱いだろうな。城ヶ崎レンノスケを取り入れる程の髄力が、ヴァルキューレには無いんだよ」

 

 

 

考えれば、そうだ。

 

単独で学園規模の人間を、抑えられる力など何処が所望しているのか。

今までヴァルキューレが散々追い求めた怪物……城ヶ崎レンノスケだ。

 

ヴァルキューレのみならず、ゲヘナやトリニティ、ミレニアム等の学園も追った存在だ。理由は、その並外れた戦闘力に異常な人間性、キヴォトスでは唯一の男子生徒………これだけでも、彼の異端さが目に見えて解るだろう。

 

 

 

「だが────唯一、たった一人、レンノスケを抑えられる存在が居た」

 

 

 

コノカはそう言い終えると、キリノの方を見る。

 

 

 

「キリノ……あんただ。あんただけが”レンノスケを制御できる”。これがレンノスケをヴァルキューレに編入させる事が出来る大きな要因なんだよ」

「本官が……で、でも、レンノスケさんは本官だけではなく、カンナ局長や先生、他の方々にも………」

「”抑えられる、命令を聞く”……言いたい事はこれか?ま、分かるよ。確かに1週間前に見た時よりも、あんたは明らかに柔らかくなった」

「ふん…」

「レンノスケさん……で、では────」

「────だがな………それは”キリノが居たから”だ。違うか?レンノスケ」

「────そうだな」

 

 

 

辺りが静寂に包まれる。

 

コノカの目が鋭くなり、それはレンノスケも同様、両者の纏うオーラが厚くなる。

 

 

 

「キリノさんが俺の全てだ。キリノさんが居るから俺は此処に居て、共に居たいからキリノさんの傍に居る。キリノさんが居るから────俺は生きている」

 

 

 

レンノスケは続ける。

 

 

 

「俺はキリノさんの様な〈立派な警察〉を目指す。人に優しくする事、弱っている人を助ける……そんな警察に、キリノさんみたいに成りたい………だがな」

 

 

 

”ズアッッッ………”

 

 

 

圧が増す。コノカに向けて放った圧は、怪我人が出せる様なモノではない。

 

 

 

「────俺がヴァルキューレに入る大きな目的は『キリノさん』の存在があるからだ。断じて、お前たちの力に成るだとか、そういう事ではない。無論、弱い者や子供の味方ではあるがな………こんな話をするんだ、それは分かっているのだろう?」

「はっ……まぁな。だからこうやって対面で話したんだよ………ふ、ふはっ。やっぱエゲツねぇな?お前本当に怪我人かよ?」

 

 

 

コノカから見たレンノスケは、絵本や映画に出て来そうな”怪物”に見えた。

 

それほど、自分の様な人間とはかけ離れた存在なのだと、そう実感するしかない程に。

 

 

 

「怪我人だ。まぁ、もう塞がったし、大したもんじゃなかった。これなら、もう動き回っても大丈夫だ……な……」

「…………………」

「な、なーんちゃって。冗談だキリノさん……いや、ほんとう」

「……走ったり、また無茶しようとしたらお仕置きですからね」

「(え……なんか、ありじゃね?)……ふっ、キリノさんのお仕置きか……いいかもな」

「な……お、お仕置きですよ!?本当にしますからね!!?」

「ふはっ!なんだか、余り怖くなさそうだな?」

「んなっ!?っ……もう!」

「くはっ、すまないな。で……仮に俺が無茶をしたとして。キリノさんはどんなお仕置きを、俺にしてくれるんだ?」

「そ………それは……」

「それは?」

 

 

 

レンノスケがズイっと顔を近づける。

 

 

 

「ひゃっ…ち、ちかっ……~~~っ!!────………ほ、ほっぺた、コネコネの刑……です」

「くっ……勘弁してくれ、可愛いが過ぎるぞキリノさん」

「そっ!そういうから、言いたくなかったんです……ッ!」

 

 

 

唐突に始まる漫才。

 

だが、数時間前まであったシリアスな雰囲気は消えた。

キリノも大分落ち着きを取り戻せたようだ。目元の腫れも、怯え切った表情も、今では見受けられない。

 

これでいい、これでいいんだ。

 

レンノスケは顔を赤く染めるキリノを見て、そう思った。

 

 

 

「うはー……あぁ、なるほど。姉御が嘆いていた理由が分かった気がするっすわ~………クソが!」

 

 

 

急に蚊帳の外になったコノカは悪態を付きながら、その光景を見続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”コツ、コツ、コツ………”

 

 

 

 

 

「先に姉御に会いに行くぞー。現状のあんたを、姉御に報告しなきゃいけねえからな」

「あぁ、分かった。案内頼む……にしても、また来たな、此処に」

「いつの日か、此処の光景が普通になる時が来るんですよ、レンノスケさん」

 

 

 

数十分後、3名はヴァルキューレ本部に着き、そのまま内部に入っていく。

 

周りはレンノスケが表れた事もあって、少し騒がしい。仕方ない事だった。

 

 

 

「見てあれ、本物だよ…っ!」

「わっ……じょ、城ヶ崎レンノスケだ………いや身長デッカ」

「筋肉も凄くない?ほら……あの腕とか腹筋とか……足も長いな~……」

「顔とか、生で初めて見た……こうしてみると、結構かっこいい、かも」

「でも何で此処に居るの?襲撃に遭って凄い大怪我を負ったって聞いているけど……」

「いやまず上裸じゃん!?エロっ……あ、違う、え、なんで?」

「う、うわっ、ホントだ……包帯で巻いてあるけど、上に服着てないじゃん」

「腹筋丸見えだ……す、すごい」

「なんで乳首見えねぇんだよ……惜しいな~」

「背中……ちょっと血が滲んでる………痛そう…」

「ね……大丈夫かな?」

「キリノちゃんと、確か……爆発物を所持した小っちゃい子供を助ける為に体を張ったんだっけ?」

「らしいよ?もし本当だったら、あの人ってもしかして私達が知る様な人じゃないのかな?」

「隣にキリノとコノカ副局長と居るし、城ヶ崎レンノスケから何も圧を感じないから……そうなのかも?」

「……でも、まさかヴァルキューレに編入なんてねー。未だに信じられないや」

「カンナ局長が”新しい所属先を制作する”って噂で聞いたけど……どうなるんだろ」

 

 

”コソコソ……コショコショ………”

 

 

本部にて仕事をしていたヴァルキューレ生達の囁き合いが辺りを包む。

注目の的は……やはり城ヶ崎レンノスケだ。

 

 

怪物と恐れられ、今まで全く足取りが掴めずに居た存在が、今こうして自分達の目の前に居る。

 

 

そして……彼女たちが初めて見るであろう『男の子』である。

こうやって目に当てられるのは、仕方がない事だった。

 

 

 

「くッ………何だか、ちょっとムズ痒い感覚だ。こう、敵意じゃない視線で見られるのは……」

 

 

 

敵意の視線で見られるのは良くあることで、それが今までのレンノスケの扱いだった。

それが当たり前だった。ずっと、自分は敵ばかりだった。

 

だが、好奇な視線で見られるのはどうしても慣れない。

 

ムズ痒く、何処か照れくさそういしている。

 

 

 

「ふふ……皆さん、貴方の事が気になって仕方ないみたいですね」

「……俺の事が?」

「だろーな。あんたは今ヴァルキューレ……いや、キヴォトス全域で話題の目になってるからな」

「そうなのか?いや……そんな、俺はそんな大した人間じゃないんだがな……」

「はい?」

「はぁ?」

「え…?」

 

 

 

そんなこんなで、3人はカンナが居る一室まで歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■取調べ室、その監視室にて………。

 

 

 

 

 

 

”こんこんこん”

 

 

 

 

 

「入れ」

「失礼するっすよー姉御ー」

 

 

 

監視室、其処に居座る影が一つ。

 

入って見れば、カンナが疲弊し切った様子で椅子に座っているのが分かった。

 

 

 

「姉御と呼ぶなとあれほど………と、来たか、キリノに────……おい、レンノスケ。服はどうした」

「お疲れ様です!カンナ局長」

「さっきぶりだな、カンナ局長。アイラの事、感謝する。服は燃えた。以上」

「(燃えた?あぁ……)まぁ、本来は色々と良くない事だが、身体を張った者に対する願いだ。今回だけ特別だぞ」

「あぁ、分かっている」

「……怪我の具合は?」

「良好だ。血は止めたし、運動をしなければ、これ以上出血はない筈だ」

「そうか……命に別条がなければそれでいい────よく頑張ったな、レンノスケ」

「いや………当然の事をしたまでだし?」

 

 

 

数秒、カンナとレンノスケは会話を挟む。

 

初めて会った時の仲の悪さが嘘のように、二人は落ち着いて話し合っている。

それがキリノは嬉しくて、堪らない気持ちになる。レンノスケが成長していると実感できたから。

 

 

 

「お前には個人的に話したい事が色々とあるが、今は……」

「天丈アイラ、あいつは今、どうして────………あぁ、あそこに居るのか」

「そうくるとは思っていた。アイラは現在”取調室にて拘束中”だ。お前が懇願した通り、まだ尋問はしていない」

 

 

取り調べ室に目を向ければ、そこにはチョコンと席に座る小さい女の子の姿があった。

 

微動だにせず、ガスマスクと装備品は押収された状態で。

 

 

 

「そうか……アイラ、お前…そんな顔、してたんだな……」

 

 

 

一人、そう呟くレンノスケの表情は、何処か哀愁を漂わせていた。

 

そんなレンノスケの呟きに、それぞれが反応を見せるも、返す事はしない。

彼が何を想っているのか、彼女に何を感じたのか、分からないから。

 

 

第一、レンノスケにとって、カンナが己との約束を守ってくれた。

その事がまず嬉しく感じ、そしてアイラと自分がサシで話し合える状況になれる事が、喜ばしい事だった。

 

 

 

「……本当に感謝するよ、カンナ局長」

「先程も言ったが、今回は特別だ。一応、お前の()()()()()()()()()()()()()()()()()に成っている。だから出来た事象だと忘れるなよ」

「(え?俺、もうヴァルキューレなのか…?)あぁ、分かったよ」

 

 

 

何やら気になる事が聞こえたが、レンノスケは今は気にせずカンナの一礼する。

 

 

 

「────じゃあ、早速アイラと話し合いたい。警察の様な取調べ……とはいかないが、アイツの”事”を聞き出す。そして、あの無駄に硬い口を割らせてやる」

「……い、言っておくが、貴様のお得意な暴力は無しだぞ?」

「分かっている。幾ら俺でも、あんな小さく弱い子供相手に暴力はせん」

「(ホントかよ)」

「(だ、大丈夫でしょうか……)」

 

 

 

”コンコンコン”

 

 

 

「入れ」

「失礼します。カンナ局長、城ヶ崎レンノスケさんが来たとの事ですが……」

「あぁ、丁度いい……レンノスケ、彼女の案内の元、取調室まで行け」

「む?あぁ、分かった。宜しく頼む」

「は、はい……」

 

 

 

入って来たのは公安局のヴァルキューレ生。

 

どうやら、彼女がレンノスケを取調室まで案内してくれる役みたいだった。

 

 

 

「じょ……城ヶ崎レンノスケさん。では、こちらまで」

 

 

 

レンノスケは一人のヴァルキューレ生に取調室まで案内される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………(こ、こえ~……っ!)」

 

 

 

”コツ、コツ、コツ……”

 

 

 

足音が響き渡る。

 

レンノスケは表情を崩さないまま、ヴァルキューレ生は超絶的に緊張をしたまま。

 

 

 

「……あ、なぁ」

「ひっ!は、はひ!?なんでしょか!?」

「あ、いや……すまん、驚かせてしまったな」

「あ……す、すみません!!ぶ、無礼を働いてしまって……」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 

 

レンノスケと二人きり、これが中々どうして怖い事か。

 

それもそうだろう。彼は顔も怖ければ図体も人一倍はデカい。

圧を隠しているが、流石に強すぎて漏れてしまっている。

 

怖くない要素が無いのだ。それが、幾ら修羅場を潜った公安局の生徒でも。

 

 

 

「あ……ありがとう、ございます(あれ?殺されなかった?)」

「怖がらせてしまって、すまない。俺は、こういう感じだから、どうしても怖がらせてしまうから……その、わざとじゃないんだ。許してくれ」

 

 

 

そう言ってレンノスケは誠心誠意ヴァルキューレ生に謝る。

 

 

 

「え、ちょっと可愛い(そうなんですか…)」

「え?」

「へ?あ……じゃ、じゃなくって!えっと……城ヶ崎レンノスケさん、先程私に何か聞きたかった事とか……(あっぶねー!)」

「あ、あぁ……えっと、一つ、頼みたい事が────」

 

 

 

ヴァルキューレ生はレンノスケの言葉を聞く。

 

 

 

「……わ、分かりました。多分大丈夫だと思います。カンナ局長にはその事は?」

「あぁ、もう言ってあるから大丈夫だ(言ってはいない)その………お金はどうなる?」

「あぁ、確か予算で落ちるので、そこは問題ないかと」

「そうか、良かった。すまんが頼む」

「は、はい。ですが、少し時間は掛かるかもしれません。それでも宜しいでしょうか?」

「あぁ、大丈夫だ。だが、出来るだけ早めに頼んでほしい」

「はい……では、後でお持ちしますので、先に取調べ室に……では、宜しくお願いします」

「あぁ、感謝する」

 

 

 

そうして、レンノスケはアイラが待つ取調室に入っていく。

 

 

 

”ガチャ”

 

 

 

「えっ………」

「よぉ、アイラ」

「じょーがさき、レンノスケ?……ほんとうに?」

「あぁ、俺が────」

「なんで生きてるの?すごい血がいっぱいだったのに」

「お、お前なぁ……」

 

 

 

レンノスケの生存に、アイラは度肝を抜かれた表情を作る。

 

そして、何の躊躇いもなくレンノスケに無自覚の煽りを行う。

レンノスケ自身、その事に多少思う所はあるが、相手がまだ幼い子供の事もあり、強くは出れないでいた。

 

 

 

「ふぅ……もう過ぎた事だし、気にしてもしょうがないか……」

「あの……その、えっと、じょーがさきレンノスケは、もう、身体は痛くないの?」

「あ?あぁ…もう痛くねぇよ、どこも」

「………そっか」

「………少し、お前にやるモンがある。それが来るまで、色々と話して貰うぞ」

「? やるモン……って、なに?」

「来るまで秘密だ」

「むぅ……わかった」

 

 

 

 

 

 

▽監視室……。

 

 

 

 

 

 

「……あの子、命知らずっすか?」

「ま…まだ子供なんだ、そういう事もある」

「ふ、ふぅーー……胃が痛いです………」

 

 

 

 

コノカ、カンナ、キリノは、レンノスケの取り調べ(モドキ)を監視室で見守る。

 

 

 

「にしても……レンノスケの奴、アイラって子にやるモンって一体なんだ?まさかあいつ(ヴァルキューレの生徒)に何か頼んだな?」

「……キリノ、何か聞いているか?」

「い、いえ……本官は何も……」

「私が許可したのは取調べのみ何だが……あいつ…ッ」

「まぁまぁ、あいつ(ヴァルキューレの生徒)に何の連絡もないんで、特段気にする様な事でも無いかもっすよ?それに、今はあの二人に注目しないと」

「……はぁ、あぁ、そうだな」

 

 

 

カンナは少しの間頭を回転させ、自問自答を繰り返した後、納得した顔持ちで目の前の取調室に目を向ける。

 

 

すると、何やら会話を取り入ってる様だった。

 

 

 

『まず、お前に聞きたい事一つ目だ』

『…………』

『一つ……アイラ、お前は何処の人間だ?そんなガスマスクを付けた奴、今まで見た事ねぇ。組織があるんだろう?言え』

『…………』

『……ふぅ、まあいい、二つ目といこう────二つ目は、お前の目的だ。なぜ俺を狙った?金か?理由を言え』

『…………』

 

 

 

”しーん…”

 

黙秘、それを只々アイラは貫く。

 

アイラは無表情だ。生気が感じられない虚ろな瞳をレンノスケに向けて放つ。

だがそれはレンノスケも同様、表情は動かない。

 

 

 

「……だんまり決め込んでるっすねー、あの子」

「奴を前にして、黙秘を貫くか……大した根性をしている」

「………レンノスケさん」

 

 

 

三者三様、それぞれが反応を見せる。

アイラは絶対に口を開けない。ムスッと仏頂面でレンノスケを見つめている。

それが中々どうして、驚愕な事か。相手はあの怪物、城ヶ崎レンノスケだというのに…。

 

怖さを知らぬか……将又、ただ単純にレンノスケの本質を知らないだけか。

 

それぞれが思考を巡らせる中、レンノスケが一手を進ませる。

 

 

 

『黙ってても、良い事はないぞ?』

『………』

『ふむ……成程、やはり────”拷問”しかないか』

 

 

 

”ゾクッッッ!!”

 

 

 

カンナ、コノカ、キリノの背筋が凍る。

 

レンノスケが発したその単語に、言いようのない恐怖を感じたからだ。

 

 

 

『────シッ!!』

 

 

 

”ドッッ────”

 

 

 

 

『……?……ッ!? え?』

「な……」

「おいおいおいおいおい……っ!」

「うそ……」

 

 

 

瞬き……それ程の一瞬だった。

 

次にレンノスケを確認したのは、アイラと対面に座る姿ではなかった。

 

 

 

「マジか?……マジでか!?」

「っ…何て奴だ」

「みえ、なかった………」

 

 

 

レンノスケは、後ろに居た。

 

アイラの……背後に、立って居たのだ。

 

 

 

一瞬、本当に一瞬だ。目で追えぬ速度だ。

 

 

 

『……どこ?もしかして────』

『振り向くな』

『ひっ……』

 

 

 

冷徹、無情、威圧的な重低音の声が響く。

 

アイラは悟った。彼は後ろに居る、何か妙な事をすれば……死ぬのだと。

 

 

 

『ガスマスクだけでなく、装備も外され、布越しのお前など只の紙切れ同然………』

『っ………』

『ふぅ……喋っていれば、良かったのにな?俺も……こんな事、しなくて済んだ筈なのに』

 

 

 

自分はしたくなった……そう思わせる声質だった。

 

 

 

『残念だよ、アイラ────精々、泣かない様、頑張れよ?』

『あ………』

「まって、レンノスケさ────」

 

 

 

キリノが声を張らす。

 

だが、届かなかった………レンノスケの両腕が、アイラに先に届く。

 

 

 

 

 

────レンノスケによる拷問が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────こぉーーーーッ!こーちょこちょこちょこちょこちょこちょーーーーっっっ!!!』

『────ッッッッッ!?!?!?!?』

 

 

 

”さわさわさわさわさわッッッ!!!”

 

 

 

レンノスケによる拷問、それは────。

 

 

 

「…は?」

「…へ?」

すう………はへぇ?」

 

 

 

恐らく、世界で一番優しい拷問……。

 

 

 

『こちょこちょこちょ!!!』

『ひゅっ!!!は、はひひひっ!wwwひゅ、ふはぁ!?』

 

 

 

そう……脇腹を集中的に狙う擽り(くすぐり)であった。

 

 

 

「ん?……うん?え、ん?」

「………?????」

「え、えぇ…?」

 

 

 

コノカ、カンナ、キリノの順で反応を見せる。

全員が全員、理解が追い付いて居ないでいる。

 

レンノスケの唐突な拷問発言、目で追えぬ超高速接近、不穏な空気から急激な擽り攻撃……。

 

流れ的に言えば、こうなるが……常人では、まず理解が出来ぬ芸当だ。

 

 

 

『おら!どうだ、くすぐったいだろ!ウラァッ!』

『ひゅっ!ふふひひっ!ひひっ!や、やぁ!いやぁ…っ』

『いやだ!?やなのか!?じゃあ、話すか?話すなら、止めてやるぞ?』

『っ!?……は、はなしゃ、ない!ぜった、ふひ!ひゃふ、へへ………っ、はな、しゃない!』

『なにぃ!?……そうか、じゃあ、こちょこちょ攻撃の強度を上げる────オラ死ねぇ!(!?)』

 

 

 

 

”こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ”

 

 

 

 

『っっ!!???!?!ふぅぅぁぁぁぁああ!?ふあぁ、ひひひひひ!!!』

 

 

 

”さわさわさわさわさわさわ!!!!!!”

 

 

 

 

『ふぎゅっ!!?はぁうあううあ!!?ひひひふ!っっっ!────ぁ』

『むっ!』

 

 

 

”ストン────”

 

 

 

アイラが堪らず席から落ち、床にへたり込む。

 

絶妙な下限のこちょこちょ攻撃に耐えられなかったのだ。

 

 

 

「え、えぇぇ~~~………」

「城ヶ崎、あいつ……」

「カ、カンナ局長……あの、ああいう取り調べは、アリ……なのでしょうか?」

「………論外だ、馬鹿者」

 

 

 

で、ですよね~……と、キリノは告げる。

 

カンナもコノカも、キリノも…レンノスケの言動にやっと理解が追い付く。

 

 

 

『は、は………はひゃぁ………』

『ふんっ、思い知ったか』

『ひ……ひどい』

『何とでも言え』

『……おに』

『ふん』

『~~!あくま…っ!』

『効かん効かん』

『かいぶつ!』

『何回も言われてる、ダメージゼロ、おつかれ』

『……へんたい』

『それは止めろ!』

 

 

 

凡そ、レンノスケがしている取り調べは、死の淵に立たされた者にする対応ではなかった。

 

アイラはそんなレンノスケを変に思うが、それよりも、斜め上過ぎる拷問(笑)による行為を許せないでいた。

 

 

 

『じょーがさきレンノスケ、ずるい。せこい。人間がする拷問、じゃない』

『あぁん?まだ言ってんのかクソがキめ……だが、先に煽って来たのはお前だ、アイラ。観念してさっさと情報を吐け』

『……吐かない、って、言ったら?』

『────その時は』

 

 

 

レンノスケが床にへたり込むアイラを見下ろし、そして、足元に視線を向ける。

 

 

 

『足裏……もう分かるな?』

 

 

 

”ぞっ……”

 

 

 

足裏……その単語を聞いたアイラは、背筋を凍らせる。

 

 

 

『っ………』

『余計な抵抗はしない方が良い。次は……お前が泣いても、おしっこを漏らしても止めんからな』

『なっ……あ、あくま!』

『ふん』

『ばけもの!』

『ば………ばけものって、お前………』

『……へんt』

『はい、じゃあ足裏な?もう許さん』

『や、やぁ!やだ!もう……やぁ………』

『ほぅ……やっと音を上げたか………随分と、効いたみたいだなぁ?んん?』

『っ………~~!!』

 

 

 

涙目を浮かべ、レンノスケを睨みつけるアイラ。

その様子に満足したのか、レンノスケは世にも恐ろしい笑みを浮かべる。

 

最早、どっちが悪か分からぬ光景である。

 

 

 

「……事案かな?」

「い、いや……これは、じ……尋問?の類?かと……」

「……あの、馬鹿者が………こんな尋問があるか」

 

 

 

身長196㎝の大男が、身長111㎝の幼い女の子を泣くまで擽り、愉悦に浸る。

 

事案と云えば、事案である。だが、被害者はレンノスケで、加害者がアイラなのも事実である。

 

 

 

『どうだ?話す気にはなっただろう?』

『あっ………う、ん』

『そうか…(表情はまだ悪い……一体、何がここまでコイツを追い詰めている?)』

 

 

レンノスケの狙いは『アイラの笑顔』だ。

 

子供、基……アイラの様な幼い子供が、自分と同じ〈死んだ瞳〉を作っている。

痩せ細り、余りにも軽すぎる体重、そして…何もかも諦めた表情……凡そ子供がして良い顔ではない。

 

 

 

『(こちょこちょ……あんな強引な方法しか、馬鹿な俺には思いつかなかったが……だが)』

『………くすぐったかった』

『っ!ふ、そうか(表情が和らいだのも事実……俺の事も、もう怖くはない様子。良い傾向、だな)』

 

 

 

無理矢理作らせた笑みでも、それがプラスになればレンノスケのしたかった事は願った。

 

 

 

『ほら、立て。立って、そこにまた座れ』

『…………』ぷいっ

『あん?』

『………』ぷくぅー

『………お前』

 

 

アイラはそっぽを向き、頬を膨らませる。

 

レンノスケでも、よく分かる子供の行動………そうアイラは。

 

 

 

『────いじけてんのか?お前』

『……こたえない』

 

 

 

そう、いじけたのだ。

 

アイラ自身、どんな拷問でも耐えれる、絶対に口を割らない訓練を受けて来た身だ。

 

辛い、苦しい……そんな感情を抑えて訓練してきた。

 

まだ子供でも、頑張ってきた。

 

 

だが……まさか、こちょこちょ攻撃を喰らうなんて、思いもしなかった。

 

 

しかも……その攻撃を取って来たのが、あのベアトリーチェが畏怖した存在────城ヶ崎レンノスケなのだから、尚更。

 

 

 

『っ………さいごの、ていこう』

『アイラ、お前なぁ……』

 

 

 

床にへたり込み、頬を膨らませ顔を赤くし、如何にも不機嫌な様子のアイラ。

それを後ろで見下ろし、少し困った様子のレンノスケ。

 

傍から見たら、中々にシュールな光景だろう。あの怪物が、少女相手に困った様子を見せているのだから。

 

 

傍から見たら……それは、監視室で見守る3名の事と云える。

 

 

 

「たはっ!アイラって子、これまた可愛らしい抵抗っすね~、ねぇ?姉御」

「……聊か、本当にあの子があの惨事を引き起こした存在なのか、少し分からなくたって来たな……」

「あ、あはは……何だか、微笑ましい、ですね?」

 

 

 

本当に、あの惨劇を生み出した女の子なのか、キリノですら分からなくなってきた。

 

だが、それは限りなくプラスな事だ。

この光景を作り出した存在、レンノスケのお陰なのかもしれない。

 

 

レンノスケが少し困った様子で見ると、瞬時、レンノスケが行動を見せる。

 

 

 

『ま、俺も流石に、ちょっとやり過ぎたな………よいしょ』

 

 

 

”ひょいっ”

 

 

 

『わっ……』

『よ…っと』

 

 

 

レンノスケは蹲るアイラを両手で脇に抱えて持ち上げる。

 

 

 

『………すわらされた』

『動かないお前が悪い。勝手させて貰ったぞ────どれ』

 

 

 

そのままアイラが座っていた席に座らせ、そして────。

 

 

 

”わしわしわし”

 

 

 

『は………え?』

『ふむ…………』

 

 

 

頭を、撫でた。

 

 

 

『悪かったな、アイラ。ちょっとイジワルし過ぎたみたいだ』

『ん……ぇ???』

『泣かせてしまったな。これは……キリノさんに叱られてしまうな、子供を泣かせるなー…って……ははっ』

『な、に……ぇ、?』

『にしても、()()を頼んで結構経つが……まだ来ないか』

『な、え……?』

 

 

 

アイラは困惑を隠せない。

先程まで自分を擽りで追い込ませてた人間とは、雰囲気が180°変わったから。

 

 

 

『(────なんで)』

 

 

 

どうして、私を撫でるの?

どうして、そんな優しい顔をするの?

どうして?どうして?なんで…?

 

分からない。初めて会った時もそうだ。

レンノスケは、自分に対して、敵意を向けなかった。

怒っていても、向けて来なかった。

殺そうとして、結果的に爆破させて、大怪我を負わせても、殺そうとしなかった。

 

さっき、拷問と云った。普通は、爪剥ぎや暴行、色々あるのに……レンノスケは、まさかの擽りを行った。

 

レンノスケが優しい……そういう訳ではない。レンノスケはこれでも裏社会で育った人間、その性格、本質は中々に尖っている。

 

尖っている……筈なのだ。裏社会の怪物と恐れられ、襲撃してきた者全てを壊した男。

 

レンノスケの影響力、情報はアリウスのも届いていた。その怖ろしさも、理解していた。

 

 

 

『? おい、どうした?』

『………なんで、あたま、なでるの?』

『あ?そりゃ、お前────撫でられると()()()()()()?』

『え?』

 

 

 

そう告げるレンノスケは、何処か不思議そうな顔を魅せる。

 

 

 

『あぁ?なんだよアイラ、お前まさか、落ち着かないのか?』

『お……おち、つく?えっと……あたま、なでられると?』

『おう。あ、もしかして、ちょっと強いか?なら……これくらいか?』

 

 

 

”わし……わし……わし………”

 

 

先程よりも優しく、愛でる様に撫でる。

 

 

 

『(ムズイな……流石に、キリノさんの様に上手くはいかないか……)』

 

 

 

レンノスケはキリノに受けた撫でつけを真似ている。

 

その時のレンノスケの心情は、正に落ち着くのだ。心身共に、荒んだ心が浄化される様な、そんな感覚に陥る程。

 

 

 

『ぁ…………』

 

 

撫でられる行為は………アイラにとって、そう遠くない記憶だった。

 

 

 

────よしよし、一杯食べな?アイラ……………

 

 

 

『俺は、落ち着くんだがな……どうだ?こんくらいか?』

『………ぅ、

『そうか、じゃぁ……暫くこうしてやる』

 

 

 

アイラは、レンノスケが一体なにをしたいのか分からない。

 

それは監視室に居る者達も同様で、レンノスケの今までの言動に、理解が追い付かない。

 

 

 

「急に擽りを止めたと思ったら、次は頭を撫で始めたっすよ……?」

「奇想天外が過ぎる……あいつめ、なに自分基準で物事を進めているのだ、全く……」

「ははっ………情緒不安定すぎるっすよ彼………」

 

 

 

それは、監視室で見ているカンナ、コノカですら分からないのだ。

初対面の時、散々振り回されたカンナは、最早彼を理解するのは諦めていた。

 

 

だが……一人、この光景を見て、少し想う者が居た。

 

 

 

「……レンノスケ、さん」

 

 

 

そう、キリノだ。キリノのみ……レンノスケがやりたい事を、理解する。

 

 

 

「そういう、事ですか………アイラちゃんに、()()()()って……」

 

 

 

キリノは、驚くほど、目が見開いた。

 

そして、思った。

 

 

 

「────やっぱり、優しすぎますね……貴方は」

 

 

 

優しいと、思った。

 

そっと呟き、微笑む。彼は、あの劣悪な環境に身を置いていたとは思えない程、心が清らかだと。

 

 

 

 

 

 

▽取調室……。

 

 

 

 

 

「────む」

 

 

 

”コツ、コツ、コツ………”

 

 

 

レンノスケがアイラを撫で付けている途中、何かレンノスケが反応を見せる。

廊下から聴こえる足音がレンノスケの耳に入る。それは、目当てのモノが来たという事。

 

 

 

「来たか……アイラ、いよいよ、お前に()()()()()()()()()()()()からな」

「ぇ?……どういう、こと?」

 

 

 

アイラが疑問の意をレンノスケに問いただそうとした瞬間、取調室のドアのノック音、数秒の間の後、先程のヴァルキューレ生が何かを持って入場してきた。

 

 

 

「お、お待たせしました。城ヶ崎レンノスケさん─────こちらになります」

「あぁ、ありがとう。アイラのとこに置いてくれ」

 

 

 

そして、持ち出されたソレはアイラは座る目の前のテーブルに置かれる。

 

 

 

「それでは」

「助かった。本当に感謝する」

 

 

 

一礼し、そっと去っていくヴァルキューレ生。

 

 

 

「────なに、これ?」

 

 

 

アイラの目の前に置かれたのは見た事のない食べ物だった。

 

黄色い液体、その中にお肉が乗って、一番上には草?の様な物が一個乗っかっている。

 

極め付けは────匂い。余りにも、美味しそうだと思った。

 

 

 

「?は、なんだ、やっぱり知らなかったか。これは────()()()だ」

「かつ……どん?」

 

 

 

アイラの問いに、レンノスケは答える。

 

一瞬の疑問を感じ、だが、即座にアイラは己と()()だと理解したレンノスケは、それがカツ丼であると云った。

 

 

 

「腹、減ってんだろ?腹の虫が教えなくても、お前の顔見りゃあ分かる」

「………………」

 

 

 

”たらぁー………”

 

 

アイラの口から分かり易く涎が垂れる。

 

口を少し開け、ただカツ丼に一線を集中。

 

今直ぐにでも齧り付きたい衝動を抑えて、だが視線は外せないで、アイラは何とか我慢している。

 

 

 

「む?どうした、食べんのか?」

「っ………た、たべ、たい……」

「なら────」

「でも……」

 

 

 

”食べて良い”

 

そう言われても、素直に食べる事は出来ない。アイラには相応の理由があった。

 

それは………。

 

 

 

「たべたら……おこられる。なぐられて、けられる……痛いのやだ、けど、たべなかったら、大丈夫だから……それ、に、これ……毒かも、しれない、から……」

 

 

 

────場が絶対零度の様に凍り付く。

 

凡そ幼い子供から発せられる発言ではない。

唇を噛み、痛みで食欲を抑える子供の痛々しい姿に、絶句する。

 

 

 

『おいおい……こりゃあ』

『っ……』

『あの子……あの子も、同じ……』

 

 

 

カンナが、コノカが、キリノが………アイラの悲哀の姿に、思わず目を背ける。

 

あの様な子供の姿を見て、心を痛めない者など、この場には居ない。

 

 

 

「────だから……たべない」

「……そうか」

 

 

レンノスケは、アイラの表情を見て、少しの思案を行う。

 

そして、何か思いついた様な表情を作る。

 

 

 

「アイラ……お前の言いたい事は、よく分かった」

「っ………うぅ

 

 

 

下を向いて、瞳を閉じる。これ以上、このカツ丼を直視してしまえば、理性が切れてしまいそうだから。

 

泣くのを堪える。我慢だ、我慢しろと、心の中で連呼する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────じゃ、これは俺が頂こう」

 

 

 

突然、そんな事を発語するレンノスケ。

アイラが下を向いたまま、驚いた感じで瞳を開ける。

 

それは、キリノ達にとっても予想外の発言。

レンノスケは手をカツ丼の器、その下に敷くトレイに伸ばす。

 

 

 

”はぐっ!もぐ……もぐ”

 

 

 

「っ!おぉ、やっぱ滅茶苦茶うまいな!一昨日別の店で食ったカツ丼とは、やはり違った味で、これはこれで最高に美味い!」

 

 

 

もぐもぐと、少しの咀嚼音を奏でながら肉を頬張るレンノスケ。

 

アイラは、そんなレンノスケを絶対に見ないよう、下を向く。目をキュッ…と瞑り、我慢する。

 

 

 

『う、うわぁ……やってる事エグすぎだろ……』

『っ……城ヶ崎!今すぐ食うのを止めろ!』

 

 

 

カンナが居ても立っても居られず、監視室から取調室に届く機械を使い、レンノスケの行動の制止を伝える────……だが。

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

レンノスケの返す言葉は、限りなく暴力的で、凡そ上司に成るであろうカンナに対する態度ではなかった。

 

そんなレンノスケに、カンナは青筋を立て、コノカは興味深そうな表情を作り、キリノは焦燥を滲ませる。

 

 

 

『ッ!?な、なに……貴様ッ…!』

『おうおう、これはちーとばかし擁護できねぇな』

『レ、レンノスケさん……?』

「静かに。全員、よく見ていろ。直ぐに分かる」

 

 

 

レンノスケはキリノ以外に、カンナとコノカに圧を向け逆に静止するよう煽る。

 

そしてもう一度カツ丼を頬張り、言を告げる。

 

 

 

「────……美味い、めっちゃ美味いな、このカツ丼は」

「っ………」

 

 

 

煽る様に、もう一口。

 

そして、レンノスケは伝えたかった事を発語する。

 

 

 

「………こんなに美味いのに、毒なんてあるのか?」

「────っ!」

 

 

 

アイラの身体が僅かに震える。

 

空腹のせいで頭が回っていなかったが、アイラが警戒していた事の一つは『毒の有無』だ。

 

それがレンノスケの食事で消えた。

 

 

 

「加えて、此処にはお前を怒る奴なんか居るか?お前が飯食ったのを見ても居ないのに?」

「ぅ…………」

 

 

 

”きゅぅぅうぅぅ……”

 

 

 

「ぁ………」

「ん?あれ?なんか聞こえたな?腹の虫の音が聞こえたぞオイ?」

「ッ!……~~~!」

 

 

 

”ぐぅぅ~~きゅぅぅ~……”

 

 

 

我慢の限界、腹音が鳴り響く。

 

 

 

”ガタッ……コツ、コツ、コツ……”

 

 

 

レンノスケが席を立つ。そしてアイラに近付く。

 

何か、良い匂いと一緒に近付いてくる。

 

 

 

「アイラ」

 

 

 

そして、下を向くアイラの左側の耳に……低く、だが”優しい”声質が聴こえる。

 

その声質は、キリノしか知らぬモノだった。

アイラの身長に合わせ、レンノスケがしゃがみ込む。そして────。

 

 

 

「────もう、良いだろう」

「ぁ……」

 

 

 

もう一度、頭を撫でられる。

 

自分の頭なんか鷲掴み出来る程に大きい掌で、優しく撫でられる。

 

 

 

「我慢なんかしなくていい。そんな辛そうな顔して、そんな大きな空腹の音を出して……」

 

 

 

わしゃわしゃ……優しく、撫でられる。

 

食欲をそそる匂いが鼻に付いて、理性を我慢するのが辛くって仕方がない。

おまけに、こんな言葉を投げてくるのだ……キツイ筈なのだ。

 

 

 

「ほら、顔を上げろアイラ」

……で………でも

「いいから、ほら」

わ……わた、し…

「大丈夫だ、安心しろ。さっきも言ったろ?お前が心配するような事はない」

 

 

 

────だから、顔を上げてくれ。

 

 

その言葉で、アイラの理性は決壊。

 

 

顔を上げ、左に居るレンノスケの顔を、見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、悔しそうな顔してんな」

「ぅ、ぁ……………」

「全く……ほら、食えよ」

 

 

 

コトッ……と、アイラの目の前にカツ丼が置かれる。

 

微かな湯気を見せ、立派に焼かれた肉とキラキラと光る卵の光沢がアイラの瞳を穿つ。

 

 

 

「………ほんとに、いいの……?」

「あぁ、良いぞ」

「たべて……いいの?」

「食べて、いいぞ────全部な」

 

 

 

その言葉を聞いて、アイラの表情が綻ぶ。

 

 

 

「あ……ありがと……」

「あぁ、そこに乗ってる箸を使って食えよ」

「? これ?」

「ああ、そう……────あっ、そうだ。おいアイラ、お前もしかして箸の使い方とか、実は分からんかったりするか?」

「あっ…………うん……はしって、なに?わからない……ごめん、なさい……」

 

 

 

アイラは綻んだ笑みから一変、曇った顔に成る。

 

箸の使い方が分からない。

 

アリウスでは、そういった食事方法は習った事など無いから。いつも、手で済ませていたから。

 

道具を使う食事方法など、アイラは知らないのだ。

 

 

────もしかして、箸が使えないのなら、これはやっぱり……食べられないの?

 

 

アイラの頭は、絶望の色に染まる。神様は何処までも、苦しみを与えるんだと。

 

 

だが────目の前に居るレンノスケが、ある行動に出る。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか────じゃあ、俺が食べさせてやる」

 

 

 

そう言って、レンノスケは箸を手慣れた様子で使い、そのまま『カツ丼』に伸ばして掴む。

 

 

 

「ふっ、俺も慣れたもんだぜ………ほら、食ってみろよ」

「ぁ……」

「口を開けろ。あーんしろ、あーん」

「あ………あー、ん……」

 

 

 

言われるがまま、アイラはレンノスケの箸に摘まれている鶏肉をパクッと口に入れる。

 

 

 

”もきゅ……もきゅ……んくっ”

 

 

 

「────っ!!」

 

 

 

瞬間、アイラの舌から広がる幸せの感覚。

 

程よく狐色に焼かれた鶏肉と、混ざった卵のデュエットは、正に最高峰の美味さを誇る。

 

こんな美味しい物、今まで食べた事なかったアイラは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ぽろ……ぽろ、ぽろ……”

 

 

 

 

 

 

 

「うぁ………あぁぁ……おいち……おいしぃ……」

 

 

 

 

涙を流して、そのカツ丼の美味しさを伝えた。

 

視界がぼやける。涙だ、アイラにとって、流した事など一握りの現象。

 

 

 

「おいひぃ……おいし、いぃ……ひぐっ!うぁぁ……おいしいぃぃ………」

 

 

 

その言葉しか、出て来ない。

 

美味しくって、涙が出る程美味しくって、仕方がない。

目が涙でぼやけて、カツ丼もレンノスケも視線に入らない。

どうにか泣くのを我慢したいのに、口の中で広がる甘美の味が涙を流すのを加速させる。

 

 

 

「そうか、そうだよな……美味しいよな」

「……ぅん!おいしぃ……じょが、さき、レンノシュケぇ……これ、おいひぃ…っ!」

「あぁ、どんどん食え。ほら、口を開けて、次の肉はちょっと大きいぞ」

「あいあとぉ………はぐっ………~~!おいひぃっ…!」

 

 

 

泣いて、美味しさを伝えて、レンノスケに食べさせて貰って。

 

この一連の流れが続いて、アイラは小さい口を頑張って使い、肉や卵、お米を咀嚼していく。

 

 

 

「────っ!?えほっ、えほ!けほっ!!」

「ぬっ!」

 

 

 

ぽとぽと、複数の米と肉の粒がアイラから吐き出される。

 

急いで食べていた訳ではない。だが、泣いて嗚咽しながら食べていたのが起因したか、思わずアイラはレンノスケに向かってえづいてしまった。

 

 

 

 

「ぁ………

 

 

 

 

涙が止まる。

 

席が止んだ瞬間、自分のした事をアイラは自覚する。

レンノスケの太腿や包帯で巻かれた胸元に付着する粒に、目が行ってしまったのだ。

 

こんなに美味しい食べ物を食べさせてくれた人を汚してしまった。

 

食べ物を吐いて、勿体ない事をしてしまった。

 

 

アイラの頭は、真っ白に染まった。

 

 

 

 

「ご、ごめんな、さ────」

「────くっ、ふふ………」

 

 

 

アイラが謝ろうとした瞬間……レンノスケが────笑う。

 

 

 

「くはは、ははは!おいおい、大丈夫か?」

「ぇ………ぅ、うん……」

「そうかそうか!ふっ!ははは!」

 

 

 

分からなかった。どうして笑うのか。

 

レンノスケにとって、マイナスでしかない事をしたのに、どうして笑うのか…。

 

 

 

「ぉ……おこ、らないの?」

「怒る?こんなん、怒るに入らん。それに、謝るのは俺だ。すまないな、アイラ。泣くと、どうしても食べ辛いよな?俺も気付けなかったし、渡す食い物もちょっと大きかったモンな」

「ぇ……い、いや、それは、わたしが………」

「10もいかないガキが人の様子何か見てどうする。ほら、こんな事で一々気にするな、次は肉と卵とお米の三つを同時に食わせてやる。美味すぎてビビるなよ?ほら、あーんしろ」

「あ……うん。ぁ……あーん」

 

 

 

レンノスケは全く気にしていない様子だった。

それどころか、自分に非があると言って、粒の事は気にするなと云った。

 

アイラは、どうしてレンノスケがここまで自分に優しくしてくれるのか、分からないでいる。

 

今日の午後、いきなりレンノスケの前に現れて、お前を殺すと宣言して、実際にレンノスケを死の淵まで追い詰めて……こんなに大きな怪我を負わせたのに。

 

 

 

「(なんで……この人は……わたしに、やさしくするの……?)」

 

 

 

聞いてみたい。でも、今は……このカツ丼を食べていたい。

 

それに、今は自分がレンノスケに伝える側の人間だ。それをアイラはカツ丼を食べながら、思った。

 

 

一方、レンノスケはまた別の事を考えていた。

 

それは目の前で涙を流すのを我慢しながら食べる少女の事を。

 

 

 

「(アイラ……お前は本当に────俺に似ているな)」

 

 

 

そう、レンノスケはアイラの全てを見ていた。

 

髪の色、赤い瞳、拙い言葉使い、何もかも諦めてしまった表情、美味い食べ物を食べて泣いてえづく感じ、その全てを自分と重ねた。

 

余りにも自分と似ているから、先程は思わず笑ってしまったのだ。

 

 

 

「(……あんなに笑うなんて、いつぶりだろうか……)」

 

 

 

そんな、少しの悲壮を詰めた表情を作りながら、レンノスケはアイラにカツ丼を食べさせていく。

 

アイラから漏れ出る感謝の言葉と、咀嚼の音を、響かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────よし、全部食えたな」

「うん………おいし、かった」

 

 

 

15分は経っただろうか、現在レンノスケとアイラは迎え合う様に座っている。

 

アイラは目元は腫れているが、涙は引いて、瞳に少しの輝きが生まれている。涙の効果もあるのだろうが、これはアイラが幸せを感じて生まれた生命の輝き(生きたいと云う願い)だと、レンノスケは信じたいのだ。

 

 

 

「アイラ、水を飲んで少し休め。門答はお前がちゃんと落ち着いてからで良い………その後、お前の事、話してくれるか?」

うん………うん、もう……我慢、しない」

 

 

 

即答だった。

 

アイラにとって、レンノスケへの信頼度は桁違いに高くなった。

 

怒らない、殴らない、蹴らない、撃ってこない………そして、美味しい食べ物をくれた。

あの環境に身を置いていたアイラにとって、レンノスケは救世主に見えたから。

 

自分を認めてくれる、自分の家族に成ってくれた人と同じニオイがしたから。

 

 

 

「なんでも、はなす。わたしが、しってる、こと、ぜんぶはなす…っ!」

「ふはっ……そうか、ありがとうな。アイラ」

「その、なにから、はなせばいい?」

「ん?なんだ、もう大丈夫なのか?」

「うん。もう────……んくっ!…ぷはっ……おちついた、から」

 

 

 

水を一杯、ぐいっと飲み干す。

 

 

 

「っ!はは、そうか。大した奴だ」

 

 

 

レンノスケはそんなアイラを見て、一つ思う。

 

 

────幼い子供って、かわいいもんだなぁ~……と。(危険)

 

 

 

 

 

 

 

 

▽────監視室。

 

 

 

 

 

『へぇ~……城ヶ崎レンノスケ、結構子供の”扱い”に長けてるじゃないっすか。ねぇ?姉御~』

『そうだな………こういっちゃアレだが、意外だ………はっ、なんだ城ヶ崎、案外上手く笑えるじゃないか』

『お?(姉御がレンノスケを褒めた……)ははっ!こうやって考えると、色んな意味で最高の人材がヴァルキューレに来たモンっすよ。ちーとばかし命令違反とか粗暴さが目立つけど、ああいう幼子には甘い部分もあるなら、なんだかんだ生活安全局でも良いとは思うんすけどね~?なぁキリノ、お前もそう思わ────』

『ひぐっ……う、うぅぅ……アイラちゃん、レンノスケさん……』

『いやおーい!なんで泣いてんだよ!?』

『キ、キリノ……お前』

『す、すみませぇん……私、こういうのに弱くって……』

 

 

 

キリノはレンノスケの件で、飢餓の苦しみ、辛さを目の当たりにしている。

 

加え、今回は幼い子供がそれを味わっている。それがキリノを辛い思いにさせる。

 

 

だが……今回は様々な想いが混濁していた。

 

 

キリノがレンノスケにした事を、そのまま別の子に行っている。

弱き者に、手を差し伸べ救っている。

 

それらが要因で、キリノは涙腺を刺激され泣いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

▽────取調室。

 

 

 

 

「じゃあ、一つ目といこう。アイラ、お前は何処の人間だ?分かり易く言えば、何処の組織の人間だ?学園は?」

「え、えっとね、わたしは────”アリウス分校”って、とこに、いた」

 

 

 

”ガタッ!!”

 

 

 

監視室から大きな音を出しながら席を立つ二つの音。

 

それは、カンナとコノカだった。

 

 

 

『ア、アリウス分校、だとッ!?(……っ!そうか、あのガスマスクの服装の紋章……あれがアリウスの証か!)』

『おいおい…ッ!マジで言ってんのかよ…』

 

 

 

大きな反応を見せる二人、そしてキリノもそれなりの反応を見せる。

 

 

 

『ア、アリウスって……もしかして、あのエデン条約の?』

『そうだ……調印式に起きた大規模な爆破テロ、それを引き起こした学園の生徒が………アイラ、って事っすね?』

『あぁ、だが────アイラが実行犯の集団の一員、という訳ではないな……あの大惨事を起こし、先導したのは【アリウス・スクワッド】と云うチームだった筈。年齢やあの雰囲気も相まって、あの子……アイラは調印式爆破テロに関わっている可能性は極めて少ない、いや、無いだろう』

『そのようっすね……調べた所、あのアイラって子、まだ8才みたいっすからね~……』

 

 

 

8歳の子供が、あのエデン条約のテロに加われるとは到底思えない。

 

カンナとコノカの推理は無論当たっている。あの爆破の現場を後に見た者だから言える事。あれは……キヴォトスの歴史上でも類を見ない酷い事件だった。

 

あのような現場でアイラの様な小さい子供が何かを出来る程、あの場所は生易しくはないだろう……。

 

何やら慌ただしくなった監視室に目が行くアイラだが、レンノスケが「気にしなくていい」と、そう伝え、アイラはもう一度レンノスケの方を向く。

 

 

 

「そのアリウス分校、という学園は初めて聞いたが……お前が俺に襲撃を仕掛けた理由は、その学園のボスが理由なのか?」

「………うん」

 

 

 

弱弱しく、アイラは頷く。

 

 

 

「(アイラの様子からして、逆らえない理由があった、それとも……いや、違うな。これは……)……そうか。教えてくれてありがとうな、これで1つ目は終わりだ」

「うん……」

「次に、二つ目だが……俺を襲撃した理由だ。一応、俺の首にはとんでもねぇ金が乗っかっているんだが、それが理由か?」

「?……うぅん、ちがう。お金じゃないよ」

「なに?……じゃあ、一体なんだ?」

「────計画の邪魔になる……だから殺せ、って、いわれたの」

 

 

 

”計画の邪魔になる”

 

 

 

「俺が……計画の邪魔になる、だと?」

「マダムは、そう言ってた」

「マダム……お前のボスか?」

「うん………ほんとうは、ベアトリーチェって、なまえ」

「ベアトリーチェ……────」

 

 

 

目標と同時に、ボスの名を聞き出す事に成功したレンノスケ。

 

ベアトリーチェと名乗る人物が、俺が”計画の邪魔になる”という理由で自分を殺す作戦を立てた。

 

 

 

「(計画……なんだ?一体どういう事だ?俺とベアトリーチェって奴は互いに知らん筈、いやまず、俺は今初めてベアトリーチェを知ったんだ………なんで、そこから”計画の邪魔”から殺害のルートが出来上がる?ベアトリーチェって奴は、どうして俺が計画の邪魔になると判断した?)」

 

 

 

急激に深まる謎が、レンノスケの頭を支配する。

 

アイラのボスがベアトリーチェと云う名なのは分かった。だが、その計画……そうだ、計画は何だ?

 

思った瞬間、レンノスケはアイラに問う。

 

 

 

「アイラ、その計画ってのは、何だか分かるか?」

「えっと……よく、わからないんだけど、えっと……お姫様を使った【儀式】って、やつで、それが計画だって、いってた」

「んぅ??」

 

 

 

理解不能、意味不明な説明だ。だが、アイラが嘘を言っている様には見えなかった。

 

【儀式】……レンノスケにとって、その単語は全く分からないでいる。

 

 

 

「駄目だ……全く分からん……その儀式?ってやつに、どうして俺が邪魔すると思われてんだ……?」

「わたしも、それ以上は、わからない………せつめい、へたで、ごめんなさい」

「あぁ?あーいや、俺がお前の話を理解出来ない頭なのが原因だ。お前はそのまま自分で分かっている事を言っただけ、だから気にするな」

「っ……わかった……えへへ」

 

 

 

レンノスケはアイラの頭を撫でながら、そう言う。

 

それを見たキリノが、少しムッとしたのは、また別の話である。

 

 

 

「(ま、俺よりもキリノさんやカンナ局長、コノカ副局長がそこは何とかしてくれるだろう)じゃあ、3つ目の質問だ」

 

 

 

アイラが聞く姿勢に成る。

 

 

 

「アイラ、お前が俺に使った爆弾、あれは何だ?」

 

 

 

それは、レンノスケが常に気になっていた事だった。

 

 

 

「俺はこれでも身体の硬さには自信がある方でな、大抵の銃撃や爆破は大したダメージにならん」

「……きんにく、とても、すごいもん」

「まぁ、それはよく言われるが………な、なんだ、その目は」

「……さわっても、いい?」

「あん?別に良いが……」

「やった、えと、どこ?」

「どこでもいい。好きな筋肉を触れ(!?)」

「っ!じゃあ、おなか!」

 

 

 

そういって、アイラは座っている席からレンノスケの方を行き、

 

 

 

『……やめさせるっすか?』

『はぁ……立場上止めねばならん瞬間だが、構わん。好きにさせてやれ』

『あはは……触りたくなる気持ちは分かります……実際、触ってるんですけどね……

『へぇ~~?』

『ほぉ……?』

『え?ぁ……』

 

 

 

その後、キリノは何とか弁明し、事なきを得た。

 

そして……コノカが一言、告げる。

 

 

 

『ぶっちゃけた話、姉御……どう思います?』

『────レンノスケがあの有様に成る程の爆弾……だろ?』

『えぇ、現場の写真やレンノスケの容態から見ても、妙に引っ掛かるんすよねぇー』

『ひ、引っ掛かる……とは?』

 

 

 

コノカがキリノの質問に、淡々と答える。

 

 

 

『マジな話────規模と比べて大怪我過ぎる、って訳よ』

 

 

 

コノカが告げたのは、その爆破と怪我の矛盾だ。

 

 

 

『あのアイラって子が使った爆弾が精々半径30m以上だとして、レンノスケが上空へ投げた爆弾の爆破位置が証言通りなら約15m。確かに爆破の威力も凄まじかったと聞くし、何ならもっと広範囲の爆破だったのかもしんねぇ』

『な、なら────』

『だがよぉ。”それ位の爆破程度であの怪物があそこまでの怪我を負うか?”って事なんだよ』

 

 

 

そう、コノカが感じていた事、それは……レンノスケの怪我が爆破の攻撃に比べて深すぎるという事。

 

 

 

『仮定の上での発言によるけどよぉ、そん位の威力の爆破ならめっちゃ痛ぇだろうけど、あたしでも耐えられる。なんなら姉御なんかそこまでダメージは入らないかも知れねぇ』

『…………』

『そ、それは……言われてみれば、確かに』

『レンノスケの耐久力は姉御から聞いた。確か、ミレニアム最高傑作のエージェント……『美甘ネル』の射撃をこめかみで受けて、あいつはピンピンしてたんだろ?』

『は……はい』

『そんな防御面イカレ野郎が、高々その程度の爆破程度で、あんな血だらけになるか?って事よ』

 

 

 

キリノは納得した。レンノスケが負った怪我で忘れていたが、確かにあの程度の爆破はキヴォトスでは全く珍しくはない。

 

それを喰らって、レンノスケは大ダメージを負った。美甘ネルの射撃を淡々と受け止めた存在が、だ。

 

 

 

『────あいつが受けた爆弾が、只の爆弾だったら……の話だろう?コノカ副局長』

『あっは、今話した事はそういう事……っすね~』

『え?』

『つまり────……いや、これもきっとアイラが話してくれるだろう。お前達、目の前に集中しろ』

 

 

 

気付けば、アイラがレンノスケの腹筋を触るのを止めていて、既に席に付こうとしていた。

 

 

 

『はははっ、それもそうっすね……了解』

『りょ、了解です!』

 

 

 

気を引き締める。ここから……展開が加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────満足したか?」

「うん、すごく、かたかった!」

「そうか……腹だけでなく腕も触ってたもんな、お前」

「わたしの、うでよりぜんぜんおおきい、から、すごい!」

「ふんっ、当然だ」

 

 

 

ちょっとした世間話。

 

そろそろ頃合いか、レンノスケはアイラに問う。

 

 

 

「話を戻そう。なぁアイラ……お前が持っていた爆弾、あれは一体なんだ?」

「……うん、あれ、はね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

────ヘイロー破壊爆弾……て、言うの。

 

 

 

 

 

 

 

『へ……ヘイロー』

『破壊……爆弾?』

『そ……それ、って……』

 

 

 

ヘイロー破壊爆弾。

 

それは、文字通りの爆弾である。

 

 

 

「そのまんまの意味。ヘイローを……壊す爆弾」

「………」

 

 

 

ヘイローを壊す爆弾。

 

 

其れすなわち、それが意味する事とは……。

 

 

 

『つ……つまり』

『────私達、ヘイローを持つ生徒を……殺す爆弾、という事、か』

『ひっ……』

 

 

 

カンナが言っている、その通りである。

 

 

 

『……そんな物が、このキヴォトスに…っ!』

『はは……成程、繋がった……そりゃあ、レンノスケでもあんな目に遭う訳だ』

『そ……そんな』

 

 

 

コノカの乾いた笑みが零れる。

 

認めてはならない代物だと、監視室に居る者全員が思う。

 

だが、レンノスケのあの怪我の具合模様を見て、そう納得せざるを得ない。

 

 

 

「なるほど、アイラが所持していた爆弾が、そのヘイロー破壊爆弾と云うヤベェ物だったんなら、俺のこの怪我も納得だ」

 

 

 

レンノスケの反応は、興味深そうに、何処か納得したような様子だった。

 

カンナも、コノカも、キリノも、そしてアイラも、そんな淡白なレンノスケの反応に唖然とする。

 

レンノスケはほぼ直接その爆破を見に受けた者だ。そんな存在がこんな反応なら、啞然もする。

 

 

 

「な……んで?」

「ぬ?」

「なんで?じょうがさきレンノスケ、だって……なんで、そんな……なんで、怒らないの?」

「んぁ?え、いや……怒るも何も、お前に怒る要素なんか一つもないだろ」

「ぇ………」

 

 

 

レンノスケの発言に、全員が絶句する。

 

凡そ、殺されかけた人間が発語する言葉ではない。

 

 

 

「なに、いっているの?だって……わたしは、あなたを、ころそうとして……」

「お前こそ何言ってんだ?殺すとか言って、殺意の欠片もなかった癖に」

「っ!で、でも!わたしは、あなたにひっついて、いっしょに……死のうとして……」

「俺とお前との力の差は歴然だろ。引っ付いても即座に剥がされる何て、そんな事分かっていて引っ付いてきたんじゃないのか?お前は」

「そ……それ、は……」

「大方、お前は俺に引っ付いて、そのまま剥がされて、何処かに投げて()()()と踏んだんだろう?それで、自分だけ死のうとした……違うか?」

「ぁ………────────」

 

 

 

図星だった。

 

レンノスケの言葉に、アイラは反論が出来ないでいた。

 

 

そう、アイラは……自分だけ死のうとしていた。

 

元々レンノスケを殺すなんて、考えてはいなかったのだ。

 

ベアトリーチェが怪物と謳われる相手に自分を選ぶなんて、それは実質的な死刑宣告だ。

計画とか儀式とか、頭が弱い自分ではよく分からないけど、その儀式に、姫と呼ばれる存在────自分みたいな子供にも優しくしてくれた『お姉ちゃん』が使われるのは、理解していた。

 

アイラがレンノスケを殺す目的は『お姉ちゃん』と呼ばれる存在の儀式、その中止である。

 

自分がレンノスケを殺せば、『お姉ちゃん』を助けてあげる。

 

そういう約束を、アイラとベアトリーチェは結んだ………筈だった。

 

 

 

 

 

────アリウスの兵士が姫を捕縛した。

 

────儀式は行う。明朝、日の出と同時に行う

 

────天丈アイラはそのままヘイロー破壊爆弾を用い、城ヶ崎レンノスケの殺害に向かわせる

 

 

 

 

 

 

そんな情報が、D.U.近郊出向前に、アイラに伝えられた。

 

 

 

 

────ベアトリーチェは、アイラとの約束を守らなかったのだ。

 

 

 

 

だから、レンノスケを殺す意味がなくなった。なんで殺さなきゃいけないのか、分からなかったのだ。

 

 

 

「俺がお前を怒っても意味がない。確かに、なんやかんやで俺は怪我をしたし、キリノさんにも危ない目を遭わせてしまったが………あれは結果論、という奴だ。その場の流れに身を任せた結果に過ぎない。それに、あの場には俺とアイラしか居なかった。周りの被害を考えて、あのタイミングの襲撃、そんなところか。はっ、随分と可愛い襲撃者だ」

「………………」

「……キリノさん、貴女は、アイラを許すか?」

『────無論です』

 

 

 

監視室に居るキリノも、アイラに対し善の情を向ける。

 

 

 

『私は、レンノスケさんが何も思っていないのなら、何も言う事はありません。ちょっとだけ怖かったですが……私は傷付いていないので』

「流石キリノさんだ……────なぁ、アイラ……お前に一体、何があった?お前は……」

 

 

 

────ベアトリーチェって奴に、なんて言われたんだ?

 

 

 

「ぁ────……」

 

 

 

それは、アイラにとって……辛い記憶だ。

 

 

 

「俺は、お前を知りたい。少しだけで良い、聞かせてくれ」

 

 

 

でも、目の前の真剣な眼差しを受けて、美味しい御飯もくれた人の、頼みだったら……。

 

 

 

「わ……わかった」

 

 

 

応える他、なかった。

 

 

 

「わ………わたしには」

「あぁ」

「わたし、には────……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────家族が、いたの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイラが話した事、それは家族の事だった。

 

 

家族……と言っても、それは作り物の家族で、血なんか全く繋がってなんかいない。

 

しかも、自分とは位が違うし、その人にはもっと深い存在達が傍に居たから、自分の感じた家族というモノは、少し浅いと卑下していた。

 

なんで家族と云った感じになった経緯は、ある日の事、アイラがまだ5才の時……その人は空腹の自分にご飯を分け与えてくれたのだ。

 

味がしないスープに、パサパサのパン切れ。

 

何日間も食べていなかった自分にとって、本当に嬉しい瞬間だったと聞いた。

 

なんで渡してくれたの?と、アイラは聞いた。その人の理由は、どうやら『余ってたから』らしかった。

 

当時のアイラ自身、それが嘘だったと気付いていた。こんな辛いのに、食べ物なんか少しだけしかくれない環境で、余ってたから何て、有り得ないから。

 

そこで初めて、アイラは『優しさ』を学んだという。

 

こういった出会いもあって、アイラはその人と関係を深めていった。

 

 

その人の名は────『秤アツコ』と云うらしい。

 

 

秤アツコ、アイラ曰く、そのよく分からない儀式に必要な人らしく、それはそれは、丁寧に扱われていたという。

 

アツコの傍には常に3人の人物達が居た。それがエデン条約調印式を爆破し崩壊させた組織【アリウス・スクワッド】らしい。

 

アイラはこの3年間、アツコと居た時間は『アツコがお姫様』等の理由によって少ないが、初めて()()()の自分に優しくしてくれた人だったから、よく『お姉ちゃん』と言って慕っていたらしい。

 

 

大好きな人。スクワッドに比べたら浅い関係だけど、アツコはアイラを妹の様に慕ってくれた。

 

それがアイラは嬉しくって、仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、儀式でアツコが死ぬ運命にあると知った時は、酷く動揺した。

 

そして、それを阻止するためにスクワッド達はいつも頑張っていたんだと、知れた。

 

でも、スクワッドは先のエデン条約で失敗して、今は負われる身となっていると知った。

 

スクワッドに人達には、ちょっとだけ訓練を一緒にした事があるから、その強さはよく分かっている。

 

 

何とか生き残ってほしい。お姉ちゃんと一緒に何処か遠くに逃げて、幸せになってほしい。

 

 

 

そう考えていた時、アイラはベアトリーチェに呼ばれた。

 

 

 

その内容が────城ヶ崎レンノスケの殺害。

 

 

それを完遂すれば、アツコを使う儀式は中止にしてあげる。

 

 

ベアトリーチェは、アイラがアツコにとって『特別な存在』なのだと知っていたのだ。

 

加えて、アイラには隠密の心得があった。その技術は、あのサオリを凌ぐほどの。

 

 

様々な観点を含めて、アイラが白羽の矢に立ったのだ。

 

 

 

 

向かう準備期間。その間に────アイラは衝撃的な事を知る。

 

 

 

 

 

────スクワッドが発見され、姫は既にベアトリーチェの元へ。

 

────アイラはそのまま城ヶ崎レンノスケの殺害を執行せよ。

 

 

 

 

 

アイラは、嘘をつかれたのだ。

 

 

こうなってしまえば、アイラはレンノスケを殺す意味がない。

 

元々、アイラは人なんか殺した事が無い子供だ。

 

 

だが、行くしかなかった。

 

行くしか……なかった。

 

 

 

行かなければ、殺されるから。

 

命令を聞かなかった人間がどうなっていたか、アイラはよく知っている。

 

 

辛く、苦しい拷問だ。罰という名の拷問を喰らわせられるのだ。

 

それは、嫌だった。どうせ死ぬなら、一瞬が良いから。

 

 

 

 

 

じゃあ、城ヶ崎レンノスケに殺して貰おう。

 

 

 

 

そんな想いを抱いて、レンノスケが居るD.U.まで足を進ませたのだ。

 

 

 

 

自分が死ぬために、進んでいったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

「……いきるいみが、わからなく、なったの。だから、ここにきた」

 

 

 

話が終わり、アイラはそう告げる。

 

淡々と、生き地獄の様な境遇を口にするアイラは、どこか辛そうな表情をしていた。

 

 

 

『ッッ………ふ、ふぅ……!!』

 

 

 

”ポタ……ポタ…”

 

 

 

『っ……姉御』

『カンナ局長……血が……』

 

 

 

アイラの事情を聞いたカンナが手を強く握り絞め、そのまま肉を貫いて血が流れる。

 

子供好きのカンナにとって、アイラの境遇は地雷だった。

 

 

それは、コノカもキリノも同様だ。

 

今でこそカンナが怒り狂うのを我慢しているのを刮目した故、こうして冷静を保てているが……コノカとキリノ自身、ベアトリーチェの所業に腸が煮え繰り返る想いを抱いている。

 

それぞれが額に青筋を立てて、怒りを露にしている。

 

 

 

「……そんな事が、あったのか」

 

 

 

レンノスケは、何も感じない様を見せる。

 

アイラの事を黙って聞き、只一言、そう告げた。

 

 

 

「……ごめんなさい。じょーがさきレンノスケ……わ、わたし……」

 

 

 

アイラがレンノスケにした事の謝罪をしようとした────瞬間。

 

 

 

「────キツイなぁ、それは」

 

 

 

そう、小さく呟いた。

 

 

 

「あ………え?」

 

 

 

アイラは、レンノスケの呟きを聞き逃さなかった。

 

キツイ……彼は、自分にそう告げたのだと、理解した。

 

 

 

「お前は凄い奴だ……怖かっただろうに、我慢して、此処に来たんだから」

 

 

 

アイラの瞳を見ながら、そう告げるレンノスケ。

 

マズイ……アイラはそう思った。

 

これ以上、レンノスケの顔や声を聴いてしまえば……迷惑を掛けてしまいそうだから。

 

 

 

「────アイラ、お前に少し、言いたい事がある。いいか?」

「………ぅ

 

 

 

アイラは泣くのを必死に堪えて居る。

 

優しくされる何て、本当に久しぶりだから。

レンノスケも、キリノにも、被弾される覚悟で居たのに、ずっと優しい言葉を投げて来るから。

 

 

 

「アイラ」

 

 

 

レンノスケは、最後に、こう言った。

 

 

 

”わしわしわし……”

 

 

 

「ぁ、ぁ………────」

 

 

 

頭を撫でながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────しんどかったよな」

 

 

 

そう、告げて見せた。

 

 

 

「たった一人で、此処まで来て、俺を殺せなんて……辛かったよなぁ」

「あ………ぁ」

「お前が辛かった、苦しかったのは………痛い程分かるよ」

 

 

 

さっきよりも断然優しい言葉、撫で方がアイラを襲う。

 

 

 

「まだ8才の子供に、背負わせるモンじゃねぇ……お前みたいな幼い子供が、想っていい事じゃねぇ」

「ぁ、ぁ………うぁあ」

 

 

 

ぽろ、ぽろ、ぽろ………流れ出る涙は、愈々、勢いを増していく。

 

 

 

「本当に、大変だったな……アイラ」

「じょ……レン……スケ」

「家族の為に、お前なりに頑張ったんだ……あぁ、そうだ。本当によく頑張った」

「ぁ……うあぁ……………………さい……ごめ、なさ……」

 

 

 

気付けば、レンノスケは席を立って、アイラの元へと歩んでいた。

 

 

視界が……ぼやける。

 

 

先程の涙よりも、芯から溢れる様な、そんな情の涙が溢れ出る。

 

 

 

「アイラ……」

「────ごべん、なさい……っ!ご、ごべんな、さい………わ、たし…酷い怪我、負わして……わたし、ほんとうに、そんなつもり、なくって……」

「……あぁ、分かっている」

「れんのしゅけが、倒れている時……すごく、こわくって………わるくない人を、ころしたんだって、おもって……」

「そ……そうか、怖かったな……(っぶね、俺頑丈で良かったー!)」

「こわ、かったぁ……こあかぁた(怖かった)!ほんとに……ごべん、なさい!」

「いいさ、俺は大丈夫だから。もう謝らなくていい」

「っ………うぇぇ……あぁぁあぁ…っ」

 

 

 

アイラはレンノスケのお腹に抱き着く。

 

そこに服の布はなく、レンノスケの腹筋にダイレクトに涙と鼻水が付くが、レンノスケは気にする様子はなく、そのまま視線を合わせる為にしゃがみ込む。

 

 

 

「いい、いいさ……今は、泣くだけ泣いたらいい……俺の腹でも胸でも何でも貸してやるから、抱き着いて来て良いぞ」

 

 

 

そう発言するも、レンノスケはアイラを先に抱きしめる。

 

優しく、キリノを抱く時よりも、もっと優しく……抱き寄せる。

 

 

それが、アイラにとっての安心で、涙腺の崩壊だった。

 

 

 

「うぇ、うぇぇぇ~~っ!うぁぁぁ……ぁぁぁぁ…ッ!」

「よし、よし………アイラ、よく頑張った。たった一人で、本当に、よく頑張った────」

 

 

 

さすさすと背中をさする。

いつの日かキリノがしてくれたように、レンノスケも同じことをアイラにする。

 

 

 

 

 

 

裏社会の怪物の胸元で泣き喚く、一人の少女。

 

その少女は怪物を死の淵まで追い詰めた、唯一の存在。

 

その少女が今、怪物の胸元で泣いている。

 

中々奇妙な展開だろう。だが、それでいいんだ。

 

 

 

 

 

────この状況に物を言う人物など、此処には居ないのだから。

 






☆城ヶ崎レンノスケのプロフィール(4)


声優:梅原裕()郎さん


いつも梅原さんボイスでレンノスケの声を充てています。
男性声優の中で一番好きです。




いつも閲覧、ありがとう御座います。

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  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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