怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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レンノスケのプロフィール(5)


☆秘密

:実は『情に熱い』男である。

元々、レンノスケはそういう人間だったが、ブラックマーケットで多種多様、最悪なモノを見て経験してきた彼は、いつの日か感情が消えてしまっていた。だが、キリノとの出会いがきっかけで、着々と感情を取り戻し、そして逆に取り戻しすぎて涙脆くなっている。




今回は少し場面展開も多い故、見辛い可能性が御座います。ご了承くださいませ。


そして今回は17000文字と少ないです。許してクレメンス。



では、本編です。


怪物の本質。それは、弱き者への味方。

 

■────とある場所。

 

 

 

 

 

「────彼は何者か……一体、この世にどうやって生まれ、存在しているのか」

「またその話か、”黒服”よ……」

「クックックッ……申し訳御座いません、”マエストロ”。何せ、彼はこの世界に於ける”異端”、この世のあらゆる事象の”一つ”……最早、そういう『城ヶ崎レンノスケ』と謂う”概念”か────ククッ、嗚呼、何て美しく、儚く、勇ましく、奇怪か……私は彼を研究したくて仕方ない……」

「黒服、貴方は”彼”に対し、聊か過剰評価だと思えます。確かに”彼”はこの世界に於ける唯一の男子生徒であり、この世界の”頂”に最も近いでしょう、その”神秘”も未だ予測が付かない……しかし、その”神秘性”なら、貴方が以前研究対象にしていた『小鳥遊ホシノ』やマダムが所有する【ロイヤルブラッド】である『秤アツコ』の様な〈最高峰の輝き〉を放つ者と比べて、いや……このキヴォトスに住まうヘイロー持ちの子等(こら)の誰よりも()()()()()のではないかと」

「そういうこったぁ!」

「クックッ……だからこそですよ、”ゴルゴンダ”、”デカルコマニー”」

 

 

 

何処か不明の場所、ゲマトリア支部。

 

そこで黒服、マエストロ、ゴルゴンダ&デカルコマニーの3名は、件の存在『城ヶ崎レンノスケ』を題材として会話していた。

 

マエストロとゴルゴンダ&デカルコマニーは「またか……」といった雰囲気で黒服の話を聞く。

 

黒服は城ヶ崎レンノスケが頭角を現して以来、いや……その前よりもずっと、彼を追っていた唯一の存在だ。

 

黒服以外のゲマトリアメンバーは、黒服をモノ好きとして扱っていた。キヴォト最高の神秘である『小鳥遊ホシノ』を研究対象として扱うのなら兎も角、彼は……危険すぎる。調べ研究するの当たって、城ヶ崎レンノスケは『常識』が通じぬ怪物だ。現に、接触を図った黒服は確りと半殺しにされている。

 

 

 

 

「だからこそ、だと?どういう事だ、黒服よ」

「私からも、えぇ────……黒服、貴方は彼をどう視ているのです?」

「ククッ────ええ、私が得た見解をご説明致しましょう……今まで、彼は文字通り死ぬ気で戦ってきた。飢えに耐える為、排他物を食し生き永らえた。拷問され、隙を狙い拷問士を殺して脱出した。生きる為に、生徒や獣人以外の”大人”、ロボ兵士やオートマタを何万、何十万人も殺害してきたのが彼です」

「?」

「つまり、どういう事です?何が言いたいので────……」

「────彼は既にこの世の”禁忌”に触れています。だが、それが彼の”在り方”か、それが”怪物”として謳われる彼の人生か……」

「なるほど、謂わば、城ヶ崎レンノスケの〈個〉としての”存命”が、その身体と魂に……────待て、そう仮定すると、城ヶ崎レンノスケの【神秘】は一体────……」

「気付きましたね、マエストロ。そう……────神秘とは”神”、”悪魔”、”天使”、”妖怪”等々……ヘイローを所持する生徒達はそれらの神秘性を色濃くその身に宿しているのだと、私は考えます。不確定な要素が多いのが神秘、理解出来ないのが神秘ではあるので、これは飽く迄も仮定の話ですが……クックックッ、私はこららを加味し、こう仮定します。彼は……城ヶ崎レンノスケの神秘は、恐らく────────」

 

 

 

黒服が放った一言は、その場に居る者全員の度肝を抜くには、最適過ぎた。

 

 

 

「────聊か信じられん。奴は”怪物”だろう?」

「その異名は彼の戦闘力、人格、戦闘方法から来たものに過ぎません。彼は”怪物”と謳われるには……どうにも”優しすぎる”性格の持ち主ですからね」

「……本来なら、彼は()()呼ばれるに相応しいと?」

「えぇ……ク、クックックッ。はい、その通りです。その通りなんですよ……もし、私の仮定が成立していれば、きっと彼にはあの【色彩】が起こす事象が効かぬ()()()()()()()かもしれません」

「────【色彩】の【天敵】に成り得る存在か……だから黒服は以前から奴を”仲間”に入れたかったのだな」

「その通りです、マエストロ……これは彼が【シャーレ】に来て、その神秘の輝きが一層に増した、それらを踏まえた私の少ない思考の上の回答です。研究も出来なければ、彼の存在自体未だ不明な点も多い事も確かです。故に、信憑性は限りなく低い……ですが、数少ない彼の情報を基に、私はこう考えた、こういう事です」

「ふむ、中々面白い発表だ。そう言われてしまえば、私も城ヶ崎レンノスケに著しく興味が湧いてきたな」

「私もです。正直、以前の彼の発する神秘の輝きは何処か異彩を放っていたと、そう感じてはいましたが……黒服、貴方のその考察、実に興味深いですね……」

「そういうこったぁ!」

「クックックッ……皆さんにも、彼の面白さが伝わったようで何よりです」

 

 

 

マエストロとゴルゴンダ&デカルコマニーは黒服の演説に大変心を打たれた。

 

そして黒服は続ける。

 

 

 

「そして、今……城ヶ崎レンノスケは”マダム”が拠点にしている自治区【アリウス】に攻め込んでいると情報が入りました」

「ほう、それは……一体なぜ?」

「私がヴァルキューレのカメラをハッキングし、少々確認した限り……どうやら彼はマダムがアリウスに対する所業に大層憤りを表し、その身一つでアリウス自治区に向かったとされています」

「なんとっ、彼は私の試作品であり、マダムが少々手を加えたとされる【ヘイロー破壊爆弾】を喰らったと聞いていましたが、そこまで壮健であったとは……」

「ふむ、これは、中々に驚きだ。あの爆破を受けて生きていると云うだけで疑わしいというのに……」

 

 

 

マエストロ、ゴルゴンダ&デカルコマニーは驚愕する。

 

まさか、ヘイロー破壊爆弾をほぼ直接喰らっておいて、意識を保ち、加えマダムが鎮座するアリウス自治区に単独で乗り込む気概……。

 

 

 

「正に【”怪物”】────城ヶ崎レンノスケと云う男は、そういう”事の為”に生まれた……ククッ!彼はもう既に、一つの概念を打ち破ったも同然か……ククッ、これで納得、いえ、心の靄が少しばかり晴れました」

 

 

 

黒服は楽しそうに笑う。

 

心底、この状況を楽しんでいる。

 

 

 

「皆さんから、何か報告は?────……無いようでしたら、会議は終わりにしましょう。これにて、私は一足先に失礼しますね」

「黒服、貴方は何処へ?」

 

 

 

ゴルゴンダが黒服にそう問いかけ、黒服はさも当然かのように、高々と告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「ククッ、勿論、城ヶ崎レンノスケの向かう場所────アリウス自治区です。皆さんは如何なさいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む………雨が」

 

 

 

走る、速く、迅く……息を吸って吐いて、数秒於きに端末を見て、先生が現す位置情報を宛てに、地を蹴って駆け抜ける。

 

走る車を抜かす。歩行者が邪魔だから国道を走る。誰もレンノスケが走っている事に気付かない。

 

レンノスケの武器の一つである、その健脚。長い脚に空中を突き刺すような姿勢に、不似合いなストライド走行は、レンノスケの長身が為せる御業。

 

キヴォトスでも、レンノスケのスピードを視認できる者は少ないだろう。それ程の速度を彼は出力している。

 

そして、数十分……気付けば、トリニティの廃墟区域に到着した。

 

此処まで来て、雨が止んだことに気付いた。そして、一度休憩の為に立ち止まる。

 

 

 

「ふぅ、ふぅ……ふぅーーー………うしっ、背中は痛く……ちょっとだけ痛ぇが、こんなんガキの頃クソバカアホ野良犬に脹脛を噛まれた時と比べれば、何も感じねぇ」

 

 

 

意味不明な理由を垂れながら、レンノスケは独り言を呟く。

 

 

 

「……これ、ちょっと複雑だな……先生は、あっちか。此処からは慎重に行くか」

 

 

 

一本道が多かった今までと比べ、この廃墟区域はどうやら中々に面倒な建造らしい。

 

適当に行けば迷子になる事は明らかだ。

 

 

 

『────迷子になるなよ』

「ぐぎぃッ……クソが……舐めんなよボス犬ゥ!」

 

 

 

ふと、レンノスケは先程のカンナとの会話を思い出す。

 

迷子になるなよ……明らかに子ども扱いされたことに対する、果てしない怒りがレンノスケをキレさせる。

 

 

 

「いやいや、今はボス犬のカス発言じゃなくって……………ふふふへへ」

 

 

 

そうだ、思い出せ。己は────何を言われた?

 

 

 

『────貴女の事が、大好きです』

「………ふっ」

 

 

 

思い出す。

 

 

 

『────貴女の事が、大好きです』

「ふふ、へへっへへ」

 

 

 

思い出す。あの言葉を。

 

 

 

『大好きです』

「……大好き、か」

 

 

 

あぁ、思い出しちゃった。

 

 

 

「……れも」

 

 

 

もう、止まらない。

 

 

 

「────俺も好きィィィッッ!!!!!」

 

 

 

咆哮を上げる。もう、彼は止まらない。

 

 

 

「ふははははははははーーーー!!!っしゃぁおらぁ!!FOOOO!!!」

 

 

 

狂喜乱舞、奇声を上げながら、我武者羅に走る。

 

 

 

「あー!早く言いてぇッ!……俺も、言うんだ!好きって言うんだー!うらぁ!」

 

 

 

”ボゴォンッッ”

 

 

 

横の建物の壁を蹴って大穴を開ける。

 

舞い上がり、少し本気でけってしまった為か、建物は崩壊し始める。

 

 

 

”ドガシャァァンーーー………ッッ!!!!”

 

 

 

それは、けたたましい音を鳴らす。

 

レンノスケは全く気にする様子はなく、足早に駆ける。

 

レンノスケは今、非常に調子に乗っている。

 

楽しみ過ぎて仕方ない様子。それもその筈、レンノスケはまさか、キリノから告白される何て、想っても居なかったのだ。

 

ずっと猛アプローチして、しかし何だかんだで躱されて、しかしめげずに頑張って攻め続け、そして……今日、実った。

 

正しくは、向こうが手を差し伸べてくれた。レンノスケがその指し伸べられた手を掴む瞬間は、この件が終えてから。

 

 

 

『……たすけて、ください…っ』

 

 

 

「────っ!おっと……ふぅ、落ち着け……今は、アイラだ」

 

 

 

そうだ、この件が終えてから。レンノスケは目的を完全に忘れてはいない。

 

一度、深呼吸する。そしてレンノスケは端末を見る。

 

今己は何処か、先生は今何処に居るか。確かめなければ。

 

 

 

「ふむ、先生は今……もう少しあっちか───……む、全然遠いな」

 

 

 

己の位置、そして先生の位置は未だ先は見えない。

 

 

 

「………シッッ!!」

 

 

 

”ドヒュンッッ!”

 

 

 

そう、本気で走る事を決めた。

 

 

 

「────駆けるしかねぇな!キリノさんの為にも、早くこの問題を終わらせてやるッ!」

 

 

 

意気揚々、レンノスケは走るスピードを上げる。

 

アリスクと先生との邂逅は、もう直ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────アイラ

 

 

 

聞き覚えのある声が私を呼ぶ……きっと、これは夢なんだと思う。

 

身体がふわふわして、気持ちよくて、眠たい。

 

こんな経験、した事が無い。落ち着いてしまった仕方ない。

 

だから、これは夢だ。夢なんだ……覚めて、欲しくない夢なんだ。

 

 

 

────アイラ、一杯食べて、大きくなるんだよ?

 

 

 

ほら、やっぱ夢だ。

 

此処にお姉ちゃんが居る。仮面を被ってて、なんだか不気味だけど、かっこよくもある。

 

わたしのお姉ちゃんが居る。いつも優しくて、素敵な人。

 

お話は、偶にしか出来なかった。お姉ちゃんは喋るのがダメだって、言っていたから。

 

手話という会話方法を、教えて貰った。今でもイマイチ分からないけど、”こんにちわ”と”おはよう”、”おやすみ”は、出来るようになった。

 

 

 

────え?手話じゃなくていいのかだって?ふふっ、良くはないね……アイラ、二人だけのヒミツだよ?サオリに怒られちゃうからね

 

 

 

偶に、ほんとに偶に、二人きりの時があった。

 

その時は手話じゃなくて、ちゃんとお話しした。

 

綺麗な声だと思った。声だけで、この人は”特別”なんだって思える程に。

 

 

 

────ねぇ……アイラはさ、いつかアリウス(地獄)から抜け出せる……そんな日が来たら、どうする?

 

 

 

当時のわたしには、お姉ちゃんの質問の意味が分からなかった。

 

でも、でも……今なら分かる。あの人たちと出会って、痛い程それは────。

 

………あれ?なんで分かるんだっけ?いやまず、あの人たちって……?

 

 

 

────アイラ、長生きしてね。これはお姉ちゃん命令、なんてね

 

 

 

あ、待ってよ。どこいくの?そっちは暗いよ。お姉ちゃん?

 

 

 

────初めて貴女を見つけた時、心の底から護りたくなったの。護られる立場の私が言うのも、ちょっとアレだけど……これは本心だから

 

 

 

え……おねえちゃん?

 

 

 

────元気でね

 

 

 

まってよ、やだよ……またひとりなの?こわい、ひとりはいや……おいてかないでよ……あっちはなんにもないよ?ねぇ、ねぇ……────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おね、ぇ……ちゃ……────っ、んぁ……」

 

 

 

目が覚めた。

 

数秒、天井を見上げた。白く、小奇麗な天井だ。

温かい、そう思うと同時に気付いた。自分は今……ベットで眠っている。

 

此処は何処だ?自分は今まで何をしていた?この状況に頭が追い付かない。

 

むくっと上半身を起こした瞬間だった。ドアが開いた。

 

 

 

「ふぅ………ん?」

「ぁ……」

「あ!アイラちゃん!起きたのですね!」

 

 

 

アイラの視線の先、其処には『中務キリノ』の姿があった。

 

両手で何かを持ち、満面の笑みでアイラに近付いてくる。

 

 

 

「具合はどうですか?沢山の出来事があって疲れたでしょう」

「ぁ、ぁの……えと、だ、だいじょうぶです……うん」

「そうですか?どれどれ……」

「ひゃっ……」

 

 

 

キリノはアイラの額に手を添える。

 

 

 

「うーん……大丈夫そうですね!」

「ぁぅ……えへ、えへへ……あったかい」

「え?あ……ふふ!アイラちゃんも、温かいですよ」

 

 

 

アイラはキリノの言葉を聞き、少し頬を赤らめる。

 

 

 

「……あっ、あの!」

「わ、ど、どうしました?」

「あ、あの!その、れ……レンノスケは?れんのすけは、どうなったの?も、もしかして……」

「……レンノスケさんなら、もう行きましたよ。アリウス自治区にね」

「っ!」

 

 

 

その答えは、アイラを一気に現実に向き合わす。

 

不安だ。アイラの心情は今、不安と焦燥で一杯になっている。

 

 

 

「そ、うだ……わたし、が、おねがいして……」

「………」

「ど、どうしよ……アリウスは、すごく、つよいひとが、いっぱい、いるのに……」

「アイラちゃん」

「っ!……?」

「大丈夫ですよ」

 

 

 

キリノはアイラの頬をそっと、優しく触る。

 

 

 

「彼は、最強です」

「あ……」

「貴女の”意志”を受け取り、彼は本物の”警察”に成った……例え”怪我”を負っていようと、彼は必ず役目を全うして、元気よく帰ってきます」

「っ………ほんと?……わたしが、しってるのは、あのひとがすごく、すっごくつよくてッ……あっ」

「ふふっ……ね?なんだか、心配してる方が変な感じがしませんか?」

 

 

 

キリノの言っている事の意味を理解した。

 

考えてみれば、ヘイロー破壊爆弾を喰らってくたばらない人間を、心配するだけ気が滅入るという事に。

 

 

 

「だから、私達がする事は……ただ、彼が無事に帰ってくることを祈る!これに尽きます」

「はっ、なるほど────……………あ、あの……キリノ、さん」

「キリノで大丈夫ですよ」

「あ……えと、じゃあ、キリノお姉ちゃん」

「うっ!」

「え?だ、だいじょうぶ……?」

「も、問題ありません……ふふっ、キリノお姉ちゃんですか……素敵な響きですね!」

 

 

 

アイラはよく分かっていないが、キリノの様子を見て、大丈夫だと判断。

 

 

 

「……あっ。ごめんなさいアイラちゃん!本官に何か、聞きたい事がありましたか?」

「あ、えっと、うん……ずっと、きになってたことが、あって……」

「気になっていた事、ですか?」

 

 

 

アイラはキリノを見つめ、ずっと疑問に思っていた事を告げた。

 

 

 

「……どうして、レンノスケは……わたしに、あんなに、やさしいの?」

「………」

「わからないの……あのひとが、あんなに、やさしくしてくれる、ほんとのりゆう……」

「────きっと、似ているからでしょうね、アイラちゃんとレンノスケさんが」

「え?」

 

 

 

返される言葉は、アイラの思考を停止させる。

 

似ている?どういうことなのか……その意味は、キリノの言葉で直ぐに分かった。

 

 

 

「どういう、こと……?」

「これは言って良いのか……でも、貴女には伝えるべきかもしれませんね。少し前のレンノスケさんは……今のアイラちゃんに、少し状況が似ている状態だったのですよ」

「………ぇ?」

「……彼にも色々あったって事です。其のどれもが、辛く、苦難の連続だった────……16年の年月を経て彼がブラックマーケットから出た時、彼は心身ともに弱った状態で発見されました。見つけたのは、本官です。先程のお部屋で、今までの事情を言い出した彼は……聞くに堪えない人の闇を抱えた男の子でした」

「………そう、なの?」

「はい……────だから、でしょうね。貴女の事情が……彼にとって絶対に許せなかったんだと思います」

「へ、え……?」

「飢餓の苦しみ、一人と云う孤独、誰も助けてはくれない理不尽……きっとレンノスケさんは、昔の自分と貴女を重ねた。故に彼は……レンノスケさんは、同じ苦しみを味わっている貴女を助けたいと思ったのでしょう」

「………そんな、ことで」

「────彼は、本当の本当に……優しい御方なんです」

 

 

 

アイラは驚きで目を見開く。

 

レンノスケがあんなに自分に対し、優しくしてくれた理由が、自分と同じ境遇だったと聞いて。

そして腑に落ちた。だからあんなに……ご飯に対して熱があったんだと。

 

 

 

「……彼は特に飢餓については、少し過敏な感情をお持ちですから……お腹を空かせ、空腹に耐えている貴女の事が見ていられなかった……貴女を助けた理由はきっと……きっと一つじゃありません」

「っ……」

「……暗いお話は此処までにしましょうか。アイラちゃん。これ、食べますか?」

 

 

 

辛気臭い話はキリノには合わない。

故に行動に出た。この部屋に入ってから、ずっと片手に持っていた箱をアイラが眠るベットの机の上に置いて。

 

 

 

「?……これ、なに?」

「これは『ドーナツ』です。本官やレンノスケさんが大好きな食べ物ですよ!」

「え、そうなの?わっ……お、おいしそうっ!……た、たべて、いいの?」

「ふふっ!えぇ、勿論です!食べられるだけ、じゃんじゃん食べちゃって下さい!」

 

 

 

その後、アイラはポンデを食った。

 

 

余りの美味しさに泣いたのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

■……一方その頃、アリスク組は────。

 

 

 

 

 

 

 

「────悪役登場☆って所かな?」

「……聖園、ミカ」

 

 

 

────予想だにしなかった者と、邂逅を果たしてしまっていた。

 

場所はカタコンベ入り口。そこでアリスクは先生を置いて、アリウスの追撃部隊を殲滅している時、とんでもない存在と出会う。

 

その正体は、トリニティ”ティーパーティー所属、パテル分派”『聖園ミカ』……ティーパーティーに於いても群をぬく武闘派であり、その実力はトリニティ最強戦力『剣先ツルギ』に匹敵する実力者。

 

 

 

「あはは!まだ覚えててくれたんだね?嬉しいなぁ~私は。でも……貴方達はそうでもなさそう?ねぇ、どうしたの?そんな────”魔女”でも見たみたいな顔しちゃって」

「……まだ檻の中と聞いていたが」

「出て来ちゃった☆だって、早く貴方達に会いたかったんだもん!」

 

 

 

ミカは可愛らしく笑う。

 

アリスクはそんなミカが、可愛いとは思えない。

 

状況もあるが、何より……その笑みには、恐ろしく残酷な意味を為しているからだ。

 

 

 

「だってさ?私達……まだ『お話しなきゃいけない事があるんじゃないかって』、そう思わない?」

 

 

 

圧が、アリスクに襲い掛かる。

 

サオリは思う。画面越しのレンノスケほどの重圧ではないが、それでも、今己の目の前に居る存在は自分達よりも圧倒的に気が重い。

 

 

 

「……ヒヨリ、先生は?」

「こ、後方に居ます。多分、すぐに追いつくかと……」

「(今の私達では、聖園ミカを止めることは不可能……先生、あの人の力が必要か……)」

 

 

 

サオリは少しの思案をする。

 

その間もミカは狂気的な笑みで発語する。

 

 

 

「私もこれまで、それなりに貴方達と一緒に行動してたからさ?此処に来るんだって直ぐに分かったよ」

「……通路が閉じるまでは?」

「残り約28分……まさか、戦うつもり?今、あの女と交戦するなんて無謀だと思うけど」

「む、無謀ですかね……?」

「………」

「体力も無ければ弾倉も足りない。指揮が無ければ、真面に戦える状態じゃない……聖園ミカ、彼女はティーパーティーとして異様な程、それこそ群を抜く武力を持っている。おまけに、乱戦に於けるこの状況は彼女にとって最も得意な戦場だよ」

「あう……」

 

 

 

ハッキリ言って、最悪な戦況であった。

 

弾薬は枯渇、過酷な週間を過ごした故に全員が疲労困憊。

 

真面目に考えなくても勝ち目はなかった。

 

 

 

「あはは☆愚鈍な女だと思った?そうだよね、でも、貴女たちの暗号位、私でも分かるんだから!集合場所とか、拠点の場所とかも覚えてる。これでもクーデターを起こした張本人だからね!」

「後退して、立て直すのは?」

「無理だ。時間が無い……直に通路が閉じる」

「先生が到着するまで、時間を稼ぐのは?」

「それは……(だが、やはりそれしか……)」

「────ねぇ」

 

 

 

”ゾゾゾッッ……”

 

 

 

アリスクが感じたのはまるで心臓を掴まれたかと思う程の悪寒。

 

ミカを見れば、ニヒルな笑みを浮かべ、臨戦態勢に入っている。

 

 

 

「ねぇねぇねぇ、私の話聞いてる?無視?それって酷くない?これでも一緒にクーデターを起こした仲なのにさぁ」

 

 

 

瞬間、爆発的な殺意がアリスクを襲う。

 

 

 

「────それって、仲間はずれじゃ……ないのぉ!!?」

 

 

 

”ドゴォォンン!!!”

 

 

 

突進する一つの殺意の塊は、真っすぐアリスクに突っ込む。

 

 

 

「ひっ!?き、来ましたっ!!」

「散れ!!絶対に正面からは受けるなッ!」

 

 

 

カタコンベ入り口、その場所で……【アリスウ・スクワッド】VS【トリニティの魔女】の戦闘が、幕を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……此処を、左……あ、ミスった。右だった」

 

 

 

レンノスケはちょくちょく道を間違えながらも、先生が標す位置情報を見ながら、先に先にへと進む。

 

そして、気が付けば────。

 

 

 

「む……これは」

「………」

「………」

「ッ、ぐ………」

 

 

 

倒れているガスマスクを付けた集団に遭遇した。

 

数十人は倒れており、全員息はあるが、どうやら気絶している様だった。

 

 

 

「おいおい、これ、先生達がやったのか?……あ?」

「くっ……しまった、何分、眠ってた……ッ」

 

 

 

そう、一人、何か他のアリウス生徒は少々雰囲気が違う者は意識があった。

 

レンノスケは普通にその生徒に近付いて行く。

 

 

 

「おい、お前……大丈夫か?」

「なに、誰だ……んなッ!?」

「おう、お前だ。大丈夫か?こんな所で寝っ転がってて……ずぶ濡れでそんな所寝てたら、風邪引くんじゃないか?」

 

 

 

アリウス生の頭が真っ白に成る。

 

ヤンキー座りで己を見下ろすその者を見て、驚愕した。

 

だって……あの裏社会で名を馳せた最悪の怪物────城ヶ崎レンノスケが、自分を見下ろしていたのだから。

 

悪い夢か、しかし、右頬を抓っても痛みが走る。

 

 

 

「いや、夢じゃねーから。俺は普通に現実だ」

「……そ、んな……な、なんで、此処に……」

「あ?あー、まぁ、お前等の後輩?に、色々と頼まれてな。あと先生の依頼。んで、俺は此処に居る訳だ」

「な、い……────いや、違う、そうじゃない!だって、貴様は”アイラ”が、身を殺す特攻を図って共に逝ったと……ッ!」

「勝手に殺すな、俺もアイラも()()()()()()()()()………そういうの誤情報って言うんだぞ」

「な、なに?……アイラ、が……生きている?」

 

 

 

レンノスケの存在と同時、アリウス兵士はレンノスケが発語する言葉を理解出来ないでいた。

 

アイラが【ヘイロー破壊爆弾】を持ってレンノスケを殺しに向かったのは知っている。そして、結果的に爆破させたのも、知っている。

 

────だって、アリウス自治区からD.U.近郊まで送ったのは………己だから。

 

シャーレ付近、そこまでアイラを送ったのは己で、指令を言い渡し直ぐに立ち去り、その後のけたたましい音と爆炎の煙を見たのは自分だ。

 

ヘイロー破壊爆弾、その改良版……あの威力は100m離れていても大怪我を負う代物の筈……なのに、アイラのみならず、レンノスケまで生きているのが、アリウスの兵士は信じられないでいた。

 

 

 

「………まさか、爆弾が、当たらなかった……のか?」

「あ?いんや、割と確り当たったぞ。10……15?そん位の距離だが……あれ、アイラから聞いたが、ヘイロー破壊爆弾って云うヤツなんだろ?」

「10!?ば、バカを言うな!あれは、アレは……100mは離れても死ぬ可能性がある最悪の爆弾だぞ!それを、たったの10m付近で受けただと!?」

「………それ、マジで言ってんのか?」

 

 

 

レンノスケはアリウス兵士の言葉を聞き、眉間に皺を寄せる。

 

 

 

「当たり前だ!だって、アレは……元々そういう目的で作られた殺戮兵器だ!それを、マダムは気配遮断に長けたアイラに託し、お前を殺そうと命令した!それを────ウチは……アイラに、最後にアイラに命令した……殺せと、私が……命令して……私が、殺したと、思ってた……のに」

「……………」

「そうか……生きて、いたのか……アイラ」

「おい……」

「なに………あぐっ!」

 

 

 

レンノスケは興奮してべらべらと喋るアリウス兵士の髪を掴み持ち上げ、睨みつけ告げる。

 

 

 

「もう喋るな、これ以上クソ野郎(ベアトリーチェ)の事でイライラしたくはねぇ……少し、お前に聞きたい事がある」

「ぎっ………な、んだ…?」

「アイラ、あいつはまだ8歳のガキだ。なぁ……幼ねぇガキ……アイラ位の年齢のガキは、あいつだけか?」

 

 

 

レンノスケの質問に、困惑を隠せないアリウス兵士だが……これ以上レンノスケを刺激すれば何を起こすか分からない以上、アリウス兵士は告げる。

 

 

 

「あ、あがッ……あ、アイラの様な、まだ実戦経験のない子供たちは、少ないが居るッ……」

「少ない、だが居るんだな……数は」

「アイラを抜けば、12人だ……ッ、5から、10の子供はっ、専用の場所で……暮らしているっ……!」

「……………」

 

 

 

それを聞いたレンノスケは目を瞑り、一度大きなため息をもらし、そして……アリウス兵士の髪を離し、告げる。

 

 

 

「良い情報だ……お前、此処から俺にその専用の場所ってとこに案内しろ」

「は、は…?」

「お前だけ意識がある。だから此処から、その子供がいる場所に俺を連れていけ」

「……理由は、なんだ……子供たちに、なにをっ」

「助けるんだよ。上の命令でな、理由はそれだけだ、お前に拒否権はねぇよ────……っしょ」

「は?……うひゃっ!?」

 

 

 

レンノスケはそのアリウス兵士の腹を横に持ち、脇に抱える。

 

何時の日かに行ったキリノのお姫様抱っこや、先程したアイラも縦抱きとは違い、非常に雑な抱き方だ。

 

 

 

「先生の標は……なんか止まってるな、好都合だ……よし、行くぞ!」

「お、おい!まっ……うえっ!?う……うわあわああああああ!!!!!」

 

 

 

”ドヒュゥゥゥン………”

 

 

 

蹴りだした地面は大きなクレーターを作り、爆発的な速度と共に、アリウス兵士に訪れる重力の抵抗。

 

 

破天荒、無茶苦茶、最悪……それがレンノスケだ。

 

 

そうか、これが、あの怪物か……アリウス兵士は心の中で、そう思った。

 

 

 

「あ、お前にこれやるよ。カロリーメイト、超美味いぞ。食っとけ食っとけ」

「いや…い…ま………渡されて…も……困るるるるっ!!!」

 

 

 

レンノスケのトップスピードに、アリウス兵士は困惑、そして憤りを見せるが、レンノスケは気にせずそのままアリウス兵士にカロリーメイトを渡す。

 

一応、案内を任せる身、御礼をと思った、レンノスケなりの感謝の礼だった。

 

無論、アリウス兵士は渡されても、嬉しいは嬉しいが……全く食べれるスピードではないので、箱を持つ事しか出来ないでいた。

 

 

そうして、レンノスケは一人のアリウス兵士を(無理矢理)連れて、先生が待つカタコンベ入口まで超スピードで駆けてった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃声……」

 

 

 

そして、何かしらの爆発音。

 

後方にて待機していた先生は、アリスクの皆が心配で気が気でなかった。

 

そして、来るであろうレンノスケ……彼の事も気がかりだ。

 

 

 

「行かなきゃ……追い掛けないと」

 

 

 

先生は走る。

 

未だ止まぬ銃声と爆発音。

 

でも、向かわなきゃいけないと、本能が叫んだ。

 

 

 

”ピコンッ”

 

 

 

「ッ!合流信号…!」

 

 

向かう瞬間に来たサオリからの合流信号。

 

先生は、息を上げながら現場へと直行……アリスクの身の心配をしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……速すぎます……」

「く、うぅ……」

 

 

 

周囲に響く轟音。

 

その現場には膝を着き項垂れるヒヨリ。

 

脇腹を抱え、目の前の存在を睨みつけるサオリ。

 

そして……ミサキを力任せに拘束し、ニヒルな笑みを浮かべて声高々に笑うミカが居た。

 

 

 

「あは!?ねぇ!ねぇねぇねぇねぇ!サオリ?冗談きつくない!?本当にこれで終わりなの!?お飾りの人形だって今の貴方達より上手く戦えるんじゃない?【スクワッド】はこんなもんじゃないよねぇ!?」

「く、うあ……離せ……っ!」

 

 

 

暴力的にミサキを吊し、好戦的な笑みを作るミカの、その姿は……まるで魔女だった。

 

恵まれた環境、恵まれた容姿、恵まれた神秘……全てがアリスクが持つモノとは違う暴虐の化身。

 

ミサキは吊るされていない方の腕を使い、ミカの首を目掛け打撃を打ち込む……が、ミカは表情を崩さず、一段と悪魔的な笑みを作る。

 

 

 

「あは!よっわ~い☆……いや、ほんっと!」

「ッ!!あが、ぎ……!!」

「ミサキッ!」

 

 

 

ミシミシと悲鳴を上げる吊るされた腕は、正に折れる一歩手前。

 

焦燥を滲ませたサオリがミサキを名を呼ぶと、ミカは少しだけ驚く顔に成った。

 

 

 

「へぇ?貴方達も仲間が大事なんだね?てっきり、任務の為に一緒に居るだけだと思ってた。どんな人にも大切な人は居るよね、分かる、分かるよ。私にも居たもん…………貴方達が殺そうとした、セイアちゃんの事なんだけどさ?」

「っ………」

「────ねぇ」

 

 

 

”ミシミシッッ!!!”

 

 

 

「ギ、ああ!!」

「ミサキ!」

 

 

 

ミサキの腕が嫌な音を鳴らす。

 

これ以上力を加えてしまえば……本当に折れてしまう。

 

 

 

「私は……ちょっと痛い目にって言っただけだったよね?いつヘイローを壊せなんて言ったのかな?まぁ私も一人で勝手に暴れて台無しにした癖に、今更被害者面?って感じだけどさ……でも、私の大切なモノ全部!ぜーんぶ!なくなっちゃったんだよ?」

 

 

 

ミカは悲しそうに、言をつらつらと発語する。

 

 

 

「学園も、友達も、宝物も、帰る場所も……先生との約束も全部……ッ────明日になったら、全部元通りになるって、信じてたのに……そんなモノはお話の中だけだった……あはは、運命はもう決まってるみたい」

「聖園ミカ……」

「だからさ、スクワッド……特にサオリ────貴女たちも同じ痛みを味わんなきゃね?」

「……ッ!」

 

 

 

ミカがミサキの腕を折ろうとした、瞬間……。

 

 

 

「────ちょっと待った!」

 

 

 

アリスク、そしてミカにとって聞き馴染みのある声が其処に響く。

 

先生の声が、全員に届いた。

 

 

 

「えっ!?」

「っ!」

 

 

 

ミカが動揺し、その隙を逃さなかったミサキはミカの拘束から逃れる。

 

そして、ミカの視線はその声の元へ……見つけたその姿は、やはり、その者だった。

 

 

 

「せ、先生……?」

「ミカ……こんな所で何をしているの」

「わ、私は、えっと………それより、どうして?」

 

 

 

先生の姿を見た刹那、ミカは中々どうして、気になって仕方ない。

 

 

 

「ね、ねぇ!どうして!?どうして先生がスクワッドと居るの?」

「……ミカ」

「ねぇ……どうして?こんな筈じゃ……よりによって、こんな姿……どうしてなの?」

 

 

 

悲痛。

 

最早、ミカは頭がごちゃ混ぜになって分かんなくなってしまった。

 

哀れ……その言葉が、今のミカには居たいほど似合う言葉だろう。

 

 

 

”ドゴォォォン!!!”

 

 

 

「居たぞ!こっちだ!」

「聖園ミカも居るぞ!撃てッ!」

 

 

 

突如湧いたアリウス生は、謀反を起こしたアリスクを撃ち、そしてミカと先生目掛け銃弾を放つ。

 

 

 

「っ……」

「ミカ!」

 

 

 

先生がミカの心配を、しかし……ミサキが止める。

 

 

 

「駄目、先生、時間が無い……直ぐに入らないと」

「くっ……────ミカ!ミカは兎に角、直ぐにトリニティに帰って!後で説明するからっ!」

「先、生………」

「必ず!帰るから……!」

 

 

 

アリスクはアリウスの猛攻を巧みに回避し、先生を抱えそのままカタコンベに入る。

 

 

 

入る寸前、先生は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

此処で、スクワッドと聖園ミカは……別れる事になった。

 

 

 

 

 

 

これが、後にアリウス兵士達にとって……最悪を巻き起こす事に成ろうとは、思いも寄らず。

 

 

 

 

 

 

 

▼数10分後。

 

 

 

 

 

””ボガァァァンッッ!!!””

 

 

 

「────ッ!シャァ!!あともうちょいで先生じゃあ!」

 

 

 

レンノスケは脇にアリウス分隊長を抱えながら、壁をぶち壊して進む。

 

 

 

「あぶぶッ、ばぁーーー!!か、壁、壊しながら、進まないでくれぇ!破片が痛い!」

「うっせえわボケが!これの方が近道なんだよ!また腹パンされてぇか!我慢しろ馬鹿野郎!」

「え!?なんで怒られてるのウチ!?」

「そうこう言っている内に……オラァ!」

「ぎゃあああああ!!」

 

 

 

縦横無尽に進み、ハチャメチャに突き進むレンノスケを、分隊長は絶望しながら諦める。

 

端末を分隊長に預け、ナビを完全に彼女に任している。

 

最初こそ分隊長は拒んだが、レンノスケの腹パン(最低)を喰らい、止むを得ずナビを任されている。逆らえば、次は10%の力で腹パンと云われ、戦慄したのは思い出したくもない。

 

 

 

「おい!次は何処を指してる!?言ってくれ!」

「うぎぎぎっ……あ、あと……そのまま4㎞先を、進む、だけ……ッ」

「あ、マジ?……ふぅ!!」

「おぎゃぁぁーーー!!」

 

 

 

”ドヒュゥン!!”

 

 

 

レンノスケは今までの走る速度をもう一段上げ、突き進む。

 

100、200、300……1秒経つ事に目的地に近くなる。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「む……これは、戦闘の後……まだ新しいが、もしかして先生達か?」

「ハァ、ハァ……や、やっと……止まった」

「あ?なんでお前の方が疲れてんだよ」

「当たり前だろーが!脇に抱えられながらあの速度をモロに受けたら誰でもこうなるわ!」

「そうか。おつかれ、だな」

「き、聞いといてコイツ……ッ」

 

 

 

分隊長のレンノスケに対する接し方はフランクなモノになってきた。

 

これがレンノスケの不思議な所である。話せば話す程、その怖ろしい強面も何だか怖くはなくなり、会話がし易くなるのだ。

 

 

 

「……あ、過ぎた」

「何がだ?」

「時間」

「何の時間だよ」

「カタコンベ、閉まったぞ。もうお前は入れないぞ」

「はん?どういう事だ」

 

 

 

レンノスケは分隊長の言っている事の意味が一瞬だけ分からないでいたが、直ぐに分隊長は告げる。

 

 

 

「カタコンベは一定周期で変わるんだよ。それで、もうその扉はしまった」

 

 

 

分隊長がレンノスケに分かり易くカタコンベ内の仕組みを伝えた。

 

 

 

「つまり……開かないのか?」

「そう」

「じゃあ壊せばいいだろ」

「い、いや!馬鹿言うな!大砲の砲撃でも傷一つ付かない扉だぞ……もう無理だ」

「む────……とりあえず行くぞ、そうは言っても、先生のGPSは其処を指してる」

「分かったが……そろそろ降ろしてくれないか」

「駄目だ。逃げるだろ」

「逃げねぇよ!此処まで来たら……」

「取り合えず、此処からは俺歩くから、カロリーメイトでも食っとけよ。毒はねぇから」

「……なんで、くれるんだよ。こんな良い食べ物」

「お前、痩せすぎ。理由はそれだけだ────……空腹は誰であれ、この俺が許さん」

「………」

 

 

 

分隊長はレンノスケの言動は理解出来ない。

 

だが、レンノスケのその気迫に、只従うのみだった。

 

 

因みに、カロリーメイトは美味しかったのか、直ぐに食べ終わったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美味かったよ、どうも」

「そうか、ならいい」

 

 

 

脇に抱えられる分隊長は、レンノスケに一つ礼を伝える。

 

先程のトップスピードとは違い、レンノスケは人並みの速度で歩く。

 

理由として、分隊長から聞いたカタコンベの時間制限、それが過ぎてもう閉じてしまったが故だった。

 

休憩も兼ねて、歩いている。

 

 

 

「……おい、城ヶ崎レンノスケ」

「なんだ」

「……マダムの事、どうするつもりだ」

「殺す」

「ッ……それは、お前に【ヘイロー破壊爆弾】を仕向けた張本人だからか?」

「それプラス、その【ヘイロー破壊爆弾】を……アイラ、あの幼いガキに一任した、自爆を命令させた、腹ペコにさせた……理由はまだあるが、これが主に俺が動きベアトリーチェを殺す理由だ」

 

 

 

レンノスケは確かな怒気を含ませた声質で告げた。

 

分隊長はレンノスケのその答えに、それが本気であると悟った。

 

 

 

 

「なら、その殺す人間にはウチも入ってる」

「なに?」

「……ウチは、アイラを向かわせた存在だ。アイラに、最後に『気を付けていけ』、『マダムに言われた通りの仕事をしろ』と、告げた……最悪だ、ウチが殺しかけたも当然じゃないか……」

「…………」

 

 

 

それは贖罪だった。

 

分隊長はアイラを見送った人間。

 

アリウス自治区しか知らぬアイラにを、最期になるからと、共に歩んでD.U.まで向かった。

 

 

 

「────だったら、確りと謝れよ」

「……は?」

 

 

 

レンノスケは進む歩みは止めず、目線も前に向きながら告げる。

 

真っ直ぐで、力強い一歩を進みながら。

 

 

 

「アイラは謝った。俺を殺しかけてごめんなさいって、泣きながら謝った」

「ぇ……あ、アイラが…?」

「無論、その前に確りと話し合ってな。アイツは、最後まで自分の行いを悔やんでいた。怖かったって、殺す行為がこんなに辛いなんてって、苦しかったって……泣いて俺に謝ってきた。そして……助けてと望まれた」

 

 

 

レンノスケは続ける。

 

 

 

「それだけで俺が動く理由はある。アイラの、ガキの願いを叶えるのが【警察】である俺の仕事だ」

「警察……そうか、お前、ヴァルキューレに……」

「まぁ、な。俺の大好きな人がヴァルキューレなんだ。その人に憧れて俺は………あ、見る?超かわいいぞ」

「え、いや、いいよ別に……」

「む、そうか……まぁ、俺が言いたいのは────やってみなきゃ分からん、って事だ。アイラが許すか許さないかもアイラ次第、だが、その答えが出るのはお前が行動しなきゃいけない、そうだろ?」

「………そう、だな」

 

 

 

その後、レンノスケは歩みを進ませる。

 

分隊長は、少しだけ付き物が取れた気がした。いつの日か、許されなくっても良いから、アイラには謝ろうとも、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ!お、おい!お前達!」

「おいおい、酷い有様だな」

 

 

 

レンノスケと分隊長が現場のカタコンベ入り口に辿り着いた時、其処は正に地獄絵図だった。

 

入り口手前、そこには多数のアリウス兵士が横たわり、気絶していた。

 

分隊長は無理矢理レンノスケの拘束から抜け出し、アリウス兵の所まで駆けて行く。

 

レンノスケもそれに続き、倒れているアリウス兵の状態を確認する。

 

 

 

「一体何がっ……アリウス・スクワッドはそこまで銃弾を持ち合わせてはいない筈……何があって、こんなッ」

「……おい、アリウス・スクワッドは、誰か素体の武力に長けている者は居るのか?」

「え?」

 

 

 

自分にそう問うレンノスケに、分隊長は一瞬困惑しながらも答える。

 

 

 

「素体って……身体能力の事か?」

「そうとも云う、が……もっと暴力的な意味だ。コイツの顔面を見ろ」

「ぇ……ひッ!」

 

 

 

レンノスケが一人のアリウス兵士を指さし、見れば……そのアリウス兵士は顔面が若干陥没しており、鼻から血が流れている。酷い有様だが、生きてはいる。

 

それは、誰かに殴られた……とも云う様な、そんな拳の跡を作っている。

 

 

 

「これ、誰かが殴ってこう成っている。アリスクに、これが出来る奴は?」

「い……いない。こんな、綺麗に拳の跡なんか、作れるほどの人間は居ないはずだ……」

「……そうか」

 

 

 

レンノスケは思案する。

 

 

 

「(悪くないパンチだ……誰だ?俺の様な第三者の加入?もしくは先生が新しく応援を?……どちらにせよ、めんどい事には変わりはない、か)」

 

 

 

レンノスケ視点でも、相当な力の持ち主。

 

警戒は強めるに越した事はない。

 

 

 

「全員生きてはいるみたいだ。酷い状態だが、死んではいない」

「っ……そう、みたいだな」

 

 

 

レンノスケと分隊長は気絶している者達の状態を一通り確認した。

 

そして、レンノスケは告げる。

 

 

 

「んで、これがカタコンベの入り口か……」

「あ、あぁ……此処からは電子機器は役に立たない、だからシャーレの先生とお前のGPSは此処で途切れて……あ、スマホ、こんな所に」

「それは先生の………そうか、先生は……俺の為に、態々此処に置いて行ってくれたんだな」

「つまり、アリスクと先生は全員、カタコンベに入って行ったんだ」

 

 

 

厳重に閉ざされた扉は、正に要塞。

 

 

 

「────オラァッ!!」

「は?」

 

 

 

”バゴォォォォォンッッッ!!!!!”

 

 

 

「うぎぃぃぃ!?」

「っ!……マジで硬いな」

 

 

 

レンノスケは壁目掛け半分以下の力で殴る。

 

しかし、壁は凹むだけで壊れなかった。

 

 

 

「び、びっくりした!急に何してんだよ!」

「あ?見りゃ分かんだろ。壁殴ったんだよ」

「そうだな!!見れば分かるよ!ってか、言っただろ!この壁は傷一つ付かな………え、凹んでる?」

「ふむ……」

 

 

 

もう一度殴る……それもいいが、体力は温存したい。

レンノスケは一度思案する。あと10発でも殴る蹴るを繰り返せばぶっ壊せる。

 

だが、自分は怪我人故、残されている体力はそんなにない。

 

 

 

「やるしか、ないか……おい」

「な……なんだ?」

「お前の持ってる()()()、俺に貸せ」

「え、え……こ、これか?」

「あぁ、それだ。貸してくれ」

 

 

 

分隊長は困惑を隠せないでいた。

 

この流れで、どうしてナイフを?

 

しかし、逆らえばまた腹パンされる……それを畏怖し、分隊長は直ぐに装備していたナイフをレンノスケに渡す。

 

 

 

「ありがとう……良いナイフだな」

「え、どうも……毎日手入れはしているから」

「やっぱそうなのか。あー……一応、言っておく。壊したら悪い」

「………は?」

「はぁっ……ふぅーーー…………………ッッ」

「おい、待て……何するつもr────っ!!!!」

 

 

 

分隊長がレンノスケに問いかける瞬間────レンノスケの雰囲気が一気に変わった。

 

 

 

 

”ゾゾゾゾゾゾッッ!!!!”

 

 

 

「ひっ………」

 

 

分隊長の背筋に冷や汗が走る。

 

感じた事のない殺気に、怯え、身体が委縮し震えてしまう。

 

 

 

「強く、重く、速く、瞬間的に……斬る」

 

 

 

”ミシミシミシッ!”

 

 

 

レンノスケが握るナイフの柄から犇めく音が聞こえる。

 

 

そして、レンノスケは……ナイフを振り上げ、袈裟斬りの様に振り落とす。

 

 

 

「────ふゥッッッ!!!」

 

 

 

”キンンンンンンンン……………”

 

 

 

瞬間────この空間に響めくは凄まじい斬撃音。

 

分隊長はレンノスケの動作に、為した事に……目と口を開け驚愕する。

 

だって……今、自分の目の前に起こっているのは────。

 

 

 

”────ゴシャァァァァーーーン………”

 

 

 

「よし」

「は、は……な、あ、あぁ?え???」

 

 

 

今迄、絶対に破壊されず、傷一つも付かなかった重く固い扉が……綺麗に、斜めに切られているのだから。

 

まて、一体なにが起こったのだ?

 

分隊長は目を擦り、一度これが夢かと確認するが……幾ら確認してもこれは現実だった。

 

じゃあ、レンノスケはナイフでこの扉を破壊したのか?どうやって?何があって扉が斬れる何て超常現象が起きたのだ?

 

 

 

「は?………え?」

「おい」

「……いや、は?なに、え?どういうこと?」

「おーい」

「いや、ナイフ……は?ナイフで?壁を?斬った??へ??ハァ???」

「おい……はぁ、しゃあねぇなぁ……よっと」

 

 

 

”ガシッ”

 

 

 

「……うぇ?」

「扉開いたぞ、これで先に行ける。早く行くぞ。ってか連れてくわ」

「いや、まって!頼む!一旦、ウチの頭を整理させてくれ!色々いっぱいで……イカレそうなんだ!」

「なに訳分かんねぇこと抜かしてんだ。ぐちぐちぐちぐち、チピチピチャパチャパ言ってねぇで、俺をガキが居る場所に案内しろ」

「いや、だから……ッ」

「うるせえな……腹ァ殴んぞ?」

「ひいぃぃっ!?や、やだ!わか、分かった、分かった!案内するよぉ……」

「それで良いんだよ、それで。黙って俺に従えぇい!」

「くっそぉ……ッ!」

 

 

 

完結しない情報、しかし、当の原因は何処吹く風。

 

レンノスケは分隊長を脅し、脇に抱え、そそくさとカタコンベ内に入っていく。

 

 

 

 

 

 

怪物が、アリウス自治区に進行………それは────。

 

 

 

 

 

 

────()()()にとって、最悪の始まりであった。

 

 






この分隊長の子が居なければ、レンノスケは100%迷子になるので、致し方なくもう一人のオリキャラを加えました。絶対にこれ以上は出しません。

分隊長の子は、名前を付けるか付けないか、どうしようかなって思っております。付けた方がいいですかね?




感想、誤字報告ここすき、お気に入り評価、大変励みになります。


 

────関係ないのですが、モンハンワイルズに【ラギアクルス】復活しますね!

大好きなモンスターの一人でした。まさか復活できるなんて思ってもみなくってショック死しちゃいましたもん。

ラギアクルスは出ないんじゃなくって出せなかったんですよね、サイズ等の問題的に。サイズでしたっけ?骨格?色々事情があって出せないのは、仕方ないですけど……やっぱ見たくなっちゃうんですよね、超美麗なグラフィックと絶対☆ヌルヌル動いて生態行動も盛んなラギアクルスを!!

もうね、開発の方々には感謝しかありません………。
問題を乗り越え8年の時、遂に復活!感動しました……叫びました。


ワイルズ楽しすぎて寝る時間が少ない、執筆が遅れるので大好きです。



アンケートです。どうか、御投票を宜しくお願い致します。

  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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