怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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皆さん、いつも感想ありがとうございます。

普通の感想や考察、色々書いて下さる事に、私は大変気持ちが良いです。考察や指摘、大歓迎ですので、これからも感想欄に色々書いて下さると有難いです。宜しくお願いします。



では、本編です。



幼き子供たちの慟哭に、怒るは最恐の怪物。

 

 

 

 

 

 

 

 

”パキンッッ!!……サラァッ…………”

 

 

 

「むっ……あぁ、やっぱこうなるのか」

 

 

 

分隊長を右腕で脇に抱え、走るレンノスケがある変化に気付く。

 

それは……もう左手で持っていた分隊長のナイフが、()()()()()()()()()が、まるで()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 

 

「すまん。お前のナイフ、やっぱ壊れちまった。許してくれ」

「あ、え……?う、うん。いいよ?」

「え、許してくれるのか?」

「……あんな凄いの魅せられたら、肯定するしかないよ……うん」

 

 

 

しかし、ナイフを壊されてしまった当の本人は、その事に関し特段思う所はない様だった。

 

分隊長からして、今迄厳重に閉ざされ、硬く、絶対に壊されなかったカタコンベの入口の扉を『ナイフ一本で斬った』と云う前代未聞に、最早ナイフ一本どうでもよくなってしまったのだ。

 

 

 

「そうか、だが、壊してしまったのは本当に申し訳なく思う。この件が終わったらまた新しいナイフをお前にやる。これは約束しよう」

「あぁ……どうも」

「……さて、此処をどう進めばガキ共の居る場所に行ける?」

「え、あぁ……えっと此処を────」

 

 

 

レンノスケと分隊長は前へ前へと進む。

 

分隊長は理解している、彼はまだ……本当の実力を出していない。

 

先程の斬撃も恐らく半分の力も出していない事も理解している。

 

レンノスケの本気を未だ見ていない。故に、恐ろしく思う。

 

アイラ、アリスク、アリウス、そして自分。

 

それらの想いを、レンノスケは憂い、悲しみ、怒っている。

 

 

果てしなく、怒っている……隠しきれない怒気が、敵意が、殺気が……直ぐ傍に居る己にヒシヒシと伝わるから。

 

 

────アリウスの現状を、まだ幼い子供たちの現実を、”怪物”城ヶ崎レンノスケが刮目する、その瞬間と云うのは。

 

 

それは………ベアトリーチェの、明確な【死】を意味する。

 

 

 

「(……今日が、アリウス最後の日に成るのは……確実だな)」

 

 

 

己を運ぶ存在の力を目にし、思ったのは一方的に殲滅されるという事。

 

 

 

「(だけど………それでいいの、かもな)」

 

 

 

正直に言えば、分隊長はアリウスが大嫌いだった。

 

 

季節問わず、冷たい水で体を洗う。

風邪等の病気を引いても、働かなければいけない。

与えられる食料はどれも質素で、最悪カビが生えている事もザラだった。

自分だって苦しいのに、幼い子供たちは泣いて現状を憂い泣き喚く。

ベアトリーチェと云う大人の独裁政治、それは逆らえば死ぬよりも苦しい仕置きの始まり。

 

 

 

「……潮時なのかもしれないな……アリウスは────」

 

 

 

呟く。

 

こんな現状、環境でも生きてしまえる食料は頂いた。でも、いつの日か現れた『聖園ミカ』というトリニティの生徒は、自分達よりも幸福で、生活が楽しそうで、それを見て、己は……心の底から羨ましいと感じた。

 

 

────Vanitas-vanitatum-et-omnia-vanitas

 

 

【全ては虚しい。何処まで行こうとも全ては虚しいもの】

 

 

あぁ、きっと……そうなんだろう。この言葉に、嘘はない。

 

この言葉は、世の真実……きっとそうなんだ。

 

だって…こんな環境、こんな人生、こんな苦痛……虚しいと言わず、何という。

 

 

 

 

「おい」

「っ!な、なんだ?」

「そういえば聞いてなかった。お前、名前は何て云うんだ?」

「な、名前?えっと……────『姫乃(ひめの)シキ』だけど……」

 

 

 

それは、突拍子も無かった問いかけだった。

 

 

 

「姫乃シキか、じゃあ姫乃────お前、俺がベアトリーチェをぶっ殺すと聞いて、どう思った?」

「────……」

 

 

 

突如として、そんな事を聞くレンノスケに驚く……が、真っ先に感じた事は、とても仲間には言えぬ裏切りの言葉。

 

 

 

「………ふひっ」

 

 

 

笑う、笑みが零れる。

 

この後の展開が楽しみで仕方ない。

 

────Vanitas-vanitatum-et-omnia-vanitas

 

でも、この言葉には捉え方次第で強くも成れる。

 

虚しい……嗚呼、そうだ。全ては虚しい。

だけど……それでも、抗う事は、罪ではない。

 

────遅い……気付くのが遅いなぁ。希望が見えて、やっと……そう思う事が出来たなんて。

 

アイラを殺そうとした自分に、こんな事、思う資格何てないだろうに。

 

でも……もう、うんざりだ。楽しいと思ってるのか?クソ野郎……。

 

シキは身体を震わせ、今迄の鬱憤を晴らすが如く「うぎぎぎっ…!」と、踏ん張り、そして……レンノスケの顔を見て、告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────最ッッ高!」

「……ふはッ!」

 

 

 

シキは、二カッと笑い、レンノスケに向けそう発語する。

 

その仕草に、レンノスケは……負けじと、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

 

 

「よく言った…────そんじゃあ、ベアトリーチェは俺に任せとけ……この地獄を終わらせてやる」

 

 

 

進む先は、先ずは子供たちの居る場所へ。

 

 

 

 

 

「……うし、行くぞッ!」

「うん!分かっ……おわぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

レンノスケはそれだけ聞き、脇に抱える力を加え、トップスピ―ドで進む。

 

シキがギリギリ耐えられる速度、ギリギリ喋れる速度で走るが……シキの顔面は受ける風圧で凄い事になっていた。

 

 

 

「あぶぶうぶっぶぶっぶうぶ!!!」

「あん?お前……顔どうしたよ」

「おまっ……べのっ……せ…い……っ!風がッ……ぶびびいぃぃ!!」

「は?……ぷっ、くはは!今のお前、めっちゃ()()じゃねえか。なんか楽しそうだな、お前」

「は!?…く、るす……まじ……でっ!…こ、ろ……す…ころ、しゅぅぅぅ!」

 

 

 

絶対に女子に言ってはいけない発言をしたレンノスケ。

 

シキは、いつの日かレンノスケをぶち殺す事を、決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、シキは数分後に刮目する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

まるで果てのない────怪物の怒りを。

 

 

 

 

 

 

 

■アリスク、先生side

 

 

 

 

 

 

 

”ウオォォォォォォォォォォォオオオン………”

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ……こ、この音は……」

 

 

 

一方その頃、アリスクと先生一派は一休憩を入れながら着々と秤アツコが居る【バシリカ】へと進んでいた。

 

そして、今、自分達が居る街道……その余りにも静かすぎる街道に全員が異常だと察知した瞬間……ナニかの叫び声の様な音を聞き取る。

 

ヒヨリが疑問を問うと、答えたのはミサキだった。

 

 

 

「────”アンブロジウス”の悲鳴……」

 

 

 

場を圧倒する悲鳴。

 

木霊するその悲鳴は……正に悪鬼の如く圧力を放っていた。

 

その悲鳴は一つだけ、残響を残し消えていく。しかし……その圧倒的な叫び声は、アリスクを、先生を、戦々恐々させるには十分すぎた。

 

 

 

「アンブロジウスって……」

「エデン条約の時に使用していた【戦術兵器】……」

「という、ことは────……まさか」

「あ、ぇ……そんな…」

「……複製(ミメシス)は、一度でも成功させればいいだけで……」

 

 

 

サオリが、気付いてしまう。

ミサキが、理解してしまう。

ヒヨリは、絶望してしまう。

 

 

 

「────私達の目的は……『姫を古聖堂に連れて行って複製(ミメシス)を発動させる事』……だけだった?」

 

 

 

ミサキの声は震えていた。信じられない、信じたくない事実に、アリスクの全員が戦慄する。

 

 

 

「じゃあ、なんだ」

「……リーダー」

「私達の、任務は……トリニティとゲヘナの占領作戦は……彼女にとって、全部────どうでもいい事だったのか?」

「ぁぅ……」

「………サオリ」

 

 

 

サオリの声は悔しみに溢れていた。

 

辛く、酷く、悔しそうに、告げていた。

 

 

 

「私達の、今迄は……この苦しみは、この痛みは、この……虚しさは────」

 

 

 

 

『一体、何の意味があったのか』

 

 

 

声は、唐突に響いた。

 

その場に居る全員の耳に、嫌でも入るその声に、アリスクは全身の力が一気に入る。

 

 

 

「はぅ、え!……ほ、包囲されてます!?」

「ッ!ミサキ!!」

「分かってる!」

 

 

 

ヒヨリが敵の存在が居ると叫び、ミサキが先生を護る様に前へと立ち、サオリが即座に己の愛銃を握り、外へ出て敵の存在……ユスティナ聖徒会を撃つ。

 

洗練された一連の動きに一寸の狂い無し。サオリはユスティナ聖徒会の一人を撃ち、ユスティナ聖徒会はスゥ……っと掻き消える。まるで幽霊のように。

 

 

 

「────ッ!数が、多い…ッ」

 

 

 

サオリが数を数える。多くても20は下らないユスティナ聖徒会が自分達を囲っていた。

 

 

 

「……罠か」

「なるほど……私達が此処に来るって、分かってたんだ」

『えぇ、勿論です』

 

 

 

その言に答えるは、アリウス自治区を統じる存在……『ベアトリーチェ』その人。

 

ホログラムで映るその姿は、まるで怪人……無数の瞳が、アリスクと先生を見下す。

 

 

 

「マダム……」

「此処は私の領地。皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで全て把握しています」

「っ……」

『貴女達が旧校舎の回廊に行こうとしている事も、最初から分かっておりました────愚かな子供達、私に隠し事何て不可能なのですよ』

「ひ、ひぃぃぃ……さ、最初から……」

「やっぱり、掌の上だったの……」

「……………」

「えぇ、そうです。貴方達が先程申した通り、貴方達の目的は『ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させる事』────それだけです」

 

 

 

声は淡々としていた。

 

ホログラムに映るベアトリーチェを見れば、薄っすらだが、笑っていた。

 

 

 

『パスは一度接続すれば、次からは私が統制できますので。マエストロは自分の作品が奪われる事に対し大層嫌がっていましたが』

「………」

 

 

 

ただ、静かにベアトリーチェの言葉を聞く。

 

 

 

『まぁ、トリニティやゲヘナの占領何て、私からすれば粗末な事です。この長年の憎悪を統制する為の方言ですから、私自身はあの学園に何の悔恨もありません』

「ッッ!!!!」

 

 

 

その発言は、アリスクを憤らせるには十分すぎる煽りだった。

 

本当に、掌の上だった。その事実が……嫌な程、アリスク全員の胸に突き刺さる。

 

 

 

『────ロイヤルブラッドも素直に生贄として捧げてくれました。貴女は言いつけをよく聞く良い子ですね?サオリ』

「やはり……最初から約束を守るつもりは無かったのか」

『ふん……()()()()()()()()()()()()、私が興味があるのは……えぇ、貴女です────シャーレの先生』

「………」

『初めまして、私はベアトリーチェと申します。もうご存じかもしれませんが、【ゲマトリア】の一員です。通信越しの御挨拶となる事をお許し下さい』

 

 

 

ベアトリーチェは嫌に礼儀正しく、先生に対し自己紹介をする。

 

 

 

『黒服やマエストロ、ゴルゴンダから貴女の事は色々と聞き及んでおります』

「そう……貴女が、ベアトリーチェなのね」

 

 

 

────其処から、ベアトリーチェは意気揚々とアリウスの事を発語していく。

 

 

それは、先生にとって”地雷発言”含まれる悪行の数々。

 

それを必要な事と称し、ベアトリーチェはこの世界の真実に迫ると言する。

 

 

 

『この世界は正体が不明です。理解が一切及ばない、神秘と恐怖が混じった崇高の転炉────先生、私はこの世界の真実を教える事が出来ます。いかがで────』

「黙りなさい」

 

 

 

聞くに堪えない理解不能の発言に、先生の重い一歩がホログラム内のベアトリーチェに迫る。

 

 

 

『っ!』

「私はそんな事に興味はない。誰かの犠牲で到達できる真実ですって?ふざけないで、そんな不条理、この世界(子供達)には必要ないわ」

 

 

 

美しく、強い女性の声質。

 

先生の眼光が鋭利に、ベアトリーチェを射抜く。

 

睨まれたベアトリーチェは……。

 

 

 

『……くくくっ。そうですか……やはり、こうなるのですね。どうやら、私達はお互いに違う真実を信じている様です。ええ────貴女こそ、私の敵対者に間違いはありません』

 

 

 

ベアトリーチェは嘲笑う様な笑みを浮かべ、つらつらと言を並べる。

 

 

 

『くくくっ……どうして子供達の考えはこうも単純なのでしょう。楽園の名前を付けたからと云って、変わる事はありません。寧ろ大人なら、確りとこの様な真実を教えなければいけません……【その楽園こそ、原罪が始まった場所だ】────と』

 

 

 

”ピキッ……”

 

 

 

『真の楽園こそ憎悪、怒り、嫌悪、苦痛、悔恨……そう云ったモノで溢れかえっているのだと』

「ベアトリーチェ」

 

 

 

ベアトリーチェの言葉を遮り、先生の芯の通った声質が辺りを響かせる。

 

 

アリスクが先生の顔を見る……そして、ヒュッと喉が鳴る。

 

その顔は、正に……修羅であった。

 

 

 

「────貴女は私の『生徒』を侮辱した。私の生徒(レンノスケ)を危険に晒した。覚えを、学びを侮辱した……可能性を潰そうとした……私は貴女を絶対に許さない」

 

 

 

怒れる聖人は、己の敵対者である独裁者に向け、そう告げる。

 

 

それは、正真正銘の『宣戦布告』であった。

 

 

 

『────いいでしょう。パシリカで待っております……到達できるのならば、の話ですが』

「………」

『さぁ、先生────不可解な者よ』

 

 

 

ベアトリーチェは告げる。

 

 

 

────”黒服”は貴女を【仲間】と認識し、互いに競え会えると信じ。

 

────”マエストロ”は貴女を【理解者】と認識し、互いに高め合えると信じ。

 

────”ゴルゴンダ”は貴女を【メタファー】として認識し、互いを通じて完成されると信じ。

 

 

 

『そして私は貴女を【敵対者】として認識し、互いに反発すると信じています』

 

 

 

ベアトリーチェは先生を睨み、告げる。

 

 

 

『────貴女は私の敵です』

「────分かり切った事よ」

 

 

 

瞬間、わらわらと群がるユスティナ聖徒会。

 

そして、次の瞬間。

 

 

 

『始末しなさい』

 

 

 

告げ、ベアトリーチェが背を向ける。

 

二人のやり取りは、アリスクの介入を許す事はない程に圧倒的だった。

 

故に、アリスクは少し反応が遅れる。先生がアリスクの皆を呼ぶ。

 

 

 

「行こうッ、皆!」

「ああ!」

「は、はい!」

「……」

 

 

 

サオリが吠え、ヒヨリが緊張しながらも声を上げ、ミサキが無言でコクッと頷く。

 

 

 

アリウス・スクワッドの勇ましい声と共に、激しい銃撃戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこを、右っ!」

「あぁ」

 

 

 

レンノスケは走っていた。

 

シキの案内の元、アリウスの子供たちの居る場所へ向かう。

 

 

 

「そのまま真っ直ぐ行けば着く!」

「ナイスだ姫乃……ふぅ!」

 

 

 

”ドヒュンッ!!!”

 

 

 

更に足の回転を速め、スピードを上げる。

 

シキは段々とレンノスケの速度に慣れてきたのか、最早スピードを落とせと言わなくなった。

 

 

 

「(うぎぎ……くそぅ!腹パンされるから、スピード落とせなんて言えねぇ……ちくしょう!)」

 

 

 

否、ただレンノスケの腹パンが怖いだけであった。

 

 

 

「────む!……あれは」

 

 

 

レンノスケが立ち止まる。

 

何故か、それは……視線の先には、大きな施設の様な建物があったから。そこで道は終わっており、それが終点でもある。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……こ、此処だ」

「む、そうか……此処が、ガキ共がいる場所……」

 

 

 

レンノスケから見ても、妙な雰囲気があった。

 

確かにこの建物の中からは物音がする。どうやら、確かに人間がいるらしい。

 

 

 

「案内ありがとう、姫乃。お陰で迷わず此処まで来れた」

「いや、良いよ別に……その、ありがとう」

「あぁ?んだよ、急に」

「いや……だって、ウチに携帯食料くれたのに、子供達にもなんて……正直、本当に助かったから……」

「それこそ別に気にしなくていい。それが上の命令だし、まぁ……俺の意思でもあるが。ガキ共は腹ァ減ってんだろ?」

「……そうだな。それに、最近は常にこんな状況だから……もしかしたら────」

 

 

 

シキは何か言いかけ、直ぐに口を慎む。

 

何か、言ってはいけない雰囲気だった。それをレンノスケは直ぐに察し、だが、敢えて問わなかった。

 

 

その後の展開が読めたからだ。

 

 

 

「……入るぞ」

 

 

 

”キィ………”

 

 

 

木製の扉を開ける。

 

 

 

「…………クソが」

 

 

 

そこは、正に……悲劇の空間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅ……」

「………ひぐっ、うぇぇ……」

「だ、だいじょうぶ……?」

「おなか、すいた……」

「………おなか、すいたね……グスッ」

「ごはん、まだかな……もう、きょうで……ふつか?なのに……」

「おなかいたいぃ……もう、やだぁ…っ」

「っ……ひぐぅ……うえぇぇぇっ!」

「あぅ………」

「……アイラも、いない……どこいっちゃったんだろ」

「さむぃ……アイラちゃん……もう、なにが、おきてる、の?」

「もう、ここで………しんじゃうの、かなぁ……うぅぅっ…」

 

 

 

”ピキッッ!!!!”

 

 

 

視線の先に広がる、集まって固まる子供たちの集団。

 

人数はシキが言っていた通り12人。多い様で、少ない。そんな人数だ。

 

それはまるで……寒くならないように、おしくらまんじゅうをしている様な、幼い小さき子供たちの痛々しい光景。

 

 

 

”ピキィィッッ!!!!!!”

 

 

 

レンノスケの額に数本の青筋。

 

予想以上の地獄の光景に……レンノスケは怒る。

 

 

 

「っ!お、おい!お前達ッ!」

「へ?」

「?……あ」

「シキねぇだ!」

「シキさん……?」

 

 

 

シキが子供たちの元へと颯爽と走りに向かう。

 

その姿に、12人の子供たちは一斉に立ち上がり、シキの元へ向かう。

 

 

 

「かえってきたんだ!シキねぇ!」

「し、シキさん?…どうして、ここに?」

「色々あったんだ!っ……あぁ酷い!お、お前達、最近いつ食料を頂いた?」

「えっとね……ふつか?まえにたべたよ?」

 

 

 

”ブチィッッッ!!!!!!”

 

 

 

「………ふぅぅぅ」

 

 

 

入り口で深く、溜息を吐く。

 

落ち着け、心を穏やかに、此処で怒っても仕方ない。

 

そう言い聞かせ、レンノスケは子供たちの方へと歩く。

 

 

 

「?……!?ぁ……ひっ」

「し、シキさん……う、うしろぉ……」

「こ……こわい、ひと……いる」

 

 

 

子供たちは全員、レンノスケを見つけた途端……一斉にシキの背に隠れ、怯え始める。

 

流石に全員が全員レンノスケを見ても大丈夫とは言わない。この子達はアイラとは違う。それもそうだ、レンノスケはカンナを超える強面の人間、元々、こうなるのが普通なのだ。

 

 

 

「むぅ……おい姫乃、弁明を頼む」

「ふぅ……いいか?お前達。確かにこの人は怖いし恐ろしいし、何なら確りと恐ろしい悪魔で怪物みたいな人だが、私達を助けてくれる人だ!」

「(コイツ後で腹パンしてやる……)お前腹ァ殴るの決定だ」

「ひぃぃぃぃ!!!」

「あ、しまった……つい本音が」

 

 

 

うっかり本音を漏らしてしまったレンノスケ。

 

しかし、今この場でその発言は……悪手であった。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁん!!!」

「ひ、ひどい…っ」

「シキねぇ……」

「シ、シキさんを、いじめない、で……ッ」

 

 

 

”バババッ!!”

 

 

 

「────む?」

 

 

 

シキがレンノスケの脅しに怯えると同時、子供たちが今度はシキの前に立つ。

 

すると、子供たちは自分達よりも正に倍のサイズを誇るレンノスケに、手を大きく広げ、防衛の姿勢に入る。

 

 

 

「お、おなか、なぐるの、だめ!」

「シキさんは、いじめさせ、ないもん!」

「シキねぇ!は……あたしたちが、まもる!」

「お、おい、お前達……!」

 

 

 

シキの前に立ち、涙目を浮かべる子、涙を流す子に別れるが、全員が全員……シキの前に立って護る。

 

 

 

「ほぉ…………ふっ」

「おい、お前達!止さないか!」

「で、でも……シキさん、いじめられちゃう……」

「だ、だから、大丈夫なんだ!この人は本当に私達を────」

「いい、姫乃」

 

 

 

シキの弁明を遮るのは、レンノスケだった。

 

 

 

「おい、お前まで何を……」

「いいから…………ふむ、中々に良い顔をしているガキ共だ。この俺の前に立つとはな?お?」

「ひぃぃっっ!」

「こ、ころされるーっ!」

「っっ……シ、シキさんは、いじめさせない……ですぅ」

「シキねぇは、あたしたちの……きょーかん、だから……いじわる、しないでっ!」

「(教官?教官って、確か指導とかする立場の……そうか姫乃が……成程、だからこんなにガキどもは必死なんだな……)」

 

 

 

シキに対し、子供たちはを非常に懐いている様子だった。

 

それはシキは子供たちの戦闘訓練の教官だからだ。厳しくも、時折甘く、時折多く食料を与える存在がシキだった。

 

取り調べの時に話してはいなかったが、アイラにとってシキは自分の中でも大きな存在だった。

アツコの様な義理の姉クラスとは謂わずとも、今のアイラがあるのはシキの戦闘訓練の賜物でもあった。

 

子供達の必死の防衛にレンノスケは……そっと、腰を下ろし、視線を合わせる。

 

 

 

「落ち着け、俺は敵じゃない」

「う、うそ!だって……こわいもん!」

「かおこわいぃぃ!」

 

 

 

”ぐさっ……”

 

 

 

レンノスケの心にダイレクトアタック。

 

強面なのは分かっているし、怖がられるのにも仕方ないとも思っているレンノスケでも、面と向かって悪意のない純粋な口撃は、意外と心に刺さった。

 

 

 

「ば、ばかお前等っ!…ち、ちがうんだレンノスケ!こ、これは……」

「だっ………大丈夫だ。俺は気にしてはいない。あー……なぁ、お前等」

”「ひぃぃ!なんかされるぅぅ!!」”

「な、なんもしねえよ………お前等、腹ァ、空かせてんだろ?」

”「……え?」”

 

 

 

レンノスケのその問いに、子供たちは困惑の息を漏らす。

 

 

 

「……っ!────だ、たったら、なんなの?」

 

 

 

12人の中で、唯一フードを被っている子供が、レンノスケに話しかける。

どうやら、この子が他の子供たちにとってのリーダー的存在らしい。

 

 

 

「……悪かった。お前等を怖がらせるつもりは無かったんだ……姫乃も殴らんから、どうか、さっきのは許してはくれないか?」

 

 

 

そう言って、レンノスケは膝を着き、つむじが見える角度まで頭を下げ、謝罪する。

 

こういう時は、普通の謝罪が一番だ。レンノスケはそう学習している。

 

 

 

「ぇ、ぇ……へ?」

「ほ、ほんとに、わるいひと、じゃない?」

「?…このひと、どっかで……」

 

 

 

子どもたちは全員困惑する。その時、シキが発語する。

 

 

 

「お前達、この人は本当に悪い人じゃないぞ……私達を”助けてくれる人”だ」

「え?たす、けてくれる……?」

 

 

 

子どもたちは更に困惑する。

 

見ず知らずの人が、自分達を助けてくれる……なんて、まだ10才も満たない子供たちには余り理解できない事だから。

 

 

 

「まぁ、先ずはこれを見ろ」

 

 

 

その時、レンノスケがバッと、自分の懐に手を入れ、黄色い箱を出す。

 

 

 

「?」

「え……なに、それ?」

「はこ?」

「なになに?」

「みえないよぉ」

「どれどれー?」

「シキ姉、あれ、なに?」

 

 

 

レンノスケが子供たちが見えやすい様に両の手を伸ばし、その箱を見せる。

 

そして、塞がっていない指で器用に箱を開け、中から袋を出し、その袋を破って中身を見せる。

 

それは────食欲をそそる、色付きの良い形をしていた。

 

 

 

”「あっ!!!」”

 

 

 

すると、12人の子供たちの目はキラキラと光り始める。それを食べ物と認識したからだ。

 

 

 

””””────ぐぎゅるるるるぅぅぅ~~~~””””

 

 

 

「ぁ、ぁぅ……」

「………うまそぉ」

「おいしそう~……」

「じゅるっ……」

「ふぅ~……じゅるるっ!」

 

 

 

””””ジィーーーーー……””””

 

 

 

強烈な視線。そして子どもたちのお腹から、空腹の鳴き声が響く。

 

涎を垂らし、そのクッキーの様な食べ物に釘付けにされている。

 

それらをみたレンノスケは、ニヤッと笑い、告げる。

 

 

 

「これはカロリーメイトっていう、携帯食料だ。これを────お前らには食べて貰うぜぇ?」

 

 

 

その発言は、子供たちにとって……正に、希望の光だった。

 

 

 

「え!!」

「こ、これ、たべれるの?!」

「あぁ、食える。すっげぇ美味いぞ」

「や、やった!」

 

 

 

わらわらと、レンノスケの方に集まる。

 

 

 

「おー待て待て、これは後9箱しかねぇ。えーっと、ちょっと待てよ……これは1箱4個入りで、9箱だから……36だろ?んで、此処には12人の子供たt……ガキ共が居て……えーっとー、割るんだよな……あー…36÷12……一人5個か?」

「3だよアホ馬鹿カス暴行マン」

「あぁ3か。流石だ姫乃。後で殺すからな………よし!じゃあオメーら並べ!少ないが、一人3つだ!味わって食えよ!」

 

 

 

”「やったーー!!」”

 

 

 

レンノスケの前に並ぶ子供達。

 

レンノスケは箱を開け、袋を破り、一人に3つカロリーメイトを渡す。

 

子供たちは、その小さな口で頬張りながらカロリーメイトを食べていく。このカロリーメイト、実はチョコレートチップが入っている『味付き』である。故に、ただのカロリーメイトではないのだ。

 

子供達の食べるその姿は、全員が全員素敵な笑みで可愛らしかった。

 

中には、美味しくて美味しくって、泣いてしまう子もいた。レンノスケはアイラも泣く子であったが故、泣く子にはそっと優しく背を摩ってあやしていた。

 

あやされる子供たちも、レンノスケの大きな手に、ふっと心が安らいでいた。この人は本当に良い人なんだって、そう思えたから。

 

シキはレンノスケの呟きに恐怖で震えていた。だが、シキも子供たち全員に嬉しさを分かち合っていた。

 

 

 

 

 

▼数分後……。

 

 

 

 

 

「レンノスケさんってひと、いいひとだね」

「ね!アイラちゃんもたすけてくれたってきくし、すごいね」

「ぼうりょく、ふるってこないし、おいしいのくれたもんね!」

「ねー!」

「シキさんも、なんか、いいひとっていってたもんね」

「シキ姉、まえよりも、なんかやさしくなったきがする!」

「でも、かおはこわいよね」

「ね……まだむと、どっちがこわいかな?」

「あたしは、まだむのほうがこわいかも……おめめ、いっぱいだし…」

「れんのすけ、さん、は……なんか、ふんいき?が、あんしんできるから……わたしも、マダムのほうが、こわい…」

「だ、だめだよ!マダムの、わるくち、いったら……おこられちゃうよ…」

 

 

 

子供達が床に座って集まり、カロリーメイトやレンノスケの事に対して話す中、シキとレンノスケは少し離れで会話をしていた。

 

レンノスケから見ても、子供達の表情を確認して……少しは顔が良くなった、そんな気がして安心している。

 

それはシキも同様で、レンノスケが何かを言う前に、既に愛銃のメンテナンスをしている。

 

 

 

「……姫乃」

「うん、分かってる。行くんだろ?」

 

 

 

行く……とは、此処を離れるという事。

 

レンノスケの一つの目標は達成された。

カンナから指令された唯一の命令は、この場を持って完遂されたのだ。

 

 

 

「あぁ……だから、ガキ共はお前に護ってもらいたいんだ」

「いいさ、元よりそのつもりだし……なぁ、お前は今からマダムを倒しに行くんだろ?」

「あぁ」

 

 

 

そう言うと、シキは懐に手を入れ、ある紙を差し渡す。

 

 

 

「これは?」

「マダムが居る場所、又の名を【パシリカ】────その道の地図だ」

 

 

 

なんと、シキが渡して来たのはパシリカへの地図だった。

 

願ってもない報酬に、レンノスケは目を見開く。

 

 

 

「な、マジで!?いいのか?」

「いいのかって、そりゃあ……だって、お前はこっからパシリカへの道なんか知らないだろ?此処(アリウス自治区)はちょっと複雑な道が多いから、それが有った方が確実だし」

「ッ!すまん!恩に着る!」

 

 

 

レンノスケはシキに向かって綺麗に頭を下げ、礼を言う。

 

キリノとの特訓で憶えた礼儀作法は、ここで生きたのだ。

 

シキはレンノスケの行動に眼を見開き、あわあわとした様子で顔を上げるよう促す。

 

 

 

「お、おい!?なんで礼なんかするんだよ!?これは、お前がくれたカロリーメイトの、私からのお礼だぞ!?」

「人からの御厚意は、確りとお礼を伝えるよう習っている」

「だ、だからって……あぁ、分かった、その礼は受け取るよ…有難く」

 

 

 

そう言われ、レンノスケはシキから地図をもらい、顔を上げる。

 

 

 

「よし……これさえあれば、後はパシリカ?って場所に向かって、アイラの家族を救ってベアトリーチェぶっ殺して、帰ってキリノさんに愛の告白をして、そして俺は晴れてキリノさんと愛し合う恋人になる……あ、やべえ…興奮してきた。ふ、ふふ……くははは!っしゃ!」

「えぇ……キモ」

「ぁ……あの!」

 

 

 

舞い上がるレンノスケとドン引きのシキの前に、一人の少女……フードを被ったリーダーの子が、レンノスケに向かって話しかける。

 

気付けばその他の子供たち全員がレンノスケに注目している。何やら、重要な事を聞く様な雰囲気だ。

 

レンノスケは直ぐに舞い上がる気持ちを切り替え、そっと腰を下ろし、その子供の視線に合わせ聞く姿勢に成る。

 

 

 

「どうした?」

「あ、あの、あの……レンノスケさんは、その……ま、まだむ、を……マダムを、どうするの、ですか……?」

「……此処アリウスから、消えて貰うつもりだ」

”「────!!」”

 

 

 

明確に”殺す”とは言わない。相手はまだ子供、そういうのはイケないと思ったから。

 

レンノスケのその発言に、リーダーの子、その他の子供たちは不安そうな顔を作る。

 

そして、数秒の間を空け、リーダーの子がレンノスケに問う。

 

 

 

「れ……レンノスケ、さんは、マダムを……たおせるの?」

「あぁ、ちょちょいのチョイって感じに倒せる。俺ならな」

「レンノスケの強さはウチも認める。フィジカルはまずヤバいし、何より、ナイフ一本であのカタコンベ入り口の扉をサクッと斬っちまった男だ。マダムなんかスライスにしちまう」

「…………」

 

 

 

シキの言葉は本当だ。

 

あの袈裟斬りにした扉は、レンノスケの実力の3分の1以下の力で行われた攻撃。

 

あれを目の当たりにしたシキだからこそ、言えるこの自信満々な発言は、シキを信頼している子供たちにとっても、信じる他ない言葉だった。

 

 

 

「っ……」

 

 

 

だと云うのに、子供たちの顔色は、余り宜しくはない。

 

 

 

「……言いたい事、聞きたい事があるのなら、俺は喜んで聞くぞ」

「ぁ………っ」

 

 

 

レンノスケは出来るだけ優しく、苦手な高音の声質で問いかける。

 

低い声だと、子供には余り良くはない……何だか、そんな気がしたから。

 

 

 

「れ、レンノスケさんが、マダムを、たおしてくれるのは……わかった……の」

「あぁ、だから────」

「でも……それって、アリウスが……きえちゃう、って……ことなの?」

 

 

 

それは、核心を突く言葉だった。

 

そう、リーダーの子供が言っている事は、酷く正しいのだ。

 

ベアトリーチェが倒される、其れ即ち……アリウスが崩壊するという事。

 

そうなれば、自分達はどうなる?

 

幼き子供たちが疑問に思った事は、酷く、悲しい現実だった。

 

 

 

エリナ(リーダーの名前)……お前」

「………」

「わたしたちは、どうなっちゃうの?……マダムは、きらいだけど……きえちゃったら、アリウスは……わたしたちは、どうなるの……?」

”「ッ……うぅぅっ」”

 

 

 

子供達は自分の小さい手で己の服を握り、苦痛の表情を浮かべる。

 

そして……レンノスケにとって、最も”地雷”である発言を、エリナは告げる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()……でも、レンノスケさんのおかげで、みんな、たすかって、うれしくて……で、でも……でもっ……アリウスが、きえちゃたらっ……わたしたち、どうやって……いきていくの…?」

 

 

 

────いきかたなんか……わからないよ…。

 

 

 

怯え、涙目で訴えかける様にレンノスケに問いかける。

 

レンノスケの前に居る子供たちはまだ幼い子供だ。アイラと同じ8才の子供も居れば、一番下で5才の子供も居る。

 

本来ならこんな残酷な事を想わなくって良い年齢の子供たちなのだ。

でも、想ってしまわせているのが、その元凶であるベアトリーチェ。

 

彼女が作った環境、アリウスは……彼女の命令の元に作られた”洗脳の上に成り立つ依存”だった。

 

ベアトリーチェは『子供たちの考えを消し、選択肢を消し、未来を消した』と云える教育を行った。

 

 

 

 

”プツンッ────”

 

 

 

しかし、それが悪かった。

 

レンノスケは、その事を、理解してしまった。

 

アイラの今までを見聞して、サオリの意思を聞いて、シキの辛そうな表情を見て、そして……自分達の服を握って、泣くのを堪え、レンノスケに自分達は、どうすればいいのか……必死に泣くのを堪えて問いかける、痛々しい幼い子供たちを目にしたレンノスケは────アリウスの現状を、ベアトリーチェの本性を、理解してしまったのだ。

 

 

 

レンノスケの中で、何かが()()()音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

”わしわしわし”

 

 

 

「ぇ……」

「────大丈夫だ」

 

 

 

レンノスケはリーダーであるエリナの頭を撫でる。

 

芽生える感情を抑え、その大きな手でわしわしと、撫でる。

 

 

 

「アリウスは消える。でも……お前達は消えない。絶対に消えない」

「っ!」

「お前達アリウスは、多分、トリニティに保護されるかも知れない。そこは、悪い……俺も勝手な事は言えない。でも、お前達が路頭に迷うなんて事は、絶対にない」

「……ほ、んと?……()()()()()()()()()()

「────あぁ、先ず俺がそんな事させないから、安心しろ」

 

 

 

レンノスケは取り繕った笑みで、エリナにそう告げる。

 

エリナは……そんなレンノスケの発言に安堵する。

ふっと、涙が流れる。溜めていた感情を、エリナは緩く、ゆっくりと出す。

 

 

 

「お前達も、おいで」

「ぇ…」

「あ……いいの?」

「当たり前だ。そんな顔させたまま(ベアトリーチェをブチ殺しに)パシリカに行けるかよ。ほら……俺を助けると思って、ここに来てくれ」

 

 

 

レンノスケの発言に、子供たちはゾロゾロとレンノスケの元へ集まる。

 

 

 

””わしゃわしゃわしゃ……””

 

 

そして、レンノスケは……両の手を使って、一人一人、優しく頭を撫でていく。

 

 

 

「あぅあぅ……にへへ」

「あたたかい……」

「は、はじめて、あたまなでられた……えへへ、なんか、ふしぎ」

「あ、あたまがゆれるぅ~~……」

 

 

 

十人十色、様々な感想が漏れるが、全員が喜びの表情と感情を出す。

 

 

 

 

────エリカ含め、子供たちの心からの緊張が……不安が抜けた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────数分後……。

 

 

 

 

 

 

「なぁレンノスケ……お前、結構あれか?子供とか好きなのか?」

「あ?……なんでだよ」

「は?いや……今のお前の状況見たら誰でもそう言うだろ」

 

 

 

シキの視線の先には────。

 

 

 

「わー!きんにくムッキムキだぁ!」

「がちがちだ!」

「おーぶらさがるー!」

「あー!あたしもあたしも!」

 

 

 

”すっ…”(腕を伸ばして子供を同時にぶら下がせる)

 

 

 

「きゃー!あははー!」

「ぶらさがったー!」

「レンノスケさん!おなか!おなかムキッってして!」

 

 

 

”ムキムキッ!バキバキィッ!”(ノータイム腹筋固め)

 

 

 

「おわぁー!」

「すごいすごーいっ!」

「おなかの、きんにく、ふくのうえなのに、なんかうきでてるー!」

「1,2,3,……わ!8こもある!すごぉい!」

 

 

 

現在、レンノスケはアリウスの子供たちに囲まれ、めちゃくちゃにされていた。

 

腰を下ろし、両膝を地面につけ、子供の言い成りになっている。

 

12人もの子供によるレンノスケへのお触りタイムは、先程レンノスケに向けた『恐れや緊張』は一切なくなっている。

 

誰がどう見ても、今のレンノスケは子供を世話する者だった。

 

 

 

「……なんだよ。別に、俺はガキ共なんか好きじゃねえよ」

「いやいや……えぇ?」

「はぁ、大体俺は、別に子供は好きでも何でもなi……」

「ぇ……そうなの?」

「嘘だ」

「っ!よかった!」

「おい!今お前”嘘”って言ったぞ!流石に今のは言い逃れできねぇだろ!」

「……耳が遠いんだ、最近」

「なぁに言ってんだお前ぇ!」

 

 

 

レンノスケは謎に己の子供に対する愛情を認めない。

 

シキは、そんなレンノスケに対し、何処か聞いた事の有るフレーズを言ってしまう。

 

 

 

レンノスケの謎、それは……不思議と『こども』に好かれるのだ。

 

アイラ基、今のアリウスの子供たちはレンノスケへの警戒を一切持ち合わせていない。この短い、余りにも短すぎる時間でここまで懐かれるのは中々どうして謎である。

 

 

レンノスケが為した事は、主に3つ程だ。

 

 

・2日間なにも食べていなかった自分達に、少ないけど、確かに美味しい食料を持ってきてくれて、食べさせてくれた。

 

・放置していた、今まで自分たちを苦しめていた『ベアトリーチェ』を倒すと、自分達を助けると言ってくれた。

 

・アリウスが崩壊する、その後の事は、必ず何とかしてくれると約束してくれた。

 

 

 

この様な事を伝えられ、最後には自分たち全員の頭を撫でてくれたのだ……懐かない理由が無いだろう。強面の癖に、子供たちに揉みくちゃにされるレンノスケのその表情は、何処か幸せそうである。

 

 

 

「────ふぅ、さて……良い休憩時間だった。もう行かなきゃな……さ、お前等、立ち上がるから、ちょいと距離を空けてくれ」

「あい!」

「うん!」

「はい!」

「せい!」

「むん!」

 

 

 

レンノスケは距離を空ける子供たちを確認し、そのまま立ち上がる。

 

唯一気掛かりだった背中も、常に筋肉を固めていたので、傷が開いて出血するような事態にはならなかった。

 

 

 

「……行くのか?」

「あぁ、流石にな。ガキ共のお陰でいい休憩も出来た」

「ほんとっ!?」

「ほんとにほんとー!?」

「おう、パワー全開だ。ありがとな、お前達」

 

 

 

レンノスケは子供たちにお礼を言う。

 

きっと、こういう所なのだろう……シキは静かにそう思った。

 

 

 

「姫乃、事が終えたらまた此処に戻る。それまで……子供たちを頼んだ」

「言われなくっても、そう言っただろ?任せてくれ」

「はっ……そうだな」

 

 

 

レンノスケはシキから受け取った地図を懐から取り出し、シキと子供たちから背を向け、出入り口に向かう。

 

 

 

「れんのすけさん!」

「おん?」

いくよ?せーのっ!

 

 

 

シキの前に子供たちが出張る。

 

リーダーであるエリカが先頭に立ち、何か、小言で子供たちに告げ、そして……レンノスケに告げる。

 

 

 

 

 

「がんばってー!」

”「がんばってーー!」”

「っ!……あぁ!」

 

 

 

応援を、レンノスケに送った。

 

レンノスケの頬が緩む。

 

子供達の純粋な黄色い声援が、レンノスケを更に強くする。

 

 

 

「直ぐに終わらせる。また、此処で会おう」

「……待っているからな」

 

 

 

その会話を最後に、レンノスケは扉を開け、施設を出て行く。

 

 

そして……出た瞬間────走る。

 

 

 

”ドヒュンッッ!!!!!”

 

 

 

両手で地図を広げ、ベアトリーチェが待つ”パシリカ”へと……走る。

 

 

 

 

 

「……がんばれ、か」

 

 

 

先程の声援が、脳裏に過る。

 

純粋で、可愛い幼い子供たちの応援は、中々どうして嬉しい物か。

 

 

 

「────……だからこそ、許せねぇな」

 

 

 

そんな子供たちの事を想えば想うほど、レンノスケは許せなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────いきるいみが、わからなくなったの……』

 

『────ごべん、なさいっ……ごめん、なざいッ!……ひどいことして、ごべ…なざいっ!』

 

『────こわ、かった!こわかぁた!ほんとに、ごべん、んざいっ…!』

 

『────そっかぁ、うえぇ……わたし、まだいきてて、いいんだぁ…────っ!ふぅぅ!うえぇぇ……』

 

 

 

”ブチッッ!!!”

 

 

 

アイラの発した、数々の慟哭が、脳裏に過る。

 

 

 

 

 

 

『おなか、ずっとすいてて……』

 

『アリウスがきえちゃったら……わたしたちは、どうやって、いきていけば……いいの?』

 

『いきかたなんか……わからないよぉ……』

 

 

 

 

”ビキィィッッ!!!”

 

 

 

 

先程の子供たちの慟哭が、脳裏に過る。

 

 

 

 

応える。

 

 

 

『────たすけて、ください……』

『────たすけて、くれるの……?』

 

 

 

 

【警察】として、応えるしかねぇだろうがッ…。

 

 

 

 

 

「────当たり前だッッ」

 

 

 

 

だって……それは、俺が目指すと決めた道だッ!

 

 

 

レンノスケは走る。目を血走せ、額に多数の青筋を浮かばせながら……駆けて行く。

 

全身に殺意を纏い、明確な殺気を放ちながら、(はし)る。

 

 

 

────レンノスケは怒っている。

 

 

 

最早、キリノを除けば誰にも止められない”怪物”が、アリウスにて”覚醒”した。

 

 

 

「こんなに()()()()()なのは、久しぶりだ……」

 

 

 

────レンノスケは怒っている。果てしなく、キレている。

 

 

 

 

 

「────殺してやるよ……ベアトリーチェッッ!!」

 

 

 

ゲマトリアの一人、アリウス自治区を統じる者『ベアトリーチェ』……彼女は大きな過ちを犯した。

 

 

 

1・レンノスケの命を狙った事。

 

2・その殺害に『幼い子供』を使い、殺戮の道具として扱った事。

 

3・その子供に『生きる意味が分からない』と発言させた事。

 

4・幼い子供たちを『泣かせた』事。

 

 

 

このどれもが、レンノスケにとって”地雷”も”地雷”……一つも踏んではいけないのだ。

 

 

 

 

 

 

────だが、ベアトリーチェはレンノスケ一番の”地雷”を息をするように踏んでしまった……それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5・幼い子供たちを『飢餓状態』にさせ、苦しめていた事。

 

6・恩人で、憧れで、大好きで、愛してる人を……『”キリノ”を命のやり取りに巻き込んだ』事。

 

 

 

 

これが、レンノスケにとって……絶対に、何よりも【踏んではならぬ最悪の大地雷】であった。

 

 

 

 

「楽には死なせねぇぞッ……ベアトリーチェ、お前には────”死すら温い地獄”を味わって貰うッ!!!」

 

 

 

 

 

怪物はパシリカへと侵攻する。

 

 

 

 

 

────幼き子供たちの想いを、背負って。

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

遂に対面せし怪物と怪物。

 

 

 

 




あーあ、怪物くん怒っちゃった。俺しーらね。


はい、此処まできました。後は思う存分、レンノスケの『謎』を明かす為、戦わせるだけです。

もしかしたら皆さん、レンノスケの【神秘】に関して勘付いて居るのでしょうかね?感想でも結構「お!?おお…!」っていう感じで拝見させて頂いていますが、どれをみても「すごいな……」と云う感想しか出ません。考察できる知力が欲しいです。




次回は文字数も大幅に増えるので、少し(結構)投稿は遅れるかもです。



こんな拙い小説ですが、どうか、今後も私の趣味全開の小説にお付き合い下さいませ。


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  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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