怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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一応言います。この作品……終わんないですから!まだ続きますから!




では、本編です。


────愛してる。

 

 

「はぁッ……はぁ、はっ……はぁっ……ふぅッ」

 

 

 

走る、走る……ただ目的地へと走る。

 

 

 

”ジワァァ……ッ”

 

 

 

「っ、チッ、クソ……血を流しすぎた、眩暈が酷い……」

 

 

 

背中から流れ出る出血は、また流れ始める。

 

ドクドクとけたたましい量の血が、背中から流れ出る。

加え、額や脚にも出血が見受けられている。筋肉を硬め、出血を抑えていた筈が、何処からか筋肉が緩み抑えが効かなくなってしまった。

 

だが、一番は無茶をしたからだろう。

 

元々、ヘイロー持ちならあの爆撃で死んでいた。

それをレンノスケは耐え、直ぐに立ち上がりそのままアイラの事情聴取に取り掛かり、そして……大怪我を負った身体に鞭を打ち、アリウス自治区に赴いたのだ。

 

狂っている精神力と身体能力で、彼はこの場に居るのだ。

 

 

………しかし

 

 

 

 

 

 

「────うっぶ、ゴフッ!?ゲっ……ごほ……っ!」

 

 

 

”びちゃっ……”

 

 

 

レンノスケの身体は、既に……限界に達していた。

 

 

口から決して少なくない血反吐が出る。

思わず、足を止めてしまう。

 

地面を見る……まるで塊の血が、池を作って一面に広がる。

 

 

 

「ガハッ……ッ、だろう、な……こうなる事くらい、分かってた……ッ、ゲホッ!!」

 

 

 

呟く。そう、レンノスケは分かっていたのだ。

 

己が無理をすれば、止血していた背中の傷が開く事くらい。

そして、血を吐く事くらい……犬でも分かる、こんな事。

 

 

 

「……止まっている時間は、ないッ」

 

 

 

地面に着け、震えている膝を叩いて止めて、立ち上がる。

 

立て、立て、立て……連呼して、己を奮い立たせる。

 

 

 

「ッ、ギ、がぁぁ!!」

 

 

 

立ち上がる。吠える様に、声を上げて立ち上がる。

 

あの施設に行って、幼い子供たちを助けるんだ。シキが守っている、直ぐに向かわなくちゃ、最悪、アリウスの残党に殺されてしまうかも知れない。可能性は低い、だが、0じゃない。

 

急げ、急げ、己に敢えてプレッシャーをかける。

そうすれば……己はまた、頑張れる。

 

 

 

「────ふぅッッ!!!」

 

 

 

”ドゴォォォォンッッ!!!!”

 

 

 

地面を蹴る。今まで以上の足跡を残して。

 

きっと、これが最後の全力だ。この状態が切れてしまえば……いや、考えるな。

 

そうなった瞬間でも立ち上がれ。俺は強い、そう、俺は強いのだ。

 

そんな思考を巡らせ、レンノスケは歯を食いしばり、全身の筋肉を隆起させる。

 

走る、走る……全力で目的地に向かう。

 

 

 

「ガキ共……頼む、無事で居ろよ……ッ」

 

 

 

心配。少しだけ、それが勝っていた。

 

レンノスケは焦りを見せる。らしくなく、その額に冷や汗を作って。

 

シキ含め、アリウスの子供たちは其れなりに戦えるのを、一目見て分かっている。しかし……同時に、アリウスの生徒達の容赦の無さも知っている。

 

レンノスケの様な部外者に施され、食料を与えられ、ベアトリーチェ討伐に応援をしたと云う事実は、果たしてアリウスの残党たちは何を想うか……想像に容易い地獄だ。

 

 

故に、今まで以上の速度で向かう、1秒間で100mに達するスピードで。

 

早く、速く、迅く……目的地に向かう。

 

 

己の与えられた義務を、全うする為に。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────!」

「────!……、……!」

「………!!」

 

「ッ!見えたッ!あ?……何か、話し声が……」

 

 

 

数分、余りにも速い走行で子供たちが集められてる施設の近くまで到着したレンノスケは、その施設に周辺から何やら話し声が聞こえる事に気付いた。

 

眼を一点に集中させ、施設の出入り口に注目する────其処には……シキと『トリニティ正義実現委員会』の制服を着た複数の生徒が、シキに銃を向けていた。

 

 

 

「銃を降ろして、投降してくださいッ!」

「指示に従わなければ、実力行使で取り押さえさせて頂きます!」

「断る!投降もしないし、此処は通さないぞっ!あんたらなんか、どっかいけー!」

「(あれは、剣先が着ていた制服?なんでそんな奴らが此処に……あぁ、そうか、そういう……いや、まずは────)」

 

 

 

見聞するに、どうやらつい先ほど正義実現委員会の生徒とシキは鉢合わせたらしい。

 

レンノスケは直ぐに圧を出して、シキの方へと近づく。

 

 

 

「────おいッ」

「え?」

「なに……────ひっ!!?」

「あ、貴方は……ッ!」

「はっ!レ、レンノスケぇ!」

 

 

 

呼び掛け、脅す。シキから離れろと言わんばかりの低音で、忠告の意を示しながら睨みつける。

 

レンノスケの姿を見た面々は、それぞれ特有の反応を見せる。

シキは感慨の表情を作り、正義実現委員会の生徒達は……一斉に顔を蒼褪め、怯えだす。

 

リーダーらしき生徒が即座に電子機器に、何やら声を上げ、レンノスケの所在を報告する。

 

レンノスケはシキの前に立ち、告げる。

 

 

 

「状況は……ッ、だい、たい、把握した。あんたら、すまないが銃を降ろしてくれ。シキ、お前も一旦、落ち着いてくれ」

「あ、あぁ……来てくれたんだ────な!?」

「ひっ……血、血がッ!?」

 

 

 

シキと正実の生徒はレンノスケを一望し、その姿を見て、一気に血の気が引いた。

 

レンノスケは、血だらけだった。額に巻かれている包帯は爛れ、ほぼ血で赤く染まっている。

 

更に酷いのは、背中だろう。ヴァルキューレの白い制服の背中一面が真っ赤に染まり、そのけたたましい血の量が流れている事は、誰が見ても分かった。

 

 

 

「お、おまっ、それ……ッ!」

「ゲホッ……あぁ、ちょっとな。だが、問題は、ない……」

「は、はぁ!?な、なに言ってるの!?」

「シキ、子供たちは、あそこか……?」

「そ、そうだけど!今はあんたでしょ!?ちょっ、喋らないでッ!動いちゃダメ!」

「そうか……あぁ、悪いが、黙らない訳には、いかないんだ……気が持たないから」

 

 

 

シキはレンノスケのボロボロ具合を見て、想う。

 

やっぱり、ヘイロー破壊爆弾の残り傷が尾を引いていたんだと。

 

 

 

「これは、仕方のない事だ。悪いのはクソのベアトリーチェ、アリウスの子供たちは、だれ……ゲホッ!!ギッ……ッ、誰、も、悪くねぇ……」

「喋るなって言っただろ!今は、息を整える事に集中してよっ!」

 

 

 

シキが涙目でレンノスケを叱る。

 

心配してくれているのだと、分かった。

何だか、申し訳がないなと、そう思った。

 

 

ふと────視線を感じた。

 

 

感じたその先に、目を向ける。其処は……子供たちの居る建物の出入口だ。

 

 

 

 

”じぃーーー……”

 

 

 

「れ、れんのすけ、さんが……」

「ひぃ……ち、ちが、いっぱいだ……ど、どうしよっ…」

「い、いったほうが、いいのかな……?」

「で、でも、シキねぇが、ぜったいにでてくるなって……」

 

 

 

子供達が、ドアを半開きにして此方を見ていた。

 

心の底から不安そうな顔して、シキを、レンノスケを見つめていた。

 

……レンノスケが、正実の生徒に聞く。

 

 

 

「グフッ……ペッ!……あー、なぁ、あんたら、ちょっとッ、いいか……?」

「はっ……はい!」

 

 

 

レンノスケの問いにたどたどしく返事をしたのは、リーダーらしく子だった。

 

 

 

「ッ、ふ、うっ……あ、あんたらは、先生や聖園を救出する為に、此処に居るんだろ?だがそれだけじゃない。他にも、あるんだろ……理由は?」

「ッ!は、はい!わ、私達はシャーレの先生と聖園ミカ様の救出に当たり、此処に赴いています!加えてアリウス自治区の制圧もその理由ですッ!」

 

 

 

予想通りの返事だった。

 

この隊のリーダーらしき子は、顔は強張っているモノの、落ち着いてレンノスケの問いを正確に答える。

 

それだけ聞き、レンノスケは告げる。

 

 

 

「良かった……先生と聖園は、あっちの方に居る。二人共、大した怪我は、負っていないッ……ゲホッ、ゴホッ!!────……二人共、無事だ」

「────ッ!おいっ!」

「はいッ!」

「私達が向かいますッ!」

 

 

 

リーダーの子が後ろに居る員見て、委員はそれに呼応し直ぐにレンノスケが差した方向へと走る。

 

 

 

「……ッ!!ゴッ、ゲホッ!!ゴフッ……ゴポっ…」

 

 

 

”ベチャッッ……”

 

 

 

「ぁ……」

「レンノスケッ!」

「ッ!救護騎士団の方ッ、至急来てくださいッ!」

 

 

 

また、一段と多量な血を吐くレンノスケに、その場に居る者達は戦慄する。

 

今この場に居る者達がみたのは2度目だが、血を吐いた回数は合わせればこれで3度目だ。

 

最早、血が足りないと、そういうレベルの話ではなくなってきている。このままではミサキが言っていた通り、本当に死んでしまう程、レンノスケはボロボロの状態であった。

 

 

 

”くらッ―――……”

 

 

 

「ッ────……っと、おっ…」

 

 

 

レンノスケの膝が笑い始める。何とか膝に手を付き、倒れる事は防ぐ。

 

限界の更に限界、本来なら死んでいる筈なのだ。

 

最早、こうして立って居られるのも奇跡か……今、レンノスケを突き動かし、意識を保てている大きな理由は『キリノに想いを伝える』……その一点だった。

 

シキがレンノスケの傍に行き、必死に声を掛ける。

 

 

 

「おいっ!確りしろッ!」

「あぁ、すまないな……ちょっと、キツイッ……ッ」

「ばかっ!だから、もう喋るないでってば! おい!あんた、応援はいつ頃来る!?」

()()団長に連絡しました!恐らく壁を破壊して向かってくると思われるので、直ぐに到着する筈ですッ!」

「(壁を破壊……?) いや、いい!分かった!おい!もう直ぐ応援が来るっ!それまで意識保っててくれよ!?」

 

 

 

リーダーの子もレンノスケに近付く。

 

レンノスケがアリウス自治区に向かった理由は委員長である『剣先ツルギ』から聞いていた。なんでも、ヴァルキューレの狂犬こと『尾刃カンナ』が正義実現委員会に伝達したとか。

 

それもあり、レンノスケが己の身を犠牲にしてでも、先生とミカ、そしてアリウスの幼い子供達を救ったという事実があるのは、リーダーの子は理解していた。

 

警察組織に所属している身だから、例外は無いのだが……この男は、レンノスケは……決して死なせてはいけない、それは頭の中で常にあった。

 

アリウスの件もあるが、何より────彼は単独で【キヴォトス全土の治安を”一定まで下げた”】男である。

 

彼無きキヴォトスは、また犯罪行為の絶えない元のキヴォトスに戻ると言っても過言ではない。

 

これは、ゲヘナやトリニティ、ミレニアムのマンモス校に加え、百鬼夜行や山海經でもそう捉えられている。

 

 

戦闘力、影響力ともに、彼は……最強なのだ。

 

 

 

「レンノスケさん、あと、後もう少しの辛抱ですッ!もう直ぐ救護騎士団が到着します!それまで、どうか耐えて下さいっ…!」

「っ、すまないなっ…!げ、う、ごぽっ……」

「ひっ……お、おい、頼む、たのむから……頼むから、死なないでくれよッ!?」

「ふ、ふぅ、っ、ふぅ……あぁ、大丈夫、だ……キリノさんが、俺の、キリノ、キリノ……キリノさんが、居るんだ……死んでたまるかよ……は、はは、ははは」

 

 

 

笑えてくる。

 

大切な人を、思い浮かべる。そうすれば、自分は何度でも立ち上がれる。

 

気が高まる、溢れる。どんなにキツく辛い事でも、耐えられる。

 

 

 

「(……ん?なんだ、視線……あ、あぁ、そうだ、そうだった……)」

 

 

 

視線が強く、レンノスケに向かっている。

 

レンノスケは気付き、そして……か細い声で、発語する。

 

 

 

「……おい、お前達……」

「ぁ、れ……れんのすけ、さ……」

 

 

 

レンノスケが顔をアリウスの子供たちの方へと向け、自分が今できる笑みで、呼びかける。

 

連邦生徒会や先程バシリカで見せた悪魔的な笑みではなく、非常に、優しい笑みで子供たちに呼びかけていた。

 

子供たちはレンノスケの容態に、酷く怯え、心配している。幾ら劣悪な環境のアリウスでも、あんなにボロボロで血だらけな人間を見た事がない故、震えで身が竦んでしまう。

 

しかし、それはレンノスケは分かっていた。申し訳ないと、思っても居た。

 

まだ幼い子供に、今の自分を見せて良い訳ではない事なのは、幾らレンノスケでも分かってはいた。

 

だからこそ、レンノスケは……こう告げた。

 

 

 

 

「────おいで」

”「────っっ!!」”

 

 

 

おいで……と、言って見せた。

 

その言葉は、子供たちに強い力をくれた。

 

震え、竦んでいた身を踏ん張って止め、子供たちは一斉にレンノスケとシキの方へと走っていく。

 

レンノスケも、吐いた血が子供たちを汚さない様、少しだけ走り来る子供たちの方へと歩き、そして……しゃがみ込む。

 

 

 

「お、おいっ!なに動いてっ……お前達も、なんで出て来たんだッ!」

「で、でも、あたしたち……」

「いい、俺が呼んだんだ……怒らないでやってくれ、シキ」

「な、でもお前……ッ、分かったよ」

「悪いな、シキ。だけど、これ位なら大丈夫だ……お、おぉ、っと……」

「れんのすけ!れんのすけさん!だ、だいじょうぶ?ち、ちが、血、いっぱいでっ……」

「やだ、いやだよっ……レンノスケ、しな、ないでっ……」

「はは、大丈夫だ、俺は死なねぇよ。支えてくれてありがとうな、お前ら」

 

 

 

レンノスケは右膝を地面に着け、子供たちの視線に合わせ、問題はないと笑って告げる。

 

子供たちはレンノスケの周りを囲み、全員が心配の声を掛ける。

 

それが、何よりも嬉しかった。心が、何処までも温かくなる想いだった。

 

 

 

「悪いな、お前達に……イヤなモノ、見せて……怖かったか?」

「う、うぅん!」

「ちょっと、こわかった……でも、でも! レンさんが、だいじょうぶって、いってたから、こわくない!」

「わたしも!」

「あ、あたじもっ!」

「……そうか、強い子達だ、お前達は」

 

 

 

頭を、撫でようと目の前に居る子に手を伸ばし……気付く。

 

今の己の手は血に濡れ、汚れている。

 

コレでこの子達の頭を撫でるのは、気が引けてしまった。

 

 

 

”……きゅっ”

 

 

 

「え、おッ……おい、お前…」

「えいっ!」

「なっ、ば、ばか、なにして……」

「へいきだもん!」

「は、え……」

「レンノスケのて、血がいっぱいだけど、いいもん!」

 

 

 

目の前の子、子供たちのリーダーである『エリナ』は、無理矢理レンノスケの躊躇をしていた手を掴み、そのまま己の頭に置く。

 

それをみた子供たちは、余っているもう片方の手も掴み、一人が自分の頭に置く。

 

 

 

「こ、こらっ、血が付いてしまうだろ……」

「いいもん!だいじょうぶだもん!」

「れんのすけさんの手、よごれてない!」

「わたしたちを、たすけてくれた!だから、だいじょうぶ!」

「わ、わたしも、なでてほしい……です」

「わたしも!」

「あたしも!」

 

 

 

ぞろぞろと、レンノスケの両手が子供たちの頭に置かれていく。

 

この光景に、シキと正実の生徒、そしてレンノスケも困惑する。だが、気付けばレンノスケの手は少しだけ肌色が見えて来た。

 

……当然、子供たちの頭は血が付着している。その光景に、レンノスケは酷く申し訳ない気持ちになる……と、同時に、子供たちが自分を気遣ってくれたのだと理解し、嬉しくなる。

 

気付けば、12人に子供たち全員の頭に置かれていた様だった。

 

レンノスケが告げる。

 

 

 

「ふ……ありがとうな、お前達────なぁ……もう一度、撫でさせて、くれないか?」

”「~~ッ!!────うん!」”

 

 

 

一斉に、頷いて了承の意を発する。

 

レンノスケは子供たちの頭を両手を使い撫でていく。

 

子供たちもレンノスケの撫で付けに、心から嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

この笑顔だけで、頑張った甲斐があった……レンノスケは、心の中でそう呟いた。

 

 

 

「悪かったな、もっと……ッ、ふぅ……普通の格好で、帰って来たかったんだが」

「うっ……うぅん!レンノスケがいきてるなら、だいじょぶ!……あ、あの!ま、マダム、は、もういないの…?」

「ん?あぁ、もう居ない。お前達は、これで不要な痛みを負わなくって、済むんだ……」

 

 

 

それを、意味する事は……。

 

レンノスケは、続ける。

 

 

 

「……あんな、人間のクソを詰めた奴から得られるモノは、何もない」

「……レンノスケ」

「もう、怖がらなくっていいんだ。ベアトリーチェは、もうこれ以上お前達アリウスには関わらない。これからは、腹ぁ一杯、飯が食えるッ………お腹が空く事は、飢えで苦しむ事は、もうないッ!」

「っっ……ひぐっ、う、うっ……」

「さっきのカロリーメイトなんか、全然、序の口……俺でもまだ会えてない、美味い飯が、この世界にはある……たっくさん、あるんだッ…凄ぇんだ、この世界は、美味い食いモンが一杯あるんだ……それ以外にも、沢山の、娯楽もある……こんなとこで、苦しむのなんか、勿体ねぇ…ッ……もう、お前達を縛るモノは、なにもないんだっ……」

 

 

 

レンノスケの勇ましいその姿に……子供達、シキ、正実の生徒は目を見開き、黙って聞く。

 

子供たちの中には涙を見せる子もいた。こんな環境で、未来なんかなく、最後には死ぬと云う運命を決められていた……そんな運命を、捻じ曲げられ、希望の未来へと繋げられたのだ。

 

自分は生きて良いんだと、肯定された。それが、子供たちに深く、深く刺さった。

 

シキも、思わず泣きたくなる。解放された、あの独裁者から。

 

子供達が笑っている。今迄のアリウスでは有り得ない光景に、必死に、泣くのを堪える。

 

レンノスケは続ける……だが。

 

 

 

「一緒に、たらふく飯を食おう。あぁ、……お前達、幼い子供は……これから、なんだっ……夢を持つんだ、成りたい自分を、見つけて、それ……で、それで、、そ……れで……────」

 

 

 

まるで、電池が切れたかのように────。

 

 

 

”ドサッ………”

 

 

 

「ッッッ!!!!」

「れ……レ、レンっ……」

「城ヶ崎レンノスケさんッ!」

 

 

 

レンノスケは、うつ伏せで地面に倒れる。

 

 

耐えていた力が、遂に抜けてしまった。

 

 

 

その────瞬間。

 

 

 

”バゴォォォンッッ!!!”

 

 

 

「ッッ!!?」

「な、なに!?」

 

 

 

近くの壁が、壊された。

 

そして、現れる……救世の手。

 

 

 

「────患者は、何処ですかッッ!!」

 

 

 

蒼森ミネの────現着であった。

 

 

 

「ミ……ミネ団長っ!」

「む、そこです────ッ!これは、マズイですね!」

 

 

 

即座にミネがレンノスケの方にドスドスと足跡を作って向かう。

 

シキが子供たちを連れて現場から離れる。流石に、ミネの存在は把握している。

 

 

 

「ッ……これは………ッ、失礼ッ」

 

 

 

”ガバッ……”

 

 

 

ミネが、レンノスケの服を全て脱がす。

 

 

 

「ッッ……なんて怪我ッ!」

「こっ……こん、な……」

 

 

 

ミネの顔が青く、焦りを見せる。

 

レンノスケの背中は……最早、見るも絶えない程の、怪我模様だった。

 

火傷で皮膚は爛れ、血は止めどなく溢れ、抉れていた。

 

誰がどう見ても、重症だ。

 

 

 

「っ、皆さん!時間がありません!城ヶ崎レンノスケさんは、手荒ですが、救護騎士団の車が駐車されている場所まで私が担いで向かいます!その前に、止血を処置せねばなりません!少し、手伝って下さいッ!」

「わ、分かりましたッ!」

「何でもする!子供達、レンノスケの服を持っていてくれ!」

「わ、わかった…!」

 

 

 

ミネの指示の元、レンノスケの応急処置が始まった。

 

 

 

 

 

レンノスケの意識は────既に、途切れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────男、の子……?

 

 

 

…………ん?

 

見た事のない空間に、俺は居る。

 

此処は、何処だ?俺は、何をして……。

 

 

 

────待って、わ、私、こんなつもりは……ッ!ちょっと、レンちゃんに何してッ、きゃぁ!!

 

 

 

……誰か、話してる?

 

あっちで、誰か……あ?誰だ、あの人。

 

眼を向けた先に、俯いている『女の人』が、其処に居た。

 

 

 

────どうして……どうして、皆……私、なんで、こんな目に……ッ

 

 

 

泣いている。心底苦しそうに、辛そうに、泣いている。

 

 

”ドクッ……”

 

 

……何故だろう、目を離せない。心が痛い。あの女の人が泣いていると、心が……苦しくなる。

 

 

 

────お前の、所為だッ……!

 

 

 

ぞっとした。目が合った。

 

俺でもビビる程の形相で、俺を見て来た。

 

眼は血走って、口元は唇を噛んでいるからか、血を流して、泣いて、俺を睨んでいる。

 

 

………何故だろう、俺に、何処か似ている気が────。

 

 

 

────お前の所為だッッ!!!

 

 

 

ッ!

 

眼に負えない速度で接近され、首を絞められる。

 

苦し……く、ない?何故だ?いや、違う、これはきっと……夢なのだ。

 

こんな空間、夢以外にあり得ない。俺とこの女の人以外、全て真っ白な空間何て、夢しか考えられない。

 

……いや、そんな事よりも……何故俺は抵抗しない?

 

する気力が起きない?どうして、されるがままなんだ?

 

この夢は、何なんだ?

 

 

 

────なんで、お前の所為で、私がこんなに苦しまきゃ、いけないの……ッ!

 

 

 

分からない事だらけ………え?

 

お前の、所為?俺の事か?

 

 

 

────死ねッ!死ねッ!死ね死ね死ねッッ!!

 

 

 

絞める勢いが増す。

 

このままだと俺は死ぬ。のに、なんの抵抗もしない。いや、出来ない。

 

 

何故だろう……取り合えず、なんか言ってみよう。

 

 

 

”……まま”

 

 

 

は?

 

 

 

────ッッ……やめてよ、やめて……そんな事、そんなッ!!

 

 

 

今、俺……なに、言って……。

 

 

 

────そんな、ママ何て……言わないでよっ……

 

 

 

絞める力が、急激に下がる。

 

馬乗りになって、されるがままだった俺は、特段苦しくもないのに、深く息を吸う。

 

 

 

────ねぇ……私、どうすれば、どうすれば良かったの……?

 

 

 

この女の人が言っている意味を、俺は知っている。

 

だけど、それが何なのか、分からない。聞いた事は、なんかある、そんな感じだ。

 

やばい、俺、何故かこの女の人には、笑っていてほしい……のに、口が空かない。

 

 

 

────ごめんね……ごめんねぇ……ごめん、ごめんねっ……

 

 

 

抱きしめられる。さっき首を絞められていた時とは違い、温かく、包まれる。

 

 

 

────私が、もっと賢かったら……レン、貴方を……幸せに、出来たはずなのにっ…!

 

 

 

謝っている。俺に、謝っている。

 

 

 

────馬鹿な母親で、ごめん、ごめんねぇ……こんな事しか出来ない親で、ごめんねっ……

 

 

 

急に、地面に置かれる。

 

ダンボールの中に、入れられる。

 

 

あ…………。

 

 

あぁ、そうだ、俺……此処で、目が覚めて、それで……

 

 

 

────幸せに、なってね……レンノスケ…ッ

 

 

 

此処で、俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────はッ……あ、う……ん?」

 

 

 

目を覚ます。

 

視界がぼやけ、意識が少し朦朧とする。

 

一度深く息を吸う……もう一度、吸って、吐く。

 

………あぁ、落ち着いた。

 

 

 

────長い夢を、見ていた。

 

 

女の人に、首を絞められ、謝られ、抱きしめられて、何処かに置かれる夢。

 

字面だけで見たら、可笑しな夢だ。まぁ、夢は大体そういうモノだろう。

 

そう……これも只の夢、そう思いたいのに……嫌に、記憶にこびり付いて仕方ない。

 

あの女の人の言葉が一文一句すべてレンノスケの脳に刻まれる。

 

 

 

「なんなんだ、クソッ……」

 

 

 

寝起きにはキツイ。考えても考えても、答えは出ない。

 

 

 

「一旦、この件は後回し、今は────ッ!そうだ!此処、何処っ……」

 

 

 

見渡す。レンノスケにとって、見知らぬ物が一杯の部屋。

 

近くには見舞い品の花が置かれている。日が差し込んで、今が日中である事は分かった。

 

此処には自分が一人、ベットに横わたり寝ている。

 

 

しかし、最近行った場所に似ている……つまり、此処は。

 

 

 

「病院、か……」

 

 

 

そう、病院の部屋、病室だった。

 

なぜ己が此処に居るのか……それは、直ぐに理解した。

 

 

 

「そうか、俺……倒れちまったんだっけ」

 

 

起き上がり、腕を回す。

 

少し、筋肉が硬くなっている。一体、どれ程の期間己は眠っていたのか。

 

 

とりあえず顎に手を置き、頑張って記憶を辿る。

 

 

 

 

────────

 

 

 

「あー……思い出したわ、全部思い出した。俺って結構ヤベェ状態だったんだなぁ」

 

 

 

能天気に今までの記憶を辿り、腑に落ちる。

 

それもそうだ、あんな怪我を負って、あんなに暴れまわったら誰でもこうなる。

 

寧ろ、生きててよかった。生きてなきゃ、キリノに告白の返し────

 

 

 

「ん?キリノさん……キリノさんに、俺……あ……あーーっ!ヤバい!キリノさんに俺、あー!やっばい!!」

 

 

 

叫ぶ。大事なことを忘れていた。

 

そう、レンノスケはキリノの返事を返さなければいけない。

 

因みに返答は決まっている。直ぐに伝えなければと、レンノスケは意気込む。

 

 

 

……待て、まだ何か、重要な────ッ!!シキに、ガキ共ッ!あいつ等はどうなった!?アイラも、キリノさんが見ていてくれている筈だが、今は!?

 

 

 

気になる事を思い出し、焦燥に駆られる。

 

こんな所で寝ている場合ではない。そう思い、レンノスケは行動に移す。

 

 

 

「クソッ!こうしちゃいられねぇッ!あ!?なんだこのチューブ、邪魔だっ!」

 

 

 

”ブチブチぶちっ!”

 

 

 

レンノスケは腕に装着されているチューブを全て外す。

 

 

 

「うおぉぉ!今から行くぜキリノさんッ!そして、ガキ共ッ!待っていろよッ!」

 

 

 

愛の言葉を叫びながらドアに接近し、そのままドアに手を掛け、レンノスケは廊下へと出る。

 

 

 

 

 

「────え」

「────む?」

 

 

 

そのまま何処かにあるであろう出口に向かおう考えていた時だった

 

ドアを開ける。すると……己の目の前に、人が立って居る。

 

 

 

 

 

「あ────キリノさんっ!」

「レ……レン、ノスケさ……」

 

 

 

そう、其処には……キリノが居た。

 

まさかまさかの想い人の登場で、レンノスケは段々と笑みが溢れていく。

昔よりも笑顔が格段に増えた気がする。これも、キリノのお陰なのか。

 

レンノスケは直ぐにキリノに近付き、発語する。

 

 

 

「キリノさんっ!キリノさん!俺、俺も好きだっ!大好きだ!」

「────」

「く、ははっ!やっと言えた!いや、いつも言ってんだけど……なぁ!俺、キリノさんに俺の気持ち、受け取って欲しくって、結構頑張ったんだ!」

「────……」

「だから、えっと、その……俺とキリノさん、これで恋び────」

 

 

 

恋人で、良いのか……?

 

そう、告げようとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ぎゅっ”

 

 

 

「……うぇ?」

「────っ、ふ、う、ぅぅ……ぅぅ……」

 

 

 

キリノがレンノスケに、抱き着いた。

 

これは答えなのか?恋人に成りましょうと云う意味で捉えて良いのか!?

 

レンノスケの脳内が自問自答を繰り返すが……それは大間違いであると、気付く。

 

 

 

「ふぅ、う……うえぇぇっっ……」

「キリノ、さん………」

 

 

 

だって、今、己が告白をした想い人は、泣いている。

 

己に抱き着いて、己の胸に蹲って、身を震わせて泣いている。

 

嫌でも分かる。これは、キリノが泣いている理由は……己にあると。

 

 

 

「ひぐっ!う、うぅぅ……れんのしゅけ、さんっ……レンノスケっ、さんっ……!」

「………うん」

 

 

 

レンノスケは抱き返す。

 

何も云う事が思いつかない。どうすれば、キリノを笑顔にできる?

 

思いつかない。今の彼女には、きっと、言葉はいらないのだ。

 

 

………こうして、生きて、起きて、動いて、想い人と抱き合う。

 

これだけで、キリノは……もう一杯一杯なんだ。

 

 

 

「うえぇぇっっ……ひぐっ、すんっ……う、うぅぅ、うえぇぇ……」

「────すまない」

「ッ!……う、うぅぅぅっ……ひぐっ……レンノスケェ、レンノスケ……!」

「すまない、キリノさん……心配、掛けさせちゃったみたいで、本当に……すまない、すまない……」

 

 

 

”ギュゥゥッ!”

 

 

 

キリノの抱きしめる力が増す。

 

レンノスケも少しだけ強く抱きしめる。いつも通り、キリノが苦しくならない程度の強さで。

 

 

キリノは泣き続ける。

 

本当は、叱ってやりたかった。

なんで無茶をしたんだと、問い詰めたかった。

約束を破って、カンナと自分の命令を無視して、身を削って無理をして。

叱ってやりたかった。頬っぺたを摘まんでやりたかった。もう無茶はしないと、今この場で約束させたかった。

 

 

……でも、こうして元気よく起きて、笑みを浮かべている想い人を見てしまえば……全て吹っ飛んでしまった。

 

2日は目を覚まさなかった。峠は越えても、予断を許さない状態だった。

 

救護騎士団のトップであるミネを始めとした、セリナ、ハナエ、その他の優秀な団員を動員し、レンノスケは一命を取り留めた。

 

あんなに慌ただしい日は、エデン条約調印式爆破テロ以来だったと聞く。

 

キリノはミネから聞いた。あの出血量は生きているだけで不思議な程だと。

後少しでも処置が遅れ、手術を行わなかったら、間違いなくレンノスケはもうこの世にはいなかったと。

 

 

気が可笑しくなるかと思った。アリウスに突入する前まで、あんなに元気だったのに、彼は自分達が思っていた以上の無理をしていたんだと知ったから。

 

責任が、後悔が、キリノを襲った。やはり行かせるべきではなかったのではないかと、そう思ってしまった。

 

でも、それは直ぐに否定した。いや、否定しなければいけなかった。

 

アイラだ……レンノスケはアイラの想いを背負って、死地に向かったのだ。

 

これを否定してしまえば、レンノスケの覚悟を、アイラの想いを、全て否定してしまう。

 

それだけはダメだった。だから、己はレンノスケに『無事に帰って来て』と、そう伝えたのだ。

 

 

………キリノは、何だか腹が立ってきた。

 

 

 

「ごめん、ごめんなぁ……俺、迷惑かけてばっかで……」

「………………おばか」

「え?」

「おばか、おばか、おばか………っ! レンノスケの、おばかぁ!」

「いぃ!?」

 

 

 

顔を上げ、レンノスケを罵倒するキリノ。

 

涙を流し、鼻水を垂らして、そう告げるキリノに、レンノスケは少しビビる。

 

しかし、キリノはその状態でレンノスケに告げる。

 

 

 

「なにが、なにがっ!ごめんですかぁ!こんな、こんな大怪我して、無理して……私が……どれだけ、心配したと、思っているんですかッ!」

「い、いや、あの、それはもう……ほんとそうで……」

「もう、もうっ!もうっ!! レンノスケ!」

「は、はいっ!」

「……好き」

「────え」

 

 

 

泣き顔で、いきなり告白をするキリノ。

 

レンノスケの思考が追い付かないが、キリノは立て続けに告げていく。

 

 

 

「好き、大好きです……大好きっ……」

「…………あ」

「貴方の事が、大好き……可笑しくなる位に、私は……レンノスケ、貴方の事が大好きです!」

 

 

 

……ダメだ、嬉しい。

 

ヤバい。言葉が出ない。

 

ッ……泣くな。堪えろ……男が泣くなんて、みっともねぇ。

 

 

 

「私っ、もう、ずっと貴方の事考えちゃってて……朝も、昼も、夜も一緒に居て、それでっ……貴方はいつもいつも、私に告白して来て、私の事を見て……いつの間にか、私、貴方の事しか考えられなくなっちゃったんですからっ!」

「……………」

「もう、もう!こんな気持ちにさせて、貴方と云う人は……っ!んーーーっ!!」

 

 

 

キリノはまたレンノスケの胸に顔を埋め、グリグリと頬ずりする。

 

 

 

「っ……起きて、良かったです……」

「……………」

「このまま、起きないんじゃないかって、そう思えば思う程、苦しかった……だから、こうして温かい貴方と触れ合える事が出来て、そ、その……嬉しいんですからね?」

「……………」

「?……あ、あの、レンノスケ────あっ」

 

 

 

 

 

 

 

想い人の純粋な愛の言葉に。

 

愛を知らぬ子供が、耐えられる訳が、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

”ボロボロボロっ……ポロ、ポロ……”

 

 

 

 

 

「ッ………く、う……」

「な、な!?え、ど、どうして!?」

 

 

 

怪物の目から涙。

 

キリノのみならず、レンノスケも泣いてしまう。

 

目を薄く閉じ、キリノを見下ろしながら涙を流すレンノスケ。

 

その涙は、キリノの頬に落ち、綺麗に頬を辿る。

キリノはどうしてレンノスケが泣いているのか分からない。もしかして、痛むのか?そんな嫌な予想が脳裏を過り、キリノは急いでレンノスケにどうしたのか問うとした瞬間……レンノスケがキリノを抱く力を強くする。

 

 

 

「きゃっ……あ、あの、レンノスケ?」

「ごめん……俺、思ってた以上に、泣き虫みたいで……」

「……そうですね。ふふっ、えぇ、レンノスケさんは感情が豊かですから」

「……俺も、好きだ……キリノさん、おれッ、おれ……好きだ」

「はい、私も……大好きです」

「う、うぅ…………キリノさん、おれ、俺ずっと、ずっと、ずっと……辛くてっ……誰も、俺を助けてくれなくって……苦しかったんだ…ッ」

 

 

 

隠していた、いや……自分でも知らなかった16年間の感情が、此処に来て溢れ出す。

 

一人だった。誰も助けてくれなかった。

 

誰も己を好きに何てなってくれなかった。

 

辛くない筈が、ないんだ。

 

レンノスケの涙に、キリノは流れていた涙が一気に引っ込む。

 

今の彼は心身ともに疲弊しているのだ、それを理解しているキリノは、直ぐに顔を引き締め、レンノスケに……ありのままの想いを告げる。

 

 

 

「────大丈夫です……私が居ます。これからは、ずっと、ずっと私がレンノスケの隣に居ます」

「ッ! ふ、う、ぅぅ………ありがとう……おれ、おれっ……幸せだ……世界一、幸せだっ」

「っ……ふふっ、もう……貴方と云う人は」

「ご、ごめん……俺、おれっ……キリノさんに会えて、良かったって、思って……おれ、嬉しくって、嬉しくって……ごめん、情けなくて、ごめん……」

「情けなくなんかないですよ、レンノスケ。ほら、涙拭きますよ」

「っ……ありがとう」

 

 

 

レンノスケの止めどなく溢れる涙を、キリノは己のハンカチを目元まで運び拭う。

 

その、最中だった……レンノスケが、キリノの所作を止める発言をかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────愛してる」

「………え」

 

 

 

レンノスケの、その言葉に……キリノは、全ての動きが止まる。

 

 

 

「俺、キリノさんを……愛してる」

「は、え……そ、それは……」

「好きだ、大好きだ、ずっと好きで、愛している……あぁ、愛おしい……こんなにも、愛おしいんだな……貴女は」

「ちょっ、ま、って、え!?は……へぇ??」

 

 

 

”ギュウゥゥゥ!!!”

 

 

 

「きゃあっ……ちょっと、苦しい……れ、レンノスケ?」

「可愛い……可愛いよ、キリノさん」

「あ、あうあう、うぅぅ……/////」

「俺も、呼び捨てで言いたい。いいか?」

「え……あ、は、はい……それは、もちろん……です」

 

 

 

瞬間、レンノスケは耳元まで顔を近づけ、キリノの耳にそっと、囁く。

 

 

 

「────キリノ」

「ひゃうぅぅ!??」

「────愛してる」

「は、ふんっ………」

「────あぁ、誰よりも、俺は……貴女を、キリノを、愛している」

 

 

 

攻守交代が激しいが、今は圧倒的にレンノスケが攻めている。

 

聞く人が居れば背中が痒くなる言葉を恥ずかしげもなく連呼し、キリノを色んな意味で悶絶させる。

 

 

 

「大好きだ。優しく、強く、愛おしい貴女が、俺は心から……大好きなんだ」

「ちょっ、い、言いすぎ、も、もう、これ以上は……」

「キリノ」

「ひゃ、い……」

 

 

 

────俺と、付き合ってほしい。

 

 

 

その言葉は、更にキリノを停止させる。

 

 

 

「は、あ…………」

「俺、頑張る。キリノに恥じない男になるように、頑張る。勉強も人の倍して、もっともっと賢くなって、それで、今以上に誰よりも強くなって、貴女を、キリノを守る”彼氏”になる」

「あ、あぅぅぅっっ……!」

「……どう、だろうか?そ、その、俺……キリノには、迷惑ばっか掛けて、みっともないけど……俺、キリノと、恋人に成りたいんだ」

 

 

 

レンノスケの告白に、キリノは────

 

 

 

「────おばかっ……」

「え?」

「レンノスケの、おばかっ………あんな、愛してるだとか、好き放題言って……今更『付き合って欲しい』なんて……順序が酷いですよ」

「すま、ない……俺、こういうのは、分からなくって……」

「……だから、私も好きに成ったのでしょうね……レンノスケさん、ちょっとだけ、抱きしめる力を弱くして頂いてもいいですか?……はい、ありがとう御座います。それと……顔、近づけて?」

「えっと……どうし────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”チュッ……”

 

 

 

「………!?!?」

「ん、ぅ………」

 

 

 

説明しよう。

 

キリノがレンノスケに少し抱き着く力を弱くしてと言い、レンノスケはそれに従って何だ何だと思って様子を見ようとした瞬間、キリノがレンノスケの『唇に己の唇を合わせた』のだ。

 

 

所有────キスである。

 

 

 

「っ、はっ……ふ、ふふふ!」

「へ、へ、あ、え、え、え、ぴ?」

「キス、しちゃいましたね……?」

「は、え、お。俺、おれ、オレ、今、キ、キキッ、キリノさんと、きちゅ、した……?」

「ふふっ、はい。レンノスケと私はキスしました。これは『恋人同士』じゃなければ出来ない行為ですよ?」

「ふぁへ、ほ、、へ……」

 

 

 

互いに顔を真っ赤に染めるも、キリノとレンノスケでは大きな違いがある。

 

端的に言えば、キリノは少しだけ余裕を見せて、レンノスケをメスの顔で見上げている。

逆にレンノスケは目の焦点が定まらない程、めちゃくちゃテンパっている。

 

 

 

「レンノスケ」

「は、はひっ……」

「────私も、愛しています」

「は────」

「これからは”恋人”として……宜しくお願いします!」

 

 

 

最後に、レンノスケに向けてとびっきりの笑顔を作り、そう発語した。

 

 

 

そんなキリノに、レンノスケは────

 

 

 

「────」

「……あ、あの?」

「────」

「レ、レンノスケ……?」

「────」シーン……

 

 

 

気絶してしまったのだ。

 

 

 

「え、えぇ!?レ、レンノスケ!?も、もしかして、気絶して!?え、立ったまま!?」

「────」チーン……

「あ、あわわわ……ど、どうしましょ、え、えっと……だ、誰かー!」

 

 

 

何とも締まりの悪い恋人の成立か、しかし……レンノスケとキリノは、結ばれたのだ。

 

レンノスケは……これでやっと、己が夢見た幸せの道への第一歩を、歩めるのだ。

 

 

 

 

これにて、エデン条約編基……レンノスケ、キリノへの告白大作戦編は終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いや、凄まじいモノを見たよ、うん」(先生)

「ま、まるで、映画のワンシーンの様な瞬間でした……」(ミネ)

「……まさか、あの怪物があの様な女の子が好きだったとは……未だに信じられませんね」(ハスミ)

「け、ケケッ、きひゃぁああぁあ……//////」(二人の熱に当てられたツルギ)

「……公共の場、しかも病院の廊下で何やってんだ、あのバカ共は……」(カンナ)

「局長、ヤバい、ドーナツを食べるスピードがエグイんだけど。贈り品なのに全部食べちゃいそうだよ」(フブキ)

「知らん」

「そんな事言って姉御、其の手に持つブラックチョコ何個目っすか?あの二人を眺めている間ずっとたべてませんでした?」(コノカ)

「……知らん」

「はぁ……顔が熱いわ」(ヒナ)

「ヤベェ、心臓めっちゃドキドキした……」(ネル)

 

 

 

 

二人の邪魔をせず、終わるまで待機していた人たちであった。

 

 

 

 





Q:なんでトリニティに『ヒナ』と『ネル』が居るの?

A:先生がレンノスケの現状を伝え、真偽かどうか確かめる為。プラス、正直ちょっと心配だったから。




無事、此処まで来れました。長かったです。


これからは少し、外伝として日常パートを執筆していこうと思います。

主にキリノとの”いちゃLOVEセッ”を執筆し、時折レンノスケの謎を提示したりと、色々です。


ぶっちゃけ此処から先は本当に日常パートしか執筆しないので、本編の『カルバノグ編』や(やるか迷ってる)『パヴァーヌ編2章』はだいぶ先になる予定です。






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  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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