怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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一週間も掛かっちゃいました。てへぺろ、キリノちゃんをレロレロ。



まさか、こんなに色々な方に見て頂けるとは思っていませんでした。
やっぱり皆さんキリノちゃんの事好きなんすねぇ!



では、本編です。




中務キリノによる取り調べ!

 

 

 

 

 

 

■ヴァルキューレ警察学校、取調べ室。

 

 

 

 

城ヶ崎レンノスケside

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

俺は今、キリノさんの学校にある“取調べ室”……と云う部屋で一人座っている。

真ん中に一つのテーブルがあり、お互いが向かい合うような形で椅子が設置されている。

辺りを見渡せば、目の前の壁に窓が設置されており、そこからキリノさんの上司らしいカンナって奴と、俺を撃ったオレンジ髪の小さい奴1号と、コートを羽織った風格が凄い白髪の小さい奴2号と、様子が妙な黒髪の奴が俺を見ている。

全員が中々に強烈な視線を俺にブツけている。恐らく、俺の監視なのだろう。取り合えず俺も睨み返す。あ、怒った。

 

取り調べ……初めて聞いた言葉に、俺はそれがどういう意味なのか分からなかったが、優しいキリノさんが馬鹿な俺にも分かり易く教えてくれた。素敵だ。

どうやら、警察の人が俺に何かしらの質問をして、それを俺が答える……と云ったモノらしい。

 

キリノさんと別れて、ほんの少し経った時………音の無い空間に聞き慣れた音が響いた。

 

 

 

“グゥゥゥゥ~~~…………”

 

 

 

「……お腹、空いたな…………」

 

 

 

お腹をさする。今日3度目の空腹音が鳴った。

キリノさんから一つドーナツを頂いたというのに、未だ俺の腹は食を求めている……欲が深い自分と無駄にデカいこの身体に嫌気が差す。

 

……未だに空腹は苦手……と云うより嫌いだ。この空腹の合図音が鳴る度、しんどくて、辛くなって泣きそうになる。

どれだけ頑丈でも、どれだけ強くなっても………食料を摂らなければ、人は生きていけない。

 

この16年間で、殴られたり蹴られたり撃たれたりで、大変だった時があって、今までこうして生きて来たけど………空腹の時が俺は一番────辛い。

 

 

 

────そんな事を考えていた時だった、扉が開いた。

 

 

 

「し、失礼します!」

「ッ!……キリノさん」

 

 

 

扉を開けたのは、キリノさんだった。

姿を確認した瞬間、俺は彼女の事しか目に入らなくなった。

 

 

 

 

……ああ、やっぱりだ。キリノさんを見ていると────胸がドキドキする。

 

 

 

 

あの時、キリノさんと会って……俺の中で、何かが起きたのは理解している。

初めて、可愛いと思った人。初めて、俺に優しくしてくれた人。初めて、俺に美味しい食べ物をくれた人……。

 

 

 

「えっと……レンノスケさん?」

「……え?あ……い、いつの間に……」

「ずっと声をかけてたのですが……車の移動も含め、かなりお疲れの様ですね」

 

 

キリノさんに声を掛けられて、その綺麗な目が俺の目と合い、意識が現実に戻る。キリノさんはいつの間にか俺の目の前に座っていた。

駄目だ……ドキドキが加速して目を合わせられない。体全体が熱くなって緊張もしてきた。汗も酷い。

 

 

 

こんな状態、初めてだ……もしかして、何年か前に、雑誌で見た、あれ……なのか?だとしたら……。

 

 

 

「(……いつ、言おう……いや、まずは冷静に────ん?)」

 

 

 

一度落ち着く為に、視線を下に向け呼吸をしようとして────あるモノが目に入った。

 

 

 

「……?あの、キ、キリノさん……これは?」

「ふふっ!ようやく気付きましたね。これはヴァルキューレが何時もお世話になっている御店のカツ丼です!」

「かつ……どん?」

 

 

 

テーブルに置かれたモノは、キリノさんが言うには……カツ丼という料理らしい。

お皿の上に卵とお肉が乗っていて、どうやらその下には米があるらしい。

 

 

 

「凄く、良い匂いだ……」

 

 

 

見ても分かる。匂いでも分かる────絶対に美味しいやつだ。

食べたい、食べてみたい……そんな欲深いモノが、俺に襲い掛かってくる。

 

だが、俺は既にキリノさんからドーナツを頂いている。これ以上はないだろう。

 

つまり、このカツ丼という料理はキリノさんの物だ。

キリノさんが食べ物を食べる瞬間を見れるんだ。それだけで、お腹が一杯になる筈だ。

 

 

 

「……?えっと、食べないのですか?」

「え?」

「へ?」

 

 

 

キリノさんが困惑の声を上げ、当然俺も困惑を見せる。

 

そして気付いた────カツ丼は、俺の目の前に置いてある事に。

 

 

 

「……このカツ丼は、キリノさんの物じゃ、ないのか?」

「ええ!?ち、違いますよ!もう……いいですか?これは貴方の物です!」

「あ、え……?い、いや……待って、くれ……お、俺、キリノさんにはさっき、ドーナツを貰って……もうこれ以上、迷惑は────」

 

 

 

“グゥゥゥ~~~……ギュゥゥゥ~~~……”

 

 

 

「あ……」

 

 

 

今日4度目、そして一番デカい音量の空腹の合図が鳴った。

目の前のカツ丼の匂いが、その食べたいと思わせる見た目が、俺の腹を鳴かせる。

 

 

 

「……やっぱり、一週間なにも食べずにドーナツ一つだけじゃ、絶対に足りないだろうなとは思っていたんです。現に今、とても大きな腹鳴をしましたからね……ふふっ」

 

 

 

手を口元に添え、とても上品に微笑むキリノさん。口には出せないが、本当に可愛い。

 

どうやらキリノさんは、俺がドーナツ1個だけじゃ足りない事を案じて、既にカツ丼と云う料理を……俺の為に、用意してくれていたみたいだ。

少し思う。キリノさんは……どうして、俺にここまでしてくれるのだろうか、と……。

 

そんな事を考えていると、キリノさんが話しかけてくれる。

 

 

 

「まずはこのカツ丼を食べて、それから事情聴取を始めます!あ、ゆっくりで大丈夫ですからね!お水もありますから────」

「……あ、ありがとう……キリノさん」

 

 

俺は目の前に置かれたカツ丼の器を両手で手に取り、見つめる。

 

……どうやって、食べるんだ?この……小さい棒?を使って、食べるのだろうか……?

 

 

 

「……レ、レンノスケさん?どうなさいました?」

「え、えっと、すまない……この、棒?は……どうやって、使えば……いいんだ?」

「────え」

 

 

 

俺の問いに、キリノさんが固まる。

どうしよう……また、迷惑を掛けてしまったかもしれない。

 

 

 

「レンノスケさん……もしかして、箸を使った事がないのですか……?」

 

 

 

はし?────そうか……これは、箸って言うんだな。

嬉しい。また一つ、キリノさんから学べた。

 

 

 

「ああ…その、箸……という物は、使った事がないんだ。食べる時は────いつも素手で食べていたから」

「………そんな」

 

 

 

キリノさんがとても驚いた顔を見せる。俺が手で食べていたから……だろうか。

外では、この箸という道具が主に使われているのだろうか?

 

不意に視線を感じ、前を向いた。

そこには、さっきとは違う、何か苦いモノを嚙み潰した様な表情の4人が、俺を見ていた。

 

まあ別に気にする様な事でもないから、構わずキリノさんに目を向けると……何故か、キリノさんが目を見開いて、辛そうな顔をしていた。

 

 

 

「……………」

「……キリノさん?」

「──あっ、す、すみません!その……箸の、使い方ですよね。ま、まずはこうして────」

 

 

声尾を掛けると、キリノさんは一瞬顔を硬くするが、また柔らかい顔付になった。

 

キリノさんが俺の元へと近づいて、箸を手に取り使い方を教えてくれる。

ひょいって、慣れた様な手付きでお肉を掴んだ。

凄いな……簡単にお肉を掴んだぞ。キリノさんは器用なんだな。

 

感心していると、キリノさんが俺に箸を手渡してくれる。

 

実際にやってみると、結構難しい。いきなりキリノさんみたいに上手くはいかなかった。

何回かやって、ようやく肉を掴めた。力の下限が難しく、プルプル震えて今にも落ちそうだ。

 

 

 

「キリノさん……こ、こうか?」プルプル……

「はい、とてもお上手ですよ!初めてとは、とても思えません!では、次はそのままパクっと!食べてみましょう!」

「わ、分かった……」

 

 

 

キリノさんに告がれ、箸で掴んだ肉を口に運び咀嚼────世界が、変わった瞬間だ。

 

 

 

「お!美味しい!あの、キリノさん!これ、凄く美味しい!」

「────ッ!そ、そうですか!お気に召した様で良かったです!」

「あ、あの!これ、全部……食べても良いのか?」

「もちろんです!貴方の為のカツ丼ですから……どうかお気になさらないで、全部食べちゃって下さい!」

 

 

 

キリノさんから問題ないと言われ、俺は箸と云う物を使って夢中になって食べた。

ドーナツとは違って、お肉の味と米の食感が口全体に広がって、凄い美味しさで、心から嬉しい気持ちになった。

 

 

「す、凄い食べっぷりです……」

「────ッ!ぐふっ!ゲホッ!!ゲホッ、ごほっ!!」

「ああっ!」

 

 

喉に米粒を詰まらせてしまった。咳が出てしまって、何粒か吐き出してしまった。

勿体無いし、キリノさんから頂いた料理を少し無駄にしてしまった気持ちがあって、申し訳ない気持ちだ。

 

すまない……と、キリノさんに謝らなきゃって、そう思った瞬間────キリノさんがこっちに駆け寄って来て……あの時の様に、優しく背中をさすってくれて、コップに入ったお水を俺にくれた。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか!?ほ、ほら!お水です!」

「ゲホッ!……あ、あり……がとう…キリノさん……んっ、んッ……」

 

 

 

お水を頂いて、水の美味しさに吃驚して、でもまずはキリノさんにお礼と、謝らなきゃって思い、口を開いた。

 

 

 

「……大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ……ごほっ…キ、キリノさん、その……お水をくれて、ありがとう、本当に助かった。それと、すまない……米を、少し無駄にしてしまって……俺、かつどんが、本当に美味しくって……」

「ふふふ、いいえ!気にしないで下さい!美味しいですよね、このカツ丼!時間はまだありますから……ゆっくり落ち着いて、食べて下さい」

「……うん」

 

 

 

キリノさんの優しい物言いに、また泣きそうになるが、何とか堪える。

今度はゆっくり、落ち着いてカツ丼を食べていく。本当に、美味しい。

 

 

キリノさんは俺が食べている所をジッと見て、優しく微笑む。

 

何だか恥ずかしくて、視線を下に下げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■監視side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 

 

取調べ室、その窓越しにある監視部屋にて……カンナ、ツルギ、ネル、ヒナの4名は誰一人として喋らず、これまでの二人を見ていた。

 

 

 

「────皆」

 

 

 

そんな沈黙の空間を、一人の女性が破る。

 

監視室のドアを開け、進入してくる人物は────連邦捜査部シャーレ、その顧問である【先生】だった。

 

 

 

「お、先生じゃねえか!」

「こんにちは、先生」

「あ……こ、こんにちは」

 

 

 

ネル、ヒナ、ツルギの順で先生に挨拶していく。

先生は挨拶を返しながら、レンノスケとキリノが居る取り調べ室に視線を向ける。

 

 

 

 

「お疲れ様です、先生」

「カンナもお疲れ様。大体の流れは聞いているよ。どう?順調かい?」

「いえ…見ての通り、まだ進展はありません。キリノの奴が、許可なく勝手にカツ丼を城ヶ崎レンノスケに提供いたしまして……全く」

「そうみたいだね……あ、食べ終わったみたい」

 

 

 

数分で食べ終えたレンノスケは、米粒一つも残さずにカツ丼を平らげ、トレーの上に器を乗せる。

 

先生から見てレンノスケは、依然ブラックマーケットで見た時よりも格段に雰囲気が落ち着いている様に見えた。

 

 

 

『5分ほど休憩したら、問答を始めますね』

『ああ、分かった……カツ丼、とても美味しかった、ありがとうキリノさん』

「……ふーん」

 

 

 

ヴァルキューレの生徒から聞いていた彼の特徴とは随分と違っている。先生は、あの二人の会話と様子を見てそう思う。

 

先生とて、彼を全く知らないと云う訳ではない。色々な生徒から聞いて、そこからどんな生徒なのかは少ない情報からでも知ってはいた。

 

その中には、此処に居る4名も入っている。そして、彼女たちが口を揃えて言う異名……それは裏社会、最悪の────

 

 

 

 

────────怪物

 

 

 

 

「……皆」

 

 

 

先生の呼び掛けに、4名が視線を先生に向ける。

普段の先生を知っている4人は、いつもの先生とは違った声色に、確かな緊張感を辺りに張らせる。

 

そして、一言────。

 

 

 

「……彼は、どれ程の強さなの?」

 

 

 

それは、先生が気になった単純で簡単な質問。

 

だが……彼女たちはその質問に直ぐには答えれなかった。

数秒の間、壁に立て掛けられた時計の秒針が鳴り響く監視室に……ヒナが、先生の質問に答える。

 

 

 

 

「────此処に集う、私を含めた4名の力を持ってしても……勝つのは難しい」

 

 

 

 

それ程の強さを、彼は持ち合わせている……ヒナは、最後にそう付け足して言い放つ。

 

 

普通の人間なら、まず耳を疑う。そんな事を聞いて誰が信じるというのだ────と。

 

 

先生が居る、この監視室は今キヴォトスで一番と云って良いほどに安全地帯だ。

ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、ヴァルキューレの最強戦力が、万全の状態で武装をしている。

 

普通なら、有り得ない話…………だが。

 

 

「……そっか」

 

 

先生はヒナが言っている事が冗談とは、1ミリも思わなかった。

ヒナとは何度か交流を重ねて、ゲヘナで仕事をしていた時も何度か不良の制圧に協力をして、ヒナの強さと性格を先生は理解している。だから、分かる。

 

 

────ヒナは、嘘を言う様な生徒ではない。

 

 

そして何より……それらを聞いたネル、ツルギ、カンナの三名も、ヒナの言葉を否定しない。

 

先生は勿論、この3名の実力と性格を知っている。どの生徒もその学園の顔であり最高戦力なのだ。

その最高戦力たちが、集って勝てるかどうか分からない、彼女たちからはそう捉えられている程の人間。

 

 

 

 

「……奴は、カイザーの戦力を半分以上削りほぼ殲滅状態に……そして、ヘルメット団とスケバンの同盟、総数500名を超える戦線を前に無傷で壊滅させた男です」

「それも、たった一人でな……あたしの銃撃に、あの野郎は余裕って面で飄々としてやがった……悔しいがあいつの実力は【本物】だ」

 

 

 

ツルギが説明し、ネルが最後にとんでもない事を告げる。

 

ヘルメット団とスケバンは初めて聞いたが、先生はカイザーが近頃【何かによって】大打撃を喰らった事をあらゆる情報網で見聞し、知っていた。

 

一時、調査の為にその戦地と化したブラックマーケットの廃墟区域にヴァルキューレの子達と行った事があるが……其処は正に地獄と云えた。

 

 

 

「そんな危険人物が、今こうして大人しくしているのが……私達からすれば不思議で仕方がないのです」

「……これだけ聞いても、イマイチ実感が湧かないな、あんなに無害そうなのに」

「先生お前、目付いてんのか?何処が無害そうなんだあんなナリの奴が」

「ひ、ひどい……」

 

 

 

じゃれつく先生とネルに呆れの視線を向けるカンナが、一呼吸置いて発語する。

 

 

 

「……彼に纏わる話を挙げたらキリがありません。対面して、彼の実力は本物だと認識出来ました。現に、今でも我々に向ける圧は途轍もない敵意に溢れています……ですが」

 

 

 

カンナが意識を取調べ室の方に向け、告げる。

 

 

 

「その、どうやらキリノには……その圧を向けていない様で……」

「……え?────あ」

 

 

 

……確かにそうだと先生は思った。これだけの圧を受けて、キリノは何とも思ってないような感じだ。

しかしそれは、既に先生以外の全員が感じていた事で、ネルはカンナに凄むように問う。

 

 

 

「……そろそろ教えろ、なんであの野郎はアイツの言う事には従ってんだ」

「それは、ですね……」

 

 

 

カンナは何故か言い淀む。

少し顔を赤くし、何やら言うのが恥ずかしいような、そんな表情を作る。

 

 

 

「カンナ局長。何かを掴んで、それが確信に至ってなくとも良い、それが何かしら有益な情報に繋がるかもしれない。だから教えてほしい」

「……私にも、頼む」

 

 

 

ヒナとツルギもカンナの方へ向き、発言を促す。

 

 

 

既に彼女たちの中では幾つか考察をしていた。

その最有力候補として……彼に対する何かしらの弱みを握ったか……この辺りだろうと、カンナ以外の3名は踏んでいた。

この考察が正しかったとして、その情報はこれから彼に対する対策としてこれ以上ない弱みを握れる。

 

現に、キリノがこうしてレンノスケを牽制している。こう言ってはあれだが、実力はない、弱い彼女が、だ。

 

しかし目の前で起きている事が現実である以上、キリノは彼の何かしらの弱みを掴んで握り、こうして対等に会話が出来ていると考えるのは、無理矢理だが理は適う考察なのだ。

 

 

 

するとカンナは一つ咳払いをし、視線は取調べ室の方に向いたまま発言する。

 

 

 

「これは、私の根も葉もない只の推測に過ぎないのですが……彼、城ヶ崎レンノスケは恐らく────」

 

 

 

息を呑む。

 

一文一句聞き逃さぬよう、全員が己の耳を極限まで冴えさせる。

 

 

 

そして、カンナが告ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────中務キリノに、惚れているのではないか、と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「け?」

「ん?」

「え?」

 

 

全員が目を点とさせ、思考が一時シャットダウン。

凡そこの場では聞く事のないフレーズ、全員のこの反応は妥当と云えるだろう。

 

 

数秒沈黙が続き、先に声を上げたのはネルだった。

 

 

「きょ、局長さんよ……あんた、いきなり何言って……」

「……分かっています。自分が何を言っているのか、そんな事……で、ですが」

 

 

 

カンナは自分が言った発言に、誰が見ても分かる様に顔を赤くさせる。

カンナのみならず、全員が確かに頬を赤く染める。

 

 

 

「……い、一度、城ヶ崎がキリノに惚れているという体で、あの二人の会話を聞いてみて下さい。そしたら……私の言っている事がどういう事なのか、分かります」

 

 

 

カンナの発言に、先生達は意識を完全にあの二人に向け、その会話を真剣に聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────取調室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────なぁ、キリノさん』

『?はい、どうしましたか?』

『なんで、キリノさんに可愛いと言ってはいけないんだ?』

『あぶふっ!!はへぇ!?……あ、貴方と云う人は!ま、またそんな事を言って…っ!ほ、本官をこれ以上からかわないで下さい!本当にせ、セクハラで逮捕しますよ!』

『からかってなんかいない。俺はその、せくはら?と云うのが、正直よく分からんが……これは本音なんだ。それに……可愛いは良い事だろう?』

『それ…は……あ、あうぅ……』

『俺は、キリノさんが優しくて、カッコよくて、とても可愛い素敵な人だと、本気で思っている。まだ短時間での関係だがな……それで、なんで、言ってはいけないんだ?』

『もう、言ってますよぉ……その、そ、それは……』

『それは?』

『……は、恥ずかしいじゃ……ないですか……』

『────可愛い……』

『…っ!も、もう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────監視室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ……?」

「…………」

「け、けひ……」

「────???」

「……そういう、事です」

 

 

 

カンナの言う通りにそういった体で二人の会話を見聞すると、確かにそれにしか見えなかった。

 

 

 

「も、もしかして……キリノが取調べの担当の理由って……」

「はい、私の判断です。奴を護送車で連行してる時、何故かキリノの言う事には従っていたので、もしかしたら……と、そう思ったので」

「……信じられない」

 

 

 

ツルギ、ネル、ヒナの三名は俄かには信じられないと云った、そんな表情を見せる。

無理はない、中々強烈なモノを見せられたのだ。

 

 

 

「────色々、言いたい事はあるかもしれませんが……そろそろ始まります」

 

 

 

カンナは頬を赤く染めながらも、瞬時に意識を集中させ取調室の方へ目を向ける。

それが合図となり、ヒナ、ネル、ツルギ、先生も意識を一瞬で切り替え集中モードに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■取調べ室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────キリノside。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────す、すまないキリノさん……怒らせるつもりは、なかったんだ……反省する」

「はぅぅ……もう、良いです……うぅ、調子が狂います……」

 

 

 

こんにちは、キリノです。レンノスケさんに困り果てている者です。

本官は今、城ヶ崎レンノスケさんの事情聴取……その担当でこの場に居る状況です。

 

カンナ局長から直々に、この様な大役を任せられたのは光栄であるのですが、理由は何故か教えて頂く事は出来ませんでした。

 

10分ほど経過したので、本官はレンノスケさんに告げます。

 

 

 

「と、とりあえず……休憩はそろそろ大丈夫かと思いますので……事情聴取を始めていきたいと思います」

「ああ、分かった。何でも、聞いてくれ」

 

 

 

本官の言葉を合図に、後ろの監視室の視線が此方に集中。場が緊張状態に入ります。

 

 

 

「はい。ではまず………城ヶ崎さん────貴方のこれまでを全て教えて下さい」

 

 

 

……この問いは、カンナ局長が真っ先に聞きたい事項だと仰った事です。

 

 

城ヶ崎レンノスケさんは、その素性がほぼ明らかになっていません。

 

 

 

・身長と体躯が大きい事。

・異次元の強さを誇り、その強さはキヴォトス最強と名高い事。

 

 

 

これだけです。

 

何故賞金稼ぎをしているのか、何故ブラックマーケットを根城にしているのか等……何一つ、分かっていません。

 

 

 

「なるほど、つまり、俺が今までどうやって生きて来たかを言えば、良いのか」

 

 

 

レンノスケさんの問いに、本官は頷きで肯定します。

今は、何が何でも彼の情報が欲しい。恐らく、後ろの方達もそう思っているでしょう。

 

 

 

「じゃあ、まず俺が3歳の時、ゴミ食って死にかけた話からしようか」

 

「────え」

 

 

 

 

 

 

……そこから明らかとなる、彼の人生とも云えるものは────聞くに堪えないモノでした。

 

 

 

 

 

 

彼が物心が付いた頃には、既にゴミ屋敷に居て、傍には誰も居なかった。

野良犬の真似をして、ゴミ箱を漁っては腐食物を食べ、その度に嘔吐や排泄を繰り返して、それでも食べ続けた。

盗みを働いて、バレては暴力を受け、ゴミ箱に捨てられた。まるで人間の、ましてや子供相手にする所業ではありません。

自分の唯一の居場所である家が燃え、そこから路上で生活していたとの事。

死にたくなるほどの暴力や暴言を、暇さえあれば浴びせられていた事。

 

 

 

そんな生活を送って、10年……彼に転機が訪れたのです。

 

 

 

「俺が初めて、不良を半殺しにした時、急に華奢なロボットに話しかけられたんだ、そいつは『俺の依頼を受けろ』って言ってな、そこから、俺はそいつの依頼を受けて達成しては、少ないがお金を頂ていたんだ」

 

 

 

依頼内容はもう忘れたが、何度も失敗して、何度も挑戦して成功していったんだ……彼は、誇らげにそう言い放ちます。

 

 

 

 

「────っ」

 

 

 

ああ、だめです。彼が何かを話す度、胸が苦しくなり、辛く締め付けられます。

 

 

酷いなんて、そんな言葉じゃ生温い程に過酷な人生じゃないですか……。

 

 

 

「金があれば、食べ物が買える。金があれば、少なくとも今よりは裕福になれる………だから、小銭程度の報酬でも頑張ったんだ」

 

 

 

彼の発する声は、その表情は……とても辛そうには見えませんでした。

 

まるで、それが当たり前かの様に、その声色に抑揚がなかったのです。

 

 

 

「───ああそうだ。食べ物に困った時は、虫や雑草を食べてたんだ。ゴミ箱のソレとは全然違って、美味しいんだコレが」

「…………そん、な」

 

 

 

それらを食す時が、一番格別だった……彼は、そう発語しました。

彼が、ドーナツや先程食べたカツ丼の過剰なまでの反応も、これらを聞いて……酷く納得しました。

 

 

小銭程度の報酬しか渡されなかった、それでも良かったと────生きていけるならと、彼は常人では出来ない程の依頼を、文句も言わずに受けてたのです。

 

 

 

「────でも、最近なんだが……ロボットの男が、死んだんだ」

「し、死んだ……?」

「ああ、殺された。どこの組織がしたのかは知らないが、俺を襲ってきたどっかの組織が教えてくれたんだ……あれは凄かった、中々の数で、全部は始末しきれなかった」

 

 

 

殺し殺され、明日は我が身……彼が居た世界は……そういう場所なんだと、話を聞いて……実感しました。

 

 

 

「そこから、俺はどうやって生きて行けばいいか、分からなくなったんだ……俺は、依頼以外の生き方を、知らなかったから」

 

 

 

彼は、悲しそうにそう言って、続けて発語します。

 

 

 

「でも、外の世界……俺が今居る、ブラックマーケットとは違うこの場所が、不意に気になったんだ」

 

 

 

レンノスケさんが、無表情ながら穏やかな雰囲気でそう言います。

不意に気になったのか、そう言おうとした瞬間……彼は、とんでもない事を言い放ったのです。

 

 

 

「────もう、生きるのに疲れたんだ。だから最後は、何か美味しい物をいっぱい食べて……人気のない場所で────死のうと、思ったんだ」

「────は……それ……」

 

 

 

【死のうと思った】

 

 

 

その発言は、確かにこの場に居合わせる人達を動揺させる言葉でした。

一瞬、そんな事は思ってはいけないと……口にしようと思いました。

 

ですが、彼のこれまでの境遇から考えて……そう思わざるを得ない状況下に居たのを知って、本官は……何も言えませんでした。

 

 

 

 

……今までの話を聞いて、本官は確信しました。

 

 

 

 

この人は、何も悪くなんかありません。

生まれた場所が、育った環境が、ただ悪かっただけの……純粋で優しい人。

こう生きていくしか、彼には選択肢がなかった。生きていく為には、その手を汚すしかなかった。

 

 

……ここまで、希望を持って生きようと思えたのが、不思議な程の地獄を、彼は経験しています。

 

 

そんな彼が、限界を悟って、死にたいと口にしました……こんな仕打ち、あんまりです……。

 

 

 

「だけど、少し、悩んでる」

 

 

 

泣きそうになる私を前に────レンノスケさんが、分かりづらく微笑んで、言います。

 

 

 

 

「────……キリノさん、貴方に会ったから」

 

 

 

 

彼は私と余り会わなかった視線を、今はきちんと合わせ告げます。

その瞳は、私を捉えて離しません。

 

彼の瞳は、濁っていて、そこに光を宿していません。

何度か彼と目を合わす時はありましたが……今この瞬間、彼の過去を聞いて……その瞳の真実を知り、辛い気持ちになります。

 

 

 

「キリノさん、貴方が俺にドーナツをくれた、俺に話しかけてくれて、泣いている時も、傍に居てくれた────貴方のお陰で、まだ生きていたいと、願う事が出来たんだ」

「……そう、だったのですね」

「ああ、そうなんだ。だから改めて、貴女にお礼を言いたい……本当にありがとう、キリノさん。俺に、生きる希望を、もう一度与えてくれて」

「────」

 

 

 

 

そこに、不良達から【恐怖の象徴】と謳われた彼の姿はありませんでした。ただ………ただ私には、彼が純粋で善良な青年にしか、見えませんでした。

 

 

 

 

私は彼の息が詰まる様な過去を聞いて、私は彼の強さの本質知りました。

 

 

 

誰かに頼る事を許されず、今まで一人で頑張って、生きて来た人。

正当な報酬を渡さない、最低なロボ市民に騙され、騙されてると知りながらも、自分に仕事を与えてくれる存在だから、従ってきた人。

 

 

 

 

そんな彼が、限界を迎えて………死にたいと言った時────本官は……私は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────レンノスケ、さん」

「…え?!キ、キリノさん?」

 

 

 

気付けば、私は泣いて、彼の手を両手一杯に握っていました。

本来は絶対に許されない、警察として、恥じるべき行為……でも、私は伝えたかった。

 

 

 

「今まで……今まで、本当に……大変でしたね…頑張って、きましたね……っ」

「キリノ、さん……?」

「ごめんなさい……貴方に、そんな話があったなんて……よく、勇気を出して、外の世界に出てくれましたッ……」

 

 

 

レンノスケさんは、私の行動に酷く動揺しているでしょう。

それが申し訳なく思うと同時に、私の気持ちが伝わってほしいと願っています。

 

 

 

形が良くなかったけど、私があの時、彼に話しかけて良かったと……そう思いました。

 

 

 

「もう、もう死にたいなんて、思わないで下さい……っ、悩まないで……下さい……」

「……ああ、もう、死にたいなんて、思ってない、悩みも、しない」

「お願いです……貴方は……レンノスケさんは、一番────」

 

 

 

 

 

 

 

────幸せに、ならなきゃいけない。

 

 

 

 

 

 

 

「キリノ、さん………」

「ひぐっ……ぐすっ……」

 

 

 

ああ、本当に情けない。

一番辛い事を経験して、泣きたいのは彼だろうに……自分が泣いて、どうするのですか。

 

 

 

「────キリノさん」

 

 

 

自己嫌悪に陥っていると、レンノスケさんのその大きな掌が私の手を覆い尽くします。

下を向いて泣いていた私の顔上げるには十分な動作で、彼を見ると……何か決心したかのような、そんな顔付になります。

 

 

 

「ありがとう、俺の為に、泣いてくれて……貴方は、人の為に泣く事が出来る、本当に優しい人だ」

 

 

レンノスケさんは、こう言ってくれます。

ですが……死にたいと、そう願った彼の言葉に……私は何も言えませんでした……。

そんな私が、レンノスケさんの思う様な人間ではないと、そう否定しようとした時です。

 

 

 

「ありがとう、ございます……でずが……本官はそんな人間じゃ、ありませ────」

「ある」

 

 

 

彼は、私の言葉を無理やり遮って肯定します。

その時、彼の私の手を握る力が増して、彼の瞳が私を射抜きます。

 

その瞳から、握られる掌からは逃げる事が出来ない形で……なんだか……ドキドキしてしまいます。

 

 

 

「キリノさん、何度でも言ってやる。貴方は……本当に優しい、素敵な方だ」

「ぅぅう……」

「キリノさん、何度でも言ってやる。貴方は……本当に優しい、素敵で可愛い方だ」

「に、二回も言わなくていいです……最後に何か付け足してますし……」

「キリノさん……貴女は俺に、『幸せにならなきゃいけない』って言ったな?」

「……はい、言いました……」

「なら、俺の今から言う事を、よく聞いてくれ」

 

 

 

レンノスケさんが何かを言おうとした瞬間────扉が開きました。

 

 

 

「城ヶ崎レンノスケッ!中務キリノ!貴様ら、一体何を考えている!」

「……流石に見過ごせない」

 

 

 

入って来たのは武装したカンナ局長と空崎ヒナさんでした。

二人の姿を確認して、ようやく冷静になり、気付きました。私は今、レンノスケさんと手を繋いでる状態だと。

 

 

 

「レ、レレっ!レンノスケさん!い、一旦、手を離しましょう!?こ、これだと、色々とまず────」

「俺は、幸せと云うのを、ちゃんと分かって無かったみたいだ………だから、頼む」

 

 

 

しかし、レンノスケさんは私どころか御二人にもフル無視をかまします。

正直……もう今日だけで色々ありすぎて、私は頭がパンパンなのですが……。

 

 

そんな事お構いなしに、彼は私に向け────告げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────キリノさん、どうか俺と……幸せになってくれないか?」

 

「────────へぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 










城ヶ崎レンノスケのプロフィール(1)



名前:城ヶ崎レンノスケ

所属:無所属

学園:無入学

年齢:16歳

身長:196㎝



大体こんな感じです。
これからどんどん増えていく感じです。




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  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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