怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

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▽プロットを変更しました。なので次回予告の『レンノスケの大悩み』は辞めました。唐突な変更を致しましたこと、大変申し訳ないのですがご理解を宜しくお願いします。





▽特別番組

・ぶっちゃけろ☆クロノス!



〈今回のゲストはあの城ヶ崎レンノスケさん。まさかの出演との事で、キヴォトスでは大きな波紋を広げています!では早速、彼に色々と聞いてみましょう!〉

「よろしく頼む」

〈では先ず、各学園の統治者と親睦が深いとの事で、トップ層の方々とのお話を聞きたいと思います!〉



…………



☆Q〈城ヶ崎レンノスケにとって、羽沼マコト議長とは?〉



「そうだな~……会議の時に唯一庇ってくれた人だし、好きな部類だな。トリニティに対して差別的な部分は頂けねぇが、部下を気遣ったり政治が上手い点は流石としか言いようがねぇな。後はヒナにも優しく出来れば100点何だがな。俺は優しくしろと言っているんだが、どうにも治りそうにない。ん?……マコさんの秘密?そうだな………あ、そういえば俺、一度マコさんの着替えにミスって入っちゃった事があったな。んでよ、そん時にマコさん『きゃっ!?』って言ったんだぜ?あの顔で。超かわいくね?あー待て待て、そう焦んな。下着の色は上が黒、下が白だ。マコさんってイケメンだから、あのギャップが堪らないんだよなー……あれ?これって生放送だっけ?……そう?え、マズくね?俺全国にいまヤベェ事いt」

〈これは有益!では次に────〉



気が向けばまた書こうと思います。




では、本編です。


怪物と胡散臭い大人。

 

 

 

 

「……遅いな」

 

 

 

時刻は8時30分、既に辺りは暗くなっている。

 

レンノスケは行きたくなかったアビドスに向かう途中、先生から連絡を頂いた。その内容は『カンナから聞いたわ。トリニティとゲヘナの問題を解決してくれたんだね、ありがとう。アビドスは私が向かうから大丈夫だよ。怪我はしてない?』と来たのだ。

 

レンノスケは問題ないと返した。そして感謝を述べる。

アビドスはゲヘナから近いが、彼にとっては『一番行きたくない場所』でもあるのだ。

 

その理由として、アビドス高校3年である『小鳥遊ホシノ』という生徒の存在だ。

 

ハッキリ言って、レンノスケとホシノの相性は最悪も最悪だ。1度目は連歩生徒会で、そして2度目は先生と共にアビドスへ巡回した時に起きた2名による『大喧嘩』が原因だ。

 

………これに関して、先に噛みついたのはホシノだが、地雷を踏み抜いたレンノスケにも非はある。

建物が幾つも破壊される、規模が凄まじい程の喧嘩だった。

 

 

まぁ………この話は、また追々。今はキリノだ。

 

3回、レンノスケハはキリノに電話を掛けたが繋がらない。

 

業務を終えて1回目、家に帰って2回目、そして数時間経って先程の3回目。

出ない……こんな事、今迄に一度も無かった。

 

 

 

「(モモイに聞いても、もう帰ったって言っている……キリノに限って迷子は────いや、有り得るな)」

 

 

 

『うぅ……此処、どこですか……?』

 

 

 

「あ、有り得るなぁ……だが、仮にそうだとしても電話には出る筈。バッテリー切れの可能性、も…あるが」

 

 

 

キリノの事を思えば、迷子に成ってしまった可能性は無くにしも有らず……スマホのバッテリーが切れているのなら、電話に出れないのも理に適う。

 

 

 

「………キリノっ」

 

 

 

ダメだ、落ち着かない。

キリノ……彼にとって、命よりも圧倒的に優先される存在。

 

もしかしたら、この夜の中一人で寂しく泣いているのかもしれない。

迷子になって、焦って更に深淵へ向かってしまっているかもしれない。

今、この瞬間、己の名を呼んで助けを求めているかもしれない。

 

 

 

「キリノ、キリノっ……今、探しに行くからな」

 

 

 

レンノスケ特有の第六感か、嫌な予感がヒシヒシと肌を刺激する。

 

キリノは確り者だ。業務で遅れる事があったら、必ず連絡をくれる子だ。

そんなキリノが、何の連絡も無く2時間も空けるなんて異常だ。

 

 

 

レンノスケは家から飛び出て、ミレニアムへ急ぐ。

脚の回転を、走る速度を上げる。

先ずはミレニアムの校舎だ、其処から探す。

 

 

 

 

 

 

 

────D.U.近郊、とある場所。

 

 

 

レンノスケが家から離れ、ミレニアム方面へ向かう最中……一人の影が、彼の行動を監視していた。

 

 

 

「────此方コールサイン04。リオ様、城ヶ崎レンノスケが異変を察した模様です」

『早いわね、でも想定内よ────04、中務キリノの携帯のPWは解除済みよ。彼の意識がミレニアムに向いている内に、貴女はもう一人の”()()”の回収に急ぎなさい。』

「はい。リオ様の仰せの通りに」

 

 

 

普段の彼なら、気付く筈の気配。

 

しかし、疲労と焦燥が混じった状態ではその気配を察知する事が出来なかった。

 

 

 

「リオ様」

『何かしら?』

「……本当に、宜しいのですね?」

 

 

 

それは、最後の確認。

 

 

 

『────構わないわ。こうでもしなければ、彼はこの件に関わる事になる。それだけは阻止しなければならないわ』

「……承知致しました」

『貴女が気にする事ではないわ。余計な口出しは無用よ』

「ッ……はい。主君に対する私の御無礼をお許しください……では」

 

 

 

そう言って、無線を切る。

 

彼女は、命令に赴く。彼にとってキリノと等しい弱点を捕らえに向かう。

そして夜の闇に、彼女はその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先ずは一人」

 

 

 

薄暗い部屋に一人呟く。

 

正体はミレニアムサイエンススクールの生徒会長の『調月リオ』。

そして、先程の無線相手であるリオ直属の護衛を担当する『飛遊馬トキ』だ。

 

 

 

「まさか、このタイミングであの”怪物”が()()に介入するとは、想像も出来なかったわね」

 

 

 

それは計画の障壁。

怪物がこの問題に関わるだけで、展開は大きく変わる。

 

加え、彼の存在、リオが”アレ”と呼ぶ人物は『シャーレの先生』とも交流が深い。

怪物とシャーレ、敵に回せば死角無しの要塞組織。

 

普通の人間ならば、あの二人を敵に回す行為など考えはしない。一瞬で滅ぼされる案件だ。

 

 

 

だが、それでも……リオは為さなければならないのだ。

 

 

 

「怪物は介入させない。過大な問題点は一掃するに限るもの……次は────()()()()()

 

 

 

次なる被害者の名が発せられる。

 

彼にとっての悪夢は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────2時間後……。

 

 

 

 

 

 

「────キリノ、キリノッ……クソ、駄目だ。何処にも居ねぇ……ッ」

 

 

 

2時間、レンノスケはミレニアム自治区周辺を捜索するも、キリノの気配は何処にも無い。

 

己が感知できる範囲全てを全力で取るも、見つからない。

 

集中モード。

索敵、周りの生物の気配、鳴る心臓の鼓動を感知する………しかし、それらを酷使して尚、キリノの気は感じ取れない。

 

 

 

「ミレニアムには居ない?違う自治区に居る?だがキリノがそれを俺に言わないで向かう筈がねぇ……あぁクソッ!嫌な感じだ、落ち着かねぇ……ッ!」

 

 

 

怒気を含ませる。最悪な予感が沸々と脳に侵攻する。

 

レンノスケはもう一度、望みを懸けてキリノに電話を掛ける。だが……。

 

 

 

「ッ……クソッッ!!」

 

 

 

一向に出る気配はない。

明らかに異常だ、どうしてキリノは繋がらない。

 

 

 

「ふぅぅッ……落ち着け、焦るな。俺が冷静に成らんでどうする……ッ」

 

 

 

レンノスケは一度大きく深呼吸をする。

 

極めて冷静に対処しなければならない。思考を安定させ、状況の分析を始める。

時間は有限、キリノの安否が不明な点を含めれば、余り落ち着いては居られないが……。

 

だが、今は落ち着かなければいけなかった。そうでもしなければ、何も為せないから。

 

 

 

「(先ずは可能性を確かめよう。考えろ、キリノの性格、キリノの癖、キリノの可愛いポンコツ具合……それ等を加味して起こす事例を)」

 

 

 

考えられる事例は幾つかある。

 

レンノスケは一つ一つ、丁寧に上げていく。

 

 

1:〈単純にスマホのバッテリーが切れて迷子〉

 

2:〈スマホを何処かに落とし、今も尚探している〉

 

3:〈落とし物か迷子の幼子をミレニアムの交番に届けている〉

 

 

 

「(……いや、ミレニアムの彼方此方を探した。そして居なかった。これは無いと考えて良いだろう……)」

 

 

 

一番そうであってほしい選択肢を除外する。

 

次に考えられる事例を上げる。

 

 

4:〈ヴァルキューレ警察学校に戻っている〉

 

5:〈別の自治区に向かっている(ゲヘナ、トリニティ等)〉

 

 

 

「(いや、それこそ考えられん。だったら一度俺に伝える筈だ、キリノに限ってその事を忘れるのは有り得ん……それに、他の自治区に向かう理由がねぇ)」

 

 

 

これも現実的ではないと除外。

他の自治区、またヴァルキューレに一度戻る可能性は無くにしも有らず、だがそれを説明できる理由が無い。

 

プラス、仮に理由があったとしてもキリノがレンノスケに何の説明も連絡も無しに向かうとは考えられない。

 

────だから、もう……これしか考えられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

5:〈キリノが帰宅途中、何者かに襲撃された〉

 

 

 

 

「……それは、だがッ……あぁ、クソっ!」

 

 

 

認めたくはない。しかし、一番有り得る可能性はコレしかない。

 

冷や汗が止まらない。

頭が真っ白に成る感覚に陥る。

ドクドクと、心臓の警鐘が鳴り響く。

恐怖と怒りで、身体の震えが止まらなくなる。

 

 

 

「……俺は、どうすれば────」

 

 

 

いい……そう呟こうとした、瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

”ピロンッ”

 

 

 

「ッ!キリノか!?」

 

 

 

片手に持っていたスマホに通知音が鳴る。

直ぐに見て確認する……だが、差出人はキリノでは無かった。

 

 

 

「は?………誰だ?文字が凄くて見えん……写真?」

 

 

 

モモトークの欄に知らぬ者が勝手に入っていた。

名前が文字化けしていた誰なのか分からない。

 

一瞬、呆気に取られていると……どうやら、その者は写真を送ってきている様だった。

 

 

 

「(このタイミングで、誰だ……良いのかな、押しても)」

 

 

 

こういう時、レンノスケはチヒロに『怪しい人の通知はタップしちゃ駄目』と教えられていた。

だから押さないのが普通だ。だけど……今、この瞬間で謎の差出人と写真が送られてきた。

 

 

 

「いや……何かあったら、チヒロに助けて貰えば良い。今は……」

 

 

 

モモトークの返信に映る『写真が送られました』と云う通知が気になる。

 

なんだ、この状況に関する事なのか。

頭が回らない。だけど、動かなければ次には進めない。

 

レンノスケはそのモモトークをタップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────え」

 

 

 

そこに、写っていたのは。

 

 

 

 

 

「キリノ……?」

 

 

 

寒々しい地べたに眠る、一人の最愛。

 

キリノが、眠っていたのだ。

 

 

 

 

『────貴方に選択肢を与えるわ、城ヶ崎レンノスケ』

「ッ!!」

 

 

 

背後から無機質な声が響く。

振り向けば、其処にはドローンが浮遊していた。声の主はコイツだったのだ。 

己が背後を取られた……そんな事は、今はどうでも良かった。

 

只今は……画面に映るキリノだ。

 

 

 

『自己紹介は無し、今この場で問われるのは貴方の選択肢に於ける〈了承の意〉只それだけ』

「な……なに、言って…」

『今もその画面に映っている彼女は、私の所有する施設にて捕縛中よ。写真も本物と捉えて頂戴』

「ッ!テメッ…!」

『静かにしなさい。良い?その命を握っているのも私よ』

「っ!!……ぁ、くッ…」

 

 

 

有無を言わせない。主導権は完全にこの女性が握っているのだと理解させられる。

 

レンノスケは止まる思考を回転させ、怒りをぶつけようとするが、それは許されない。

 

 

 

「何が……何が、目的なんだ…ッ!」

『要件は只一つ────何もしないで頂戴』

「…は?」

『突然そう言われても理解が出来ないのは仕方ないわ。だから、順を追って説明させて』

 

 

 

それは一体、どういう意味で言っている。

 

レンノスケの思考が再び止まる。しかし、この緊張感の中でもその者は発語続ける。

 

 

 

『期間は不明、だけどいつの日か訪れる破滅の日がキヴォトスに降り掛かる。これはミレニアムに居る一つの存在によって侵される行為』

「っ……何を言っている?」

『────キヴォトスを終焉に導く兵器。又の名を……『天童アリス』』

「……あ?」

 

 

 

レンノスケの雰囲気が一変する。

空気が揺れ、ドス黒い殺気がドローンに罹る。

 

 

 

『貴方も気付いている筈よ。()()が持つ危険性を』

「……」

 

 

 

その者が言う通り、レンノスケはアリスが『普通の生徒ではない』事に気付いていた。

纏う雰囲気、異質な武器、そして他の生徒とは別格の身体能力。

 

身体能力に関してはレンノスケに言われたくはないが、彼は確かにアリスの違いを理解していた。

 

 

 

「……どうするんだ」

『先ほども言った様に、何もしないで欲しいの。私は』

「それじゃねェ……アリスを、どうするつもりだと聞いているんだッ!」

『……()()()()()()()()()()

「────ふざけるなァッッッ!!!!」

「ッ!!」

 

 

 

重圧が降り注ぐ。

 

ドローンを使って対話をしているのに、まるで目の前に居るかのような威圧が、其の者に襲い掛かる。

 

咆哮を上げる。彼にとって、友を殺そうとして居る者が目の前に居るのだ。断じて許せるはずがない。

 

 

 

「キリノを攫い、汚ェ独房の床で眠らせているッ!今この状況でもお前を殺したくて仕方ねぇってのによォッ!!話を聞けば次はアリスを殺すだとッ!?ふざけるのも大概にしろよクソ野郎ッッ!!!」

『………』

「何もするな!?はッ!!キリノを攫った程度で図に乗るなよボケがッ!!確かに予想外だが、キリノには日々襲撃された時の対処法や、最悪捕まった時のパターンとか色々と教えてんだ!テメェ風情に捕まってビビるタマじゃねェんだよキリノって女は────」

『一つ良いかしら?』

「あァ!?」

 

 

 

レンノスケが怒りを爆発させ、女性に暴言を吐き散らす。

 

しかし、それと同時に違和感があった。

 

女性の態度が変わらない。それが、更にレンノスケを不気味にさせる。

そんな事を思っていた時、女性が問いを掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────別に、人質は彼女だけと言った覚えはないのだけど」

「────は?」

 

 

 

”ピロン……”

 

 

 

通知音が響く。

 

スマホの画面に、もう一つの写真が投稿されている。

 

それを、不穏な発言を発した女性の言葉を理解したくはない。

本能が、それを否定している。

 

だが、視線は無情にも……その画面へと向く。

 

其処には────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────勘弁……してくれよ…っ」

 

 

 

声が震え、膝から崩れ落ちる。

 

其処には、己の親愛を授けた、護るべき存在。

無垢なる少女……夢に向かって突き進む幼い子供。

 

共に学び、共に飯を食い、共に修業した家族の様な存在……。

 

 

 

「まだ……まだ子供だろうが…ッ」

 

 

 

────()()()()()が、別の独房で眠っていたのだ。

 

 

 

『こうでもしなければ、貴方は止まらない。決定的な弱点がもう一人必要だった』

「ッ!!」

『気配を遮断する彼女を捕らえるには苦労したそうね……中務キリノのモモトークを通じて、為せた事だったわ』

「……もう、いい」

 

 

 

レンノスケは視線を下に向ける。

 

駄目だ……キリノのみなら、まだチャンスはあった。難しい展開でも彼女なら慌てず、己が今できる抵抗を出来た。

 

だが……アイラをも人質に取られてしまえば、もう何も出来ない。

 

何も、出来ない。

 

俺は、何も…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”─────お前は誰も救えねぇ、怪物なんだよッッ!!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、ハッ、はッ……はぁ…っ」

 

 

 

呼吸が、定まらない。

嫌な記憶が蘇る。

 

 

 

嗚呼、駄目だ……それは駄目だ。失う事になる。

 

待て、待ってくれッ……そうして、そんな事が出来るのだ。

 

キリノは関係ないだろうッ……アイラだって、まだ8歳の子供なのに、己を制御するだけで、此処まで非常に…ッ!

 

 

 

 

────だめだ。

 

 

 

 

 

「俺は、何もしない。あんたの言う通りに従う。だから、頼むッ……二人には、手を出さないでくれ…っ」

『……』

「もう、あんたに反逆の意思を見せない事を、約束する。捜索も、逮捕も、暴力だって振るわん……だからッ、だから、お願いだ……キリノとアイラを、解放してくれッ……お願い、だ……頼むッ」

 

 

 

レンノスケが、ドローンに向かって土下座を取る。

 

恥なんか無い。

プライドなど、当の昔に捨て去った。

 

そんなモノよりも、彼は『キリノとアイラの命』が圧倒的に優先される。

乞いだ。誠意を込めた。傷付ける事だけは勘弁願った。

 

 

 

『……駄目よ』

「っ……」

 

 

 

しかしそれでも……彼女はそれを良しとはしなかった。

 

当然だ、此処で開放してしまえば捕縛した意味が無くなる。

レンノスケの介入で為す困惑を危惧し、彼の弱点を手中に収めたのだ。

 

 

 

『悪いけど、事が終わるまでは返す事は出来ない。今はアレの事でも手一杯なのに、その問題に貴方が関わってくると収拾が付かなくなる。だから、解放は出来ないわ。でも命は奪わないと約束する』

「……」

『それも、貴方が何もしなければの話だけど』

「ッ……ぐ、ぅ」

『何時かは不明、けれどもう直ぐ”アレ”が大きな問題を起こす。その日まで、二名は私が監視するわ』

 

 

 

────全ての事が終えたら、貴方の元に返す。

 

 

 

彼女はそう告げた瞬間、ドローンの通話が途切れる。

 

そして……ドローンは夜の闇に消え、彼の元から去って行った。

 

 

 

「………………」

 

 

 

動けない。

 

指一つ、動けない。

 

 

 

「……せい…だ」

 

 

 

声を発する。

 

沸々と、湧いてくる感情。

 

 

 

「俺の………せいだ」

 

 

 

後悔の念が、襲い掛かる。

 

吹き荒れる感情。渦巻く怨嗟。

 

しかし、それよりも……今、己に降り掛かる絶望。

 

 

 

「俺の、おれ……俺の、せいだ…ッ」

 

 

 

”バキィンッッ!!!”

 

 

 

血が滲み出る程の握力で、己の掌を握る。

 

瞬間、スマホが破壊される。今は、そんな事を言っても仕方なかった。

 

レンノスケは己を責める様に発語する。

呟き、額に青筋を立てて深く責める。

 

 

 

「俺が、俺がッ……ちくしょう…っ」

 

 

 

癖癖する。己の不甲斐なさを、弱さを。

 

護ると、そう決めたのに……そう誓ったのに。

 

最愛の人を、博愛の幼子を攫われた。

己の人生を変えてくれた者達を、攫われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぐぅぅぅぅッッ……ゥゥゥウウウぁあぁぁアアアッッ……ッ!!!!」

 

 

 

その場に抱え込んで、地面に向かって怨嗟の嗚咽を吐く。

 

 

 

「ふざけるなッ……ッッァァアアアッ!!フザケルナッ、ふざ、けんなッ!!キリノが……アイラが!!何をしたって言うんだよッ!!!」

 

 

 

駄目だ、抑えろ、殺意を抑えろ…ッ。

 

殺す、殺す殺す殺す……ッ。

 

違う。悪いのは己だ。己を攻略するには彼女を攫うのは合理的な判断なのだ。

 

だから殺す。ぐちゃぐちゃにブチ殺す。逃げても、逃げても逃げても逃げても逃げてもニゲテモニゲテモッ!!!!

 

 

抑えろ、抑えろ……戻るな。

 

 

 

────昔の俺に、戻るな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────酷くやられましたね、レンノスケさん」

「ッ!!!」

 

 

 

聞き馴染みのある声が、彼の耳に届く。

低い声。耳に響く様な声質だ。

 

上を見る、其処には……己を見下す男。

 

 

────黒服が、立って居た。

 

 

なぜ彼が此処に居るのかは、もうどうでもいい。

 

ただ今は、ほっといてほしかった。

 

 

 

 

「消えろッ……今なら誰でも良い気分なんだッ!」

「クックックッ……まぁそう仰らずに、折角の再開ではありませんか」

「あぁそうだなっ……今この状況じゃなければ、一緒にラーメンでも食いてぇ気分なんだが……悪い、今は、色々とキツイ……ッ」

「ククッ……えぇ、そうでしょうとも。貴方はたったいま己の最愛を二人も同時に連れ去られてしまったのですから。その気持ちは痛く辛い筈です」

「………」

 

 

 

黒服は膝を曲げ、薄ら笑みでレンノスケを見てそう告げる。

レンノスケは両膝を着いて、己の無力さに絶望する。人を護る意味と難しさを、苛烈に思い知ったのだ。

 

 

 

「……なぁ、黒服」

「えぇ、何でしょう?」

 

 

 

レンノスケは視線を下に向けたまま、黒服に発語する。

 

 

 

「俺は今、狭間に居る」

「……と、言いますと」

「────昔に、戻りかけている…ッ」

「ッ!……成程、理性の抑制ですか」

 

 

 

レンノスケの精神は、既に限界に達していた。

 

キリノと云う最愛を護り切れなかった弱さ。

アイラと云う無垢な子どもを巻き込んでしまった後悔。

危険な女にその二人を期間も分からないまま、何日も監視されると云う恐怖。

 

レンノスケにとって重すぎる負荷が、今まで危惧し、蓄積していたストレスが、此処に来て限界を迎えようとした居るのだ。

 

 

 

「昔の俺は、クズもクズッ!只の殺人鬼だ!!命令に従って殺し!生きる資格の無いクズを殺し!!気に食わない奴を殺した!!!ゴミみてぇな殺戮兵器だッッ!!」

「……それが、数ヶ月前の貴方だ」

「あぁ、ああそうだッ!俺はクソ野郎だ!!今この瞬間でも、俺はさっきのクズを殺したくて、殺したくて殺したくて殺したくて殺したくって仕方がないッッッ!!」

「それは人間の持つ当然の感情です。己が愛する者を危険な目に遭わされれば、人は憤慨し抑えの効かぬ獣と化します……────ですが」

 

 

 

黒服はレンノスケの肩に手を掛け、告げる。

 

 

 

「城ヶ崎レンノスケ、貴方は違う」

 

 

 

その声は、確かな意思があった。

 

 

 

「その憎しみ、その怒り、その悔恨の念は余りにも重いモノなのでしょう。今迄、どんな理不尽でも耐え、全てを弾いて伸し上がって来た貴方が此処まで思い詰める程の苦痛……私には理解出来兼ねますが、その気持ちは痛いほど伝わります」

「……黒、服」

「しかし、私は期待し見てみたいと思ってしまいます。どんな苦難でも、どんな絶望でも────立ち上がる【警察】の………【英雄】の姿を」

「ッ!!」

 

 

 

その言葉を聞いたレンノスケは、ある3人の顔が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうしてレンノスケを英雄と呼ぶのか、ですか?それはですね!アリスが今まで見て来た人の中で、レンノスケは何処か特別だって思ったからです!学園の皆さんはレンノスケを怖がりますけど、アリスは違います!レンノスケは凄い戦いを生き抜いた歴戦の猛者で、キヴォトスの英雄だとアリスは思っています!アリスとキャラが被るのも素敵です!アリスも、レンノスケの様な”英雄”に成りたいです!』

 

 

 

………。

 

 

 

『私ね、レンにぃの事、怪物って言わない。だって、レンにぃはみんなを護る”警察”だもん!レンにぃ、知ってる?怪物ってね、余り良い言葉じゃないんだよ?だからね!私や私たちは、レンにぃの事、大好きだから、そんな酷い言葉で呼んだりしないんだー!』

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────レンノスケ、貴方はもう……とても立派な警察ですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふんッ!!」

 

 

 

”ぱん!!”

 

 

 

「おや?」

「ってェ………く、はは……何をやってんだ、俺は」

 

 

 

レンノスケは突如として、両の手で己の頬を叩く。

数秒の間、彼は目を閉じ……その()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ッ!(眼が……)」

「俺は、未熟だった。自分だけで悩んでいた……愚か者だ」

「……」

「ありがとう黒服。お前のお陰で、俺は俺で居られそうだ」

 

 

 

立ち上がり、微笑みで黒服に礼を言う。

その顔は、今迄のレンノスケではない。

 

赤く淀んでいた瞳は、ハイライトがあって輝きを放ち。

常に硬かった表情は柔らかな雰囲気を持ち。

そして、それ等を兼ね備えた表情は────先程の曇っていたものとは打って変わり。

 

────決意を込めた顔に成っていた。

 

 

 

「クックック……いいえ、私は何もしていません。ただ思った事を言ったまでです。いやしかし、まさかあの状態から数分で此処まで持ち直せるとは思いませんでしたよ」

「いや、正直に言えば怒りは一向に収まらん。今こうしている間にもキリノとアイラが不安に駆られていると思うと腸が煮え繰り返る想いだ……だが、それでも冷静に成らなければ、いけない」

「ククッ、そうですか。まぁ私は本当に思った事を口にしたまでなので、そこまで評価を受ける誉は無いのですがね」

「それで良い。お前がどう思おうが、俺はお前の言葉に助けられた。この借りは返させて貰う」

「おや、それは良い」

 

 

 

黒服は想定外の借りを頂き、大変ご満悦。

 

 

 

「────こんな事言うのアレだが……黒服、もう二つ借りを作る気は無いか?」

「────ほう……ククッ、えぇ、先ずは内容を聞かせて下さい」

 

 

 

レンノスケがスッキリした表情から一変、黒服に真剣な顔で問う。

 

黒服もレンノスケを見つめる。疲弊し切った精神をここまで立て直し、己にもう一つ借りを作ろうとする彼に興味が湧く。

 

一体、何をさせようと言うのか……レンノスケは告げる。

 

 

 

「先ず一つ。あんたにはさっきのクソ野郎のアジトを特定、そして潜入できる穴を見つけて欲しい」

「……成程、分かりました。それ位でしたらお安い御用……では後程”超高強度セキュリティ”を掛けた電子メールで送りますね」

「マジで助かる」

 

 

 

そして、二つ目……。

 

 

 

 

「────もう一つは……新しいナイフの制作を、お前に任せたい」

「ほう、ナイフですか────良いでしょう。内容は?」

「刀身は長く、斬れ味は最上……俺の神秘を込めても砕けない硬度なナイフを造ってくれ────期限は、3日だ」

「……いいえ、2日後にはお届けしましょう」

「いけるか?」

「私の全霊を懸けて、渾身の出来をお届け致します。何と言っても、あの”怪物(英雄)”城ヶ崎レンノスケの御指名ですので」

 

 

 

黒服はニヒルな笑みで、そう告げる。

 

 

 

「すまないな、助かる……これは契約だ。黒服、お前は俺に何を望む」

「ククッ……そうですね、ではここは一つ、私の『提案』を呑んでは頂けないでしょうか?」

「構わん。言え」

「それは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────…そんなんで良いのか?」

「えぇ、それにこれに関して、私含め『そんなん』とは言えぬ程の謎ですので」

「まぁ別に良いが……やっぱ変わってんだな、お前」

「研究者とはそういうものですよ、レンノスケさん」

「為になるよ」

 

 

 

一通り話し、黒服はレンノスケに発語する。

 

 

 

「黒服、俺は用事が出来た。ナイフの件は任せたぞ」

「ククッ、えぇ、お任せを……ところで、用事と言うのは?」

「まぁ、なんだ……この様子だと俺は誰にも助けを頼れん。今回は特殊だ、物量よりも暗躍が結果を出す。先生やヴァルキューレに頼る事は正直厳しい。アリスの件も不明な点が多いから、俺が表沙汰で動くのは先ずナンセンスだ。特に先生と俺はマークされている筈だからな…………だが〈二つ〉程、頼れそうな組織が居る。そいつ等には俺と共に大暴れして貰おうと思っている」

「二つ……それは一体?」

 

 

 

レンノスケが告げる。

彼が思う二つの組織。

 

それは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〈()()()()()()()()()()〉……そして────〈便()()()6()8()〉だ」

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

 

 

動く物語の歯車。そして、始まる交渉。

 

 





レンノスケは精神面に不安定さが残る描写を数多くお見せしましたが、恐らく今回でお納めです。彼はもうこういった場面でも悩む事はないので。



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  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
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