怪物は、真面目な君に恋をした。   作:カブトムシの相棒

36 / 38


すみません、予定よりも話数増えます。2,3話くらい。






☆ショタノスケのプロフィール。



身長:98cm
年齢:5才

補足:言葉、数の数え方は教わっていない為かなり拙い。独学で何とか少し話せる程度。3歳に成った直後の頃からブラックマーケットと云う壮絶な環境下に居た為、非常に食が細く、その身に肉は無い。身長も5歳ながら低く、現在のレンノスケからは想像が出来ない程にその存在は弱弱しい。5歳の頃は性格が臆病で、口癖は『ごめんなさい』である。



では、本編です。



外伝:レンノスケ、ショタになる。トラウマと狂気編

 

 

 

────そして、振出しに戻る。

 

 

 

 

■公安局

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぅぅ……ここっ、どこぉ………うぇぇ……っっ」

「姉御、この子もしかしなくとも……」

「あぁ…────恐らく、レンノスケだ」

 

 

 

コノカの気付き、カンナの発言。

辺りはザワつき、目の前に蹲り震えている細い幼子を見る。

 

だが、信じられなくとも、皆がカンナの発言に確証を得る。

 

 

・レンノスケ専用の制服から出現した、瞳の色に髪色も彼そっくりな男の子。

・特徴的な顔の火傷痕に、裂傷痕…それはレンノスケしか受けていない傷跡。

 

 

その全てが、目の前で蹲る男の子がレンノスケであると証明してしまう。先程の藻掻き苦しみ、煙を出して異常を発生させていたのにも頷けてしまう。

 

 

 

「救急車を引き返せ」

「え?」

「校門前にもう直ぐ着くであろう救急車、その救急隊に誤報であったと伝えてくれ。誰でもいい」

「で、ですが局長……レンノスケは?」

「これは極秘だ。この空気感に様相、この子には何処も悪い点はない……いいからいけッ」

「っ!!は、はいっ!!」

 

 

 

カンナの衝撃的な命令に一同は疑問に思うが、カンナは理解していた。

その恐ろしさを、その意味を。

 

 

 

「ぅぅ……ごめん、なさいっ………ごえん、あしゃい…っ」

「っ……(ずっと、謝り続けている……)」

「……姉御」

「あぁ、分かっている……だがこれは…」

 

 

 

ザワつく局員ばかりの中、コノカとカンナのみ冷静を保っていた。

 

この異質過ぎる状況下でも二名は分析する。

レンノスケと思われる幼子は、ずっと、何かに謝り続けている。

怯えた様子で、何かに必死に謝り続けている。

 

それは、その様子は……あのレンノスケとは思えぬ程、貧弱だった。

 

 

 

「(────身体のみならず、記憶も幼児化しているのか)」

 

 

 

カンナは理解した。レンノスケに起きた不可思議な現象は()()()()()()()()()()()()であると。

 

だが当然の疑問が此処で浮かぶ。

 

 

 

「一体なんで……何かの病気か?いやしかし、キヴォトスでそんな幼児化する病気など聞いた事が無い。じゃあ何だ?変なモノでも拾い食いしたか?あやつなら有り得るが、可能性は低いか……なんだ?」

 

 

 

カンナは脳をフル稼働。レンノスケがするかもしれない可能性を思考する。

 

だが問題はあのレンノスケが拾い食いか何かでこんな事態に陥るのか?だ。

彼の忍耐力と免疫力は強靭だ。恐らくキヴォトス一と云っていい。だから怪物と謳われているのだ。

 

だが、そこを加味し、更に可能性を広げるのなら────

 

 

 

「レンノスケの命を狙った……か」

「え────ッ!!」

 

 

 

コノカが一瞬、ポカンとさせる。

だが、カンナのその発言の意図にすぐ気づく。

 

そう、彼はブラックマーケットで大暴れし名を馳せた怪物。即ち、彼の敵は無数にいる。

 

如何なる手法を用い幼児化させる何かを彼に施したかは不明だが、誰かが技術を用い、どうにかしてレンノスケに服用させ、幼児化させた。

 

そして、彼の脆弱な身を狙い、その命脈を絶たんとした。

 

 

 

「考えられん外道的思考っすけど……一理ある」

「最悪を考えた次第だが、悲しき事実、レンノスケには敵が余りにも多い」

 

 

 

カンナの発言は、ザワつく局員達を黙らせるには強烈過ぎる一言だった。

 

 

 

ぐすっ、ひぐっ!う、ぅぅ……うぇぇぇぇ…っ

 

 

 

制服の膨らみが少し震えている。

そして、その中から微かにすすり泣く声が響く。

 

それは確かに、カンナの耳に入った。

 

 

 

「ッ!(迷うな!今は最善を尽くせ!!)……き、君!」

「ひっ……ご、ごめん、なはい…!」

「こっ、怖がらなくていい。謝らなくてもいい……驚かせてしまってごめんね?此処に居る人達は君に何もしないよ」

「………」

 

 

 

”もぞもぞ……ばっ”

 

 

 

レンノスケは己に掛ける、その優しい声に少し警戒を解く。

 

そして、警戒は解かないが、レンノスケは大きな制服から顔を出して問う。

 

 

 

「…………いたいの…しないの?」

「あぁ、絶対にしない。君が痛がることはしないと約束する」

「……ほんほ?」

「(ほん……あぁ)……うん、()()だ」

 

 

 

涙目で、涎と鼻水を垂らして、極度に怯えながらも、初めて自分と対等にお話してくれる人が居て、警戒は次第に晴れていく。

 

 

 

「(……やはり言語能力が著しく乏しい。3才からブラックマーケットで育ったと聞いてはいたが、これは……何とも苦しいな)」

 

 

 

カンナは気付く。幼児化したレンノスケは、かなり言語力が拙い。

言いたい事は分かる。だが、その使い方が拙い。元々レンノスケは育った環境が最悪で、真面に学を受けて来なかった身だ。

 

これに関しては本当にどうしようもない。だが、今の彼の姿は……酷く痛々しかった。

あんまりじゃないか。この歳でこの状況なら普通は父か母の名を呼ぶだろうに……レンノスケはただただ、ごめんなさいと謝る。助けを呼ばず、ただただ、謝罪を告げている。

 

カンナは目の間が真っ赤に染まる感覚を覚えた。こんな幼い子をあんなゴミの掃き溜めに捨てたと言うのか、レンノスケの親はッ!

しかも察するにこの時点で相当な暴力を受けている。

『いたいの、しないの?』……それはすなわち、そう言う事なのだ。

 

だがカンナは歯を食いしばり、この激情を吐かぬよう抑える。

我慢だ。今はレンノスケも居るし部下も居る、醜態をさらす訳にはいかない。

 

レンノスケがチョコンと顔だけ出し、少しずつ警戒を解いて行く中……局内に声が届く。

 

 

 

「────レンノスケぇッ!」

 

 

 

その正体は、彼の想い人である……中務キリノの現着であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■……公安局、廊下。

 

 

 

 

 

 

 

 

”────タッタッタッタッ!!”

 

 

 

 

「はぁ!はぁ!はっ……レンノスケっ!」

 

 

 

事件から数分後、キリノは公安局員から緊急連絡を受けた。

その内容は御存じの通り、レンノスケの急激な体調不良だ。ただの体調不良でも珍しすぎるのに、その内容にキリノは驚愕と焦燥を覚える。

 

胸を抑え、息は荒々しく、全身から汗を噴き出し、苦しそうに涙を流す今すぐにでも死んでしまいそうなレンノスケ。

 

少し具体的に伝えられたこの内容は、生活安全局の局内で業務を遂行していたキリノを直ぐに突き動かす内容だった。

 

全力で駆けるキリノ。公安局まで少しだけ遠いが、数分もすればもう直ぐだった。

 

 

 

”バタンッ!!!”

 

 

 

「レンノスケぇ…ッ!!!」

 

 

 

そして、遂に到着。キリノはノックをせずそのまま公安局内に入る。

 

キリノの瞳に映るもの。

 

それは…局内のソファー付近に群がる公安局員達。そして、鼻にこびり付く少しの鉄の匂い。

 

嫌な予感がしてならない。冷静に成れと脳が伝達しても、心が焦燥に駆られ言う事を聞かない。

 

 

続々とキリノの存在に気付く公安局員達は、ブワっと冷や汗を噴き出す。

 

 

 

「き、キリノちゃんっ!」

「中務キリノ、あ、あの……これは…」

「レンノスケは!?其処なんですか!?なに、なっ、なにが、何が有ったのですか!?ぶじ、無事!なんですかっっ!?」

 

 

 

足早に駆け、局員達を押し退けるキリノ。

 

耐えるつもりはなかったが、意外な押しの強さを発揮させるキリノに一同が驚く。そんな事を考えてる暇は無いのだが。

 

そして………キリノは刮目する。

 

 

 

「────ぇ……へ?」

「ひぎゅっ、ぐす……うぅ……っ」

「キリノ、これは……」

「あー…っとだなぁ……いいか?この子は────」

「────うそ……レンノスケ?」

 

 

 

瞬間、全員が驚愕を覚える。

 

キリノはレンノスケがの体調不良を聞いただけで、別に幼児化したなど一言たりとも聞いてはいない。

 

だがキリノは今、確かに顔だけ出すレンノスケに向かってレンノスケと云った。

 

カンナ、コノカ、そして局員達はキリノの方を見てドン引きの視線を向ける。

 

しかし、キリノはそんな視線を意にも返さず、そのままレンノスケの方へと歩み寄る。

 

 

 

「レンノスケ、ですよね!??な、なんで、ちっちゃくなって!?」

「あ、ぅ………え、えと……っ?」

「私さっき体調が急激に悪くなったとお伺いしたのですが、コレは一体?!レンノスケ、体調どころか急激に縮んじゃったません!?」

「ぁぅ……ごめ、なひゃい……?」

 

 

 

レンノスケは訳が分からず、顔は出したまま涙目を浮かべ謝る。

 

キリノは即座にしゃがみ込み、幼くなったレンノスケに向かって謝罪。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!泣かせるつもりはなくって………ごめんなさいレンノスケ…くん!」

「ぁ、いぁ…えと、あにゅ…ひぐっ……あのっ……えと、お、おねぇしゃ…」

「ん?はい、どうしました?ゆっくりで大丈夫ですよ)」

 

 

 

キリノはレンノスケによって鍛えられた状況把握能力が機能する。

キリノのその様子はカンナやコノカも察知する。思ってもいなかった部下の成長、だが今と成ればそれが嬉しい。

 

 

 

「わ、かった…ゆっくい、ゆっくり…………あ、あの……ぼくのなまえ、なんで?」

「僕の名前?……あぁ!それはですね────(やばっ、何て答えましょう!?)」

「はぁ……レンノスケくん。実は何だけどね、私達は警察なんだ。少し君の事を調べさせて頂いて、その時に名前を知ったんだ。驚かせてしまったよね、ごめんね」

「ぁ、ぁう、の………うぅん、だいじょぶ…」

「か、カンナ局長……!」

 

 

 

すかさずフォローに入ったカンナに感動を覚えるキリノ。

カンナは内心呆れ果てるも、キリノに無駄な説明を省けて良かったと思い、成長が少し嬉しく感じる。

 

当の幼児化したレンノスケも、まだ少し怯え震えてはいるが、目の前のカンナ達から敵意を感じない為、目を離さずに話す事が出来ている。

 

 

 

「レンノスケくん、先程このお姉さん(カンナ)が言っていた通り、私たちは貴方に危害を加えません。どうか怖がらずに私の元に来てくれませんか?」

「ぇ………で、でもっ…………ぃぃ、?」

 

 

 

レンノスケは警戒を解けない。それは仕方のない話だった。

 

 

・目が覚めたら、見知らぬ場所に居た。

・3才から今までの2年の間にも、自分は…名も知らぬ大人や高校生ほどの子供から暴言に暴力を喰らっていた。

・怖くて、どうしようもないくらいに怖くって、誰も信じられなくって。

・味方なんかいなくって。

 

 

 

「勿論。ほら、本官の元へ来て下さい。大丈夫ですかね」

「………うん」

 

 

 

優しい声、優しい手招き。温かい雰囲気を出してレンノスケ自ら来させようと努めるキリノ。

 

レンノスケは意図を理解出来ないが、キリノの

 

 

 

 

 

 

”ドクンッ────”

 

 

 

「っ、あぁ……ぅ!!」

 

 

 

瞬間、レンノスケの脳内に……数々のトラウマが蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ぎゃははははははッッッ!!!なんだ!?なんだこのガキ!!地味に硬ぇし臭ぇなぁぁ!!ははっははは!!!オラ!!泣け!泣けよゴミ!!汚ねぇなぁ!!』

 

『────うわっ……なに、この子……何か汚いし、左の顔焼けてて気持ち悪い……あ!?こっちくんなよボケッッ!近付いたら殺すよ!?!!?』

 

『────分かる?もっかい言うね?今直ぐその小便飲み干せってっつってんの。あたしが折角飲み易いようにペットボトルに入れてやったのにさぁ…なに?あ?あぁ!!?飲めよ!!!おい!!!……ぷっっ!!ははははははは!!うーわキッモ!マジで飲んだ!!きゃははははは!!!』

 

 

 

 

 

 

────それは、彼が5才の内に受けた……一部の凶行。

 

 

 

 

 

 

「ひっッ、ひっ、ひっ!ひっ!!……ひぁ………っっ!!!」

「れ、レンノスケ……くん?」

「うぁぁ……ひ、ひぃ、ひあ、あぁ………っっ、だ………や、や、だっ……やだ、いやだ……っ、ぁぁぁ……ッ」

「っ…?」

「なんだ、急に……酷く怯えて………まさか、この症状────PTSDか!?」

「え……?」

 

 

 

カンナの発言は正解だった。

 

P()T()S()D()というものがある。

 

それは……ショックな体験や強いストレスをきっかけに、心に酷い傷を負ってしまう事で発症する精神病である。

 

レンノスケが体験した数々の地獄。それが何の脈絡もなくフラッシュバックしてしまい、この様な症状を出してしまっている。

 

 

 

”ガチガチガチガチガチ……っ!”

 

 

 

レンノスケが恐怖で身を震わせ、両腕でその小さな体を抱きしめ、シバリングする。

 

その姿は余りにも痛ましく、悲惨的だった。

 

 

レンノスケはもう何も考えられなかった。

怖くて怖くて、本当は目の前の人達も自分を騙しているんじゃないかって思って、怖くなってしまう。

本当は痛い事いっぱいするんじゃないか、酷い事を言うんじゃないか、おしっこを飲ませて来るのではないか、ゲロを食わせて来るんじゃないか……そんな事を、思ってしまう。

 

 

 

────フラッシュバックは、時に残酷な事をする。

 

 

 

「……ぅぅ、おっ……おええぇぇ…っ!」

”「ッッ!!!」”

「んっっ!ん、ぅぅぅぅ……んッ…」

 

 

 

”ピチャビチャ……っ!”

 

 

 

レンノスケが、余りの恐怖で嘔吐してしまう。

 

だが、少し漏れてしまうも、寸でで口元を抑え、全ては吐き出さない。

 

皆がその光景に、その異様な光景に……動きを完全に止める。

 

────だが有ろう事か、レンノスケはとんでもない事をする。

 

 

 

「────っ…んっ、ん、ぅぁ、ぉ……んんぅ…っ!」

 

 

 

”こきゅ……こきゅ、こきゅっ、こきゅっ……”

 

 

 

「んなっ、あ……」

「マジかよ……」

「れ、レン、レンノスケ……」

 

 

 

信じられない光景だった。

 

 

────レンノスケは、何と手で抑えた吐瀉物を、そのまま口に運び喉へと通す。

 

 

目を瞑りながら、涙を流し、苦しそうに……余すことなく、飲み干す。

 

 

 

「うぅ、うっぇっ………ぁ」

 

 

 

レンノスケが、床に零れた己の吐瀉物を発見する。

 

そして、まるで死を恐れるが如く、何かに恐怖した様子で……焦燥の面を浮かべる。

 

 

 

「ご、ごえ、ごぇんあさいっっ……!わ、わわぁざ、と…わざと、じゃ、あい………ごぇ、ごっ…ごぇん、なさい…っ!!」

 

 

 

レンノスケは急いで床に落ちた吐瀉物に向かい、顔を床に着ける。

姿勢としては、頬を床にくっ付けて、舌を器用に使い吐瀉物を舐める。

 

 

 

「────……ッ」

「……なんだ?これ」

 

 

 

局員たちは、各々の感情を出す。

 

・悲痛さに憂う者。

・怒りに震える者。

・絶望する者。

・見てられない者。

 

多種多様だ。カンナとコノカは怒りに震える。その怒りの矛先は、レンノスケにここまでの想いをさせたクズにだ。

こめかみを中心に青筋が立つ。今すぐにでも、そのクズを探し始めんばかりだ。

 

 

 

「ごめ、んさい……ごぇ…ごぇん、なはぃぃ…………ごめん、さいっ、ごめん、さっ…………ごめっ……ぁぁ…っ」

「ッッッ!!!!」

 

 

 

ボロボロと大粒の涙を流すレンノスケに、我慢の限界が来るカンナ。

 

思考を巡らせ、どう動き声を掛けるのが正解か模索していたが、もうそんな事どうでも良かった。

 

カンナはレンノスケにその行為を止めさせようと動く。

 

だが、その時……。

 

 

 

「────レンノスケ」

「ぅぁ………ぇ……?」

「謝らないで、レンノスケ」

 

 

 

先に動いたのは、キリノだった。

 

────気付けば、身体が動いていた。

 

キリノはレンノスケを抱きしめる。

優しく、真心を込めて、だけど確かな意思を持ち、強く、強く、強く抱きしめる。

 

ガチガチとシバリングするレンノスケの謝罪は、言葉が途切れ途切れで、最後までい言えていなかった。

その姿は、カンナにコノカ、そして局員達の目に焼き付けられた。

怯える様子も、痛ましいその様相も全て、脳に刻まれた。

 

────余りにも、あんまりだった。

 

キリノ以外、身体が硬直状態になった。

動けなかった。何て言えば良いのか、分からなくなってしまったのだ。

 

だがキリノの抱擁で、ショートしていた脳を活性化させ、正気に戻る。

 

 

キリノは、レンノスケに苦しい位、抱擁する。

シバリングが次第に消えて行く。ガチガチ……カチカチ…………もう、大丈夫。

 

 

 

「大丈夫、大丈夫……もう、大丈夫」

「はっ、はっ…はっ………ぁぇ…っ?」

「ゆっくーり、深呼吸してください。すー、はー…って」

「んっ、ぅ……し、しんこきゅ……?」

「こうするんです。すぅぅ~……はぁ~……ほら、一緒に」

「す……す~~…はぁ~……こ、こう?」

「うん!上手です!では、もう一度……すぅぅ~………はぁ~~」

「すぅぅ~~…はぁぁ~~………じょ、じょーず?ぼく、じょうず?」

「はい、とっても上手です!流石、レンノスケ君!」

 

 

 

キリノは巧みにレンノスケの嫌な思考を断ち切る。

 

深呼吸させ、その悪循環を切った。

レンノスケはキリノの言葉に従い、深呼吸を行った。

 

気付けば、シバリングをしていなかった。気持ちが少しだけ落ち着いたのだ。

 

 

 

「レンノスケ、もう一度抱きしめても良いですか?」

「ぇ………だ、き……ぇ?」

「こうやって……ぎゅーってしたいんです」

「あびゅっ………あ────」

 

 

 

レンノスケは遅れて理解した。

 

 

己は今────人に、抱きしめられていると。

 

嬉しい気持ちよりも先に、驚愕がレンノスケに襲う。

 

抱きしめられた記憶何てなかった。

こんなに温かい何て知らない。

ずっとこうして居たいって思ってしまう。

良い匂いで落ち着く。

 

様々な情報がレンノスケに降り掛かる。

 

キリノの確かな抱擁は……崩れてしまったレンノスケの心を、一つずつ修復している。

 

 

 

「────っ……おねぇ、しゃっ……っ」

 

 

 

 

”ぎゅーっ……”

 

 

 

 

レンノスケは、キリノの抱擁を、抱擁で返した。

 

それが、答えだった。

 

信じさせてほしい。その気持ちが、レンノスケを突き動かした。

 

 

 

「っ!おねぇしゃっ…!おねー、しゃ…ん…っっっ」

「ふふふっ……よしよし、もう大丈夫ですよ」

 

 

 

泣きながら自分の胸に抱き着き、少しの震えを抑えようとするレンノスケを、キリノは優しく抱き寄せる。

 

パサッと、レンノスケの身から制服が落ち、レンノスケの全身が晒け出る。

それはつまり、全裸である事。

 

 

 

「あ、あらあら────ッッ」

 

 

 

5才の幼子とは言え、身体は男の子。免疫がないキヴォトスの少女たちは普通ならば少し恥じらうのだろう。

 

だが、それは許されなかった。

 

キリノの目が、グワッと開かれる。

 

 

────少し、ざわついた。その理由は……

 

 

 

「────おいおい………何て、身体だよ」

 

 

 

コノカの呟きが、響き渡る。

一同は、レンノスケのその身体を見てしまった。

 

 

────全身が傷跡だらけだったのだ。

 

 

顔は言わずもがな、左側に火傷痕、右側に裂傷痕がある。

右胸に何かに斬られた跡。左腹部には釘の様なナニかに刺されたかのような穴跡が4つあり、右側は大きな火傷痕と銃痕、そして糸で傷跡を乱雑に塗った跡があった。糸はもうないが、それを確定させる傷跡だった。

背中側は臀部の半分まで火傷痕が渡り、赤茶色が目立っている。まだ新しいのは、先のエデン条約で負った爆傷だからだろう。非情に痛々しい。

 

 

 

”バサッッ……”

 

 

 

キリノはすかさずレンノスケの制服に手を伸ばし、そのままレンノスケに被せる様に包み肌を隠す。

元より全裸なのは宜しくない。その気持ちもあった。

 

一瞬だけ見えたレンノスケの全身に在った傷跡……それは、以前レンノスケ自身が『あんまり見られたくはない』と公言していた話だ。

キリノは幼児化したから良いだとは微塵も思っていない。彼の尊厳は幼児化しようが死んでも護る。それがキリノの在り方であり思考だった。

 

 

 

「……大丈夫、貴方が落ち着くまで、私はずっと居ます」

「っっ………あい、あいあとぉ…っ」

「うん、うん……ぎゅぅぅぅ。ふふっ……もっと強く、抱きしめても良いですか?」

「ぅ、うん、うんっ!おねぎゃい、じます………ひ、ひぐ、ぅあ……ぅ、うぉぉ……っ!」

 

 

 

抱きしめる。抱きしめ合う。

 

苦しくならない様、でも強く、愛を込めて、抱きしめる。

 

キリノは悟った。嘗てレンノスケが、過去を話したがらない理由を。

 

苦しかったんだ、思い出したくなかったんだ。

彼は強がりで、どうしようもなく優しい人だ。話せばきっと、己が心配してしまうと思ってたのだろう。

あの人の事だ、きっとそうなのだ。自分よりも他人を優先するお人好しだ。

 

だからこそ、今と成って、その気持ちを理解した。

 

何て、何て可哀想なのだろう……何で、誰もこんな優しい子に愛を教えてくれなかったのだろう。

 

許せなくなった。怒りで目の前が真っ赤に染まった。レンノスケを、己の最愛をここまで苦しめた元凶を見つけ出し、人には言えない事をしてやりたいと、そう思ってしまう。

 

でも、でもっ………見ろ、この子を。

 

 

 

「おねぇしゃっ……あい、あいがとぉ、ごじゃ、ますっ!ぼく、ぼくっ、ご、ごべ、なしゃっ……う、うぁ、うまう、いえあいっ……ひぐっ!ぐすんっ……すんっ……うぇぇ…っ」

「良いんです。もう謝らないで、大丈夫、大丈夫……辛かったよね、苦しくて嫌だったよね。もう大丈夫だからね。私達がレンノスケを護るからね」

「っっっ────………ぅ、うぇぇ………うえぇぇ、ぁぁ、うあぁぁあぁ…っ」

 

 

 

こんな小さな子に、それは駄目だろう。

そんな考えは、いけないだろう。

 

レンノスケはキリノの胸の中で、嗚咽を漏らしながら泣いた。

 

それは、数分……いや、数十分か。吐き出す様に、レンノスケは涙を出した。

 

キリノがレンノスケの相手をしている間、公安局員にも動きがあった。

 

カンナは一度目を閉じ、呼吸を整え、思考を巡らせた後……部下にレンノスケ回りの指示を出す。

コノカが筆頭に、レンノスケの吐瀉物を掃除し、直ぐに近くの洋服屋(子供用の服)へと買い出しに行った。

 

 

ただ、それぞれが動く中、事務的な事以外誰も会話をする事は無かった。

 

今まで、ずっと恐れられてきたレンノスケ。

だがその誤解は解け、この数ヶ月の間、誰よりも治安維持に貢献した人格者。

誰よりも面倒見がよく、幼子に甘く、戦闘に関して的確で優しい指導をし、誰よりも強い…強面の男の子。

 

────そんな人間の、闇が深すぎる深淵を覗いた。

 

会話なんて、出来る筈が……なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

▽────30分後。

 

 

 

 

 

 

 

☆仮眠室

 

 

 

 

 

「────すぅ……すぅ…すぅ……」

「ふふっ……良かった、落ち着けたようですね」

 

 

 

事のあらすじを話す。

 

あの後、キリノとレンノスケは10分ほど抱き合った。

少し落ち着きを取り戻したレンノスケは、吐瀉物を飲んだ影響か、極度の吐き気に陥る。

キリノは急いで抱き上げ、トイレに直行。やはりレンノスケはもう一度嘔吐し、飲み干した分以上を全て出した。

 

少し大きい子供用の服を着させる。

 

疲労に体調不良が襲い掛かるレンノスケ、キリノはカンナの指示の元レンノスケを仮眠室のベットに寝かせる。

 

水を飲ませ数分……キリノが即席のお粥を作り、レンノスケに食べさせる。

初めてのマトモな料理に「驚いたレンノスケは、涙目でキリノに食べさせてと促す。その余りの可愛さに、キリノはキュン死しかけるも何とか堪えて…耐えて食べ終えさせる。

 

久しぶりの満腹感、そして敵が居ない安心感に、レンノスケはすっかり気が落ち着いて眠くなる。

 

キリノが優しい手付きで頭を撫で、眠くなるように鼻歌を歌い、そして……現在、レンノスケは深い眠りに着いたのだ。

 

 

 

「────キリノ……」

「はい。レンノスケ、少し席を外しますね」

 

 

 

扉の隙間から覗くカンナに呼ばれる。

最後に人撫でした後、キリノはレンノスケが起きぬよう、そっと扉を閉める。

 

仮眠室の外、廊下に出てキリノとカンナ、そしてコノカの面々で話し合う。

 

 

 

「レンノスケの様子はどうだ?」

「落ち着いた様子で眠っています。お粥も完食しましたし、食欲もあるようです」

「そうか……にしても、随分とエライ事態になっちまったっすね、姉御」

「そうだな…原因が分からない以上、レンノスケに余り無理は────っ!と、すまない、先生から電話だ……」

 

 

 

カンナが電話に出る。

 

 

 

「────もしもし、お疲れ様です先生」

『もしもし!?カンナ、レンノスケの容態は!?』

「一度吐瀉物を出してしまいましたが、水とお粥と云った栄養食を食べさせ、今は眠りについています。無事と云っていいのか分かりませんが、無事です」

『っ……そっか~~!!はぁー、良かった────それで、レンノスケの幼児化の件なんだけど……ごめん、原因は分からない。頼みの綱だった山海經の子(薬子サヤ)に色々と暈して聞いてみたんだけど、覚えがないって言ってねぇ……』

「そうでしたか……いえ、調べて下さりありがとう御座います。お陰で原因を絞る事は出来ました」

『そういって頂けて嬉しいよ。今からそっち行っても大丈夫?レンノスケの様子が見たいんだけど……』

「勿論です。ただ極秘情報なので、先生お一人で来てください。どうかお願い致します」

『了解!じゃあ直ぐに向かうね!』

 

 

 

”ブツっ……”

 

 

 

そうして先生との通話を終えるカンナ。

 

 

 

「先生が独自に動いてくれたようだが、原因は突き止められなかったらしい。この案件は難航するな」

「原因が分かれば良いのですが……このままだと、私達は何も出来ませんね」

「あの状態は何か投与しなきゃダメなのか、それとも何日か経てばまた元通りになるのか……チッ、判断しかねるな……」

「それ等については、此処に来る先生ともう一度話し合いながら決めるとしよう。今は────レンノスケのお世話についてだ」

 

 

 

カンナが告げる。そう、いずれにせよレンノスケのお世話は必須になる。

 

どう扱うのが良いのか、どう動けばいいのか、色々とする事は多い。

 

 

 

「────レンノスケのお世話だが、やはりキリノに任せるべきだろう」

「妥当っすね」

「はい。そう仰ると思い、覚悟はしていました」

 

 

 

やはり、白羽の矢が立つのはキリノだった。

 

普通で妥当。キリノしか考えられんだろう。一緒に暮らしているし、恋人だし。

 

 

 

「今のあの子には、傍で支える者が不可欠ですから……────レンノスケのあの様子……相当、辛い体験を受けたのでしょうね」

「………彼の悲痛な叫びは、今も耳に残ってる」

「狂気の沙汰っすわマジで。信じ難い話っすね、あんな幼子にクソみてぇな想いさせるクズが居るなんて」

「慎め副局長。気持ちは分かるが、壁の向こうに居るんだぞ。防音とはいえギラついた発言は控えておけ」

「うっす」

「……本当に、許せませんっ」

 

 

 

キリノは歯を食い縛り、青筋を立てて怒気を放つ。

それはカンナもコノカも同様。あの幼子の叫びを聞いたのだ、当然の反応と云える。

 

 

 

────次の瞬間!

 

 

 

”かちゃ、かちゃかちゃ……”

 

 

 

「ッ!?」

「ん!?」

「え!?」

 

 

 

バッと、仮眠室の方に目を向ける面々。

 

音がしたので見れば、仮眠室のドアノブが上がったり下がったりしている。

 

そして遂に────ドアが開く。当然ながら現れたのはレンノスケだ。

 

 

 

「やたっ、あいた…あ……あれ?おね、おねぇさん、たちだ…っ」

 

 

レンノスケは何処か安心した顔に成るも、驚いた顔をする3名に、不安を覚える。

 

すかさずキリノが膝を着き、声を掛ける。

 

 

 

「ごめんなさいレンノスケ、起こしちゃいましたね。体調は大丈夫ですか?」

「っ!あ、ぁの……うん…っ」

「そうですか!では、ちょっと失礼」

「ぅぁ……ちゅめたっ……」

「………うん、お熱もありませんね。良かった」

 

 

 

おでこにスッと手を触れられ、少しビクッとするレンノスケ。少し冷たい手で吃驚してしまった。だが、何だかそれが気持ち良いと感じる。

キリノはレンノスケに熱が無くて良かったと安堵する。

 

 

 

「……ごめん、なはいっ……かってに、うごいて……」

「いいえ、大丈夫ですよ。もしかして寂しくなっちゃいました?」

「う、うん………おねぇひゃ、いなくて……さびしいって、おもって……」

 

 

 

”キュンキュンキュンッッ!!!!”

 

 

 

キリノ、キュンキュンしちゃう。

 

 

 

「そっっ……っ!!……そうでしたか!そうですよね、急に居なくなったら寂しいですよね!ごめんなさい、もう何処にも行きませんよ」

「ほっ……ほん、と?キリノおねぇ、さん」

「んっっ!!……えぇ、本当です!」

 

 

 

ショタになったレンノスケは、とんでもない破壊力を誇っていた。

既にキリノは陥落寸前。素直さは健在だが、16歳時には無かった『可愛さ』がこれでもかと襲ってくる。

ギャップもあり、凄まじい攻撃力だ。

 

 

 

「ぁ………そだ、え、えと……あのっ」

「え……あ、私達かい?」

「え?あたしも?」

 

 

 

レンノスケがキリノの手を握り、上を向く、視線の先にはカンナとコノカが居た。

 

まさか話しかけられる何て思わなかった二人は、少し驚くが、即座に反応し膝を曲げ、視線を合わせる。何とか怖がらないよう、優しい雰囲気を出して。

 

 

 

「えっと、どうしたんだい?坊や(!?)(混乱)」

「あ、あのっ……なまえ、なに?」

「名前?あぁ、私はカンナって言うんだ。コッチはコノカ、好きなように読んで良いからね」

「宜しくな~!」

「かん……カンナ、おねぇさんと……コノカ、おねぇひゃ……お、おぼえる!あ、え、えと…よ、よろしく……な…っ!」

 

 

 

”キュゥゥンッッ!!!”

 

 

 

「おほっ…おっ……こ、これヤバいわ~……」

「ふぅぅ、ふぅー……間違いないな…ッ」

「ぇ……?」

「ああいや、何でもない!うん、これから宜しくね、レンノスケ君」

 

 

 

カンナとコノカもキュンときてしまった。危ない、コレは危ない。何かが開きかける音がした。

 

 

 

「あ、あの……カンナおねぇひゃ…」

「ん?なんだい?」

「そ、その……あ、あい、あいあとぉ、ござうます…でひた…っ!」

「え、えっ?」

「その、あの………はじめて、おはなし……してくれた…うれしくて……っ」

「初めて……あ、あぁ、あの時の」

 

 

 

そう、実はレンノスケと初めて同じ視線で話したのはカンナなのだ。

 

色々と模索している内にキリノが来て、ここまで来れたのだが、最初はカンナだった。

 

レンノスケは初めて話してくれたカンナに、お礼をしたかったのだ。

 

 

 

「いいや、気にする必要はないよ。でも私も、君とお話できて嬉しかった。ありがとう」

「っ!!え、えへ、えへへっ……カンナおねぇひゃんも、うれしかった…の?」

「あぁ、すっごく。レンノスケ君は嬉しかったかい?」

 

 

 

カンナは話の幅を広げる為に、同じことを問うた。

 

 

────だがそれは、大きな間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

「にへへっ……うん!すごく、えと……うれしかったっ!」

「ふふっ!そうか!」

 

 

 

そして、レンノスケは屈託のない素敵な笑顔を浮かべ、こう告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへ…あ、あの、ぼく……カンナ、おねぇひゃ…────()()っ!」

 

 

 

 

 

 

”ドクンッ────”

 

 

 

 

 

瞬間……尾刃カンナの脳内に溢れ出した。

 

────存在しない記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────おぎゃぁ!おぎゃー!おぎゃぁぁ!』

『はぁ、はぁ、はぁっ……ん、はっ!』

『カンナさん!おめでとうございます!!元気な、元気な男の子ですよ!』

『おぎゃぁ!おぎゃぁ!!おぎゃー!』

『は、はっ……あぁ、私の……私の子………名前は、レンノスケ…ッ!』

『おぎゃぁ!おぎゃぁ!おぎゃぁぁ────…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────私の子だ……」

「姉御???????」

「カンナ局長????」

「わた…?……こ…?」

「……はっ!わ、私は、いま何て……!?」

「純度100%の狂気っすよ姉御」

「か、カンナ局長……(頭)大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、問題ない……何でか、急にレンノスケが私の子だと思ってしまった」

「えぇ………」

 

 

 

カンナ、レンノスケの発言に狂い掛ける。

 

────だが、このレンノスケのあどけない可愛さが。

 

様々な学園を巻き込む騒動に発展するなど、この時だ、誰も思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

レンノスケ、もみくちゃにされる。






すみません、先生は次回です!曇らせも(多分)これ以降はありません!




感想、誤字脱字、ここすき評価お気に入り、大変励みになります。

アンケートです。どうか、御投票を宜しくお願い致します。

  • レンノスケ、配信者に成る。
  • 16歳組によるバレーボール同盟
  • キリノと二人旅
  • 提示版(レンノスケだけど、質問ある?)
  • レンノスケの過去編
  • 本編:カルバノグの兎編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。