「あれがリオン・アーデル?」
「ヴォルデモートを倒したっていう……」
「兄貴が凄い先生だって……」
耳に届く父の姿を見た子どもたちの興奮の声とそんな彼の子供である自分たちへの好奇の視線に少しため息を吐く。
玄関ホールを抜けて大広間にやってきた私達は列になってテーブルの間に立ち、父が私たちの前にある古ぼけた帽子を手に取った。
「これから君たちはこの『組み分け帽子』を被って自分がどこの寮になるかの組み分けを行う。ABC順に名前を呼ぶから呼ばれたら前のこの椅子に座るように」
そして父が新入生の名前が書かれているのだろう羊皮紙を広げ、名前を呼び始めた。
「ルクス・アーデル!」
最初に呼ばれたのは兄のルクスだ。まぁ『アーデル』だし最初に呼ばれるか……ルクスは待ってましたと言わんばかりに少し歩調を早めて椅子に座る。そして数秒と経たず組み分け帽子が『グリフィンドール!』と叫んだ。
「アーデルだ!アーデルゲット!」
「ヤッホイ俺達は勝ち組だ!!」
ルクスを取ったグリフィンドールのテーブルから割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。アーデル家の人間がグリフィンドールに組み分けされるのは稀であるためかなり盛り上がっていた。
まぁ私は正直ルクスはグリフィンドールだろうと思っていた。というかこれでグリフィンドールじゃなかったら帽子がボケたのかと疑うところだった。
「カレン・アーデル!」
そして次に私の名前が呼ばれる。私は出来るだけ緊張を表に出さないようにしながら前へ進む。
「頑張りなさい」
と、すれ違ったリインからそんな言葉を掛けられる。それに小さく笑みを浮かべて頷いてからいよいよ椅子に座った。
「……あんまり緊張しないように」
帽子を被せられる直前に父からそんな言葉を頂いた……どうやら父には緊張が見抜かれていたみたい。
そして組み分け帽子が被せられ、視界が暗闇に覆われる。
「ふむ、先程の子に続いて二人目のアーデル家の子だね。ようこそ。私は組み分け帽子、考える帽子。君をどこの寮へと組み分けよう……」
組み分け帽子がふむふむと呟きながら唸る。私はそんなに難しいのだろうか?
「そうだね。君は勇気もある、忍耐力もある、好奇心も強い。はてさて困ったなぁ……」
「……スリザリンはないの?」
組み分け帽子にそっと囁く。なにせ両親がスリザリンなのだ。その可能性も高いと思っていたのだが……。
「いや、君にスリザリンは似合わない。野心や狡猾といったものは君とは縁遠いだろう……ふむ、君は特にグリフィンドールかハッフルパフの適性が高いようだ。選ばせてあげよう、どちらが良いかね?」
スリザリンの適性が全くないと言われたことに心の中で軽く凹んだものの提示された二つの選択肢に考える。
勇気か優しさか……その二つなら私が取るのは──
「私は優しくありたいわ」
「良かろう……あぁ、ステラと同じ道を往くのだね───ハッフルパフ!!」
組み分け帽子が高らかに告げた瞬間、ハッフルパフのテーブルから割れんばかりの拍手と歓声が響く。最後、組み分け帽子が何か小さく呟いていたが私はそれを聞き取れなかった。
とにかく私は帽子を脱ぐとハッフルパフの用意された席に座る。そして先輩達からの歓迎を受けつつ、グリフィンドールのテーブルから親指を立てているルクスに私は手を振り返した。
その後も組み分けが行われアストラはグリフィンドールに、アリアは言っていた通りハッフルパフに、スコーピウスはスリザリンに組み分けされた。
「やっほーカレン同じ寮だよ!」
「えぇ、よろしくねアリア」
抱き着いてきたアリアの背をポンポンと叩く。「仲が良いのね」と話しかけてきた監督生の先輩に幼馴染ですからと返して再び前を向く。ついにアルバスの番だ、大抵の人はあの子がグリフィンドールだと予想するだろう。だが私は───アーデル家の時を視る異能である『未来視』を受け継いだ私は知っている。アルバスが組み分けされる寮は───
「スリザリン!!」
大広間が水を打ったように静まり返る。アルバスを迎える準備をしていたグリフィンドールも、無関心を貫いていたスリザリンも全員がその結果に凍りついていた。
だがこの結果は視えていたのだ。ならばせめて私が先陣を切って拍手を送るべきだろうと盛大に拍手する。やがてハッフルパフの監督生がそれに続き、やがてその拍手は勢いが小さいものの盛大なものになった。
それに少しホッとしたアルバスは私を見て小さく微笑むとスリザリンのテーブルに向かっていった。アルバスは仲良くなったらしいスコーピウスの隣に腰掛けたが、他のスリザリンは腫れ物を扱うように話しかける素振りを見せなかった。
「アルバス、大丈夫かな?」
「やっていくしかないわ。幸いスコーピウスがいるから一人きりというわけではないもの」
とりあえずスコーピウスに期待するしか無いだろう、それにスリザリンの寮監は父様だ。何かあっても父様がフォローしてくれるはず。そこからも組み分けは続き、いよいよその名前が呼ばれた。
「リイン・セイア!」
特急で友達になった女の子、何かと気になる子でかのサラザール・スリザリンを先祖に持つゴーントの末裔でもある彼女が組み分けされるのだ。
「ようこそ、お帰りサラザールの末裔。君が来るとリオンから聞いて楽しみにしていたよ」
組み分け帽子を被せられたリインが聞いたのは帽子の楽しげに笑う声だった。
「さて、君の入る寮は決まっている───と、言いたいところなのだが。はてさてこれはどうしたものか……」
「……スリザリンではないの?」
「いや。もう一つと同じくらい君はスリザリンに向いている。血然り、その野心然りね……だが君は勇敢でもある。それ即ちグリフィンドールへの道に他ならない」
それを聞いた瞬間、馬鹿を言わないで、とリインは呟いた。私はサラザールの末裔、忌まれた蛇の血を継ぐ者。グリフィンドールと相容れるわけが無いではないのと。
「確かにそうだね。君は野心を持ち、勇敢であり優しくもあり知恵もある。それでも君はスリザリンを望むのかね?」
「そうよ───出し抜く為には狡猾さが必要なのでしょう?」
「成る程、そのために君は歩くのか……ならばやはりここしかあるまい───スリザリン!!」
寮の名が告げられる。スリザリンから爆発的な拍手と歓声が上がり、リインは帽子を脱ぐとスリザリンのテーブルへと歩み寄っていく。
「健闘を祈っているよ、リイン」
そんな帽子の声と、リオン・アーデルの視線が自分の背中に突き刺さるのを自覚しながら。
その後も組み分けは進み、ローズも当然のようにグリフィンドールへと組み分けされる。そして新入生全ての組み分けが終了するとリオンは帽子を片付けて席に戻る。
そして入れ替わりにホグワーツ校長、ミネルバ・マクゴナガルが立ち上がった。
「一年生の皆さん、入学おめでとうございます。さて、また新たな一年を迎えることになりますが、注意事項をいくつか伝えておきましょう。まず、例年通り禁じられた森への無断侵入は禁止です。また廊下で決闘などの行為や悪戯などは寮の減点の対象となりますので肝に銘じておくように。
そしてこの度、新しい教師を一人お迎えすることになりました。彼女は闇の魔術に対する防衛術の教師を担当することになります───デルフィーニ・セイア先生です。皆失礼のないように」
マクゴナガルの説明を話半分に聞いて目の前のテーブルに並べられた食事に釘付けとなっていた生徒達が一斉に教師陣の方を向く。
そこではマクゴナガルの他にもう一人、女性が壇上に立っていた。その女性は大広間の生徒たちを見回して微笑むと自己紹介を始めた。
「ご紹介に与りました、デルフィーニ・セイアです。こうして皆さんとお会い出来る日を心から待ちわびていました。皆さん、これからよろしくお願いしますね」
そう言って彼女、デルフィーニは見惚れるような笑顔を浮かべる。それにアルバスは顔を赤くして、リインはそっと、そーっとため息を吐いた。
「まさかアルバスがスリザリンなんて……」
「意外かネビル?」
教員席で食事を摂りながら呟いたネビルを見る。彼は小さく頷いてスリザリンのテーブルで居心地悪そうにしているアルバスを見た。
「気弱なところはあったけどまさかスリザリンなんて思いもしなかった。アルバスのことだからグリフィンドールが駄目ならハッフルパフかと」
「元々ハリーはグリフィンドール以外だとスリザリンの適性も高かったそうだしありえなくはないかもな……もしくはその名前ゆえか」
「……『セブルス』が影響してるって言いたいのリオンは?」
「可能性に過ぎないがな……『名は体を表す』とも言うように名前はある意味人間が最初に掛けられる
本当のところどうなのかは分からないが。だがこうなってくるとまた面倒な噂が立つだろう。
唯でさえスコーピウスがヴォルデモートの子などという噂が立っているのに加えてかの英雄ハリー・ポッターの子供がスリザリンともなればゴシップ好きの連中が格好の的にするだろう。さらに自身の子やセイア家というサラザール・スリザリンの血を引く家の息女まで今年は入学してきた。
これが祝福の吉兆なのか呪いの凶兆なのか……
「───定められた椅子は一つ。呪われたとされる子供達か蛇の血を持つ子かはたまた我が子か………さてどちらか」
祈るように目を閉じ、ゴブレットに注がれたワインを飲んだ。
◆
「へぇ、それならリーナは元々イートンに行く予定だったんだ?」
「そうなの。でもホグワーツの入学許可証が届いたから……」
大広間での入学式を終えた後、私達は監督生に連れられてこれから七年過ごすことになるハッフルパフ寮へと案内された。
ハッフルパフの談話室は温かみがあってとても過ごしやすい場所だ。おまけに厨房も近いのでお腹が空いたら寄ってみるのもアリだろう……流石に食べ過ぎで太りたくはないので気をつけないといけないが。
そして私は寮の寝室で同室となったアリアとマグル生まれのリーナ・スチュワードとお喋りに興じていた。
「でもイートン校ってマグルの世界だととても凄い学校なんでしょう? そこをやめてホグワーツに来るだなんて……ご両親は何も言わなかったの?」
「んー……二人とも何も言わなかったよ。やりたいことをやりなさいって」
「はー、いいご両親だねぇ!」
アリアの感嘆に頷く。いきなり娘がホグワーツに行きたいだなんて普通のマグルのご両親なら驚くか卒倒ものだろう。なのにそれを聞いてやりたいことをやりなさいと言ってあげられるのは素晴らしい事だ。
「あ、そうだ。カレンに聞きたいことがあるんだけど……」
「何かしら? なんでも聞いてちょうだい」
「その、アーデル教授ってカレンのお兄さん?」
「「……………んんん?」」
リーナの質問に私とアリアは揃って目を丸くする。お父さんなら分かるがお兄さん?確かに見た目は若いがもう三十後半だと言うのに。それを伝えるとリーナは手で口を覆って心から驚いていた。
「ええ、ウソぉ!? 全然二十代とかに見えたよ!?」
「まぁ、父様も母様も見た目は若いからね……でもお兄さんって聞かれるのは初めてよ」
「周りにいる人たちって基本的にリオンおじさんの事良く知ってる人達だしねぇ」
確かに周りの人達は父様の事を良く知ってるマークおじさまやランスおじさま、ハリーおじさま達だからそういう反応なんて全然無いのだ。
そんな感じで三人で交流を深めながら明日から始まる授業に胸を膨らませて眠りについた。