騎士と蛇の子   作:シャケナベイベー

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日々は緩やかに流れる

「さて、今から君たちが学ぶのはホグワーツで教える学問の中で最も難しく複雑な『変身術』という学問だ」

 

 そう言って机に並べられた椅子に座る生徒たちの前に立つ背の高い男───リオン・アーデルはヒョイ、と軽く杖を振って教壇をゴールデンレトリバーに変え、また教壇に戻した。

 それに生徒たちがワッ!と驚きの声を上げ、リオンは「掴みは上々だな」と軽く微笑むと再び真剣な表情になって生徒たちを見回す。

 

「今見た通り、変身術は様々なものを様々なものに変えられる。無機物を命あるものに、その反対も然り。だがそれだけにこの学問は非常に難しい……何故か分かるかな?」

 

 リオンがぐるりと視線を回すと多くの生徒が手を上げる。リオンはその中で最も早かったローズに「どうぞローズ」と声をかけて指名した。ハーマイオニーの血だなと苦笑して。

 

「はい、変身術を学ぶに当たって理論への理解が不可欠であり、最も科学的な魔法だと言われています。変身術を専門とする人でも稀に失敗することがあると」

「素晴らしい。百点満点の回答だローズ。グリフィンドールに五点加点しよう……よく勉強しているな」

 

 リオンのお褒めの言葉にローズは顔を赤くして椅子に座る。そしてリオンは杖を振って生徒一人一人にマッチ棒を配った。

 

「今日やるのは変身術の中でも基礎中の基礎。このマッチ棒を銀色の針に変えてみるんだ。周りの人と相談するのは良いが基本的に私語は慎むように───では始め!」

 

 そうリオンが声を張り上げると生徒達は杖を握ってマッチ棒を突いたり撫でたりしながら針に変身させようと試行錯誤する。

 リオンは生徒達の作業を眺めながら周りを歩いていく。ルクスやカレンもまた杖を持って銀色の針を脳内で描きながら杖を振る。

 しばらくして最後尾の机の方から微かな驚きの声が上がる。そしてリオンが「素晴らしい出来だ」とその生徒を褒めた。

 

「しっかりとその通りの出来になっている。リイン、よく出来たな。スリザリンに十点加点しよう」

 

 それにワッ!とスリザリン生が湧く。他の生徒達もスリザリンに負けじとより集中して作業に取り組んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛行術の腕前は如何だ我が妹よ」

「バッチリよお兄様」

 

 新入生がホグワーツに入学して早一週間。四寮合同で行われる飛行術の授業が始まる前にルクスとカレンはおちゃらけた口調で会話する。

 

「ルクスもカレンも箒乗るの上手いもんね」

「リオンおじさんは箒より姿くらましやセストラルに乗るほうが楽だって言ってたけどね」

「親父は特殊すぎる例だろうがよ」

 

 セストラルに乗るのも姿くらましをバンバン使うのもかなり大変なのだ。それを常日頃から当然のように行う父親は例外も良いところだろうとアーデル兄妹は揃って肩を落とした。

 やがてマダム・フーチが生徒たちの前に姿を見せる。彼女はグルリと生徒を見回して欠席がないことを確認するとハキハキとした声で喋った。

 

「さぁ、ボヤボヤせずに皆箒のそばに立って! さぁ早く!」

 

 その言葉に皆が慌てて地面に置かれた箒の横に立つ。そして全員位置に付いたのを確認したマダム・フーチは次の指示を出す。

 

「箒の上に手を突き出して上がれと言いなさい!」

 

 簡潔かつ分かりやすい指示に生徒たちが口々に「上がれ!」と叫ぶ。カレンもまた「上がれ」と呟くと箒が浮かんで掌にしっかりと収まった。カレンの両隣に立つアリアとリーナも一発で成功させたようで三人で顔を見合わせて微笑む。

 他の皆はどうだろうと見渡すとグリフィンドールの方が少し騒がしいように感じた。

 

「先生、こいつじゃじゃ馬ですよ!」

「そういう箒もあります。好かれて良かったではありませんか」

「勢い良すぎて額にぶつかったのは好かれてるに入りますかねぇ!?」

 

 何やら騒いでいるのはルクスだ。話を聞くに「上がれ」と言い切る前に勢い良く箒が浮かんでルクスの額にぶつかったのだとか。それを聞いたカレンは箒に好かれる兄を笑えばいいのか呆れればいいのか分からなかった。

 

 

 

 

「マーリンの髭、なんて恥さらし! 父親とはまるで違う!」

「アルバス・ポッター、スリザリンのスクイブだ!」

 

 そんな聞くに耐えない言葉が耳に届いたことでカレンも、ぶつかってきた箒を軽く睨んでいたルクスもそちらの方へ目を向ける。

 そこではグリフィンドールのポリー・チャップマンとハッフルパフのカール・ジェンキンズが未だ箒を浮かび上がらせることが出来ていないアルバスに陰口を叩いていた。アルバスにもそれは聞こえていたのか耳まで真っ赤にして悔しげに唇を噛んでいた。

 それを見たルクスとカレンは彼らの方へ歩いていきアルバスを庇うように立つ。

 

「恥さらしはどっちだ馬鹿共」

「英雄の息子だからなんでも出来て当然だとでも? 愚かにも程があるわ」

 

 侮蔑するような目で睨むルクスとカレンにポリーとカールがギョッとする。そして事の成り行きを見ていたリインも一歩前に出る。

 

「そんな風にポッターの事を侮辱出来るほど、貴方達は箒乗りとして優れているのかしら?」

 

 トドメの一撃とばかりにリインが冷ややかに告げれば二人は顔を青くしてその場から立ち去っていく。その背を見届けた三人はスコーピウスに励まされているアルバスの方に歩いていく。

 

「……あ、その……三人共ありがとう」

「気にしないで。同じ寮の人間がああなんて我慢できなかったから」

「全くだぜ。なぁアルバス、気にすんな……なんて軽々しく言えないけどさ、なんかあったら力になるぜ」

 

 そんなアーデル兄妹の励ましの言葉に少し気が楽になったのかアルバスは「……うん」と小さく頷いた、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、これで最後だな」

 

 瓶の蓋をキュッと締める。中に入っているのは特注の魔法薬だ。それをリオンはケースに仕舞うと手に持つ。

 そして自らの研究室を出てホグワーツの廊下を歩く。途中で多くの生徒とすれ違うが新入生以外は彼の事情を知っているため挨拶をするだけだ。

 やがてホグワーツの姿くらまし不可能領域から出ると直ぐ様姿くらましを使ってゴドリックの谷に跳んだ。

 

 少し肌寒さを感じるようになった谷をリオンは迷いなく歩く。今のアーデル家があるのは谷の中心部であり、ここは少し外れに位置する場所だ。近くには小さな民家や郵便局、酒場などもある。

 そんな中でリオンは一つの店───グリーングラス姉妹が営む魔法薬店の扉を開けて中に入った。

 

「どうなされ──あら、リオン義兄様?」

「こんにちはアストリア。薬を渡しに来たぞ」

 

 黒く艷やかな髪を腰まで伸ばした紫の瞳を持つ女性──リオンの義妹にしてスコーピウスの母親であるアストリア・マルフォイは店を訪れたリオンを見て軽く微笑んだ。

 

「いつもいつもごめんなさい。忙しいのにこんな手間を……」

「俺がしたいからしてるんだ。そう気負うことはないさ───ところでダフネは?」

「姉さんなら今はセレナを迎えに行ってますよ。もう少ししたら帰ってくると思います」

 

 リオンの相変わらずの愛妻ぶりにクスクスと笑みをこぼしたアストリアは杖を振って椅子を出現させるとリオンに座るよう促した。

 それに礼を言って椅子に座ったリオンは持っていたケースをアストリアの目の前に置いて開く。その中には同じ瓶に詰められた魔法薬が敷き詰められていた。

 

「半年分用意しておいた。これでしばらくは持つだろう」

「本当に、本当にありがとうございます……まさかグリーングラスの血の呪いの特効薬を作り出すなんてあの時は思ってもいませんでした……」

 

 それを聞いたリオンはここに至るまでの経緯を思い返す。

 死喰い人の残党も粗方片付いて、有事の際は協力する事を条件に闇祓いを退職。マクゴナガルから請われていた変身術の教授兼スリザリンの寮監としてホグワーツで働く傍ら、妻のダフネにも大いに関わりのあるグリーングラスの血の呪いに関する研究と治療法を模索する日々を過ごした。

 

 ……まぁそんな感じで多忙な日々を過ごしていたらもっと体調を気遣えとダフネに怒られ、それが原因で人生最大の大喧嘩をする羽目になったのだが……部屋の一室は吹き飛ぶわ、子供たちは慌ててカリアン家に避難してマークが仲裁に入らなければ多分もう二部屋くらいは消し飛んでた。

 

 特効薬に選んだ材料は不死鳥の涙を二滴、イルヴァーモーニーの強力な治癒能力があるとされるスネークウッドの葉、ドラゴンの血。これらをすり潰し、混ぜ合わせ調合することで特効薬の完成となる。ちなみに不味い、とんでもなく。どれくらいかと言えば脱狼薬を数回飲む方がマシと試薬品を飲んだリーマスが溢し、飲んだマークが一週間青い顔になったくらいだ。

 

「血の呪い……まったく厄介だ。今代限りの治療が出来るとしても今後も女系のグリーングラスが産まれる度にその苦痛の可能性を孕むのだから」

「えぇ、えぇ本当に……本当に悲しいことです……私達の先祖が何をしたと言うのでしょうね……」

 

 互いにカップに入った紅茶に視線を落とし、重苦しい空気が流れる。その時、扉がチリンとベルを鳴らして開く。二人してそちらに目を向けると丁度ダフネがセレナを連れて戻ってきたところだった。

 

「戻ったわアストリア───あらリオン。来てたのね」

「父様!」

 

 リオンを見たダフネは穏やかに笑み、セレナは一直線にリオンへと飛びつく。

 はしたないわよと咎める母の声も気にせずリオンに甘えるセレナはそのダフネそっくりなアイスブルーの瞳を輝かせて抱きついた姿勢のままリオンを見上げた。

 

「父様、来てたなら連絡してくれても良かったのに!」

「悪いな。今日はいつものようにアストリアに薬を届けてたんだ」

「でも嬉しいわ父様!」

 

 グリグリと顔を押し付けてくるセレナに苦笑しながらもリオンはダフネにウインクする。そんな夫の姿にしょうがないなと言わんばかりの顔になったダフネもまたアストリアのそばに寄ってからリオンの隣に腰掛けた。

 

「そういえばリオン義兄様、スコーピウスのことなんですが……」

「うん?」

「あの子は、ホグワーツで上手くやれているでしょうか? 例の噂のこともあってドラコも私も心配で心配で……」

「俺が見ている限りだと問題はないように見えるが……スコーピウスのやつ、どうもアルバスと友人になったそうでな」

「まぁ! それは良かった……あの子にも友達が出来て」

 

 嬉しそうに笑うアストリアを見てダフネもリオンもまた笑う。

 それからリオンがホグワーツに戻るまでの時間、セレナも含めた四人は穏やかな時間を過ごした。

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