騎士と蛇の子   作:シャケナベイベー

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不穏な影

「まずは大臣就任と執行部長昇格おめでとうと言うべきか?」

 

 魔法省、大臣室に入って開口一番にそう告げれば呼び出した張本人であるハーマイオニー・グレンジャー=ウィーズリーとハリー・ポッターは口元に苦笑いを作った。

 

 暦は十二月。冬季休暇が間近に迫るこの日に省に呼び出されたリオンは内心でほんの少し面倒くさいなぁと考えていた。

 

「急に呼び出してしまってごめんなさいリオン。でも貴方の力が必要なの」

「聞こう」

「先日、私たちはとある死喰い人の自宅に乗り込んで家宅捜索を行った。不正な闇の品が作られていると情報が入ってね──結果としては黒。その死喰い人と闇の品を押収したんだけどその品が問題だった」

 

 ハリーの眉間にシワが寄る。よほどの厄介事かと勘付いたリオンは無言で先を促した。

 

「押収されたのは『逆転時計』だ。模造品ではあるけど」

「『逆転時計』だと? あれは神秘部の戦いの折に全て破壊されたものと思っていたが」

「その通りよ。神秘部に保管されていた『逆転時計』は全て破壊され、その後も『逆転時計』を保管、作成することは禁止された──その筈だったのだけどね」

「どうやってかその死喰い人は複製した、と。そいつの名前は?」

 

 リオンが訊ねるとハーマイオニーは身を寄せ、小声でその名前を告げる。

 

「ラドス・ノット……ノットの分家の人間よ。セオドールにも確認を取ったから間違いないわ」

 

 チッ、と舌打ちが溢れた。ノット家といえば確かに死喰い人の最古参であるセオドール・ノットシニアがいたが、まさか分家の方にもいたとは。セオドールの苦労も浮かばれないというものだ。

 

「何か吐いたかそいつは?」

「何も。私やランスの尋問に頑として口を割らなかった……それに、奴が言うには口を割らせたいならリオン・アーデルを連れてこいと」

「明らかに罠だな」

 

 そんな見え見えの罠にわざわざ掛かりに行くこともない。ないのだが──

 

「俺が出れば口を割るか?」

「無茶よリオン。明らかに貴方に何かしようとしているわ」

「それに君に何かあったらダフネに合わせる顔がなくなる」

「だがそうでもしなければ状況が好転しないのも事実だろう」

 

 リオンの反論に二人はぐっと押し黙る。彼の言う通りそうしなければ一向に解決の糸口が見えないのもまた事実であるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 省にあるウィゼンガモット裁判所にある判決を待つ罪人が収容される部屋へと赴き、扉を開ける。

 そこには既に両脇を刑務官に固められたラドス・ノットが魔法を使えなくする特殊な鎖で縛られたままパイプ椅子に座って無機質な目でこちらを見ていた。二人の刑務官はリオンに頭を下げるとそのまま扉の向こうへと姿を消していく。

 用意された椅子に座り、リオンはラドスと向かい合う。しばらく沈黙が場を支配したが堪えきれないとばかりにラドスが口を開いた。

 

「……これは驚いた。まさか本当にやってくるとは」

「さて、要望通り来てやったぞノットの小僧」

「歳はそう変わらないはずだが?」

「死喰い人なんぞに身を落とした時点でガキ同然だろうよ」

 

 軽蔑するように皮肉げな笑みを向ければラドス・ノットは肩を竦めて呆れたように息を吐くだけだった。

 

「執行部長や闇祓い局長の尋問にも口を割らなかったとか。その精神力に関してだけは称賛を送ろうか」

「穢らわしいマグル生まれ共に自身の心を覗かれるのは我慢ならなかったものでね」

「むざむざ捕まっておいてそこまでの口が叩けるとは大変結構なことだ」

 

 ラドスの顔から嘲りが消え、代わりに目に激情が宿る。だがそれも一瞬のことでありラドスはまた口元に不敵な笑みを浮かべた。

 それを見たリオンはさっさと済ませるかと懐からその品を取り出しラドスに見えるように掲げた。

 

「これが何かはお前がよく知ってるだろう──『逆転時計』。今の時代じゃ製造も複製も禁じられてる品がお前の家から出てきた。これについて何か言うことは?」

「研究の一環で作ったものでね。法を踏み越えるつもりは無かったんだ。そこは申し訳ないと思っているよ」

「他にも闇の魔術が仕掛けられた品がわんさか出たらしいな。白を切るのは得策ではないだろう──お前と契約したって書いてある書類が他の捕まえた死喰い人の金庫から出てきたそうだが」

 

 その発言にラドスの顔から表情が消えた。そして低い声で呟く。

 

「縁があるからと契約を結んだが……愚か者に手を貸したのがそもそもの間違いだったということか」

「その発言からして認めるわけか」

「あぁ。もはや隠す必要もないし、言ってしまったことを取り消すつもりもないからね」

 

 ラドスは一転して晴れやかな顔で自身の罪を認めた。だがこうなってくるとリオンには一つ解せないことがある。

 

 ───なぜハリーたちの尋問で口を割らず、わざわざ自分を呼び寄せたのか。

 

「分からない、という顔だねリオン・アーデル。なぜ私が君を指名したのか、なぜ尋問では口を割らなかったのに今になって全てを告白したのかと」

「そうだな……なぜ俺を呼んだ?」

 

 その問いにラドスは口元を歪めた。少なくとも純粋な笑みではなく、これを伝えられるのが嬉しくて仕方ないと言わんばかりに悪辣な笑みだった。

 

「一度君の顔を直で見てみたかったのさ。世間では闇の帝王を斃し、真に清廉な魔法騎士と讃えられている君が一体どんな目をしているのかと気になったものでね……そして直に見てみて理解したよ。

 君は我々死喰い人と同じだ。人々は君のことをまさに英雄や清廉潔白な騎士と持て囃しているが実態は我々と同じ人殺しだ」

「なるほど、その通りだな。まぁ騎士を名乗る時点で剣を手に取り戦うのだから命の奪い合いは覚悟の上だろうが」

 

 ラドスの嘲りを一蹴する。それに意外そうに目を見開いた罪人にリオンはニヤリと笑って告げた。

 

「意外か? 俺は自分のことを正義だなんだと吹聴したことは一度もない。事実俺はお前たち死喰い人の残党狩りの時も幾人かをこの手に掛けた……とっくに両手は血で汚れてるんだよ」

 

 ひくり、とラドスの喉が震える。見開かれた目は恐怖を映し、眼前に突きつけられた杖と自身を冷たく見下ろす群青の双眸を見上げた。

 リオンは見惚れるような笑みを浮かべながらあくまで穏やかな声を出す。

 

「俺を……アーデル当主を呼んだ時点でこうなる可能性を視野に入れるべきだったな。お前は省お抱えの開心術師の開心にも耐えきったそうだが、今の動揺し疲れ切った心ならどうなるだろうな?」

「……待て、やめてくれ……心を暴かれたら……」

「さっきまでの態度はどうしたのやら───開心(レジリメンス)

 

 見えざる手がラドスの心を探り暴き立てていく。加えてリオンは過去視を併用することでより深くラドスの過去を探ろうとした。

 

 

 密かに作成された無数の『逆転時計』。その複数ある内の金色の特に目立つそれを白い手が掴み取る。

 体格的に女だと当たりをつけ、より深く探ろうと開心術と過去視の力を強めた時、その女の目が──真紅の瞳がリオンを()()()

 

 

『視たな?』

 

 

 

「───ッ!?」

 

 反射的にその場から飛び退く。そして魔法騎士としての本能が警報を鳴らし、リオンはすぐに盾の呪文を展開した。

 

 驚き、恐怖に目を見開いたラドスの肉体が膨れ上がり破裂して呪詛を撒き散らす。それは展開されていた障壁を食い破り、リオンに傷をつけた。

 

「アーデル様!」

「ご無事ですか、お身体が…!」

「平気だ……だがしてやられたな」

 

 外に控えていた刑務官二人が部屋に飛び込んできて癒しを施そうとするのを手で制し、リオンはさっきまでラドス・ノットだったものを見た。

 辺りには夥しい量の血が飛び散り、肉片も落ちていた。それを見た二人の刑務官は顔を青くさせ口元を押さえる。

 

 リオンは深く息を吐き出すと虚空を睨む。一瞬視えたあの目の色……姿は女性のものだったがあの目は間違いなく───

 

「……ヴォルデモートなのか……」

 

 未だ光明は見えず、先にはただ暗闇が広がるだけだ。もしかすれば今回の事件はそう簡単には片付かないのかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きなければ。

 その思いが自身の血に塗れた身体を動かす。生きなければ。生きてこの胸を灼く憎しみの炎を燃やし続けなければ。

 

 いつかの父と同じようにホグワーツを去り、追手を撒きながら森の中をひた走る。何度も転移の術式を組んでは使用しかなりの距離を辿ったが彼らは諦めるまい。

 

「……赦さない……」

 

 炎が燃え上がる。私が何をした、私は護ろうとしただけであるのに放逐するのか父と同じように!赦さない赦さないグリフィンドールめアーデルめ!

 

「私の子孫がいずれお前たちを滅ぼすだろう。畏れよ震えよ真っ当などと謳う愚かな騎士共め!!」

 

 呪詛のように私は彼らにそう言い残して立ち去った。追い縋ろうとしたレオダンデと決闘し、血まみれになりながらもなんとか逃げ切った。

 

 あぁ、この灼熱を伝え、いずれ我が子孫がお前たちを滅ぼす牙となるのだ───

 

 

 

 

 目を開き、寝台から身を起こす。ここはホグワーツのスリザリン寮で私の寝室。どうにも嫌なものを視て気分が悪い。

 

「貴女はとっくに死んでいるでしょう……リイン」

 

 己と同じ名の遠い先祖へと呟く。怨みのままにホグワーツを去り、それを我が子達に伝えやがて闇の帝王を産み出す事となったある種の元凶の女。

 死に際に間違いを悟り数々の品を遺したが結局彼女の強すぎる怨みは連綿と継がれていった。

 

「彼らを信じていれば思い違いだと気付けたでしょうに……たとえ間違いと気付いて後の世の為に策を遺したとしても、我が子にその怨みを継がせた時点で貴女は碌でもないのよ」

 

 死人に何を言ったところで無駄だろうが、同じ血を引く者としては言わないわけにはいかないのだ。

 それに過去視というのも相当に厄介だ。時を視る異能というのは視えなくて良いものまで視えるのだからこれを持って生まれながら普通に過ごしているアーデルの人間は相当な精神力お化けか何かだろう……まぁそういう私も特に問題なく使っているのだが。

 

「アーデルの血が入っているからかしらねぇ……」

 

 アーデルとスリザリン……稀なる二つの血を持って産まれた私は異端もいいところだ。現に私の両親は私のことを『呪いの血を継いだ望まれない子』だと揶揄した。

 だがそれがどうしたと言うのか。私はあの二人を親などとは思わないし呼びもしない。もう既に物言わぬ躯になっているとはいえ全くもって親としては落第も良いところの二人だった。

 

「……とにかく計画を進めなければね」

 

 『アレ』を出し抜く為に今のうちに色々と手を打っておかなければならない。

 そのためにもアーデルの子供たちと親交を深める必要があるが……

 

「妹の方はともかくとして兄の方はどうアプローチしたものかしら……」

 

 彼はグリフィンドール、私はスリザリン。水と油、コインの裏と表。気にしないとしても周りが五月蝿そうだ……特にポッター弟がスリザリンになったことでグリフィンドールの一部のお馬鹿さん達はスリザリンを余計敵視していることだろう。

 

 

 ───なら、それを存分に利用させてもらうとしよう。

 

 

「あぁ、勇敢な騎士様はこの計画を知ったらどんな反応をするのかしら───楽しみだわ」

 

 

 

 

 スリザリンの寝室にて少女はまるで夢見る乙女のような顔をする。そして本来であれば紫がかった紅の瞳であるはずのその目は見たもの全てを魅了する真紅に輝いていた。

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