───グォオォォアァァァァァッ!!!
「何が、起きて……?」
紛外境で続く九十九 光の大検証会。
因縁に逆恨みを混ぜ、新たな屈辱と逆上のままに切り札であるビッグタルボサウルスを叩き付けた麗牙。それでもなおトリニティには届かず、むしろ人間大のまま高出力なヴァルキリー相手では悪手となった巨大化。大検証会参加ドーパントの中で最初の脱落者となりかけた所で、悪魔が微笑んだ。
微笑んでしまった。
『どうやら、タルボサウルス以外のメモリを多数取り込んでしまったようだねぇ』
「博士?」
『いやぁ、まさかこんなキメラになるとは。だがまぁ、キミならば大丈夫だろう。検証を続けてくれたまえ~』
「……ん、わかった」
◆◇◆
「なーにがキミならば大丈夫だろう。だよ……」
「彼女なら大丈夫だと思ったから言ったまでさ。さてさて……あの合成ドーパントの実力はどれ程のモノだろうねぇ!」
今にも歓喜の舞を始めそうな程に上機嫌な光。自分に何も伝えず、とんでもない何かをやらかすのは今に始まった事ではない。が、やはり事前に一言欲しかったと溜め息を吐く真。アレはどういうワケだと軽く光に詰め寄り、突然変異を果たしたタルボサウルスの説明を求めている。
「言ったろう?私が、ただタルボサウルスに適合するだけの人間をスカウトするか?と。彼女、麗牙クンはちょっとした異常体質でねぇ」
「異常体質?」
どうにか興奮を抑え込み、観戦席となっている愛用のゲーミングチェアに腰掛ける光。視線は変異タルボサウルスとヴァルキリーの戦いを映し出しているモニターに注いだまま、真の疑問とついでにドゥの興味に答えを返すべく言葉を紡ぐ。
「例えば真、キミがウォーホースに100%の適合が可能な人間で、ハイドープも加えて120%の適合者だとしよう。それに対して麗牙クンはタルボサウルスに50~60%程度の適合者だ」
「低くはないけど高くもない、ってぇのは事前に分かってたろ?」
「本来ならドーパントとしては中の上。仮面ライダーやトリニティくんには逆立ちしても敵わないだろう」
「まぁ……だろうな」
けぇれぇどぉ?と途端に悪い笑みを浮かべ、真に振り向く悪魔。人の道を自ら外れたがる彼女だからこそ知る事のできた何かがあったのだろう。
「彼女はねぇ、ありとあらゆるメモリに適合可能な異常適合体質だったんだよ!」
「ありとあらゆるメモリだぁ……!?」
「とは言っても、どれも10%程度の微々たる適合率になるけれどねぇ?モノによってはドーパント化すらできない一桁、雀の涙ほどの適合率しか出せない事もある役立たずの能力だけど」
『くっ……』
「何かカラクリがあるってか。一桁パーセントのメモリを寄せ集めたくらいで、あのトリ子が押し返されるワケがねぇ」
「ふふっ、キミも知っているだろう?メモリと適合者を育てるのに最も適した方法を」
「……悪感情?」
その通り大正解!と白衣の袖を振り乱しテンションフォルテッシモへ突入した光。真が答えたように、ガイアメモリは使用者の負の感情を増幅し、最終的には暴走させてしまう。更には適合した強力なメモリを使い続ける事で、新たな能力に目覚めたり変身せずともある程度の能力を行使できるハイドープへの覚醒にも繋がる。
また、ウェザーこと井坂深紅郎は、ケツァルコアトルスを自らの力とする為にその過剰適合者に極限の恐怖を与え、生体コネクタを成長させてから奪おうともしていた。
「ドーパントの育成には、慟哭や憤怒といった負の感情が最適。そして彼女は、私と出会う前からメモリの育成土壌を整えてくれていた!」
「トリ子に逮捕されて逆恨みしてたんだっけか」
「そぉさ!消えない悪意は彼女の中に重なり続け、そして今また!トリニティくんに負ける、また負けてしまう……!また辛酸を舐める事になる!またトリニティくんの前で膝をつく事になってしまう!自分はもっと強いのに!もっとやれるのに!もっと上に立つべき存在なのに!もはや誰にも止められないほどけない!そんな負の螺旋となってメモリを高めて爆発したァ!!!アッハハハハハッ!!!!」
「で、そのネガティブスパイラルに、お前が追加投入したメモリが巻き込まれてあんな化物になった、と」
◇◆◇
「大きい分……!死角も多い!」
ヴァルキリーの飛翔能力を活かし、変異タルボサウルスの凶悪な顎を回避。そのまま後脚の間に潜り込み、ヴァルキリーソードで切り裂いてやろうという魂胆のトリニティ。案の定ビッグタルボサウルスは細かい動作に向いておらず、いとも容易く脚の付け根に狙いを定める事ができた。
「終わり───っ!?」
目だ。
巨大な物や小さな物、大小様々の不気味な目がタルボサウルスの身体中で開いていたのだ。ギョロリと腹側の全ての目がトリニティに向けられ、一秒と経たず鋭いトゲを先端に生やした触手が瞳孔を突き破って飛び出してきた。無数の目から伸びる触手もまた無数。
「っ、くっ……うぅっ!」
確実にタルボサウルスメモリの物ではない能力。驚愕は一瞬、ヴァルキリーの翼を羽ばたかせて触手から逃れるトリニティ。巧みに触手を回避していくが、一手遅く追い付かれ、右の太腿を貫かれてしまった。
「距離を、取らないと……!」
───逃ガサナイ……!
激痛を精神力で圧し殺しながら、突き刺さった触手を斬り落とし全力で後退していく。そんなトリニティを逃がすまいと、怨嗟の声をタルボサウルスの口腔から漏らしながら追撃する麗牙。
圧倒的にトリニティが有利だったはずの対戦カードは、悪魔の気紛れによって予想外の方向へと進みつつあるのであった。
◆◇◆
「何だ、あれは……!」
「さぁな、オレもよく分からん」
変異タルボサウルスとヴァルキリーの戦いは他のドーパント達も認識していた。擬態ダブルと激戦を繰り広げていたシャークドーパントの困惑に、突如として掛けられる返答。いつの間にやらオーロラカーテンを潜って検証場に飛んでいた真、その怪人態であるウォーホースドーパントだ。
「やっと出てきたか……馬女ァ!」
「おう、出てきてやったぜ鮫野郎」
こちらもこちらで因縁のある二人。対戦カードとしては因縁の始まりから変わっていないが、ウォーホースの特徴であるケンタウロスのような下半身は、大型の魚類へと変化している事に気付くシャーク。
「マーメイドメモリをレイズしたんだよ。これでお前のアドバンテージは消えたな?」
「上等だ!互角に戦って勝つ……それでようやく借りを返せるってもんだろうが!」
「へっ、吠えるじゃねぇの」
「スライム!ダミーの相手はそっちでしてろ!」
「やれやれ……仕方ない───」
スライムドーパントが擬態ダブルに向き直った瞬間、バトルフィールドである水槽を作り出したアクアリウムドーパントが何かに気付いた。
「此方に向かって来ている……!」
「は?」
「何?」
「あー、マズいかもしれないね」
あろうことか、手負いとなったヴァルキリーが後退してきたのだ。つまり、ヴァルキリーを追ってタルボサウルスも全速力で向かって来ているという事で。
(あのドーパントのパワーは未知数だ……!)
「やむを得ない、水槽を解除する!後は各々で回避してくれ!」
水棲生物系メモリのドーパントからすれば、自らの能力をフルに発揮できる最高のフィールドであるが、唯一の欠点として「出口が無い」事が挙げられる。普段ならそれは欠点ではないのだが、未知の相手に対して自分の防御力を過信するのは愚かな一手の極みだ。仕方なく水槽を解除し、ヴァルキリーとタルボサウルスの進路上から退避するアクアリウム。次いでシャーク、スライム、ウォーホースと擬態ダブルがその場から退いた。
「チッ……!大暴れしやがって……暴れた数だけ強くなるってのかよ」
『その理屈で言うと暴れた数だけ優しさも知りそうだねぇ?』
「るっせぇ。って、おい!オーロラカーテン開いてんじゃねぇか!?あのままだと突っ込むぞ!」
『あー、テモトガクルッタナー』
「棒読みやめろや!わざとか!?わざとやってんのかこの天才バカがッ!」
折角のマーメイドレイズが秒で活躍の場を失った直後、ヴァルキリーとタルボサウルスの進む先にオーロラカーテンが開いている事に気付いた真。茶々を入れてきた光が今以上に楽しそうな声色となっている辺り、どうやら彼女が意図的に開いたらしい。
恐らくそこに思慮や思惑の類いは無い。
面白そうだったから、暇潰しの為に、そんな子供じみた理由で他の世界に波紋を広げるのが九十九 光という女なのである。
▽▲▽▲▽▲
激しい雷雨に見舞われているどこかの海。嵐の真っ只中を航行する一隻の貨物船があった。コンテナが多数積まれた甲板の上は、雨風だけではない音が混じり、俄に騒がしくなっていた。銃声も響いている辺り、どうやら何者かが戦闘を行っているようだ。
その状況を認識し、慌ただしくなっている操舵室の人員と、それを冷笑と共に眺めているアーマー姿が特徴的な七人の兵士、或いは傭兵。そんな中、索敵担当が巨大な何かを捉えた。
「左舷に未確認の大型生物!急に現れました!」
「何を馬鹿な!この距離まで我々に感付かせず泳げる生物が居るというのか!」
「大型生物……?」
「隊長、確認しますか」
「少し待て」
「直ぐそこに!?」
「っ!」
索敵担当の半ば悲鳴じみた声に反応し、窓に視線を向ける七人。
「……?」
「何処に居るって?」
が、そこには何も無かった。ただ雨風が窓を激しく叩いているだけである。そんな馬鹿なと機器を何度も確認し直す索敵担当だが、大型生物どころか甲板の戦闘と嵐以外に音を発している物など無いのだ。
「ノバシェードは随分とお疲れのようだな」
鼻を鳴らしながらそう溢すリーダー格の男。
ビッグ・ノアと名付けられた貨物船の程近くに、索敵担当やリーダー格の男すら気付かなかった異質なオーロラがあった。吹き荒ぶ暴風雨に紛れ、灰色のオーロラはこの世界から消えていたのだ。
異形の恐竜と戦乙女が居た。
そしてこれまた異形の生物───蠍のようなそれと、夢を絶った影なる戦士、そして空を駆けるケンタウロスが大慌てで異形の恐竜をオーロラに押し込んでいた事など、ビッグ・ノア号に乗っていた者達は知る術も無い。
「んー……?」
まだ戦乙女ではなかった頃の女を除いて。
▲▽▲▽▲▽
「恐竜ぅ~?」
「そう!山で足跡も見付かったんだって!」
「足跡が発見されているなら信憑性は高そうね。本当に恐竜かどうかは怪しいけれど……」
「それに、もしコワイナーなら誰かが傷付く前に何とかしないと」
「そうですね!さっそく行きましょう!」
「よーし!恐竜みつけるぞ~!けって~い!」
ビッグ・ノアの前から消えた異形の恐竜は、どうやらこの世界に現れた直後にまた消えたようだ。
ちなみにこの後、五人は完全に別件のコワイナーとメチャクチャ戦闘した。
▽▲▽▲▽▲
「複数のアラガミ?」
「はい。小型が3、大型が2。うち一体はボルグ・カムランと思われる個体だった、と」
「でもミッション発令されなかったよな?」
「何かねー、直ぐに消えちゃったんだって」
「はぁ?消えた?」
「文字通り、出現した直後に消失したらしく」
「身体を構築しきれなかったのか?」
「原因は不明です。ですが、また現れないとも限りませんから」
「だーから待機させられてんのかよ……クッソー、暇だー」
鋭い雰囲気の男、感情の読みづらい静かな少女、パンに何故かおでんを挟んだ物を頬張りながら話す少女に、ニット帽を被った軽いテンションの少年。彼ら彼女らが話題に出しているのは、ボルグ・カムランと複数の未確認アラガミについて。
出現とほぼ同時に消失した謎の存在───というか変異タルボサウルスとヴァルキリー、ウォーホースにダークドリームの目的が不明かつその後の動向も一切掴めないという事で、警戒態勢のまま待機を言い渡されているようだ。
そこに合流してきたのは金髪の美少年ともう一人。どうやら四人の仲間らしい二人も交え、その場で簡易ミーティングが始まった。それを遠巻きに眺めている女性が居る事に気付かないまま。
「ふふっ……随分とお茶目なお客様みたいね。今度はゆっくりとお話してみたいわ、きっと気が合うもの。うふっ、ふふふっ……」
どこか喪服を思わせる服装で車椅子に腰掛けた女性。彼女の瞳は、ここではない何処かを覗かんと開かれているようだった。
▲▽▲▽▲▽
「急に手伝えって……人使い荒いのよ……!」
「しゃあねぇだろ……ッ!あんのバカが思い付きで転移させんだからよォ!」
『私のオーロラにカウンターで別のオーロラを開くとは。真、キミも成長したようだねぇ……私は嬉しいよ』
「おちょくってんのかぶっ殺すぞテメェ!!!」
『やれやれ……副官にぶっ殺すとまで言われてしまったよ。私はとても悲しい』
光が次々とオーロラカーテンを開いた事で、合計三つもの別世界を巡るはめになった真がとうとうキレていた。残念ながら当然、というやつである。ダークドリームも膝に手をつき、息も荒くしている。真のようにキレてはいないものの、こちらも辟易としているようだ。ちなみに一番の功労者であるボルグ・カムランは「仕事終わったので食事に戻りますね」とでも言いたいのか、さっさと呼び出される前の世界に戻っていった。光や真に従いはするが、自分の食事───捕食を優先する辺り光との付き合い方を最もよく理解しているのは彼だったりするのだろうか。
ガギィン!と硬質な音が響く。
シャークドーパントの牙を両刃直剣で受け止めた音だ。火花を散らしながら剣を振り抜き、シャークを地面に叩き付けるウォーホース。無論シャークも振りほどかれる事は承知の上であり、軽々と着地してみせた。
「随分とお疲れみてぇだなァ?」
「上司の思い付きにゃあ毎度苦労させられてんだよ。お前の相手するなら、これぐらいが丁度良いハンデだろ」
「嘗めるなよ馬女ァッ!」
ツクモラボと紛外境は独立位相に存在しており、他の次元や世界とは時間の流れが大幅に異なる。シャークから見ると灰色のオーロラに消えて一瞬で出てきただけなのだが、真からすれば十数分もの間暴走タルボサウルスの軌道修正をし続けたのだ。疲れるに決まっている。
「グラァッ!」
「チッ……!」
地面の中を泳ぐか、水辺以外から現れるサメ映画の能力を使ったのだろう。ロードの血液と体組織で作られた赤黒いアスファルトに潜行し、ウォーホースの背後から飛び出してくるシャーク。後脚の蹴りで迎撃し、肩甲骨辺りから生えているサブアームに能力で生成したマシンガンを持たせて掃射。だが不思議な事に、弾丸はシャークドーパントの身体をすり抜けていく。
「あぁ?ったく面倒くせぇな……!」
「全力で殺してやるって言ったろうが!」
「聞いてねぇよ!」
恐らくはゴーストシャーク、幽霊サメの力だろう。だが生きている人間が変身している以上、無制限に幽体化は出来ないはずと推測しロケットランチャーと狙撃銃を追加生成。手数を増やし、すり抜け能力の限界を待つ方向に舵を切った。
「シンはいつも忙しないね……そろそろ頭の血管切れちゃうんじゃない?っと」
既に何本かブチッていそうな真を一瞬だけ気遣い、死角から迫っていたマスコット人形のような物に裏拳を見舞うダークドリーム。それを操る主にゆらりと向き直り、九十九 光の愉快なツッコミ役から、闇の戦士としての仮面を被り直した。
「意外と好戦的だね。まぁ、それくらいじゃなきゃヒカリが気に入らないか」
「っ……!行きますよ……!」
「良いよ、おいで?」
ひろがる紛外境スカイの下の第二ラウンド
ファイッ
▽▲▽▲▽▲
「しつこい、な……!」
───トリニティィィィィッ!!!
(上を取るか……少しは時間も稼げるはず……)
アクアリウムの水槽を粉砕し、勢いが全く衰えないままトリニティの追撃を続行する暴走タルボサウルス。真っ黒なビル群に突入し始めているのを認識したトリニティは、ヴァルキリーの能力でタルボサウルスの活動可能域から出る事にしたようだ。巨体といえど、裏風都のブラキオサウルス程のサイズはしていないタルボサウルス。ビルに沿って上昇すれば、強靭な脚力もビルを容易に崩す破壊力も発揮するまでに時間が掛かる。
そう考えての行動だったが───
「なっ……!?」
───逃ガサナイィ!逃ゲルナァ!
なんとビルの外壁を垂直に登り始めたのだ。しかもそのボディは、どう見てもタルボサウルスとは異なる別の生物に変異している。
まるで獣のような姿に。
「獣……!そういえば、さっき……!」
麗牙が引き寄せた、もとい光が追加挿入したキメラミックス用メモリの中に【BEAST】メモリが混じっていた事を漸く記憶の底から引き上げた。それが作用し、爪をビルの外壁に突き立てて垂直登攀するビースト形態に変異したのだろう。更に思い返せば、全身に開いた目は【EYES】メモリ、そこから突き出てきた鋭い針のついた触手は【SCORPION】メモリの力と思われる。
「なら……!」
屋上に到達すると同時に、ガイアドライバーtri左側のスイッチを操作するトリニティ。自らの体に溶け込む形で挿入されているメモリの行使───ボディレイズを発動するつもりらしい。スイッチを二回押し込み、励起させたメモリの名をガイアウィスパーが告げる。
【SUCCUBUS】
「これで───っ!?」
───死ネェェッ!トリニティッ!
ドーパントには性器に該当する器官が無い事が殆どである為、ドーパント同士の戦いには不向きなサキュバスメモリ。だが、変身者が生物である以上、生殖欲求というものは確実に存在するのだ。
今回は相手が悪かっただけで。
「ぐっ、うぅっ!」
───刻ム!撃チ抜ク!磨リ潰スゥゥゥ!!!
漆黒に染まった意識、殺意というのは時にどんな欲求すらも抑え込む。サキュバスメモリが持つ能力の一つである「生物を発情させる力」も、複数のメモリがスタンピードしている現在の麗牙には届かない。ちょっとやそっとムラつかせた所で、直ぐに殺意が上塗りしてしまうのだ。
爪を引っ掛けた外壁を足場にしてチャージ。一気に飛び出してきたと思えば、また一瞬にして姿を変えた。複数の脚を持ち、体の後部から多関節の尾を伸ばしたグロテスクな姿。恐らくスコーピオンがメインとなった形態だろう。脚の中でも一際大きな最前列の物、巨大なハサミのようになったそれでトリニティを狙うが、さすがにサイズ差がありすぎて捉えられない。だが一連の攻撃はフェイントだったようで、本命の尾をトリニティに向けていたのだ。それで突き刺すのではなく、なんと針の部分を射出するという予想外の攻撃に出た。
「ッ……!」
(駄目だ、避けきれな───)
瞬時に再生して高速連射できるのだろう。サブマシンガンの如く撒き散らされた針は、最初の物こそ回避されるかヴァルキリーソードで斬り落とされていたが、次第に迎撃が追い付かなくなり、ヴァルキリーの肩と右大腿に加えて左の翼を貫いていった。
「がっ……あっ……!」
───アッハハハハ!捕マエ、タァッ!!!
身体に三ヵ所もの風穴を空けられ、バランスを崩して落下してくるトリニティを絡めとる長い物体。スコーピオン形態から更に体を変異させ、ヴァイパーメモリの能力を引き出した蛇を尾に発現させたのだ。
「直接触ってくれたなら……!」
締め殺そうとでもしたのか、全力で蛇尾を絞る暴走タルボサウルス。対するトリニティが発動したのは、捕まる直前に切り替えていたボディレイズの一つ。ハングリーメモリを使った事で蛇尾のエネルギーを吸収、餓死に追い込むつもりだったが───
(本体に届かない!?)
空気の抜けた風船のように蛇尾は萎んでいったが、ハングリーの飢餓付与能力が本体にまで届いていない。本体と尻尾は別々の個体、そして本体に能力が及ばないよう制御から切り離したと考えられる。そこまで思考を飛ばしていたトリニティだったが、自分を上下から挟み込むように迫る何かに気付き、咄嗟に上方向へのガードを行った。
「またタルボサウルスに……!形態変化が早い!」
再びタルボサウルス形態へ変異し、強靭な大顎でトリニティを噛み砕かんとしていたようだ。防御が間に合った事で上顎の牙は受け止め、下顎は牙の無い部分に足を着けて踏ん張る形でやり過ごせた。
と思っていたのか。
「うっ……!?」
───捕マエタッテ……言ッタァ!
なんと、ビッグタルボサウルスの口腔から人型の上半身が生えてきたのだ。その手には穂先の鋭利な槍のような武器が握られており、ヴァルキリードーパントの生体装甲ごとトリニティの腹を貫いた。
───死ネェ!死ンデ償エェッ!私ヲ見下シタ事ォ!私ノ下ニ這イツクバッテアノ世に逝ケェッ!トリニティィィィィッ!!!
怨嗟の声をあげながら、生体槍を何度もトリニティの身体に突き刺す麗牙。顎を受け止めている両手足の力が緩んだのを認識し、吐き出すようにトリニティを地面に投げ捨てる。
ヴァルキリードーパントの体には幾つもの風穴が穿たれ、見るも無惨な状態になっている。麗牙こと暴走タルボサウルスは、両顎が更に二つに裂け、まるで花弁のように開くというグロテスクな変異を遂げていた。血肉の花弁の中央、めしべに当たる部分から人型の上半身が露出し、保護の為だろう粘液に塗れた一糸纏わぬ姿の麗牙が勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
───ドウ?少シハ理解デキタカシラ?私ガ上、オ前ガ下ダトイウ事!
「……だ……」
───ンン?命乞イナラ遅イワヨ?
「私……手癖悪いんだ……!」
───ガアッ!?
うつ伏せに倒れていたはずのヴァルキリードーパントから発せられたのは、何故か「銃撃音」だった。いつの間にやら右手で保持していたそれを、左の脇を通してノールックで発砲する曲芸撃ちを披露したトリニティ。三点バーストのように連射された弾丸は、寸分違わず露出していた麗牙本体の胸に吸い込まれていった。
「お腹に穴あけてくれたお陰で、これも取り出しやすかったよ」
完全に立ち直り、手に持っていたそれをクルクルとガンスピンで弄ぶ。麗牙にダメージを与えた銃は、どこか注射器のような意匠を持つ変わった形をしていた。
▲▽▲▽▲▽
「アレは……?」
ツクモラボの観戦室では、モニター越しにドゥがトリニティが取り出した得物を訝しんでいた。明らかにドーパントの能力で発現した物ではないし、直前まで手にしていたのはヴァルキリーソードだ。アレはいったい何だと怪訝半分興味半分で身を乗り出す。
「ふっ……!くくっ……!ハハッ、アッハハハ!」
そのドゥの隣で堪えきれずに笑いだしたのは光。彼女の反応を見てドゥも察したようだ。
この女の発明品だと。
「まさか、トリニティくんが持ち出していたとはねぇ!いやぁ本当にまさかまさかだよぉ!だが、それの真骨頂はドーパントでは発揮できないぞぉ?そのままではただのヘンテコ銃だ!さぁさぁどうする!?どうすると言うんだいトリニティくぅん!!!」
▽▲▽▲▽▲
「合わないなら合わせるだけだよ」
何を考えているのか、ヴァルキリードーパントへの変身を解除するトリニティ。途端にドーパント態で修復しきれなかった身体中の穴から血が噴き出す。大量出血による意識消失と激痛による覚醒、ごく短時間でそれらを何度も繰り返しながら、ガイアドライバーtriから引き抜いたヴァルキリーメモリを銃のような武器に装填する。
中央部に何かを挿すコネクタがある銃器だが、光が言ったようにドーパント───ガイアメモリ用ではないのだろう。メモリの端子とコネクタの規格が合っていない。だがトリニティは、それぞれの端子とコネクタを押し潰す形で強引に二つを接続。
【セット!】
一応の固定がなった事を確認し、銃器のカバーパーツを下ろし変形。正に巨大な注射器のような形にした所で、上部のスライドを動かした。すると、コネクタと固定パーツにシュレッダーのような機能が付いているのか、装填されたヴァルキリーメモリが粉々に破砕されていく。ものの数秒で粉微塵となり、元ヴァルキリーメモリだった粒子に、クリアパーツ内に充填された毒々しい液体が混ざり合い準備が完了。
【チェンジング!】
何の準備かって?
それは勿論───
「変身……」
【コンタミネーション!】
銃口の下に備え付けられた鋭い針、さながら銃剣のようなそれを自らの身体に突き刺し、引き金を引いたトリニティ。ヴァルキリーメモリの粒子と毒々しい液体───アーマーインジェクションリキッドを体内に流し込み、内側から所持者を変身させる悪魔のアイテム。強引なメモリ使用にも関わらず、遺憾なく本来の機能を発動したそれの影響で姿を変えていく。
目や耳からは血を流し、空けられた穴からもアーマーインジェクションリキッドが溢れてくる。困惑と驚愕から立ち直った麗牙が踏み潰そうとした時には既に、トリニティの変身は9割がた終わっていた。
【ビヨンドバイオテクノロジー!】
───ッ!?
血とアーマーインジェクションリキッドが混ざり合ったヘドロの山、そこから突き出された片腕でタルボサウルスのストンプが止められている。脚を押し返すのと同時にヘドロが吹き飛び、露になったトリニティ変身態。
【ドープ!】
全身を青という食欲減退色で染め、銀色のドーピングアーマーを各部に纏った異世界産の仮面ライダー。
九十九 光が個人的に手を貸していた、同じ悪魔のマッドサイエンティストの男。その彼から、協力の礼として渡されたデータを基に作られた、ハンドレッドオリジナルの狂戦士。
仮面ライダードープ。
「第二ラウンドだよ。麗牙」
腹を空かせた餓鬼に穴を空ければ、そこから零れ出てきたのは悪魔の注射器。
生きる為に手癖を悪くした経験。
今、それが明確な敵意となって甦る。
【C-Monster】
ビッグ・タルボサウルス形態となった麗牙に複数のメモリを追加挿入して変異させたドーパント。
CはCritical(致命的な)の頭文字であり、タルボサウルスを原型としていながら、文字通り致命的なまでに生物として破綻している。
追加挿入されたメモリを主体とした派生形態を複数持っており、機動力や登攀能力に長けたビースト形態、悪路での安定性と針連射による制圧力に長けたスコーピオン形態など、その手数は非常に豊富。他にもアイズによる索敵、キャトルフィッシュ(コウイカ)の擬態能力、フロッグ(アマガエル)の赤外線放出調整など、光が元ネタとした「とある恐竜パニック映画のキメラ恐竜」に近しい能力を持つ。
強力な反面、コアにして本体である麗牙を一定時間露出して冷却しなければならないという弱点も持つ。複数のメモリが互いに干渉している為、外気で冷やさねば熱暴走を起こして自壊するのである。劇中の「タルボサウルスの顎を花弁のように開いて上半身を露出した姿」は実はクールダウン形態だったりする。
【仮面ライダーハイドープ】
光が「とあるマッドサイエンティスト」に協力した見返りとして受け取った「ベイクマグナム」を我流でアレンジしたアイテム、「ドープシリンガン」を使って変身した姿。
本来はゴチゾウという小型の疑似生命体を使って変身するのだが、トリニティが強引にガイアメモリを装填して変身した為、上位種のような存在となった。
粉々に砕いたゴチゾウに、アーマーインジェクションリキッドと呼ばれる仮面ライダーの生体装甲を形作る特殊な液体をミックス。これを銃剣状の針で所持者の体内に注入する事で「体の内側から変身させる」という人を人とも思わぬ外道の変身システムをしている。
名前の由来は無論のこと「ドーピング」からだが、ハイドープに目覚めているトリニティが変身した事で図らずもダブルミーニングとなった。