汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
消えゆく命がある。
戦争とは斯くも無慈悲で残酷なもの。
それでも人は止められない。
人とはとかく理不尽には敏感なもの。
自身が厚遇されている時には気にしなくとも、冷遇されていると思い込めば、不平不満を抱く。
が、平等にしたらしたで文句を言うものだ。
他者には重責を背負わしたとて、心を痛める事はなく、自身が背負うものは過大に思う。
大切な者を失ったなら、それに悲しみ、嘆く。
その不合理性もまた人間なのだろう。
騎士とは戦う者。
戦うと言えば聞こえは良いが、命を奪う者でもある。
故にこそ、その意味は考えねばならない。
が、騎士とは主君に仕えるものでもある。
騎士の国、グルニア
嘗ては大陸一の騎士団たる黒騎士団を擁し、グルニア騎士と言えば畏敬の念を向けられていた。
⋯だが、
「へ、陛下!」
「⋯⋯何という事か。」
混乱の収まる気配のないグルニア王国。この日、グルニア王は息を引き取った。
後世での評価は散々だが、国王としての最低限の仕事は果たしている。ユミナ、ユベロという世継ぎは残せたのだから。
この事実は、とてつもなく重い。
何せ老齢にあったとは言え、その求心力は確かにあった。
ドルーア帝国に与し、アカネイアを一度滅ぼした。その後の事を考えれば心情的には理解出来なくもない。が、暗君との評価を下すには些か以上に酷であろう。
更に言えば、国王としてユミナ王女とユベロ王子。どちらを選ぶべきなのか。彼は結局最後までそれを決める事は出来なかった。
国内が落ち着いていれば、或いはどちらであってもロレンス将軍が後ろ楯となればどうにかなったやも知れまい。
が、現在のグルニアは控え目に言っても国内が混乱しており、グルニアの桂石とも言えるロレンスの説得を以てしても民衆の怒りは収まる様子はなかった。
加えて、武器や食糧などが外部から送り込まれているらしく一部では暴徒ではなく、凶徒となりつつある。
しかも、それを討伐するのは騎士ではなく兵士が主となっている為に一部の兵士が不穏な様子を見せてすらいた。
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これに対してグルニア王国側の出来る事は多くない。
何せ、民の怒りは正当なものであり、騎士カミュのした事は間違いなくグルニアへの裏切り。
「個人としての正しさを求めたいなら、騎士になどならねば良かっただろうに。」
カミュやその配下の騎士が死んだと知らされても、それを悼む事は許されなかった。
少なくとも、グルニア軍として将軍として、国王として公的にそれを表に出せる筈もない。
加えて、彼等が知る由もなかったが、この暴動は多くの商人達の支援という名の扇動があった。
何せ、アカネイアで事を起こそうにも血の粛清を断行した『暴虐の徒』ラングが幅をきかせている。
それに対抗しているディール、ミニディ両侯爵とて隙が無いとは言わないものの、自身の子にも厳罰を与えている事から決して侮れるものではなかった。
商人達にとっては、あくまでも
オレルアンやタリスは統治者がある程度信用されているからつけ入るには難しく、グラやアリティアでは水面下で動いているのであまり表立って動けない。
マケドニアは国王ミシェイルがアカネイア、アリティア連合との戦いで命を落としている。が、元々国内の経済基盤の貧弱なマケドニア。しかも、
船を出せば余計な経費がかかる上に、マケドニア近海にも海賊は跋扈。
本来マケドニアが治安維持すれば良い話だと考えるも、マケドニア側からすれば国外から物資を得る時にはマケドニアの竜騎士団が護衛に付く。海賊のマケドニアにおける略奪もマケドニア軍は全て対処している。
態々海賊の根拠地に乗り込んでまで対処する必要性はない。少なくともマケドニアはそう判断している。
そして同地にあるのはドルーア。別に海賊対策をするまでもなく、海賊側が手を出せないのだ。
結果、マケドニアでの商売は敷居が高く、当然商人達による策動も上手くいく筈もない。
故にこそ、グルニアに注力する商人が多いのは仕方ない話。
その結果グルニアが崩壊したとしても、商人達には関係のない話でしかなかった。
弱いものは死ぬ。それだけの事なのだから。
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グルニア王崩御。
それはグルニアの存続を危うくする最悪の道筋。何せ、民の不満に対して責を取れる者が相次いで居なくなったと言うことでもある。
最早民の感情を収めるには、誰かが死なねばならない。
しかも、民がそれで納得出来る人物が。
カミュ等は死に、そのカミュを重用していた国王も命を落とした。文官達はこの事態を収束出来るならば、死を厭うつもりはない。
が、民心の離れてしまったグルニアを立て直す事が果たして今の武官達に出来るだろうか?との疑念もあった。
「最早こうなれば、アカネイアに軍を派遣して貰うしかないのではないか?」
情けない事この上ない発言であったが、文官達の間では真剣にそれを議論せねばならなくなっている。
仮にロレンス率いるグルニア軍を鎮圧に動員したとなれば、鎮まったとしても必ずグルニア国内に不和の種が残るだろう。
であれば、いっそアカネイアに兵を出して貰い、その支配を受け入れるべきではないか?
何より恐れねばならないのは、グルニアの分断なのだから。
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「⋯それは。」
文官からの提案を受けたロレンス。彼は反論しようとするも、確かにそうである。と納得もしてしまう。
「我々としては言いたい事は山程ある。
が、今は暴走する民を何とか収めねばならぬ筈だ。」
自国の混乱する鎮められぬ国や軍に存在意義があるとは思わない。が、そうであったとしても自分達の生まれ育った国なのだ。座してただ見ている、と言うのは耐え難いものがある。
しかし、このままではグルニアという国家そのものの終焉すらあり得るだろう。
国の滅び、それはアカネイアやアリティアの先例があろう。
確かに今でこそ、両国は再興しているがそれはあくまでもアカネイアやアリティアという国を思う民あってのこと。
困難なれど、国が必要ならば何時かは蘇るかも知れない。だが、今のグルニアが民に求められている、と思える程に楽観的にはなれなかった。
「⋯民の心が離れた国とはとかく虚しいものなのだな。」
文官との話し合いを終えたロレンスは寂しそうに呟く。
分かっていた筈だった。
大陸の中で最も新しい国家、タリス王国。
ロレンスはそのタリス王国建国に負いて、多少なりとも手を貸している。
確かにタリス王国は他の国家に比べて、軍事力も乏しく歴史もないに等しい。辺境の蛮族と揶揄される事すらあるだろう。
だが、それでもタリス王国は民と共にあるのだけは変わらない。
それに比べて今のグルニアは。
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グルニア王国上層部は穏便な解決を図ろうとしている。
が、実際に民から憎悪や武器を突きつけられる兵士や騎士からすれば、それは余りにも手緩く感じてしまう。
「奴等は武器を取ったのだ。やられる前に」
そう考えてしまうのは避けられない。
本来ならば、それを制止するのがロレンス等の役割なのだがロレンス達とてグルニア建国史上初めての暴挙。それに対して明確な答えを出せずに居た。
そして、何よりも
故にそれは必然だったのだろう。
グルニアの騎士の一人が
グルニアは混迷の度を深めてゆく。
奈落の底へ招かれるが如く。
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「グルニアには思う存分血を流して貰う。
二度と出血の多さで立ち上がれぬ様に。」
アカネイアの将来を憂うラングにとっては、アカネイア貴族も混乱を未だに鎮められないグルニア。どちらも等しく害悪としか捉えていない。
が、別にラング自身はグルニアに何もするつもりなどある筈も無し。
商人とは利益を挙げる者。その為ならば、彼等は火種に薪を焚べる程度の事を惜しむ事はない。その結果大火となろうとも。
商人とのやり取りなど、それこそアカネイア貴族とのやり取りよりも余程多かったラング。彼にとって、商人の動きを読み取るなどさしたる苦労などなかった。
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「グルニアは徹底的にグルニア国内で潰し合って貰う。
されば、グルニアの将来は閉ざされよう。」
グルニアの混乱が他国へ波及しないならば、放置し続けても良い。とすらラングは思っている。
そして、民心が荒れ果てたグルニアに己がアカネイア軍を率いて駐留。そうなればグルニア復興という名目で思う存分グルニアから搾取。それがアカネイアやアリティアの復興の原資となり、己はアカネイア貴族を粛清し、グルニアに苛政を強いたとの評価となるだろう。
「汚名など幾らでも着せるが良い。私の名誉ひとつでアカネイアの未来が買えるならば安いものよ。」
元より己には家を継がせる跡継ぎもなく、信に値した騎士ロジャーにも暇を与えた。
「しっかり富を吸い上げるが良い。
其の富はアカネイア再建の礎として利用されるのだ。」
アカネイア国内において問題視されていながらも、未だにある程度の影響力を持つ
あのハーディン殿なれば、その存在を許しはすまい。
仮に己の思惑通りに運ばなくとも、確実にアカネイアの未来の障害は
命は何れ終わるのだ。
柄にもなく、腐敗貴族と
悪徳領主と揶揄されていた己だからこそ、成せる事。
心残りが無いとは言わぬ。
幾らでもある。欲とは限りなく、故に人は歩み続けられるのだから。
マケドニアルートを書きたくはあるが、まずこのルートを終わらせようと思う次第。
いつ終わるか分からんのが困りものだが(白目)
鋭意、他作品としてグランペルを題材として執筆しています。
相変わらず雑兵として書くつもり。
ゲレタよりも陰惨で残虐に書きたいなぁ、と考えてます。
またその内に後書きで報告します。
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