汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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修正してたので一時的に非公開としてました(n敗) 


揺らぎなき強さ

アリティア王国ではマルスが軍師であるモロドフと最も信頼する騎士であるジェイガンを自室に呼び出していた。

 

 

と言うのも、彼にとっては到底看過し得ない話を聞いたからだ。

 

 

「⋯ジェイガン、モロドフ。

私に報告する事があるんじゃないか?」

明らかに怒気を発するマルス。

タリスへ逃れ、アリティアを取り戻すまで見たことのない雰囲気だが二人は動じない。

 

「心当たりはありますな。

されど、王子。これも国の安定の為にございます。」

モロドフは言い返す。

 

 

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マルスを軽んじている訳では無いが、事実として未だマルスの事を認めていないアリティアの有力者もいるのだ。

 

彼等はそれなりの影響力を持ち、アリティアが迅速に復興する為には協力させねばならない。

地位で懐柔せねばならぬ事もあるだろう。

しかし、王族の一員として彼等を受け入れるにはあまりにも器量や覚悟などに不安があり過ぎた。

 

些か以上に軽率で視野狭窄な面もあるが、その点マリクはマルス王子やエリス様に害となる事はしないだろう。

その一点だけでも、エリス様の伴侶となる資格はある。少なくとも、モロドフはそう考えていた。

 

 

勿論、エリス様が乗り気でないならその時は仕方ないが。

 

モロドフには今の山賊に思いを募らせている様なエリスが好ましいとは思っていない。

恩人ではあるのだろう。王子や王女に何かしらの対価を求めなかったのも人としては信用できるのかも知れない。

 

 

が、あの時までは復讐の為に動いていたと言うのもまた事実。でなければジュリアンをつけ狙う理由がない。

最後は情に流された様だが、いつまた変心しないとも限らない。

 

 

話によればパレス防衛戦の一翼を担ったと言うが、それもモロドフが信用出来ない理由だ。

確かにモロドフの様な軍師はあらゆる策を用いてでも主君や主家を勝たせんとする。

故に必要となれば奇策も用いよう。

 

ある意味異端な考えにも理解あるモロドフですら、ジュリアンから聞いた様なやり方は思い付かない。

 

 

戦いとは互いの誇りの為に命をかけるもの。

しかし、聞く限りのそれは戦いではない。⋯ただの殺戮ではないか。

 

その様な人物を間違っても王子やエリス様の側に近づける訳にはいかないのだ。

当然、そんな冷酷無比にして極悪非道としか思えないやり方を好む人物にエリス様が助けられたなどと。

 

 

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「王子。敢えて申し上げますが、受け入れてはならぬものもあるのです。

王子やエリス様のその優しさや寛容さは必要でしょう。⋯しかしながら、その結果アリティアに害となるならば。」

 

「⋯その為に姉上を助けてくれた事実すらも捻じ曲げろ。そう言うのか?」

モロドフの言葉にマルスの視線が強まる。

 

「⋯ジェイガンもそう考えているのか?」

 

「私個人としてはエリス様を助けて貰った恩を忘れたくはありません。⋯ですが」

マルスの言葉を受けてジェイガンは表情を曇らせる。

 

「王子。王子はアリティアが落ち着けば王となられます。

今とて、アリティアの旗手である事は間違いないのですぞ。状況次第では我等も切り捨てねばならぬ時もありましょう。

感情を殺せ、とは申しませぬ。しかし、全てを救う事は出来ぬのです。」

モロドフは頭を下げながらもマルスを諭す。

 

「⋯分かった。

そのかわり約束して欲しい。かの人物の不利益となる事を此方からしない事を。」

マルスはそう告げ、話を終わらせた。

 

 

 

 

近い未来、この時の事によりモロドフは自死を選ぶ事になるとは誰一人として思っていなかった。

 

 

 

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「アストリア殿が戻らない。

⋯どういう事だ?」

アストリアを村に派遣した貴族は自室で頭を悩ませる。

 

既に半月が経過していると言うのに、一向に音沙汰がないのだ。

 

「仮にもアカネイア一の実力者の筈。たかだか賊如きに遅れを取ることはあり得ぬだろう。」

まさか恋人の所へ行ったのか?

あり得ない、とは断言出来ない。

 

何せあの(・・)アストリアだ。

 

 

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色狂いのミディアと無知のアストリア。

ミディアとアストリアが身分の差を乗り越えて恋人となった頃、二人に対して言われていた陰口で蔑称。

 

 

そもそもミディアが貴族の子女でありながら騎士となれたのは父親や家がそれを許しただけではなかった。

おおよそ形骸化しつつあったが、それでも騎士として受勲されるには技量や知識に家格が必要。

 

その全てを己で揃えたのではなく、父親であるミニディ侯爵が各所に根回しして用意したもの。更に言えば、貴族の子女であれば教会にて教えを受けシスターとなるのが慣例。

そこまで侯爵の手を煩わせておきながら、ディール侯爵の子息であるジョルジュとの縁談にすらも反発。

 

まぁそれでも騎士としての実力があれば或いは許されただろうが、その能力すら控え目に言っても一般的な騎士と変わりない。先王はミニディ侯爵に対する褒美の意味でミディアを聖騎士としたが、その能力は低く統率力にも疑問がある始末。

そもそもの話として、貴族の子弟や一門がその大部分を占めるアカネイア騎士。その中でアカネイア貴族に対する隔意を隠そうともしなかったのであれば、誰もミディアを信用する筈もない。その上あの性格だ。

 

実力があるのならば、兵士も従おうがそれもなかった。

あくまでも彼女が騎士として受勲出来たのは実力ではなくミニディ侯爵の子女であったが為。

 

その上アカネイア騎士全てに当て嵌まるが、実戦経験が乏しい事甚だしく、比較的マシな者達はドルーアを中心とした軍勢によるアカネイア侵攻の際に戦死。

 

 

敵に囚われながらも、アカネイアへの忠を貫いた。

などという美談としてニーナは受け取っているが、トムスやミシェラン、トーマスの様に本来すべきは長い牢での生活により鈍った身体を鍛え直す事。

それをおざなりにした時点で、彼女に対する信用は尽きたと言っても良いだろう。

 

 

故にパレス防衛戦で騎士隊の者達はミディアの指揮を信じようとしなかった。

ただでさえ能力が低いのに、それが鈍ったままで良しとする。その上実家に散々負担をかけ、家の発展にも寄与しようともしない。

そんな人物がアカネイア唯一の聖騎士などと冗談にも程があったのだ。

 

 

腐敗しているとされるアカネイア貴族や一門とて、守るべき筋があった。

家を守り、発展させる事。

ミディアはそれすらも疎かにした。ある意味で彼等の反発は当たり前の事だったのだ。

 

 

 

アストリアは言うまでもない。

アカネイアを守るよりも恋人たるミディアを選び、パレス防衛戦の時点では帰参すら果たしていない。

 

身分違いの恋

などと美化しているが、アストリア程の腕があるのならばアカネイア軍でもそれなりの立場にはなれる。その上で恋仲となれば侯爵とて面目はたった。

 

ジョルジュとの話もジョルジュから断らせるのではなく、己から話を切り出さねばならなかったというのに。ミディアはそれすらせず、アストリアは手の出せない話と傍観した。

 

結果、ミディアはアカネイアの貴族社会から孤立し、アストリアもまた周囲から隔意を持たれる事となる。

それでもアストリアの実力を信じる兵士などがいたから、彼は孤立せずに済んだのだ。

 

 

 

が、それもドルーアやその同盟国によるアカネイア攻撃において失われた。

アストリアに従う兵は最期まで抗い、死んだ。抵抗を続けていたアストリアは恋人ミディアを人質とされた事でドルーアに降る他になかったのである。

 

勿論これは弁明の余地の無い裏切りであり、アカネイアに対する重大な背信行為。

 

その上、アカネイアが再建の為に動き始めていた時に行なわれたドルーアによる再度のパレス攻撃。

そこでも多くの命が失われている。親族や知人を喪った者からすれば、その後にアカネイアへ戻ってきたアストリアはどう映っただろうか?

 

 

挙句、ラングが配慮して席を譲ったにも関わらず、それを放棄しマケドニアへ恋人と共に向かったのだ。

 

この時点でアストリアに期待する者は恋人であるミディアと親友であるジョルジュくらいのものとなった。

そして、焦りを突かれ操り人形となり死んだ。

 

死んだ事は明らかとなっていなかったが、居なくなったとしてもさして誰も惜しまない。その程度の評価にまでアストリアの信用は落ちていた。

 

 

 

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「メリクル無くばさして強くなかったのか?

⋯いや、そんな筈は。」

貴族はそれほどの脅威が潜んでいるとは全く考えておらず、アストリアを派遣した時点で物資の効果的な使い方(・・・・・・・)について考えを巡らせていたくらいなのだ。

 

 

そして

 

「まさか、教会の連中が私を陥れる為に嘘を教えたのか?」

との考えに至る。

 

 

このままだとアストリアを極秘任務に就かせた挙句、貴重な戦力(ただし信頼性は皆無とする)を減らした。そう非難されるのは目に見えている。

この貴族は非主流派であり、ニーナの信頼を受けているミディアの下に甚だ不本意ながらについていた。

 

任務が上手くいけば、不足している食糧などを得る事が出来、それを調達したのはアストリア。自身はその手伝いをした。

そうする事でミディア(忌々しい小娘)にも配慮しようとしていたのだ。

 

 

勿論、言うまでもなくその見返りは求めるが。

 

決して失敗する事なく、他の貴族よりも先んずる事が出来る良策。

そう思っていたところ、まさかの事態。

となれば、この貴族は事が明るみに出れば無事では済まされない。

 

 

別にアストリアが重要な否か、の話ではなく

 

立場を追い落とす方便として使えるのだから

 

 

故にこの男は別の要因(生贄)を探さねばならない。

そこで、自身に情報を寄越したもの、即ち教会のある人物を敵視する。

他責思考と思われるかもしれないが、アカネイアではよくある事。

成功は自分のおかげ。失敗は他人のせい。

 

 

故に男は即座に動いた。

 

 

 

引き金は今此処に引かれる。

 

 

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子爵による教会幹部の殺害。

この衝撃的な報せはまたたく間にアカネイアの朝野を駆け抜け、多くの者は子爵への批判を強め、教会への同情を深め

 

 

 

なかった。

 

 

アカネイア国内においての教会。その大部分が『民を安んずるべき』との本質(建前)を忘れ、如何にして総本山に登れるだけの地位を得るか?そこに拘泥している者ばかり。

有力者の子女にシスターとしての教育を施す時には多くの者が手を挙げる。

 

何せ有力者の子女の師ともなれば、影響力を増す事が出来るから。間違っても『教えを授ける事が名誉』などと殊勝な考えを持つ者はアカネイア(中央の近く)にはいない。

当然その様な者達が民の治療の対価を求めない筈はなく、ただでさえ厳しい生活の中、お布施という名の治療費を求められる。しかも民にとっては高額なことが多い、ともなれば反発を受けるのは自然。

 

 

民は領主と教会から税を取られている。

 

などと人々は口にする程であるからして、その不満は小さなものでは決してない。

何せ教会と国が近いものである事を誰しもが疑っていなかったのだから。

 

 

その為、今回の件は訝しみつつも 

 

「⋯勝手にやってろ。」

という程度の感想しか抱かなかった。教会の思惑とはまるで異なったが。

 

 

 

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子爵の凶行に多くの者は唖然としたが、その中で唯一即座に動いた者がいた。

 

アドリア伯(もうすぐ元となるが)ラングその人。

 

 

彼は速やかに私兵を動かし、子爵を拘束。その上で処刑したのだ。

 

 

教会に対しては凶行を咎めたと

ニーナに対しては罪を問うた、とそれぞれに伝えて。

 

 

 

「使えぬ者も使い方次第よな。」

ラングはそう溢していたそうだが、それは外に漏れる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカネイア王国が終わり、統一国家として成立して更に数百年後、漸く『暴虐の徒』として汚名を残していた人物の名誉が回復される事となる。

 

その根拠となる古びた日誌。

それはかの人物に仕え続け、最期の時まで共にあった兵士の子孫が大切に保管し続けていた。

 

 

「いつか、あの方の名誉を」

その願いとともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守るべき者を守る為に、時に人は誰かを傷つける。

それでも願う明日へ向かう為に

 

 

 

 

別キャラルート ヒロイン

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