汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
ある人物は彼女にこう話したという。
「これは盛大な舞踏会。その舞台には血と涙。
観客は怒りや悲しみの中でそれを見ている。踊り疲れたものは舞台の一部となる最悪の舞踏会だ。
心を強く持て。守るべきものを履き違えるな」
と
「ゲレタ殿
…いや、ゲレタ
公開処刑を終わらせたゲレタにそう声をかける者がいた。
アドリア伯ラングその人である。
「おや?確かアドリア伯でしたな。
申し訳ない。なにぶんアカネイアの貴族と誼がなかったもので」
ゲレタは苦笑しつつ詫びた。
(侮れぬ。
決してこの人物を侮ってはならぬと言うに)
ラングは内心冷や汗どころか脂汗を流さんばかりの緊張を感じながら、己を叱責し、鼓舞する。
先の居並ぶ貴族達とボアの前で行なった事。それをラングはこう受け取る。
我等は立場を認める庇護者、ニーナ様があっての事。
そんな連中が何を偉そうに吠えるのか?
と。
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ラングはパレスに到着するなり、情報を集めさせた。
前王の事や今は亡き王子達の事はある程度把握していても、本来王位継承権の無いに等しい立場であったニーナの事は殆ど知らなかったから。
形ばかりとは言え、仕える身となる以上、その人物を知らぬでは話にもならない。
その上、ニーナをアカネイアにまで戻したアリティアのマルス王子達の事も知らねばならぬ。
利用する為に。
だが、パレス付近での戦闘の詳細を知るにつれて、そんな
マルス王子が全幅の信頼を預け、アリティア軍の中にかの人物をトップとした組織の存在すら誰からも認めさせる異才。その存在を知る事で
第一にパレス周辺のドルーア軍に対して壊滅的な被害を与えたシューターの存在。
シューターとは使い方次第で戦況を左右する兵器である。それは今回実証された。
だが、そのシューターの姿は何処にもなく、パレスに最も近い町の住民達から話を集めても要領を得なかった。
つまり、その兵器による攻撃を指揮した人物。
アリティア王国軍軍師にして、王女エリスの伴侶。ゲレタという人物は欠片ほどにもアカネイアを信用していない。と言うことになる。
ミニディ侯と少しだけ話をしたが、侯はかの人物がタリス王より破格の扱いを受けるに足る人物ではないか?との事だった。
第二に、パレスの城門を守っていたマムクート。
それに対するかの人物の動き。
かの人物は戦場に立つものの、個人としての武功は調べた限りでは出てこなかった。
勿論、自分の手が届いていないことも考えられるが、青二才の部下から
「あの人物が敵の前に出た時、明らかに動揺しておりました」
との話を得る事が出来た。
つまり、かの人物は戦場において、個人の武勇の点ではそこまで注目される事はなかったのだろう。
その人物がマムクートをその手で倒した。
それは恐らく青二才とその部下。そしてその時未だ姿を見せなかった、我等アカネイア貴族に対するものだったのではないか?
それだけの功績を挙げた人物ともなれば、迂闊に非難や批判が出来よう筈もない。
仮にそれを行なったが最後、かの人物よりも高い功績を挙げる事を求められかねないのだから。
眩暈すら覚えた。
何だこの化け物は。これを動かせる程の人物なのか?マルス王子は。そう戦慄もした。
そうであるからこそ、かの人物。
アリティアの軍師であり、王家を支える柱となろうゲレタ卿。
彼に対して誼を通じねばならない。
決してアカネイア貴族が信用ならぬ者達ばかりでは無い事を証明する為に
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ラングが悲壮とも言える決意を以てゲレタとの話に臨もうとしていた頃
「何か申し開きはありますか?
騎士ジョルジュ、騎士ミディア」
ニーナもまた戦いを始めようとしていた。
ジョルジュの
ニーナは頭の中が真っ白となる感覚を初めて経験した。騎士ハーディンが軽挙妄動を慎む様に諭してくれたからこそ、何とか冷静さを取り戻したが。
「ニーナ様のご質問に何故答えぬのか」
私の補佐を務める事となったのは騎士ホルス。アドリア伯であるラングが私に推挙してきた人物で、ゲレタ様の圧力をも伴った問答の末に私の側で働く事を認めた。
「己の見識の無さと覚悟の軽さを実感させられました。ニーナ様の為に、アカネイアの民の為にこの身を捧げる覚悟を以て御信頼に応えます」
と私に騎士として宣誓した人物だった。
それにしても、合流を申し出た時からその雰囲気はありましたが
此処まで見えぬものなのですね、ゲレタ様
「答えぬか!」
ホルスの言葉を聞きながら、私は師匠に内心問いかけたのだった。
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「…アドリア伯。かなりお疲れと見える。
望むなら日を改めても構わないが」
俺は目の前の人物、アドリア伯ラングに対する評価を改めねばならないと感じた。
確かにまださして言葉は交わしていない。
なにも知らぬ者からすれば、ラングの様子がおかしい事に疑問を感じるだろう。
が、貴族たるもの。
責任を負うものならば、その自覚があるならばこうなるのも頷ける。
まぁ本来貴族の成り立てでもないラングがこの様な有り様なのは褒められた事ではないのだが。
己の背負うものの重みを知り、そしてそれが何時失われるか。ラングからすれば、正しく人生の岐路に立っている感覚なのだろう。
だからとて、遠慮も容赦もしない。
今までそれに真摯に向き合って来なかった対価。それをラングは纏めて支払わされているだけなのだから。
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「私は謝罪など必要ない。
そう言っている筈ですが?」
ニーナ様の言葉が玉座の間に響く。決して大きくも力強くもない言葉。
しかし、その言葉に秘められたものは重い。
「騎士ジョルジュ。貴方は確かに他の誰よりも早く
しかし、貴方はアリティア軍へ協力したにも関わらずその指揮下に入る事も、積極的に協力する事さえしなかった。挙げ句、大きな功績を挙げた人物の名誉を傷付けた」
「…申し訳ありませぬ」
ニーナ様はただ事実を述べるのみ。しかし私には処刑前の罪人の罪を述べるものにしか思えなかった。
「貴方は理解しているのですか?
アカネイアは民の信頼を失っている事に。その原因の中に貴方の立ち振舞いも含まれている事を」
沈黙がその場を支配した。
「騎士ミディア」
「…はっ」
「虜囚の辱しめを受けながらも、良くこの二年間耐えた」
「勿体ないお言葉です」
騎士ミディアに対してニーナ様はまずその働きを認めた。しかし、騎士ミディアの顔に明るいものはない。
「しかし、それから解放して貰いながらその者達を侮辱する。
それが貴女の目指すべき騎士の在り方なのですか?」
「…いえ、その様な事は」
「無いと言いますか。
…分かりました。沙汰を言い渡します。
騎士ジョルジュには王家より貸し与えられていたパルティアの返還。そして、騎士として不適格な人物をこのままにしておけば、貴方がアリティアの軍師に言った様にアカネイアへ悪影響をもたらします」
その言葉にジョルジュとミディアは下げ続けていた頭を上げ
「お待ち下さい!
全てはこれからの働きで償ってみせます!」
「それだけは、どうか!」
と声を荒げた。
「ボア司祭、ジョルジュよりパルティアを預かりなさい」
ニーナ様は一顧だにせず、淡々とそれを続ける。
声をかけられたボア司祭は戸惑い動けないらしい。
「ホルス」
「はっ」
ニーナ様の言葉に私はジョルジュの元へ歩み寄り
「全て貴方の行動の果て。
これ以上の醜態は見るに堪えぬ」
とパルティアを受け取った。
「申し訳、ありませぬ」
そんな言葉と共に。
「騎士ミディア。貴女にも沙汰を言い渡します。
今日までご苦労でした。今後貴女を縛るものは何もありません。
恋人と幸せな日々を過ごすなりすると良いでしょう」
こうしてアカネイアから二人の騎士の名が消える事となったのである。
二人が退室しても、張り詰めた空気が緩む事はなかった。
「ボア司祭?」
声をかけられたボア殿はようやく自身のしてしまった事の意味を理解した様だった。
「ニ、ニーナ様」
その顔は蒼白で、明らかに何を言い渡されるのか。理解している表情。
「どうやら長い間の牢獄での生活で、色々と忘れておられる様ですね。ご苦労でした」
「それは!それだけは!
何卒御慈悲を!」
「それには及びません。
貴方も老齢にあり、疲れて正常な判断も出来ないのでしょう?
その様な方をいつまでも用いたとなれば、私も心苦しい」
ニーナ様のその言葉に無言で室内の警護をしていた兵士達がゆっくり動き出す。
彼をパレスから連れ出す為に。
「心配せずとも大丈夫です。
既に総本山には伝えており、貴方を迎えに来てくれるでしょうから」
必死で兵士達に抵抗しながら、ニーナ様に訴えるボア司祭にそう微笑みかけた。
「…ふう」
全ての沙汰を終えたニーナ様は
「ホルス、マルス王子と軍師殿を呼んできて下さい。
今後の事について話し合わねばなりませんから」
と私に命じる。
私は控えている兵士にそれを伝えた。
兵士は急ぎ主命を果たさんとその場を離れた。
私はアカネイアが変わる事をこの時改めて確信したのだった。
やった事の責任は果たしましょう。
失った信頼を取り戻すのは容易ではないが不可能ではない。
その時間を相手が待ってくれるなら、ね?
リンダを書けなかった。
まぁそのうちね?
エリスルートのイチャイチャ(努力目標)
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いる
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いらない