汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
「…ホント、悪辣って表現の似合う人物ねぇ」
アリティア軍輸送隊の責任者のアンナは活気に満ちる町の中で呟いた。
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アリティア軍によるパレス解放。そしてパレス付近のドルーア兵の死体処理。
これはパレス付近の町村の民にとって、この上ない慶事となっていた。
ドルーアによりアカネイアが滅んでも彼等は生きねばならない。
一部の気楽な連中とは違い、自分達は食い扶持を得なければ生きていけないのだから。
アカネイア王家唯一の生き残りニーナの帰還。パレスを解放したアリティア軍の指揮官がマルス王子である事。
彼等にとって、それは気になりはしてもそれ以上の話となり得ない。それにより自分達の命や生活が良くなる訳ではないのだから。
彼等のアカネイアという組織に対する不満…いや、正確に表現するなら、憎悪。
それはアカネイア貴族や騎士の考える以上のものとなっていた。
パレスに近い町にはアカネイア騎士ジョルジュが潜伏していたが、彼は積極的に行動を起こさなかった。
ドルーアに自分達だけでは抗えず、無駄に戦力を失う。その判断によるもの。
しかし、傍目から見れば立派な弓、パルティアを持っておきながら自分達を守ろうともしない薄汚いアカネイア騎士にしか見えなかったのだ。
それでも町の住民からタリス行きを選ぶ者が出ている。それは他ならぬ、アカネイアという組織に不審と不満を溜め込んでいたから。そして彼等はそれを隠そうともしなかったし、他の者達もそれを咎めなかった。
ジョルジュがジュルメと話をしたのは寂れた酒場の最奥。無論色々な事情があったとしても、
自分達が民衆に支持されていない、そう自覚したからこそ人目を避けたと受け取られかねないものであったのは事実だろう。
実際町の者達はジョルジュ達がアリティア軍に参加する意思を示しても、誰も物資などを出さなかったのだから。
勝手にしろ。どうせ失敗するのだから
その様な空気しかなかった故に
しかし、事態は大きく動き出した。
細身の男が町を訪れ、寂れた酒場の主のもとへ向かったのだ。
酒場の主とそこに入り浸っていた者達は男の指示に従い、いつの間にか出来ていたものを引っ張り出すと、そのまま町から離れて行く。
「今暫く辛抱願いたい。
後から人を出すので、少なくても構いません。人手を出して貰いたいのです」
男は唖然としていた町の纏め役にそう言葉をかけて、その場を後にした。
男のその淡々とした物言いと落ち着いた態度に志を動かされ、しかしそんな都合の良い話などない。
そう心に蓋をする。
その後、男達が意気揚々と町に戻ってくるまでは。
男達は何故か運び出したものを上機嫌に解体し始める。
その理解できない行動に思わず
「何があった?」
と問い掛けるも
「危ねぇからどいてろ!」
相手にされる事はなかった。
酒場の主から
「あの人の言う事は聞いとけ。
悪いことにはならないから」
そう言われ、半信半疑ではあったが、人手を集めるべく声をかけて回った。
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町は活気を取り戻した。
人手を回した結果、行った者達は剣や鎧などを手に戻って来たのである。所々血に汚れていたが、その程度問題にもならない。
が、それはそのまま売ってはならない。との事
困惑する者達と、相好を崩す者。
「それを溶かして武器や防具にする。そんなところだな?」
「それを王国が買い取る。…誰が考えたのか知らないが良くできたものだ」
鍛冶師や武器屋は
「もう少しの辛抱だ。また元のようになる!」
と楽しそうに声を上げた。
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「理解はできるのよ。
でも、それを躊躇いなく実行するのだから、敵にしたくはないわね」
アンナは町を歩きながら、人々の何気ない会話にも注意を向ける。
大陸一の弓使いジョルジュ。彼に対する苛烈とも言える処罰に此処では一切の批判や非難は見られない。
それどころか、厳罰を決断したニーナ王女に対する期待や今後のアカネイアへの明るい希望が見え隠れしている程だ。
無理もない。一年以上潜伏して何もしなかった人物と鮮やかに自分達の生活を救ってくれた人物。前者に同情的になれよう筈もないだろうから。
それに加えて、アンナも個人的に気になっているシューター。その情報は全く出てこない。
「後始末も抜かりない、か」
叶うならば、その製法を調べて商売の種にしたかったのだが
「鍛冶師が真っ先に燃料として使ったんじゃ、どうしようもないわ」
これはゲレタが指示したものではないが、鍛冶師はこれから多くの鉄を溶かし、武器や防具として打ち直さねばならなかった。そこで酒場の主であるタリスの職人が餞別としてそれらを渡している。
勿論、作り方がわからない様にしっかりと解体して。
「………はぁ」
アンナは深い溜め息をつくと
「もう少し貴方と前に会えていたらね」
何かを惜しむ様に呟くのだった。
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「それで?俺が受け入れる理由も義務もないと思うのだが」
「それは重々理解しているつもりです。
己の思慮と見識が足らず、この様な結果となった。それは私の未熟故の事と」
「別に弓兵はカシムとクライネ達で事足りている。
何故俺なのか?マルス様に従い、戦えば何れはニーナ様からの信用は取り戻せよう」
ゲレタのもとにひとりの騎士が訪れていた。
…いや、正確には元騎士か。
大陸一の弓使いジョルジュ。
中々に
その人物がまさか来るとは
(面倒みきれるかよ)
ゲレタは内心苦虫を噛み潰していた。
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「失礼ながら、ジョルジュ殿。
我が主君ゲレタは貴方にかける時間など持ち合わせておりません」
ゲレタの側に控えるエレミアは切り捨てた。
「それにアカネイアの騎士でも兵士ですらないあなたが何故此処にいるのでしょう?
此処はアカネイアの中心、アカネイア・パレス。まずはどの様にしてこの場にいるのか?
それを説明するのが筋ではありませんか?」
エレミアの言葉にジョルジュの表情は強張った。
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「パレス解放誠におめでとうございます。
我等教会一同、お喜び申し上げます。また本来なれば、もっと早くにお目にかかり、言上申し上げるべきでしたが、この様な事となった事を深く御詫び致します」
教会からの使者がニーナの前で恭しく頭を下げた。
「ボアの後任については」
「無用です」
ニーナははっきりと宣言した。
「…今、なんと」
「ニーナ様はボア殿の後任は必要ない。
そう申されたのだ」
唖然とする使者に近衛のホルスが告げる。
「し、しかし」
「ボアは自身の職責よりも、縁故を取りました。
故に私は必要ないと判断したのです」
ニーナは毅然と断ずる。
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本来ボアはミディア、つまり騎士に対する権限は持ち合わせていない。
故にゲレタへの発言である
「ミディア殿には必ず騎士カシムとその主君であるゲレタ様に謝罪するように説得しますので」
というのは彼の職分を逸脱した行為なのだ。
正確には、釈明したと受け取られかねないその行動。
他国の人物であるゲレタに対して『国内の祭事を担当する』者が迂闊な発言や行動をして、それが拗れたとしてもボアには責任の取りようがない。
あの場にて発言すべきなのは、ミニディ侯爵ノアとディール侯爵シャロンのみだったのだ。
ボアはあくまでもその場に居たのはミディアの発言を証言させるもの。
それ以上の役割は必要ないのだ。
事実確認の証言だけで良かったのに、ボアはミディアの側に立って弁護をしてしまう。
そして、ボアはその致命的な過ちに最後まで気付く事はなかった。
その為、越権行為。しかも他国の王族の一員となる人物への配慮に欠けたもの。それが問題視された。
それだけの事
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ホルスの口より告げられた想像よりも遥かに危険な事実に使者は
「申し訳ありませぬ。
ニーナ様のお怒りは尤もな事」
ただ平伏する事しか出来ない。
「ニーナ様も教会の必要性を否定されておられる訳ではない。今後も儀礼や祭事の取り仕切りは任せる。
が、此度の事はしかと理解し、同じ事の無い様に努めて貰いたい。貴族達の目もある。その為、暫くの間はボア殿の後任は定めない」
「…承知致しました。
ご信任頂くように努めて参ります」
その言葉に使者は呻くように返答するのだった。
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マルス達がパレスを解放し、ニーナとハーディンはアカネイア再建の為に離脱する事となった翌日。
「エスト!」
ミネルバ配下の最後のひとりがアカネイアへと辿り着く。しかし、その表情は暗い
後の歴史家はこう記す。
マケドニアの若き竜はこの時喰らい合う事が定められた、と。
選択の重みを突きつけていくスタイル。
責任の重さを忘れると、凡て軽くなりますからね。
エリスルートのイチャイチャ(努力目標)
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いる
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いらない