汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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エスト回

短いよ


願いと想い(戻らぬ景色)

ミネルバから兵をマケドニアに引き上げる命を受けたエストはその任を果たした。

 

彼女は兵を無事マケドニアに戻すと、すまなさそうに各自所属する部隊への帰還を命じる。

 

彼等はまだミネルバ達がマケドニアを裏切っているなどとは思っておらず、それ故にその奇妙な命令にも大人しく従った。

まさかマケドニアの王女の腹心とも言える彼女がマケドニアを裏切る決意を固めている。などとは思えなかったのだろう。

 

 

「…さようなら」

もう自分はこの国に居られないし、戻れない。

そんな予感が彼女にはあった。

 

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パオラは個人の武勇に優れ、そして部隊の指揮も得意とする。

カチュアは姉パオラよりも技量の面で優れ、エストは三人の中で最も勘の鋭い人物だった。

 

ミネルバがエストにマケドニアへ戻す部隊を任せたのは、この類い稀なる感覚があったからこそ。

 

 

それを手放したからこそ、ミネルバ達は今までの幸運のツケを纏めて支払わされた。とも言えるかも知れない。

 

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とは言え、エスト達は理解していなかった。

マケドニアは彼女達が思う程優しくも、甘くもなかった事を。

 

無理もない話だろう。本来マケドニアは自軍であり、敵対する、等という事はあり得ない話なのだから。

 

マケドニアを裏切る、という選択さえしなければ。

 

 

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元々マリア王女をドルーアに委ねたのは、前線指揮を任されていたミネルバのオレルアン攻撃の不徹底。その責を取る為のもの。

 

ドルーア側は誠意を示したミシェイル王。そして事情を察して大人しく囚われる事を受け入れたマリア王女。この二人に対しての信義の証として、ディール要塞の守備にそこまでの兵を回さなかった。

 

それをミネルバ達はまた裏切ったのだ。

 

 

 

 

仏の顔も三度まで

 

本邦において、この様な言葉がある。

これは

 

幾ら聖人君子であろうとも、我慢する(機会を与える)のは二度まで。

と受け取れなくはないだろうか?

 

 

しかもミネルバ達は裏切りと言う同じ事を繰り返した。幾ら王女とそれに従う騎士とは言えども、一度失った信頼は容易に取り戻せるはずもない。彼女達の動きはミシェイルとしても注視せねばならなかったと思われる。

 

 

当然だが、ミネルバの元へと戻ろうとするエスト。

彼女がマケドニア軍に追われない理由はなかった。

 

 

 

----

 

 

「…そうか、それがアレの選ぶ道か」

彼女は怒りに燃える白騎士団とルーメル率いる竜騎士団に包囲され、拘束。

そのままマケドニア本国へ連行された。

 

白騎士団とはマケドニア軍における天馬騎士による集団。つまり全員女性であり、それは国王ミシェイルが自分達よりも同性のミネルバに従った方が心理的な抵抗や負荷が少ないだろう。

そう考え創設された部隊なのだ。

 

それは破格の扱いであった。それを自覚している白騎士団の者達がその信頼を裏切ったミネルバや三姉妹を許せる筈もなく、殺しかねない彼女達をルーメルが制止。そうでなければ、彼女の命はなかっただろう。

 

が、ルーメルは王命として命じられたのだ。

 

 

 

「ルーメル。騎士エストをその命奪う事なく、その身を守り、此処へ連れてこい」

それがどれだけ難しく、そしてルーメル達の身を危機に晒すものであるのかを理解していながら。主君はそれを望んでいたのを。

 

 

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そしてエストはミシェイルの前に連れてこられた。

勿論、縄で全身を拘束されており、この場に居並ぶ者は誰一人として彼女に同情的な視線を向ける事はない。

 

「アレを好きにさせ過ぎたな」

ミシェイルの言葉にエストは反論も顔を俯ける事さえ許されない。

 

 

「…それで、これからどうするつもりか?」

その声には隠しきれない疲労と、失望の色があった。

 

「……ミネルバ様のもとに行き、お守りします」

エストのその言葉に周囲からの視線は更に強まった。

仮に視線で人を殺せたならば、エストは即死していただろう。

 

「……好きにせよ」

エストはその声に驚く。

 

「分かっているだろうが、アレもアレに従う者もこの国に居場所はない。

家族が己の行為の果てに、命を落とす事も覚悟していような」

 

「……はい」

残酷ではあるが、当然でもある。

王女に従い、三人も騎士として引き立てられた。それは他に類を見ない程の名誉であるが、裏切ったとなればその名誉はたちまち汚名へとその姿を変える。

 

「既に皆死んだ。生きてなどおれまい。

それが行動に対する対価だ」

エストは必死に溢れ落ちそうになる涙を堪える。

そうだ、私や姉さん達だけの話になるなんて事はない。そんな当たり前の事すら、自分達の頭の中にはなかったのだと。

 

「アレに伝えよ。

戻る道も帰りを待つ者すら失った未熟者に出来る事があるのなら、やってみせろ」

 

「ルーメル、国境まで送れ。

決して殺す事や痛める事は許さぬ。

…お前達の手はその程度の事(・・・・・・)で汚せるものではない」

 

「…はっ」

 

 

 

そして、エストは国境で放逐されたのだ。

 

 

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「…そうか。

すまなかった、エスト。そして良く生きて帰ってきてくれた」

エストの報告(慟哭)を聞いたミネルバはそう声をかけるしかなかった。

 

(戻る道も帰りを待つ者もいない。当然だな)

泣き崩れるエストに声をかけるパオラとカチュアを見て、ミネルバは改めて自分のした事の重さを突きつけられた気がした。




祖国を裏切ればこうなるよね?

それでも進むと決めたのは貴女達なので、誰も止めないよ?



実際原作第二部でのミネルバの扱いは普通にあり得る話だし、エストがアベルとマケドニアを離れたのも仕方ない事だと思うの。

だって、彼女達が戻ってきても(・・・・・・)誰も喜ばないし、浮かばれないと思うので。
まぁ騎士とて、それはどうかと思わなくもないけどね。


勿論、マチスとレナの家族も死を選んでいる事でしょうね。当時は王子だったかもしれませんけど、王族との話を断り、恐らく跡取りであろうマチスも裏切った。
生きる事を選んでも、生き地獄待ったなし。



あらすじに今後の事について追加しました。

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