汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
この変化が後悔のないものとなる事を祈るばかりです。
「まぁ、そうだろうよ」
エストが持ち帰った話を聞いたゲレタは皆の前であっさり流した。
流石にその態度は如何なものかと、口を開こうとしたが
「戦争なんざ、畜生どもの殺し合い。その事にすら理解が及んでいない奴がいる方が不思議なものだが?」
その言葉に動けなくなった。
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「分からないものだ。裏切るとはそういうものだろう?…まさかとは思うが、敵と味方が入れ替わる。その程度ですませられると思っていた。
んだろうなぁ。」
心底呆れた様子を隠そうともしないゲレタ。
「…分かっていたのですか?」
俯きながら、声を絞り出すパオラ。
「それこそ愚問だろうがよ。
仮にもパオラ。お前達はドルーアに与してアカネイアと戦っただろうに。
その時、マケドニア側に一切犠牲はなかったのか?
オレルアンを攻略していたマケドニア軍は壊滅させた。…その犠牲に何も感じなかったのか?」
その言葉にミネルバ達は悲鳴にも似た声を小さくあげる。
「マチス。お前は見ただろう?
裏切ったお前を事切れるその瞬間まで憎悪に染まった瞳で睨んでいたものを」
「彼等はお前達の裏切りだけに怒ったのではない。
その戦いまでに命を落とした者全ての献身を裏切ったからこそ、そうなっただけだ」
「人と言うのは不思議なものでな?
己の近しい者達が傷付き、倒れたならば。それに見合うだけのものを無意識に求めてしまう。
それは時に強さとなり、またある時には弱さともなる。
だから」
「だからこそ、戦争は終わらない。「終わらせてしまえば自分達の親しかった者達の犠牲はなんだったのか?」
そのほの暗い感情が残り続けるからな」
「パオラとカチュアにエスト。マチスとレナ。
厳しい事を言うが、彼等は死ななければならなかった。それ以外で彼等は自分達の責任を果たす事が出来なかったのではない。
大切に、大事に育て見守ってきたからこそ、娘や息子が周囲から憎悪を向けられ、苦しみ、悲しむ姿が見ていられなかった」
「裏切った者は信頼されることはない。
一度裏切ったのだ。いつまた裏切るのか分かった者ではない。そう思われて当たり前。
この軍が寧ろ特殊なだけ。裏切った者に味方は居なくなる。居たとしても、最後まで付き合ってくれるかどうかは分かるまいよ。
全てが敵となり、全てを疑わねばならなくなる。
だからこそ、俺はそういった者達にキツく当たる」
そうしなければ、組織として成り立たないのだから。
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「グラ王国の国王ジオル。
彼のした事の是非は置いておくとして、友軍であったコーネリアス王率いるアリティア騎士団を彼は裏切り、そして滅ぼした。
それに対して同情的な意見は不思議と出てこない。
なぁ、ミネルバ王女。聞かせてくれるか。
貴女達のしたことと何処が違うのか」
ゲレタはそう問いかける。
「エスト以外には見せた筈だ。
パレス付近での一方的な戦闘。…いや、あれは戦闘と呼ばんだろうな。この大陸の常識で考えるなら」
「それは、そうですな」
ゲレタの言葉に控えめだが、ジェイガンは同意する。
「今やっているのを戦闘と言うものがいる。
ならば言わせてもらいたい」
ゲレタは語気を強め、
「そんな寝言を宣うのなら、
その身に纏う鎧は誰が作る。その手に持つ武器は誰が鍛える。
食べるもの1つ育てられず、守るべきものの本質を見失うなら、そんなものに価値なぞないと思うが、どうかな?
先のパレス付近での戦闘。一方的に殺戮する、無慈悲で誇りとやらの介在しない戦い」
それは謳う様に
「国を裏切ったのだ。
嘲る様な口調だった。
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「それに」
エストは目の前の人物が恐ろしいものに思えた。
「君達の目指す未来。そして、それに至る為の道筋。それを教示して欲しいものだ。まさか、無い等とは言うまい?」
それは、まるで目に見えない刃を突きつけている様に思えたのだから。
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「マルスはアリティアの解放を望んでいる。
それはマルスと初めて出会った時から何一つ変わっていない。
…俺はその時に聞いたのだ」
マルス王子はアリティアをどうしたいのか?と
その言葉にマルスとエリスは懐かしそうな表情を浮かべ、殆どの者は息を呑んだ。
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「…どう、ですか?」
ゲレタの言葉にマルスは戸惑いを隠せない。
「失礼な事とは存じます。しかし、それでも聞かねばならぬ事だと思いまして」
同席していたジェイガンはどうするべきか迷った。
目の前の人物はエリス様を無事にこのタリスまで連れてきた恩人に他ならない。
その上、エリス様はこの人物を好ましく想っているのも理解出来る。
アリティア近郊から、このタリスまで。しかもこの人物からは武を嗜んでいる感じはしなかった。
となれば、武よりも知に秀でる者であると考えるのが自然。タリス王との謁見でも、これまでの立ち振舞いでも確かな知性を感じられる。
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「ゲレタさん。マルスもジェイガンも貴方のそれには慣れていない。
もう少し噛み砕いて聞いてはどうかしら?」
エリスの言葉に
「言葉が足らんかったか。
柄にもなく緊張していたらしい。申し訳ないマルス王子。
私としては、アリティアを取り戻してからが寧ろ本番だと思うのです」
ゲレタはそう恥ずかしそうに、だが真剣な目でマルスに問い掛けたのだ。
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「あれから兄上から様々な事を教えて貰いましたね。
今思い返すと、どれだけ私達が民の事に無関心だったのか思い知らされます」
マルスはあの時の事を思い出したのだろう。苦い表情を隠そうともせず口を開く。
「無理もない話ではあるんだがな。
跡継ぎであるマルスともなれば、近くに置ける者も選ばざるを得ない。自然身分の保証がしやすい者でなければ万一の事もあり得るからな?」
王子や王女ともなれば、それこそ幼少の頃から様々なところに気を遣わねばならない。
その者が暴君となるか、名君となるかは教育にこそかかっているのを周囲の者達も知っているから。
故に、身分という身元証明書とも言えるものの価値は高い。
「仮に俺が彼女を助けたとしても、アリティアでの話だったらこの様な事にはなっていなかっただろうよ」
その冷淡そのものとも言える言葉にミネルバは驚愕する。
「しかし、エリス王女の命を助けたのでは?」
「多くの貴族や騎士からすれば、『国や王族などを助けるのは当たり前』って意識が根強いからな。
良くてアリティアから放り出されるか」
「放り出されたとしても、生きていなかっただろうよ」
さも当たり前のようにゲレタは口にしたのだった。
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「
幾ら
国王は未来図を臣下に示し、臣下はそれを理解し納得した上で民に広めるべき。
グラを見ろ。国を滅ぼさない為の決断であっても、民どころか、王女すらそれを良しとしない。
ドルーアについた筈なのに、グラは身動きが取れず、近いうちにドルーアから見捨てられるだろう」
「ミネルバ王女。貴女はミシェイル王を
国を裏切った。これは何を言おうと決して覆らない事実。
しかし、貴女達の居場所を守る方法もある」
ゲレタの言葉にパオラとカチュアはゲレタを見る。
「皆殺しにすれば良い。自身に反対する者その全てを。なれば貴女達は誰からも謗られないでしょう」
ちょうど良いと思い、急遽投稿しました。