汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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恐らく近日中にこのルートは完結します。



決断

「アリティア宰相でアカネイアの特使?」

ロレンスは自分の想像になかった言葉に戸惑う。

 

目の前の人物はタリス王の親書を携えて自分の所へ来た。つまりタリス王とも繋がりがあるのは確実。

更に混乱を加速させるのが、側にいるマケドニア王ミシェイルの存在だ。

 

「…何故門番にそれを伝えられなかったのでしょうか?」

この人物の言うことが真実とすれば、グルニアのいち将軍に過ぎない自分に会う理由が思い付かない。

それは明らかにおかしい話としか思えなかった。

 

しかし、それをロレンスが持つ親書の内容が否定する。

 

 

 

「アカネイア女王であるニーナ様より、グルニアへ一度使者を出したと聞き及んでおります。

ミシェイル王に出した使者と同じタイミングで。ですが、グルニアからの色良い返事は頂けなかったと」

その言葉にロレンスの表情が強張った。

 

 

 

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「ニーナ様よりの提案は

パレスにおいて、今後の大陸の未来について話し合いたい。とのものでした。

ミシェイル王はこれに応じ、パレスへ護衛を連れて参られた。そう聞いております」

 

「…うむ」

つまり、パレス(死地)であろうとも、護衛を帯同する事は認められていたという事。なれば、受けぬ理由が思い付かない。

 

「ただし、グルニアにはマケドニアと違い条件がありました。恐らくこれを受け入れられなかったのではないか?と考えますが」

 

「それは、何か」

 

「パレス攻略の際にグルニアが手に入れたであろう神器。メリクルとグラディウスの持参です」

その言葉にロレンスの目に力が籠った。

 

 

 

 

「それはあまりにも傲慢ではありませぬか?

我等グルニアはそこまでされねばならぬと」

 

「ならぬから、そう要求された。

そう言わねば理解されぬか?」

ロレンスとゲレタは言葉をぶつけ合う。

 

 

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「愚かな事だ。

では、ロレンスとやらに聞くが」

ミシェイルが口を開く。

 

「その為にグルニアを滅ぼしても構わぬ。

そう貴殿は考えるか?」

ミシェイルの指摘にロレンスはたじろぐ。

 

「…それは」

答えられる筈がない。この場にいるのはアリティアの宰相でありアカネイアの特使とマケドニアの王。

 

今更ながらに気が付いた。

常の様な問答はそもそも許される事ではなかった事に。

 

 

「ミシェイル王、宜しいのです。

であれば、ロレンス将軍」

 

「グルニア王との謁見を申し入れる。

…無論、受けてくれるな?」

断る事は出来なかった。

 

 

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「遠路はるばる恐れ入る。

ニーナ様よりの使者と聞いたが、どの様なご用件かな」

グルニア城の謁見の間。そこにゲレタとミシェイル。そしてグルニア王と彼を支える武官、文官が勢揃いしていた。

 

「先の返答について今一度グルニアの意思を確認したく参りました」

 

「…うむ、ニーナ様の温情を蔑ろにしたのは申し訳なく思う。しかし、それは受け入れられぬ」

 

「理由をお伺いしても、宜しいか?」

グルニア王の言葉にゲレタは説明を求めた。

 

「陛下に代わり申し上げる。

メリクルとグラディウスは確かにアカネイアの神器と理解はしております。なれど、我等グルニアはアカネイアの臣でもなく、降伏した訳でもありませぬ。

であれば、引き渡す理由はない」

グルニア王に代わり武官が発言する。

 

「道理ではありますな。

ですが、ひとつだけ」

 

「何かね?」

 

「現在アリティアを中心として、対ドルーアに対する準備を各国が協力して進めております。

勿論、この場におられるマケドニア王の同意も取り付けております。

故に、グルニアにお願いしたい。

…この戦いは互いの誇りと未来をかけてもの。

手を出さないで頂きたい」

 

「それは、どういう事なのか?」

 

「申し上げる必要はない。そう判断しました」

グルニア側の質問を一刀両断するゲレタ。

その態度にグルニア側がざわつく。

 

 

「此方からは一度ならず二度申し上げた。

その理由を詳しく聞くこともなさらず。…なれば今更話をして協力を意思を示されたとて

如何ほどに信用出来ましょうか?」

 

「ニーナ様の命を受け、私はこの場におります。

しかし、これが尋常ならざる状況にある。その事はこの場に居られるマケドニア王の存在が示しておりましょう。その上、私はタリス王の親書をロレンス将軍に手渡し、それは此処にいる方はご存知の筈」

ゲレタのその発言に文官達は顔を蒼白にする。

 

「ここまでの情報はお渡しした。

それでもなお、自国の信念に生きられると仰られるならば、私はニーナ様に此度の話は不首尾に終わった。

そう報告する他にありますまい」

 

「お待ちください。恥ずかしながら、ロレンス殿の話は我等にとって初耳にございます。

今暫く時間の猶予をお願いしたく」

ゲレタの言葉に土下座せんばかりの勢いで文官の一人が懇願した。

 

 

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勿論、これは彼の文官としての立場すら失いかねない行為。他国の、しかも再度訪れた使者に対して発言出来るだけの地位を男は持っていなかった。

その上、ゲレタに言った事は虚言。実は多少とは言え、彼等文官も話は聞いていたのだ。

 

その上で、武官の判断を追認。結果それがグルニアの総意となっている。

 

 

が、明らかに自分達が予想するよりも状況が変化している事を今更ながらに察する事が出来た。

それに復興の兆しを見せているアカネイア。各地のマケドニア、グルニアそしてドルーア軍を撃破し、遂にはアリティアを取り戻したアリティア。戦火が及ばなかった事でオレルアンやアカネイア、そしてアリティアに支援を積極的に展開しているタリス。

その三国が緊密に連携している可能性は目の前の人物によりほぼ確定した。

 

ここまで来るとオレルアンが無関係と思うのは難しい。とどめにこの場で沈黙を保っているマケドニア王もいるとなれば、マケドニアもアカネイアに与している。他ならぬ目の前の人物の発言とマケドニア王の態度がそれを雄弁に物語っているのだ。

 

それはつまり、グルニアは孤立していると言っても過言ではあるまい。

既にドルーア側からの使者は訪れておらず、武官達はドルーアとの決戦に向けて動いていた。

その為、メリクルとグラディウスを手放す訳にはいかない。という事情があった。

 

だからと言って、大陸からグルニアが孤立してどうにかなるとは思えない。

武官達は頭を下げる筈もなく、カミュやロレンスはその支持故に迂闊に発言も難しい。陛下に謝罪させるなど論外であるならば、こうするしかなかったのである。

 

 

 

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「此方が言うことではなかろうが、信用ならぬ者を味方につける必要はないのではないか?」

一時謁見を中断する事をゲレタが受け入れた事でミシェイルはゲレタと共に来賓用の部屋に通された。

部屋の前には恐らくグルニアの者がいるだろうが、ミシェイルは構わずゲレタに問う。

 

「あくまでも、グルニアに求めるのはメリクルとグラディウスの返還のみ。

元よりそれ以上の事は期待しておりませんよ」

ゲレタは心底面倒くさそうな表情で答える。

 

「その程度か」

 

「ミシェイル殿には耳の痛い話となりますが、マケドニアはミネルバ殿達の協力という確かな功績があります。故に周囲が騒いだとしても、それは説得できる話に収まります。

ですが、グルニアはそうではない。強いて言えば、騎士カミュの行動となりましょうが、その後の中途半端な行動のせいで信用を落としております」

 

「一度信を失えば、それを取り戻すのは容易ではない。ましてや、かの人物の様に自身の支持者を連れているとなれば、尚更。

それが本人の意思であるかどうかは関係ない。どう見られているのか?

それを理解しなくば、いずれ居場所を失いましょう」

ゲレタはそう言いきった。

 

 

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「どうするのだ!事は貴殿らが思う以上に深刻だぞ」

 

「しかし、渡す訳にはいくまい。

何らかの見返りを」

激昂している文官に歯切れの悪い武官達。

 

「見返りだと!

今更そんな話が通ると思っているのか!

我等グルニアは孤立しているのだぞ!」

憤懣やる方ない、そう言わんばかりの形相で詰める文官。彼等からすれば、この様な状況を避けるべく腐心していたと言うのに、グルニアは明らかに追い詰められている。

そもそも騎士カミュの勝手な行動の結果、此処まで状況が悪化しているのだ。文官からすれば、民を宥めるのも限度があった。

 

特にワーレンにおける大規模な戦闘の結果、騎士カナリスを始めとした甚大な犠牲を出している。

当然遺された者達からすれば、それだけの犠牲を払った。にも関わらず、未だにグルニアは戦争を止める事が出来ないとなれば、国への不満や不信は高まる一方。

 

またそれでもグルニアの象徴たる黒騎士団が動いていれば、ある程度はどうにか出来た。

しかし、国王陛下は黒騎士団を他国へ派遣する事を認めていないときた。

 

そして無駄に時間をかけた結果が、これだ。

王の為、国の為に必死になって駆け回っていた文官達の怒りはそれこそ身内を失った民に勝るとも劣らないもの。

 

 

「であれば、何とするのか!

我等の状況が貴様らには正確に理解できておるのか!

国内の人が減り、辺境の部族の活動が活発になりつつある。騎士団はドルーア征伐などと夢物語を語る暇があるならば、国内の治安を回復してはどうなのだ」

 

「う、うむ。それは」

勿論、その怒りの矛先は武官のみならず、前線で指揮をとっている者達、つまりカミュやロレンスにも向けられる。温厚な性格である彼の怒りの程は凄まじいものがあり、ロレンスもたじろいでしまう。

 

「カミュ殿!ドルーアを倒すとの事だが、いつそれは成せるのか」

 

「…相手が相手だ。

直ぐに攻めかかる事は」

 

「私はいつ終わるのかと聞いている!

いつまで民に負担を強いれば気が済むのか!」

カミュの言葉に怒りを隠そうとしない。

 

 

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「落ち着かれよ。気持ちは我等も同じだ」

制止の声をかけたのもまた文官だった。

 

「叱責や詰問は後でも出来る。

我等とて言いたい事は山の様にある。が、今は使者を待たせている。

しかも、明らかに我等に対する興味を失っている者が。

 

…陛下、今一度考えねばならぬのではありませぬか?」

その言葉に皆が唸った。

 

 

 

 

 

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「マルス様、私は」

 

「…マリク。私は」

 

 

 

人は力を求め、明日を渇望する。

誰かの希望は、別の者の絶望。

 

 

 

ある者は願う、守りたいと

ある者は立ち上がる、共に在りたいと

 

 

目指す未来(明日)は同じでも、道筋は異なる。

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

心と力

 

 




そろそろこの小説も一年になります。

まさか、此処まで長く続けられるとは思ってませんでした。


これも皆様のお陰と改めて感謝を噛み締めながら、物語を紡ぐ事で少しでもお返しとなれば幸いです。






気にしてる方が多いチキについては、もう少し待って欲しいのじゃ

エリスルート完結記念の外伝

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