汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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エリス編、最終話です。








注意、今話『とある武器』がナーフされています。
理由は後日談にて


汚泥の中でも

「クククク」

モーゼスは笑いが抑えきれなかった。

 

 

 

ゼムセル達と戦うヒト。

なるほど、確かに個々の力は見るまでもなく我等が勝ろう。

 

が、それがどうした?

時折落ちてくる巨石。連携して急所を狙う弓兵に、仲間を助け、中空に逃れる竜騎士や天馬騎士。

 

魔力を纏う剣を振るう剣士や傭兵。

神器(ナーガの遺産)が無かろうとも、挑むヒト。

 

既に多くの同胞が倒れている。

が、その最期は満足感に満ちていた。

 

 

巨石につぶされたとしても、それは彼等の工夫の結果。自分達(強きもの)を倒さんとするそれをどうして否定できようか?

 

 

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旧き世からの掟。

それは戦いに負けた者は勝者を讃え、そして息絶える。

勝者は敗者の死を悼み、その死に敬意を払う。

 

戦いに卑怯は存在しない。常に正面からなれば、強いものしか生き残れまい。

 

 

それで種として行き詰まったからこそ、彼等は竜人族として生きる事を選んだ。

 

 

 

ある者は旧き世に忘れた光景(もの)を胸に

ある者は互いに協力しあいながら、己に挑む者の手で

 

 

 

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「待ちかねたわ。

そなたの弟も強き光を放つ。…だが、このゼムセルが求めるのはそなたとの戦いのみ!」

 

「人気者はホント辛いねぇ」

同胞の死を横目にゼムセルはゲレタとの戦いを望む。

 

「とは言え、此方が無理を言ったのも確か。それに」

 

「此処で逃げる程度の覚悟なら、こんな大それた事をやってねぇよなぁ!」

ゼムセルのブレスをゲレタはギリギリ回避する。

 

「正気か!我のブレスを受ければひとたまりもあるまいに」

 

「死地でこそ、磨かれるものもあるんでな!」

ゲレタは斧を片手にゼムセルへと迫る。

 

「カカカッ!それを扱いきれるか!

流石は我等が好敵手!」

呪いの装備、そう呼ばれている物であろうと躊躇う事なく振るう。誰かを憎悪の為に殺すのではない。

 

未来(まだ見ぬ誰か)の為に亡者からの()すらも己が力にして、それを振るう。

それのどれだけ難しい事か、ゼムセルも知っているから。

 

 

「おらぁ!」

竜となった者は、その巨体故に動きが鈍くなる。

…いや、その頑健さを過信するが故に回避というものを無意識に選択肢から外すのだろうか?

 

ゲレタのそれは、寸分違わずゼムセルの喉へと叩き込まれる。

 

急所への一撃(クリティカル・ヒット)

 

 

 

 

「み、ごとなり」

ゼムセルは薄れゆく意識の中、それを見た。

 

あの者の負った傷を癒す者の姿を。

それは(つがい)を心配する者の姿そのものであり

 

「勝てぬ、ものよな」

ゼムセルはそれを目に焼き付け、息絶える。

それは、自分達が遥か過去に置いてきた景色(もの)だったのだから。

 

 

 

 

 

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最後の砦、モーゼスは歓喜の中にあった。

 

 

ヒトの強さをまざまざと見せつけられているのだから。あれだけいた同胞達はその全てが倒れ、向こうで待つ同胞達の元へと旅立った。

地竜や闇の部族(有象無象)相手ならば、傷を負う事はあれど、倒れる事などなかった者達が、だ。

 

 

 

「負傷者は下がれ!」

 

「回復します!」

 

「投石の残弾がきれました!

ストーンヘッジ部隊はヘッジを放棄。此方に向かうと!」

多くの声が飛び交う。

国や組織といった(垣根)を越えて、我等を討ち倒さんと団結する姿。

 

 

それは遥か昔に確かに見た光景。

竜とヒトが生きる為に地竜どもと戦った。それと何も変わらないもの。

 

…いや、竜騎士や天馬騎士はマケドニアの者の筈。つまり、ヒト同士の対立すらもこの戦いにおいては何ら問題となっていないという証。

 

 

今も己のブレスを避けながら、迫る者がいるではないか。

 

 

 

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「我等が助けねば」

そう言って、他の大陸に向かった物好きが居た。

 

ナーガの話を聞き、愚かな同胞の後始末に向かった者達。理解出来なかった。

アレは逃げる為に力を与え、与えられた側はその力を制御出来なかった。…それだけの話。

 

 

話を聞くに、己の血と(武器)を与えたそうではないか?

ナーガもフォルセティ達も何も分かっておらぬ。

 

 

それをして失敗した者がいるのではないか?

過ぎた力は身を滅ぼすだけ。そんな事をするより、降臨して直接愚か者とその信徒どもを討ち滅ぼせば良かったと言うに。

 

 

この大陸の同胞はマムクートと蔑まれ、謂れのない扱いを受けている事を無視して。

 

その姿にモーゼスは失望した。

 

 

 

----

 

 

 

だからこそ、目の前の光景が愉快であり、目を奪われるに値するものなのだ。

 

切っ掛けを作ったのはあの者であろう。

そこに疑問の余地はない。

 

 

だが、ナーガ達は力を与えただけ。

故に一部だけに変化は留まろう。…それとて、時が経てば腐り落ちる。力を振るうのではなく、力に振り回されるのは明らかだから。

 

あの者は覚悟を求める。

心の強さを求め、多くの者を変えようとする。時間はかかろう。反発もあろう。

時が経てば、忘れ去られる事もあるだろう。

 

それでも、忘れられぬ事もある。

 

 

 

彼等の振るう魔力を帯びた剣。巨石を飛ばすもの。

数を考えるに、それらは新たに創り出されたもの。戦場(この場)に居らぬ者達の覚悟と思いの証。

 

この場を設える為に多くの者が動いたのだろう。

 

この場を立ち、我等と戦う者達。

 

 

 

その全てが我等を忘れる事があるだろうか?

 

 

…我等は礎となれたのだ。

名誉を真に重んずる、かの者なれば。

 

 

竜人族の名(我等の誇り)を守った者なれば

疑いようもない。

 

 

「ヒトよ。強くなったものだ」

己に迫る刃を前にモーゼスは微かな笑みを浮かべたのだった。

 

 

「強く、あるが良い」

 

 

 

 

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戦場には沈黙が満ちていた。

強大な力を持つ竜人族を倒したと言うのに。

 

 

高揚感もあった。

自分達が生きている事への安堵もある。

 

 

だが、彼等の

竜人族達の顔を見ると、誰も声をあげられない。

 

 

穏やかな顔だった。

憎悪も無念も、その表情からは読み取れない。

 

 

「…これが誇りをかけた戦い、か」

ミシェイルの呟きがやけに大きく聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「では、行くか」

ゲレタはマルスとエリスに声をかける。

二人も頷く。

 

ミシェイル達には外の事を頼んだ。

モーゼスやゼムセル達だけではない。彼等によって命を奪われた者達の遺体。

その処理を。

 

怪訝な表情をするミシェイル達だったが、アリティア軍の者達は深く頷き、作業の為の打ち合わせを始める。その中にはミネルバ達の姿もあった。

 

 

「誇りに殉じた彼等の死を悼むべきでしょう。

綺麗事に聞こえるかも知れませんが」

ゲレタの言葉を聞き、ミシェイルは少し考え込んだ後

 

「これもまた、戦いなのだな?」

と確認し、マケドニアの者達を動かす為に動き始めた。

 

 

 

----

 

 

 

 

「何をやっておるのじゃ。

穴を掘るには」

小言を言うバヌトゥの側では

 

「穴掘りなんて、何で必要なんだか」

神竜族の青年チェイニーが不満を隠そうともせずに作業している。

 

「…分からないの?」

チェイニーの態度にナギは疑問を口にするだろう。

勿論、彼女の手は穴を掘る為に動かし続けているが。

 

 

彼女は記憶を失っている。それは悲しい事ではあるが、彼女は竜人族として考えると、感受性が非常に高い。そう言い換える事も出来るだろう。

まだ竜人族としては若く、それ故に汚い部分から目を逸らした。バヌトゥはそう思っている。

 

加えて、ガトーに協力していた事もあってか、ヒトに対して懐疑的。

 

 

(やれやれ。世界が変わろうと言うのに、儂らが変わらぬではどうしようもないと言うに)

 

ゲレタからバヌトゥに頼みごとをするのは殆んどない。

ガトーの時くらいのもの。

 

そのゲレタが

 

「この戦いは見届けて貰いたい」

と頼んできたのだから、意味はあるのだろう。

 

 

 

----

 

 

 

 

「ようやく来たか」

 

「こうして会うのは初めてだな。ゲレタだ。

ちっぽけな人間のひとり」

ドルーア城の最奥、そこにメディウスがひとり佇んでいた。

 

メディウスとゲレタは言葉を交わす。

 

「ちっぽけ、か。

それをマトモに受けとるならば、この世にはちっぽけな人間しか居らぬと思うが、まぁ良い。

儂はメディウス。人間は暗黒竜メディウスと呼ぶ」

 

「それには同意しかねるな。

アレ(・・)と同じ様な扱いは流石に許容しかねる」

 

「…確かに、それは儂も遠慮したいものよ」

それはさながら、旧知の友との会話を楽しむ様に

 

「俺はそう思わない。

竜の守護者、とでも呼ぶべきだと思うが」

 

「…面白い。

なれば、その名を語り継ぐが良かろう。

アリティアの王子マルスよ。始まりの娘エリスよ。

 

竜の守護者メディウス。全てをかけて挑むがよい!」

地竜の王はそう咆哮した。

 

 

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強い

マルスはそう感じた。

 

 

城外の彼等とはまるで違う。兄の言う通り、人員をかければどうにかなるレベルではない。

 

ブレスも勿論だが、その巨体を利した腕の振り回しひとつでも脅威。兄はそれでも此処に立つ事を譲らなかった。

 

 

「この舞台を用意した張本人が引っ込むのは、理解は出来るが納得は出来んだろう?」

そう言って。

 

 

「よそ見をするな!マルス」

 

 

兄の怒声に意識を戻す。

 

 

----

 

 

 

治療し、挑み、治療する。

それしかなかった。私達には。

 

 

だが、こうでなければならないと私の中で声をあげる。

 

私と兄の格好はボロボロだ。

姉も身体は無事だとしても、心は傷付いているだろう。

 

何度無様に床を転がり、血を噛み締めたのかすら分からない。

 

 

でも、相手もまた傷付いている。

なら、勝てる。まだ、立ち上がれる。

 

弱気になりそうな自分を叱りつけて、私はメディウスに斬りかかった。

 

 

 

----

 

 

 

…なんと

 

 

メディウスは驚愕していた。

三人で挑みかかってくるのは予想できた。

 

仮に数を頼りに挑むならば、容赦なくブレスで焼き払うつもりだった。

敬意を払うべき相手なればこそ、その全てで討ち倒すのも、相手の誇りを守る事であり、慈悲でもあるのだから。

 

しかし、まさか攻守を完全に分担して挑みかかってくるとは思わなかった。

無論、手加減など彼等の覚悟に対する侮辱でしかない。

 

故に後衛の娘も狙った。

動きの鈍いとされる後衛なれば、ブレスのひとつでも対応出来るもの。そう考えていたのだから。

 

 

それが己の油断でしかなかった事を思い知らされた。

 

 

 

なに?

 

驚きのあまり動きが鈍ってしまい、マルスの一撃を貰ってしまったが、それは良い。元より無傷で勝てるなどと思い上がっていないのだから。

それよりも

 

 

まさか、エリスですら儂のブレスを避けるとは。

 

攻撃に加わっておらぬとは言え、それは見事な回避であった。

どうやらこの場に弱者はおらぬと思っていたが、認識を改めねばならない。

 

 

弱者がいないのではない。

強者のみを集めて、ぶつけてきたのだと。

 

 

 

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予想はしてたが、悪い予想程当たるものだ。

 

ゲレタは内心舌打ちしていた。

マルスが持っている剣は数多くある魔法剣の中でも間違いなく一番の業物。それとて、メディウスに効果的かどうかは怪しいものだったが。

 

自分の切り札となっている斧、デビルアクス。

それすらも効果が薄いのは全くもって嬉しくない誤算と言える。

 

純粋な火力において、これ以上のものとなると野戦専用となるストーンヘッジやシューターくらいだろう。

勿論、それらは万能ではなく運用上の問題も多い。

 

 

…だが、これで良い。そう思える自分もいる。

 

 

エリスの夫、マルスの兄として

或いはアリティア宰相として考えるならば、あってはならない事だろう。

 

が、ひとりの人間として、○○○○として

歴史の知識や戦争の歴史の悲惨さを知る者としての考えはこれを肯定する。

 

 

 

戦いとは綺麗なものであってはならない。

陰惨で、悲劇的であり、泥臭いものであるべきだ。

 

そうあるならば、人はいつか戦争を忘れる事が出来るのかも知れないから。

 

 

泥臭い戦い大いに結構。

 

それが俺の原点なのだから。

 

 

 

----

 

 

 

それは戦いであった。

しかし、それは現在の戦い(それ)ではない。

 

メディウスの知る旧き時代の戦いだった。

 

工夫を重ね、強者を倒さんとする旧きヒトの。

 

 

 

己の持ち得る全てをかけて、眼前の敵を倒す。

そこに憎悪も嫌悪もない。

 

明日が欲しいから、生きていたいから。

それだけの事。

 

 

 

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持久戦となれば、高い耐久力と火力にを併せ持つメディウス。火力に乏しいものの、確実にダメージを与え続け、回復役のいるマルス達。

 

 

戦いは長期戦の様相を見せていた。

 

 

それは心の強さの戦い。

気を緩めた者に死神の鎌が振り下ろされる。

 

 

 

----

 

 

 

これはメディウスにとって、予想外だった。

 

 

彼は紛れもない強者。彼のブレスを喰らえば無事ではすまされない。

その為、彼を倒さんとする者は例外なく強力な武器を持っている。

ましてや、彼はドルーア帝国の支配者として君臨していた。彼の前に立つ事はそのままドルーアの強者達を倒さねばならないのだから。

 

 

アンリはファルシオンを手に挑み、メディウスを封印した。

だが、この様な戦いになる事はなかった。

 

 

この期に及んで、まだ見誤っていたというか。

 

メディウスの中に、彼がこれまで感じた事のない焦燥感が生まれるのは自然な事であろう。

 

 

 

 

 

…それこそ、ゲレタが待っていた最大の好機となるとは理解できぬまま

 

 

 

----

 

 

 

マルス達は回復の為に1ヵ所に集まる(・・・・・・・)

 

恐らく、この膠着状態を打開しようとしているのだろう。

しかし、それはメディウスにとっての好機。

 

 

メディウスは全力のブレスを吐こうとする。

 

 

「貰った」

その言葉が聞こえるまでは

 

 

 

メディウスは明らかに不穏な雰囲気を纏い、自身の懐に飛び込んできたゲレタ。彼に向けてブレスを放つ。

 

 

「マルス!!」

 

 

 

 

 

----

 

 

 

「…見事だった」

メディウスは敗れた。

 

ゲレタに向けたブレスはゲレタの片腕を焼く事には成功した。確かにメディウスは有利になっただろう。

そのメディウスの口内にマルスが魔法剣を突き立て無ければ。

 

 

流石のメディウスも自身の口内までは守る事が叶わず、それが致命的となった。

 

 

「己を囮とするか。

…そなたの得意な事であったと言うに」

 

「メディウス、貴方は強すぎた。

だから長期戦など経験する事はなかっただろう?」

ブレスで焼かれた腕をエリスに癒して貰いながら、してやったりと言わんばかりに笑うゲレタ。

 

「マルスよ、聞かせて欲しい。

アレはゲレタを危険に晒すもの。それでもそなたはそれを良しとしたのか?」

既に意識は薄れつつある。

だが、聞かねばならなかった。

 

「メディウス。それが信じると言うことではないでしょうか?」

メディウスは薄く笑うと

 

 

「儂の負けよ。

大陸の未来は」

事切れた。

 

 

 

 

 




大陸の未来をかけた戦いは終わりを告げる。

戦いは終わっても世界は続いてゆく。

エリスルート完結記念の外伝

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