汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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エリス編、完結となります。

いつも通り、独自設定が多々ありますが今更ですね。


向こう側へ

暗黒竜

…いや、竜の守護者メディウスと彼が率いていたドルーア帝国は倒れた。

 

 

激戦の地となったドルーア城付近はマケドニアを中心として清められ、メディウスを始めとした主だった者。

 

即ち、メディウスとモーゼス。この二名については、遺体を彼等の同胞にして、偉大なる竜。神竜ナーガの眠るラーマン神殿の近くに葬られる事となり、ラーマン付近を守護する竜人族達がそれを護る事となった。

 

 

「亡くなった者の名誉も守られる。

それこそ、誇りあるもの(真なる騎士)の戦いではないだろうか?」

アリティア宰相ゲレタはアカネイアにて開催された大陸会議の席にてそう発言している。

 

 

アカネイアのニーナ女王の呼び掛けで行われた大陸会議。そこには各国の国王達が誰ひとり欠ける事なく揃う事となる。

 

その席にてニーナは正式に先人たる竜人族。彼等に対する蔑称、マムクートの呼び方の是正と各国の協力を求める。あわせて、建国王アドラ一世の蛮行の事実を伝え、以後二度とこの様な事がない為に歴史書の改訂と編纂。そして、教会への協力(・・)を求める事を各国へ提案する。

 

 

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「我がグラはその提案に賛成したい」

口火を切ったのはグラの女王に即位したシーマ。前王ジオルのある意味では徹底した政策により、国内は未だに混乱から立ち直れていない。

幸いと言うには彼女の良心が咎めるのだが、グラ再建に向けて協力的なアリティア。そのお陰で深刻な物資不足からは脱却しつつある。

 

が、その一方でグラ国内にある教会の一部は神への献身の証としてお布施を民から募っていたりする。

勿論言うまでもなく、教会に幾ら寄進したとしても何も変わらない。寧ろ生活がくるしくなるだけ害悪ですらあろう。

まぁ、宗教にとっては世に不安や不満があればこそ、己の懐を満たす事が出来る。

などとおおよそ信心の欠片もない俗物的な思考をする者もいるのだ。…悲しいことだが。

 

そんな者達にとって、前王ジオルの失態により混乱の中にあるグラは非常に都合が良い存在。

 

 

とはゲレタにグラの詳細な情報をもたらした敬虔な信徒の言葉である。

 

(…知ってたが、中々にヤバい奴だな)

と策謀の限りを尽くして、先の戦乱。人竜戦役の中心的役割を果たした腹黒も真顔になったそうな。

 

まぁそれはそれとして、そんな人物とてフル活用するから、他国からも恐れられるのだが。

 

 

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「マケドニアも賛同したい。個々人の人格で勝手気儘に民の生活を乱されてはかなわん」

ミシェイルもニーナの提案に賛意を示す。

教会の問題には大きな壁が立ち塞がる。

 

教会それぞれで方針が全く異なる点だった。

 

 

民に寄り添い、心の支えとして教会を定義する者もいれば拝金主義と言っても良い様な所も。

 

更に総本山の指示には従っても、教会のある国に対しておおよそ誠実とは言い難い所も存在している。

 

 

 

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この歪であり、害悪そのものとも言える教会の態度。これもアドラ一世の時代にまで遡る理由があった。

 

アドラによるアカネイア建国までは、そこまで人と竜人族の間の関係が悪かった訳ではない。…とりわけ良かったとも言えなかったらしいが。

 

 

ただの盗賊でしかなかったアドラがアカネイアを建国するに至ったのは、彼の絶対的なカリスマ性によるもの。

 

 

 

などと言う事はない。

一介の盗賊に兵を集める事も、竜人族と戦えるだけの武力を用意できる筈もなく

 

それらは全てラーマン神殿から奪ったもの。

アカネイアに代々伝わる王家の信頼の証であったファイアーエムブレム。それは本来、封印の盾と呼ばれる物であり、『五つの宝玉(オーブ)』が嵌め込まれていた。

 

しかし、ファイアーエムブレムにはそれらの物はなく、アカネイア王家が別に保管していた訳でもない。

 

では、そのオーブはどうしたのか?と言うと

 

 

 

戦費確保の為に商人、ないしは有力者に売ったのだ

 

そして、その事実を隠すべくアドラがアカネイアを興してした事が

 

被害者である筈の竜人族の名誉と信用を貶める事だったのだ。

 

マムクートと蔑み、隣人であった彼等は大陸に生きる権利すら奪われた。アドラの悪行を知るが故に。

 

その片棒を担いだのが、後に教会として権力を持つに至る者達だった。

 

 

つまり、アドラ一世の秘密を握るが故に教会はアカネイアに対して絶大な影響力を持つに至ったのだ。

 

 

 

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会議に唯一国主でないにも関わらず、参加を認められたゲレタの言葉に皆言葉を失う。

 

「それが事実かどうか?

などと聞くのは無意味だな」

タリス王は確信している。

ゲレタという人物は、この様な場で発言する以上裏取りは終わらせているだろう事に。

 

「ええ、勿論。

何せ生き証人は幾らでもおります故」

その明らかに迫力のある笑顔にシーマやグルニア王は表情を強張らせる。

 

逆にマルスやニーナ、タリス王にオレルアン公は全く動じる事はない。

それどころか

 

(師匠生き生きとしていますね。

では、師匠に任せますか。…ノアとシャロンにラングもつけて)

 

(相変わらず、兄さんはこの手の事になると容赦しないなぁ。あ、ニーナ様構いませんよ?)

ニーナとマルスは目で意志疎通すらしていたりする。

 

なお、ノア達の胃については然程ニーナは気にしていない。仮にもアカネイア貴族という汚泥の中を泳ぎきった彼等なのだ。

寧ろ、これくらいで音を上げて貰っては困る。とすら思っていたりする。

 

 

タリス王とオレルアン公からすれば

 

「まあ、妥当よな」

と総本山のこれからの苦労に思いを巡らしつつも、大した関心を寄せる事はない。

 

ミシェイルは

 

(多少無理をしてでも、あれを連れてくるべきだったか?

それとも、暫く鍛えて貰う方が良いかも知れんな)

と妹姫とその部下達が知ったら、顔をひきつらせる事間違いないだろう事を考えていた。

 

 

そんなこんなで会議は進む。

 

 

 

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「で、これがその証書」

 

「…ふむ、かなり古い物にも関わらずこれだけ残っているとは。

余程神経を使って遺したとみえるな」

 

「でも、それがあっても家が潰れたら意味ないとおもうけどなぁ」

 

「違いない。

すまんな、リカード。苦労しただろうに」

 

「別に良いって。

アリティアで暮らせるなら、これくらいなんて事はないさ」

盗賊リカード。彼はゲレタからの頼み事を引き受けて、文字通りアカネイア国内を駆け回り、ようやく目的の品を手に入れられた。

 

「…これで懸念事項がひとつ消えた。

家を失っていたのは予想外だったが」

 

「仕方ないんじゃないかな。

だって、アカネイアが滅びる前は好き勝手やってたらしいし」

リカードは呆れた様子を隠そうともしない。

 

 

 

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アカネイアにとっての弱み。

それはアドラが宝玉を売却した商人の存在だった。

正確にはその子孫だろうが。

 

確かにアドラから買い取りはしただろうが、少しでも頭が回れば、国王から買い取った。しかも、出所のはっきりしないものを。

それは明らかにアドラにとっての醜聞となり得る。そしてアドラの醜聞はそのままアカネイアへのそれとなり得るのだ。

それを己の栄達の為に利用しないだろうか?

 

 

特に今のアカネイアは変わろうとしている。

弱みを握る者達がその変化をどうして黙って受け入れられよう?

 

 

結果としては杞憂となったが。

 

 

「これからどうする?」

 

「もう盗賊はやめるよ。ゲレタさんも言ってたし」

 

「…なら畑でも耕すか?

意外と奥が深いぞ?」

 

「それ、良いね!」

新たな道をまたひとり選ぶのだった。

 

 

 

 

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「…と言う訳で、母上や姉上からの圧が強いのです」

 

アリティア城、宰相執務室。

そこに部屋の主ゲレタとアリティア王子改めアリティア王マルスの姿があった。

 

人払いはゲレタの腹心であるカシムが行なっており、ゲレタの執務の取り次ぎや一部の処理はエレミヤとアイネが担当している。

 

エレミヤはアイネがゲレタの腹心として相応しい能力をつけるまで執務補佐を担当する。

 

 

彼女はゲレタに自身の願いを語り、ゲレタはそれを認め応援する事にした。

 

エレミヤはアリティアで孤児院を開き、身寄りのない子供達を次代のアリティアの為に育てる事を決めている。…今度こそ間違わぬ様に。

 

 

 

 

「いや、マルスの気持ちも分かるのだが。

シーダは何と言っているんだ?」

 

「…いえ、その」

ゲレタの言葉にマルスは口ごもる。

 

「つまり、シーダもお前との子供を望んでいる訳だな」

 

「……はい」

呆れたゲレタの言葉に縮こまるマルス。

 

 

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「分からんでもない、お前の気持ちも」

ゲレタの居た世界と違い、この世界の医療水準は高いとは言い難い。魔法という超技術があるからこそ、治療に関する技術は高い。

 

その一方で人体についての理解度は驚く程に低いのが実情だ。

 

故に出産とは命懸けのものとなる。

マルスは国王であり、シーダは王妃。ともなれば、その可能性は限りなく低いだろうが、それでもゼロにはならない。

 

 

マルスとシーダの関係は微笑ましいものだ。

皮肉な事にマルスは俺が色々教えた事で、死に対する恐怖にも似た思いを強めてしまったのだろう。

 

勿論、戦いの場ではおくびにも出さないが。

事実マルスは良くあの場所へ行くとシーダから聞いている。

 

 

出来るならば、マルスの気持ちを優先してやりたい。

が、事はアリティアだけの問題に留まらないとなると、それも難しい。

 

 

 

 

 

「…マルス。酷な事を言うが構わんか?」

 

「はい」

兄がこう切り出す時は受け入れがたい事を言う時が多い。

でも私は兄を信じると決めた。

 

勿論、盲信はしない。

信じるからこそ、時には異論をぶつけられるのだから。

 

 

 

「お前とシーダの間の子供の話なんだがな?

…実はアリティアだけの問題ではない」

 

「それは理解しているつもりですけど」

シーダはタリスの王女なのだから

 

「いや、そうではなくてだな。

…お前とシーダの子供はタリスの王位継承者筆頭なのだが、理解している、よな?」

 

「へ?」

兄の言葉に思わず気の抜けた声で返してしまった。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「わっはっは。

いやぁ、我が弟は可愛いねぇ。

目を丸くして、「へ?」ときたもんだ。」

 

「兄さん!」

兄のからかいに私は顔が赤くなっているのを自覚しつつ抗議する。

普段とても頼りになるのに、こうやって僕をからかう時がある。

…それも大切な家族との時間であることは確かなのだけど。

 

 

 

 

「話を戻すとして、タリス王もかなりの高齢だ。

勿論、無理はしない様にしっかり頼んだから最悪の事は起きないと思いたいが」

 

「蹴撃術の開祖ですからね、兄さんは」

 

「……いや、全く意味が分からんよ。何がどうなったらタリスの民の嗜みになるんだ?

そりゃ、健康法としては良いと思うが」

 

 

やられっぱなしも嫌だったので、反撃はする。

会議の後、タリス王と少し話をしたのだが、そこでタリスにおける武術として兄の教えが広がり、流派として成立していると聞いた。

 

最初はタリス王の言葉の意味が分からなかった。

それだけ衝撃的なものだったのだから。

 

 

 

「話を戻すぞ。

タリス王が高齢である以上、タリス王に子供が出来る可能性は低い。

既に奥方が亡くなって久しいと聞いているし、今更妻を持つつもりはないらしい」

 

「…それは、そうですね」

兄の言葉に私は納得する。

仮にタリス王を心の底から愛する女性が現れたとしても、人は良くも悪くも変わってしまうものだ。

 

タリス王はタリスを建国された人物。その実績と人柄からタリスの民にも親しまれ、頼りにされている。

だからこそ、タリス王の伴侶となる人には嫌でも注目が集まるだろうし。色眼鏡で見られる事もある筈だ。

 

それを耐えてでも、愛に殉じられるか。

…それとも。

 

 

「そうなると、タリスの民にとっての光。つまりタリス王の血が絶えてしまう。

…だが」

 

「シーダがいる。

…だから、世継ぎは必要。そういう事ですね」

 

「そうなってしまうな。

しかも、タリスの民にとって自分達と近い生活を送ってきたお前との子供なら受け入れられる可能性は高い。

…無論、それなりの教育が必要となるだろうが」

 

「……重い、ですね」

思わず弱音を吐いてしまう。

 

「それをシーダと分かち合って生きていくんだ。

それが夫婦ってものなのだろうさ。

勿論、俺もエリスもリーザ様も助けられる範囲で助けはする。…家族だからな」

 

「ありがとうございます」

 

「人は独りでは生きていけない。

生きてはならない。助け合って、支え合い、生きていけば良いのさ」

兄の言葉に私は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうとして、そうなると兄さんは」

 

「……言うな。

全く何であんなになったんだか。男としては嬉しい限りだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人はこの世に生まれ落ちてから、様々な事を知り、背負っていく。

それはさながら、身体に纏わり付く汚泥の如く。

 

だが、それでも人は生きていく。

 

汚泥の中をもがきながら、それを越えて行く。

いつか見果てぬ明日を掴む為に

 




本作品にこれまでお付き合い下さり、ありがとうございました。


諸般の事情から更新できなかった時期があり、心が折れかけた事もありました。
しかし、読んで下さる皆様や感想などに力を貰い、こうしてひとつの終わりを見せる事が出来ました。
本当にありがたい事です。











では本ルート、通称エリスルートの裏話を少々。


本編と言えるリンダルートとはまるで異なる可能性。個として強力でありながら、しがらみに囚われる事を厭い自分の世界を守る事に全てを注いだゲレタ。

それとは対となる、愛する女性を護る為に全てを巻き込み、世界そのものを変える。それが本ルートのゲレタに私が与えた役割でした。
個としての能力が如何に高かろうと、それでは一代限りのものとなってしまう。

故に、竜人族という個の力の象徴と向き合い、人という総体の力を以て、これを乗り越える。…打破するのではなく。

これを最終目標として、物語を書いたつもりではあります。結果的に人間賛歌となってしまったのは、やはり私の力不足であったと痛感しております。
作中、くどい位に強調しておりますが、『力は完全に制御する精神と共に在るべき』。と言うのは歴代シリーズに対する一プレイヤーとしての意見となりますね。

もう少し、ゲレタの人間としての脆さを書きたかったところではありますが、構成上の問題や主旨から外れるのではないか?と考え、削除する運びとなりましたね。


まだまだ語りたい事はありますが、流石に長すぎてくどくなるので此処までとさせて貰います。


本作品をこうして読んで頂き、ありがとうございました

エリスルート完結記念の外伝

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