汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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迷走して、筆を置きそうになったので投下。


想起 戦いの意義

「シャロン王女」

 

「ナギさん、どうしたんですか?」

アスク王国にいつもの如く悲鳴が響いている中、ナギは珍しくアスク王国の王女であるシャロンを訪ねていた。

 

本来ならば、王女であるシャロンに会う事は難しい。

が、他ならぬシャロン自身がその様な関係を好まなかった。

 

それはナギにとって、姪であるエレナを思い出すものであり、ならばこそ聞かねばならない事があったのである。

 

 

「私はこの国が置かれている状況を詳しくは知らない。けど貴女は違う。

…教えて欲しい。アスク王国はどの様な形で戦争を終わらせるのか?を」

 

「…え」

ナギの言葉にシャロンは呆気に取られたのだった。

 

 

 

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「戦争とは多くのものを狂わせる。

そして多くの命を喪わせる。戦争とは手段でしかない。万能薬でもない。劇薬だ。

それを理解できない者が国や組織を統べてはならない」

それは兄が常にエレナに言い聞かせた事。

 

 

事ある毎に、兄はエレナを連れて各地を回った。

ワーレンの戦場跡近くにある集団墓地、パレス付近にある戦没者の墓標。アリティアの王国墓地にマケドニアの共同墓地。

 

それらをエレナに見せて、兄は自分の娘に語りかけた。

 

 

「人竜戦役。そう呼ばれる戦争の犠牲の一部だ。

戦争とはこれだけの犠牲を出すものだ。…そして、亡くなった者達から紡がれた未来もあった筈。

 

忘れるな、エレナ。お前がこれから背負うべきものの重さを」

 

「…はい」

 

私の背に乗って、兄は娘に冷たい現実を教え込んだ。

それが娘の為になると信じて。

 

 

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「犠牲が出るのは避けられない。

アスク王国は攻められた側。だから、防衛するのは当然の権利。

…でも、いつか戦争は終わらせないといけない。

シャロン王女。そのいつかを貴女達は考えているの?」

 

「……いえ」

ナギさんの言葉に私は何も答えられませんでした。

 

「兄は言っていたわ。

初めて人を殺した時、暫く夢に見る程だったと。

でも、慣れてしまう。自分が殺した相手の命の重みを忘れそうになる、と。

だから、忘れない様に

狂わない(血に酔わない)様に、己を律さねばならなかった」

 

「それは」

シャロンにも覚えがあった。

アスク王国が攻められて、初めて槍をとって戦った時。

敵の兵士をその槍を貫いた時、感じたものだったのだから。

 

「でも、私達は慣れてしまう。

ヒトは適応出来てしまう。それは良いことばかりではない。…兄さんは言った。

「慣れとは感覚の麻痺にも繋がりかねないもの。それが当たり前と、やり易いからと思考放棄にも繋がる甘い毒。常に頭の片隅にこれが正しいのか?そう思っていないとな」って」

 

「貴女は国を焼かれ、父や民を殺された。

…でも、貴女やアルフォンス王子が思う様に貴女達が奪う側に立つ事もある。

それを自覚して、その上で戦っているの?」

ナギさんの言葉に私は視線を落としてしまいました。

 

 

「感情は容易く消す事は出来ない。

だから、せめて戦いで命を落とした者達が無駄でなかった為に平和を守らねばならない。

…住み良い世界を作らないと。

それが出来たから、私達の世界は緩やかに変化していった。

それが、このアスク王国に出来るの?」

それは心からの心配による忠告だと、私は分かりました。

 

 

 

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「…ナギの兄は知恵者であった。

少なくとも、そちらの世界では我等の憎悪は拭えなかったのであろう?」

 

「…ええ」

別世界のメディウスと話をするのは、英雄王と後世から呼ばれる事になったマルス。

マルスからすれば、複雑だった。しかし、メディウスからすれば、別に思う事はない。

 

言ってしまえば、『近くて遠い世界』の事に過ぎない。憎悪に目を曇らせたままであろう自分がどの様な最期を

迎えたとしても、関係のない話なのだ。

そも、あの戦いが出来た事自体、奇跡に近い事を他ならぬメディウス達が理解しているのだから。

 

 

…まぁ、奇跡などと陳腐な物言いはあの者の覚悟に対する侮辱ではないか?とも思うのだが、それに相応しい言葉をメディウスは持ち得ない。

 

 

「方法など無数にあろう。

重要なのは、お前達が悔いを残さぬやり方を選ぶ事。

結果、未来(さき)が閉ざされたとしても、それは選択の果ての事。

…やり直そう、等と言うのは全ての者に対する冒涜であると儂は思うが」

 

 

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聞けば、このマルスの辿った世界の果ての一つは滅びの未来を選んだらしい。

 

紛い物(・・・)に良い様にされた事には、些か思う事はある。

が、その未来において神竜の娘(・・・・)がそれを良しとせず、一部の者を過去と言う名の並行世界へと逃した。

それについては、最早何も言うまい。

 

 

確かに絶望の未来とやらは回避出来たのだろう。

が、その結果一部の者達は親や親しい者との繋がりを永遠に失った。

…実に素晴らしく(愚かに)育ったものと思う。

 

 

故に、メディウスはイーリス(別世界の未来)の者達との話をしようとしない。

 

まるで価値観の異なる(理解の出来ぬ)者との話ほど無駄な事はないのだから。

 

 

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マルスは衝撃の中にあった。

異世界、いやエクラの言葉を借りるならば、並行世界(可能性のひとつ)のメディウスが召喚されたと言うのだ。

 

ファルシオンを用いてなお、ギリギリの戦いを強いられた暗黒の竜。

その様な人物がアスク王国に召喚されたとなれば、危険なことこの上ない。

 

エクラの人を見る目を疑いたくはなかったが、こればかりは見過ごせなかった。

 

そうして出会ったメディウス。

だが、メディウスはまるで穏やかな顔を自分に向けていた。

闇のオーブで復活する前にも、その様な表情を見せた事はなかったと言うのに。

 

 

「そちらの世界ではどうだったのか?聞かずとも予想出来る。…が儂には関係のない話よ」

 

「…何故」

 

「実につまらぬ事を聞くな。

我等の世界のお主なれば、もう少し話をしても良いと思うのだがな。

戦争は勝ったのであろう?

それで?その先はどうなったか?」

 

「…アカネイアは事実上、消滅する事となりました」

 

「それがどうした?…まさか、それで全てが上手くいくとでも思ったか?」

メディウスはさも理解出来ぬと鼻で笑った。

 

 

 

「お主達がそちらの儂を倒した事は偉業であろうよ。

…が、それを真に理解している者はどれだけいよう?」

 

「激戦だったのと、地底の祭壇での戦いだったので多くはなかった」

 

「…しかも、その中には行状の良くない者が多数含まれておったのだろう?

それを民衆がどれだけ信じるというか?」

あの戦いに多くの者の存在を感じたとモーゼスは言った。あの場に居なかった者であろうとも、そこに至るまでに。

 

だからこそ、モーゼス達は負けたとしても。

大陸の明日を紡ぐのが、ヒトであろうとも。

 

倒れた者達の遺志をも、糧として明日を創れるのだ。

そう確信したからこそ、満足の中で死を受け入れられた。

 

 

誇りある死に納得できたのだ。

 

 

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…まぁ、ある国家はそれに参加する事すら許されなかったとナギから聞いたが、納得しかなかった。

 

立場ある者の誇りとは自己満足で終わってはならない。

故に、かの国が滅んだと知っても憐憫しか(いだ)けなかったもの。

 

 

 

此方に来て、別世界とは言え余所の大陸に逃れ、幸せになったと知った時には

 

「これもまたヒトよな」

と呟いたものだ。

 

 

アカネイアのニーナ。マケドニアの小娘(ミネルバ)

別世界のこの2人はどう考えたとしても、平穏の中で最期を迎えられたとは思えない。

 

 

結果として、アカネイアに混乱を招き再び大陸を大火で焼き、その後始末から逃げたニーナ。

兄を、国を裏切ってまでその信念に従い、マケドニアの者達から憎悪を向けられ、戦後マケドニアという国を無くしたミネルバ。

 

 

どうして、そんな大罪人が生きていられようか?

 

 

別世界とは言え、マルスの精神(こころ)の強さは素晴らしいものであろう。

が、此方のマルスはメディウスの知るマルスよりも遥かに甘い。

 

 

王族である以上、必ず向き合わねばならぬ時は来る。

それは避けて通れぬ道。

 

組織を

国を統べるならば、その立場に見合った責を負わねばならない。

 

 

故に、権力という巨大な力を振るう事が許されるのだ。

 

仮にそれから逃げ出したとしても、執拗に追いかけてくる。

逃れる術はただ1つ。死あるのみ

 

 

 

例え異世界に行こうと、他の大陸へ逃れようとも罪の意識という鎖からは逃れられない。

 

何も知らぬ子供なれば、或いはそれを理解する事が出来ぬだろう。

 

 

此方に来て、(くだん)の人物を遠目にメディウスは見ていたが、常に暗い影を背負っていた。

 

…無理もないだろう。

死こそ、あの者にとっては救いとなっただろうに此処へ召喚されたのだ。

 

 

原罪の証とも言える者達とどの様な顔をして共闘しているのやら。

 

 

余談ではあるが、メディウスはロプトウスやギムレーと共闘するのを避ける気も嫌がるつもりもない。

 

全ては終わった事ゆえに。

 

 

 

…それはそれとして、その曲がった根性や性根は叩き直さねばならないので、ナギと共に精神修行(サンドバッグ)しているが。

 

少し前には、異世界の己とやり合ったが、

 

 

「…憎しみとはああも曇らせるものか」

と己の辿った可能性に複雑な思いを持つこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、アスク王国にてサッカーなるものが流行りつつあるのと、ナギがメディウスに蹴球を教えた事に一部の英雄から物凄い視線が向けられているとかなんとか。

 

 

 

今日もアスク王国にロプトウスとギムレーの悲鳴が響き渡る。

それが、この世界の日常なのだろう。

 

 

 

 

 




なお、この少しあとにはギムレー(男バージョン)も加わって更にカオスになった模様

エリスルート完結記念の外伝

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