汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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(えにし)

ドルーア皇帝メディウスとの会談を終えたミシェイルとゲレタ。

 

 

なんとかなった

そう安堵する自身の腹心たる男に

 

(この男には守るものが必要だ。

そうでなくば、何れ理想に殉じかねぬ。)

 

そう己の危惧が的外れではない事をミシェイルは強く理解した。

 

 

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ゲレタはこの大陸の者ではない。

 

それは本人の口から語られた事もある。しかし、それ以上にそうでなくば到底納得の出来ない部分がこの男にはあった。

 

 

自らの命を大事としながらも、必要とあれば一切の躊躇なく命すらもかけられる精神性。

 

 

確かに騎士や我等マケドニアの者とて命をかける事はあろう。

が、それは自らの命で以て助けたいもの或いは自らの意思を継ぐものがいるからこそ出来ること。

 

 

この男には前者はあっても、後者はいると思い難い。

死なせるつもりなど毛頭ないが、もし仮に死んだとしてもその想いは汲むつもりではある。

 

しかし、だからと言って軽々に己の命をかけられては正直気が気でないのもまた事実。

 

 

 

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マケドニアからドルーアへ向かう前の事

 

 

「兄上」

 

「久しいな。

アレに手酷く言われたのだろう?だが咎めるつもりはない。必要な事であり、お前もその理由は分かっただろう?」

 

「⋯いえ、そうではなく。

何故ゲレタ殿までドルーアへ連れて行く必要があるのですか?」

 

 

「悔しいが、アレで無くば今回の話は纏まるまい。

本人も望んだこと。」

 

ミシェイルは妹がまさかゲレタの事で話をするとは思っておらず、その上その身を心配するとは。

正直なところ、妹はアレを疎んでいると思っていただけに意外だった。

 

「⋯それは、そうですが。」

 

どうやら己の思い込みであったらしい。

少なくとも、心配する程度には良い関係を築けていると見えた。

この直情径行のきらいがある妹。となれば、気を遣って本心ではない事を、しかも父を殺した自分に聞くとは思えない。

 

(人の感情の機微は理解してても、それを素直に受け取る事が苦手、か。些か手のかかる奴だ。)

 

どうやら一部の報告については、侍女などにも確認を取らねばならないらしい。

だが、不思議と面倒ではあるが悪い気分ではなかった。

 

 

 

 

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「という事があった。アレの側で長い事見てきた者として、どう思うか?」

 

帰国後、ミシェイルは密かにミネルバとマリアの侍女に話を聞く機会を設けていた。

どれだけ無骨だとしても、ミネルバはマケドニアの王女。その身の回りの世話をする者達は彼女の意思に関わらず必要。

 

「その様な事が。

お部屋でもゲレタ様やミシェイル様のなさりようについて、不満。⋯⋯いえ、不満ではなく不安を感じておられる様に私は感じました。」

 

「マリア様はゲレタ様から教わった事を話して下さったり、私に話を聞いてこられます。」

 

ミシェイルが呼んだのはミネルバとマリアの身の回りの世話をする侍女のまとめ役。この者達は二人が物心ついた時から務めており、二人の心中を推し量るには必要な人物とも言えた。

勿論、その立場を悪用しないからこそ、今までその立場を維持出来ている訳だ。

 

「率直に聞く。

仮にどちらかの伴侶としてゲレタを据えるとして、どう思うか?」

 

ミシェイルの言葉に目を丸くするが

 

「マリア様ならば、何も心配なさる事はないかと。

マリア様もゲレタ様には心を許しておられるご様子。⋯ただ」

 

マリアの侍女は言葉を濁すが

 

「どうしてもミネルバ様に遠慮して、心を痛めるのではないか?それだけは心配ですね。」

 

そう締め括った。

 

 

「ミネルバ様も変わろうとなさっておられます。

ですが、配下の騎士の皆様も含め、まるで異なる事をさせられるとあって不安なのではないか、と。

確かにゲレタ様は強硬的な部分もありましょう。⋯ですが、今のミネルバ様に必要なのはそういった殿方ではないか。そう思ってしまいます。」

 

ミシェイルは彼女達の意見を聞き、深く考え込んだ。

 

 

 

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ミシェイルが頭を悩ませている頃、ゲレタはメディウスにつけられた人物と話をしていた。

 

 

「妙な人間もいたものよな。」

 

全くもって否定出来ませんね。

が、マケドニアが生き残る為にはドルーアの方向を修正する必要があった訳でして。

 

「全てを此方へ移し、ヒトと竜の世界を創る。

中々に吠えたものよ。」

 

いや、だってアカネイアを始めとした各国はアカネイアや教会の毒にやられてるし。幾らあなた方が声を上げたところで権威で潰してくるのは目に見えてますよね。

なら、アカネイアの目が届かなくなったこっちで好き勝手やれば良いと思うんです。

 

実際アカネイア派の貴族達を粛清しても、アカネイアは動きませんでしたし。

 

 

 

ゲレタはミシェイルがまだ王子だった頃にひとつ献策をしている。

マケドニアだけが行なえる飛兵を利用した情報収集網の策定。

既に人は送っているが、今はそれだけ。

 

 

 

しかし、此方から頼んだとは言え宜しかったので?

 

「構わぬ。少なくとも、ラーマンを移し、ドルーアにナーガを祀る神殿を造ると言うのは、実現しても良い話だろう。

彼処は拠り所とするには、余りにも憎悪や悲しみが満ち過ぎておる。メディウスの心情的には複雑ではあろうがな。」

 

 

此方としては、強靭な肉体を持つ竜人族の協力は有難く思います。食糧を増産するにしても、耕作するに足るだけの平地が少なすぎますから。森を切り拓くにせよ、多くの人手が必要。

賊の脅威がないとは言え、マケドニアの人的資源は長年の傭兵業で年々減少傾向。その様な余力は無かった。

 

マケドニア軍は来たるべき戦いへの備えやマケドニアへの不法入国を阻止すべくルーメル将軍麾下のドラゴンナイト達は巡回にも従事している。

 

 

「今後の事や神竜の姫を迎えるならば、平穏は守らねばならぬ。その為なれば、同胞達を動かす理由になろうて」

 

それは、どうも。

魔竜族の協力があれば、マケドニアの開発も進む事でしょう。

 

「そして、我等の貢献を見せる事でマケドニアの民が我等を受け入れる下地とするか。食えぬものだな。」

 

底が知れている人物よりはマシと思いますが。

 

「⋯道理よな。」

 

魔竜族の長たるモーゼスは笑った。

 

 

 

 

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アカネイアを中心とした大陸制度からの脱却。

それがゲレタの考えるマケドニアの生存戦略だった。

 

 

幸いというべきか、ドルーアやマケドニアの奥地⋯即ちマケドニア、ドルーアの国境付近は人の手が及ばない場所。ましてやはぐれ飛竜や天馬、そして其れ等の餌となる獣も豊富な地域だ。

 

偏食は好ましくないが、それでもそこに生息する獣を狩る事である程度食糧事情も何とかなろう。

 

 

竜人族の強大な力による開墾。

メディウスをして、当初は何を言っているのか理解に苦しむ話だったが、その話を聞いた魔竜族のモーゼスはひとしきり笑った後で

 

「我等をその様に利用しようとは。

中々に狂った者もいる事だ。⋯良かろう、その役目は我等が引き受けるとしよう。」

と自らゲレタの元へ行くことを希望している。

 

 

これは、ゲレタを良く見る事もある。

その一方で

 

 

姫を託すに足る人物か見極める為でもあった。

 

少なくとも、姫の身を案じたからこそのメディウスへの接触であり、また正しい認識をしつつ、それが今の大陸で受け容れられる可能性が低い事も理解している。

理想と現実の齟齬を受け入れた上で、解決法を見つけようとしている訳だ。

 

 

更に言えば、どれだけメディウス達が奮闘したとしても竜人族が大陸の覇権を握る事はない。

次代を創るべき担い手。それが居ないのだから。

 

 

 

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メディウスやモーゼスからすれば、異郷の者であるゲレタ。

かの人物がマケドニアを存続させんと自分達をも変えんとするのは理解は出来よう。

 

仮に未来が視えていたとしても、望む未来へ行き着くのは並大抵の事ではない。

 

寧ろ視えている事が足枷となる事もあるのだ。二人はそれを知っているのだから。

 

 

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遥か古、神竜の長たるナーガはこの大陸の担い手は竜から人へと移り変わる事を理解し、それを受け入れた。

メディウスもまた地竜族の長でありながら、そうなる事を受け入れねばならぬと思い、ナーガ達に賛同した。

 

強大な力を持ち、生半可な事では生命を落とす事がない竜。故に次代へ繋ぐと言う考えに思い至らなかった。絶対的強者だからこそ、長く生きられるのだから。

しかし、長く生きる事で抑制の効かぬ者が現れ始める。それを止めるべく理性ある者が立ち向かい、そうして竜は徐々にその数を減らしていったのだ。

 

 

そうして漸く竜の一部は強大過ぎる力が自らを滅ぼし得るものと悟り、その力を結晶化。高い理性を持ち続けようとした。

 

それが竜人族。その力の結晶たる竜石。それすら持つ事を辞め、生きていこうとした者達こそ、ヒト。

 

 

力を何よりも重んずる竜や竜人族の者はヒトを脆弱なものと見下し、そんなヒトが自分達に成り代わって大陸の未来を担う。などと言うのは、例えナーガ(神竜族の長)メディウス(地竜族の長)が言おうと受け入れられなかった。

 

そういうものなのだ、生物とは。

たとえ理解していたとしても、感情がそれを認めない。

 

 

故に変化を求める者は孤立しやすい。

力で抑えつけても、反発され。

理を唱えても、感情論で意味はなく。

 

 

だからこそ、この者が真にドルーアとマケドニアの新たな未来が創れるならば。

 

 

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ミシェイル陛下の話はやはり破談となった。

 

臣下として考えれば論外ではある。が、かと言ってレナが陛下を支えられるか?と問われれば非常に疑わしい。

しかも、レナの兄もアレときた。

 

 

⋯いや、別に断るのは構わんのよ?

ただ断り方ってのは少し考えて貰いたい。これでレナとマチスの親はマケドニアの社会で孤立する可能性が格段に上がった。その上レナの嫁ぎ先やマチスに嫁ぐ者も少なくなろう。

 

かと言って、陛下が件の家に格段の配慮をすれば好ましい話には映るまい。

 

 

とりあえず、此方で動かないといけないか。

ミシェイル陛下の腹心やら、腰巾着やら言われているがこの場合には役に立つ。

 

出来るならば、レナとマチスの意識改革もせにゃならんか。

 

 

特にマチスは次期当主としての自覚が足らないように思えてならない。

 

 

 

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原作において仮にも王家、しかも自身の妹が不始末をやらかした相手に不満を口にし、刃を向ける。

 

マルス達が勝ったから良いと考えただろうが、結局ミネルバが女王となってもマケドニアに居場所などなかっただろう。

ましてや頼りとすべきミネルバは英雄戦争後、マケドニアの統べるべき責任から逃げている様なもの。

 

 

原作ミネルバやその騎士達は論外だが、マチスもまたそうである事は疑いようもあるまい。

謀反をしておいて、国が纏められないからと勝手に主君が国を捨てる様なもの。それに与した者がどの様な扱いを受けるかなど想像するに易い。

 

針の筵という表現すら生温い扱いとなったとしても、不思議ではない。

 

 

 

 

マケドニアは裏切りに対して他国よりも遥かに嫌悪する傾向が強い。

苦しい生活を送っているからだろう。

 

 

 

「やる事はまだまだ多い。前途多難だなぁ」

 

なお、自分の話が密かに進もうとしている事にはまるで気付かないゲレタであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳でもう少しすると各ルートに分岐します。


アンケートはとりません。
一つずつ熟していく予定ですので。

勿論、バッドエンドも完備する予定なのでお楽しみに

エリスルート完結記念の外伝

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