汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
筆が迷ったのは内緒
マケドニア王国の王女であるマリアにとって、ゲレタという人物は不仲だった兄と姉を繋いだ人物だ。
変わり者であり、物怖じする事なく人と接する。王女である以上、仕方のない事ではあると思っていたが。
それはそうとして
「⋯⋯結構あの人厳しいんだよね。」
自分はまだ末妹であり、癒しの杖を使えるから良かったのだろう。
「⋯うう。
数字が、数字がぁ」
「減らない書類。⋯どうして。」
「間違えたぁ。
最初から書き直しぃ。」
死屍累々。そう思わされる光景が私の前に広がっていた。
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それは少し前の事
「白騎士団?」
「ええ。マケドニアではペガサスナイトもおおございます。
竜騎士はルーメル将軍が纏めておりますが、現在の体制ではペガサスナイトの運用がやや手薄となっているかと。」
「⋯それで、私が?」
ゲレタさんは姉さまとその騎士達に私を集めて話をした。
あの人が言うには、
「本音を言うと、たった三人纏めた程度で王女としての責務を果たしたなんてふざけるなって話でして」
との事。
「日々の鍛錬なぞ、陛下や将軍から言わせれば当たり前。
それで王女としての務めを果たせたと思われては、下の者に示しがつきませぬ。
特にミネルバ様は少し前まで陛下に反発なさっておられました。⋯であれば、人の命を預かる。その意味を理解して貰わねばなりますまい。」
「それで本音は?」
思わず口を挟んでしまうが
「そりゃ、
とおどけた口調でゲレタさんは話す。
なお、まっっったく目は笑っていなかったけど。
いつもなら、パオラが怒るところだけどそんな甘えは許されなかった。雰囲気に呑まれるってあんな感じなのかも知れない。
そう感じた。
それ以降、姉さまやパオラ達はゲレタさんから回されてくる白騎士団関係の書類と日々戦わなくてはならなくなった。
一応、私は多少はゲレタさんに教えて貰ったから姉さま達の手伝いをしている。
⋯その時、姉さま達は普通に鍛錬を選んでたからなぁ。
こうして毎日の様に顔を合わせられる機会が増えた事については、感謝しないとだけど。
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「度量衡に貨幣制度、か。」
ミシェイルはゲレタの提案を自身の中で消化しようとしていた。
「我々が目指すべきはアカネイアを頂点とした大陸秩序からの脱却。そうでなくば、いつまでもマケドニアの立場は向上しますまい。
あちらはアカネイアを中心とした経済圏を。
我等はマケドニアとドルーアによる新たな経済圏を、それぞれ構築する。
長い年月がかかりましょうが、そうすべきかと。」
貨幣は分かるが度量衡は?
「単位、ですかな。
陛下はお気付きになられておらぬやも知れませんが、武器や住宅ひとつひとつ。同じものはありませぬ。
⋯此方をご覧下さい。」
ゲレタが出したのは、マケドニアではありふれた
⋯しかし
長さが違う?
ミシェイルから見ても、それは同じ長さには見えない。
「どちらも傭兵として国外、アカネイアにて活動した者が依頼の都合上購入せざるを得なかったものです。
⋯陛下、お持ちになっていただけませんか?」
重さまでも、か。
これにはミシェイルも絶句してしまう。
「無論、技術的な問題があるので一様に悪いとは申しません。
ですが、明らかに強度が違うものもこの様子ではありましょう。それでは兵達の命を預けるには些か不安かと。」
問題だな。これは国内でもあるのか?
「幸いと申し上げるのはどうかと思いますが、マケドニアにおける武器の生産地は限られております。確認したところ、そこまでではなかったですな。
アカネイアについては私見となりますが、恐らく価格の統一による弊害かと。」
国内で起きていない事に安堵したが、アカネイアで起きたならばマケドニアで起きないとも限るまい。
ゲレタに先を促す。
「価格の均一化。買い手としては好ましい事ではありましょう。⋯その一方で売り手や作り手にとっては好ましい事にはならぬかと。」
「鉄を精製するにもそれなりの設備とそれだけの知識に経験が求められます。鉱石の産出地から近ければ良いのですが。」
遠ければ、お前が良く口にする輸送費がかかる。か
「左様です。
しかし価格は変えられませぬ。⋯となれば」
製品自体に手を入れるしかない。
「ええ。長さを変える。素材を少し少なめにする。質の悪い鉱石を使う。ざっと考えて思いつくのはこれくらいかと。彼等にも生活がありますので。」
理解は出来るが到底看過出来ない話だ。
武器とは命を預けるものであり、生と死を分かつもの。重心と言うものがあり、それが致命的な隙を生む事もある。
「幾ら熟達の職人だろうと、全く同じものを作るのは至難。
しかし、アカネイアの
たとえ困窮している村でも
パレスに近い町でも
同じ価格で、同じ品質を求める。
それがどれだけの負担を強いるのかすら知る事なく。
目安として度量衡を制定し、外からの粗悪品を弾く。最終的には必要な事となる。
そして、制度と言うのは言って直ぐに広まるものではない。意識を変え、そうする事こそが自分達にとっても好ましい事であると。そう受け取る様にならねば本当の意味で根付いたとは言えないだろう。
更に
「石工はさておき、木造建築が主流であるなれば長さの画一化は
建物の建設にも良い影響が出るかと。
長さだけでも揃えば接ぎ木も少なくなり、結果として建物そのものの強度向上にもなるのではないでしょうか。」
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マケドニア国内には峻険な山岳地帯が多く、資源もまた豊富。にも関わらず、国内の産業が発展しているとは言い難い。
これは単純にマケドニアという国はドルーア以外から物理的に離れた地域にあるが為の弊害であり、またマケドニアを興した英雄アイオテ。彼が始まりの竜騎士とも呼ばれ、畏敬の念を集めているからこそ起きた事と考える。
そも、アイオテが奴隷を率いてドルーアに対する抵抗をしていたのはアカネイア聖王国が滅びるよりも前と聞いている。
「⋯確かにかの者はアカネイアを滅ぼすよりも前から抵抗していたとは記憶しておる。
その末裔の国と手を結ぶ事になろうとは思わなんだが。」
しかし、そのアイオテの功績が認められ、国としてアカネイアに承認されたのはグルニア建国よりも後。
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アカネイアの国王となったカルタス。
彼を支えた者はドルーアとの戦いの中で傷つき倒れたが、間違いなくアカネイア再建の礎となったのは否定出来ない。⋯そう、メディウスを倒した勇者アンリを想うアルテミスでさえも。
しかし、アルテミスを妻に迎えアカネイア王家の血を守る事になったカルタス。彼の権威が高まり過ぎる事に不安を抱いた者もいたのだろう。
カルタスはアカネイアを再興した翌年、アカネイアの北方の草原地帯を平定。オレルアンを建国し、その国王にはカルタスの弟であるマーロンが就いた。
更にその2年後にはカルタスの信任厚いオードウィンが大陸西方地域を平定し、グルニア王国を建国。
なおオレルアン建国の翌年、つまりグルニア建国の前年には勇者アンリを国王とするアリティアも成立している。
此処で重要なのが、アカネイア国王となったカルタス。彼にとって信用出来る者が僅か3年で彼から引き剥がされた事であろう。
特にグルニアにはオードウィンを慕う騎士が多く同行し、結果としてグルニアの軍事力はアカネイアにとっての脅威と成り得てしまう。
勿論、グルニアの脅威をアカネイアが理解していない筈もなく、その上結果としてアカネイアから戦力を奪った形となったオードウィンに対してカルタスも不信感を抱いたのだろう。
そのグルニアに対する抑えとして、アイオテを国王としたマケドニアの建国を認める事となる。
グルニアの建国から2年後の話だ。
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つまり、アカネイアにとってのマケドニアはグルニアに対しての抑えであり、アカネイアの忠実な番犬としての役割を与えられたのだろう。
元々ドルーアの奴隷でしかなかった者達の集まりであるマケドニア。更に強大な力を持つ竜を多数擁するドルーアに抵抗する為にアイオテ達は各地に潜伏するゲリラ的な抵抗しか選べなかったのは容易に察しが付く。
確かにメディウスは倒され、ドルーアの脅威から解放されはしたのだろう。
しかし、アイオテを始めとしたマケドニアの者達に残されたのはドルーアとの戦いで死んだ仲間達の亡骸と満足に開拓も出来ていないマケドニアの大地だけ。
得たものと言えば、野生の飛竜を手懐ける術とマケドニアという国。
当時のマケドニアの民はドルーアの元奴隷。つまり、大陸の他の国からすれば被差別階級の者の集まりであり、またドルーアの残滓とも言えただろう。
その上未開発の辺境ともなれば、好んで移住したいなどと考える物好きもそう居ない。
そうなれば、マケドニアの産業構造が歪に発展するのも当然とさえ言えるだろう。
何せ、マケドニアの民は大陸基準を知らないのだから。
そして、そのマケドニアの歪さをアカネイアが知ったとしても、正す事はない。
武器に余計なものは不要なのだから。
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ゲレタの話をミシェイルは無言で聞いていた。
元々言葉を偽ろうとしないゲレタ。そして、それなりに付き合いの長いミシェイルはその言葉に偽りがない事を理解している。
だからこそ、己の感情を呑み込もうと必死だった。
「⋯つまり我等は最初から道具としての価値しか求められていなかった。お前はそう考える訳か」
「最近では騎竜や天馬。そして天馬を駆る
それはマケドニアの民を何よりも守ろうとしているミシェイルにとって許し難い事である。
「まぁ此方から好んで戦う必要もありますまい。
たった百年の間にアカネイアも相当腐りきっておる様ですし」
ゲレタは悪い顔をすると
「
そう続けた。
「⋯それもそうだな。」
その言葉にミシェイルは気を持ち直すと
「ところで、ゲレタ。
この際聞いてやろう。ミネルバとマリア、どちらが良いか?」
そう悪い顔で問いかけた。
エリスルート完結記念の外伝
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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