汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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他視点の話





変わりゆく景色

 

 

「⋯最近、兵達も気を入れて訓練に励んでいる。」

 

「先王の時には、そうではなかったが。ミシェイル陛下に代替わりしてから目に見えて兵の士気は高い。」

 

「無理もないだろう。他国へ出て、命を懸けるのは常に竜騎士。自分達はそれを見送るだけともなれば、な。」

 

マケドニアの酒場で、数名の男達が水を飲みつつ歓談に興じていた。

 

「皆無念であっただろう。

何せ竜騎士の顔見知りが少しずつ顔を見せなくなるとあっては。」

 

その言葉に皆表情を曇らせた。

 

 

産業構造の歪なマケドニア。マケドニアにおいて外貨を稼げる手段は限られており、それが傭兵。しかし、先王の御代にはアカネイアから食糧を貰わねばならぬ程に行き詰まった。

となれば、マケドニアの傭兵に対する扱いが良くなる筈もなく、武器代などの徴収。支給された武器も粗悪品。様々な名目で報酬を減らされ、仕事は増えてゆく。

 

竜騎士とて無敵ではない。

寧ろ高高度を飛行する為に、少しのミスが容易く命を失う事に繋がる。

 

 

----

 

 

 

マケドニアにおいて、竜騎士。正確には竜騎兵(ドラゴンライダー)となるが、その存在はマケドニアを代表するものであり、

 

またその家族達にとっては、死神と同義でもあった。

 

 

 

マケドニアにおける主要産業となっていた傭兵業。

確かにこれにより得られた外貨や信用はマケドニアの明日を繋いていたのは事実。

 

 

しかし、だからと言ってその家族や友人が心を痛めない。などと言う事は決してなかった。

寧ろ、その逆。生きる事にすら責任を感じ、常に自らを追い詰める者が増えていく始末。

 

家族が、友人が

或いは恋人が繋いてくれた未来(いのち)であると。

 

 

 

マケドニアの成人男性は先ずドラゴンの騎乗についての適性を見られ、それに弾かれた者は地上部隊の適性を見られ配属される。

 

これすら、先王の時代には好ましく思われておらず、「マケドニアの男なれば竜に乗って当たり前」との風潮すらあった。

 

 

 

然し、誰しもが竜騎兵と成れる程に甘くはない。(彼等)は誇り高き生物。

乗り手の技量が足らぬと、或いは精神(こころ)が弱い者に己の背を任せる事はない。

 

王族が乗る騎竜ならいざ知らず、他の者達が乗る騎竜とはそういうもの。

天馬とて、乗り手を選ぶのだから。

 

 

例外があるとすれば、王族に用意された騎竜くらい。マケドニアの象徴たる者がドラゴンに乗れない。そんな事になれば、王権が揺らぎかねないのだから。

 

 

 

「我等は乗れなかった。」

 

「そして、多くの者の背を見送らねばならなかったのだ。」

 

それがどれだけ残酷であっただろうか?

 

幼き頃は、その姿に憧れ

残酷な現実を知り、それでもマケドニア(家族の明日)の為にならば!そう己を奮い立たせたとしても、それでも現実は変わらない。

 

 

そして、顔見知りが減り、その家族などが俯くのを見て、何も感じない程に自分達は人を捨てていない。

 

ミシェイル陛下を信奉するのは、彼が様々な事を自分の目で見て、聞いて、考えた末の行動だったから。

 

 

 

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「血に塗れたとしても、その先に血を流さぬ未来があるなら躊躇わん。この男はそれを良しとした。

お前たちはどうか?」

 

先王を弑した翌日、我等は陛下に集められ、そう問われた。

 

 

リュッケと彼に率いられた兵士はゲレタと行動を共にし、その内なる烈しさと情の厚さを知った。

 

「今のマケドニアには余裕がない。

日々を生きるのに手一杯。だが、夢を見なければ人の心は荒む一方。

マケドニアの民には夢を見て欲しい。そうすれば、少しずつでも明るい未来(あした)に繋がるだろうから」

 

 

 

「マケドニアの民や兵が苦しむ中、それを他人事と見下し暮らしてきたのはさぞや気分が良かっただろう?

⋯もう一生分の幸運は使い果たしたのだ、貴殿らは。」

 

ゲレタはその手でアカネイアに繋がり国を売ろうとしていた者を斬り殺している。

 

 

その後悼む様子もあり、兵士達も情のある人物とゲレタを受け入れていた。

 

 

 

元々文官達からは受け入れられていた事もあり、ゲレタがミシェイルの懐刀として、マケドニアの大臣となるのも反発は起きなかった。

 

と言うよりも

 

 

「ゲレタ殿を部下として使いこなせる気がしない。」

 

と言うのが文官達の総意だったりするのだが、それも仕方のない事と言える。

 

 

 

 

 

 

「あくまでも我等は国を守る為のものであり、他国へ戦争を仕掛けるつもりはない、か。ありがたい事だ。」

 

「全くだな。国外へ侵攻など考えたくもない。」

 

マケドニアの民はただ平和に日々を送りたいだけなのだ。

当たり前の日々が何よりも尊い事を彼等は良く知っているのだから。

 

 

 

 

 

----

 

 

 

「度量衡、か。

確かに異なる価値観を持つ竜人族とヒトが交わるならば、避けては通れぬ道よな。」

 

「価値観の共有。そして、軋轢を生まぬ為には必要な事ではあるのでしょう。」

 

 

ゲレタ(変わり者)の主張するところは、同盟国であるドルーアにも即座に伝えられ、皇帝メディウスとガーネフは話し合いの場を設けていた。

まぁ話し合いと言うよりは、ゲレタ(異郷人)の思惑をある程度推し量ろうとする場であったが。

 

 

マケドニアとドルーア間の連絡はマケドニア騎士、或いは竜人族により速やかに行われており、その連携は密なるものとなりつつあった。

 

更に

 

「マケドニアとドルーア間の山岳地帯を切り拓きつつある。山の土はマケドニアにとって農業の為に必要となり、木材は住居の資材。鉱石は鍛冶に利用出来る。

その上街道が整備されれば両国の繋がりは更に深まる、か。欲張りな事よ。」

 

「それに加えて、街道が整備されれば蛮族もそこを通る者に目をつける。

そこを討ち果たせば、脅威は確実に減ると。」

 

ドルーアの辺境、マケドニアとの国境付近には蛮族の存在も確認されており、懐柔出来ないのであれば、その排除も喫緊の課題。

更にドルーアとマケドニアの民レベルでの融和も必要。

 

 

そこでゲレタはマケドニアとドルーアを結ぶ主要街道の整備を提案。その労働力には竜人族が。土砂の輸送には竜騎士や天馬騎士を動員するべきとミシェイルに進言した。

 

 

マケドニアの地は農業に適さない。

ならば、農業に適している土壌を輸送すれば良い。

 

 

という何とも頭の悪い方法での解決をゲレタは主張したのである。

 

 

そのあまりのパワープレイ(脳筋方法)にミシェイルはいよいよおかしくなったのか?と考えもしたが、良く良く話を聞けば理に適っているのだから性質(たち)が悪い。

 

 

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実のところ、ゲレタが度量衡に考えを至らせたのがこの話の中だった。

 

 

何せ土砂を運搬するとなると、強靭な布地とある程度画一化された広さが必要となる。

 

ゲレタがイメージしたのはワイヤーモッコと呼ぼれる建設現場で使用されているものだった。

 

 

それをマケドニア風に改良し、実用化させたのである。

 

 

 

殊の外、これは輸送において有用と判断したゲレタはこの量産化を推進すべきと考え、規格の統一。それから度量衡の策定へと至る。

 

更にマケドニアとドルーアは竜騎士、天馬騎士に竜人族と空輸手段には事欠かない。

となれば、竜騎士や天馬騎士用の物と共に竜人族用の物も必要ではないか?と考えた。

 

更にこれの作り手に竜化する事に忌避感を持つ竜人族を雇用してはどうか?とモーゼスを通じてメディウスとガーネフにも打診している。

 

 

 

「他者を巻き込んで変化を引き起こす、か。」

 

「悪い話ではないのでしょう。

私にもカダインから人材を引き抜いてはどうか?との話が来ておりますし。」

 

これは武力を用いない戦いである。とメディウスとガーネフも気が付いている。

 

 

「どちらが豊かになるか。⋯⋯ククッ、愉しませてくれるわ。」

 

 

ドルーアの竜人族の中には既にマケドニアの民からの称賛を受けてその気になっている者もいると聞く。

 

良い事をすれば

凄い事をすれば称賛され、互いに笑い合う。

 

 

いつの間にか忘れていた感覚を彼等は味わっているのだ。

 

 

 

 

「この荒涼とした大地を変えましょう。

されば、可能性を誰もが信じる事になる。」

 

 

会談の最後にゲレタが告げた言葉。

それは少しずつだが、現実となろうとしていた。

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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