汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
突然上司から縁談を持ち込まれた時、あなたならばどうするだろうか?
ひとりはイノシシ
ひとりは選んだ瞬間、不名誉な称号がセルフ授与される。
個人的には結婚したいとすら思わないのだが、この懸念について話すべきか、迷う。
「と言う訳なんですけど、どう思われますか?」
「⋯確かにその懸念は間違っておるまい。
竜を祖とするこの大陸のヒトと、異なる進化を遂げたヒトの一人であるお主。結ばれたとしても、子を授かる可能性は低かろうよ。」
やっぱりかぁ。
とりあえず陛下には待ってもらう事として、モーゼス殿に相談する事とした。
何せ、この話はアカネイアの根幹にも関わる話。しかも、仮にどちらかと結ばれれば、その時点でマケドニアの未来を任されたも同義。
なんせ陛下も割りとこの手の話を好んでいないからなぁ。
ミネルバ様、マリア様どちらを選んだとしても子を授かる可能性は低い。
となれば、当然御心を痛める事になるだろうし、いつまでも子が産まれないとなれば最悪そちらにも批判が飛ぶ可能性も捨て切れない。
流石にグランベルの様な事にはならんと思いたいが、制御が難しいものだからな、感情というものは。
「姫の血があれば、或いはどうにかなるやも知れぬが。」
「却下ですわ。んな事に彼女まで巻き込むのはいかんでしょう。」
確かに
何せ時間遡行にも似た事すら可能なのだ。ユグドラルでの動きを見るに、血の祝福(つうか最早呪いだろう)を受ければ。とは思わなくもないが。
それは余りにも彼女の意思を無視した話だろう。
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お主ならばそう言おうな。
自分の提案を一蹴した男の姿を見て、モーゼスは内心やはりこの人物は信用するに値するとの評価を固めた。
が、そうであるが故にこの男はこのまま行けば孤独の中で死ぬ事になる事も容易に想像が出来る。
⋯しかし
それは許されぬ大罪なのだぞ、ゲレタよ
我等竜人族の心を救ったそなたを無為に死なせる程に我等は恩知らずではないのだ。
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「⋯ほう?あの忌々しい盗賊はそうしたのか。
ならば、それを利用するとするか。」
メディウスはそう笑う。
アカネイアへの憎悪が消えた訳では決してない。あの穢らわしい盗賊の作り上げた世界など、メディウスは認めるつもりはなかった。
しかし、一方で嘗て己等が奴隷として虐げてきた者の末裔が己等を認め、新たな世を築こうとしている。
それには一定の敬意を払う事くらいは出来た。
かの者は言った。
「時は常に流れ、変化します。
大地とて、あなた方の知るものと様変わりしておりましょう?であるならば、我等も変わりあなた方竜人族もまた変わらねばならぬかと。
此方から仕掛ける必要はありません。アカネイアが賢明な方法を選ぶのであれば、それもまた良いでしょう。
⋯尤も、腐敗しきった者達が持つには過ぎた力がある以上混乱は必定かと思いますが。」
資格ある者には強大な力を
されど、資格なき者には大いなる災いを
それが我等が竜人族の秘宝に込められた
封印の盾とて例外ではない。
力とは御せねば容易に己の破滅を齎す諸刃の剣。
愚かにも宝玉を売り払ったらしいが、その持ち主も転々とした事だろう。
既にドルーアの地へ移り住んだ者が幾つか確保していたが、そういうものなのだ。
「如何なる大樹とて腐り落ちれば地に還るのみ。
それを眺めるのも一興か。」
己の憎悪や無念。怒りよりも今の自分にはやらねばならぬ事が出来た。
地竜族の長として、竜人族の一人として、同胞の命と生活を守る。⋯それもまた在りし時のあの者の姿。
今の自分は竜人族を纏める者として、これからの世の変化に向き合わねばならないのだ。
些事に時間を取られる程に暇ではないのだ。
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「という訳なのだが、知っておったか?」
「⋯いや、それは初耳だ。」
ドルーアのガーネフはマケドニア王ミシェイルの元に足を運び、ミシェイルの腹心たるゲレタの危惧する所を伝えていた。
「アレが我等の理と異なる世界の者とは知っていたつもりだったが。」
ミシェイルもまさかその様な事があるとは予見出来るはずもなかった。
男女の営みの結果、子をもうけるのは当たり前の事であり、それすらゲレタには許されないなどと。
流石のゲレタもデリケートな話である為にミシェイルにも言い出せずにいた。
ミシェイルからの話を受けて、直ぐにモーゼスへ相談する位にはゲレタも気に病んでいたと言える。
「軽挙に過ぎたか。」
ミシェイルとしては、それこそ妹を託すのは最大限の信頼の証であり、ゲレタに対して不安を感じているマケドニアの民に対しても格好のアピールとするつもりだった。
勿論、多少負担を強いるのは申し訳ないとは思っていたが。
少なくとも、マリアはともかくミネルバの行動や心境に変化を齎したゲレタをミシェイルは高く評価している。
家族だからこそ、ミネルバの頑なさは理解しているのだから。
ゲレタには言わなかったが、新設する白騎士団。
それはミネルバの為の部隊であり、ゲレタの為に用意した部分もあった。
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現在マケドニアでは他国への傭兵業を中止しており、また政策も国内の充実に比重を傾けている。
となれば、態々多額の予算を出してまで新規の部隊を新設する必要は低い。
にも関わらず、白騎士団の新設をミシェイルが認めたのは確かにゲレタの考える様にミネルバの意識を変える為のものでもある。
王女であり、先代のお気に入りであったミネルバ。彼女が実力を示した事で図らずとも、マケドニアの少女達はミネルバに憧憬の念を抱く事となった。
天馬騎士への志願者の増大。
単純に戦力が増える事を喜べない。マケドニアの次代へ繋ぐ彼女達がいつ果てるかも知れない戦場に身を投じる。それは元々先行きの暗かったマケドニアの未来を更に先細らせる事なのだから。
ミシェイルとゲレタはミシェイルが王子の頃から話し合いを重ね、
マケドニアが武力をなるべく行使しない未来を創る。
という結論を出した。
「仮にアカネイアとそれに与する国家と戦端を開いたとしましょうか。
我々はドルーア以外の国家全てを相手取る事を考えねばなりませぬ。下手に味方を増やしたとあっては防衛線が長くなり過ぎ、防衛ラインの維持が難しくなります。
ドルーアとの同盟のみに絞れば、敵方の動きを察知するのは容易であり、敵は洋上において満足に身動き出来ぬ船の上でしか抵抗出来ません。
洋上ともなれば、我等マケドニアの航空部隊による監視網も十全に機能しましょう。
しかし、陸地に防衛線を敷くとなればその難易度は跳ね上がりましょう。ですが、同盟を結んだとなれば見捨てる事も出来ない。」
ゲレタには戦争に対する明確なイメージがあるのをこの時ミシェイルは知った。
「仮にアカネイアを滅ぼしたとしても、それで終わりではありませぬ。
アカネイアが二度と戻らぬ様に丁寧な統治が必要となります。民に「マケドニアに負けて良かった」と思わせなければ、必ずアカネイア再興の為の兵は挙がる事になるかと。」
そんな余裕が出来るとも思えない。
「中途半端な占領地政策はマケドニアにとって害にしかなりませぬ。マケドニア発展の為に占領地から富を奪えば、民からの恨みを買い、占領地の統治に支障をきたす。
さりとて、マケドニア国内に引き込んで敵を叩き続けたとしても戦争は終わりますまい。寧ろ我らに対する憎悪の炎を更に燃え上がらせるだけかと。」
だからこそのドルーアとの同盟であり、ドルーアと共に独自の経済圏を作る。
国を発展させる事に批判する理由はないだろう。あったとしても、それが主流となる事はない。
誰しもが平和に、豊かな生活を送りたいと思うのだから。
マケドニア、ドルーアによる経済圏を作ろうとすれば、
十中八九、アカネイアは何らかの口実で攻めてくるとゲレタは読んでいる。が、そうなればマケドニアに対する同情やアカネイアの強硬姿勢に疑問を持つ者も現れよう。
罅が入れば、その罅を更に拡げるのはそこまで難しくないとゲレタは言う。
これについては、ドルーアのメディウスも高笑いした後に
「武を用いぬ戦争か。⋯なるほど面白い。」
と協力を確約している。
マケドニアは変わり、ドルーアもまた変化する。
差別を受けた者達と組み、その全てをひっくり返す。
それが今のミシェイルが目指す未来なのだ。
「姫よ、無事であったか。」
⋯うん。
変革の時は訪れようとしていた。
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他