汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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誰とは言わないけど、勝利ルートまっしぐら








絡み、巡り合う

マケドニアに対する食糧支援の停止。

 

 

それはアカネイアにとって朗報である筈だった。アカネイアにとってもマケドニアへの支援は少なからぬ負担となっていたのは紛れもない事実なのだから。

 

 

 

だが、不思議な事にこの話がアカネイア国王から告げられた時、少なくない貴族が不満を抱く事となる。

 

 

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「⋯どうしたものか。」

 

「⋯何故今更マケドニアへの支援を止めるなどと。」

 

 

アカネイアのとある貴族の邸宅では、集まった者達が口々に国王の決定へ不満を漏らす。

 

彼等はマケドニアへの支援により、私欲を満たしていた者達だった。

 

 

マケドニアの食糧事情の悪化に伴い行われたマケドニアへの支援。それは彼等にとって己が利益を貪る為の絶好の好機。

何せマケドニアへの支援(王命)というこの大陸における絶対的な札を盾にすれば、どれだけ理不尽な要求であろうとも従わなければならないのだから。

 

故に彼等はマケドニアへの支援を名目に自分達の取り分をも徴収した。

アカネイア国内でやったならば罪に問われる事もあったが、他国相手ならばそうなりにくい事を知っていたから。

 

 

そして、それを原資に自分達の勢力を拡大していた。

彼等はマケドニアに好意など一欠片も持っていない。しかし、自分達の勢力を拡大する方便として存在するのであれば、マケドニアを認めてやっても良い。

 

その位にはマケドニアを評価していた。

 

 

 

勿論、そんなアカネイア貴族内でしか通用しない様なやり方などミシェイルは勿論、先代も認める事はない。

仮にこれがマケドニア側に露見したならば、それこそ烈火の如く怒りを露わにするか、或いは付け入る隙を見つけた。そう何処かの変わり者が嬉々として分断工作を仕掛けてくるだろう。

 

彼等は自分達が如何に危険極まる行動をしているか、その自覚は全くなかったのである。

 

 

 

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マケドニアの不気味な動きに危機感を募らせている組織があった。

大陸全土にその影響力を持つ教会である。

 

本来ならば、マケドニアの有力者。或いはマリア王女の側にあって教会の影響力をマケドニアにおいても確保するべきだった。

 

 

ところが、他ならぬマケドニア教区の担当司祭。マリアに教えを授けた人物であるが、かの者は総本山へ戻るなり辞意を示した。

唐突としか思えない申し入れに戸惑ったが、本人の強い希望もありその申し入れを受け入れた。

 

⋯受け入れてしまったのだ。

 

 

マケドニアはアカネイアと比べるまでもなく貧困な国家であり、総本山にて質素(総本山基準)な生活を送る者の中からマケドニア教区への赴任を希望する者は現れなかった。

 

何せ教会の中心たる総本山からマケドニア教区に出向する事は誰の目から見ても左遷当然。権力や地位を求める者達からすれば、オレルアンやアリティア。グラやグルニアはまだ許容出来るが、海を隔てた流刑地とも言えるマケドニアに居ては立身出世に繋がる事はない。

そう思われていたのだから。

 

 

後任の定まらぬままに辞意を受け入れた事を彼等は後悔したが、既にマケドニア担当だった人物は姿を眩ませていた。

 

 

結果、教会はマケドニアへの影響力が無くなってしまう事を危惧しながらも身動きの取れない状況に陥ってしまう。

 

 

 

 

 

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マケドニア教区担当だった司祭。

彼はゲレタと直接問答した人物であり、左遷同然のマケドニアに来てまでマリアをシスターとして育てた。故に教会の教えを広める事こそが己の責務と固く信じていた。言うなれば敬虔な信徒と言える人物。

 

 

だからこそ、彼にとってゲレタとの問答の末に辿り着いたものは彼の価値観全てを根底から覆すに充分な威力を持っていた。

 

 

 

 

 

「神竜ナーガから神託を受け、アドラ一世はアカネイアを建国した。そう教会の教えにはあるが、妙な事ではありませぬか?」

 

「⋯妙とは?」

 

相手の問い掛けの意味が分からなかった。

 

「神竜ナーガとはアカネイアの正当性を担保する存在。

しかし、アドラ一世はアカネイアを建国して間もなくナーガの同胞とも言える者達をマムクートとして迫害している。」

 

「それは暗黒竜メディウスが」

 

「いやいや、メディウスがアカネイアを滅ぼしたのはアカネイア歴490年のこと。アカネイア成立から四百年以上経過しての出来事ですぞ?

確かにアカネイア建国当時、彼等は脅威ではあったでしょうが神竜ナーガの様にヒトに力を貸す者もいたのでは?」

 

その言葉に男の思考は止まった。

教会の教えには暗黒竜メディウスの暴虐があったからこそ、アドラ一世は人の世を守る為にマムクートを迫害したと教わる。

 

「教会の教えを広めるのは結構な事。

しかし、教える側であるならば疑問に対して答えを返せなくては困りますな。」

 

更に

 

「彼等は長命種です。

我等の様に机上の説としてではなく、その当時を生きている。

であれば、彼等から聞き取りでもなされたのですか?その方が信憑性も確保出来ると思うのですが。」

 

 

 

その話以降、男は苦しみ続けた。

何せ、今まで自分の芯となっていたものが揺らいだのだから。

 

マケドニアから総本山に戻り、資料を漁れど何もなかった。

 

 

 

そう、教会の教えを前提とした書物はあれど、その教えの根拠となるものは無かったのだ。

 

 

「⋯これでは教えを説ける筈もない。」

 

 

故に彼は教会から去ったのだ。

 

 

 

 

後にこの人物はマケドニアへと渡り、ドルーアの竜人族と語らい歴史の真実を知る事となる。

 

 

 

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「マケドニアに仕掛ける?

馬鹿な事よ。」

 

アカネイアの貴族の一員であるアドリア伯ラングは混乱の中にあるアカネイア貴族達や宮廷の体たらくを見て、自室で吐き捨てた。

 

確かにアカネイアには多くの騎士がいるし、神弓パルティアを使うジョルジュ率いる弓兵隊や神器メリクルソードを使いこなす勇者アストリアもいる。

 

が、平和に慣れきったアカネイアに外征の経験があろう筈もない。その上、マケドニア相手となれば渡海せねばならず、その軍船の手配すら満足に出来ていないのが現状。

 

 

貴族や宮廷の中には商人らの船を徴用すれば良い。などと言うラングからすれば到底理解できない愚論を主張する者すら居るとか。

 

 

「その船で運べる物資が無ければどうなるかすらも分からんか。」

 

ラングは商人から賄賂を貰い私服を肥やしている悪徳貴族とも言える存在だ。

だが、一方で領民に対してはそれなりに心を砕いてもいる。

反乱など起きて、万一にも王国から罷免されようものなら意味がない事を知っているのだから。

だからこそ、ラングは商人の扱いにも多少心得があるし、彼等が嫌がる事も理解している。

 

 

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アカネイアは確かに大陸最古の国家であり、大陸の中心たる存在だ。

だがそれはアカネイアの国力が他国を圧倒している事に繋がらないし、産業が抜きん出て発展している訳でもない。

 

そもそも、仮にアカネイアの産業が発展しているならばノルダというアカネイアの中心に程近い場所に奴隷市場などというものがあってはならない。そうラングは常々思っている。

 

 

度し難い事だが、アカネイア貴族の中にはパレスでの話し合いの帰りにノルダで奴隷を買って帰るものも少なくなかった。

労働力ではない。愛玩用の奴隷、或いは見世物としての奴隷として。

 

 

 

大陸各地に点在する闘技場。

勝者には名声と富を、敗者には死を。

 

それが闘技場の掟。

 

 

 

しかし、良く考えてもらいたい。

闘技場における戦闘(命を賭けた戦い)。確かに双方金を賭ける以上、利益は多少出るだろう。

 

傭兵などは闘技場を自身の鍛錬の場として、或いは己の実力を誇示する場として利用する。

が、それ以上に【大衆の娯楽】としての機能が闘技場には存在した。

 

 

残虐な処刑。命を賭けた決闘。

それらを娯楽とするのは、つまるところそれだけ民の中に鬱屈した不満があるという証拠ではないだろうか?

 

 

 

 

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人の中には加虐性や残虐性も潜むという。

だが、人はそれを理性で抑え込み、そして日々を送る。

 

山賊や盗賊、海賊などはそれらに飲み込まれた者達とも言えるだろう。逆に騎士や傭兵はそれを御し切っているとも。

 

 

 

マケドニア(貧困に喘ぐ国)を見よ。

マケドニアには闘技場というものはない。あろう筈もない。

人も物も余裕など有りはしないのだから。

 

にも関わらず、マケドニアの者達は自分達の命すら削ってでもマケドニアの明日の為に戦い続けている。

 

 

マケドニアの有力者達も概ねマケドニアの未来の為に労を惜しまない。

数少ない不心得者はゲレタが纏めて地に還した。

 

 

皮肉な事にミシェイルが王位を簒奪して以降、マケドニアはより良い未来の為に動き出したのだ。

右往左往するアカネイアとは違い。

 

 

 

 

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ラングはアカネイア貴族の中でも中堅的立場であり、アカネイアの未来を左右する会議への出席は勿論の事、どれだけ声を上げたとしても無視される立場だ。

 

まぁラング自身己が清廉潔白とは程遠いと自覚している事もあり、アカネイアの主流派からは忌み嫌われている。

 

 

 

アカネイアの迷走は止まらない。

 

 

 

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偉大なる神竜ナーガの娘であるチキ。

彼女は少し前に従者であるバヌトゥに連れられて神殿から外の世界へ出て生活していた。

 

が、そのバヌトゥも長い間神殿の中で眠るチキの傍らにあった為か世情に疎く、結果としてチキと離れ離れになってしまう。

 

 

 

 

本来ならば、ナーガの娘であり神竜族の次代の担い手たるチキ。その教育は慎重に慎重を期さねばならぬもの。

故にこそ、同族の中で頭の回るガトーや火竜族の長老格であるバヌトゥにチキは託された。

 

ところが、チキはその大きな力の制御が完全とは言えず、また情緒も生まれてから千年は経つのに幼いまま。

 

 

 

幸いにも彼女を保護する事に成功したものの、彼女の姿を見たメディウスは想像以上にガトーが愚かであった事をまざまざと見せつけられた。

 

無論、そんな愚か者に従っていたバヌトゥにも言いたい事は辺境に潜む蛮族の数よりも遥かに多い。

 

 

はっきり言おう。

メディウスは勿論、ショーゼンやゼムセル。ガーネフやこの場に居ないモーゼスにも彼女を良く育てられるとは思えない。

 

メディウス達は変化する世の中に下手をすれば翻弄されかねない立場であり、ガーネフは自分に人の子なら何とかなる可能性も僅かながらにあるが竜人族の娘ともなると請け負えない。

 

 

竜人族の次代

つまり、ヒトと竜人族。双方に長じねばならないのだから。

 

 

そこでメディウスは彼女が

 

 

 

「どうして私を助けてくれるの?」

 

と疑問を口にしたので

 

「姫の事を案じ、我等を動かした者がいたのだ。」

 

と答えた。

 

 

 

つまりメディウスはゲレタにチキを任せる事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

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WHY(なして)!?!?

 

 

そう口から出さなかった俺を誰か褒めて欲しい。

いやいやいや、何でこうなるのさ!

 

 

「我等ではどうしても力に頼るところが大きい。

が、ヒトと在るなれば力だけに頼るは愚かであろう?ヒトと我等竜人族。その双方の想いや事情を汲みつつ、上手くやれるのはゲレタ。お主だけではないか?」

 

⋯⋯⋯その話を先にして欲しかったわ。

彼女の目の前で言い争いじみた事をすれば、心を傷つけるだけ。

 

「俺はゲレタ。名前を聞いても構わないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はチキ。

⋯あなたも私と一緒なの?」

 

 

異邦人と竜人族の希望。

本来ならば結びつく筈もない存在。

 

しかし、今此処にその(えにし)は結ばれた。

 




信じられるか?原作の時点でチキは生まれてから千年経っているのだ。

にも関わらずあの幼さ。


これはガトーけじめ案件ではなかろうか?












余談となりますが、歴代シリーズの竜人族の中で一番好みなのは覚醒のチキ。
竜人族ではないが、封印のソフィーヤも好きでしたね。

育てるのに苦労したのも良い思い出。

エリスルート完結記念の外伝

  • いる
  • いらない
  • そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
  • そんなことよりチキを出せ
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