汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
「分からぬものだな。
まさか我等がラーマンを離れる時が来ようとは。」
「姫も此方に来たとあっては、ナーガの遺体もない神殿にどれだけの意味があろう?
お主とて、心境の変化があったからこそ我等の前に姿を見せた。⋯そうではないか?」
チキが四苦八苦しながら木を抜こうとしていた頃、ドルーアではメディウスが懐かしい顔と顔を合わせていた。
「我等は争いを望まぬ。
が、ヒトと共に在れぬとも感じた。だから、人の手の届かぬ所やラーマンの近くで神殿が荒らされぬ様にしておった。」
「だが、お主もまた此処へ来た。
心境の変化があったのだろう?」
メディウスは口角を上げて笑う。
「ヒトと共に暮らす。
世迷い言と切り捨てても良かった。⋯が、それを伝えたのが他ならぬメディウス。そなたなれば、興味は尽きぬ。」
メディウスは
傷付き助けを求めるふりをして、神殿でナーガの遺したものを守っていた者達を手に掛けた、あの男を。
そして、そんな嘘に騙された愚かな自分自身も。
しかし、アカネイアを滅ぼしてもその怒りは収まらない。
当時はアドラの血を絶やしておらぬから。そう考えたが、そうでは無かったのかも知れない。
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「今となっては、アカネイアなどどうでも良い。」
攻めて来るならば、叩き潰す。
が、其処に嘗ての様な怒りは無い。
嘗てナーガ達と共に夢見た景色を守る為に戦うだけ。
「変わるものだな。⋯いや違うか。遥か昔のそなたはナーガ様と並び立つ程に理性的であった。
あの頃に戻ったと言うべきか。」
「この辺りも様変わりしつつある。
マケドニアから運ばれてくる木材で家を建てようと試行錯誤しておるわ。」
ドルーアに移り住んできた同胞達。彼等は戦う事に疲れ果てており、ヒトからの迫害すら煩わしく感じたから姿を隠していた。
今となっては、マケドニアの職人から技術を学びドルーアの各地に己の住まいを作ろうとしている者も出てきた。
一方、マケドニアの竜騎士や天馬騎士による土砂の運搬を見て、その運搬量の少なさに苛立つ者も現れる。
彼等は土砂を運べる布を何とか出来ないかと頭を悩ませているらしい。
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「⋯それで?
そなた等にそこまでの影響を与えた異邦人。まさか何も与えぬ、などとは言わぬだろうな?」
竜とヒトの作る世界。
それは遥か過去に置いてきた理想郷。メディウスと話をしている者とて、ヒトを守る為に旧き時代には地竜達と戦った猛者。
メディウスにとっては戦友とも言える存在でもある。
「あの者は竜に乗れぬと聞く。
ならばそれなりの飛竜を与えようかと思うのだが。」
「⋯悪くはないな。
が、姫を送っているのだろう?モーゼスに確認してからの方が良いのではないか?
仮に姫がかの者を気に入れば、飛竜を贈られても。」
「⋯⋯⋯⋯確かに、そうやも知れぬ。」
メディウスは指摘されて唸る。
「情緒が育っておらぬなら、或いはかの者に執着するやも知れぬ。その場合、飛竜は姫の威に晒され続ける事となるぞ。
流石に不憫ではないか?」
「齢の割には幼子の様なものだったからな。
あり得る話だ。良く指摘してくれた。」
なお、この指摘は正しい。
並行世界においての話だが、ゲレタを父と慕うチキはライバルと成り得るペガサスに威嚇をした事がある。
父ですらそれなのだ。
さて、この世界のチキならばどうなるだろう?
ひとつだけ確かな事は、神竜というある意味最強の存在に威嚇される可哀想な飛竜は助かった。
と言うことだろう。
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「神竜の娘?
その娘をゲレタに預けるのか?」
「その様じゃな。」
ミシェイルの元を訪れたガーネフ。彼はメディウスの言葉をミシェイルに伝える。
「⋯ゲレタが良いと言うのなら構わないが。」
ミシェイルとしてはこのタイミングでのそれは余り歓迎したくなかった。
何せこれから白騎士団の本格的な運用が始まる予定なのだ。出来るならば、ミネルバやマリアとの時間を減らすべきではない。そう考えていたのだ。
ゲレタからのアクションは期待するだけ無意味だと思っているので、ミネルバやマリアからのそれを期待したいと密かに考えているミシェイルだった。
とは言え、マケドニアの国王として考えればマケドニアの藩屏たるゲレタが神竜ナーガの娘と良い関係を築く事に異論などあろう筈もない。
マケドニアとドルーアの関係が深化する。それは好ましい事なのだから。
「一応聞きたいが、その娘はゲレタに気を許すと思うか?」
「少なくとも、マケドニアの上の姫よりはマシじゃろうな。」
返す言葉もなかった。
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「⋯上手く出来なかった。」
「まぁそういう事もあろうさ。気長に慣れていけば良いさ。」
チキは少し気を落としながら、道を歩いている。
そんなチキを多少気遣いながら、ゲレタも彼女に合わせてゆっくりと歩く。⋯チキがそれに気付かぬ様に。
「ゲレタよ。
今だから聞くが、何故木だったのだ?
岩や土なれば姫とて容易く出来たであろうに。」
「力の制御の練習ですよ?
力加減を間違えればどうなるか?それを最初に経験させないと。この場合、最初に成功させると力加減に対する意識が薄まる可能性も在る。そう考えまして。」
「⋯ふむ。」
モーゼスの言葉にゲレタは苦笑しながら答える。
「木を多少手折ったところでさしたる問題にもなりません。しかし、これから先には力加減を間違えると困る場面もありましょう。それに」
「それに?」
ゲレタの言葉にチキは首を傾げ
「難しいからこそ、工夫して
成功したら嬉しいだろ?」
ゲレタはそう笑いかける。
⋯チキはゲレタの言いたい事を理解すると
「うん!」
満面の笑みで笑ったのだった。
ところで常々思っていたのですが、感想に所々チキらしき存在が確認されるのです。
なんで?
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他