汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
⋯なるほど、これが『キャラが勝手に動く』と言うやつか。
チキにとって大変な一日は終わった。
マケドニア本土へ戻るとチキは集中力を使い果たしたのか、眠気を隠せなくなりゲレタは苦笑し、世話役の女性にチキの湯浴みを手伝う様に頼んだ。
チキが場を離れるとゲレタは
「ガトー死ねば良いのに」
と口にする。
その直截な物言いにモーゼスも思わず
「一応アレも同族ではあるのだが。
⋯が、その怒りは理解出来る。」
と苦笑を浮かべつつ同意した。
「明らかに自分の意思で動く事すら躊躇してましたよね?
ガトーは今は亡き神竜ナーガの娘をどうしたかったのやら。外見と同じく相当幼いですよ、彼女は。」
まぁ無理もないとはゲレタも思う。
確かバヌトゥが神殿から彼女を連れ出して外の世界で過ごした時間は僅か十年足らずだったと記憶している。
千年生きていて、殆ど眠りにつき僅か十年程しか活動していない様なもの。
最初チキを眠りにつかせたのはナーガと聞くが、このナーガも大概だろう。
もしかしたら、ナーガ自身も娘であるチキとの向き合い方に苦慮していたのかも知れないが、それでも親であるならば娘を愛してやらないでどうするのか?
まぁヒトの理でナーガが推し量れるか?と言われたならば難しいところではあろうが。
とりあえず、ナーガは会ったら
一発殴る。絶対に
ガトーはボロ雑巾になるまで酷使してやる。
死に逃げるなんざ、許さん。
と内心怒り狂っているゲレタ。
そのゲレタの様子を見て、モーゼスは思う。
異邦人、か。
皮肉なものよ。異郷の者こそが我等の怒りを理解するとは。
モーゼスの配下である魔竜族の者達。
彼等はモーゼスの命を受けて、とある場所を強襲している。
ドルーアの地底にある闇の祭壇。その周辺に住まう闇の部族と理性を捨てた地竜。
それら全てはこれからの時代を受け入れられない者達であり、放置していては後に禍根と成り得る。
その様な事をモーゼスもメディウスも許すつもりなどなかった。
しかし、この者は
我等としては何としてもこの者の
⋯いや、残してしかるべきと確信しているのだが
別に姫には悪いがこの者の伴侶は一人である必要はない。
無論、異郷の者故に姫と血を交わす事は大前提となるが、マケドニアの王族の血も残さねばならぬならば、それも良いと思っている。
マケドニア王とて否とは言うまい。
勿論我等は諸手を挙げて歓迎しよう。
が、本人はそれを不実と見ているのだろう。
怒りや悲しみも共有出来ると言うのに、そこだけは違う。
もどかしいものよ。
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チキはゲレタの言葉を反芻していた。
「まぁそういう事もあろうさ。気長に慣れていけば良いさ。」
つまり、あの人は一緒に居てくれるのだ。
それは孤独に慣れてしまい、半ば諦めかけていた彼女にとって本当に欲しかった
嬉しかった。
でも、だからこそ彼女はあの人のそばに居てあの人の孤独を癒したい、とも思う。
今思えば、帰り道だってあの人は自分の歩く速さに合わせてくれた。
一緒に居たい
そう強く思える人だった、ゲレタという人は。
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ミネルバ率いる白騎士団は物資の用意と編成も終わり、いよいよ本格的に始動する事となった。
とは言え、現在マケドニアでは国土改造の真っ只中。
ルーメル将軍率いる竜騎士団の一部が周辺海域や国土の巡回を、しているものの、その大半は土砂や、木の運搬などを行なっている。
これが他国ならば、
騎士のすべき事ではない。
と不満の声も上がろうが、マケドニアにおいて重要なのは国が豊かになり、皆が飢えない生活を送れること。
その為ならば、手段を選り好みするつもりはなかった。
しかもドルーアの竜人族達は積極的に協力していると言うのに、自分達が手伝わない理由は存在しない。
勿論、本格的な運用の始まった白騎士団も同様。
まぁペガサスはドラゴンに比べると力に劣るので輸送効率は落ちるのだが、それは仕方ない事とミシェイルやゲレタも割り切っていた。
それにこれは
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アカネイアを始めとした国家がマケドニアを攻めようとすると、船艇による輸送となろう。
⋯どこぞの白痴の賢者が動けば大規模ワープもあり得るが、それは愚策。
敵中に孤立する事になるのだから。
やはり大賢者(仮)は何も分かってない。ワープによる奇襲は確かに効果的ではあろう。しかし、それは敵を圧倒出来る戦力があれば良い。とはならぬ。
何せ補給線の繋がっていない状況下に置かれるのだ。
充分な物資を用意したとしても、今度はそれを守らねばならない。
話を戻そう。
マケドニアでは既にアカネイアが攻め寄せてきた場合に対する備えも行われていた。
投擲用に重心などを調整した短槍の開発と量産。
これは現在マケドニアとドルーアの国境付近で行われている街道整備。それに伴い出てきた余剰資源を流用する事でマケドニアの民への負担を限りなく抑えている。
そして、飛兵による投石。その為の土砂や樹木の運搬。
元々騎竜や天馬はあくまでも人が騎乗する事には慣れさせている。逆を言えば、それ以上の負担は騎竜や天馬に対する過剰なものとなるだろう。
更に重量が増えれば乗り手もバランスを取るのが難しくなる。そこで、それらの問題を解決する方法としてゲレタは土砂や樹木の運搬を考えたのだ。
別に敵の船団に命中しなくとも良い。
「
つまりゲレタは矢も魔法も届かない高高度から投石を行ない、敵を混乱させ、第二陣による短槍の投擲を以て敵の無力化を図ろうとしているのだ。
岩や槍の降り注ぐ中、それでもマケドニアへ侵攻する事を諦めない者がどれだけ居るのやら。
それに
彼等の頼りとするパルティア。
果たして彼等が期待するだけの戦果を挙げられるのだろうか?
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残念ながら、未だにアカネイアからの使者が来ない事を考えれば穏便な解決を選んだとも思えない。
マケドニアやドルーアに敵を引き込めるだけの縦深はないし、橋頭堡を作られればそこから混乱は拡がるだろう。
ましてや対等な立場と思っていないマケドニアと差別している竜人族のドルーア。
間違いなく民心に良くない事が起きると仮定して問題ない。
マケドニアやドルーアの民に被害が出てしまえば、報復を願う声が出てこよう。
しかし、人口においても国土においても此方は相手に遠く及ばない。
此方が有利な舞台で戦い、敵の後方をも脅かす。
此方から和を申し出ても、あちらは調子に乗るだけ。
ならば、相手を混乱に叩き落とし此方に構うだけの体力を奪えば良い。
内戦を誘発出来るならば最上だが。
此方から手を入れるまでもなく、アカネイアは様々なところで火種が燻っている。
アカネイアの権威が保てなくなれば、
脅威と認識されなくなれば
動くものは現れよう。
此方は黙って眺めれば良い。
それだけの事。
国家にも永遠はない。
役目を終えた国家は歴史の中の存在となるだろう。
マケドニアも何れそうなろう。
しかし、今ではない。
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「⋯で、一緒に寝て欲しいと?」
「⋯駄目、かな?」
湯浴みを終えたチキはゲレタに頼み事をした。
一緒に寝て欲しい、と。
その弱々しい態度と不安を隠しきれない言葉にゲレタは察する。
彼女は恐れているのだ。
彼女は確かに生まれてからの年月で言えば相当だが、その殆どは封印されていた訳で、そこに学びや他者との交わりがあったとは思えない。
だからこそ、情緒はそれこそ童女の様なものなのだろう。
封印される感覚は理解出来ない。しかし、永く眠り続ければ夢と現実の境界があやふやになる可能性くらいは理解出来る。
しかも恐らく彼女が初めて口にしたであろう
「狭いぞ?」
「それでも、いい。」
ゲレタは内心ため息をつきたくなるが、それを堪え
「俺の寝相は悪いかも知れん。
それでも良ければ、な。」
と口にした。
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あったかい。
チキはそう感じた。
かけられた物のお陰ではない。
心が暖かくなるのを感じるのだ。
彼女はまだゲレタと出会って一日しか経っていない。
でも、ゲレタの優しさを噛み締めている。
断られる事も考えた。でも、不思議と許してくれるだろう。そう思ったのも間違いない。
チキはゲレタの背中に体を寄せ、目を閉じる。
また明日もこの人と一緒に居られる様に
そう願いながら。
おかしいな?
本来チキは彼女専用のルートを書く予定だったのだが。
何故かマケドニアルートのヒロイン化しそうな気がする。
白の章の内容考え直さないと
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他