汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
当然、それぞれの思惑がある訳で
アカネイアによるマケドニア
その報せはアカネイア貴族と懇意にしている有力な商人達の間で瞬く間に拡がった。
何せ大量の物資を必要とする戦争ともなれば、彼等商人にとってはまたとない商機であり、更にアカネイア貴族や有力者に近付ける好機なのだから。アカネイアの権益に近付けない彼等としては逃せないものと映った。
そこで比較的身代の大きな商人達は、来たるべきマケドニア征伐の為に船を造る事を考える。
何せマケドニア相手となれば、渡海は避けられない。しかも動員する戦力も大きなものでなければならない。
相手は竜騎士を多数擁するマケドニア。同数ではアカネイア側の不利は否めないのだから。
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「馬を乗せるだぁ?」
船を造る者達に商人は声をかけた。しかし、彼等職人達の反応は芳しくない。
そもそも馬とは繊細な生き物であり、環境の変化に強いとは言えなかった。
更に兵員も乗せるとなれば、その船は大型化せざるを得ない。しかし、大型化するとなると船体に継ぎ目が多くなり、結果として船体の強度に不安が残る。
その上、人とは違い馬は心的ストレスを与えられると動き回ったり、気性によっては破壊行動を起こすものもいる。
馬を何処に乗せるかにもよるが、それが船体への負担を増やす事は明らかだった。
職人達にもプライドがある。
頑丈で安全な船を造る。それが彼等の当たり前であり、それは彼等の生活を守る事にも繋がる。
ましてや、商人ではなく国が使うかも知れないとなれば、その成果は自分達の人生をも左右するだろう。
であれば、それ相応の情報が無い状況で彼等も造りたくはなかった。
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船大工とは、アカネイアにおいても稀有な存在である。
何故か?
船を建造するには、多くの木材を必要とするからだ。
武器を作る職人達と比べて、船大工が使う量は多い。
それこそ、数隻船を造れと言えば森の一部が無くなる事すら覚悟せねばならない。
当然だが、森の喪失は領主にとって好ましいものではない。それ故に船大工達は船を造る、或いは船の補修をするとなれば領主から許可を貰わねばならない程である。
更に言えば、船の建造にはかなりの人手と時間を要する。
更に造る場所も必要だ。
職人達からすれば、商人達のやっている事は些か以上に問題となるのではないか?
そう思わずにはいられない。
例え、どれだけ素晴らしい技術を持っていようと、アカネイア貴族達に睨まれればそれで終わる。
故に職人達は仕事を選ばねばならなかった。
アカネイア貴族や領主から紹介のある者達から以外の依頼は受けられないし、受けるべきではない。職人達はそう考えていたのだから。
勿論、その辺の調整をまたとない機会に目を奪われた商人達がしている筈もなく、職人達は首を縦に振ることは無かった。
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「⋯なに?マケドニアへの遠征だと?」
職人達から報告を受けた領主は突然の話を怪訝に思い、アカネイアの中心に近い知り合いの貴族に確認を取る事とした。
⋯本来、マケドニアに対する軍事行動はアカネイア王家や国政に携わる者。それらに近い者達の間でのみの話であった。
何せ外部に漏れた場合、影響が予測できなかったのだから。
故に知る者達には箝口令がひかれており、今回の話でそれを破った者がいた事が明らかとなってしまう。
当然、アカネイアの官吏達はその事実を重く見た。
何せアカネイアは再建してから大陸各国が建国されて以降、国家同士の大規模な対立は起きていない。
強いて言えば、アリティアから独立したグラとアリティアくらいだろうが、それもアカネイアがグラの独立を認めた事で大事にはなっていなかった。
つまり、マケドニアへの攻撃は前例の無い事であり、それによる影響も予想がつかないもの。
だからこそ、マケドニアに対する攻撃を外部に漏洩しない様に神経を尖らせていた。
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何せ大軍を動かすとなれば、大量の物資を必要とし、しかもマケドニア相手となれば船団規模の軍船が必要となるのは明らか。それらの負担と未だ沈黙を続けるマケドニア。
はっきり言って、釣り合うと彼等からすれば思えない。
更に軍船を動かすには人足、つまり漕ぎ手も必要であり、その数もまた膨大な数となる。
マケドニアが座して何もしないと思えない以上、迎撃に出てくれば船団への被害は避けられないだろう。
しかも船底に近いところで働かねばならぬ人足の場合、被害を受けたとしても逃げられる可能性も低いのだ。
間違いなく徴用するだけで反発は避けられないのに、その上人足達を喪ったとなればアカネイアを揺らがしかねない事態すら招き得る。
アカネイアの国威を守る為ならば、動かねばならない。
しかし、アカネイアの安定を考えれば動くべきではない。
ましてや、各国の動きも鈍いとなれば尚の事。
労多くして、得るものは少なく、失うものは多い。
そんな事をすべきでない。
そう思う者も少なくなかったのだ。
アカネイア国王は情報を商人達に洩らした者を即座に調べ、処断する事を決定。
此処にアカネイア貴族社会で血みどろの政争が発生する事となる。
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「あの貴族が商人へ情報を洩らしたと言うぞ?」
「それは本当なのか?
私は別の者と聞いたが。」
アカネイア国王による迅速果断な処置。
それは確かに口が軽くなりがちな連中の口を閉ざし、軽挙妄動を封じる事には成功した。
が、その一方でこの件を勢力争いに利用しようとする者達が出てくるのを避ける事は出来なかった。
勿論、国王に対して虚言を口にするのは万死に値する大罪。⋯だが、風評としてそれとなく流れを作るのはアカネイア貴族達にとってさしたる手間はない。
言うまでもなく、それを精査する者達からすれば、血管が切れそうな程に鬱陶しく忌々しいものであるが。
アカネイア貴族社会は百年の間で硬直している。各地を任される者やアカネイアの中枢にて動き回る者。国王に侍り、その補佐を任される者。
それは能力ではなく、家柄や血筋により定められる。
最近、アカネイア騎士の若手の中にこの様な状況を憂う者も現れているが、その者達もまたアカネイア社会のシステムに囚われていた。
辺境国ならばいざ知らず、大陸の中心たるアカネイア。そこで騎士として受勲するとなると、求められるものがある。
実力の有無はさして問題とはならぬ。
家柄こそが立身出世するには必要不可欠だった。
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これはカルタス時代に起きた事を考えると決しておかしい事でもない。
アカネイアの再興に多大な貢献をしたカルタス。
しかし、彼が頼りとした弟はオレルアン。軍事面で支えていたオードウィン将軍はグルニア。
更に多くのオードウィンを慕う騎士がグルニアへと合流。結果として、アカネイアの軍事力は低下。
結果、アカネイアの中では実力主義ではなく
まぁ、縁故採用が過ぎた結果、実力が伴わない事になったのは皮肉と言うべきだろう。
実際アカネイアの隊を率いる事となった
しかし、妙な話ではないだろうか?
本来ならば、勇者とは窮地にあったアルテミスを助け、暗黒竜メディウスを討ち果たしたアリティアが英雄、アンリを指す
その偉業はアカネイアも認めるところであり、それを否定する事は現在のアカネイアのみならず、アカネイアを中心とした体制そのものへの否定ともなる。
その様な唯一無二である称号。それをたかだか名を挙げた傭兵程度に与えるか?
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推測でしかないが、アカネイアは勇者という称号。それ自体の価値を低くしようとしたのではないだろうか?
或いは、アストリアを勇者とする事でアカネイアに利益があったのだろうか?
アストリアにはアカネイアの至宝たるメリクルソードを貸し与えている。
アカネイア貴族であるジョルジュにパルティアを与えるのと、その意味合いは同じとは考えにくい。
確実なのは、アカネイアの戦力は増えた事。
⋯⋯それも恋人を人質に取られたら、寝返る程度の信頼しかないが。
アカネイアは混迷の度を深める事となる。
まるで泥沼で藻掻くかの様に
よくよく考えるとマケドニアとの戦争には障害が多い事に今更気が付いた。
なので、余程のことがない限りは内ゲバ祭りをしてもらう事になりました。
タイトル回収役は今回アカネイアに譲ります。
⋯⋯返品は受け付けません。
エリスルート完結記念の外伝
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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