汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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届かぬもの

「分からぬものよな。」

 

魔竜族の長モーゼスはマケドニアの大地を眺めつつ、口にした。

 

 

 

 

マケドニアの方針はモーゼスも理解している。

 

 

地理的要因もあり、マケドニアはドルーア以外と結ぶつもりはない。海と言うのは中々に面倒なもの。

 

故にゲレタはそれを防壁として徹底的に利用するつもりなのだ。

 

 

「アカネイアを始めとした大陸各国は陸続き。

故に使者を出すにも陸路を使えます。⋯ですが、マケドニア相手となれば使者を出すにも船が必要。海賊対策に護衛もいりますし、船の漕ぎ手や船員も要る。

他国と同じ感覚でマケドニアに使者は出せないのですよ。」

 

故にマケドニアには未だ各国からの使者が訪れていない。

何せマケドニアが外交的に結び付いていたのはアカネイアのみ。それとて、マケドニアの急所を握っていたからこそのもの。となれば、どの国も二の足を踏むだろう。

 

 

「国を富ませ、同胞の生活を豊かにする。

その一方で、それを更に拡げるつもりは皆無ときた。」

 

理解できなくは無い。

守るべき者は守らねばならぬ。その責務を果たすからこそ、集団を動かす立場となれるのだから。

 

価値観とは変えがたいものである。⋯余程の事が無い限り、それに囚われ続けるのが常。

 

 

「⋯それをこうも変えるとは。」

 

彼の視線の先には地を踏み固める同胞とその近くに土砂を落とす竜騎士。その踏み固めた地盤に家を造る者が映っていた。

 

 

既に竜人族とマケドニアの民の間には仲間意識が芽生えており、幼子の中には竜化した同胞の身体に登ろうとする者も現れている。

 

力の結晶たる竜石ではあるが、永い年月を生きてきた同胞だ。それなりに蓄えていた。

忌々しい事に、竜石(同胞の魂)を売る所が少し前に見つかっており、怒れる同胞達の手によりそこは制圧されている。

 

 

「他者が隠す物程に欲しがる性分の者もおりますからな。」

 

顛末を聞いたゲレタはそう苦笑いしたものだ。

 

 

力とは抑止力だ。

 

 

弱ければ、強いものに

愚かならば、知恵の回るものに

 

良い様にされる。

 

 

だが、力を悪戯に振り回す者は忌避されよう。そして、その様な者は力を失う事を酷く恐れる。

力無くば、どうなるか?それを身をもって理解しているのだから。

 

 

 

 

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力がある者はそれに溺れない様に努めねばならない。

我等が嘗てメディウスに手を貸さなかったのは、メディウスが感情に囚われていたと見ていたから。

 

今のアカネイアのザマを我等とて笑えまい。

 

 

今のアカネイアは『強く在らねばならない』存在なのだろう。

 

 

ガーネフからの話だけでも、アカネイアが他国から良い感情を持たれていないのは明らか。

だが、アカネイアは大陸秩序の象徴。故にアカネイアを敵に回す事を避けている。

 

それは、価値観という見えない鎖に縛られているのと、アカネイアを敵とすれば周辺国がどう動くか?それが不透明だからであろう。

 

 

眼前の敵を倒す時、相手が増えるのは歓迎出来ぬ事。相手を倒したとて、余力が残っておらねば最悪の場合、そこを狙われかねぬ。それでは何の為に戦ったのか分からなくなる。

 

勝った者が勝者ではない。

時には生き延びた者こそが勝者となるのだから。

 

 

 

しかし、強さとは時に弱さにもなる事を我等は知った。

 

 

今のアカネイアを支えるのは妄執にも近い執着。大陸秩序の中心足る強烈な自負。

それは既に半ば虚構のものとなりつつある。一部の者は気付いておろう。このままでは保たぬ、と。⋯だが、アカネイアの歴史(辿ってきた道)がそれを許さない。

 

 

「既にアカネイアは役目を終えたのでしょう。

歴史の転換期、とも言える時が必ず訪れます。あなた方竜人族がヒトの世を予見した時と同じく。」

 

醒めている、素直にそう思った。

確かにこの者は異郷の者。であるならばこそ、何処までも冷静に、冷徹に物事を判断出来る。

 

が、その一方で姫やマケドニアの王女や民には心を砕く。

 

 

 

今も

 

 

 

「だーるまさんが、こーろんだ!」

 

「うおっと。」

 

「動いた!」

 

姫とああして遊んでいる。

どうにも異郷の遊びらしいが、中々に趣のあるものとは思う。

 

 

最近では同胞が姫から遊び方を聞いて、マケドニアの子供達と良く遊んでいるとも聞く。

 

 

曰く

 

「世界が違えど、子供の遊びと言うのは共通するところがあるのではないかなぁ、と。」

 

子供とて働かねばならぬ。⋯だが、楽しみが無くては子供達も詰まるまい。

そして、親とていつも子供の相手が出来る筈もない。同胞達はその様な暇を潰す相手として重宝されているそうだ。

 

しかも、竜化すればマケドニア国内での移動に苦労する事もない。その上、野生の飛竜どもへの牽制にもなる。

 

 

少しの事で様々な効果を持たせる。それも良い方向に

 

 

「⋯強欲な奴よ。」

 

その位貪欲でなければならない筈もなし。寧ろこの男は細やかで慎ましい生活にこそ、幸せを感じるのだろうに。

 

 

なればこそ、我等はそれを守らねばならぬ。

異郷より来たりし、異端の風。

 

 

姫も本能で分かっているのだろう。

このまま進み続ければ、穏やかな生など送れぬと。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

ゲレタさんに沢山の遊びを教えてもらった。

 

 

沢山の棒を消して遊んだり、5つ石を先に並べる遊びだったり、沢山。

でも、私が一番好きな遊びは『だるまさんがころんだ』

 

 

だるまさんと言うのは教えてもらったけど、どうしてこんな遊びが出来たのかはゲレタさんにも分からないらしい。一緒にいっぱい考えたけどね?

 

 

この遊びで私はゲレタさんの背中に飛び付く。⋯勿論、ルールはちゃんと守っているよ?

飛び付いた私の頭を撫でてくれる。それが本当に嬉しい。

 

 

 

バヌトゥが私を外の世界に連れ出してくれた。

ゲレタさんは私に色んなものをくれる。

 

失敗しちゃう事も沢山あるけど、その失敗もゲレタさんが隣に居てくれるから悔しいけれど、二度としたくないとは思わない。

 

 

「失敗していけない事なら、それなりに準備するさ。

大丈夫。沢山挑戦して色んな事を経験しても。」

 

失敗したら、ゲレタさんはいつも一緒に考えてくれる。

ただ答えを口にするのではなく。

 

 

 

 

 

ゲレタさんが忙しいのは分かる。

 

私達は大陸で良く思われていないから。それがこのマケドニアで受け入れられているのも、ゲレタさん達が頑張ったならなのだと感じる。

 

 

戦いなんて、痛いだけでしたくない。

誰も喜ばない。

 

 

私にも分かる話なのに、戦いたいと願う人達がいるらしい。

 

 

分からない。何で奪おうとするのだろう?

分からない。誰かが泣いていても心は痛まないのだろうか?

側にいる人と仲良くする。それで幸せになれる筈なのに、どうして?

 

 

「戦いは嫌いだ。⋯だが、戦いを否定し続けてもそれでつけ上がる者が出て来る。

そう言った連中は大海原にて果ててもらう。此方がやるのは破壊行為のみ。死人が出たとしても、それは此方の関知しない事」

 

冷たい声だった。

陽だまりの様に温かいあの人(・・・)が、人の死を願うなんて。

 

 

嫌だった。

 

 

 

 

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グルニアでは『アカネイアに迎合すべきでない。』との意見が主流となりつつあった。

 

大陸の中で最もアカネイアから距離の遠い国家がグルニアであり、海路を使わねば複数の国家を経由する事となる。

 

 

「アカネイアは未だにマケドニアに対する動きを決めかねております。その様な状況で我等が率先してアカネイアに協力するのは如何なものかと。

それよりは、国内の安定に注力すべきではありませぬか?」

 

「軍としても、マケドニアに対する攻撃を選ぶのは最悪の事態を引き起こしかねないと判断しております。

我等グルニアの主は騎兵。機動戦には有効ですが、相手がマケドニアとなると。」

 

文官やカミュ達は一貫してアカネイアに与し、マケドニアを敵とするのはグルニアにとって好ましくない未来を呼び込むものと主張している。

グルニアにおける槍がカミュなれば、盾となるロレンスも異論はない。

 

「マケドニアに使者を出すべきなのだろうが。」

 

使者を出す前に先触れの者を出すのが一般的。しかし、陸路では辿り着けないマケドニア相手となると、先触れの者をマケドニアへ送り出すだけでもかなりの難事。

 

仮にもグルニアの今後を左右しかねない話となれば、グルニアのみならずマケドニアにも決断までの時間がある程度必要。

いきなり話を持って行って決断を迫るのは非礼であり、本来ならば幾度も使者を交わして話をすすめねばならないところ。

 

だが、マケドニアはともかくとしてグルニア側は常に海路を使わねばならず、軽々にマケドニアへと人を出せるものではない。

マケドニア側にばかり負担を強いるとなれば、それはグルニアにとってのアカネイアとなり得る。反発されても不思議ではないだろう。

ましてやマケドニアからの使者が無いという事は必要とされていないのか、或いは信に足る相手と見なされていないのではないか?

 

 

----

 

 

これはグルニアに限らず、アリティアやグラ。オレルアンでも頭を悩ませる問題となっていた。

 

何せ少ないとは言え、マケドニアに船を出した事のあるアカネイアと違い、各国はマケドニアに船を出していない。

当然海路は勿論、海域の事もまるで不明。

 

その上、船を所有するのは各地の有力商人達。

 

 

国からの要請(・・)となれば、嫌々ながらに従うだろうが、もしもの時の保証を商人達は求める。

何せ商人達とて、必要だから船を有しているのであって、それが使えなくなると言うのは彼等の本業を妨げる事に他ならない。

 

しかも、マケドニアへ向かうとなればその途上に中継地などなく、船が破損でもすれば熟達した船員もろとも失いかねなかった。

これがグルニアからアカネイアへ直通などという無茶な航路でもなければ、近くの陸地に船を停め修理などの手配も望めようが。

 

 

更に言えば、マケドニアの正確な位置を把握している者は各国に居らず、アカネイアでも数える程の者ときた。

勿論、マケドニアの竜騎士達は各国の位置関係をある程度把握しており、そこに各地から逃れてきた竜人族やガーネフの話を加える事で簡易的な世界地図をマケドニアとドルーアは完成させていたりする。

ゲレタは敢えて口を出す事はなく、その地図にはタリス王国のみが欠けているくらい。

 

 

彼等が知る由もないが、マケドニアは半島の南部に位置し、北部はドルーア。

ドルーアの開発はあくまでもマケドニアと接するドルーア南部に集中しており、ドルーアの沿岸部はまるで手を付けられていない。

それに留まらず、ドルーアの竜人族達により追いやられた凶暴な獣や部族(蛮族)達はドルーアの辺境。つまりドルーア沿岸部においやられている。

 

つまり、船がドルーア沿岸部で補修などをしようとした場合、それらに襲われる可能性は高い。

 

 

----

 

 

 

「マケドニアに船を出す?

いやいや、勘弁して下さいよ。そのマケドニアが何処にあるのかご存知で?

周辺の海路図は?潮の流れは?」

 

商人だけではない。実際に船を動かす船員を束ねる者もマケドニアへ船を出す事を渋る。

 

何せ距離も分からず、方角も定かではない。となれば、船員達を食わせる食糧や水をどれだけ用意しなければならないのか。すら分からないのだから。

 

的確に風を読む船員や船を漕ぐ漕ぎ手。食糧や水を上手く配分する者に全体の指揮をとる船長。

彼等は高度な技術者集団であり、失えば揃える事に難儀してしまうだろう。

国からの話だとしても、せめて詳しい情報が出揃ってからにして欲しいのが偽らざる本音。

 

仮に能力があったとしても、船という常に緊張を強いられる空間の中で問題を起こさない程度の人格も必要。

 

 

(自分達で船を用意しろってんだ。)

 

そういう事である。

 

 

 

 

 

 

この様な事情から、各国はマケドニアとの接触すら行なえず、不穏な様相を見せるアカネイアを顔を顰めながら見守るだけとなっていた。

 

 

 

一方で

チキはゲレタに様々な遊びを教わりながらも、日々成長する若芽を見て命の尊さを学ぶ。

竜人族達はマケドニアの民や子供達との絆を深め、マケドニアの民や子供達は変わりゆくマケドニアの大地に希望を見る。

 

 

 

 

交わらぬ者達は更に離れゆく事となるのだろうか?

 




FE原作なのに一向に戦闘が起きそうにないんですが。


なお、次のルートも少しずつ書き進めるので年内には完結
⋯⋯⋯したいかなぁ(滝汗)

エリスルート完結記念の外伝

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