汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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やはり日常回は書きやすい。

政治や軍事を前面に出すと筆が鈍るのはやむを得ないのだろうか?


マケドニアの日常

「おーい、こっちだ!」

 

両手で大きく合図を出す人物。

 

 

「あそこか。」

 

その合図を上空で捉えた竜騎士は下降する。

 

 

 

ドササッ!

 

騎竜が抱えていた大きな包みから土砂が合図をした人物の指定した場所の近くに落ちる。

 

 

「ありがとよ!」

 

合図をした人物は聞こえないだろうに声を張り上げた。

 

 

 

グルルッ

 

竜騎士は聞こえずとも、騎竜はそれが聞こえたらしく満足げに喉を鳴らしてまた土砂を運ばんと空を駆けた。

 

 

 

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『これで良いか?』

 

「ああ!いつも助かるよ。

お陰でこうやって平地が広がってる。」

 

木を使い、ある程度土砂を(なら)した竜化した竜人族に皆笑顔で感謝の意を伝える。

 

『我等としても、ドルーアで家を造ってもらっておる。

お互い様と言うやつであろうよ。』

 

 

こうした光景はマケドニアやドルーアの各地で見られる良くあるものだ。

 

 

 

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「今日も異常はないな。」

 

「本当に必要なんでしょうか?これは。」

 

マケドニアから少し離れた海上の上空に2つの影がある。

マケドニア竜騎士による哨戒だ。

 

 

「少なくとも、これで相手の動きがいち早く察知できる。

無駄ではない。」

 

疑問を口にする若い竜騎士に年上の竜騎士は諭す。

 

 

 

ゲレタが主張し、ミシェイルが認め、ルーメルが定めた哨戒網。

それは主に船舶の監視である。

 

これは毎日複数回行われており、竜騎士という展開力に優れた兵種を多数擁するマケドニアだからこそ出来る芸当だ。

 

 

仮にゲレタの世界で行なうとなれば、ヘリポートや滑走路。管制施設などが必要となるだろう。

が、竜騎士や天馬騎士ならばその様な施設は不要であり、航続距離こそ騎竜や天馬の体力に依存するものの、それは適切な休息を取れば済む話。

 

 

「我等は確かに国の外へ出る事は無くなった。

だが、我等の働きがマケドニアを不幸にする事もあるのは変わらんのだ。心せねばならん。」

 

「⋯⋯はい。」

 

2人は船の姿が見えぬ事を確認すると、マケドニアへと戻ってゆく。

 

こうした積み重ねがマケドニアとドルーアの平穏を守っている。

 

 

 

 

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「⋯港に船はあるが、変わりはないな。」

 

「此処が一番大きな港と聞きましたが、それでも小さいですね。」

 

アカネイア沿岸部の上空にマケドニア竜騎士の姿があった。

雲に隠れ、可能な限り地上から見えない様に心掛けながら。

 

 

彼等はアカネイアの動静を確認する為に定期的に送られている者達。勿論、任務が済めば早々にマケドニアへと戻るだけだ。

 

 

「今のところ、異常はない。そう見て良さそうだな。」

 

「問題はないかと。」

 

2人は頷くと、マケドニアへの帰途についた。

 

 

 

⋯だが、そのルートはマケドニアの位置を知る者からすればおかしなもの。

 

 

ミシェイルとルーメルはゲレタの言を聞き入れ、仮に長距離偵察に出した竜騎士が目撃されたとしてもそれが撹乱となる様に手を打った。

 

つまり、マケドニアへ戻る彼等は沿岸部から相当離れるまでドルーアの北方海域を目指して飛行。

その後進路を南へと転進、帰国する事としている。

 

 

これは万一姿を地上から見られたとしても、相手がマケドニアへの航路を迷う為の一手。

マケドニアへの航路を正確に把握している者はアカネイア側にはいない。

 

常にマケドニアの竜騎士が先導していたからこそ、先代の時にはマケドニアまで辿り着いたくらいなのだから。

 

 

更に長距離偵察の任に就く者達はある講習を受けねばならない。

 

 

地上から視認されにくい飛び方を

 

 

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マケドニアの竜騎士は確かに偵察においてこれ以上ない程に有効だ。

 

だが、それ故にそれを逆手に取られる可能性をゲレタは指摘している。

 

 

「マケドニアの竜騎士が斥候として優秀なのは間違いありませぬ。しかし、そうであるが故に相手もそれを利用する可能性。

それに対する対策を講じねばならぬかと。」

 

ゲレタがイメージしたのは、第二次大戦⋯正確には太平洋戦争における機動艦隊による航空戦だった。

 

 

 

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広大な海洋を戦場とする時、艦載機による偵察を実施できる空母の存在は大きな存在であった。

 

当時はまだ電探技術、つまりレーダーの精度も高いとは言い難く誤作動も多かったと資料にはある。

 

 

無線技術はあるが、その無線を傍受されて艦隊の位置を探られる可能性も十分考えられる。

故に作戦前には無線を可能な限り封鎖し、相手に捕捉させる可能性を下げていた。

 

そうなると、敵の発見には艦載機による索敵が必要となる。

 

 

ところが、これが曲者だ。

確かに敵を先に捕捉すれば、その分だけ相手よりも先に動く事が出来よう。

 

空母から攻撃隊を出し、敵艦隊を叩く事が出来るだろう。

相手の体制が整わない状態で攻撃出来れば多大な戦果を期待も出来る。

 

 

だが、一方で偵察に成功した艦載機も母艦に戻らねばならない。

⋯仮に相手がそれを捕捉し、追跡したとなればどうなろうか?

 

 

相手もまた此方の所在を突き止める事が可能となるのではないか?

 

 

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ゲレタは所謂歴史オタクと呼ばれる人物だ。

 

それこそ、古代から近世に至るまでの様々な戦史に興味を持ち、そこから裾野を拡げている。

 

 

故にこそ、情報の秘匿や撹乱。後方に対するあらゆる手段を講じる事の有用性をそれなりに理解しているつもりだ。

 

ゲレタはマケドニアやドルーアと大陸側を隔てる海を最大限に利用し、敵がマケドニアに攻め寄せる可能性を出来る限り潰している。

 

 

マケドニア側からアカネイアなどに使者を出さないのもその一環であり、また他国の使者の受け入れ体制を敢えて作らない。

マケドニアに来る。それ自体がアカネイア以外の国家にとっての負担となる様に努めていた。

 

仮にマケドニアとドルーアの経済が発展し、豊かになったとしても、大陸側との貿易には慎重に慎重を期すつもりだ。

 

 

仮に利を求めて商人が此方に来たとしても、そう上手くさせるつもりなど微塵もない。

 

だからこその度量衡であり、独自通貨の導入。

まぁ独自通貨については時間をたっぷりかけて行なうべきものとしているが。

 

 

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「この尖った岩は残すのだな?」

 

「ええ、そうです。これには使い道がありますので。」

 

 

マケドニアとドルーアを結ぶ街道の整備の際、ゲレタは幾度も現地に足を運んだ。

移動手段に悩んでいたのだが、チキが竜化して乗せていく事で解決している。

 

 

彼女にとってそれはゲレタとの遠出であり、強いて言えば『空の散歩』の様なものとなった。

 

以来、チキはゲレタに事ある毎に遠出を勧めている。勿論チキはニッコニコ。それはもう街道整備の現場にいる者達全てが笑顔になる位嬉しさを全身で示していたそうな。

 

 

 

話を戻そう。

 

ゲレタはこれをアカネイア側が船を出し、尚且つその侵攻が洋上で防ぎ切れないと判断した場合、岩礁として設置するつもりなのだ。

 

 

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ゲレタが策定した対アカネイア用の戦略の概要は以下の通り

 

 

 

第一の策として、マケドニアとの連絡を取りづらい状況を維持。マケドニアへ使者を出す。それ自体が困難な状況とする。

これにより、マケドニアの情報を徹底的に秘匿。相手には常に大きな負担を強いる事で戦闘自体を嫌厭させ、足並みを乱す。

 

この策に付随して、アカネイア沿岸部への偵察やマケドニア周辺海域の哨戒を強化。

 

 

アカネイアがマケドニア征伐の兵を動かせば、洋上にて竜騎士、天馬騎士を動員し、敵船団を強襲。敵船団の帆を使用不能となるまで破壊。

敵船団の足を潰す。併せてマケドニア、ドルーア沿岸部より妨害も実施。敵を洋上に孤立させ、そのまま自壊させる。

 

 

マケドニア、ドルーア沿岸部に進出する可能性があれば竜騎士、竜人族による予想される敵上陸地点付近への投石を行ない、岩礁を形成。敵船の座礁を目標とする。

 

 

沿岸部へ上陸された場合、敵の物資集積地に対する高高度からの攻撃を敢行。敵の継戦能力を奪う。

 

 

此等が突破されたならば、竜騎士と天馬騎士。ドルーアの竜人族を動員して戦闘を挑む。

別働隊による敵船の破壊も並行して実施。短槍の運用法(・・・・・・)も含めて解禁し敵の殲滅を行なう。

 

 

 

なお、アカネイアを始めとした大陸側の国家の本土攻撃はこれを全て禁じる。

 

 

 

これがマケドニアとドルーアの対アカネイア戦略だ。

向こう側が仕掛けてくるならば応戦するが、そうでなければ放置。

 

仮に大陸側の国家が同盟を持ちかけてきたとしても、慎重に対応する。

 

 

現在のマケドニア、ドルーア両国はこの方針の元で動いているのだ。

 

 

 

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マケドニア近海上空に大きな影が2つあった。

 

 

 

『この辺で良いのかな?』

 

その影のひとつ、竜化したチキは自分に乗っている人物ゲレタに尋ねる。

 

「事前に調査したところ、此処らへんの水深は充分ある。

やってくれ、チキ。」

 

『分かった!落ちないでね?』

 

ゲレタの言葉にチキは元気よく応え、海面近くまで降下する。

そして

 

 

『えいっ!』

 

彼女は手に持っている半月型の物を海の中にいれると

 

『よい、しょ!』

 

それを持ち上げた。

端からすると、チキが半月型の容器で水を掬った様に見えるだろう。

 

 

『わぁ、お魚が沢山入っているよゲレタさん!』

 

『⋯これは驚いたな。』

 

半月型の容器、日本で言えば巨大なざるの中に入っている魚を見てチキは喜び、同行している竜化した竜人族も驚きを隠せない様子。

 

「ありがとう、チキ。

では試験は成功だ。戻って検分するとしようか。」

 

 

2つの影はその場を去っていった。

 

 

 

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ゲレタは半島内の獣を狩りすぎると他の地域からの流入のない半島では致命傷となる事を考え、両国の食文化への梃入れを考えた。

 

農作物については、国土改造により収穫量の増加が見込める。

肉類については、まだ畜産をするだけのノウハウがない以上は狩猟に頼らねばならない。

 

そこで海産物への理解を深め、魚介類を両国の食文化として定着させる。

何せ海は広大だ。加減は必要だろうが、おいそれと生態系を破壊する事はない。⋯⋯ないよね?

 

 

 

勿論食用に適さないものも多いだろう。

が、そこは食への拘りが強い事で知られる日本人だった俺だ。

 

ましてや、『肉より魚』がモットーだった身としてはあらゆる困難を乗り越えてでも魚介類を食べてみせる!

 

 

幸いにも魔法に精通しているモーゼスやガーネフと親しい。となれば、毒性の高い魚を食べたとしても即死でなければどうにかなるだろう。

 

正しく

 

まほうのちからってすげー

 

というやつだ。

 

 

さぁ開拓を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

なおチキの手により水揚げされた魚は多種多様であった。

ゲレタは自身で毒見すると言い出し、ミシェイルはその突拍子もない行動に呆れ、回復役として呼ばれたマリアは戸惑い、ミネルバやパオラ達は常に無い高いテンションのゲレタに終始翻弄される。

 

 

幸運にも毒性の高い魚は居なかったらしく、ゲレタは満足するだけの量を食する事が出来た。

 

⋯流石に生食は危ないので、焼いて食べたが食べ過ぎで苦しむという無様を晒している。

その姿を見て

 

 

「食べ過ぎは駄目だよ!もう。」

 

とお冠なチキの姿があったとか何とか。

 

 

 

 

より良い明日の為に

 

 

マケドニアとドルーアは混乱する大陸各国を他所に順調な発展を続けていた。

 

 

 

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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