汚泥の中で 作:アカネイアの雑兵
「此処に居ったのか。」
「失礼とは思いますが、貴方の元にあのまま居たとしても先が無い様に思えましたからな。
その判断はどうやら正しかった様で。⋯喜ぶべきか悲しむべきか。些か以上に迷いますが。」
しかし、驚く程にガーネフの胸中は穏やかだった。
「お主はこの状況を理解しておるのか?」
「大凡は。
貴方が見ていたゲレタ殿やメディウス殿より聞いておりますので。」
今となっては何故あそこまで力に固執したのか理解出来る気がした。
力を持つ
それが手段ではなく、目的となっていたのではないだろうか?
今の生活を送って
自分は誰かの役に立ちたかったのだろう。
だからこそ、此処での生活は守りたいと思う。⋯その為ならば、例え嘗て師と仰いだ男相手であろうとも、退ける筈がない。
見てみたいのだ。
旧き世にあった。我が友人の目指す未来を。
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「大賢者ガトー。貴方は確かに魔法においては比類なき実力を持つのやも知れませぬ。
認めたくはありませんが、今の私やミロアでは貴方に敵わぬでしょう。」
ガーネフは言葉を切り
「ですが、貴方は一人の人間として考えればこれ以上ない程に弱い。貴方は私の心の弱さを指摘されたが、貴方もまた私と同じではないのですか?」
「⋯⋯私が、弱いと?
そう言うのか、ガーネフよ。」
「神竜の姫を貴方は人目につかぬ所で封印したと聞きました。
そして、貴方はカダインを創設された。そう聞いております。
カダインもまたそうではありませんか?」
カダインは周囲を砂漠で囲まれた僻地にある。
故に『魔法を教える場』として相応しいとされているが、本当にそうなのだろうか?
ガーネフは最近良くそれを考える様になった。
ヒトに魔法を広めておきながら、それは非常に狭いカダインに限定されている様なもの。
魔法の研鑽に励んでいるが、その魔法があれば、より民の生活が楽になるのではないか?そう思えてならない。
ある時、火竜族や氷竜族のブレスを上手く活用する事をゲレタ殿は提案したが、私はその時
(魔法なれば、どの様な所でも出来たのではないか?)
そう思った。
後でゲレタ殿にも話をしたが
「正直、そうなんですよねぇ。」
と苦笑交じりに返された。
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「武器と道具の差なんて心持ちひとつで変わると俺は思っています。
ナイフだって、生活に使う必需品ではありますが、やろうと思えば人を殺める事だって出来る。
言葉だってそうですよ?言葉を巧みに操れば、人を煽動する事や今のマケドニアとドルーアの様に明日の為に団結する事だって出来る。⋯出来てしまうんですよ、ガーネフ殿。」
「だからこそ、未来に希望が持てる世界を創るべきなんすよ。
希望があるのに、それを好んで壊そうとするのは躊躇うでしょう?」
「⋯そうやも知れぬ、な。」
「まぁ、それでも満たされない者も確かにいるでしょうが。
総てを救える。そう考えるのは傲慢ですよ?
『過ぎた力は己を滅ぼす』とも言いますからね。」
そう悲しそうに笑った。
力が欲しくない筈はない。
誰よりも無力さを嘆いているのが目の前の人物である。そうガーネフは半ば確信していた。
ゲレタと関わりを持つ様になって暫く経ったある日
「魔法とか憧れるんですよ。自分の居た国では空想の産物でしかなかったもので。」
話をしていたゲレタはそう切り出す。
「気持ちは理解出来る、とは言わんよ。
魔法を使うには魔力が足りぬとしか言えぬが。」
ガーネフは敢えてこう口を濁している。
魔法に適性のない者。⋯いや、正確にキチンとした魔力制御を身に付けず、独学で魔法を使い続けた場合
その者は文字通り『命を削って魔法を使っている』事となり、結果早逝すると言われている。
これは少なくとも、弟子を取れる位に実力を付けた魔道士のみに明かされる秘匿された情報。
カダインにおいて最高の魔道士と呼ぼれたミロアと並ぶ者とされていたガーネフは勿論それを知っていた。
ガーネフはゲレタの内なる烈しさがその身を滅ぼしかねないと危惧。魔法についての教導を断っている。
その後、メディウスと話し合い『ゲレタに魔法を教えない』事を説得。
今に至る。
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「我が師ガトーよ。
力とは容易く道を外れる劇薬なのです。それを貴方は理解しておいでか?」
ガトーは直ぐに答えられなかった。
カダインで力にこだわり続けたガーネフと今、自分の目の前に居る人物が本当に同じ人物なのか?
それが理解していても、納得し難いものがあったから。
竜や竜人族。そしてガトー。
彼等は長い時を生きている。⋯故にその生の中で培われた価値観というものは変えがたいものがあった。
特に変化する歴史の中にあっても、ガトーは常に強固な己の立場があったのだから。
ナーガが生きていた頃は、ナーガの側にある者として
ナーガが死んだ後は、ナーガの姫たるチキを託された者として
そして、
勇者アンリに
その賢者という世の評価と己の実力を持ち、
メディウスやモーゼス。各地で隠れ住んでいた竜人族と違い、当時のガトーにはアリティア国王アンリからの絶大な信頼があった。
だからこそ、アリティアに程近く尚且つ周辺からの介入を受けにくい地にカダインを作り上げられたといえる。
ガトーは変わらなくても良かったのだ。
周囲が彼に対して敬意を持っていたから。
それがいつしか彼にとっての当たり前となっていた事を自覚せずに。
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「⋯変化は必ずしも良い事ばかりではない。」
「でしょうな。
今のマケドニアとドルーアの関係は大陸において異端であり、忌み嫌われるもの。
ましてやドルーアの指導者がかのメディウスともなれば、アカネイアはこれを放置しますまい。」
ガトーの言葉にもガーネフはまるで動じない。
それはこの道を進む。そう決めた時から覚悟していた事なのだから。
「アカネイアの手を跳ね除け、それでどうする?」
ガトーの問いにガーネフは
「新たな世を見せるだけです。」
そう穏やかに返答した。
エリスルート完結記念の外伝
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いる
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いらない
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そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
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そんなことよりチキを出せ
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その他