汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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懊悩

その場は沈黙が支配していた。

 

 

ガトーにとって、自らのやり方を否定されるのはそれこそナーガに諭されて以来の事となる。

 

 

「新しい世、か。」

 

ありきたりな言葉だ。

 

 

だが、そう言って良い方向へ変わる事は無いに等しい。

 

 

「⋯確かにこの地は竜人族にとっての理想郷やも知れぬ。

が、いつまでも保つとは思えぬな。

チキとて、今は世界を謳歌出来よう。⋯だが、その力を制御出来ねば全てが悪い方へと向かおう。」

 

「確かにそうでしょうな。

しかし、未来とはそういうものでしょう?

悪い想像をすれば何処までも。逆もまた同じ。」

 

ガトーの頑な言葉にもガーネフは動じない。

 

「我が師に言うのも憚られますが、ひとつ申し上げたく。」

 

ガーネフは一呼吸つくと

 

 

「封印の盾。それがアカネイアの国宝となっておられる事をご存知か?」

 

と問い掛けたのだ。

 

 

 

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「アカネイアに?⋯そんな事はあるまい」

 

ガーネフの言葉にガトーの思考は一瞬停止したが、その様な事があろう筈もないと落ち着きを取り戻す。

 

「⋯⋯パルティア、メリクルにグラディウス。

聞き覚えはありませぬか?」

 

しかし次にガーネフの口から発された言葉にガトーの混乱は更に深まる事となる。

 

 

 

パルティア、メリクル、グラディウス。

それはナーガがヒトの世を守る為に、理性を捨てた地竜達への対策として用意した強力無比な武器。

 

 

 

「⋯⋯知っておる。寧ろ何故それをお主が。」

 

絞り出す様な声でガトーが問う。

 

「メディウス殿が何故アカネイア聖王国を滅ぼしたのか?

貴方はその意味を真剣に考えた事がお有りか?

⋯確かに貴方は様々な事を知っておられる。ですが、知らぬ事がある事もまた自覚されておられるか?私にはそうは思えない。」

 

 

 

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⋯確かにガトーも嘗てヒトの世を守る為、ナーガと共に同族である地竜族と戦ったメディウスがあの様な凶行に及んだ事。それに対して疑問を抱いた事はあった。

 

だが、その理由までも深く考えた事はない。

 

 

無いが、まさかとは思う。

 

 

「我等が幾ら言葉を尽くした所で貴方の疑念は晴れますまい。

⋯ならば、弟子でありアカネイアとの繋がりのあるミロア。奴に聞いてみては如何か?」

 

「⋯そうするとしよう。

此処は確かに得難い場所ではある。が、それだけで決め打つのは早計に過ぎるだろうからな。」

 

ガトーはそう口にすると、ワープ(転移)の魔法でカダインへと向かった。

 

 

「⋯師よ。貴方は余りにも他者に対して無関心が過ぎる。

世界は貴方の力だけで動かせるものではないと言うのに。」

 

ガーネフは去りゆく師の姿を見て、少しだけ悲しそうに呟いた。

 

 

 

 

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カダインへと戻ったガトーはアカネイアの司祭長であったミロアにガーネフから聞いた事を問うた。

 

「⋯私もそこまで詳しくはありませぬが、確かそうだったかと。」

 

その言葉はガトーにとって驚愕すべき事実だった。

 

 

ラーマンに納められていたのは、パルティア、メリクルにグラディウス。⋯そして封印の盾。

ガーネフは盾にはめ込まれていた宝玉は全て回収した。そう言っていたが、それが真実であるかはさておき、

 

 

⋯ナーガの遺産に手をつけたと言うのか。

 

 

それは決して許されざる行ない。

アレは人の手に委ねるには余りにも過ぎた力。

 

振るう者に資格がなければ、その者に災いが降りかかるものなのだ。

 

 

ファルシオンとて、ガトーが手を加えている。仮に

 

振るうに値せず

と見なせば、その時点でファルシオンの力は失われる。

 

 

その儀式はチキに伝え、後世まで残さねばならないのは本意ではないが。やむを得ない措置だった。

 

 

 

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武器(ちから)とは振るう者の善悪など関係なく、破壊を齎す。

 

 

旧き世にあって、理性を失い力に呑み込まれた者達がいた。だからこそ、竜は己の力を結晶化させ『竜石』とし、必要以上に力を振るう事を忌避した。

それが竜人族。しかし、それでも竜石(力の根源)が手元にあるが為に道を誤る事は避けられない。

 

更に竜よりも理性がある故に、その数が減る事は難しく、結果として竜人族は長命種となった。

 

 

未来へ繋ぐ、のではなく、己が未来に生きる事が出来たのだ。

しかし、長く生きると言うのはそれだけで価値のある事であり、結果として価値観が固定され、いっそ頑迷とも言える事にもなりかねない。

 

⋯⋯今の己の様に。

 

 

 

今までこれでやれてこれたから、大丈夫。

 

 

思考が硬直した者の多くは意識する、しないに関わらずこの様な考えを持っているのだろう。

変化とは安定を齎すものとは限らない。寧ろ混乱を招き、時間を浪費してしまうものとなり得る。

 

 

マケドニアやドルーアのそれは上に立ち、旗を振る者が様々な問題について理解し、その解決策を打ち出していたからこそ混乱が起きなかったのだろう。

 

本来ならば、己と同じくらいには長い時を生きているであろうメディウス(地竜族の長)モーゼス(魔竜族の長)。彼等があの急激な変化の中にあって、それを受け入れている事には複雑な思いを抱かざるを得ないが。

 

 

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これは単純にガトーとメディウスやモーゼスの立場の違いによるものだろう。

 

ガトーはナーガやチキ(ナーガの娘)と言った者達の影にある事が出来たし、それが許された。

だが、メディウスやモーゼスは己の種族の未来を考えねばならず、メディウスに至ってはナーガの様に己の種族のみならず、この大陸の行く末をも考えねばならなかった。

 

この点はメディウスが個人として強大な力を有しているからこそ、それに相応しい責任を感じていたのではないだろうか?

 

 

⋯まぁそれも、何処ぞの盗賊が見事に無駄にしてくれた訳だが。

 

 

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魔法をカダインという辺境の地に留めようとしたのとて、ガトーなりの理由があった。

 

 

ガトーはアカネイアの興亡を見て、そして再興したアカネイアの振る舞いを目の当たりにしている。

 

アカネイアは各地に兵を出し、オレルアンやグルニアを建国。大陸秩序は成ったかに見えた。

 

 

が、そうではなかった。

 

 

武力による支配。

 

 

特にグルニアはオードウィン将軍と将軍を慕い付いてきた騎士達により平定。グルニアは建国される事と相成った。

 

結果グルニアの地に住まう者の中には『余所から来て勝手に国を建てた』者達への反発を強める者が多数発生。

彼等はオードウィン達の手の届かない辺境へ逃れ、現在に至るまでグルニアに対して抵抗を続けている。

 

 

僅か百年程度で遺恨が忘れ去られる事はないのだから。

 

 

 

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当時開拓民の集まりであり、アルテミスが頼り、アンリが興したアリティア。

試練を乗り越えたからこそ、己はファルシオンをアンリに与えている。

 

であるにも関わらず、アリティア王家の証としてファルシオンを求めようとは思いもよらない話。

仮にアンリの子孫なれば、認めようが。マルセレスはアンリにとって信頼できる弟だとしても、ガトーにとってはそうでない。

 

カダインを設立する為にアンリ(アリティア)の協力を受けた事もあり、マルセレスにファルシオンを継承させ、マルセレスの子孫なればファルシオンを使える様にした。

が、結果としてそれを不服とした者達がアリティアから独立し、グラ王国を建国したと聞いて、己は世俗から離れるべきではないか?と考える様になった。

 

 

 

ファルシオンとは本来、理性を無くしヒトの世を壊さんとする竜や竜人族を止めるべく用意したもの。

 

それもさも、国の象徴であるかの様に扱われるのは理解はしても、納得出来るものではなかったのだ。

 

 

ガトーはアリティアの件で確信した。

 

 

武器をやたらみだりに与えてはならぬと。

 

 

 

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「⋯となれば、有り得る話か。」

 

ガトーは気落ちしたかの様に力無く呟く。

あの勇敢で実直だったアンリでもあの様になったのだ。

 

であれば、アンリの真摯な思いを顧みる事のなかったアカネイアに何を期待出来ると言うのか?

 

 

気落ちするガトーであったが、ミロアから聞かされた話により、ある判断を下す事とした。

 

 

「ナーガ様がアドラ一世に神託を与えた?

⋯何の話だ、それは?」

 

それはガトーにとっても、到底看過し得ない衝撃的な話であったのだから。

 

 

 

 




視点や受け取り方によって物事はかなり変わる事に今更ながらに気付かされた。

実際ガトー視点だと、ヒトに希望を見出すのはかなり難しいのかも知れない。



⋯それはそれとしても、チキを長い間封印したままにしたのは許されないし、個人的には許すつもりもないけど。


覚醒において、チキがあの様なキャラ付けをされたのは、幼少期(?)における長い期間の封印があったのではなかろうか?

エリスルート完結記念の外伝

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