汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

215 / 216
立場が違えば見える景色の意味もまた異なる。


人は価値観という鎖に縛られ生きているのか?


価値観(しばるくさり)

アカネイアでは騎士団がマケドニア征伐に向けて準備を整えていた頃、アカネイアを支える組織にも動きがあった。

 

 

「⋯カダインを攻める様にする、と?」

 

教会の司祭のひとりであり、嘗てカダインで魔法を学んでいたボアは教会の指導部に呼ばれ話を聞き愕然とした。

 

「カダインのミロアはアカネイアの最高司祭の座を降り、アカネイアから離れた。

当然アカネイアもそれを快く思っておらぬ。⋯だが、ミロアから代わる可能性は残されておろう。

再度アカネイアにカダインが接近し、最高司祭の座を狙わないとも限らぬ。」

 

長ったらしい話を聞きながらボアは

 

(⋯要するにミロア殿の居た地位を欲し、それを安泰としたいだけであろうに。

⋯⋯いや、魔法の技術も独占したいのか?)

 

と考えた。

 

 

 

ボアの予想は正しく的を得ており、魔法技術の継承を担うカダイン。そのカダインを滅ぼす事で教会の影響力を高め、更なる教会の勢力拡大を目論んでいた。

 

とは言え、教会の司祭は魔法を行使出来るが、その司祭に魔法を教えるボア達は皆カダインで学び研鑽した者達。

確かに今は教会の一員であるが、カダインに対して思い入れがない訳では決してない。

 

 

「簡単に言われますが、どうなさるので?」

 

そうボアは問いかけたが、大凡返ってくるであろう答えは予想出来た。

 

「⋯ふむ、アカネイア騎士団はマケドニア征伐を進めたいと考えていると聞く。

が、直ぐに船団を用意する事が出来ず、不満が高まっているとも。」

 

良く言うわ。大方騎士団長や将軍の野心を煽ったであろうに。

 

ボアは内心毒づいた。  

 

 

 

----

 

 

 

民に寄り添う事を掲げている教会。

 

だが、それは所詮上辺だけのものに過ぎず現場の神父やシスターが如何に民に寄り添おうとしても、それを纏める総本山にそんなつもりは一切ない。

 

 

寧ろ、民の生活を圧迫しているアカネイア貴族に近付き言葉巧みに取り入り、領主に不満を持つ民の心を教会に傾けようとすらしている。

 

民に寄り添う筈の教会であるが、賊が出たとして街や村が襲われたとしても民を匿う事を総本山は認めていない。

 

 

 

信仰とは、窮地にある者が縋る事でその信仰は強固なものとなるのだから。

 

 

 

----

 

 

 

「は?」

 

 

騎士団からの使者の話を聞いた大臣はその内容に怒りを覚えた。

⋯いや、正確に言えば殺意すら抱いたとするべきだろう。

 

 

何せマケドニア征伐に向けた試作艦の建造。

それにかかる費用が中々に馬鹿らしくなる程に膨れ上がっているのだ。

 

 

何せ本来最も欠かすべきではない建艦の専門家たる船大工からの協力が得られず、当然船大工が資材運搬を任せている人夫も動員出来なかったと言う。

 

そこは騎士団が折れるなり、船大工達と話し合い説得すべきところ。だが、騎士団は『アカネイアの各地から人を集める』事を選んだ。

 

 

勿論、仮にも国王の命である事を騎士団が強調した以上は少なくとも建艦に携わる者達の生活は保証せねばならない。

軍船の建造だけでも決して少なくない負担なのに、その上各地から集められた職人や人夫の生活支援。

 

更に港一帯を治める貴族にも手当をせねばならなかった。

何せ軍船の建造に必要な木材。それは最も確保しやすいところ。つまり港の近くの森林を伐採しているのだから。

 

 

森を切り拓くとなれば、そこで生活している獣や植物にも変化を齎す。その辺りを考慮しながら伐採するのが一般的なのだが、何せ職人達からすれば此処は『仕事をしている場所』であっても『自分達の生活する場所』ではない。

 

故に地元では村長などと話し合い木材の調達にも苦労していた彼等は『騎士団からの依頼(アカネイア王国の事業)』である事を名目に確保しやすいところや、資材として適している樹を伐採させていた。

 

 

現地の貴族に何の話も無く。

 

結果、騎士団や職人は完全に現地の者達と対立する形となってしまい貴族に対して無用な負担を強いる形となっている。

 

 

 

----

 

 

 

その様な無用な状況を生み出しておきながら、騎士団は更に『カダイン誅伐』を言い出したのだ。

 

大臣からすれば、認められる筈がない。もしもそれでもやりたいと宣うのならばそれこそ今自分達がしている事の全てを騎士団にさせねばならぬ。

とすら思っていた。

 

 

 

素直な心情を吐露するのであれば、騎士団は一度弁明の余地もない程の失態をさせてその発言力や規模を縮小させるべき。そう考えていた。

 

国内の治安維持ひとつと満足にこなせない巨大な武装組織など存在する事すら罪なのだから。

 

マケドニア征伐は輸送コストが高過ぎる事を考えねば良い案だろう。

 

 

 

相手は名のしれたマケドニア王国。

そしてマケドニアはアカネイアを信用していないのだろう事は明白。

 

アカネイアに食糧支援を求めた現国王。

その人物ですらも、この様な状況を生み出したとなればマケドニアのアカネイアへの反発はアカネイア側が思う以上のものであろう。

 

 

騎士団はアカネイアが実際に兵を出せば、マケドニアは膝を折ると考えているようだがそんな事はあり得まい。

 

 

「⋯必要な犠牲と割り切る他にないか。

陛下にもそろそろ目を向けてもらわねばならぬからな。」

 

 

とは言え、カダイン誅伐については賛成する理由など有りはしないが。

 

 

 

----

 

 

 

「ふん、マケドニア征伐などという世迷言に付き合える筈がなかろうよ。」

 

グラ国王ジオルはアカネイアの使者が去ったあと不愉快そうに吐き捨てる。

使者は相変わらずアカネイアの都合だけ喚き立てていた。

が、ジオルは元よりマトモに取り合うつもりなどない。

 

 

確かにマケドニアの動きはアカネイアを中心とした大陸秩序に対する挑戦でしかないだろう。

 

 

 

 

だが、それがどうしたと言うのか?

 

 

マケドニアはジオルの知る限り、大陸各国に対して動きを見せていない。

つまり、マケドニアは大陸と関わるつもりが元よりないのだ。

 

 

そもそも、マケドニアから大陸各国に使者を送るのも物資を送るのも容易であるが、逆をするとなると船の用意や航路の策定。船を扱う者を集め、その者達を取りまとめるだけの力量を持つ者を得ねばならない。

その上、マケドニアへ派遣しグラの国益を損ねない程度の識見を持った者である必要が生じる。

 

商人がマケドニアとの交易を好まないのは、手間の割には利益があげにくい事。その上、天候次第ではその船が沈む可能性が決して低くないからだろう。

 

 

 

そして仮にマケドニアと大陸側の国が結んだとして、マケドニアにとっては面倒事(守る場所)が増えるだけ。

何せ共闘しようにもマケドニアから兵を出せても逆は困難を極めるのだ。 

 

であれば、マケドニアが大陸各国と結ぶ理由があろう筈もない。

 

 

 

故にマケドニアと結ぶ事は不可能に近いと見て間違いではないだろうと見ている。

 

 

 

----

 

 

 

ではアカネイアに与してマケドニアと戦った場合、どうなるか?

 

 

戦闘が起きる以上、兵や騎士の損失は避けられず、兵達を食わせるだけの食糧や武器などの物資も必要。

 

あの(・・)アカネイアがそれらを工面してくれる等期待するだけ無駄。

 

もし仮にマケドニアを征伐出来たとして、アカネイアがその功績に報いるだろうか?

 

あり得ないとジオルは断言できる。

 

 

その気遣いが出来るならば、マケドニアへの食糧支援の負担を各国に掛けるはずもない。

つまり、各国はアカネイアの虚栄心の為に兵や貴重な物資を浪費する事になるだろう。 

 

その上アカネイアは国力或いは影響力を増し、更に増長するのは最早疑いの余地があろうか。

 

 

 

 

「⋯懸念すべきはアリティアがどう動くか。だろうな。」

 

 

アリティア王国

グラ王国の歴史を語る上でアカネイア以上に外せない国。

 

 

 

----

 

 

 

 

アリティア王国の初代国王『勇者アンリ』

 

ドルーア帝国のメディウスを倒し、アカネイアの勝利に貢献。その功績から開拓民の集まりでしかなかったアリティアを国家としてアカネイアに認めさせ、周辺地域を平定した傑物。

 

 

だが、アンリは妻を持たず結果としてアリティアはアンリの次代について揉める事となった。

 

アンリの弟マルセレス。それ以外にもアリティアを発展させた者や有力者も次期国王に名乗りを挙げたとされる。

 

 

 

アンリは誰もが認めるアリティアの国王にして英雄だった。

だが、その血縁者というだけで次期国王と認める者ばかりではない。

 

仮にマルセレスがアリティアの誰もが認めるだけの功績を挙げていたならば、良かった。

 

 

しかし、マルセレスはあくまでもアンリ(建国の英雄)の弟に過ぎず、真にアリティアの事を考えていたならば兄であるアンリに妻を持つべきと言わねばならなかった。

それが叶わなかったとしても、アンリが養子を取れば良かっただろう。

 

少なくとも、アカネイアやアリティアの有力者がそれらを言わなかったとは思えない。

 

ところがマルセレスは王族としての責務を果たす事なく、結果神剣ファルシオンをアンリは私物化し、その継承者とされたマルセレスがアリティアの二代目国王となった。

 

 

 

故にマルセレスへの継承がアリティアの民に支持されていたならば、マルセレスやアリティアとアカネイアの信頼関係が確かなものであったならば、グラの独立が認められる筈がない。

 

 

 

アリティアではアンリの一途さは美談として伝わっているが、ジオルからすれば『個人の感情』でアリティアを混乱に陥れた人物でしかない。

 

アンリが想いを寄せていたとされるアルテミス。彼女はアカネイア王族として、アカネイア王家の血を遺した。

その心中は穏やかではなかっただろうが、アカネイア王家の務めを果たしたのだ。

まぁ、民でしかなかったアンリとアルテミスでは色々違うのだろうが。

 

 

 

しかし、『アカネイアに尽くすべし』と国祖アンリより言葉を遺されていたというのに、マルセレス以降アリティアとアカネイアの関係は微妙なものとなっている。

 

現国王コーネリアスは今回のアカネイアの暴挙に協力するのか?

⋯まぁしたとなれば、アリティアが汚名を着る事は避けられまいが。

 

 

「最悪、国境に見せ兵を出さねばならんか。」

 

 

グラにとってアリティアは仮想敵国とも言える存在だ。今は同盟を結んでいるが、両国の溝は決して浅くない。

 

が、アリティアが下手を打てば嫌でもグラもその影響を受けてしまう。

 

 

「今のアカネイアなど関わるだけ損なのだがな。」

 

 

 

 

 

 

 




グラの建国の経緯を考えると、割と原作でのジオルの行動も理解出来るのではないか?と思う今日この頃。

勿論、それが道義的に許されるものではないのでしょうが。










まぁそれはそれとして、アンリは本当に評価の難しい人物なのだと調べながら思った次第

エリスルート完結記念の外伝

  • いる
  • いらない
  • そろそろリンダルート書いて、どうぞ?
  • そんなことよりチキを出せ
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。