汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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マケドニア征伐に向けて動き出していたアカネイア。

だが、その準備段階において騎士団は騎士団創設以来初とも言える大きな失態を犯す。





内憂外患

アカネイア騎士団によるマケドニア征伐。

 

最早それについて口にする事が罪であるかの様な空気がパレスを包んでいた。

 

 

将軍、いや()将軍は罷免され、パレスから所領へ戻る姿を最後に消息を絶っている。

が、パレスにおいてさして問題とされる事はない。

 

元々将軍であった人物は現国王に妾を手配し、国王がその妾を寵愛しているからこそその地位に就く事が出来た人物だ。

 

 

貴族であっても、最低限戦えねばならぬとするアカネイア貴族と違い、元将軍はその権威だけに縋っていた者。

 

 

一応、アカネイアの貴族の縁者ではあったが、その貴族はマケドニア征伐に対して懐疑的であり、結果元将軍と対立する事になっていた。

 

 

「この様な状況でマケドニア征伐を強行し、万が一にも失敗する事があれば騎士団の存在意義そのものが揺らぎかねぬ。」

 

新たに将軍となった者は前将軍に同調していた者達を騎士団中枢から追放。更に教会から『カダイン誅伐』などという愚にもつかぬ話を吹き込まれた者達には再教育を徹底させる事とした。

 

 

 

「それにしても最近の騎士の増長は目に余るものがあるな。

⋯どうにかせねば。」

 

 

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アカネイア騎士とは本来、アカネイアの中興の祖たるカルタスを支え、後にグルニアを建国するに至ったオードウィン。そしてそのオードウィンに従いドルーアに抗った騎士を理想とする。

 

 

だが、今の騎士の多くはその華々しい功績に目を奪われ過ぎていると将軍は考えていた。

 

 

 

平時において、オードウィンやその配下の騎士達の様な功績など挙げられる筈もない。

 

ドルーアという明確な大敵がいた時と、アカネイアを中心とした大陸秩序が定まっている今は騎士に求められる役割(もの)は違うのだ。

 

 

 

「⋯そもそも貴族子弟や門派が騎士となる事が当たり前となれば、腐り落ちるのは当然なのだがな。」

 

 

 

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アカネイアの腐敗は確かに統治者である国王や貴族の意識低下が原因であろう。

 

だが、本来裏切りを抑止する為に貴族の縁者を引き上げていた制度はその機能を喪失してしまっている。

 

 

 

貴族と簡単に言うが、言うまでもなく貴族間での勢力争いというものは存在した。

 

貴族は自派閥の勢力拡大を目論み、文官や騎士に縁者を送り込む事を目論む。

 

 

騎士として確かな成果を自派閥の者が挙げれば、その者を推挙した者も称賛されよう。

 

 

 

であれば、失態を犯せばその責も取らねばならないのではあるまいか?

 

⋯にも関わらず、アカネイアにおいてはそうなっていない。

 

 

 

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アカネイアの騎士への推挙、受勲は最早貴族が己の権勢を強める為の、騎士本人の自己満足のものと成り下がっていた。

 

 

将軍となった人物は今のアカネイアでは希少な貴族観に染まっていない者。

 

 

今のアカネイアを憂う者は少なからず居る。⋯が、その者達とて貴族としての特権を享受している事を自覚していない。

 

 

例えば、『大陸一の弓使い』として神器パルティアを授けられた騎士ジョルジュ。

彼自身は理解しているのか甚だ疑問だが、彼の率いる弓兵隊とは他の部隊と連携せねば満足な働きが難しい兵科。

 

にも関わらず、己の父親も含めたアカネイア貴族に対する嫌悪感を隠そうともしない。

 

 

実力があろうと、組織の中で孤立する事は避けねばならぬと言うのに。

 

 

 

しかし、彼自身のみであればまだどうにかなるところ。

 

アカネイア初の女性騎士ミディア。

彼女が関わらなければ、の話だが。

 

 

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アカネイア貴族の娘であったミディアは本来アカネイア貴族子息であるジョルジュと婚姻関係にあった。

 

それは有力者の子女であれば当たり前の事であり、それは当人同士やその親である貴族だけの話で収まる話ではない。

 

 

⋯ところがミディアはジョルジュとの話を破談とさせた。

本来女性であり、騎士と受勲されるだけの実力すら持ち合わせていないにも関わらず、どうにか騎士となったというのに。

 

 

勿論、彼女の精神や実力に見るべきものがあったから受勲された訳ではなく、有力者である彼女の家に配慮した結果に過ぎない。それを彼女は理解しているだろうか?

 

いや、理解している筈がない。

 

 

自覚しておきながら、アレと言うのなら救いが無さすぎる。

 

 

 

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前任者は騎士ミディアを聖騎士にすべきと動いていた。

 

 

それは彼女の立場故に必要な処置だったのだから。

 

 

 

ミディアの恋人であるアカネイア歩兵隊の隊長『勇者』アストリア。一介の傭兵でありながら、その実力を評価されアカネイア正規軍の部隊を預かる事となった人物だ。

 

 

それはアストリアが申し出たのではなく、アカネイアから話を持っていって成し得たもの。となれば、アストリアの立場は勿論出来る限り配慮せねばならない。

少なくとも、前任者はそう考えたのだろう。

 

 

そしてアストリアの恋人であるアストリアは『勇者』と一介の騎士であるミディアでは釣り合いが取れない。

そして、婚姻関係を破棄した以上ミディアへのアカネイア軍関係者や貴族の中での評価はかなり低い。

 

 

その上今のアカネイアに対しても批判的ともなれば尚更。

 

 

前任者は彼女を聖騎士とする事で事態の解決を図るつもりだった様だが、賛同する気はない。

 

 

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騎士とて状況によってはアカネイアの総意とも取られないのに、聖騎士ともなれば、彼女の態度や発言などがアカネイアの意思と取られかねない。

 

更に彼女の実力が高ければよいが、そうでない現状過ぎた立場は悪影響しか与えないだろう。

 

 

 

アカネイアの聖騎士ともあろうものがこの程度か

 

 

などと思われては各国からアカネイアへの評価に影響を与えかねない。

それが立場と言うものなのだから。

 

 

 

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新たに将軍となった人物は文官や軍船建造で迷惑をかけた貴族や有力者に謝罪をして回らねばならなくなり、アカネイア騎士団の影響力と権威は低下する事となる。

 

これに対して騎士達は不満を持つ事となったが、将軍はその様な些事(・・)に拘泥する事はない。

 

 

 

「マケドニア征伐は諦める。

そして各国にマケドニアとの繋がりがないか調べる、と。」

 

「マケドニアの食糧事情が良くないのは周知の事。マケドニアにとってアカネイアからの食糧支援は命綱であった筈。

その命綱を手放したとなれば。」

 

「⋯何処かがマケドニアに支援している、と?」

 

それはそうとして、アカネイア騎士団の勢威に傷をつけたマケドニアを許すつもりはなかったが。

多分に自業自得であり、マケドニアに非があるとは言えないが結果として一連の話はマケドニアがアカネイアに従属していれば起きなかった話なのだから。

 

 

勿論、そんな事を口にするつもりはあり得ないことだ。

 

 

 

----

 

 

 

 

「確かにその可能性は大いにあり得る事か。」

 

将軍の発言に文官を纏めている大臣は唸る。

 

「実際にマケドニアへ兵を差し向けるよりも食糧を締め上げる方が遥かに効果的ではないだろうか?

⋯無論、前任者が進めた話とはいえ我等騎士団の責任は免れぬ。⋯いや、免れてはならないと思うが。」

 

 

 

マケドニア征伐の無期限延期。それは騎士の多くは不満を持つ事となったが、将軍は対立していた文官との関係改善を推し進める事とし、今まで放漫的であったアカネイア各地への巡回の徹底を厳命。

 

 

各地を治めている貴族にも連絡し、騎士の報告の裏取りも行うべきと改めた。

 

 

「我等の言が信用ならぬと言われるのか!」

 

そう怒鳴り込んできた騎士に対し、

 

「その通りだ。

仮に騎士が主命を果たしていたのなれば、此処までアカネイア国内が乱れる事があると思うのか?」

 

 

仮にも大陸の中心であり、騎士団の規模()大陸最大のアカネイア。

賊とは愚かではない。

 

 

元より生活が苦しくなければ農民と言うのは早々道を外れようとしない。

賊と言えば武力で全てを奪えると思われるかも知れないが、そうでもないのだ。

 

 

 

強いものを避け、弱いものから奪う。

出来る限り、痕跡は消し討伐される可能性を下げる。

 

 

これが賊のやり方。

 

まぁ中にはサムシアンの様に凶悪過ぎる為に討伐されない例もあるが、それは例外中の例外と言える。

 

 

更に戦闘が起きた時に戦場の混乱に乗じて略奪する賊なども居る。

 

 

賊と言えど、正規軍と正面から戦うのは避けるべき。

それを回避する為に、商人と結びその商人が貴族と結び付く。などという事もない話ではなかった。

 

 

賊は奪ったものを売り捌く相手として商人を。自分達を見逃して貰う庇護者として貴族を求め

商人は自身の安全と競合者への襲撃、商品の仕入れに賊を

貴族は己の欲を満たす為に商人や賊を

 

それぞれ求め、利害が一致すれば成立する事なのだから。

 

 

 

----

 

 

 

 

「それとどうやらマケドニア征伐やカダイン誅伐には教会の動きもあった様で」

 

「⋯⋯おおかたミロア殿が退いた事で欲が出たか。

忌々しい事だ。」

 

 

将軍の言葉に大臣も憎々しげに表情を歪める。

何せ教会は王族のみならず各国の有力者の子女へ教育を任されている。

その上、領民に対して甘言を弄し民心を容易く動かそうとする事が多い。

 

 

一応領主である貴族も兵を持っており、その兵で街や村の治安を維持している。

が、それはならず者達も知っており揉め事を起こそうとしない。つまり彼等の役割は抑止力であると言えよう。

 

有事の際には役目を果たすが、そもそも統治者としてその様な事態が起きない様にするのは真っ当な話。

 

 

 

だが、人とは当たり前と思うものに感謝する事を忘れる生き物。領民にとって領主やそれに従う者よりも、病を癒し説法をする教会の神父やシスターにこそ信を傾けてしまう。

 

勿論、総本山の者達と違い神父やシスターの多くは民に寄り添おうとしている。

現場に出ている者は善良な者であり、表に出てこない者は己の栄達の為に力を注ぐ。

 

 

それ故に教会は『民に寄り添うもの』

領主などは『民を虐げるもの』と見られてしまい、地域によっては教会の意向に統治が影響を受ける、などという話すらあり得るのだ。

 

 

そして、その教会に唆されて動く騎士と言うのも少なからず存在している。

 

 

⋯面倒極まりないのが、唆されている騎士は本心からマケドニア征伐やカダイン誅伐がアカネイアの為になる、

そう信じている事だろう。

 

 

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教会にとってマケドニアはともかくとして、カダインはアカネイア最高司祭の座を争うべき相手だった。

今でこそミロアがその地位を返上し、アカネイアと距離を取る事を選びはしたが、いつまたカダインがアカネイアに近づかぬとも限らない。

 

 

それ故の焦りなのは理解出来よう。

 

 

しかし、教会の方針と王国の方針が必ずしも合っているとは限らないのもまた事実。

 

 

特にそれは内政において顕著であり、文官達は何かにつけてアカネイアの国政に口を挟もうとする彼等の影響力を排除すべきと考えていた。

 

それに対して反発してきた騎士団の存在。

 

 

つまるところ、アカネイアと言うのは文官、騎士団、教会という3つの勢力がある程度の対立をしていたからこそ、今の様な状況を生み出したとも言える。

 

⋯だが、マケドニア征伐やカダイン誅伐を教会が密かに後押しし、軍船建造において騎士団の面目が大いに潰された。

 

 

 

となれば、マケドニアやカダインよりも先に

 

 

内なる問題(きょうい)を片付けるべきではないか?

との話が出てくるのもやむ無しと言えよう。

 

 

だが、相手は建国王アドラ一世の御代より続く組織、とされるもの。

 

 

根は深く、広く伸ばされていた。

 




人は常に己を正当化しようとする。

それは時に正視する事を躊躇う程の争いの元となり得た。


彼等は何を選ぶのだろうか?

エリスルート完結記念の外伝

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