汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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これで紛うことなくマケドニアルートと断言出来るな、ヨシッ!(アカネイア猫)


無色の心に色づく時

チキの外見が成長し、彼女もまた強くなろうと決意。

それは、ドルーアにおいては歓声をもって迎えられ、マケドニアにおいても慶事であると比較的好意的に受け止められた。

 

 

無論多少の温度差はあれど

 

 

 

 

----

 

 

 

ゲレタにとって最早あちらの世界もこの世界も確固たる現実であり、己の知識が如何程の価値を持つのか危うくなっている事を自覚した。

 

⋯いや、自覚させられたというべきか。

 

 

メディウス率いるドルーアとの共生。大陸諸勢力との事実上の断交。

元は己の身を立ててくれた大恩に報いる為、この世界での居場所を失わぬ為に必死になったに過ぎない。

 

 

が、ゲレタとて幾ら己が情の薄い人間であると自覚していても、関わり続ければ情が移るというもの。

 

 

「ミシェイル陛下の世界を守るつもりだったとは言え、我ながら大風呂敷を広げたもんだ。」

 

 

 

先王とアカネイアとの交渉を任せていた有力者。

彼等はマケドニアの為に命を賭けた者達を食い物としていた。

 

 

恐らく最初からそうではなかったのだろう。

 

 

 

----

 

 

 

マケドニアに深刻な食糧危機が起き、先王は民を食べさせる為にアカネイアに膝を折った。

 

それ自体ミシェイルも否定する事はない。

 

 

王たる者は民を守らねばならない。

その為の立場、その為の権威なのだから。

 

 

 

ゲレタもまたそこに異論はなかった。

 

 

だが、先王は楽に流れようとした。

マケドニアの生命線である食糧をアカネイアに依存しようとしたのである。

 

 

ミシェイルはこれに対して廃嫡されようとも受け入れるべきではないとし、ミシェイルに賛同する者は多かった。

結果、先王は国内生産の継続(という名の実質放置)とアカネイアからの輸入という形で終わらせる事となる。

 

 

それでもまだ許せた。

その時点では王もそれに従うべきと動いた有力者もマケドニアの為に決断したのだから。

 

 

だが、人とは慣れてしまう生き物なのだ。

本来外貨と信用を稼ぐ為に命を懸けて戦う竜騎士の為にも、その状況を何とかするべきところの筈。

 

 

ところが、それで凌げると

そこで先王は話を終えようとした。

 

 

そしてアカネイアとの交渉を有力者に任せ、その者はアカネイアにより懐柔されてしまう。

 

 

結果、竜騎士や将来的には天馬騎士。マケドニアの為に全てを擲つ覚悟を決めた者達を

己の欲を満たす為に贄としようとした。

 

 

 

それに留まらず、あろう事かミネルバ王女やその騎士をもアカネイアに売り渡さんと画策していたとなれば、ミシェイルやゲレタに許す理由は欠片も存在しない。

特に王女であるミネルバ。彼女がアカネイアの手に落ちれば、マケドニアに対する工作も考えられた。

 

何よりも、ゲレタにとって命を救った恩人であるミシェイルが心を痛めるのは避けられない。

 

 

この時点でゲレタの中にアカネイアとの関係構築という選択肢は消え、マケドニア生存の為にドルーアと組む事を考え始めた。

 

 

 

この事はゲレタとミシェイルしか知る事はない。

仮にこれが公になれば、アカネイアへの敵意を留めるのは困難を極めよう。

 

 

----

 

 

 

マケドニア独自の戦力たる竜騎士と天馬騎士。

それは空を駆ける自由なる騎士。

 

 

故にこそ、その統率には気を払わねばならない。

竜騎士はともかくとして、天馬騎士ならば後に成立するタリスの王女シーダもいるが、大陸の常識は天馬騎士と言えばマケドニアなのだ。

 

 

つまり、仮にマケドニアと関係のない天馬騎士や竜騎士がいたとして、その者が何かしら事を起こせばマケドニアの手の者によるものと見なされる事となろう。

 

 

信頼とは築くのは時間を要するが、失うのは一瞬。

 

 

 

別にアカネイアからはどう思われようと気に病むつもりもないが、風評とは時に予想もつかない方向に事態を転がす事もまたあり得るのだから。

 

 

 

----

 

 

 

 

ゲレタの元にマリアとその侍女であるレナが派遣される事になった。

 

 

ゲレタからすれば、ミシェイルの考えもある程度理解出来た。が、納得出来るかどうかと言われると勿論、受け入れがたい話ではある。

 

が、殊の外チキは二人を歓迎した事でゲレタも反対する気勢を削がれてしまう。

 

 

 

チキとしては、まだ自分と想い人(ゲレタ)の間に埋め難いものがあると思っており、マリアとレナにも手伝って貰おうと考えたのである。

 

勿論、内心ゲレタを自分だけで支えられない事に複雑な思いがあったものの、それよりも今のゲレタを支える事を優先した形だ。

 

 

 

特に彼女一人では聞き出せなかった話。

それはゲレタにとって重過ぎるものであり、それにいつか押し潰されるのではないか?不安であった。

 

彼女は不器用な、でも確かな優しさを持つゲレタが変わってしまう事を恐れていた。

そして、それを自分ひとりでどうにも出来ないだろう事も。

 

 

 

少し前、外見だけとは言え成長する前までの彼女であれば、それてもひとりでどうにかしようとしたであろう。

 

だが、今の彼女はゲレタを守りたいと、側に居たいと

その想いだけで自分を変える事に恐れはない。

 

 

 

だからこそ、それを素直に二人に打ち明ける事が出来たのだ。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

チキから話を聞いたマリアは衝撃を受ける。

 

 

兄の

姉の

そして兄妹の絆を守ってくれた恩人であるゲレタ。彼が苦しんでいたなどマリアには想像もつかなかったのだから。

 

 

 

マリアにとって、ゲレタとは兄を変えた

⋯いや、助けてくれた人物だ。

 

 

確かに兄にとってゲレタという人物は今や欠かせない存在となっている。

しかし、彼を見つけた時にその様な事が分かる筈もなく、気まぐれに人を助ける程にあの頃の兄に余裕があったとは思えない。

 

にも関わらず、彼を助ける為に疎遠となりつつあった自分に彼の回復を頼んでいる。

 

 

----

 

 

 

当時私は兄ミシェイルと姉ミネルバの関係が思わしくない事に心を痛めていた。

 

姉とはそれなりに話が出来ていたが、兄とはその機会も得る事は出来ず、自分ではどうする事も出来ない事に歯噛みするだけ。

 

 

 

これは先代国王である父は姉と話す事こそ認めていたが、兄と話す事どころか関わる事すら好ましく思っていなかったらしい。

それでも兄が私に彼の治療を頼んだのは、他国人である彼を父が助けると思えなかったからと聞いた。

 

 

彼は傷だらけで衰弱していた。

目が覚めても暫くの間は食事が喉を通らない程に弱っており、それでも目の奥の光だけは強かったのを覚えている。

 

 

私には丁寧にお礼を言いながら、色々聞いてきたのは印象的だった。

 

 

----

 

 

 

 

「⋯ゲレタ殿、少しお話があるのですが。」

 

 

それはゲレタがまだ王子であったミシェイルの側仕えとして取り立てられ、一部の者からミシェイルの腹心として見られる様になった頃。

 

人目を忍ぶ様にゲレタに接触する者がいた。

 

 

 

 

 

 

話を聞いたゲレタは内心を悟られない様に必死に己を押し留めていた。

 

 

ゲレタにとって、先王時代のマケドニアは知らぬ事ばかり。故にゲレタは何よりも情報を求め、その為にはミシェイルやミネルバに隔意を持つ相手であろうとも話を聞く事に努めていた。

 

 

勿論、内心苛立ちどころか殺意さえ抱きそうになったが、荒ぶる心を圧し隠して。

 

 

----

 

 

 

 

素性の知れぬ怪しい男がミシェイル王子の信を得ている。

 

 

それはミシェイルを危険視していた当時のマケドニア王やアカネイアに繋がっていた有力者の耳にも届く。

 

 

 

マケドニア王はミシェイル廃嫡のまたとない口実が出来たとして、これを静観。

 

ミシェイルの立場を危うくしかねない存在でありながら、そのミシェイルより信を受けているゲレタ。

それはアカネイアに利する行為に他ならず、大陸情勢にも明るいと聞くゲレタ。

 

それをアカネイアと繋がっている有力者はこう見ていたのである。

 

 

ゲレタはアカネイアが送り込んできた人物であると。

 

 

 

そして彼等は秘事である天馬騎士を傭兵としてアカネイアに派遣する事などをゲレタに打ち明け、協力を求めた。

 

 

それがゲレタの逆鱗であると知る事もなく。

 

 

 

 

そして、血の雨が降り注いだ。

それだけの事

 

 

 

 

----

 

 

 

 

 

チキから話を聞いたマリアとレナ。

 

 

レナはともかく、マリアもゲレタが人を殺したという事に驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

なお、ゲレタはモーゼスと共にドルーアのメディウスとの話し合いに出ている。

 

 

これはチキがモーゼスに頼んだ事。

ゲレタの心を支える為には、自分ひとりの説得では足りない。

 

 

 

情に訴えるのが更にゲレタの精神を追い詰めてしまうかも知れないのは理解している。

だが、それでもチキはゲレタの事が知りたいし、力になりたい。

 

 

その真摯なチキの言葉と表情。それはマリアにも理解出来た。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

姉であるミネルバやその騎士であるパオラ達と違い、マリアは人を傷付ける事に忌避感を抱いている。

 

そしてそれは恐らくゲレタも同じではないか?そう今更ながらに思い至った。

心あたりはある。

 

 

少なくとも、マリアが初めて会った時のゲレタはものを食べられない程に衰弱していた。

兄が言うには、近くに獣などが居なかった訳でもないと言うのに。奇妙だとも

 

 

 

 

父は兄を姉と自分から遠ざけていた。

 

本来マケドニアの女性は天馬騎士として始めるところを何故か姉ミネルバだけは最初から騎竜を与え、竜騎士としている。

 

 

兄は竜騎士として認められるまでに血の滲む様な努力をしたと言うのに。

 

 

だから、マリアはそこまで兄ミシェイルが父を除いたとしても、違和感はなかった。

姉ミネルバはそうではなかったらしいが。

 

 

 

離れ離れになっていた兄と姉を繋ぎ止めたのがあの人であり、その後も事あるごとに姉やその騎士達。そして私を気にかけていた。

 

 

そうだ、あの人は優しい人だったのだ。

確かに姉やパオラ達には厳しく接する事もあったが、それも必要だったからこそ。

 

 

そうなると余計に違和感が強まる。

 

 

何故、あの時あの人は殺す事を選んだのか?

 

 

 

 

----

 

 

 

 

ミシェイルの元にマリアとチキの二人が訪れる。

 

 

ミシェイルはその不思議な組み合わせに内心首を傾げたが

 

 

 

「ミシェイル兄さま。一つ聞きたい事があるのです。

⋯兄さまが父上を討ったあの日。何故ゲレタさんはあの者達を殺したのでしょうか?」

 

妹の口から出た言葉に目を見張り

そして、天を仰ぐ。

 

 

 

(そうか、お前達はそこに行き着いたのだな。)

 

 

 

ミシェイルは視線を戻し、問い掛ける。

 

 

「それを知って、どうする?

神竜の姫、恐らくお前が気付いたのだろう。だが、それをアレが言わない理由が分からぬ訳ではあるまい?」

 

「ゲレタさんが

⋯⋯あの人が私に言わない理由は何となくしか分からない。

でも、それがあの人にとって重過ぎるものになっているのだけは分かる。」 

 

ミシェイルを見返すその瞳は強いものだった。

問いを向けられなかった妹もまた同じ。

 

 

(外見だけではなく、心も強くなろうとしている。

アレをそこまで想うのだな。)

 

 

妹はともかく、チキの想いの強さはこの少しのやり取りだけでも理解出来た。

妹もまた己やミネルバとはまた違う強さを身に着けようとしている。

 

⋯ならば迷うことは無い。

 

 

「⋯⋯此処で聞いた話。それはアレ以外に口外せぬ。

そう誓えるか?」

 

「あの人への想いにかけて。」

 

「はい。」

 

 

ミシェイルは重い口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「⋯そんな事が。」

 

マリアはようやく理解出来た。

何故あの人と兄がアカネイアを明確な脅威として定めていたのかを。皆殺しという常軌を逸した事をしたのかを。

 

 

「⋯マリア。先にも言ったが、これをミネルバ達に告げる事は許さん。アレもその様な事を望んでおらん。」

 

「⋯⋯はい。」

 

 

彼女が知ったのは悍ましい真実。

 

 

父がミネルバを竜騎士としたのも、ミネルバの下に三人の騎士をつけたのも

 

兄を廃して王位に就けるか

アカネイアにその身を売り渡す為だったなどと。

 

 

だからこそ、その事実を知る者全てを殺さねばならなかった。

 

その芽を完全に摘み取る為に

事が露見し、アカネイアへの激発を防ぐ為に

 

 

 

そして、その残酷な真実を兄とあの人はずっと抱え続けていた。その上で、姉達と普段通りに接していたのだ。

 

 

 

 

----

 

 

 

 

「⋯さて、どうなるか。」

 

 

 

ミシェイルは二人が去った後、呟く。

 

ミシェイルはゲレタの事を思い、故にこそゲレタとの約定を破ってまで真実を伝えた。

 

 

意外とアレは激情家。だが、激情家でありながら人情家でもある。

 

 

恐らく見知らぬマケドニアで生きていく為に、己を在るべき形(斯くあるべし)と定めたのだろう。

 

 

 

 

それに助けられた事は考えるのも億劫になる程の回数になる。

故にこそ、それが報われねばならない。

 

本心を言えば、アレの祖国へ戻る方法を探してやりたいとさえ思う。その方法はメディウスやガーネフと探しているが手掛かりすら見つかっていない。

 

 

ミシェイルは国王であり、類稀なる実力を持つ武人でもある。

その武人としての直感が告げていた。

 

 

 

このままだと、アレは長生き出来ぬ

 

 

その為に手を尽くしてきたつもりだったが、まさか神竜の姫に全てを動かされるとは思わなかった。 

 

 

「アレを想うが故、か。」

 

見た目もそうであったが、内面もアレと共に在る為に変わろうとしているのはミシェイルにも理解出来た。

 

 

そして姫に感化されたのか、下の妹も残酷な現実を飲み込もうとしている。

 

 

「⋯泥に塗れる事を恐れてはならん、か。

どうやらゲレタ。お前が思う以上に相手は手強いぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、翌日複雑な表情をしたゲレタによる『書簡アタック』を甘んじて受けた模様。




書簡アタック

威力0。特定のユニットへの精神攻撃



特定ユニット
ミネルバ、パオラ、カチュア、エスト。



ゲレタの怨念(おもい)の詰まった専用装備。
書簡による物理攻撃の後に、口頭での精神攻撃が追加される事もある。


なおゲレタの精神状態が激昂の場合、木簡アタック(威力1)へ変化する事も

エリスルート完結記念の外伝

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