汚泥の中で   作:アカネイアの雑兵

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揺らぎ

「⋯なに?

マケドニア征伐を未だに諦めぬ者達がいると?」

 

マケドニアへの食糧支援やマケドニアからの傭兵といった繋がりが絶たれて以降、アカネイア貴族の中で怪しい動きをしている者達がいた。

それは本来前将軍が主導していたマケドニア征伐の準備により注目される事はなかったのだが、それが実質中止された事。

更に進水式における被害の補填などの動きが注目されるのは避けられない事と言える。

 

 

「⋯は。更にその者達はマケドニア征伐が成らぬと言うならば、カダイン誅伐を後押ししようとしているとも。」

 

 

「ふざけた事を。」

 

 

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少し前までアカネイアにおいてマケドニア征伐がそれなりに支持されていたのは、

 

 

アカネイアにさしたる被害なく、マケドニアを屈服させられる

 

そう思われていたからに過ぎない。

 

 

 

ところが、進水式の件で軍を船で輸送する事の危険性が示されてしまう。

 

 

勿論、専門職(船大工)が携われば何の問題も無かったのだが、前将軍やその時の騎士団は「たかが職人風情が」と侮り、彼等の仕事を軽く見た。

 

言うまでもなく、船大工達も自分の仕事に責任と誇りを持っており、経験からも話を聞く程の相手ではない。と判断し、手を貸そうとしなかった。

 

 

 

それ故にマケドニア征伐に対して態度を決めかねていた貴族や有力者はこの失敗を見て、マケドニア征伐に対し反対の意思を示す事となる。

 

そもそも少し前まで食糧支援をしなければならない程に困窮しているマケドニアにそこまでの価値を見出せなかったとも言えるだろう。

 

 

まして、騎士団には貴族や有力者の子弟や縁者が居る。華々しい功績を挙げられれば良いが、無駄死にされようものならばその者を推挙した彼等の責任問題にもなり得るときた。

 

確かにマケドニアの竜騎士は有力な駒となり得るが、自分達の立場を危険に晒してまで手に入れる必要はない。

それにマケドニアとて、何時までも意地を通せる筈もなし。

 

 

何れ食糧を求めてアカネイアを頼らざるを得まい。

であるならば、危険を冒してまでマケドニアを攻める理由などありはしない。

 

 

 

と言うのが大勢を占めている。

 

 

 

既に将軍は騎士団の綱紀の引き締めに動いており、文官はアカネイア王から言葉を引き出し、マケドニア征伐の事実上凍結を図ろうとしていた。

その中で(悪い意味で)気を吐いている者達。つまり未だにマケドニア征伐などを諦めぬ者達は白眼視される存在であり、アカネイア貴族社会の中でも忌避される存在となりつつある。

 

 

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「⋯いや、これはまたとない好機か。」

 

何せマケドニア征伐に拘泥しているのはその者達だけではなく、教会の総本山もそうなのだ。

勿論、それを悟られない様に立ち回っているが、マケドニア征伐とカダイン誅伐。特に後者を求めるのは騎士団や前将軍よりも教会側の都合によるものが大きい。

 

 

未だにミロアが返上したアカネイア最高司祭の後釜は決まっておらず、寧ろ最高司祭自体の必要性の見直しすら議論に上がりつつあった。

 

何せ、教会総本山の者とカダインの魔道士。両者を比べれば実力の上では後者が遥かに上なのだ。仮にも『最高司祭』となるのであれば、それはその名前に負けぬ力量を求めるべき。

と言うのが根拠である。

 

勿論、これは建前(表向きの理由)に過ぎず、政治的にアカネイアと距離を取っていたミロアやカダインの魔道士ならばともかく、政治的にもアカネイアに近い教会にこれ以上の立場と影響力を与えるには危険。そう見られている為だった。

 

 

特に今回のマケドニア征伐において、教会からの動きがあった。その事実は文官達を中心に教会への警戒を強めるべき。となるのは無理もない話。

教会が王家や貴族、有力者の子女へのシスターとしての教育を任せられている事実もそれを助長している。

 

 

「将軍とも話し合わねばならぬが、あれらの勢力拡大に歯止めをかけねばならぬ。」

 

確かに王国と教会は非常に密接な関係にある。

それは遥か古、建国王アドラ一世の御代より続くものと聞く。

故にその関係を終わらせる事は出来ないだろう。

教会はアカネイアの体制の中に確かな立場を持っているのだから。

 

 

しかし、教会もまたアカネイアの庇護があるからこそ今の立場にある事を忘れさせてはならない。

ましてや、求められてもいないのにアカネイアの方針に口を挟む様なやり方は認められぬ。

 

教会も自分達の動きが決して好ましいものと思っていないからこそ、この様な迂遠なやり方を選んだのは疑いようもないのだから。

 

 

 

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「アカネイアの混乱は我等が思う以上のものらしい。」

 

「ならば、先のマケドニア征伐などという妄言は聞き流して正解でしたな。

軍としても、いたずらに兵を動かしても利などありはしますまい。」

 

「確かにそうだ。

我等はあくまで自国を守るのが最優先。敵を倒すのが無用とは言わぬが。」

 

「⋯騎士団としても、一度マケドニアに槍を向ければいつ終わるかも知れぬものに加わりたいとは思えません。」

 

前将軍の失脚により、新体制へと移行したアカネイア騎士団。

その動きは他国の知るところとなり、アカネイアから最も離れた国家。グルニアも変化著しいアカネイアへの対応を定めねばならなかった。

 

元よりグルニアとしてはマケドニアに兵を出すつもりはなかったが、他国の動き次第で孤立する可能性も憂慮している。

 

マケドニアへ使者を出す事も幾度となく協議されたが、そもそも外洋へ出る為の船となると文武両官共にそこまでの知識はない。

 

 

グルニアの将軍ロレンスにせよ、精強で知られるグルニア黒騎士団を率いる黒騎士カミュとてそれは同じ事。

 

事は船を動かす者や、船に乗ってマケドニアに向かわねばならぬ者達の命に関わる事。ともなれば、何よりも優先すべきは安全性であり、二の足を踏んでいる。

 

 

グルニア王も大義なき戦いの為に兵を出す事には慎重であり、アカネイアからの使者に言質を取らせる事はなかった。

 

 

 

「それにしても、アカネイアの頼りなさは我等が思う以上のものらしい。」

 

「聞けば、今代は政に関心を見せず寵姫などを愛でる日々らしい。⋯嘆かわしい事よ。」

 

皆一様に深いため息を吐く。

 

 

確かに国王が政に口を出す方が混乱する事もあるだろう。

しかし、少なくともマケドニアへの食糧を自前で用意するのが難しい程度にはアカネイアの民は疲弊しているのだ。

 

 

にも関わらず、アカネイアは民を無視するかの様な政治を良しとしている。

 

 

別にこの場にいる者達はアカネイアが滅びたところでさして思う事はない。アカネイアの役割が終わっただけに過ぎないのだから。

 

 

アカネイアの再興はカルタスとアルテミスによってなされた。そのアカネイアが僅か100年程度で崩れ落ちるというのであれば、アカネイアを継承した者達の能力と覚悟が足りなかったのだろう。

 

 

グルニアもそうだが、アリティアもグラも、オレルアンも

大陸の何れの国家もまだ安定しているとは言い難い。

 

 

大陸最古の、始まりの国家とされるアカネイア。

それに相応しいだけの経済が整っているのであれば私心を殺してでも従おうが、そうでないならば。

 

 

 

 

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アリティア国王コーネリアスはグラのジオル王からの密書を受け取り、頭を悩ませていた。

 

 

内容は

 

 

グラに不穏な動きがあるとし、アカネイアへの助力を断る話であった。

 

 

 

アリティアとグラは現在同盟関係にあり、アカネイアの要請にアリティアが応じた場合、グラが不参加となると面倒な事になる恐れがあった。

逆もまた同じである。

 

 

ジオル王はアリティアの動きも鈍い事から、アカネイアの求めるマケドニア征伐に懐疑的である事を察し、面倒事を避ける為にこの提案をアリティアにしたのである。

 

 

アカネイアの動きは一貫したものとは言えず、マケドニア征伐を中止すると言ってもいつそれを翻すか分かったものではない。

事実、アカネイアからの先触れが訪れており、マケドニア征伐について無期限延期としたい。

と告げている。

 

正式な使者が来るのはもう少し後となるだろうが、この様な有様のアカネイアを信用するのはコーネリアスとしても憚られた。

 

 

それはグラも同じであり、ジオル王としてはアカネイアの癇癪にいつまでも振り回されては堪らない。と言ったところか。

 

 

 

ジオル王としても国内の安定よりもアカネイアの為にマケドニアを攻めるなどと言うのは受け入れがたいのだろう。 

 

 

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アリティアの建国王たる英雄アンリ。

 

アンリは『アリティアはアカネイアの為にあるべし』と王位を継いだマルセレスに伝えたとされる。

が、近年のアカネイアの在り方、やり方を見るに今のアカネイアを肯定するのはアリティアの国王としても難しい。

 

 

アカネイアからのマケドニアへの食糧支援の為とした食糧の要求。その負担はアリティアにとって決して軽いものではなく、その量は少しずつ増えている。

 

マケドニアが乱れるのが困るのは事実だが、食糧支援に対するマケドニアからの対価となるマケドニア傭兵。その優先度はアカネイアが最も高く、アリティアも含めた国家はマケドニア傭兵を雇える機会に恵まれていないのだ。

 

 

はっきり言えば、マケドニアへの食糧支援はアカネイアの政策でありながらアリティアを始めとした各国は見返りを貰っていない状況。

 

 

マケドニアが目に見える対価を支払っていないのであれば、反感はマケドニアに向かうだろうが、格安の傭兵派遣という形でマケドニアは確かに対価を支払っていた。

 

傭兵と言えば聞こえは良いが、アカネイアにおける彼等の役割は民に恨まれる役。

民による反乱の鎮圧。アカネイアの腐敗を正そうと立ち上がった者達の始末などを担う。

 

 

特に竜騎士はその特性ゆえに目につきやすい。

偵察も容易な代わりに、地上からも視認されやすいのだ。

 

 

故に狡猾なアカネイア貴族は挙って民に恨まれる仕事をマケドニアの竜騎士にさせた。それによりアカネイアの貴族や王家。騎士に対して持つべき悪感情をマケドニアの竜騎士へ向けさせ、それを支持した者達は素知らぬ顔でマケドニアの竜騎士を批判するのだ。

 

要はヘイトを押し付けていると言うこと。

 

 

 

オレルアンやアリティア。グラにグルニアは未だ国土全てを掌握しているとは言い難い。

マケドニアの竜騎士を傭兵として運用出来たならば、各国はそれを迅速に行なう事が出来る。

 

 

だからこそ、アカネイアは自国以外にマケドニアの竜騎士を傭兵として使わせる事を望まない。

 

 

 

それがアカネイアに対する信頼を低下させていると知りながらも

 

 

 

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ミシェイル達の父は自身の後継を才気あふれるミシェイルではなく、政治に無知なミネルバ。彼女の才を愛した。

 

だからこそ、マケドニアの象徴たる竜騎士とし、未来のマケドニアを率いる際の腹心としてパオラ達を付けている。

 

 

ミシェイルは余りにも優秀に過ぎたのだ。

それこそ、マケドニアの在り方すらも変えてしまいかねない程に。

 

 

 

だが、彼にも父としての愛情はあった。

ミネルバ達をアカネイアに差し出そうとは思っていない。

しかし彼は父親である前にマケドニアの王。必要となれば話は変わるが。

 

 

ところが、彼がアカネイアとの交渉を任せた者達はアカネイアの豊かさに魅了され、懐柔されてしまう。

その結果、アカネイアの忠実な手駒となり、マケドニア王の意向よりもアカネイアから齎されるものを優先する様になる。

その対価は竜騎士やミネルバを慕う天馬騎士。そしてミネルバ達が支払うだけ。

国王の意思など最早関係ない。

 

 

傷を負う痛みを忘れ、飢える事を忌む様になったのだ。

 

 

 

 

おかしい話ではないか。

確かにミシェイルやゲレタはマケドニアの食糧事情の解決に取り組んでいたし、ドルーアと結び付く事でマケドニアの飢えは無くなりつつある。

 

だが、先王を廃した直後アカネイアとの関係を断絶して

 

 

不足していた筈の食糧はどう工面したというのだろうか?

 

 

 

アカネイアに懐柔された者達はマケドニアにとって必要だったものを不当に蓄えていた。

 

そして、ゲレタはそれを新王ミシェイルの名の下に民へ放出したのである。

 

 

だから、ミシェイルのみならずその従者でしかなかったゲレタがマケドニアの大臣となり、マケドニアの民はそれを受け入れた。

 

 

 

 

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「⋯どうやらアカネイアはマケドニア征伐を諦めたらしい。」

 

「それは当たり前の事でしょう。

我々もアカネイアもマケドニアの事を碌に知らぬのです。その状況でどうして兵を出すなどと言えましょうか。」

 

「うむ、お主の言う通りだったな。良く家臣達を止めてくれた、ハーディン。」

 

オレルアン公の言葉に苦笑するハーディン。

 

 

アカネイアの急速な方針転換(マケドニア征伐の無期限延期)

それはアカネイア騎士団や一部の貴族からすれば驚く話だったが、他国。特に軍事関係者からすれば当たり前の事。

 

 

寧ろこの事でアカネイアやアカネイア騎士団の意識などの低さが明らかとなったと言える。

アカネイアと最も距離の近いオレルアンではマケドニア征伐中止について他国よりも詳細な情報を掴んでいた。

 

 

 

「しかし、軍船を造る事も出来ぬとは思いませんでしたが。」

 

「どうやら船大工が協力しなかったらしく、アカネイア各地から職人を集め、船を造らせていたらしい。」

 

公の言葉に

 

「⋯それが事実なれば、呆れてものが言えませんな。」

 

騎士だからと弓騎士に剣を与え最前線に投入する様なものに等しい。

その程度の判断さえつかないのが今のアカネイアとなれば、オレルアンも付き合い方を考えねばならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今を生き、明日を生きる為に選択せねばならない。

変化は否応にも求められるのだから

 

 

エリスルート完結記念の外伝

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